足柄辰巳は勇者である   作:幻在

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波乱のデート 後編

「みんなー!こーんにーちわー!」

『こーんにーちわー!』

ステージにいる女性の声に応えるように、子供たちが声を張り上げる。

その中には、ひなたもいた。

「始まりましたよ、辰巳さん!」

年相応にはしゃいでいるひなた。

「おお」

一方の辰巳もこれから始まるショーに期待している。

 

二人は今、この水族館のメインイベントであるイルカショーを見に来ているのだ。

 

「こーんにーちわー!」

「おい友奈!?お前まで乗るな!」

「良いじゃないか球子」

その中には、辰巳たちを尾行していた若葉たちの姿も。

「あーもうじれったい!もう少しくっついてもいいじゃないですか!」

「貴方も大概にしたらどうなの?」

そして杏は相変わらず興奮しており、千景は引いていた。

ちなみに辰巳たちは最前列、若葉たちは最後列だ。

下手すれば見つかってしまう位置だが、それでも距離的には一番離れて安心できる。

 

 

さて、それでは早速始まったイルカショーではあるが、なんとも見事なものだ。

イルカのジャンプなどは勿論、イルカが水槽から乗り出す事もあれば、回転しながら高く飛び上がるものもあった。

ただ、このようなショーにおいて、もはや当たり前と言える事態といえば―――

 

 

―――イルカによって起きた波が、観客席に降り注ぐ事だ。

 

 

案の定、その波は、最前列にいる観客たちに降りかかる。

しかし、そこで咄嗟の判断か、辰巳がひなたの前に乗り出して、波から庇う。

「あぶね・・・・ぶわ!?」

「きゃ!?」

が、そこで足を、というか手を椅子の上で滑らして、思いっきりひなたに倒れ込み、抱き着く形になってしまった。

「す、すまないひなた!」

しかし、すぐさま辰巳はひなたから離れる。

「い、いえ、大丈夫です・・・」

(あれ?なんで残念そうな顔してんだ?)

何故か、僅かばかり拗ねた様な表情になったひなたに首を傾げる辰巳。

だが、その間に波の第二陣が襲ってきた。

「どわぁあ!?」

「きゃ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんで足柄さんだけ・・・・」

「あー、あいつ変な所で運が無いからな」

辰巳の運の悪さに引いている千景と苦笑している球子。

「手を滑らして触れ合う二人の男女・・・・まさにラッキースケベ!この色男め!」

「親父臭いよ、アンちゃん・・・」

そして、留まる事の知らない杏のテンション、とうとう引き始めた友奈。

「む・・・・」

ふと、若葉は何かに気付いたかのようにひなたの隣を見た。

「ん?どうしたの乃木さん?」

「いや、ひなたの隣に、さっきまで誰かいた様な・・・・」

「気のせいじゃないのかしら?」

「そうだと良いんだが・・・ん?」

ふと、若葉は隣をみた。

そこで、今、若葉と千景の距離が近い事に気付く。

「「!?」」

電車での事が重なり、すぐさま離れる二人。

その体温は、何故か急上昇してしまっていた。

(なんで今日はこんな気持ちになるんだ!?)

(どうして乃木さんなんかでこんな気持ちになるのよ!)

 

 

だが、ここで若葉の脳内からは、先ほど感じた違和感は完全に吹き飛んでいた。

 

 

 

 

 

それが、ひなたを恐ろしい目にあわせると知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、楽しかったな、イルカショー」

「はい!」

水族館内を歩く辰巳とひなた。

辰巳はまだ幾分か濡れているが、ひなたが持参してきたタオルで大体の水分はふき取った。

「あら?」

「ん?どうしたひなた」

「財布をどこかに置いてきてしまったみたいです・・・・」

「何!?」

「すみません、きっとあの会場に落としてきてしまったようです。すぐに戻るので待っててください!」

「あ!?おいひなた!」

駆け出すひなた。

そして、頭を掻く辰巳。

「参ったな・・・・」

柱の傍に立ち、辰巳はひなたを待つ。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?ヒナちゃんどっか行っちゃったよ?」

