勘違い系エリート秀一!! ルート玉狛第二   作:カンさん

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最上秀一②

「小南桐絵よ」

「烏丸京介だ、よろしく」

 

 小南が落ち着いたところで、改めて秀一は二人と自己紹介をする。

 彼の名を名乗った際、小南が反応したのが気になったが――ぼっちである彼は聞かなかった。初対面の人にぐいぐい行く勇気など、彼にはない。気にはなりつつも、彼は気付かなかったフリをした。

 玉狛第二に入る以上、彼女たちは先輩になる。嫌われないようにしようと彼は思った。

 

「アンタ、何で玉狛(ウチ)に入ったの?」

 

 やっぱりダメだァ……おしまいだァ……。

 細められた鋭い視線で見据えられ、何処かブスリとした口調でそう言われた彼の視線はスッと下に落とされた。傍から見ればクールに目を閉じたように見える。まるで彼の感情を表しているみたいだ。

 最上秀一という男の評判を、レイジか烏丸から聞いていたのか、彼の事を知った小南の態度は少し刺々しかった。それに内心ビクつきながらも、彼はAに上がる為だと言った。

 

「……? それ、別にウチじゃなくても良くない? 他の部隊でも良いじゃない」

 

 まるで就職面接みたいだな、と迅が傍から見ながらそう思った。

 しかし、小南の言い分は正しい。横で黙って聞いている烏丸も同じ思いなのか、ジッと彼を見つめている。

 そんな彼らの視線で突かれながら、どうしたものかと彼は考える。

 先ほど言った言葉は嘘ではない。しかし、それでは彼女たちは納得しないようだ。

 遊真に誘われて、ホイホイ付いて来たから。

 ダメだ。ふざけているのかと怒られる未来が見えた。新しいサイドエフェクトでも開眼したのかな?

 などと思いつつ、どう言えば納得するかと、彼は玉狛を選んだ理由を思い浮かべ、一番納得しやすい理由を口にすれば良いかな? と思っていると、秀一の隣でジュースを飲んでいた遊真が口を開く。

 

「シュウイチは、アフトクラトルに攫われた人たちを助けたいんだってさ」

 

 そして語られるのは、病院で見せた熱血漢最上秀一の姿。

 第二次近界民大規模侵攻で救えなかった人たちを想い、己の無力さに怒りを覚え、そして同じ想いを抱いている修たちに寄り添った――。

 掘り返された彼は恥ずかしそうに身動ぎする。一方、小南と言えば……。

 

「そ、そうだったの……悪かったわね、変に疑ったりして」

 

 普段から騙されやすい小南はすぐに納得した。今回は嘘ではないが、こんなに信じやすい性格で大丈夫だろうか、と秀一は少し目の前の先輩が心配になった。

 烏丸は先ほどの迅の言葉があってか、さほど反対意見を出す事なく受け止めていた。信じているかどうかは別にして。

 

「――で、アンタ強いの? ウチ、弱い奴はお断りなのよ」

 

 小南的には、これが重要だった。遊真たちが入って来た時にも同じような反応を示し、最後まで否定的だったものの迅の『林藤(ボス)の決定だ』という言葉によって、渋々ながら納得し――元近界民である遊真を気に入って弟子にした。

 このように、彼女は何処か強さを重視する。噂で秀一の事を聞いている彼女だが、やはり本人の口から聞きたいのだろう。玉狛に入る理由を聞く時よりも、声に力があった。

 しかし、彼はぼっちで自分に自信が無い人間。強いですか? と聞かれてあたいったら最強ね! という程頭は緩くない。かと言って此処で自分弱いっすと答えようものなら、小南に玉狛基地から追い出されるのは確実。

 どうしたものかと答えあぐねていると、迅がフォローに入った。

 

「秀一は強いよー。新たに生まれた1万ポイント超えだから」

「うそ!?」

 

 それを聞いた小南の眼の色が変わった。どうやら、先ほどの迅の言葉によって秀一の強さをある程度認めたらしい。少なくとも玉狛に入る事に否定的にならない程度には。

 しかし、ここで新たな問題が発生した。

 

「おもしろいじゃない――アンタ、これから私と模擬戦しなさい!」

 

