楽園爆破の犯人たちへ 破   作:XP-79

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17. スザクは嘘をつかなかったよ……ユフィはもう、行ってしまったかな

 富士山近くの病院に蜃気楼で救急搬送されたゼロは貧血、鎖骨骨折、左肩挫滅創、鎖骨下動脈損傷の診断を受け、即座に手術室へと運ばれた。

 手術は3時間を要した。傷口を洗い、動脈を縫い合わせ、鎖骨にプレートを入れ、傷跡を縫い合わせて終了したらしい。

 らしいというのも、ルルーシュは演説を終えた後の記憶が酷く朧気だった。演説を終え、ふらつく足を叱咤しながら舞台裏に隠れたところまでしか記憶が無い。自分がどんな状態だったのか知ったのは戦争が終わった後のことだった。

 

 手術を終えたルルーシュが目を覚ましたのは手術を終えてから1時間後であり、ユーフェミアに撃たれてから5時間近くが経過していた。

 

ルルーシュはふと目を覚ました。瞼を開いた直後はまだ意識がぼんやりとしていたが、数回瞬きをすると段々と思考は明瞭になってきた。

肌を滑る真っ白で清潔なシーツに、自身が予定通り富士山近くにある病院のベッドの上に収容されたのだと察した。のっそりと体を起こす。左肩に鈍い痛みが走る。鈍い、で済んでいるのは麻酔がまだ効いているからか。

周囲を見回すと広めの個室病室で妙に薄暗かった。窓が閉め切られている。万が一にでもゼロの正体が発覚することを防ぐためだろう。

左肩を見下ろす。ガーゼやら包帯やらでがっちがっちに固められておりまともに動かせない。

そのせいで左腕が妙に重い感覚がして、撫でさすろうと右腕を持ち上げると赤い管がついてきた。

視線を管の先へと向けると赤い袋が点滴台から釣り下がっている。自分は今輸血されているらしい。

真っ赤な管の向こうでC.C.が椅子に座っていた。ルルーシュの意識が戻ったことに今気づいたのか、「起きたのか、」と言ってほんの少し頬を緩めた。

「まだ動くなよ。傷は塞がってないんだぞ」

「C.C、あれからどうなった?」

「お前の想定通りに」

 C.C.はどこから調達したのかピザを頬張っていた。残りをふん、と一息に口にねじ込み、しばらくもぐもぐと咀嚼した後にはあ、と大きく息を吐く。

「全く、だから無茶だと言ったんだ。途中から私が影武者になってやれば何の支障もなかっただろうに」

「ユフィの観察眼を侮るな。途中で俺がおまえと入れ替わったとしてもユフィならそれすら見抜く可能性がある。行政特区日本を最大限有効活用する形で潰すためにはこれが必要な措置だったんだ」

「違うだろう?」

 ふん、とC.C.は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「ユーフェミア一人に汚れ役を押し付ける贖罪とでも思っていたんじゃないのか?お前は妹に甘いからな」

「まさか」

 的外れな推測だとルルーシュは頬を歪めた。

贖罪のために自分をわざと傷つけるなど、何の意味もない。

 傷ついて、これで罪を贖ったと満足するのは自分だけで、ユフィには何の利益もない。そんなものは単なる自己満足に過ぎない。

 

「俺が贖罪する方法など一つだけだ」

「ほう、何だ」

「日本を取り戻す。それも最小限の犠牲で」

 ルルーシュはベッドサイドに置いてあったPC端末を持ち上げ、自分の膝に乗せて起動させた。

 おいおい、とC.C.は慌てた表情でルルーシュを諫める。

「まだ手術してから1時間しか経っていないんだぞ。寝ていろ。傷が開いたらどうするんだ」

「1時間も経った。今の状況では1分1秒も惜しい。この波に乗って総督府を壊滅させなければ次のチャンスは無いに等しくなる。C.C.、蜃気楼はどこにある」

「お前に体を休めるという発想は無いのか―――――病院の駐車場に置いてある。騎士団員が警備している筈だ。エナジーフィラーは満タンにしてある」

「休めているだろう。ベッドの上で」

「まだ輸血されている最中の病人が言うセリフじゃないな」

「この2単位が最後だ。終わったら蜃気楼に乗ってトウキョウに向かう」

「……おい、冗談だろう?」

「冗談ではない」

 ルルーシュは息を吐いた。

「言っただろう。時間が惜しいと」

「まだ碌に体も動かせないだろうによく言う―――お前にはまだ理解できんかもしれんがな。人間は割合簡単に死ぬものなんだ。それもお前のようなタイプはあっさりと死んでしまう。無茶をするな」

「今は無茶をするべき時だ。時勢も読めない凡人になり下がるなら、どっちにしろ俺は近いうちに死ぬだろう」

 呆れ顔のC.C.は黙って首を左右に振り、それ以上言葉を費やすことを止めた。父に似て頑固な性格に、もう何を言っても無駄だと諦めたのかもしれない。

 