「財布を忘れたみたいですね」

「そんな事も分かるのか?」

「指向性マイクを実装してるので!」

「お、おう・・・・」

「無駄に用意周到ね・・・・」

その様子は、当然若葉たちに見られている。

ただ、この時は、特に気にする事も無かった一同。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イルカショー会場にて。

 

「可笑しいですね・・・・この辺りに落としたと思ったのですが・・・・」

財布を探すひなた。

「すみません、お探しのものはこれでしょうか?」

ふと、後ろから、一人の男から声をかけられ、肩越しに後ろを見たひなた。

その手には、ひなたの財布が握られていた。

「あ、そうです、ありがとうございま――――」

そこで、突然、後ろから、口に何かの布を押し付けられた。

その途端、意識が闇に引きずり込まれていく。

目の前の男が、醜悪な笑みを浮かべていた。

(嵌められた・・・・)

今更気付いてももう遅い。

(辰巳――――さ―――――)

そのまま、ひなたの意識は闇に堕ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・遅い」

何時まで経っても来ないひなたを待っている辰巳は、そう呟く。

 

 

「ひなたの奴、遅いな」

「何かあったのかな?」

若葉たちも、怪訝そうな表情でひなたを待っていた。

「財布が中々見つからないんじゃねえの?」

「それにしては遅すぎるんじゃないかしら?」

楽観者である球子の予想を否定する千景。

だが、その中で杏だけは口元に手を当てて、何かを考えていた。

「ん?あんず、どうした?」

「・・・・・もしかして・・」

「アンちゃん?」

「ひなたさん・・・誘拐されたんじゃ・・・・」

「何!?」

杏の言葉に、真っ先に喰いかかったのは、親友である若葉。

「確かに、考えられるわね。でも、こんなに人が多い場所で、そんな事出来るかしら?」

「そこなんですよね・・・」

千景の言葉に、杏は悩む。

「とりあえず、手分けしてひなたを探そう。その方が確実だ」

「そうですね」

「お、辰巳も動き出したぞ」

球子の言葉に、全員が辰巳の方を見る。

そこには、今歩き出した辰巳の姿があった。

「追いかけてみましょう」

杏の言葉に、誰も反対はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「いない・・・・」

イルカショーの会場にて、辰巳はひなたを探していた。

「若葉たちの所にいった・・・だとしても、ひなたなら言ってもいいと思うが・・・」

辰巳は、周囲を探す。

しかし、何も見つからない。

「くそ、どこに・・・」

「あ、あの・・・・」

「ん?」

ふと、後ろから声を掛けられる。

振り返ると、そこには、誰もいない――――――訳では無く、視線を下げてみればそこに一人の少女が立っていた。

少女は、おどおどしながら辰巳を上目遣いに見ていた。

辰巳は、そんな少女に視線を合わせるように屈んで、答える。

「なんだ?」

「あ、あの・・・勇者様・・・で、いいですよね・・・?」

「まあ、そうだが・・・・」

特に否定する気も無く、答える辰巳。

「だけどサインとかは今は勘弁してくれ。今はそれどころじゃ・・・・」

「一緒にいたお姉さん・・・・怖いおじさん達に、連れていかれて・・・・」

「!?」

少女が言った言葉と、差し出してきた携帯端末に、驚く辰巳。

携帯端末は、ひなたのスマホだ。

 

この少女は、ひなたがどこにいったのか知っている。

 

「いつ?どこへ?どこに連れてかれた?」

「えっと・・・時間は覚えてないけど、お姉さんがおじさんに話しかけられて、その間に後ろからもう一人、お姉さんの口に手を当てたら、ぐったりしちゃって・・・」

「・・・・」

辰巳は、己の過失を悔やんだ。

考えておくべきだった。ひなたは、容姿はかなり良い方だ。体格も、大抵の男なら引かれるほどの胸を持っている。

気は当然、引けるだろう。

その事を考えれば、ろくでもない奴らに連れていかれる事は考えられた。

だが、辰巳は、せいぜいがナンパ程度の奴らにしか絡まれないと思っていたが、ここまで陰湿にやるとなると、相当犯罪慣れしている。

「くそ・・・」

「ご、ごめんなさい。ここまでしか覚えてなくて・・・」

「いや、ありがとう。教えてくれて・・・・そうだ。来ていた服とか、分かるか?」

「えっと・・・・一人が青い服で、もう一人が黄色と黒の服だったと思う・・・」

「青い服と黄色と黒の服・・・・夏だから半袖の筈だな・・・・・」

辰巳は立ち上がる。

「教えてくれてありがとう。そろそろ親の所に戻れよ!」

辰巳は、スマホを受け取り走り出す。

(ひなた・・・・!)

