楽園爆破の犯人たちへ 破   作:XP-79

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2. でも、いくら幸せでも平和に生きられない人間だっているんだ。お前とか、俺とか

 

 これでよし、と。

 携帯を懐に仕舞い込み、ルルーシュは息を吐いた。

 なんでこうなったかと思い返すと、全面的に平和ボケしていたからだという結論に落ちる。

 貴族相手にチェスでぼろ儲けし、気分良くリヴァルと帰っていたところで交通事故に遭ったトラックと遭遇した。火は出ていなかったが衝突箇所がエンジンに近いようにも見え、すぐに脱出しないと爆発でもすれば運転手は無事では済まないと思い、つい体が動いた。

 気にせず無視すれば良かったのだろうが、傍から見ているだけという状況に我慢ができるような人間であれば自分はこれまで数回死んでいる。後悔はしていない。

 

 だがまさか乗り込んだトラックをテロリストが運転していたとは、ついてない。

 

 薄暗い中、最小限に光量を絞られた携帯に視線を落とす。ジェレミアが間に合えばよいが、先ほどから蛇行運転を繰り返す車体の様子からして恐らくブリタニアからの攻撃を受けているのだと察しがつく。外見から見るに武装などしていなかったトラックは砲撃一発で吹っ飛ぶ脆い作りだろう。

 そしてこのトラックが爆破炎上すれば自分もテロリストと共に死ぬことになる。想像するだけであまりに情けない末路に笑いも起きない。

 E.U.でも枢木邸でも必死になって生き延びたというのに、まさかこんなところで命の危機に晒されることになるとは思ってもいなかった。自身のうかつさを呪ってしまう。

 

 しかし全く絶望的という訳でもなかった。ジェレミアはすぐにこちらへ来るだろう。キタセンジュならばそう遠くも無い。さらにジェレミアにプレゼントしたあの車はKMF並みの馬力を積んでいる。KMFより軽く、風圧は遙かに軽減される構造をしている車は速度だけであればそこらのKMFどころか枢木スザクのワンオフ機であるランスロットすら凌駕する。残る問題は走行するトラックからどう逃げ出すかだ。

 

 ルルーシュは自身が寄りかかっていた球体の機械を見上げた。

 その造形からは用途が全く窺い知れない。しかし先ほど見かけた赤いカニのような頭をした少女のテロリストは、この機械を奪うことが目的だったという発言をしていた。

 ブリタニアの兵力があればこのトラックを空爆するなりして爆破するのは容易い。未だ無事とは言えないもののこのトラックが走行を続けているということは、この機械はブリタニアが破壊を躊躇う程に重要なものなのだろう。中身はブリタニアの機密か、それとも兵器の類か。

 盗み見ておきたいとも思うが、近くにテロリストがいる状況で構造もよく分からない機械を無理に開けようとするのはあまりにリスクが高い。

 暫くは大人しくしていた方が賢明だと判断してルルーシュはテロリストに見つからないよう物陰に隠れた。

 だが突如トラックが横殴りにされるような衝撃を受けて床に倒れる。強かに体をぶつけて、悪態を吐きながらルルーシュは座り込んだ。運転が下手なのか。それともブリタニアから攻撃を受けているのか。恐らく後者だ。

 端末を見るとGPSは地下道を通っていることを示していた。ブリタニアが未だ把握していない東京の地下に逃げ込むのは悪い判断ではないが人海戦術で囲まれるのは時間の問題だ。

 揺れから身を守ろうと機械に縋りつく。そのまま数十分間トラックは運転を続け、しかし段々と速度を落とし、ついに止まった。

 足音はしない。エンジンの駆動音と、電子機器の無機質な音だけが小さく聞こえる。運転席から人が出てくる気配が無いことを確認して端末を見下ろすと現在位置はシンジュクを指し示していた。ビルのど真ん中を指し示していることから、恐らくここは地下だろう。

 運転が留まったのはトラックが壊れたからか。それとも運転手が死んだからだろうか。いずれにせよ外に出るのは危険だ。周囲一帯はブリタニア兵に囲まれている可能性が高い。

 端末に表示された地図を見る。ジェレミアの居場所を示す一点は、しかし間違いなくまっすぐにこちらへ向かっていた。

 地下に入るために車を乗り捨てたのだろう。移動速度は遅くなっているが、もうあと数分で到着するという所まで接近していた。

 電話をしようかと思い、止めた。もしこのトラックの周囲をブリタニア兵が囲んでいるのならば着信音でジェレミアの居場所が知られるかもしれない。

 

 ともかくはジェレミアからの連絡を待とう。

 球体の機械を見上げる。周囲の状況を気にせず、それはひっそりと佇んでいる。卵のような外見をしておりあまり精密な造りはしていないように見えた。

 むしろ中に何かを閉じ込めているような無骨な造りである。

 