 小南桐絵17歳。弱い奴は嫌いだが――強い奴との戦いは好きだったりする。

 ロックオンされた秀一は戸惑い、それに迅たち三人は合掌をした。

 

 この後、滅茶苦茶模擬戦した。

 

 

 ◆

 

 

 改めて烏丸と小南と自己紹介をして模擬戦をした後、彼は、玉狛第二のオペレーターである宇佐美栞の元へと挨拶をしに向かった。

 彼のサイドエフェクトを中心とした戦闘スタイルの都合上、彼女には迷惑をかけるからと思ったからだ。それを聞いた遊真たちは快く彼の申し出を受け止めて、栞の元へと案内した。

 遊真が、部屋の扉を開けて中に入ると、そこにはパソコンの前で第二次大規模侵攻の情報を纏めている栞が居た。モニターに釘付けになっていた栞は、部屋に入って来た遊真たちに気付き、顔を上げる。

 

「おー、迅さんに遊真くん。帰っていたんだね、おかえ――」

 

 基地に戻っていた二人に栞は途中で言葉を詰まらせた。

 何故なら、彼らの隣に彼が居たからだ。

 彼の姿を見た栞はパチクリと目を開いては閉じ、首を傾げて……。

 

「なんで最上くんが居るの!?」

 

 存在を認識した瞬間、眠気で下がっていた瞼が元に戻り驚きの表情を浮かべた。

 そんな栞の珍しいリアクションに遊真が少し目を見開いた。

 

「しおりちゃん、シュウイチの事知ってんの?」

 

 感情豊かだが、彼女のこのような姿はあまり見たことが無い。

 遊真の問いかけに、ズレた眼鏡を直しながら栞は頷き、秀一は内心ウゲッと顔を顰めた。。

 

「う、うん……本部に遊びに行った時に――」

 

 ――話を纏めるとこうだ。

 以前正隊員たちを相手にポイント狩りをしていた秀一に、無謀にも彼女がコンタクトを取った。交流のあった風間から()()()()()()()()という話を聞き、眼鏡を布教しようと思っていた。しかし、秀一はファッションに対して興味もセンスも無いため、栞の眼鏡(伊達)を拒否し、さらに色々といっぱいいっぱいだった彼の目つきは獣の如く鋭くなり……それ以降関わる事は無かった。

 

「まさか――最上くんがアンチ眼鏡だったとは……!」

「ちょい待ちしおりちゃん。なんでそうなるの?」

「だって! 親の仇の様に眼鏡を見るんだよ!」

 

 うがー! と吠える栞にどうしたものかと顔を見合わせる迅と遊真。彼女は、これからのB級ランク戦でも働いて貰うし、秀一との不和は直したいというのが正直なところだ。

 

「最上く~ん。眼鏡掛けてよ~」

「結局それかよ」

 

 ……どうやら、栞はただ単に眼鏡を掛けて欲しいだけなようだ。

 何処から取り出したのか、シンプルなデザインの伊達眼鏡を取り出してフラフラとこちらに歩み寄っている。ちょっと怖い。

 正直、秀一はさっさと逃げたいと思ったが……意を決して前に出た。

 

「秀一……!」

 

 その姿に、迅が目を見開いた。

 彼は、自分から一歩踏み出した。以前の抜身の刀のような彼では想像できない姿だ。

 あの秀一が他人に歩み寄る。その姿に、感動した迅は人知れず瞳に涙を浮かばせた。隣の遊真は、何だこの人と見ていたが。

 そんな背後の二人に気付かず、秀一は栞から伊達眼鏡を掛けて彼女に見せる。これで良いですか? と頭を傾けさせながら。

 すると、あっさりと眼鏡を掛けて貰えた栞は……。

 

「――ッ! ~~ッ!」

 

 口元を抑えて声にならない悲鳴を上げながら、頬を赤く染めて机をバンバンと叩いた。

 え? 何そのリアクション?

