楽園爆破の犯人たちへ 破   作:XP-79

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安寧のありか
18. ハドロン砲を撃ち過ぎたことが一番の失敗だった


 綺麗に整列したKMFが先を見据える。エリア11中のテロリストがトウキョウ租界へと進軍してきている情報は既に全軍へと伝わっていた。

 KMFのパイロットは揃って顔を緊張で強張らせていた。今になってまだ、黒の騎士団をただのテロリストと侮るようなものはブリタニア軍には存在しなかった。

「っ、見えました!!黒の騎士団、先頭は……蜃気楼っ、ゼロです!!」

「来たか!」

 カメラで遠方の空をズームすると、暗雲のように空を覆うKFMの集団が押し寄せてきている。

 その先頭には黒のカラーリングを施されたKMFが飛んでいた。ゼロのワンオフ機、蜃気楼だ。

 指揮官が最前線に立つというふざけた戦法に、しかしだからこそゼロは恐ろしいとブリタニア兵は歯の根を震わせた。

 あの男には負けない自信があるのだ。このブリタニア軍に対して最前線で戦い、なお指揮を執る余裕があることを見せつけているのだ。

 それがただの無謀であれば今日まで生き残ってはいない事実が、つまりゼロという人物を評している。

 最前線に立つこととなったブリタニア兵は悪寒を振り払うように声を張り上げた。

「この外縁部より奥には一般市民が住んでいる!!罪なき市民を護るために、これ以上テロ共を進ませる訳にはいかん!!コーネリア殿下の御威光を示すのだ!!全軍、用意、」

 

「遅い」

 

 トウキョウ租界外縁部の各部署への連絡を終え、ルルーシュは頬杖をついた。指先で液晶をつつく。

 

CFM

I will notify the ground management department about the collapse mission of TOKYO outer border.

 

 端末に、確認した、と応える。

 それから瞬きするような一瞬の後、トウキョウ中に轟音が響き渡った。

 地を這うような轟音はトウキョウ外縁部から生じ、住宅街を通り過ぎてアッシュフォード学園まで、そして総督府まで揺るがせた。

 強固なKMFの内部まで揺らす爆音に思わず頬が吊り上がる。

 

 ルルーシュは戦争が好きではない。

 確かに戦争は弱者が強者に噛みつく唯一の政治的手段だろう。しかしエネルギー資源から見ても人的資源から見てもあまりに無駄が多い愚行であり、愚策だ。

 とはいえ、こうも計算通りに戦場が動いている光景を直に見るのはやはり気持ちが良い。掌の上であらゆる事象が予測した通りにころころと動くことは、自分の能力や価値を強烈に認識できる。

 

 液晶を覗くとトウキョウ租界の外縁部が崩落していた。コンクリートが崩れ、空中で擦れあいながら地面に落ちていく光景はあまりに刹那的だった。それは氷河が崩れ落ちて海に還る光景とよく似ていた。瓦礫は多くのKMFを飲み込み、水のように流れていく。

 咄嗟に後退するKMFも崩壊する足場の速度には追い付かない。難を逃れたKMFもフロートシステムを組み込んだKMFに上空から狙い撃たれる。

 

 今が機だ。ルルーシュはマイクを握り締めて声を張り上げた。

「黒の騎士団よ!!前へと進め!!最早後ろに道は無い!!前にしか道は無い!!進軍せよ!!一般市民を害さず、ただブリタニア軍のみを敵とし、進め!!」

 ゼロに返答する団員の咆哮を聞き、ルルーシュはハドロン砲を起動させた。

 コックピットの画面が一斉に光る。

「ハドロン砲!」

「standby!」

 C.C.から張りのある返事が返り、ルルーシュは狙いを定める。狙いはフロートユニットを装備した、上空に浮かぶKMFだ。その数30機前後。全てがハドロン砲の射程圏内にある。

「発射!」

 スイッチを押す。同時に閃光が飛んだ。空中を計算されたルートで駆け巡ったハドロン砲は、数秒後に上空に浮かぶKMFを全て爆散させた。爆散したKMFは花火のようだった。