 震える手でキーボードを叩く。指が動くたびに痛みが肩に波及したが、歯を食いしばりながら画面を睨む。

 黒の騎士団の各隊長へ連絡を終え、ルルーシュは息を吐いた。

「これで良い。あと2時間後に全てが始まる」

「……そうか。その前に何か食べておいた方がいいんじゃないか」

 ルルーシュはふん、と鼻を鳴らした。

「吐く気しかしない」

「威張って言うセリフじゃないぞ」

「しょうがないだろう。麻酔が覚めてまだ時間がそう経っていないんだ」

 肩が痛いだけではない。麻酔の後遺症か、それとも貧血がまだ続いているのか気分が悪いし、吐き気もする。頭がぐらぐらするし、上半身を起こすだけでも億劫だ。

 しかしそれら全てを飲み込んで、ルルーシュは開戦するのを2時間後と決めた。

 

 端末を閉じると同時に、コンコン、と控えめにドアが鳴った。

 予めこの病院のスタッフには全員ギアスをかけている。入れ、と言うと、目の淵を赤く染めた看護士が入ってきた。

「ゼロ、紅月カレン及び藤堂鏡志郎が面会したいと言ってやってきました」

「そうだルルーシュ、カレンと藤堂がお前の顔を見たぞ」

「早くそれを言え!」

 面倒なことになった。ルルーシュは眉を顰めた。

 

 よりにもよってルルーシュの顔を知っている2人だ。よく似た他人だと言い張るには自分の容姿では無理があるという自覚がある。

 いや、ロロという特例があるが。しかしあれは血縁だからまた別の話だろう。

ともかく2人ともゼロがルルーシュという女子高生であり、皇族であると気づいたと考えるべきだ。

 そしてこのタイミングで2人が来たということは、最悪なパターンではゼロへの反旗を翻すために、もしくはゼロの暗殺をしにきたと想定できる。

 最善なパターンでもルルーシュへの弾劾、そして日本を取り戻した暁にはゼロの交代といったところか。

 いずれにせよ面倒だ。舌打ちが零れる。

 カレンには既に1回ギアスをかけているためにギアスが使えない。2人がゼロの暗殺に来たとして、藤堂にギアスをかけてカレンを抑えることが可能だろうか。

 暗殺ではなかったとしても、あの2人がゼロに不信感を抱くのは戦力的に痛い。さらに今はエリア11におけるブリタニアとの開戦直前だというのに。

 

 ルルーシュは息を吐いた。

 なんとかして2人とも丸め込まなければ。

「……分かった。入れろ」

 そう言うと同時に看護士は退室した。暫くののちにカレンと藤堂が入ってきた。

 カレンは部屋に入るなり、棒立ちのままベッドに横たわるルルーシュの顔をなぞる様に見回して何度も確かめた。その人間がルルーシュであることをようやく認めたカレンは、泣きそうに顔をくしゃりと歪ませた。

「ル、ルルーシュ……あなたが」

 言葉も出ない様子で首を振ったカレンに、ルルーシュは酷薄な表情で見据えたまま冷ややかな声を発した。

「そうだ。俺がゼロだ」

「どうして……あなた、ブリタニア人でしょ?」

「それは藤堂が知っている。だろう?それとも俺の顔も忘れたかな」

 ルルーシュの視線を受け、カレンとは対照的に一切の表情を消し去った藤堂がカレンの前に出た。

 出血の後遺症で肌が青白く、ガーゼで包まれたままの痛々しい姿を晒すゼロ、ルルーシュに藤堂は頭を垂れた。

「久しぶり、と言った方がいいのだろうか。ルルーシュ殿下」

「もう殿下ではない。皇位継承権どころか、俺は既に死んだ男だよ」

 苦笑して首を振るルルーシュに、カレンは瞠目した。

「……殿下?」

「そうだ、カレン。俺は神聖ブリタニア帝国第11皇子、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア……だった」

 ルルーシュはうっそりと嗤った。

 おとぎ話に出てくる悪魔のような顔だった。カレンは唇をぶるぶると震わせ、その場にぺたりと座り込んだ。

 

 衝撃的な情報があまりに多過ぎた。

 敬意を抱いていた黒の騎士団のゼロが、好きなクラスメートの女の子で、ブリタニアの皇子だった。

 なんて言っていいのか分からなかった。あまりに驚くと言葉には何の意味もないのだとカレンは知った。目の前の人間の本当のことが何も分からない。男なのか、女なのか。ブリタニアの敵なのか、それとも味方だったのか。