 そうして眺めていると突如その機械に亀裂が入った。完璧な球状のフォルムをしていたそれが、急に崩壊し始めて目を剥く。ルルーシュが後ずさっている間にも亀裂は広がり、中から煙を吐き出し始めた。

「なっ、」

 袖口で口元を覆いながら背後に下がる。亀裂は躊躇なく卵を割り、その隙間から煙を吐き出し続けていた。視界を埋め尽くす煙の海にルルーシュは咳き込んだ。

 まさか毒ガスか。いやしかし、ただの毒ガスであればとっくにブリタニアはトラックごと爆破している。

 むしろテロに見せかけてシンジュクのど真ん中で毒ガスをバラまいてテロを制圧する大義名分にしかねない。

 

 煙を吸わないよう床に頭を伏せて目を凝らす。換気扇も無い現状では煙が消えるまで時間がかかるだろう。

 しかしルルーシュの予想とは裏腹に煙は見る間に薄らいだ。姿を消して行く白煙の隙間から、目を潰しそうな程に眩い光が立ち上りルルーシュは眼を細めた。

 

 割れた卵の中心で一人の女が宙に浮かんでいた。

 女性は新緑の色をした髪を靡かせて、白い拘束着に身を包んでいる。顔立ちは成人女性と言うには少し幼げで、同じ位の年頃のように見えた。碧色と表現するにはあまりに神秘的な色をした長い髪はうねりながら周囲を睥睨するように漂っている。

 女性は徐々に重力を纏い、ゆっくりとその場に倒れ伏した。

 煙が立ち退き、光も消え去り、後には華奢な女性だけが残った。

 

 恐る恐る近寄る。翠という鮮やかな色彩の髪に白い肌は眼を惹くが、他に変わったところは見られない。長い睫毛が縁取る眼はしっかりと閉ざされている。

 肩を揺さぶる。華奢な体には余分な筋肉が無く、日々の暮らしのため汗を流して働かなければならない身分では無いようだった。

「おい、おい。しっかりしろ」 

 声をかけようとも女性は身じろぎ一つしない。躊躇なく両頬を全力で叩くも全く反応が無い。

 

 ブリタニアに監禁されていたのだろうか。しかしそれにしてはあまりに肌艶が良かった。髪も手入れされており一つの絡まりも無く、それなりに良い待遇を受けていたことは間違いない。

 女性の口に手をやる。空気の流動を感じてとりあえず息を吐いた。生きてはいるらしい。脈もきちんと触れ、命の危機にある様子ではない。

 

 ともかくはジェレミアの位置を調べるために端末を取り出したが、銃声が響き渡り舌打ちした。

 幸運なことにそれなりにフレームの厚いトラックらしく、銃弾が壁を通り抜けるということはなかった。しかし密室に銃弾がぶち当たった音が反響して長く鳴り響く。

「そこのトラックにいるテロリスト!出てこい!出てこなければトラックごと丸焼けにしてやる!これは警告ではない!」

 誰がテロリストだ!

 舌打ちしながら射撃してきたであろう方向を睨む。

 

 訛りの無いブリタニア語から脅しをかけてきたのは本国出身の軍人だろうと察せられた。高圧的な物言いに慣れている口振だ。恐らくは貴族出身で、プライドが高く上昇志向が強い。出世を求めるあまり命令違反を軽々に犯してしまうタイプの可能性が高い。

 どうする。ここで出なかったとしてもエンジンを爆発させられればまず間違いなく死ぬ。

 爪を噛んで床に寝転ぶ女を見下ろす。

 ブリタニアがこのトラックを爆破しなかったのはまず間違いなくこの女を捕獲するためだ。しかしそうだとして、本国命令をエリアに所属する兵士がどこまで守るだろうか。

 本国直属の兵士と比較してエリアに所属する兵士の質は低い。命令違反もそう珍しくはない。

 ヨーロッパ戦線でも兵士の命令違反に散々に苦労させられたルルーシュには、彼らが躊躇なくトラックに対戦車砲をぶっ放す可能性が低いとは言えなかった。

 端末を見る。点滅する一点は程近くまで来ている。しかし今すぐに到着する程に近いわけではない。このままここで待っていてもジリ貧だ。

 自然と口角が持ち上がるのを感じる。久しぶりの高揚感に体が震えた。

 ああ、やはり自分はこういう人間だ。平和ボケしていても、本質は変わらないのだ。行動しなければ気が済まない性質は、たった5年では変わらないのだ。平穏に馴染むことのできない自身にルルーシュは全く落胆しなかった。むしろ安心さえした。この世界は戦わなくては生き延びられない程に理不尽であると知っているルルーシュにとって、自分が戦うことができる人間であるという事実は安堵にしかなり得なかった。

 

 では、勝負に出ようか。

 ルルーシュは女性を床に寝かせ、一人トラックから外に出た。

 