 どうやら、眼鏡を掛けた秀一に悶えているらしい。彼の眼鏡姿がストレートど真ん中だったのか、終いには手を合わせて拝み始める始末。

 何それ見たい。

 攻撃手としての能力をフルに活用して、遊真と迅が秀一の前へと回り込む。しかし、その前に秀一が眼鏡を外してしまい見る事ができなかった。

 すると当然ながら沸き起こるブーイング。

 

「なんだよシュウイチ、見せろよー!」

「そうだぞ秀一。お兄さん達にちょっと見せてくれないかな?」

「最上くん! 君は眼鏡を掛けるべき人間だよ!」

 

 ブーブー喧しい三人に、秀一はうへえと舌を出した。当然内心で。

 しかし、彼らの言い分を聞くつもりは無いのか、彼は栞に伊達眼鏡を押し付けつつ返した。

 

「むー。絶対に似合っているのに……」

 

 残念そうにしながらも、彼女は眼鏡を受け取り、ケースに仕舞った。

 しかし、これである程度のコミュニケーションを取る事には成功した。お互いに抱いていた苦手感覚は払拭されただろう。

 栞は改めて柔らかな笑顔を浮かべると、真っすぐと視線を秀一に向けて自己紹介する。

 

「改めまして。玉狛支部オペレーターの宇佐美栞です! ところで、どうして此処に?」

 

 そして、当然の疑問を今更ながら訊ねて来た。

 彼女の問いに迅は苦笑しつつ、秀一が玉狛第二に入り共にA級を目指す事を伝えた。

 それを聞いた彼女は驚きつつも、彼の入隊を快く受け止めた。

 

「いやーびっくり。まさか最上くんが玉狛に入るとは……何はともあれよろしくね?」

 

 そう言って手を差し出し、秀一と握手を交わす。

 眼鏡のせいでゴタゴタしたが、無事にオペレーターとの交流を終えた秀一は人知れずほっと一息入れた。

 これで、当初の目的を果たせそうだ。

 挨拶を交わした秀一は、早速彼女にある話を持ち掛けた。

 

「ん? なに? ……え? トリガー構成の相談?」

 

 コテンと頭を傾けた彼女に、彼は頷いた。

 

 

 ◆

 

 

「なるほどね~……」

 

 現在、モニターの前には秀一のトリガーチップが展開されている。

 メインにはシールド、サブにはシールドとバッグワームしか入っていない。どうやら、ランク戦に備えて一から構成を考えるらしい。

 本来なら、三輪隊オペレーターの月見辺りに相談しようと思っていたらしいが……これからのチームメイトに相談した方が良いと迅が勧めた為に、こうして栞、遊真と共に画面を見つめていた。迅は、三人の後ろで見守っている。

 

「確か、最上くんは前衛(フロント)寄りの万能手(オールラウンダー)だっけ?」

 

 彼女の問いに、彼は頷いた。

 モニターの画面端に秀一のプロフィールが表示され、それぞれトリガーの名称とポイントが映し出される。

 

「スコーピオン、弧月、バイパーがマスタークラスに到達していて……それとグラスホッパー、スパイダーとかオプショントリガーも結構使っているね」

 

 さらに過去の戦闘記録や防衛任務時のデータの詳細がどんどん目の前に表示される。以前、修が秀一のデータを使って戦闘訓練をしていたからか、スムーズに彼の情報が抽出された。それを見た彼は、栞は優秀なオペレーターなのだと感心し、理由を()()知った迅は苦笑いした。

 

「最上くんって、結構選択肢あるよね」

「センタクシ?」

 

 遊真の問いかけに、栞が頷いて答えた。

 

「うん。スコーピオンとグラスホッパーを主軸にした高速攻撃手やスパイダーと射手トリガーを組み合わせた罠型シューター。他にもエクスードを入れて守備や援護を高めたりする事も可能だね」

 

 彼の武器は、その戦闘スタイルの多様性にある。それを見抜いた栞は次々とトリガー構成のパターンを作っていき、修、千佳、遊真の現状のステータスを顧みて絞っていく。

 それを見ながら、後ろから迅が物申した。

 

「それに、秀一はもう一つ隠し玉があるんだよな?」

「隠し玉?」

 

 カタカタとキーボードを操作しながら栞が聞き返すと、秀一が頷いて答えた。

 以前三輪隊と焼肉を食べた後に本部に行き、そこで偶然出会った人物に教えて貰った新たな選択肢。それを聞いた栞は手を止めて呆然とした表情で秀一の方へと顔を向け、遊真もまた顔には出ていないが、秀一の貪欲さに驚いていた。

 

「……それって、実戦でも使えるレベル?」

 