 これまで一緒に戦ってきたことさえ本当なのだとは信じられなかった。

 本当は自分たちを嘲笑って、ゲームを楽しむように戦争をしていたのではないのだろうか。まるでチェスを楽しむように、自分たちを駒に見立てて。

 最前線に立ち、幾度もKMFを撃墜されたゼロのことを知ってはいるが、その疑惑はカレンの脳内に巣食って膨張し始めた。

 だって最初から全て嘘だったんだ。

 友達だと思っていたのに。

 

 呆然としているカレンを一瞥し、ルルーシュは藤堂を向いて言葉を連ねた。

「他の幹部には言ったのか?ゼロが皇族だと」

「言っていない。ブリタニア人であることも、17歳の女性であることも、誰にも言っていない―――混乱することは自明だろう」

「だろうな。今はブリタニアを打破するこれ以上ない好機だ。棒に振る訳にはいかん」

 軍人らしく裏工作を好まない藤堂にしては上出来な対応だろう。馬鹿正直にここでゼロがブリタニア皇族だと暴露されていたら全てが台無しだった。

「……君に一つ聞きたい」

「何だ?」

 藤堂はベッドの上で点滴に繋がれたルルーシュを見下ろした。

 

 カレンと違い藤堂の内心は既に平静を取り戻していた。幼少期にブリタニアから日本へ捨てられたルルーシュの境遇を思うと、ブリタニアに反逆しようとする彼の、否、彼女の心情が嘘だとは思えない。

 黒の騎士団を立ち上げたのは、戦前散々に彼女を痛めつけた日本のためではなかったとしても、本心からブリタニアへ反旗を翻そうとしたためだと藤堂は信じることができた。仮面を被って性別や人種を隠していたのも、女性のブリタニア人では求心力を得られにくいからと考えれば最もだと納得できる。

 だというのなら藤堂にとっては何の問題も無かった。目的が日本奪還であれ、ブリタニアへの復讐であれ、結果は同じだ。

 

 ………それにしてもこの露悪的な口調は捻くれ曲がった性格のせいなのだろうか。幼少期を陰謀蠢くブリタニアの皇宮と、敵国日本で暮らしたがためにこんなに素直さと可愛げの欠片も無い性格になってしまったのかと思うと、容姿が良い分憐れだと藤堂は眉を顰めた。

 もっと素直で可愛げのある性格ならば普通の女として結婚して子供を産み、並の幸福を得ることも可能だっただろうに。

「何故、君は女性なんだ。皇子だっただろう……女性の、それもまだ17歳の君がこんな危険なことをするなど大人として許容できない」

 それは真っ当な大人としての意見だった。しかしこの場においてはあまりに場違いな発言だった。

 ルルーシュはあまりに真面目な藤堂に溜息を吐いた。

「スザクといい……どうしてそう誰も彼もが性別に拘るかな。大体お前の考えだとカレンはどうなるんだ。カレンも17歳の女だろう」

「彼女はあくまでKMFの搭乗者に過ぎない。ゼロは組織のトップであり、国際的に危険視される立場にある。戦争が終われば一般人に戻れる紅月と君ではあまりに状況が違う」

「何のために仮面を被っていると思っているんだ。戦争が終わればゼロなんてさっさと辞めるさ。その後はお前たちが日本にとって都合の良い人間をゼロに仕立て上げればいいだろう。問題は無い」

「しかし……」

「くどい」

 言いつのろうとする藤堂をばっさりと切り捨てる。

 

 要するに藤堂は、女が組織の中枢にいることが気に食わないのだ、とルルーシュは解釈した。

 立場としては親衛隊隊長でしかない紅月とは違い、ゼロには多大な権力がある。ブリタニアより数十年は男女平等化が遅れている日本の、それもさらに男社会である軍隊において女が組織の長であることは受け入れがたいことなのだろう。

 それともあっさりとルルーシュが女性であることを受け入れたジェレミアの方がおかしかったのだろうか。

 

 首を捻ったルルーシュは、17歳という年齢は未だ大人に庇護されるべき子供であり、特に女性は暴力から護られる立場にあるべきだという発想がとうとう思い浮かばなかった。

 想像していたより藤堂は堅苦しく古臭い性格だ、という情報を脳内にしまい込み、未だ何か言いたげな藤堂を黙らせようと口を開いた。

「文句があるのならば日本を取り戻してからだ。それまで一刻の余裕も無い。カレン」

「………」

 カレンは床に蹲り、俯いたまま動かない。ルルーシュはしかし言葉を続けた。

「カレン、これから俺は日本を取り戻す。それまでは俺がゼロであることを忘れろ」

「そんなことっ、できるわけないじゃない!」

「できないじゃない。しなくてはならないんだ。ルルーシュがゼロであることを受け入れられないなら、これから先数日の間、その事実を忘れるしかない。俺じゃない……ちゃんとした日本人の成人男性の方がゼロに相応しいと言うなら、日本を取り戻してからゼロに相応しい人材を選抜して、」

