◇????年??月:ヘリオポリスコロニー工業区
自爆したザクもどきを最後に敵はコロニー内から退去したらしい。現在、小康状態となっていた。同じく工業区にいたらしい少年の友人達と合流し、女兵士は治療中だ。少年の友人達はガンダムにまとわりついて歓声を上げている。
面倒事になることが見えていた私は、彼らから少し離れて外の気配を探っていた。コロニー内の戦闘は終わったものの、外ではまだドンパチやっているらしい。驚いたことに連邦・ゲリラ双方にニュータイプまでいるようだ。たいした力は感じないけど。
キュンッキュンッ
予想通り彼らが調子に乗りすぎたらしい。女兵士が威嚇射撃し、少年達を脅し始める。どうやら徴発するつもりのようだ。彼らを一列に並ばせている。そして私にもお呼びが掛かった。面倒なことね。
彼らは既に自己紹介が済んでいるらしい。改めて名前を教えてもらい、
「ハマーン・カーンです」
私も名乗る。特に問題はないはず。下手に偽名を名乗って呼ばれたときに反応できないほうがまずい。
少年はキラ、女兵士はラミアス大尉というらしい。私たちはラミアス大尉の指示のもと、物資の搬出を手伝わされることに相成った。
◇
ああ、これはコロニー内に入ってくるわね。外で戦闘を続けていたニュータイプたちの意思がこちらに近づいてくる。
私は作業の手を止め、そちらを見上げる。
外壁を突き破って、先とは異なる白のザクもどきとオレンジの戦闘機が飛び込んでくる。
今時戦闘機? ニュータイプの無駄遣いね。
案の定ザクもどきは戦闘機をうまくやり過ごし、ガンダムへ突っ込む。
キラは突然のことに反応できていない。だけどザクもどき、位置取りが悪いね。そこはもうすぐ……
ドォォォンッ
今度は工場ブロックの建造物を突き破り戦艦が飛び出してくる。連邦の木馬を進化させたような形だ。ザクもどきは射線をふさがれて仕方なく後方へ跳んで距離を取っていた。
キラは九死に一生を得た形だ。ザクもどきの注意が逸れたおかげでガンダムのセットアップが間に合った。戦艦と共同でザクもどきを追い回す。戦艦は景気よくミサイルをばらまいているけれど……いいのかしら?
あ……。
やはりというべきかコロニーのシャフトにも誤爆し吹き飛ばした。
それに焦ったのかキラはライフルというかキャノンのようなものを構える。横でラミアス大尉が慌てて制止するが時既に遅し。
キャノンから放たれた火線はザクもどきをかすめて右腕をもぎ取り———
そのままコロニーの外壁に大穴を開けた。
ザクもどきはその穴から宇宙へ飛び去っていく。結果的に敵MSを追い払うことには成功したけれど、コロニーへ与えた被害だけを言えば連邦の方がひどいんじゃ……。
それにしてもあんな火力をMSに持たせて連邦はどういうつもりなのかしら? 使いどころに困ると思うのだけど……。ビグザムでも一撃で落としたいのかな?
◇
ひとまず戦闘は終結した。
私たちはガンダムの手のひらに乗って戦艦のMS発着デッキへ。艦内からも士官や整備員たちがやってきてラミアス大尉と情報交換が行われた。そこにキラがガンダムから降りてきて、戦闘機パイロットのニュータイプから話しかけられる。そして少し喋った後、連邦軍から銃を向けられるという事件が起きた。スパイか何かと疑われたのかしら? だけどその疑いもまもなく晴れたらしい。騒動は収まり、コロニーからの脱出に向けた資材搬入が始められた。
「ラミアス大尉ー」
搬入を行っていた整備員が外から走ってくる。
「どうしたの?」
「MSが一機残っていたんですがご存じですか? G系ではないようなんですが」
「いいえ? どれのこと?」
「今運んできてます。ほら、あれですよ」
整備員が指さした方向には、曲線で構成された白い花のようなMS———
「私は知らないわ。どちらかと言えばザフトのものに近い———」
「———キュベレイ」
「……あなたあのMSについて何か知っているの? ハマーンさん?」
しまった! 思わず口に出してた!