 

 埃臭い地下道は数年前まで普通の道路だったのだろう。現在では瓦礫が積まれた廃墟だ。奇跡的に電気系統は死んでおらず、蛍のように瞬く蛍光灯が周囲をか細く照らしている。

 トラックの周囲をブリタニアの軍服を着た兵士達が取り囲んでいた。人数は20人といったところか。小隊単位で地下道を捜索していたところをこの一団が一番乗りで見つけたのだろう。

 トラックから降りたルルーシュを兵士達はライトで照らした。

 すわテロリストかと思い、小隊の隊長は手柄を見つけた喜びで色めき立った。しかし現れたのは明らかにブリタニア人の容姿をした学生服を着た子供だった。

「貴様、ブリタニア人か?」

「そうだ。テロリストに捕縛されていた。どうか諸君らブリタニア軍に保護して欲しい」

 両手を挙げて無抵抗を示す。

 ルルーシュは黒髪であるが、顔立ちは明らかにアジア人ではない。また服装は学校の制服だ。未だナンバーズが通学できる環境が整っていないエリア11において、学生服は何よりのブリタニア人である証明だった。

 しかし小隊長は健気に無力を主張する子供を鼻で笑った。

「運が悪かったな、機密に触れたものは全員処分することとなっている」

「私はアラン・スペイサー。父は侯爵だ。ここで私が死ねば父は必ずや私を捜索するぞ」

 侯爵の言葉が出た瞬間に小隊長は一瞬顔を歪めたが、しかしすぐに元の笑みを取り戻した。

「そうか。ならばお前の父には『哀れにもテロリストに殺されていた』とでも伝えておいてやろう」

「そんな嘘が通るとでも?」

「喧しいぞ学生が。ブリタニア人であるのならテロ殲滅のために尊い犠牲となることを誇りに思え!」

「そうか。ならばお前もブリタニア皇族の選任騎士直々に殺されることを光栄に思うと良い」

「は?」

「やれ、ジェレミア」

 一瞬の沈黙の後、男の首の中心部が破裂した。断面から血が噴き出す。

 周囲が騒然となった瞬間に即座に車の中へと走った。床に寝そべる女を背負ってルルーシュは車の外を隠れながら伺った。

 背中にずしりと人一人分の体重がのしかかる。

 くそ、この女思っていたより重い!

 トラックの中から見るに、騒然としながらもブリタニアの兵士は系統だった反撃をしていた。さらに人数が多いためか、ジェレミアも苦戦しているらしい。それでも物陰に隠れながら射撃で一人一人確実に潰している。

 ルルーシュが車から出てくるのを認めて、ジェレミアは持っていたSMGを手放した。

「ジェレミア、やれ!」

「イエス、ユアマジェスティ!」

 肩に担いでいた迫撃砲を天井に向かって放つ。

 命中率は低いが威力だけは高い迫撃砲は見事に地下道の天井にぶち当たった。

「うわ、」

「くそ、煙がっ」

 流石に落盤を起こす程の威力は無いが、廃墟じみた地下道の天井を崩す程度の威力はある。

 既に崩れかかっていた天井は大量の煙をまき散らし、瓦礫が剥がれて兵士の頭上に降り注いだ。

 瓦礫の隙間を縫うようにジェレミアはルルーシュに駆け寄る。

「ルルーシュ様、こちらへ!」

 ルルーシュが背負っていた女性をひょいと担ぎ、ジェレミアはルルーシュの手を引いて走り出した。

 

 

■ ■ ■

  

 

 

 

「学校はサボり決定だな、これは」

「当たり前です」

 眠ったまま起きない女性をジェレミアは担ぎながらため息を吐いた。

 周囲はブリタニア軍により囲まれている。居場所を見つけられないよう地上に脱出し、包囲網を抜けるとなると些か難しい。

 とはいえこの場所にはルルーシュがいる。ブリタニアに包囲されていない可能性が最も高いルートをすぐに選び、ジェレミアはその指示に従い歩いていた。

「それで、この女性は?」

「知らん」

「はあ」

「ただブリタニアが必死こいて取り戻そうとしていたから、重要人物であることに間違いは無い」

 ルルーシュは女性の髪をひっぱったり頬をつついたりしながら検分していた。

 見た目にはただの女だ。見目は良い部類に入るだろう。どこか浮世離れした雰囲気を持つ女は、凛々しいルルーシュとはまた違う幻想的な美しさを讃えている。色彩の珍しい髪は神秘的な女性の顔立ちによく似合っていた。