辰巳は、走り出す。ひなたを探して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が、覚醒する。

視界は真っ暗。おそらく、目隠しをされているのだろう。

(失敗しました・・・)

ひなたは、心の中でそう呟く。

顔はよく覚えていないが、とにかく、二人組の男に、薬品を染み込ませた布かガーゼを口に押し当てられ、眠らされ、どこかに運ばれたのだろう。

起きるまでずっと寝ていたので、一体いつまで車に乗っていたのか分からない。

しかも、複数の男たちの笑い声が聞こえる。

「お、起きたみたいだぞ」

ふと、誰かの声が聞こえた。

すると、誰かが近付いてくる音が聞こえ、それが止まると、目隠しに使われていた布が取り払われる。

「うっひょ、やっぱかわいいじゃねえか」

目の前の男が、醜悪な笑みでひなたの顔を覗き込む。

ひなたは、それに嫌悪感を持つも、どうにか耐える。

そして、その場にいる人数を確認する。

おおよそにして十人以上。

とてもではないがひなたでは対応できない。

「胸もデカいしな」

他の男が、ひなたの胸を掴む。

「!?」

それにひなたは驚くも、耐えるように歯を食いしばる。

「こんな事をして、ただ済むと思っているんですか?」

ひなたは、強情に努める。

「おー強気だねぇ、お嬢さん」

ふと、リーダー格と思わしき男が、ひなたに近付く。

「・・・なんですか?」

「へっへっへ。良い表情だね。じゃあ、お嬢さんのその強気な態度に免じて、さっきの質問に答えてやるよ」

リーダー格の男は、醜悪な笑みを浮かべながら、言う。

「済むと思ってるぜ?何せ、もう何十回と繰り返してんだからな!」

「!?」

男は、そう声を荒げた。

「それで、何人もの女どもを泣かしてやったよ。どんな強情な奴でも、一旦()を覚えちまえば、もう忘れられねえ。二度と普通の生活には戻れねえんだなこれがよ。だいたいの奴が()()()()()()()()―――――こんな風になァ!」

突如、布が裂かれる音が聞こえた。

ひなたは、それが自分の着ている服だと気付くのに、数秒を要した。

「うっひょお!綺麗な肌してんじゃん!」

「こりゃ虐めがいがあるな!アハハハ!」

「リーダー!俺に先にやらしてくれよ!」

「あ、ずるいぞテメェ!」

周りの男がひなたを見て下劣な感情を丸出しに言い合う。

目の前の男が、ナイフでひなたの服を切り裂いたのだ。

それに、一瞬恐怖に飲み込まれそうになったひなただったが、しかしすぐに気持ちを振るい立て、ひなたは男に向かって、言い放つ。

「こんなもので、私が負けるとでも?」

「ああ、思っちゃいない・・・・だけどな」

男は、舌を出して、ひなたの裂かれた服を掴む。

そして、思いっきり引き千切り、ひなたの上半身を全て晒した。

「!? いやぁあああ!」

思わず、ひなたは叫んだ。

そして、男は高笑いをした。

「アヒャヒャヒャヒャヒャ!!!良いね良いねェ!良い叫び声だ!」

「――――」

まさかここまでやられるとは流石にひなたは思っていなかった。

服を破る。

そして、男の言動からして、おそらく、男たちがこれからひなたがやろうとしてる事は―――――。

それを想像したひなたは、とうとう耐えられず、涙を流す。

(いや・・・助けて・・・・辰巳さん・・・・)

「さて、そろそろお楽しみの時間と行こうか・・・・」

「!?」

ひなたは顔をあげる。

目の前には、男の醜悪な笑み。

「い、いや・・・・」

「そう怖がるな。痛いのは、初めだけだからよ」

「こ、来ないで下さい・・・・」

あとじさるひなた。

男の手が、ひなたに触れる。その直後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひなたたちのいた、廃工場の扉が、突如として吹き飛ばされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『!?』

