勘違い系エリート秀一!! ルート玉狛第二   作:カンさん

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ROUND2②

『荒船隊長と最上隊員が激闘を繰り広げるなか、エスクードで阻まれた諏訪隊の二人はバッグワームを展開して迂回! これは漁夫の利を狙っているのか!?』

 

 観覧席に居る隊員たちは、試合に夢中だった。

 千佳のアイビス砲や遊真の素早い身のこなしには思わずどよめきが起こり、そして今は秀一が初めてまともに動いた。先ほどの遊真のフォローではなく、自分が前に出ての戦闘。中には、彼の戦いを見る為に来た者も居る。

 そして彼らの視線の先、モニターでは荒船と秀一が近接距離(クロスレンジ)で斬り合っていた。

 ……いや、訂正しよう。

 秀一の激しい猛攻を荒船が捌いている、が正しい。

 初めはバッグワームで負傷した足を隠していた荒船だったが、弧月一本で防ぐのは無理だったのかバッグワームを解除してシールドを展開している。

 それでも、今は本職では無いから時間が経つと共にトリオンが削られていく。その光景を見ながら、緑川が当然のことだと言わんばかりに口を開いた。

 

『荒船さんはマスタークラスだけど、流石に最上先輩だとキツいね』

『確かに、このまま最上隊員と正面で戦い続けるのは分が悪い……しかし』

 

 緑川の発言を拾って東が解説を続ける。

 彼の視線の先には、狙撃を止めて潜伏している穂刈が居た。修に見つかり、遊真に追われた彼は宅地の間を縫って移動しているが……それでも時期に捕まる。

 

『荒船隊員と最上隊員の戦いは、穂刈隊員の狙撃で決まります』

 

 

 

 

(これは逃げられないだろうな、空閑からは)

 

 逃亡を続けていた穂刈は物陰からそっと顔を出しつつ、そう思った。

 レーダーで二手に別れた瞬間狙われている事を察して身を隠したが、撃墜されるのも時間の問題だ。唯一救いなのは、諏訪隊の二人が玉狛狙いで動いている事。

 もし彼らにも狙われていたら、援護できずに倒されていただろう。

 穂刈は、狙撃地点に立ちイーグレットを構える。撃った瞬間、グラスホッパーを持った遊真がすぐに彼を倒しに来るだろう。それでも、点を取るにはこれしかない。

 

 スコープを覗く。狙いは脚だ。頭や心臓を狙っても、彼のサイドエフェクトがあれば容易く見切られて集中シールドでガードされてしまう。先ほど諏訪がやったように。

 

 タイミングは、荒船と斬り結び弾かれた瞬間だ。

 その時をじっくりと待ち続け――来た。

 

 引き金に掛けていた指に力を入れ、イーグレットから弾丸が放たれる。

 弾丸は一直線に秀一の脚に向かい、そのままトリオン体を――。

 

「――っ」

 

 しかし、次の瞬間穂刈は息を飲んだ。

 秀一がギロリとスコープ越しに穂刈を睨み、クルリと手元で弧月を回して――イーグレットの弾丸を弾いた。荒船の眉間に向けて。

 

「なっ!?」

 

 それを避けようと意識を逸らした瞬間、その隙を突いて秀一の弧月がシールドを両断し荒船の片腕を撥ね飛ばした。

 

(荒船に当てやがった! 俺が撃った弾を!)

 

 援護射撃を逆に利用するなんて、誰が考えようか。

 あり得ない光景に一瞬思考に空白が生まれる。そんな彼を呼び戻したのはオペレーターの加賀美だった。

 

『空閑くんが猛スピードで迫っている! 逃げて穂刈くん!』

 

 穂刈の居場所はバレ、荒船は片腕を失った。

 最悪だと内心悪態を吐く。

 

「逃げても意味ないだろう、今更」

 

 加賀美にそう返しながら、チラリと視線をこちらに向かっている遊真へと向ける。

 もう隠れてやり過ごすことはできない。そもそも、やられる覚悟で狙撃をしたのだ。結果はこの様だが。

 だから、穂刈がすべきことは決まっている。倒される前に敵を撃つ。

 穂刈は再びイーグレットを構える。しかし、次に狙うのは秀一ではない。

 あえてバッグワームを展開せずにレーダーに映る事で、自分たちの逃げ道を制限していた嫌がらせメガネだ。

 

『修君!』

 

 残りのトリオンを込め、射程距離を限界まで伸ばす。そして、スコープを覗き込み――狙撃。それと同時に、遊真のスコーピオンが穂刈のトリオン体を両断した。

 玉狛第二に一点加算される。

 