「……違うの、」

 カレンはば、と顔を上げた。

「ルルーシュがゼロに相応しいとか、そういうことじゃないの。ショックだったのよ!裏切られたって思ったのよ!」

 慟哭のような悲鳴にルルーシュは冷ややかな視線を落とした。

 

 カレンの混乱は当然だ。クラスメートがテロリストだなんて、17歳の少女にとっては混乱を来しても当然許容されるべき事態だ。事実を受け入れるための時間を求めるのも当たり前だろう。

 しかしカレンの混乱具合は、ゼロの親衛隊隊長としてはあまりにお粗末としか言いようがない精神力を露呈していた。カレンは既に戦場に立ち、味方の命を預かり、敵の命を奪う立場にあるというのに。

 黒の騎士団のエースがこの程度のことでいちいち混乱して叫ぶような軟弱な女では困るのだ。そう思うと自然と視線も厳しくなる。

 

「何をだ」

「何をって、」

「男だと嘘をついていたことか。それともブリタニア人だと言わなかったことか。皇族だと告げなかったことか……言える筈が無いだろう」

 

 カレンは愚かではない。ルルーシュの言うことの意味は分かっていた。

 ゼロがブリタニア人で皇族だと最初から告げていたら、そもそも黒の騎士団は成り立っていない。皇族同士のお家騒動に巻き込まれるなんて御免だと、誰もゼロを信じようとはしなかっただろう。

 それにこれまで一緒に戦ってきて、実はゼロはブリタニアの味方だった、なんてことがある筈が無いことも分かっていた。もしゼロがブリタニアの味方なら、これまでゼロの手腕により散々にブリタニアが苦しめられてきた事実との整合性が付かない。

 

 しかし心情的に納得できるかどうかというのはまた別の話なのだ。

 

「あたし……お兄ちゃんみたいだって思ってたのに。ゼロを、信じられるって!日本のことを大事に思ってくれる、大人の男の人で、優しくてっ」

「――――それはお前の勝手な思い込みに過ぎない。事実はいつだって理不尽で、不条理なものだ。思い通りに行かない。ゼロがブリタニア人でない心優しい大人の男だった、このまま黙って俯いていると俺が消えてなくなっていた、ここから逃げ出したら勝手に日本を取り戻すことができていた……お前がそう想像するのは自由だが、それでは世界は何も変わらない。そうやって泣いて何になるんだ」

 ルルーシュにそう言われて尚も地べたに座り込んで黙って髪を振り乱すカレンはあまりに弱弱しかった。普段の勇ましさの欠片もない。

 ふとルルーシュはこれがカレンの素顔ではないのかと察した。

 

 ブリタニアへの憎悪を胸にカレンは勇猛果敢にこれまで戦い続けてきたが、その実はシャーリーやニーナと同じ、思春期の只中にある女の子だ。それも貴族出身で、衣食住に困ったことも無いだろう。

 カレンは自分のように凌辱されたこともなく、地べたを這いずり回って食料を探したこともない。たかが17歳の女に俺は過大な期待をしていたのか。

 向けていた視線を思わず細めた。

 

 カレンはただの未熟な少女だ。本当ならば、ゼロの親衛隊隊長なんて務まる器ではなかった。

 カレンがこれまで大過なく親衛隊隊長を務めて来られたのは、類まれなるデヴァイサーとしての才能と、ブリタニア憎しで固められていた精神によるものでしかなかったのか。

 だからほんの少しの問題事でカレンはこうも取り乱す。

ゼロとしてその事実に落胆すると同時に、ルルーシュはカレンの行く末を思い安堵した。

 普通の女の子でしかないと気づいた今、目の前のカレンはルルーシュにとり、ゼロの親衛隊隊長ではなく、生徒会メンバーのカレンになっていた。親衛隊隊長紅月カレンにゼロは厳しくとも、クラスメートのカレン・シュタットフェルトにルルーシュは優しかった。

 カレンは普通の女の子だ。だから戦争が終われば元の生活に戻れるだろう。学校に行き、卒業して、人殺しなどしなくてもいい職業に就けるかもしれない。

 復讐に憑りつかれた自分と違って。

 

 先ほどとは別人かと思うほどに、カレンに向けるルルーシュの口調は柔らかかった。

「いいかカレン。ゼロは女じゃない。ルルーシュではないし、ブリタニア皇族でもない。ゼロは日本人の男で、お前の兄のような人物なんだ」

「……嘘、」

「嘘じゃない」

 ルルーシュは軋む体をおしてベッドから降りて、床に蹲るカレンの頬を両手で包んだ。

「それが真実だ。そう信じるんだ。今はそれでいい。――――いいな、カレン」

 カレンは顔をくしゃくしゃにして俯いた。

 やっぱり、ルルーシュが好きだ。優しくて、しかしそれ以上に傲慢なこの人が好きだ。

 眼を擦り、カレンはルルーシュに抱き着いた。

 ルルーシュへの疑心、自身の動揺、それはこの戦争における勝利の前では些細な事でしかない。親衛隊隊長として飲み込まないといけないことだ。吐き出すというのなら自分は騎士の名を返上しなければならない。