 栞の問いに、ランク戦までには仕上がると伝えておいた。後はひたすら練習するだけだと。

 それを聞いた栞は――。

 

「――くっ~~~! 良いね! 良いよ最上くん――いいや、秀一くん! 君、最高!」

 

 凄く興奮した様子で目を輝かせた。どうやら、力を貪欲に求める彼の姿勢に感じるものがあるらしい。素早くキーボードを操作して、とあるトリガー構成を候補に入れた。

 それは、彼の事を知る人間なら驚くトリガー構成だ。しかし、もし()()がランク戦で機能すれば、玉狛第二はA級に近づく。

 

「チカやオサムに話して、戦略を練らないとな」

 

 モニターを見ていた遊真のその言葉に、彼は頷いた。

 

 ――ただいま~。

 

 そして、タイミングよくもう一人のチームメイトがやって来たらしい。

 

 

 ◆

 

 

「あ、雨取千佳です。よろしくお願いします……!」

 

 栞にトリガー構成のパターン作成を頼んだ秀一は、遊真たちと共に下に降りて帰って来た千佳とレイジを出迎えた。

 彼が居る事に驚いていた二人だが、秀一が玉狛第二に入る事を聞くとそれぞれ反応を示し、千佳とは自己紹介をしていた。背が小さく儚い雰囲気を醸し出す千佳に秀一は少し緊張しつつ、自分の名前をしっかりと彼女に伝えた。どうやら、年下相手だとある程度は落ち着いて対応できるらしい。

 そんな彼らの様子を、迅と共に見ていたレイジが彼に問うた。

 

「……大丈夫なのか? アイツが此処に所属して」

「んー、今のところは」

 

 迅のその反応に、レイジはため息を吐く。

 最上秀一の事は、林藤支部長から聞いている。ゆえに、彼を此処に入れた際のリスクを正しく理解しており――しかし、それと同時に頭ごなしに否定できない。

 城戸派だからと拒絶するには――レイジは()()という人間を知り過ぎている。

 だからだろうか、知らず知らずのうちにほとんど初対面の秀一に対して妙なフィルターを掛けてしまっている。

 

「レイジさんは、自然体で接してやって。その方が良いよ」

 

 それを感じ取ったのか、それとも視たのか。迅が穏やかな表情を浮かべて三人で和気藹々と話している光景を見ながら、レイジに言った。

 それを聞いたレイジはしばらく迅の方を見て、ため息を吐くと「わかった」と一言呟いた。

 

「夕飯の下準備をしてくる……メールで材料多めに買って来てと言ったのはこれが原因か」

「ははは。アイツにもレイジさんの手料理食って貰いたくってね」

「まったく」

 

 そう言いつつレイジはキッチンへと向かい、それを見た千佳が気づいて手伝おうと立ち上がった。しかし、それを迅がやんわりと止めた。

 

「まぁまぁ。今日はレイジさんに任せて、今は新しいチームメイトと交流しなさい」

「でも……」

 

 少しだけ迷った千佳だったが、秀一の方を見て、レイジの方を見て、結局頷いた。

 

「迅、お前が手伝え」

「あら?」

「それくらい良いだろう」

「ははは……了解」

 

 千佳に気を回したのか、迅に手伝いを申し付けるレイジ。それに迅は苦笑しつつ立ち上がるとエプロンを付けてキッチンに立つ。

 それを見届けた三人はというと。

 

「じゃあ、夕飯できるまでシミュレーションルームに行こうか。チカとシュウイチは、お互いに相手の力を知らないしな」

「あ、うん。そうだね」

 

 遊真の提案で部屋を移動する事にした。

 部屋を出て行く三人の背中を見送りながら、迅は笑って手を振る。その目は兄が弟を見るように優しいものだった。

 

 

 ◆

 

 

 トリガーを起動させた千佳を見て、彼は彼女のポジションを理解した。彼女は狙撃手だ、と。

 そして、アイビスでターゲットを撃ったのを見て首を傾げた。……狙撃……手……?