「――急所は当たらなかったか」

 

 しかし、穂刈の狙撃も修のシールドを貫いて右肩から先を吹き飛ばしていた。

 

「くっ……」

 

 まだ戦闘に慣れていないからか、上手く避ける事ができなかった。このまま時間が経てばトリオン漏出過多で荒船隊に点が入る。

 だが、それでは困る者が居た。

 

「――三雲くんを捕らえました!」

『よし、良いぞ日佐人! そのまま一点確保だ!』

 

 諏訪隊だ。笹森はバッグワームをギリギリまで展開して修に接近していた。

 通信でそれを聞いた諏訪は指示を出しつつ、自分は自分の仕事をするべく動く。

 

「諏訪隊の笹森先輩……!」

『オサム、何とか堪えろ。フォローに回る』

 

 修を援護するべく、グラスホッパーを展開した遊真だが……。

 

「いや、こっちは千佳と何とかする! お前は最上の援護を!」

『……分かった』

 

 一つ間を開けて、遊真は修の指示に従い戦場を駆け抜けた。

 それを確認すると、修はレイガストを構えて笹森を見据えて後退した。なるべく敵を引き付けるように、ギリギリを見極める。

 

 一方、握っていた弧月を滑らした結果、荒船の腕を斬る事ができた秀一。彼はこの幸運の流れに乗って荒船を倒すべく勝負に出た。

 荒船を弾き飛ばした後、弧月を居合の形で構える。

 

その瞬間、相手の動きを見た笹森と荒船は奇しくも全く同じタイミングで大きく動いた。

 

「逃がすか!」

 

 笹森は、絶対に落とすために前に。

 

「喰らってたまるか!」

 

 荒船は、弾き飛ばされたのを利用して旋空弧月の範囲から逃れるために後ろに。

 

 この行動が彼らの戦いの行く末を決めた。

 そのモーションを確認した二人は――此処だ! とトリガーを発動させる。

 

「――テレポーター!」

 ――エスクード!

 

 短距離転移で笹森の背後に回った修は、スラスターを発動させて振り被り――。

 エスクードを荒船のすぐ背後に展開した秀一は、弧月をそのまま振り抜き――。

 

『千佳ちゃん、撃って!』

「はい!」

 

 千佳のアイビスで笹森が立っていた宅地周辺を彼ごと吹き飛ばす。標的(ターゲット)が目の前から消えた事と立っていた足場が崩れた事で動揺していた笹森は……。

 

「……!」

『トリオン体活動限界、緊急脱出(ベイルアウト)

 

レイガストに貫かれてトリオン体を破壊される。

 

「……ここまでか」

『トリオン体活動限界、緊急脱出(ベイルアウト)

 

そして……。

 

「くそ、エスクードの使い方間違えているぞコラ……!」

『伝達系破損、緊急脱出(ベイルアウト)

 

 エスクードによって無理矢理旋空の有効射程範囲に留まらされた荒船は、首を斬り飛ばされて反転する視界の中戦場を後にした。

 去り際の荒船の言葉に確かに、と思いつつ振り抜いた弧月を鞘に戻しホッと一息。

 しかし、試合はまだ終わっていない。

 

『秀一くん!』

「っ!」

 

 宇佐美の警告が耳に響くと同時に、路地裏から回り込んできた諏訪が二丁の散弾銃を構えて飛び出して来た。

 そしてアステロイドを秀一に向かってぶっ放す。

 

(此処で倒さねーと0点だ! んなダセー事できっか!)

 

 至近距離からの弾丸の嵐。それを秀一はトリオンにものをいわせた両防御(フルガード)のシールドを展開しながら後ろへと退がる。

 

「逃がさねえぞ!」

 

 当然諏訪も後を追うべく、アステロイドを撃ちながら前に出た。しかし片足を穂刈に撃ち抜かれた為踏ん張れず狙いが定まらない。

 それを見た秀一はメインのトリガーをシールドからメテオラに切り替え、それを二つに分割して放った。

 

「うお!?」

 

 一発が諏訪の足元で爆発し、彼の視界が爆煙で包まれる。

 目くらましか? しかし、この後の行動を諏訪は知っている。

 進めていた足を止めて、固定型のシールドを展開。すると、煙の向こうからバイパーが襲い掛かりガンガンと甲高い音が響き、そして体制を低くして突っ込んできた秀一の弧月がギャリッとシールドに食い込んだ。

 

(読み通りだ!)