 手術が終わってから間もないせいか全身がほんのりと熱い。カレンはルルーシュの背中に爪を立てて、涙でぐちゃぐちゃになった顔が見えないよう患者服に顔を埋めた。

「はい……はい、ゼロ。私はあなたの騎士ですから。あなたの言うことを信じます」

 

 

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 

 

 トウキョウ租界ではコーネリアがブリタニア軍を整えていた。

 エリア11全土からテロリストがこのトウキョウ租界へと進軍してきている。ゼロが先導するその集団の勢いは、これまで相手をしてきたテロとは比較にすらならない。

 否、もうこれはテロリストと呼称されるべき集団ではない。黒の騎士団は一個の軍隊であることをコーネリアは認めなければならなかった。ゼロを首魁とした、これから興る日本の軍隊と考えるべき者どもだ。つまりこれから起こるのは戦争だ。

 

 しかしそれを理解していない鈍重な者もいる。

 指揮官室と化した執務室で、戦場となるだろうトウキョウ租界外縁部の部隊へ指示を飛ばしながら、コーネリアはぎゃあぎゃあと騒ぐ文官達に米神を引き攣らせていた。

「コーネリア皇女殿下、本国からの増援は」

「ユーフェミア皇女殿下の避難準備は終わりました、コーネリア皇女殿下もお逃げください!」

「黒の騎士団の相手は枢木卿でも務まるでしょう。貴方様がこのような所にいつまでもいる必要は無いのでは」

「増援はまだか、何度も要請しているというのに」

「もう間に合わんよ。殿下、エリアをひとまず捨てて本国へ避難を、」

「喧しい!!」

 一喝と共に机を殴る。文官達は飛び上がった。

 

 苛烈な性格のコーネリアが叫ぶことは珍しくない。しかしこうまで怒気を露わにして拳を叩きつける姿を見た者はいなかった。文官は身を寄せ合って肩を震わせた。

 エリア11の執政の中心であった彼らのあまりの情けなさに、コーネリアの叱責はさらに熱量を増す。

 

「いつまでもぴいぴいと喧しいぞ!!もうこうなっては全面戦争は免れんことなど赤子にも分かるだろう!!私に撤退という文字はありえない!!戦う気の無い奴はさっさとユーフェミアと共に本国へ帰るがいい!!」

 言い終わると同時に再度拳を振り下ろす。同時に文官連中は部屋を飛び出して行った。

 

 傍に控えていた選任騎士であるギルフォードがその背中を冷ややかに見据える。そしてそのまま、今度は労りのこもった視線をコーネリアへと向けた。

「……コーネリア様、」

「ユフィはどうした」

 おずおずと話しかけてきたギルフォードに、ようやくかとコーネリアは目を向けた。

「メディカルチェックでは何の問題もありませんでした。ゼロになんらかの薬剤を使われたかとも思われましたが、検査上はそのような形跡はありません。ユーフェミア皇女殿下は枢木卿と共に自室におられます」

「すぐに本国に避難させろ。あと数時間の内に黒の騎士団が攻めてくる。トウキョウ全てが戦場になりかねんぞ」

「……お会いしなくてもいいのでしょうか?」

 ギルフォードの控えめな提案にコーネリアは体を震わせ、しかし頭を横に振った。眉間には深い皺が寄っていた。

「私は、あの子に何て言っていいのか分からんのだ……。ユフィがゼロを撃つとは思えない。私はユフィを信じている。しかしあれほど力を注いでいた行政特区日本がこうも無残な失敗に終わっては……あの子は、あの子はこれからどうなるんだっ」

「本国に帰りさえすればご実家の皆さまがお守りくださるでしょう」

「あいつらはユフィを守るためだと言って嫁に出そうとするさ。どこかの国の、ずっと年上の権力者に、慰み者にされるやもしれんのだぞ!?」

 コーネリアは立ち上がった。頭を抱える。

「皇女など政治の潤滑剤程度にしか扱われんのだ。幼いナナリーと、皇子だがルルーシュもそうだった。私はそんな目にユフィを遭わせたくなかったから、あの2人を見捨ててユフィを護ったというのに……くそっ」

「殿下、黒の騎士団が!」

 伝令の言葉にコーネリアは顔色を変えた。

 早すぎる。ゼロはユフィに撃たれて傷を負っているのではなかったか。

「くっ、ギルフォード、トウキョウ租界の外縁にKMFを集めろ!街の中心部まで来る前に終わらせてやる!!」

「イエス、ユアハイネス」

「それからユフィを一刻も早く本国へ送れ!一刻も早くだ!」

「すぐに……コーネリア様、本当に」

 ギルフォードはコーネリアに問いかけた。

 これが今生の別れになるかもしれない。黒の騎士団に対してブリタニアが劣勢なのは明らかだ。

 そしてコーネリアは白旗など死んでも揚げる気は無かった。

 拳を握る。

 