 画面上で敵側にフロートユニットを組み込んだKMFがいないことを確認し、ルルーシュは通信をONに切り替えた。

「まずは黒の騎士団の本部を置き、その場所を拠点としてトウキョウの各地区を制圧する。本部の場所はアッシュフォード学園。先行部隊は制圧を開始せよ」

『承知しました、ゼロ!』

 生きの良い返事はカレンの声だ。この調子ならば軍事力の無いただの学校はすぐに制圧されるだろう。

 通信を切り、ルルーシュは蜃気楼を飛ばす。前を遮る敵はほぼいない。外縁部に勢力のほとんどを置いていたらしく、地上でぽつぽつと反抗するサザーランドやグラスゴーが見えるばかりだ。

「おいルルーシュ。本気か?アッシュフォード学園に本部を置くと言うのは」

 疑い深げなC.C.の言葉にルルーシュは頷いた。

「ああ。その方がナナリーの安全も護れる」

「学生はどうなる。ブリタニア人を前にして攻撃する馬鹿な団員もいるだろう」

「学生は寮と教室に避難していてもらう。扇を置いて監督を任せればそう軋轢も無いだろう。指揮能力はこれっぽっちも無いが、緩衝材としては使える男だ」

 

 

 アッシュフォード学園はトウキョウ租界の中ほどにある。ルルーシュは向かう途中、トウキョウ各所に配置されているブリタニア軍を潰して回りながらアッシュフォード学園へと進んだ。

 思っていたよりもブリタニア軍が少ない。想定以上に外縁部に配置されていたKMFが多かったのか、それとも総督府で護りを固めているKMFが多いのか。ルルーシュは後者だと予想していた。

 何しろ、まだランスロットが出て来ていない。

 ブリタニアで最高峰の機体であるランスロットを温存しているということは、ランスロットをゼロか、紅蓮にぶつけることで戦力を一気に削ごうとしているのだろう。

 だとするとゼロが総督府に近づくなりコーネリアの親衛隊でゼロを囲み、ランスロットで打破する戦略の可能性が高い。

 

「まあ絶対守護領域がある以上、俺が負ける筈は無いがな」

「下手なフラグを立てるなルルーシュ。負ける筈が無い、と口にした奴はだいたい負ける」

 C.C.はルルーシュに向けて皮肉めいた笑みを浮かべた。

「それは長年の経験からの知恵か?」

「そうとも。調子に乗ってる奴ほど足元をすくわれる。調子に乗る程に思考は鈍り、足は勝手に前に進んでしまう。止まり時を忘れてしまうんだよ。並んで歩くカモの群れさ」

「なら俺に敗北は無い。流石にブリタニア以上に調子に乗っているつもりはないからな。調子に乗って他国に攻め続けて、身分格差を増大し続け、弱者のことを何も考えなかった……今、足を止めるのはあいつらの方だ」

 先行部隊は既にアッシュフォード学園を制圧している頃だろう。ルルーシュは学園へと蜃気楼を飛ばした。

 

 学園は普段の賑やかな雰囲気が嘘のように静まり返っていた。

校庭へと蜃気楼の進路を向け、ゆっくりと機体を下ろす。コックピットにC.C.を残して地面に降りた。

 見慣れている筈の風景が仮面越しに眺めているだけで別世界のように見えた。自身を拒絶するようなよそよそしい感じがする。勿論普段と全く景色は変わらないので、自分がそう感じているだけなのだろう。眼を細める。

 この学園には黒の騎士団も、ゼロも、場違いなのだ。

 