ラミアス大尉はこちらを睨んで観察しており、周囲の兵士達も空気を察したようだ。今度は私が銃に囲まれる番だ。
「ラミアスさん!? 一体何をやってるんですか!?」
事態に気付いたキラがラミアス大尉に噛みつくが状況に変化はない。ことここに至ってはもう誤魔化しようがない。私は大人しく両手を上げる。
「……条約に基づいた捕虜としての扱いを要求するわ」
「もちろん。あなたが素直にこちらの取り調べに応じてくれたらだけれど」
———なんとか切り抜けられるかしら?
◇????年??月:木馬もどき艦内
「貴様の尋問を担当するナタル・バジルール中尉だ」
「これはご丁寧にどうも。尋問のほうもお手柔らかにお願いします。中尉殿」
「それは貴様の態度しだいだな」
態度しだいか。……バジル・ナタルール中尉とか言ってボケちゃダメだろうか。ダメだろうな。あまり煽り耐性があるタイプには見えない。
そんな益体もないことを考えているとカシュッとドアを開けてもう一人女性が入ってきた。
「ナタル中尉。私も同席させてもらっていいかしら?」
「ラミアス大尉。あのMSの調査はよろしいのですか?」
「そちらはマードック軍曹に任せてきたわ。彼なら大丈夫。それに彼女からあのMSについても聞き出すなら技術系の人間もいたほうがいいでしょう?」
「そうですか。ではよろしくお願いします」
「ええ」
ということでこの女性ふたりが私の尋問担当になったらしい。
「改めまして。私は地球連合軍大尉、マリュー・ラミアスよ」
「連合軍? 連邦軍ではなくて?」
連邦の一方面組織か何かだろうか?
「連邦? そうね厳密にいえば(大西洋)連邦ね」
どうやらそういうことらしい。
「それじゃあ今度はあなたの名前と所属を教えてくれるかしら?」
「ラミアス大尉には先ほど名乗りましたが、ハマーン・カーン。所属はアクシズです」
迷ったけどひとまず正直に答えておく。現状アクシズという名前がオープンになっているわけでも連邦と正式に戦争状態にあるわけでもない。特に問題はないだろう。
「アクシズ? 聞いたことがない名前ね。どこかの組織の秘匿部隊かしら」
「そのようなものです」
「貴様! 適当なことを言うな!!」
本当のことなんですけど……ジオンの秘匿組織のようなものでしょう。
「待って、ナタル中尉。あまり時間もないのだし、まずは先に進めましょう。気になった点は後からまとめて追求すればいいわ」
「……了解しました」
まあ、小康状態とはいえいつまた戦闘が再開するかも分からないものね。
「それじゃあ次は年齢と階級を」
「17歳。階級はありません」
「階級がない?」
「軍属ではないので。軍から委託を受けてMSのテストパイロットを務めているんです」
嘘じゃない。他に摂政をやってたりもするけどね。
「貴様のような小娘がか!? 適当なことを!」
「小娘って……これでもMSの操縦には自信があるんですけど。そうですね。さっきの白い敵MSくらいなら軽く落としてみせますよ」
「言うにことかいてクルーゼをか! 笑わせる!」
クルーゼなんてエース、ジオンにいたかしら? 聞いたことないけど。やっぱりたいしたことないんじゃ? それになぜこの女は一々突っかかってくるのか。更年期障害かしら?
「ナタル中尉、それくらいで。それでMSの操縦が得意ということはあなたコーディネーターなのかしら?」
調整者? ジオンの一残党がそう名乗っているの? アースノイドとスペースノイドの間を調整するとかそんな意味かしら?
「……いいえ。私はそのコーディネーターというのとは関係ありません」
「MSの操縦が得意だが、コーディネーターではない? 何を言っているんだ貴様は!?」
お前が何を言ってるんだ。MS=コーディネーター? なにそれ?
ラミアス大尉はどこかに通信を始めた。これは医務室?
「ごめんなさい。彼女の血液検査の結果は出ている?」
『ラミアス大尉。ええ、まだ細かい分析までは終わっていませんが、だいたいのところは。何かありましたか?』
「とりあえず、彼女がコーディネーターかどうか知りたいのだけど」
『検査結果を見る限りそれはありませんね。彼女はナチュラルです』
「そう。わかったわ。ありがとう」
そう言ってラミアス大尉は通信を切る。血液検査でコーディネーターかどうか分かる? ますますコーディネーターが何なのか分からない。別に秘匿しているわけではないようだけど……。そしてナチュラルというコーディネーターの対極にあるらしい存在。私はナチュラルにあたるらしい。
……まさかニュータイプと強化人間のことを言っているのだろうか?