 ユーフェミアの柔らかい髪を整えるのが好きだった。埃臭い戦場から帰ってきても、ユフィは嫌な顔一つすることなく迎えてくれた。いつも微かな花の匂いを纏わせていて、髪を結ぶとアネモネの花のような笑顔を見せた。

 あの笑顔を守るための力が欲しかった。力とはすなわち権力であり、ユフィの足元を支える祖国の国力でもあった。

 

 そのために戦場を駆け巡り、駆け巡り続け―――――その結果がこの有様か。

 自分は浅はかだった。ゼロめ。しかし今はもう、何を言っても遅い。

 もう自分はあの髪に二度と触れられないのかもしれないのか。

 

 強張る拳を解き、目を閉じる。

「……行こう」

 コーネリアはアヴァロンが待機している飛行場へと向かった。

 

 

 

 飛行場にはユーフェミアとスザクが待機していた。

 しかしどうも様子がおかしい。ランスロットの前で揉めているらしき2人を眺めていると、話からどうやらユフィが本国へと戻ることを拒否しているようだとコーネリアは察した。

 

 スザクは焦りの浮かぶ顔でランスロットの前に立っている。

「ユーフェミア皇女殿下、もうお時間がございません。早くランスロットにお乗りください」

「スザク……でも、」

 本国へと向かうシュナイゼル専用艦アヴァロンが上空に待機している。

 アヴァロンが着艦できる程の飛行場はトウキョウ租界には無い為に、スザクがランスロットでユーフェミアを空中に静止しているアヴァロンまで運ぶ手筈になっていた。

 ユーフェミアはランスロットを前にしてがくがくと震えていた。

 

 自分のせいでこれからエリア11が戦場となろうとしている。戦争を肌で感じたことが無いユーフェミアでさえ、これから始まる戦争で夥しい数の死者が出ることを察していた。

 そしてその戦争は行政特区日本の失敗に端を発するものだ。記憶は無く、自分がゼロを、ルルーシュを撃ったなど信じられない。しかしエリア11全土で放映された映像では、確かに自分はゼロに銃を向け、殺そうとしていた。

 たとえこれがルルーシュの策であったとしてもルルーシュを撃ったのが自分であることは間違いなく、行政特区日本が失敗したのは思慮の足りなかった自分のせいだ。

 だというのに自分はスザクとコーネリアに後始末を押し付けて逃げようとしている。

 

 自らのあまりに情けない有様にユーフェミアは震えが止まらなかった。行政特区日本などと仰々しく言っておいて、結局誰一人救っていない。

 これでは自分はイレブンを殺しただけではないか。ぶるりと体を震わせて、ユフィは声高に訴えた。

「スザク、やっぱり私は残ります。総督閣下とスザクに何もかもを押し付けて逃げるだなんて、」

「我々は誰もユーフェミア様が逃げるだなどと思ってはおりません。ユーフェミア様はブリタニアの血を守るために本国へお戻りになるのです。戦事を行うのは軍人の仕事。ユーフェミア様は軍人ではないでしょう」

「でもお姉様は残られるではないですか!お姉さまだって軍人では、」

「何を言う。私は軍人だぞ、ユフィ。これまで私が何人殺したと思っているんだ」

 コーネリアはスザクと並び、小さく震えるユーフェミアを見下ろした。

 しかし、でも、とまだ言葉を続けようとするユフィに、スザクは幾分か大きく声を張り上げた。

「失礼ながら殿下、エリア11に残ってあなたに何ができるのですか。殿下には戦場で部隊を指揮したご経験は無いでしょう。それにKMFを操縦する技術もありません。これから戦場となるトウキョウにあなたが残る意味は何でしょうか」

「っ、私の責務のためです。エリア11の副総督として、」

「つまりあなた自身のためでしかないと」

 スザクはまっすぐにユーフェミアを見据えた。

 

 ユーフェミアはルルーシュではない。シュナイゼルでもない。

 彼女は確かに心優しく度量が広いが、彼女の理想に相応しい能力は持ち合わせていない。

 そして自分の能力不足のせいで、ユーフェミアの能力不足を補うこともできない。ユフィを救うために今できることは彼女を遠く安全な場所まで逃がすことだけだった。

 

「ユーフェミア様がエリア11に残りたいというのはあなたの自己満足でしょう。そのためにコーネリア様が一体どれだけの負担を強いられるとお思いか。あなたの警護に兵をつけるだけで、どれだけの戦力が失われるとお思いなのですか。そのような余裕が今のブリタニア軍に無い事ぐらいユーフェミア様にもお分かりでしょう」