 既に黒の騎士団員によってアッシュフォード学園の制圧は完了しているらしく、校庭には肩からマシンガンをかけている団員が数名立っていた。学生の姿は見当たらない。

団員はゼロの姿を認めるなり敬礼した。

「ゼロ、アッシュフォード学園の制圧は完了しました。現在本部を設営しています」

「分かった。そのまま続けろ。紅月カレンはどこだ」

「紅月隊長は生徒の避難を行っております。もうすぐこちらに来るかと、」

「ゼロ!」

 聞きなれた声に顔を向けると、団服の帽子で顔を隠したカレンが寮の方から駆けて来ていた。

 ゼロの前に立ち、俊敏な仕草で敬礼をする。

「ゼロ、学生は生徒会メンバーを除いて寮におります」

「分かった。生徒会は何故?」

「クラブハウスにナナリー……1名学生が住んでおりまして、その保護の目的だそうです」

 ナナリーと言う言葉に思わず肩が揺れた。

 

 生徒会メンバーが、咲世子とたった2人でいるナナリーのことを心配して生徒会室に連れて行ったのだろう。

 咲世子がいる以上滅多なことは起きないと分かっているが、それでもこんな危険な場所にナナリーがいるということ、そしてそれが全て自分のせいであることはルルーシュの胸を苦しめた。

 

「……分かった。カレンは生徒会室に案内をしろ。カレン以外は本部の設営を急げ」

「承知しました!」

 団員は本部設営のためにその場を離れた。ルルーシュも生徒会室へ足を向け、カレンもその後ろについて行く。

 周囲に人がいないことを確かめ、カレンは潜めた声でゼロではなく、ルルーシュに向けて話しかけた。

「……ゼロ、」

「何だ」

「生徒会の皆に言わないの?」

「言わないさ」

「………ねえ、ここに本部を置くのって、ナナリーが心配だから?」

「この場所は総督府に近くも無ければ遠くも無い。場所も広く、通信手段も完備されている。人質も多いしな。条件として良好なだけだ」

「ルルーシュっ」

 カレンはゼロのマントを握った。

 

 普段シスコン全開なルルーシュがこんな状況でナナリーのことを考えていない訳が無い。だというのに素直に言葉に出さないなんて、なんて捻くれた性格の男、いや女なのだろうと苛立ちが湧く。

 淡々とした口調は、ルルーシュは自分へ本音で話せるほどに心を許していないことを如実に表していた。自分だけではない。警戒心が異常に強いのか、ルルーシュは他者との間に高くて厚い壁を築いている。

 カレンはそんなルルーシュにどうしても伝えたいことがあった。ゼロは鬱陶しそうにカレンを振り返った。

 

「その名前で呼ぶな、今は」

「分かってるわよ。でもみんな言ってたわよ、ルルーシュが来るかもしれないから攻撃しないでくれって」

 ルルーシュは足を止めた。

「……どういうことだ」

「ナナリーがここにいるのにルルーシュが助けに来ないわけがない。だから美少年みたいな美少女が学園に入ろうとしたら危害を加えないでくれって、ミレイも、リヴァルも、シャーリーも、ニーナも、黒の騎士団に食って掛かったって」

 ルルーシュは首を振った。なんて無茶なことをする連中だ。

 黒の騎士団には一般人へ危害を加えないことを徹底させている。しかしそれでも相手は銃を持ったテロリストだ。ブリタニア人を前にして頭に血が上り、引き金を引く馬鹿がいないとも限らないというのに。

「何をしているんだ、あいつらは」

「あなたが大事だからじゃない」

 カレンは仮面の奥にあるルルーシュを睨んだ。

「あたしも皆が大事よ。学校での日常が大事だった。黒の騎士団の次に。でもあなたは違うでしょ?ナナリーのために、いつか日常に戻るために黒の騎士団を作ったんでしょ?」

「そんなことは、」

「あんたが皇族ってことはナナリーも皇族なんでしょ。あんたみたいなシスコンがナナリーのことを考えないで行動するなんてありえないんだから。どうせナナリーを護るために戦ってきたんでしょ。だからあんたが一番大事にしたいのは黒の騎士団じゃなくてナナリーで、日常にある生徒会なんじゃないの。それなのに何も言わないで嘘をついたままだなんて、それでいいの?」