「目が覚めるまではとりあえず連れてゆく。事情も一応聞いておきたいしな」

「承知しました」

「……あった。あれが出口だ」

 ルルーシュが指さした先には確かに光が漏れている個所があった。

 近寄ると小さな階段であることが分かった。上を見上げると、階段を上った先には鉄骨が剥き出しな天井がある。工場のような内装であり、事実工場だったのだろう。

 この付近は日本の工場が多く建てられていた場所であり、そのほとんどが現在ではホームレス達の住居となっている。

「私が先に上ります。ルルーシュ様はお待ちください」

「気を付けろよ」

 頷いて返し、背中におぶさっていた女性を地面に降ろす。心配そうなルルーシュに手を振り、物音を立てないよう階段を上った。

 

 SMGを構えて耳を澄ます。

 頭が地面から出る前に足音が聞こえたために足を止めた。階段を見下ろして首を振ると、ルルーシュは忌々し気に顔を顰めていた。

 どうやってこの場所に先回りされたのだろうか。いや、それは今どうでもいい。

 引き金に指をかけて相手の出方を待つ。随分と足音が軽い。まるで子供のようだ。

 短い沈黙ののち、耳が痛くなる程に甲高い声が響き渡った。

「やーっと見つけた、ジェレミア・ゴットバルト!」

 場に似合わない幼い声に思わず拍子抜けした。階段の下ではルルーシュも目を見開いている。

「そこにいるんでしょ?もー、探したよ。でもよかったあ、C.C.と接触してくれたおかげで居場所が分かって」

 変に饒舌な子供だ。耳を澄ませると子供以外にもいくつかの足音が聞こえる。

 手榴弾を懐から取り出して安全ピンを抜く。

「大人しくしててよ。そうすればギアス教団にちゃんと連れてってあげるから。怪我したくないでしょ?」

 階段から頭だけを出した。子供が2人。声の主だろう、引き摺る程に長い金髪を持つ少年は無防備に立っている。そしてSMGを構えてこちらに銃口を向けている兵士が5名程。

 兵士の姿を確認して手榴弾をぶん投げた。

 そのまま階段を飛び降りてルルーシュの上に覆い被さる。その直後に頭上で爆発音が弾けた。悲鳴が工場内に響き、階段の下まで届く。

 脳が芯から冷めるような、底冷えのする声でルルーシュは問いかけた。

「何人だ」

「子供が2人。兵士が5人です」

「子供は」

「恐らく死んだでしょう」

 爆発のタイミングを考えると逃げる隙は無かった筈だ。

 ルルーシュは唇を噛んだが、すぐに何事も無かったような顔を作り出した。

 

 状況をルルーシュは理解している。ルルーシュを害する可能性のいる兵士がいて、ジェレミアが殺さないわけがない。たとえ周囲に子供がいて、巻き込んで一緒に殺すことになるとしてもジェレミアに躊躇は無い。

 ジェレミアがそういう性質であると知って、それでも騎士にしたのはルルーシュだ。

 であれば子供の死の責任はルルーシュにあり、その程度の責任も背負えず主君などと嘯くつもりは無かった。

「そうか。もう一度確認しろ」

「はい。お気を付けを」

「お前もな」

 階段を再度上る。頭だけを階段から出して周囲を見ると兵士の死体が3つ落ちていた。子供の死体は無い。

 残り4人は。視線を回すと突然背筋に悪寒が走った。

 

 即座に階段の上へと飛び上がった。

 しかし地面に足を付けると同時に突如として目の前に子供が現れた。

 何が起こったのか分からなかった。いつの間にか胸元に出現した子供を見下ろす。

 まるで瞬間移動だ。有り得ない考えが脳裏を過る。

 どこかナナリーに似ている栗毛の髪をした少年は手に何かを持っていた。ナイフだ。その先端は自分の左胸に埋まっている。

 

 反射的に子供の首を仕込みナイフで刎ね飛ばす。血が噴き出して視界が遮られた。

 痛い。焼けるようだ。痛みのせいで呼吸ができない。

 痛みと、さらに顔面に血液が付着して視界が遮られたせいで動きが鈍った。敵の真正面で動きを止めた愚かなジェレミアに銃口が向く。発砲音と共に左腕が燃えたような感覚がした。

 右腕で顔に付着した血を拭いながら自身の左半身を見下ろす。肩から先が千切れていた。鮮血が噴出し、地面が自分の血液で赤黒く色を変えている。

「あ、ぎ」

 千切れ飛んだ左腕は転がりながら階段の下に落ちたようだった。

 しかし目もくれず、立つ。息を吐く。右手のナイフを構える。

 歩く。前を睨む。

 ジェレミアは階段の前へと立ち塞がった。

 この先には絶対に行かせてはならない。何があろうと。

 何があろうとだ。

 

