楽園爆破の犯人たちへ 破   作:XP-79

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21. 感情が戻ったというより、キャラが別人に変化したというか、

 

 

 

 

 

 

 中華連邦、朱禁城。

 普段は人の出入りを禁じているこの城に、今は多くの国からの使者が殺到していた。

 巨大な式典会場に多くの人が整列して着席しておりながら、耳鳴りがする程の静けさが保たれていた。衆人の視線を一身に浴びながら、幼過ぎる天子がおずおずとマイクの前に立っている。

 ゼロは天子の隣に立ち各国からの使者を睥睨していた。長身に常と同じ黒一色の衣装を身に纏うゼロは立ち姿だけで威圧感を放ち英雄としての存在感をカメラ越しに全世界へと晒している。

 最も雛壇に近い位置にはシュナイゼルが座っていた。

 

 ゼロの視線を受けてシュナイゼルはにっこりと微笑んだ。水晶で彫られた仮面のような透明感のある美しい微笑みに、しかしルルーシュは生臭い嘘しか感じず肌を泡立たせた。無理やりに視線をその隣に立つスザクへと逸らす。

 スザクは通信画面越しに見たときより顔色に血の気が戻ってきてはいるもののやはり疲労が色濃く全身を覆い尽くしており、表情は優れない。スザクはゼロの視線に気づいて口元を歪めるように小さく笑みを浮かべた。

 

「本日は遠い国々から集まって下さりありがとうございます。中華連邦を代表してお礼を申し上げます」

 膝を僅かに折り天子は深々とお辞儀をした。煌びやかな装いは幼い天子を覆い尽くすようであり、アルビノ特有の白い髪と赤い瞳が布の中で光っていた。

 カメラ映えする容姿に会場の隅でディートハルトが隠し切れない笑みを浮かべながらカメラを構えている姿が見えた。この光景も全世界同時中継されているのだろう。幼い声が会場に響く。

「この度の合衆国日本の独立は我々中華連邦の民にとっては驚きのことでした。圧倒的な力を持つブリタニアに勝利し、弱肉強食というブリタニアの国是に真っ向から異議を唱える勇気ある行動は、ブリタニアの脅威を肌身で感じる立場にある我々にとって身を省みる好機ともなりました」

 一旦言葉を置く。幼い声で国政のことを喋る姿はあまりにも違和感があった。

 えっと、と言葉に詰まる天子に、背後に立つ黎星刻が微笑んで頷く。天子は眼を瞑り、大きく見開いた。

「我々は戦ってはきませんでした。戦わずに、嵐が過ぎ去るのを待っていた。それが愚かだったとは思いません。しかしそれで何が解決したのでしょう。奪い取られ、そして残ったのは飢える民だけでした。わ、私は、」

 躊躇いながら天子は宣言する。

 ここは朱禁城だが天子を諫める大宦官の手はもう天子には伸びてこない。

「私はこの朱禁城から出たことはありませんでした。だから、城の外は明るくて、豊かだと思っていました。情けないです。飢える民に、痩せた大地。私はそれを想像すらしていませんでした。戦わなくてはいけないと今は思います。このまま待って、いつまで待てるのでしょう。飢える民が増え、枯れた大地が広がるばかりだとようやく私は知りました」

 両手を握り締めて天子は高らかに宣言した。

「私、蒋麗華は、中華連邦を代表する天子として、そして日本の友として、合衆国日本を承認します!」

 途端に轟音のような拍手が鳴り響いた。その場にいた人々は総立ちになり歓声を上げる。

 しかし大歓声の中でも声を上げず口を噤んだままの者も見受けられた。天子のすぐ後ろ、雛壇の上で一塊となって色味の無い顔に女性らしい柔らかい曲線を混じらせている。宦官だろう。

 ゼロは深く頭を下げて天子と握手を交わした。

「ゼロ、これからも中華連邦となかよくしてくださいね」

「勿論です天子様」

 仮面の下でルルーシュは天子の背後に立つ大宦官たちに眼を細めた。

 揃って忌々し気にゼロを見ている。オデュッセウスと天子との婚約が合衆国日本の騒動で立ち消えになったことを根に持っていることがありありと目に取れた。

 しかし問題ない。小さくほくそ笑む。天子の護衛として傍に立つ黎星刻に向けてゼロは手を差し出した。

「黎武官、貴君にも礼を言いたい。貴君の働きが無ければこの日は訪れなかっただろう」

「私は何もしていない。全ては黒の騎士団の成果によるものだ」

 星刻は優れた細面に硬質な笑みを浮かべてゼロの手を握った。

 

 星刻が天子とゼロの橋渡しを行ったのは確かだ。

 その引き換えとしてゼロには大宦官の処分に協力してもらった。収賄、脅迫、殺人等々捜せば幾らでも犯罪の証拠がある。ゼロの名の下で中華連邦全域に彼らの罪を白日の下に晒し、そのまま表舞台から失墜させた。