「っ、じゃあどうしろと言うんだっ」

 ルルーシュはカレンを振り払うように足を進めた。

 

 生徒会のメンバーにゼロがルルーシュだなどと言ってどうするのだ。彼らはブリタニア人で、ゼロは敵にあたる。そんなことをすればこれから先、二度とルルーシュは生徒会に戻ることはできないだろう。

 それにナナリーに自分がゼロだと、薄汚い人殺しだと知られてしまったら。想像だけで体が震えた。

 

 足を速めるルルーシュにカレンが追いすがる。

「仮面を外せだなんて言わないわ。でもあたしはみんなに言う。ゼロは信用できるって。絶対に誰にも危害を加えたりしないって。そうあたしは信じてる。信じさせてよ」

「言われずともそうするつもりだ」

「だったら皆にもそう言って。仮面越しでいいから。危害を加えない、安全は保障するって。みんながルルーシュを大事にしてくれたんだから、あなたもみんなを大事にしてよ」

「―――ああ」

 足早に生徒会室に向かう。カレンはその後を追った。

 

 生徒会室にはナナリーと咲世子、そしてシャーリー、リヴァル、ニーナがおり、皆を護る様にミレイが立ちはだかっていた。咲世子とミレイ以外は黒の騎士団を前にして怯えて震えている。

 ディートハルトの口利きで、学園祭が開催された頃から既に黒の騎士団員に加入している咲世子は普段と同じく冷静な顔をしていた。

 ミレイは普段の人好きのする笑顔を消し去り、アッシュフォード令嬢としての凛々しい面持ちをしている。

 

 ゼロが生徒会室に入るなり、真っ先にリヴァルが目を見開いて悲鳴染みた声を上げた。

「うげ!ゼロ!」

「うげって、何よリヴァル」

 カレンがゼロの前に出た。髪を纏め、普段と全く雰囲気の異なるカレンが誰なのか一拍後に気づき、その場の全員がゼロを目の当たりにしたときより驚いた。

 黒を基調とする団服に身を包んだカレンは普段の大人し気な令嬢とは全くの別人のようだった。しかし赤みの強いブロンドに気の強そうな澄んだ碧眼は、彼女が生徒会のカレン・アッシュフォードであることを示していた。