 たった一人で立っているジェレミアを断罪するように軍靴の音が響く。鈍る視界の中に長身の男が見えた。

「………諦められよ、ジェレミア卿」

 地獄の悪鬼というのはこんな声をしているのだろう。五年も前に何度も手合わせを挑み、しかし一度も勝てなかった男の声だ。

 嘘だと思いながらも、しかし見間違えようも無かった。あまりに長い金髪を携えた少年の傍に、嫌という程に見覚えのある人物がそびえていた。

 鍛え上げられた四肢にナイトオブラウンズの騎士服を纏う、褐色の肌の騎士。帝国最強の騎士。ナイトオブワン。

 ビスマルク・ヴァルトシュタインがジェレミアの前に立ちはだかっていた。

 五年前と同じように何を考えているのか分かり難い鉄仮面のような顔をして、ビスマルクはジェレミアを見下ろしている。

 冷水を浴びせられたようだった。

 階段の下にはルルーシュがいる。

 

 呼吸ができない。ナイフは胸に刺さったままだ。心臓は運よく潰れていないようだが左肺はもう駄目だろう。腕からは血が止めどなく流れている。血と酸素が足りなくて全身が震える。

 この状態ではビスマルクにはとても勝てない。いや、未熟な自分では万全な状態でも勝てない。

 歯を食いしばる。息を深く吐き出した。違う。勝てなくても良いはずだ。

 目的さえ果せればそれで。

 ルルーシュだけ助かればそれで自分は勝ちなのだから。

 

 ジェレミアは最後の虚勢を張り、震えながらも背筋を伸ばして凛と立った。何故かビスマルクを従わせている首魁らしき少年を睨みつける。

 最高位の騎士であるビスマルクが従っているということは、この少年は皇族でしかありえない。しかし全ての皇族を把握しているジェレミアの記憶にはこんな少年はいなかった。

 全てが不明の存在。しかし先ほどの発言はジェレミアに向けていた。理由は全く分からないが、この少年の目的はルルーシュではなく自分なのだろう。

「……何か、私に御用で?」

「よく喋れるねえ。頑丈なのはいいことだよ。ギアスキャンセラー適合手術にも耐えられそうだ」

 会話をする気が無いのか。こちらの話には聞く価値も無いとでもいうのか。傲慢な態度は確かに皇族らしい。

 しかし視野狭窄な幼い挙動と言わざるを得ない。ルルーシュがこの少年と同じくらいの年齢だった頃、彼女はもっと大人だった。

 その少年はにこやかに手を振った。

 それを合図にビスマルクは鯉口を切った。突風に遭ったような衝撃に体が揺らぐ。何かと思えばビスマルクの姿が無い。どこへ行ったかと焦って周囲を見回すと、左足が根元から落ちていた。 

 バランスを崩した四肢は地べたに強烈に叩きつけられる。

 ビスマルクは悠々と地べたに横たわるジェレミアの右足を引っ掴む。視認できない速度で左足を斬り落とされたのだとようやく気付いた。

 

 出血し過ぎたのか、意識が遠のいてゆく。しかしまだだ。残った片足が引っ張られる感覚がした。荷物のように引き摺って運ぼうとしているのだろう。圧倒的な力に抗するために地べたに爪を立てて顔を持ち上げる。

 倒れた時に顔面を強打したためか左眼が見えない。眼球が潰れたのかもしれない。

 半分に減った視界の端で少年が意気揚々と階段に背を向ける光景が見えた。

 安堵で力が抜ける。残った右眼が涙で潤んだ。

 よかった。しかし悔しい。噛みしめた歯から血の味がした。

 ここで自分は終わってしまうらしい。こんなところで。

 なんと不甲斐ない。なんて無能な騎士だ。こんな無様な騎士などルルーシュの選任騎士に相応しい筈が無い。

 自身を罵倒しながら、ナナリーとたった二人で残されるルルーシュのために祈りを捧げた。

 左半身のほとんどを失ったジェレミアができることは最早祈ることのみだった。神になどではない。

 神にではなくルルーシュに祈った。ルルーシュは他の何よりもジェレミアにとって尊い人だった。

 失敗も多く、簡単に傷つき、思い込みが激しく、感情の乱高下が甚だしい。全く完璧ではないルルーシュを、しかしジェレミアは他の何よりも貴んでいた。

 その理由は自分でも定かでない。しかし彼の人の全てが愛おしい。

 

 諦めと喜びを最後に意識は着実に肉体から離れていく。視界は暗くなり、耳は聞こえなくなる。感覚も体から離れ、暗い洞穴に放り投げられたような不快感に溺れる。

 

 沢山殺した。間違いなく自分は地獄行きだ。

 ルルーシュ様もそうだ。あの人が天国になど行けるわけが無い。

 だから大丈夫。どうせまた会える。

 だからどうか、できるだけゆっくり来てください。

 それまでどうか、どうか幸せに。どうか。

 どうか、私のことなど———嫌だ、嫌だ。忘れないで下さい。

 私を忘れないで下さい。

 不甲斐ない、身の程すら弁えられない騎士ですが、どうか。忘れないで。どうか覚えていて下さい。

 ルルーシュ様、ルルーシュ様。どうか、お幸せに。

 摩耗していく意識に縋りつきながらジェレミアは祈った。

 その祈りを最後に、ジェレミアは眼を閉じた。

 