「っ、枢木卿、口が過ぎるぞ!」

 ギルフォードが声を荒げる。しかしコーネリアが手でギルフォードを押しとどめた。

「ユフィ」

「総督閣下……」

「いや、お姉様でいい。この場にいるのはお前の姉だ」

 コーネリアはユーフェミアに近寄り、小ぶりな頭を撫でた。

 

 これまでの人生で一番優しくなれるようにと自分に言い聞かせた。これまでユフィが自分に向けてくれた優しさの数万分の1でも優しさが伝われば良いと思った。

 

「―――ユフィ、よく頑張ったな」

「っ、でも、私は失敗しました!私のせいなのです!こんな事態になったのも、お姉様が戦わないといけないのも、」

「ああ。そうだな。でもいいさ。遅かれ早かれあいつらとは決着をつけないといけなかったんだ」

 見上げる未だ幼い妹の顔に、コーネリアはたまらなくなった。

 愚かな妹だ。純粋で、無垢で、人の悪意を知らない優しい子だ。そしてそう育ってしまったのは自分のせいだった。

 

 何もかもから守ろうと、ルルーシュやナナリーのように不遇に扱われることなどないようにといつも自分が盾になった。いつも満ち足りた状態にしてやりたかった。

 無菌状態で育てられた子供がどんな無残な大人になるか、知らない訳ではなかっただろうに。

 だからユフィの失敗は自分のせいだ。自分が後始末を付けなければならない。そしてそれは幸福なことだった。

 自分はユフィを愛しているのだから。

 その人のために何かをすることが、自分にとって何の負担でもないこと。むしろ幸福ですらあること。それが愛だとコーネリアは信じていた。

 

「ユフィ、お前は本国に戻り慎ましく暮らせ。何かあればシュナイゼル兄上を頼るのだ。リ家の連中の言いなりにはなるんじゃないぞ」

「お姉様!」

「枢木、お前もユフィと共に本国へ」

「恐れながら殿下、私はエリア11に残ります」

「お前はユフィの専任騎士だろう」

「……皇位継承権を失ったユーフェミア様には、コーネリア皇女殿下が必要です」

 

 高位の皇位継承権を持つコーネリアがいないとユーフェミアが粗雑に扱われる未来は確定する。ユフィのためにもコーネリアには生きていて貰わなくてはならなかった。

 そして鉄壁の防御力を誇るアヴァロンならば、そうそう黒の騎士団に撃墜されることも無い。なにより黒の騎士団の総勢力はこの総督府を目指してやってくる。分隊を分けてアヴァロンを攻撃するにしても、シュナイゼルが遅れを取るとは思えない。

 

 スザクはコーネリアに向かい合った。

「私はここで黒の騎士団を迎え撃ちます。ユーフェミア様のために」

「……そうか。では精々こき使ってやろう」

「スザク、」

「失礼致します、ユーフェミア皇女殿下」

 まだ言葉を連ねようとするユフィを遮り、スザクはユフィを横抱きにした。そのままランスロットに乗り込む。皇族に対して無礼な振舞いだが、コーネリアは黙って頬を緩めた。

 今生最後の出会いになるかもしれないのは自分だけではない。

 

 

 狭いコックピットの中で抱え込まれ、ユフィは暴れることもできずにしゃくりあげた。

 スザクがランスロットの起動スイッチを入れる。コックピット内の計器が振動して唸り声を上げる。緩い速度で上昇しながら、ランスロットは上空に浮かぶアヴァロンへと向かった。

 いつもよりも格段に遅い速度で飛行するランスロットの中で、スザクは膝に乗せたユーフェミアが泣き止むのを待った。

 

 温かな体温と柔らかい体重が心地よい。髪からは甘い香りが漂っていて鼻を擽る。胸が破裂しそうなほどに高鳴った。肌が熱くなり、目が潤んだ。

 

 ユフィが好きだ。皇女殿下としてではなく、女の子として。

 

 口に出したことのない思慕が飛沫のようにふわふわと浮かんでは破裂した。身分の違いから絶対に口には出すまいと決めていたが、もう最後になるかもしれないと思うと次々と溢れて止まらなかった。

 溢れるような情愛がスザクの心中を温かく満たした。好きだ。ユフィが好きだ。長い桃色の髪も、淡い菫色の瞳も。純朴で、一生懸命な性格も。いつもまっすぐ前を向いていた眼差しも。

 いつまでもこうしていたい。

 

「どうして、どうしてです。私のせいなのに。全部、」

「違うよユフィ。言っただろう?」

「でもスザクに怪我をして欲しくない。ルルーシュにも怪我をしてほしくないのに、」

 ルルーシュという名前がユフィの口から出たことにスザクは目を見開き、ユフィを見下ろした。

「ユフィ、ルルーシュが生きていることを知っていたの?」

 ランスロットの操縦桿を握るスザクの両腕の間で、ユフィは躊躇いながらも小さく頷いた。

「ええ。学園祭の時に会ったの」

「ナナリーには?」

「ナナリーには会えなくて、でも元気にしてるって」

「そっか……ナナリーも元気だよ。大丈夫さ。アッシュフォード学園は政庁に近いから、戦場にもならないよ。ルルーシュは機転も利くし、戦争に巻き込まれる前に2人とも逃げられるさ」