「か、カレン!?」

「カレンちゃん!」

「なんで、カレンちゃんはブリタニア人でしょう!?」

「違うわ」

 ニーナのヒステリックな叫びにカレンは静かに言葉を続けた。

「私は紅月カレン。日本人よ」

「……紅月……そう、ハーフだったのね」

「ええ。でも心は日本人だから」

 ハーフという言葉にニーナは肩を震わせた。シャーリーとリヴァルも動揺した顔を見せる。

 しかしミレイはカレンの言葉に笑みを浮かべた。豪胆ささえ感じる笑みだった。

「そう。ま、多種多様なところがアッシュフォード学園の売りですから。ハーフでも日本人でもうちの大事な生徒には変わりないわよ」

 ミレイはカレンにウインクを飛ばした。

 普段と同じ明るいミレイの仕草に、カレンは無意識の内に肩に籠っていた力が抜けていくのを感じた。

 これは、ルルーシュがミレイに勝てないわけだ。計算してのことか、それとも天性の才能か、ミレイには他者に信頼を置かせる不思議な力があるようだった。

「それでカレンちゃん、その後ろのイケメンさんの紹介はしてくれるのよね?」

「あ、はい会長。ええと、あの、ゼロです。知ってのことでしょうけど黒の騎士団の総司令です」

「お初にお目にかかる、ミレイ・アッシュフォード嬢」

 ゼロは緩やかにミレイに一礼した。貴族のような立ち振る舞いだ。しかしそれは同時に傲慢さが見え隠れする仕草でもあった。

 ゼロは淡々とその場の生徒会メンバーに告げた。

「失礼ながら、このアッシュフォード学園を黒の騎士団の暫定的な本部とさせてほしい。そのために施設の一部をお借りする」

「っ、いきなり言ってくれるわね。学園内の寮には生徒がいるし、教師も残ってるの。皆一般人よ。銃火器を所持している黒の騎士団の侵入なんて許可できないわ」

 ミレイの顔が引き攣る。ゼロは淡々と会話を続けた。

「生徒や教師に危害を加えないことは約束する」

「そんなこと当然でしょ!」

「そうだ。勿論アッシュフォード令嬢たる君も、」

 ゼロは指先でナナリーを示した。

「そちらの令嬢にも、安全を保障することをお約束する」

 ミレイは反射的にナナリーを背中に隠した。汗が額に浮かぶ。

 

 このメンバーの中で何故ゼロはナナリーを指し示したのか。車椅子に盲目という、重度の身体障害を持つ弱者にも危害は加えないという意思表示か。

 それともナナリーが皇女と知っての発言か。

 手が震えた。もしそうであるのならば、この状況は最悪だ。このままではナナリーとルルーシュはまず間違いなくブリタニアに対しての人質にされる。

 背中に汗が伝うのが分かる。どうして、どこから知られたのか。

 

 まさか、とミレイは咲世子を見やった。咲世子は無表情を崩すことなくゼロを見ていた。

「まさか、あなた」

「ミレイ様。ここは反抗しない方が良いかと」

 ミレイに語り掛けた咲世子の表情からは何も読めなかった。

 硬直するミレイにシャーリーは思わずといった風に声を上げる。

「そ、そうです会長!大人しくしていれば何もしないって言ってるんですから」

「シャーリー、でもさぁゼロだぜ?嘘ついたら、」

「嘘はつきません!」

 シャーリーは声を張り上げた。

「ゼロは嘘をつかないし、私たちに危害だって加えないの……私、ゼロを信じる」

「……シャーリーちゃん?」

「おい、どうしたんだよシャーリー」

 戸惑うリヴァルとニーナに、ぐ、とシャーリーは押し黙った。

 

 まさか、とは今でも思っている。

 でもその可能性は否定できなかった。これまで得た情報だけではなく、体形と、機械で変声されているけれど隠しきれない声色、微かな仕草。

 シャーリーはルルーシュが好きだった。一緒にいると心臓が破裂しそうなぐらいに好きだった。

 だからこそこうして直にゼロと会うことで、シャーリーはほとんど確信に近い事実に思い至った。

 動揺はしている。手足は細かに震えていて、できることなら大声でゼロに問いかけたい。しかしシャーリーは事実を隠しているルルーシュのために、事実を問いかけはしなかった。

 残酷なテロリスト、ゼロとしての顔も本物だろう。しかし生徒会のルルーシュとしての顔が嘘だとは思えない。

 自分が好きになったルルーシュがただの作り物の仮面な筈がないのだから。

 だからシャーリーはルルーシュを信じることに決めた。

 

 だがどう説明していいものやら、うろたえているリヴァルとニーナをどう諫めればいいのかとシャーリーは狼狽した。しかしシャーリーの言葉を引き継ぐようにカレンが口を開いた。

「そうよ、シャーリーの言う通り嘘じゃないわ。ゼロは確かに嘘つきだし、傲慢だし、性根が曲がってるし、色々問題はある人だけど、」

「おい」

「でもこの件に関して嘘はつかない。皆に怪我なんて絶対にさせないから。お願い、私を信じて」

「……カレンちゃんのことは信じるわ。でもね、信じる、信じない以前の問題なのよ」

 深く息を吐く。咲世子のことは今は後回しだ。

ミレイはゼロの前に立ち、仮面越しに睨みつけた。

「私はアッシュフォード家の者として、生徒会長として、ここを護る義務があるの。ここは学校なのよ?安全でなきゃいけない場所なの。そこに武力を持ち込むことは何があっても許せないのよ」