 

 

 

 

「全く、どうしてお前がついて来るんだか」

「いくら終戦したとはいえ未だテロが活発な地域ですから。陛下は兄君をご心配なされたのでしょう」 

「どうだか」

 ビスマルクを見上げて少年は鼻で笑った。

 ビスマルクはジェレミアを片手で引きずりながら眼を伏せて階段を見やった。V.V.はその下にいる少年に気づいている様子はない。C.C.のことは暫く放置する予定のようで、階段に足を向ける様子も無い。

 そのまま視線を逸らし、ビスマルクはV.V.に気づかれることのないよう階段に背を向けた。

 皇帝の不器用な愛情は、しかしこのままでは子供達に生涯伝わることはないだろう。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 物音がしなくなったのを確認してルルーシュは階段から這い出た。腕にはジェレミアの左腕を抱えていた。

 まだ暖かい左腕は切断面から血を流していた。手でぎゅうっと根元を絞って、できるだけ血が流れないようにと強く抱きしめた。

 工場だったであろう施設は今や酷い有様に成り果てていた。手榴弾により壁の一部は破壊されており、床には手榴弾に仕込まれていた金属片が体に突き刺さって死んだ死体が落ちている。さらにぽっかりと口を開ける地下へ続く階段の近くには首を切り裂かれた子供の死体があり、明らかに致死量と分かる血液がぶちまけられていた。

 この血液は死体となった子供のものだけではない。

 床に座り込む。周囲に飛び散っている血に手を浸すとまだ暖かい。凝固しかけている血液をこねるように指先を遊ばせる。頭が芯から痺れているように痛む。

何も考えられない。頭が痛い。吐きそうになる程の眩暈がする。足元がふわふわと浮いていて、しかし地べたは酷く寒かった。

 

 ルルーシュは階段の下からジェレミアの左半身が吹き飛び、斬り落とされるところを見ていた。致命傷を負ったと知った上でルルーシュは動かなかった。

 

 もし出て行ったところでビスマルクを相手に無力な自分に何ができる。

 ジェレミアを助けようと出て行って、そしてジェレミアの目の前で殺されるだけだ。そしてジェレミアも殺される。2人で死体になり、横に並ぶ。その瞬間を夢想してルルーシュは嗚咽を零した。喉が引き攣れて呼吸ができない。

 それができればどれだけよかっただろう。どんな形であっても2人でいた方がずっと幸せに違いない。

 でもそれだけは駄目だ。たとえ死んでも、それだけはしてはいけないのだ。

 自分のためではなく、ジェレミアのために。

 そして、ナナリー。

 ナナリーを護らないと。

 これからは1人でナナリーを護って行かないといけないんだ。

 ルルーシュは自分よりもずっと太くて、ずっと長く、ずっと強い腕を抱き締めた。この腕がどれだけ力強かったのか、ルルーシュはよく知っていた。目が痛い。

 

 俺はどうしてこんなに弱いんだろう。

 

「おい、ルルーシュ」

 さっきまで気を失っていた女性がいつの間にか起き上がっていた。長く硬質な髪が顔にかかる感触がした。

 ぱちぱちと頬を叩かれている。結構な力で叩かれているのか、脳が揺さぶれて気分が悪い。

「何をぼんやりしているんだ。すぐにでもブリタニア兵が来る。そうなればお前はここで終わるぞ」

 確かに遠くから軍靴の音がする。あれだけ銃撃の音がしたのだから人が集まって当然だろう。こんな女に言われなくても分かっている。

 でも体が動かない。どうしたらいいのか分からない。呼吸も上手くできない。

 ルルーシュはむずがるように顔を振るって女の手から逃れようとした。

 五月蠅いし、煩わしい。放っておいて欲しかった。

 

 ルルーシュの弱弱しい仕草に女から舌打ちが落ちた。

「まったく、親に似ているのは外見だけか。なんとも情けない。———これでは死んだお前の部下も浮かばれんな」

 腰に両手を当てて溜息を吐く美女にルルーシュは内心で自嘲と共に同意した。

 そうだろう。

 何の力もない、ただ守られて震えているだけの女に仕えていたなんて後悔してもし足りない程の間違いだった。

 あいつが日本に来る前からそう言っていたのに、わざわざ地位も金も捨てて日本くんだりまで来るなんてあいつは本当に馬鹿だ。

 あんな馬鹿は世界中探してももういないだろう。

 