その場にいる者たちが、一斉に扉に注目する。

土煙が舞う中、そこから現れたのは――――。

 

「――――辰巳さん!」

 

足柄辰巳だった。

 

ひなたが歓喜の声を挙げる中、辰巳は、周囲を一瞥する。

そして、ひなたを見つけた。

「ひなた――――ッ!?」

そして、()()()()()()

「おい」

「へい!」

リーダー格の男が声を出すと、部下の一人がひなたの首にどこから取り出したのかナイフを突きつけた。

「そこを動くなよ彼氏クン。大事な彼女を傷つけられたくなかったら・・・ておい。動くなって言ったよな?」

男の忠告を聞かずに、辰巳は歩いていた。

「おい、聞いてるのか?動いたら・・・・」

次の瞬間、男の顔を何かが通り過ぎ鈍い音が聞こえた。

それは男の背後から聞こえ、小さな悲鳴が聞こえた。

「ぐべあ・・・・!?」

振り返れば、そこには、布に包まれた棒のようなものの先端が鼻先に突き刺さっている男が、仰向けに倒れていた。

それは、ひなたにナイフを突きつけていた男だった。

「・・・動いたら・・・・なんだ?」

辰巳の声が聞こえ、男は振り返る。

そこには、何かを投げた後の態勢で静止している辰巳の姿があった。

自分が背負っていた剣を投げ飛ばしたのだ。

そして、その剣は、鞘と布に包まれた状態で、ひなたにナイフを向けていた部下をノックアウトしたのだ。

一瞬の静寂の後、他の部下がすぐさま動く。

「て、テメェッ――――!?」

しかし、その部下はいきなりもんどりうってコンクリートの地面に倒れ込んだ。

「おせぇよ」

いつの間にか、辰巳がその男にボディーブローを叩き込んだのだ。

その光景に、男たちは後ずさる。

「あ、あああああ!」

さらに、部下の一人が声を上げた。

「こ、コイツはぁああああ!!!」

「おい!コイツがどうした!?」

「こ、このガキ!ゆ、勇者の足柄辰巳ですぜ!い、今めちゃくちゃ注目されている、バーテックスに対抗できる唯一の―――――」

「何!?」

リーダー格の男は辰巳を見る。

辰巳は、鬼が如き気迫で男たちを睨みつけている。

「お前達は一人も逃がさない・・・・」

辰巳は、ひなたの元へ歩み寄り、上着をひなたにかける。

そして、ひなたが座っているソファの後ろに回り込み、そこに落ちている布に包まれた剣を拾う。

「どこにもな」

そして、剣を抜剣し、ひなたの手に巻き付けられていた布を切り裂く。

「あ・・・・・」

「待ってろ。すぐに片付ける」

辰巳は剣を納め、そして、男たちの方を見る。

すると、そこでは、拳銃を辰巳に突き出している男たちの姿があった。

「調子乗るなよガキ。勇者だろうがなんだろうが、オトナを舐めてると怪我するぞ」

リーダー格の男は、あくまで余裕な笑みを崩さない。

どうやら、本気で勇者を舐めている様だ。

いくらバーテックスに対抗できるからといって、しょせんはどこにでもいる中学生。

そう思われても仕方がないだろう。

しかし、彼らは知らない。

 

 

辰巳は素でも強いという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず、話にならなかったと言っておこう。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

「で、怪我するとか言ってたが、お前らの言うオトナってこんなもんなのか?」

周囲は惨憺たる状態だった。

辰巳は男たちに対して一回も剣を抜く事無く、弾丸を避け、叩き落し、敵を次々に気絶させ倒していった。

鞘に納められた剣で殴られた男たちは全員、顔がひしゃげたり、腕や足が曲がってはいけない方向に曲がっていたり、腹を抑えて蹲っている奴もいる。

そこらにあった瓦礫を剣で飛ばして男たちに叩きつけるような事もしてきた。

そもそもからして、実力が違い過ぎる。

もともと辰巳には天賦の才能があった。

そこに確かな鍛錬を積んだことで、辰巳は恐ろしい程の身体能力を身に着けている。

そんな男に、こんな素人共が勝てる訳がない。

「まあとりあえず」

辰巳は振りかぶる。

「待っ・・・・」

「寝てろ」

 