「では拒否すると?」

「……どうせ拒否権は無いんでしょうけどね」

「そうだな。残念ながら」

「でもせめて学生が使っていない場所に本部を置いてちょうだい。あとうちの生徒になにかしたら」

 ミレイはゼロに大股で近寄り、カレンが止める間もなく胸倉を掴み上げた。

 長身だが華奢な体が数cm持ち上がる。リヴァルとニーナは顔色を一瞬で蒼白に変えた。

「ちょ、会長!!無謀すぎますって!!ゼロほんと違うんですあの、この人あんまりにも度胸があり過ぎるだけで悪意がある訳じゃないんです!」

「ミレイちゃん止めて!危ないから離れて!」

 リヴァルがミレイをゼロから引き剥がそうとミレイの腰に抱き着くが、ミレイは微塵たりとも揺らがなかった。

 顔を紅潮させて、ミレイはゼロを睨みつける。

「死んでも許さないわよ。墓の下から祟ってやるんだから」

「承知した」

 真っ直ぐな威圧に、ゼロは思わず微笑を零した。ミレイはくすくすと聞こえた、機械で変声された声にきょとんと眼を見開いた。

 ゼロは、こんなに安らかな笑みを零すような人物なのか。

「もちろん、守りますよ―――――これ以上奪われてたまるものか」

 

 

 

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 

 本部の設営は扇に任せ、ルルーシュは総督府へ進軍を開始した。

 紅蓮は蜃気楼に侍るように飛んでいる。

 他のフロートシステムを組み込んだKMFは別動隊として総督府へと向かっており、ここにはゼロと紅蓮しかいなかった。

 戦力を分けて総督府へ向かった理由は1つ。ランスロットとコーネリア親衛隊への囮のためだ。

 もっと時間があればフロートシステムを多く組み込んだ部隊を編成し、戦力を分けるような奇策を呈する必要もなかったのだが。しかし仮定の話をしてもしょうがないことだ。

 

 C.C.が液晶に映った小さな赤い1点に気づいて眉根を顰めた。

「ルルーシュ、ランスロットが近づいてきているぞ。とんでもない速さだ」

「分かっている」

 液晶画面を見ると、Lancelotと書かれた小さな点が凄まじい速さで蜃気楼に向かって飛んできていた。予想通り、ランスロットの他にコーネリアの親衛隊もゼロを取り囲むように四方から飛んできている。あと1分もしない内にこちらへと襲い掛かりそうな勢いだ。

「カレン、紅蓮可翔式の初陣だ!ランスロットを叩きのめせ!」

『はい、ゼロ!!』

 ゼロがそう言うなり、ランスロット・エアキャヴァルリーへ目掛けて紅蓮可翔式が発進した。エンジンが駆ける轟音が響き渡る。

 紅蓮可翔式は勢いのままランスロットの横っ腹へ食い掛った。衝撃で紅蓮のコックピットは引き千切られんばかりに揺さぶられる。

 しかしカレンは紅蓮のエンジンをさらに吹かした。

『ぐっ、くそ、』

『ゼロの邪魔はさせないわ!!』

 ランスロットが地面に叩きつけられる。紅蓮はそのままランスロットとの乱闘に入った。

 

「俺はこちらだな」

 コーネリア親衛隊が円陣を描くように近づいてきている。

「ハドロン砲」

「standby OK」

 蜃気楼の胸元が開く。エネルギーが充填され、発光する。

 蜃気楼は駒のように回転し、ハドロン砲を360度全面に渡って放射した。KMFの破片を飛び散らせながら花火が上がる。

 数機のKMFはハドロン砲の放射範囲よりさらに上空へと逃げた。上空から、ハドロン砲より逃れたKMFが襲い掛かる。絶対守護領域を展開。

 過密な電子で構成される6角形の壁が蜃気楼を取り囲む。絶対守護領域は激突してきたKMFとの間で金属音を鳴らした。

「距離を取るぞ」

「分かった。絶対守護領域は展開したままでいろ」

「言われずとも、だ」

 C.C.が蜃気楼の高度を急激に落とす。同時にハドロン砲を再度起動。

 既に3発のハドロン砲を撃っており、残りエネルギーが少ない。しかしアッシュフォードにエナジーフィラーを大量に運び込んでいる。ここで親衛隊を倒し、学園に戻れば問題ない。