 どれだけの時間が経ったのか分からない。恐らく数分間だろうが、数時間のような気がした。

 足音も荒く数名のブリタニア兵が工場に入ってきた。入るなり死体を見て口喧しく騒いでいる。ブリタニア人の死体がいくつも落ちていることに驚いているようだった。

 会話の内容は理解できる。しかし現実として認識できない。幕を隔てたところでやり取りがされているようだ。

 ぼんやりと眺めていると、兵士達の銃口が自分に向けられていることに気づいた。久しぶりに向けられた銃口だが、これまでのように脳が焼き切れるような緊張が湧かない。

 ここで死ぬのか。ルルーシュは鈍る思考の中で自身の死を感じた。

 死ぬ。死ぬとはどういうことだろう。

 これまで何人も殺してきたというのに、死ぬということをルルーシュはよく分かっていなかった。もしかしたら5年前の方がもっとずっと自分は死を身近なものとして感じていたかもしれない。

 それほどまでにこの5年間は幸福だった。

 

 5年間。5年間だ。12歳だった自分にとっては、それまでの人生を忘れてしまう程に長い時間だった。

 素朴な生活を3人で営んだ。朝に起きて学校に行って、友達と遊んで、笑って、怒って、また笑う。家に帰って食事を作って、家族と食べて、他愛も無いことを話して、聞いて。

 護りたい妹と、護ってくれる騎士がいつも傍にいた。何も足りないものなど無かった。穏やかな日常が続き、このままずっとこうやって生きてゆけるのではないかと思った。

 心地よい夢想だった。できることなら、死ぬまで夢を見ていたかった。

 でも夢は夢だ。現実は、今は。もうジェレミアは、家族だった男はいない。2度と会えない。昨日まで、ついさっきまで傍にいたのに。

 

 熱の籠った息を吐いた。涙が溢れて次々と頬に線を描いた。

 5年前、日本まで追いかけて来たジェレミアがルルーシュを抱き締めてくれたように、ルルーシュは腕の中の千切れた左腕を抱き締めた。腕は既に冷たく、抱き締め返してはくれなかった。

 

 ルルーシュは決意した。

 戦う。戦おう。

 胸の中に炎が灯る。全身を燃やし尽くさんばかりに燃え上がる。それでも一向に構わない。

 燃えればいい、全て燃えればいい。

 戦ってやる、殺してやる。復讐してやる。

 奪い返してやる。

 それが正しい事であっても、間違ったことであっても。どうでもいい。

 

 

 ルルーシュは涙を零すままに菫色の瞳を見開き銃口を睨み返した。

 火のついたような視線が周囲を睥睨する。

「———殺してやる」

 人形のように呆けていたルルーシュが突然口を開いたことでブリタニア兵は戸惑い銃口が揺れた。

 ここで何があった。説明を。この場で生き残っていた少女と少年に向かって怒号が飛ぶ。

 

 しかしそんな喧噪よりも先に、とても聞き逃すことの出来ない侮辱に始末をつけなければならなかった。

女の胸倉を掴み上げる。

「許さない、死んでも許しはしない!!戦ってやる!殺してやる!死んでも殺してやる!!」

 C.C.は吠えるルルーシュを見上げた。華奢な体は女性とも男性ともつかない。強者に媚びる女性でも、権力や腕力を誇る男性でもないルルーシュはどうしたって弱者に分類される。

 さらに周囲には敵しかおらず、唯一の騎士も失った。ルルーシュは現在完膚なきまでにブリタニアに敗北していた。

 

 その事実を分かっているだろうに、それがどうしたというのだと言わんばかりにルルーシュの声は猛々しい。

 全てが失われたわけでは無いのだから。まだ不撓不屈の意思、復讐への飽くなき心、永久に癒すべからざる憎悪の念、降伏も帰順も知らない勇気があるのだから。

 敗北を喫しないために必要なものは全てが揃っているのだから。

 

 先ほどまでとは別人のように眼球を爛々と輝かせるルルーシュに女は瞬きを繰り返し、気の毒そうに眼を伏せた。

「———そうか。終わりたくないのだな、お前は」

 女は自身の胸倉を掴むルルーシュの手を握った。

 額に赤い紋様が浮かび上がる。

「これは契約だ」

 女がルルーシュの手に触れると同時に、足元から全てが崩れ去るような虚脱感が全身を襲った。

 

 

 

 

 真暗闇の中に放り出されたかと思えば、無数の人々がこちらを見ている。

 ここはどこだ。なんなんだ。周囲を見回すも、カメラのフィルムが高速で流れるように周囲の風景は次々に変化していく。

 ルルーシュは眼を瞑る沢山の人々の前に立っていた。額には女と同じ鳥のような紋様が赤く光っている。

 ここはどこかと思えばすぐに景色が変わり、神官のような人々が粗末な衣服を着た奴隷を虐殺していた。ルルーシュはその神官のすぐ隣に立っていた。止めようと手を伸ばすと、また景色が変わり、今度は瞳に紋様を浮かべた男に沢山の人々が跪いている光景に変わった。ルルーシュは多くの人々と共にその男を見上げていた。