 

「チカは近界民に凄く狙われる程トリオンが多いです」

 

 遊真から千佳のトリオン能力の多さを聞いて、彼は驚いた。アイビスの一撃がもはや砲撃レベルである。狙撃手界隈に旋風どころか爆発を起こすレベルだ。少なくとも、まともな狙撃手は撃ち合いできないことは確実。ただ、派手だから敵にすぐに見つかるのが欠点だろうか。

 

「あ、えっとその……実は」

 

 千佳の狙撃手としての性能について分析していると、顔に影を差した千佳がおずおずと口を開き……語られた真実に秀一は驚いた。

 なんと、彼女は人を撃つ事ができないらしい。ボーダーのトリガーは優秀で、もし事故で生身の人間に当たっても死ぬ程痛いだけで風穴が空く事は無いが――。

 彼に自分の狙撃手としての痛すぎる欠点を話した千佳は申し訳なさそうにしていた。

 

「私が撃てたら良いんだけど……」

「こればかりは仕方ないよ。それに、オサムやレイジさんも言っていたけど例え人を撃てなくてもできる事はある」

 

 遊真の言葉に彼も乗っかった。大丈夫だと。撃てないのなら、自分が代わりに点を取る、と。相手が年下だからか、何処か強気でそう言う彼に遊真も千佳も驚き、そして笑った。

 笑われた秀一は、何かおかしい事を言ったのだろうかと首を傾げる。そんな彼の戸惑いの表情に、彼女たちは謝りつつ言った。

 

「ううん……優しいんですね最上さん」

「噂は当てにならないって奴ですな」

 

 良く分からなかった秀一だったが、まぁ良いかと気にしない事にし話を戻した。

 千佳の戦闘スタイルを聞いた後に語るのは彼の戦闘スタイル。

 彼女の砲撃を活かす、もしくは彼女の砲撃によって彼をどう活かすかを遊真も交えて考察した。

 

「吹っ飛んだところをズバッとやるのが良いのかもしれないな」

「それと、最上さんがさっき言った退路を無くして追い込むっていうのも良いかも」

 

 色々と思い浮かぶが、それでもやはり決定力に欠ける所があり、千佳が思わず言った。

 

「やっぱり、私が撃てるようになったら……」

「撃てないと思わせて撃つっていうのも良いかもね」

 

 彼女の言葉に遊真は否定も肯定もせずに思いついたことを言った。彼女がどうなるのかは、千佳次第だと考えているようだ。

 それを見た秀一が一つの提案をした。

 

 今此処で実際に撃ってみよう、と。

 

「え?」

 

 その言葉に千佳は呆然とし、しかし彼は続ける。

 何事も経験だし、この部屋なら事故っても大丈夫だと。チームメイトと仲良くなった弊害か、何処か彼は踏み込んでいた。すでにトリオン体になって千佳から離れて両手を広げて「さあ、来い」と待ち構えている。

 そんな彼に千佳は戸惑った表情を浮かべ、隣の遊真は秀一の言葉に一理あると頷いて立て掛けてあったアイビスを彼女に渡した。

 

「え、遊真くん?」

「シュウイチの言う通り、一回試しにやってみたら? 折角の申し出だし」

 

 もし此処に修が居たら、無理するなと言ってお流れになるだろう。

 しかし、今此処にストッパーは居ない。

 二人に促された千佳はアイビスを構え、震える手で秀一を狙い、そしてギュッと目を閉じ――。

 

「あ」

 

 それを見た遊真が思わず声を上げた途端――轟音。

 視線を音がした方向へと向けると、そこには爆心地でトリオン体を破壊されて焦げている秀一の姿があった。

 

「……? ……最上さん! 大丈夫ですか!?」

 

 恐る恐る目を開けて、秀一の惨状を確認した千佳はアイビスを投げ捨てて彼の元へと走り寄った。そんな彼女を見て、遊真はため息を吐いた。

 何故なら、先ほどの一撃は――意味が無いからだ。

 

「チカのアイビスじゃあ、人を撃ったていうより爆破したって感じだよなぁ」

 

 ――それに目を閉じていたし。

 秀一の名前を何度も呼んで救急車と叫ぶ千佳と、千佳のアイビス砲を舐めた結果アフロになった秀一。彼らを見て、遊真は一人ため息を吐いた。

 

 ――まぁ、人の居る所には撃てるようになったかな。

 

 とりあえず、彼の介抱が先だと思った遊真はコントをしている二人の元へと走り寄って行った。

 

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