 ハドロン砲が閃光を描く。残った親衛隊が爆散して夜空に散った。

「よし、一度戻るぞ。エナジーフィラーを充填させたらランスロットの、」

「っ、ルルーシュ、上空だ!」

 C.C.の言葉にメインカメラを上空に向ける。まだ1機残っていた。距離が近い。

「っ、しぶとい!」

 蜃気楼は指揮官機であり、近接戦闘の装備はほぼ皆無と言っても良い。距離を取らねばとC.C.は低空飛行で蜃気楼を飛ばした。真下には住宅街が広がっている。

「C.C.、方向をポイントDに向けろ」

「無茶を言うな!敵がいる方角じゃないか!」

「こんな場所で戦闘をしたら一般市民に被害が広がる。ポイントDならば真下には瓦礫しかない」

「このっ、甘ちゃんめ!」

「撃つ覚悟も無い、撃たれる覚悟も無い民衆を巻き込むような情けない真似をしてたまるか!いいから方角を変え、」

 銃弾が絶対守護領域に当たる。エネルギーが少ない。このまま絶対守護領域を展開し続けるとなると、かなりの短期戦が迫られる。

「くそ、なんとか場所を、」

 画面が赤く発光する。

 何だと見ると、新たな赤い点が地図上に示されていた。点の横に機体情報が示される。

 

Knight Giga Fortress ; Type-Siegfried

code ; FXF-50*`++`!#”$’(QWKJ*``PL(unlocked)

Pilot ; No.21930

 

「オレンジか!!」

『ゼロぉぉぉぁおおおおおお!!』

 通信が強制的に繋げられる。同時に頭上から砲撃が降って来る。

 絶対守護領域を展開し、市街地に落ちる砲撃をなんとか防いだ。残りエネルギーが急速に減っていく。空からバラバラになったコーネリア親衛隊のKMFの残骸が燃え落ちる。

相も変わらずオレンジのパイロットは理性が無く、敵も味方も見境が無い。

 不利だと悟り、最高速度で市街地から離れる。真下に瓦礫しか見えなくなり、ルルーシュはハドロン砲の充填を開始した。

 同時に通信要請の表示が画面に浮かんだ。誰だと画面を見る。

 

Knight Mare Frame ; Type-Lancelot Air Cavalry

code ; L-20100302 Special dispatch Leading Engineering Department

Pilot ; MAJ. Suzaku KURURUGI

 

 Communicarion requested. DE Lancelot Air Cavalty

 Accept or Refuse

 

 叩きつけるようにルルーシュはAcceptを押した。

『ゼロ、話があるんだ』

「見ての通り取り込み中だ!!手短に頼む!!」

 絶対守護領域に回す分のエネルギーを減らすためにオレンジの砲撃を手動の操縦で避ける。

 砲撃の機動を脳内で計算しながら、何故このタイミングでスザクが通信を繋げて来たのかとルルーシュはいぶかしんだ。

 画面を見るに、未だ紅蓮は健在だ。ランスロットと紅蓮は互角の戦いを続けている。

 取引を持ち掛けるような性格でもないだろうに、何の用だ。

『ユーフェミア様を皇帝にするという話を、まだ君は考えていてくれるか?』

「無茶なことを。皇位継承権を無くした皇女が皇帝になれるとでも思っているのか。そこまでブリタニアの皇族は甘くないぞ」

『他の皇族の皇位継承権を全て奪えば可能だろう!』

「どうやってだ!」

『シュナイゼルを一度皇帝にする!そしてその後、他の皇族の皇位継承権を剥奪する!そして、』

 一度躊躇い、スザクはしかし声を張り上げた。

 

『僕がシュナイゼルを殺す!』

 