「よし。ひとまずあなたについてはここまででいいわ。次はあのMSについて教えて」
「はぁ」
「あのMSはキュベレイというの?」
「その答えに対する回答はYesでありNoですね」
「どういう意味かしら?」
「あの機体はまだ試作実験機という扱いで名はありません。ですが、制式化の際にはキュベレイという名前がつくことになっています」
「なるほど。それではあのMSの動力は?」
「動力? MSの動力なんて一つしかないと思いますけど……?」
MSの動力なんて核融合炉以外にあるわけがない。ミノフスキー粒子と核融合炉があってこそのMSだ。
「そう。……そうね。では装甲の材質は?」
「……ガンダリウム合金です」
”γ”であることは教えてあげないけどね。
「ガンダリウム合金? そんな合金あったかしら?」
「ルナチタニウム合金という言い方でしたらどうですか?」
「ルナチタニウム? 名称からするとチタン系合金みたいだけど……」
連邦の技術士官がルナチタニウムを知らない? そんなことがありえるの?
「まあいいわ。それじゃああのMSの出所だけれど……ザフトではないのね?」
「ザフト? いいえ違います」
「それではオーブ?」
「いいえ」
「ユーラシア連合? それとも東アジア共和国かしら?」
「どちらも違います」
この人何を言ってるの? ザフト? オーブ? ユーラシア連合? どれもジオン残党の組織名なの? でも東アジア”共和国”って……?
「貴様! いいかげんにしろ! そのどれでもなければ大西洋連邦製とでも言う気か!?」
「そんなこと言いませんけど……って”大西洋”連邦?」
「どうかした?」
「”地球”連邦ではなくてですか?」
「? いいえ。私たちは地球連合軍、そのうちの大西洋連邦に属する部隊よ」
まさか? まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか!?
「……あの。こちらからも質問させていただけませんか?」
「貴様! 調子にのって何をッ」
「答えるのはあなたたちが敵兵でも常識的に知っているだろうと思う範囲で構いませんから!」
「……わかったわ。言ってみなさい」
「ラミアス大尉! 何を!?」
「ナタル。少し私に預けて」
「……承知しました」
「それじゃあどうぞ。ハマーンさん」
「今起きている戦争で戦っている勢力はどことどこでしょうか?」
「私たち地球連合軍とプラントの軍隊、ザフトよ」
「プラントというのはどういう国家ですか?」
「かつての生産コロニー群が独立したものでほぼコーディネーターだけで構成される国家ね」
「先ほどの話にも出てきたコーディネーターとナチュラルとは何ですか?」
「遺伝子調整によって生まれながらにして強靱な肉体と優秀な頭脳を持つとされるのがコーディネーター。対してナチュラルは遺伝子操作をしていない人のことね」
「それでは今の戦争はナチュラル対コーディネーターで行われているということですか?」
「ナチュラル・コーディネーターが共存する中立国家もあるし、地球連合にもある程度はコーディネーターがいるけれど大枠はその通りよ」
「…………今までの回答が真実だと証明するようなものはありますか?」
「貴様! どこまでも調子に乗って! 何を聞くのかと思えば子供でも知っているようなことばかり! あまつさえ証明しろだと!? どういうつもりだ!?」
バジル中尉は怒り心頭のようだけど、ラミアス大尉の方は何か悟ったのか、端末の前に私を案内する。
「どうぞ。自分で見てみなさい」
「…………」
そこには私が全く知らない歴史が綴られていた。そしてラミアス大尉の先までの回答が正しいものだと裏付ける内容だった。
私は今、アクシズ周辺にいるのでもなければ地球圏にいるのでもない。信じられない。信じたくないことだけどまったくの異世界にいるらしい。
こんな。こんなことって……。私はもうセラーナやアクシズのみんなに会うことも、シャア大佐に会うこともできない……。
私はもう、顔を両手で覆って泣き崩れることしかできなかった。
ということでハマーン様が現実を理解したところで今回はここまでです。
次回はまたそのうちに。