「………スザク、」

「大丈夫。またルルーシュにも会えるよ。その時はナナリーも一緒で、」

「スザクっ」

 

 ユフィはスザクに抱き着き、そのまま唇をスザクの唇と合わせた。

 一瞬呆けたが、スザクは強くユーフェミアを抱き締めた。柔らかくて、細い。

 想像していたよりもずっと心地良い。甘い匂いがする。小さな頭を抱きかかえると細い髪が指に絡まる。細い両腕が背中に回り、緩やかに締め付けられる感触にスザクは眼を細めた。

 幸せだ。きっとこれまでの人生で一番幸せだ。この人のためにこれから自分は戦場に向かうのだ。

 そう考えると、死ぬのも怖くなくなった。そのために死ねるのなら別に良いとさえ思った。

 

 暫くの後、ユフィはゆっくりとスザクから離れた。涙がスザクの頬にはらはらと零れる。

 ユフィはそのままスザクの胸元に抱き着き、声を殺して泣き出した。

「スザク、ゼロと戦わないで」

「ユフィ?」

「ゼロと殺し合いなんてしないで。お願い」

「……大丈夫だよ」

 どうしてここでゼロの名前が出てくるのか分からなかったが、しかしスザクはできるだけの優しさを含めてユフィに言い聞かせた。

「ゼロは黒の騎士団のトップなんだから、最前線に出てくることなんてないさ。殺し合いになんてならないよ」

 最前線で指揮を執ることがゼロの脅威なのだが、スザクはあえて口にしなかった。

 たった一人で本国へと帰らなければならないユフィの心をこれ以上揺さぶるようなことはしたくなかった。

「お願いよ。生きて帰って来てね」

「うん。約束だ」

 スザクは小指を差し出した。ユフィは首を傾げる。

「僕は生きて帰って来る。ゼロも死なない。コーネリア様も死なない。ルルーシュも、ナナリーも死なない。日本ではね、小指を結んで約束するんだ」

 ユフィもスザクに倣っておずおずと小指を出した。ユフィの小指にスザクが自身の小指を絡める。

 幼げな仕草が微笑ましくて、スザクはユフィの額に自分の額を合わせた。

「嘘ついたらはりせんぼんのーます、指切った」

「針千本?」

「うん。約束したから、もし嘘を吐いたら僕は針を千本飲まきゃいけないんだよ」

「………凄く、痛そうね」

「絶対痛いよ。だから僕は嘘を吐かない」

 ユフィは赤くなる程に目元を擦って、くしゃりと小さく微笑んだ。

「ええ。信じるわ。スザクは嘘を吐かないって。だから、私も待ってる」

 無理に微笑んだ顔にたまらなくなって、スザクはキスを落とした。額に、頬に、唇に。

 ゆっくりと離れて赤らんだ顔を眺める。年相応に頬を上気させているのが可愛いと思った。愛おしいと思った。

 弱くて儚く、しかし強い彼女が自分の人生において何よりも大事な人なのだと確信した。彼女が幸せでいられるなら、なんでもできると思った。理屈じゃないんだ。

 

 そのためなら自分は何でもできるだろう。

 

「うん。待っててユフィ」

 スザクはゆっくりと小指を離した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここでユーフェミアの手を離したことを、スザクは生涯後悔することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本国に到着したユフィは実家に保護されることとなった。

 リ家の屋敷に足を踏み入れる。

 玄関には金色の子供が立っていた。見覚えの無い顔だが、どこかで見たことがあるような気がするとユフィは首を傾げた。

 肖像画か何かに載っていたような。そこまで思うと、その子供の目がロイヤルパープルの色をしていることに気づいた。皇族の血を引く子供なのだろうか。

 子供らしい高い声が響く。

「ナナリーに手術をする前にさ、一回練習しておきたいんだ」

「え?」

「ナナリーのクローンを作ろうかとも思ったんだけど、上手く行かなくて……だからごめんね?大丈夫だよ、一瞬さ」

 V.V.は苦味混じりの微笑を浮かべて、言い聞かせるように呟いた。

「子供の頃からこんな理不尽な世界、爆破してやりたいって何度も思ったよ。そして世界に虐げられている人類をシャルルと一緒に楽園に連れて行くんだって、何度も想像した。

 そしてようやく、それが叶う。仲間外れのいない、肉体さえいらない、嘘のない楽園が来る。

 ―――――大丈夫、君は他の人類より一歩早く、楽園に行くだけだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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