対天剣術『振打(しんだ)

 

まるでバットを振るかのように、スイングする力任せの剣技。

が、今回は鞘に納められているので、男の顔を吹っ飛ばすだけに終わった。

全てが終わった後、辰巳はひなたの元へ走る。

「ひなた、改めて言うが大丈夫か?」

辰巳が声をかけても、ひなたは俯いたまま。

肩に手を置いてみる。

「・・・ひなた」

辰巳は、ひなたの名前を呼んだ。その時、ひなたが躊躇いもなく辰巳に抱き着く。

「ぬあ!?ひなた!?」

「・・・えぐ・・・・ひぐ・・・・・」

驚いた辰巳だったが、聞こえた嗚咽に、思わず黙る。

そして、辰巳はひなたの背に手を回し、ギュッと抱きしめる。

「大丈夫、もう心配無い。大丈夫」

「ひぐ・・・・はい・・・うう・・・・えぐ・・・」

ひなたの嗚咽が引くまで、辰巳はひなたを抱きしめ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、隠れてみていた若葉たちを引っ張り出して、代わりの服を買って貰う事になった。ちなみに出費は辰巳から。

真新しい服を着たひなたと、電車に揺られる一同。

 

帰りも満員だった。

 

「ちょっと乃木さん!胸押し付けてこないで!」

「押し付けてるのは千景だろ!というか太ももが当たっているぞ!」

「私が悪いって言うの!?」

「じゃあ他に誰がいる!?」

なんの因果かぴったりと密着しあった若葉と千景が言い争いをしている。

その顔は赤い。

「あうう・・・・・」

「あんず、流石にひなただけは敵に回したくないから味方はしないぞ」

「でも何も壊す事ないじゃないですかぁ~。せめてデータ消去にして下さいよ~」

「やれやれ、ほ~らよしよし」

一方で杏はビデオカメラがひなたによって破壊された事に号泣し、球子は慰めてるのか解らないような事を言っている。

「あはは・・・で、ヒナちゃんとたっくんは相変わらずべったりだね!」

「友奈さん!言わないで下さい!」

「そもそもなんでこうなった」

そして、友奈と背中合わせに、ひなたとは真正面を向いた状態で密着している辰巳の姿があった。

「でもカッコよかったよたっくん」

「ぐす・・・・ええ、まるで囚われのお姫様を守る騎士(ナイト)みたいで、とても感動しました。本にしたいくらいです」

「杏さん?」

「・・・・というのは冗談です・・・」

「弱いな!?・・・まあ、カッコよかったといえば、確かに男ども薙ぎ倒している姿は良かったな。腕を折るとことか」

「そこはやばい所だろアウトドアガール」

思わずツッコミをいれる辰巳。

「まあ、怪我がなくてよかったよ」

「あう・・・・」

と、ひなたの頭を撫でる辰巳。撫でられたひなたは赤面する。

「あ!ヒナちゃんずるい!私も服買ってきたんだから撫でてー!」

「はいはい」

向きを変えて背中に抱き着いてくる友奈の頭を肩越しに撫でる辰巳。

そこで、電車がカーブに入り、中にいる乗客たちが慣性の法則に従って、外側に向かって詰められる。

「んあああ!?」

「はあああ!?」

そこで、若葉と千景が何でか分からないが叫んだ。

「どうしたんだあいつら?」

「さあ、なんだろうね?」

辰巳と友奈がそろって頭に疑問符を浮かべる。

「あらら・・・」

「二人とも・・・」

そして、どういうわけか理解している球子と杏は苦笑いを浮かべている。

「ふしゅう・・・」

「ん?ひなた?ひなたー!?」

一方のひなたは辰巳の匂いをかいで昇天していた。

先ほどの事も相重なって、相乗効果を与えたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一言で言って、火野の目論見は大いに成功したといえるだろう。

 

 

なにせこの一件で、二人の距離は十分に縮まったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回『無自覚』

少女は、自らが暴走している事に気付かない。
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