 漠然と、これは人類の歴史だと察した。長い長い歴史はルルーシュへ何かを訴えかけるように速度を速める。走馬燈のように駆け巡る記憶は全て自分が生まれる前の古い歴史だというのに、しかし少しだけ懐かしい感触がした。

 どこかで触れた。どこだろう。

 高速に回転する光景の中心で、自分という存在が生まれるずっと前のことをほんの少しだけ思い出した。

 ずっと昔、まだ自分がルルーシュでなかった時、世界の中心で渦巻く螺旋状の神の中で。

 あれはどこだったんだろう。

 

 有り得る筈のない記憶を受け止めるルルーシュに追い打ちをかけるように、朗々とした少女の声が脳裏に響いた。あの女の声だったが、それにしては幾重もの声が反響して聞こえた。男の声や子供の声も入り交じり、切々と懇願するようで耳障りな、しかしやはり懐かしい声に聞こえた。

 

 

 力をあげる代わりに、私の願いをひとつだけ叶えてもらう。

 契約すれば、お前は人の世に生きながら、人とは違う理で生きることになる。

 異なる摂理、異なる時間、異なる命。

 

 王の力はお前を孤独にする。

 その覚悟があるなら————————

 

 

 

 ここはどこだろう。自分は誰だったか。

 周囲を見回すと、何もない真白の空間が広がっていた。地面にも空にも何の色も無く、地平線さえ白く見える。手足を見ると自分の身体も白く変質している。周囲の空間に溶けてしまいそうな白は、空気に溶けてそのまま無くなってしまいそうだった。

 このままではいけない。脳を揺さぶる多種多様な記憶の波に翻弄されながら、ルルーシュは自分の存在を思い出そうと自分自身の記憶を振り絞った。

 ここは、ええと。指を折りながら少しずつ思い返そうとする。自分でない記憶が絶え間なく入り混じるせいで、自分の輪郭が酷く曖昧だ。自分は何歳だっただろう。性別さえもうよく分からない。忘れてしまったのだろうか。

 確か、そうだ。確か小さい頃は皇子で、ブリタニアにいた。でも捨てられてしまった。

 そしてあの男に嫌なことをされた。でも耐えた。妹のために。

 一緒にいたのは小さな妹と、大きな騎士と、親友の少年。

 そうだ。ここはニッポンで、自分は、ルルーシュ。

 ナナリーの兄の、ルルーシュ。

 ジェレミアを騎士に持つ、ルルーシュ。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。

 そうだ。騎士だった。たった一人の騎士だったんだ!

 家族だったんだ!!

 

 

 沸々と湧き上がる激情が奔流し続ける記憶のせいで呆けた理性をぶん殴った。

 人類の歴史も、他人の悲劇も、自分にとってはどうでもいいことだ。そんなものにかかずらっている暇などあるものか。

 そうだ、許さない。

 母さんを殺された、ジェレミアも殺された、自分も、奪われた。そしてナナリーは盲目になり、歩けなくなった。

 許さない、許せない、殺してやる殺してやる!復讐してやる!

 力を、そのための力を!

 

 ルルーシュは立ち上がった。

「いいだろう、結ぶぞ、その契約!!」

 そう叫ぶと同時に周囲は元の薄汚れた工場へと戻った。周囲はブリタニア兵に囲まれ、地べたは血で赤黒く染まっている。

 周囲のブリタニア兵は気を失ったとばかり思っていた少年が動いたことに戦きながらも引き金に手をかけた。

 もしやテロの味方をする主義者かと警戒していたが、先ほどから呆けるばかりでまともに会話もできなかった。それが突如として意識を取り戻して立ち上がったのだから自爆でもするつもりかと冷汗が額に滲む。

 

 ルルーシュは自分に銃口を向けて並ぶ銃列を一瞥した。

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる。今すぐ自害せよ!」

 左眼が赤色に発光する。怒号を挙げながらルルーシュを取り囲んでいた兵の群れは突如として機械染みた速度で沈黙した。

 一瞬の後に建物中に響き渡る声で号令が上がる。

「イエス、ユアハイネス!」

 轟く声を上げると同時に彼らは自身の脳を躊躇なく銃弾で打ち抜いた。

 異様な光景をルルーシュは眉一つ動かさず眺めていた。

 床に力を無くした死体が落ちる。死体には眼もくれず、ルルーシュはただ先を睨みつけた。

 

 

 

 あの日から俺はずっと嘘をついていた。生きてるって嘘を。

 名前も嘘、性別も嘘、経歴も嘘、嘘ばっかりだ。

 それでも日々の幸せだけは本当だった。

 だから嘘という絶望に諦めることができた。幸せは確かに、本物としてあったから。

 でもその幸せさえ奪われた。

 

 だけど、手に入れた。

 力を、復讐の力を、全てを変える力を。

 だから。

 だから、俺は!

 

 


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