 

 至近距離で動きが止まった秀一に、諏訪がシールドを片方解除して散弾銃を向ける。

 おそらく最後のチャンス。観覧席でも意外な展開に誰もが目を見開き――東の言葉が会場に響く。

 

 ――玉狛の勝ちだと。

 

『諏訪さん!』

 

 堤の警告の叫び声が響くと同時に、諏訪のアステロイドが秀一のトリオン体を貫き弾丸が弾かれる音が鳴る。

 それと同時に、秀一が先ほどメテオラで空けた穴から飛び出した遊真が諏訪の首を撥ね飛ばした。

 先ほどの荒船のように、己の首が上下逆さまになるなか思わず諏訪は心の中で呟いた。

 

(最後の最後でエースが囮かよ、しかも――)

 

 ――ご丁寧に、攻撃を防ぎやがって……。

 

 秀一のトリオン体は穴だらけになっていた。しかし、それは表面上なだけで致命傷にはならない。諏訪は相変わらず滅茶苦茶な秀一とそれに合わせて動く事ができる遊真に対して、驚きつつも感嘆し――緊急脱出(ベイルアウト)した。

 

空を駆ける光を見ながら倒れていた秀一が起き上がろうとし、そんな彼に遊真が手を差し出す。

 

「お疲れさま秀一」

 

 労いの言葉を送る遊真に、彼も同様の言葉を送ると――ここ最近玉狛で浮かべる柔らかい笑みを浮かべて、彼の手を取った。

 

 

 ◆

 

 

「皆お疲れ様ー!」

 

 試合が終了し作戦室に戻った彼らを迎えたのは、満開の笑顔を浮かべた宇佐美だった。

 先に落ちて作戦室に居た修もホッとした表情を浮かべている。

 

「ほら、ハイタッチハイタッチ!」

 

 勝利を祝してパチンッと軽い音が何度か響き、彼も勝利した実感を持ったのか笑みが浮かぶ。

 

「オサムもご苦労様。笹森先輩を倒してくれてサンキュー」

「いや、千佳の協力が無かったら勝てなかったし……」

 

 頬に冷や汗を垂らしながら謙虚な姿勢を取る修。

 しかし、そんな彼に秀一は言った。カメレオンを使う笹森をフリーにしていたら、誰か倒されていたかもしれないし、点も横取りされた可能性もあった。

 その可能性を消した修の功績は大きい。

 そして何よりも、今回の試合で立てた作戦も修が考えたのだから、今回のMVPは修だろうと珍しく強い口調で述べた。どうやらまだ仕事モードなようだ。

 

「う、その……」

「あ、修くん照れてる」

「珍しいな。シュウイチがこんなに褒めているなんて。普段はチクチクとダメ出ししかして来ないのに」

 

 それはおそらく何処かの鉛弾の人のせい。それとぼっち拗らせてなかなか本音を言えないのも理由だ。

 ツンデレがデレる前にツンの所で終わるような感覚だ。

 そうこうしているうちに、東(と緑川)の分かりやすい解説が始まった。

 試合の途中で修の立てた作戦に気付いていた彼は、それぞれの部隊の動きや勝てた理由、負けた理由を述べている。

 途中、三輪隊の古寺が加古隊の黒江の疑問を解消する為に地形戦について述べて、東の台詞を盗るという珍事が起きたが……概ね高評価だった。

 

「良かったじゃん修。めっちゃ褒められていたぞ」

「凄く考えていたから当然だよ」

 

 チビッ子コンビに褒められてタジタジになっている修に、秀一がさらに追い打ちをかける。東さんボーダーの中でも凄い人だから、この高評価はかなり凄い、と。

 

「お前ら楽しんでいないか!?」

 

普段人から評価されたり褒められたりすることが少ない修は、顔を真っ赤にさせて吠えた。しかし彼の部下は微笑ましいものを見る目で修を見るだけで、フォローする者は居ない。

 ……秀一だけは、褒めたのに何故怒っているのだろうか? と鈍感系主人公のような事を考えているが。ぼっち拗らせた結果である。

 

『さて、本日の試合が終了! これで暫定順位が更新されます!』

 

 試合の結果、玉狛第二はB級上位グループの香取隊と同率7位まで急上昇。

 ランク戦のルールによって玉狛第二は中位グループに留まったまま試合をすることになった。そして、その試合相手は――。

 

『暫定13位那須隊と暫定9位鈴鳴第一です!』

『これは、面白い組み合わせですね』

 