 スザクの口から出てきた言葉とは思えず、思わずルルーシュは蜃気楼を操縦する手を止めた。

 同時に砲撃が蜃気楼に命中した。僅かに蜃気楼の装甲に罅が入る。そこからサクラダイトが漏れ始めた。

 コックピット中の計器が一斉に鳴り響いた。

「ルルーシュ!」

「蜃気楼はこの程度で破壊されるような脆い作りはしていない!エネルギー不足だ!」

「いずれにしてももう動かないんだろう!脱出を、」

「すればあのオレンジに砲撃されるだけだ。既に黒の騎士団に代えのエナジーフィラーを持って来るように指示してある!」

「到着するまでどのくらいかかるんだ!?」

 C.C.がそう言うと同時に、オレンジがこちらに向かってくる光景がカメラに映された。

 オレンジの球体が回転しながらエンジンを唸らせて、急激に速度を上げながら蜃気楼へと落ちてゆく。

 あの速度では蜃気楼と衝突しても停止することは不可能だ。蜃気楼と共にオレンジも地面に墜落し、木っ端微塵になるだろう。オレンジの操縦者もそのことに気づいているだろうに、速度を落とさないどころかさらに加速する。

「っ、くそ、おいジークフリートの操縦者!通信は繋がっているんだろう!?その速度で衝突すればお前も死ぬぞ!!」

『……だから?』

 返ってきた声には僅かに笑いが混じっていた。

『私が死ぬ。その事象に何か問題でもあると?』

 記事を読むような、起伏の無い口調に背筋が凍った。

 

 こいつ、狂ってる。

 

 ルルーシュは反射的に紅蓮に通信を繋げた。

「カレン!このオレンジ野郎を殺せ!!」

『っ、はいゼロ!』

 ランスロットを背後に、紅蓮が真っすぐにオレンジへと向かう。ランスロットは紅蓮の後を追った。

 ジークフリートと蜃気楼が衝突する寸前、紅蓮から発射された輻射波動砲弾がオレンジに命中する。速度が削がれたジークフリートは反転して空中にくるくると舞い上がった。

 至近距離で爆発した輻射波動砲弾の影響は蜃気楼にまで及んだ。なんとか残ったエネルギーで絶対守護領域を展開したものの、完全に蜃気楼は動きを止めて地面に激突した。

 墜落した衝撃で傷が痛む。歯が軋むほどに食いしばった。

 明かりが消え、真っ暗闇になった蜃気楼の中でC.C.は緊急脱出ボタンに手を伸ばした。

「ルルーシュ、脱出するぞ!このままではただの的だ!」

「っ、脱出しても的には変わりないが……瓦礫に隠れて逃げるしかないか、」

 もう少しすればエナジーフィラーの替えを持った騎士団員が到着する。オレンジとランスロットの相手はカレンに任せて、自分は補給に来た騎士団員と逃げれば良い。

 このまま蜃気楼に閉じこもっていても自分はC.C.と共に木っ端みじんに破壊されるだけだ。そうなれば勝ちの目は無くなる。

 空気の抜けるような音と共にコックピットが外部へと放出された。

 

 瓦礫が敷き詰められている地面に降りる。埃と鉄の混じった、肺に籠るような臭いがした。

 C.C.は地面に降りるなり、ゼロのマントをルルーシュから奪って走り出した。

「私が囮になる!お前は瓦礫の下に!」

「っ、すまない、くそ!」

 C.C.はゼロマントをはためかせながら、ジークフリートから見えるように瓦礫の街を走る。

 数mも走らない内にC.C.の足が弾け飛んだ。肉片が地べたにまき散らされる。

 地面に崩れ落ちながらもC.C.はしっかりとゼロのマントを体に巻きつけた。

 頭上で旋回するオレンジのエンジン音が五月蠅い。C.C.は音から身を守るようにゼロのマントに顔を埋めて目を閉じた。

 ルルーシュの匂いがする。小さく微笑む。

 C.C.の頭蓋が弾け飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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