 映し出されたモニターを見て東はそう呟いた。

 何故なら玉狛第二の次の相手は似た部隊編成で、そしてエースを主軸に戦う戦法も似ている。さらに中距離を担う隊員が隊長というの類似点だ。

 

『それに、玉狛は次はマップを選べませんしマークのされ方も変わって来る。次の試合は玉狛第二の真価が問われる一戦になりますね』

 

 それを聞いた秀一は、夏に戦った両部隊のエースを思い出し――深くため息を吐いた。

 

 

 ◇

 

 

「よーうモガミン。お前、高校デビューかってくらい姿変わったな」

「おっ、ヨネヤ先輩」

 

 作戦室から出た玉狛第二の面々に来客が訪れた。

 米屋と古寺。そして緑川だ。

 緑川は素早い動きで秀一の元に向かうと、目をキラキラさせて彼に詰め寄った。

 

「最上先輩最上先輩! その格好迅さんみたいで格好良いね! オレびっくりしちゃったよ!」

 

 どうやら、リスペクトしている先輩が憧れの人と似た格好をしているのが嬉しいらしい。

 秀一の周りをグルグルと回りながら「格好いい!」「オレも同じの欲しい!」「やっぱり草壁隊と掛け持ちしようかなー?」と忙しない。

 助けを求める目線を修と遊真に送る秀一だが、読み取って貰えなかった。

 通信を使え通信を。

 

「あ、そういえばクガ……さんだっけ?」

「ん?」

 

 秀一の周りをウロチョロしていた緑川が突如足を止めて、遊真の前に出る。

 

「さっきの試合見ていたけど、凄く強いね。今度ランク戦してくれない?」

「別に良いよ。何だったら、今からする?」

「お、結構話分かるじゃん。じゃあ、早速行こうか――ねっ、最上先輩」

 

 そう言うと緑川はガシッと秀一の手を掴んでズルズルと引き摺って行く。

 一体その小さな体にどんな力があるのか、と思いすぐにトリオン体だからと答えに辿り着く。しかし名探偵(笑)のようにすぐに真実に辿り着けても、それを突き付けるだけの積極性が彼には無い。多分彼が探偵ものの主人公だったら全ての事件が迷宮入りだろう。というか普段の顔つきが犯人側だ。復讐とかそういう理由で。

 

「じゃ、そういう事でオサム。おれ達ちょっとランク戦してくるから」

「あ、ああ」

 

 ――ぁぁああ……。

 

 楽しそうな二つの声と嫌そうな声が一つ、廊下の先に消えていった。

 それを見送る修の頬には冷や汗がタラリ。

 

「そうそうメガネボーイ」

「あ、はい。何ですか米屋先輩?」

「――秀次には気を付けろ」

「え?」

「今は主犯に殺意バリバリだが、何時お前らに飛び火するか分からないからな。まっ、一応気を付けろ」

 

 

 ◇

 

 

 ~一方、その頃。ボーダーのとある場所のシミュレーションルームでは。

 

「ちょっと待って! おれ未来視で逃げている未来視たんだけど!? 何でもう捕まっているの!?」

「貴様がボーダー隊員である以上殺す事はできない。だから、此処で殺す事にした」

「うわお殺意が以前よりも高いや。ちょっと待って秀次。弁護! 弁護だけさせて! あとどうやって此処に連れて来たんだ!?」

「俺は絶対にお前を許さないぞ、迅! 秀一(のトリオン体)を弄びやがって! (髪型を無理矢理)お前色に染めやがって!」

「秀次!? 秀次くん!? 三輪さん!? 言い方がやばいって! 此処最近見えなかった腐った未来がチラって見えたから! というかボーダー内部にも侵食してんの!? というか月見さん助けて!」

『――お互い合意していれば問題ないわ』

「――貴様ああああああ!」

「火にメテオラぶち込まないでえええええ!?」

 

 

 ◇

 

 

「何か聞こえた気がするんですが」

「と、思うじゃん?」

「米屋先輩。それでは誤魔化せませんよ?」

 

 ――しばらく本部に近づかないようにしようかな。

 

 目の前の先輩方の怖い隊長を思い浮かべながら、修はそう思った。

 

 




解説はカット。
試合結果は変わったけど、やっている事はそんなに変わっていないので。
ただ、この時点で遊真並みのエースがもう一人居たらこれくらいできるかなぁと思いました。
そして鬼ぃちゃんは暴走中。迅の見落とした未来を掴み取るという離れ業を披露。スゲーなコイツ。
次回は新・最上への周りの反応を書いてみようと思います
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