 後ろ暗い取引をわざわざ口に出すことは無い。黎星刻は黙って天子の背後に立つ宦官共を睨みつけた。

 このまま大人しく退職するなら結構。しかししぶとくも権力にしがみつくというなら―――

 星刻はゼロを見やった。

「これからもよろしく頼む。ゼロ」

「勿論だ黎武官」

 

 

 

 

 式典の後にはパーティーがあるものと決まっている。

 開きたいとか開きたくないとかいう問題ではなく、開かなくてはならないのだ。それを金と時間の無駄と感じる者もいるだろう。それも事実の一端だろうとルルーシュは思う。

 だが大体において権力者ばかりを集めたパーティーというのは祝賀会というより薄暗い親睦会としての意味合いが強い。無駄に金と手間と時間をかける華やかなパーティーは後ろ暗さを覆い隠すために必要なものであった。

 

 ゼロの恰好をしたルルーシュはひっきりなしに話しかけてくる要人と内容があるような無いような会話を続けていた。相手にしてみればゼロと話すという事実のみでそれなりに箔がつくとでも思っているのか、隙あらば声をかけてくる。

 とはいえほとんどの人間がゼロの喋る事に相槌を打つばかりであり会話が楽しくもなんともない。ゼロの機嫌を損ねないように最大限の注意を払っているのだろうが、首振り人形のようにかくかくと縦にばかり動かすのもいかがなものなのだろうか。こちらの言っていることを理解しているのかすら怪しい。

 

 幾つかの資金援助を得る算段を付けた後にそろそろ一息つこうとルルーシュは壁際に逃げ込んだ。

 なにしろ肩に銃撃を受けて輸血されてからまだ1か月だ。痛みは鎮痛剤で抑えているものの体力はまだ回復しきっていない。ふらふらとした足取りを見られないよう照明が当たらない隅へと移る。護衛役のカレンもゼロと共に壁際へと移った。

「大丈夫ですか?」

「なんとかな。全く、仮面のせいで水も飲めないのが不便だ」

「改造しましょうよ。口のところが開く感じに、こう、ぱかっと」

「格好悪いにも程があるだろう」

「脱水になるよりましでしょう。濡れタオルでも持ってきましょうか」

「いや、いい。近いうちに抜けるさ。そろそろ鎮痛剤が飲みたいからな」

 痛みを逃すように息を吐きながら会場に目を向けると、藤堂は流石に慣れた様子で参加者達と当たり障りのない会話を広げていた。千葉も藤堂の近くで直立不動のまま藤堂に向けられる質問に返したり、話の邪魔にならない程度に補足したりと機敏に動いている。日本軍でもこういったパーティーはあったのだろう。

 それに比べると南は神楽耶と天子をちらちらと見ながら頬を染めて会場の隅から動こうとしない。ディートハルトも同様に会場の隅に陣取っていたが、こちらはカメラのアングルのためだろう。

 扇は華やかなパーティーに踏み込む度胸が無いのかきょろきょろと周囲を見ながら舐めるようにワインを口にしている。

 田舎者といった風情を全身から発している扇に、カレンはあんな垢ぬけない人でもちゃっかり彼女がいるのかと内心で零しながら唇を尖らせた。

「そういえばゼロ、扇さんに彼女ができたらしいですよ」

「ほう」

「最近毎日お弁当持ってきてるんです。どんな人なのか全然教えてくれなくて」

「そうか。あの男と付き合う……」

 じ、と17歳の乙女2人は所在なさげに左右に視線を走らせ続けている扇を見つめた。

 着慣れていないスーツの下で体をもじもじと捩らせながらも壁に貼り付けられているかのようにその場から動こうとしない。顔の造りは悪くは無いが凡庸であり、良く言えば内面を表すようにおっとりとしている。悪く言えば愚鈍そうで締まりがない。

 2人はほぼ同時に評価を下した。

「無いな」

「無いわね」

 女性特有の冷徹な評価が小さく呟かれた。

「一体どんな女なんだか。扇は優しいといえば聞こえはいいだろうがその実はただの優柔不断だろう。周囲の空気にも流されやすいし、浮気の可能性も割と高いと見た」

「いえ、でも色々ほら、こう、一緒にいて気が休まるとか……ありませんか?こう、守ってあげたくなる的な」

「俺はあいつと仕事をしていると気が疲れる。仕事が出来ないわけではないんだがどうにも察しが悪い。そこが可愛いと思うかどうかは個人の好みだろうが……お前は扇を守ってやりたくなるような可愛げのある男だと思っているのか?」

「………黙秘権を主張します」

 扇との長年の付き合いの義理のためにカレンは目を逸らした。

 

 目を逸らした先には和服で身を包んだ黒髪の少女がちょこんと佇んでいた。少女は陶器製の日本人形のような優雅な有様を全身で体現している。シミ一つ無い綺麗な肌に華美な和服は少女の身分の高さを殊更に強調していた。

 日本を代表して式典にやってきた皇神楽耶だ。幼いながらもキョウト六家の一角として黒の騎士団に長年援助をしてきた彼女はゼロを慕ってやまないようだった。

 勿論その慕い具合のほとんどは打算なのだろうが、ここまでぐいぐいと妻になりたいと言っている姿はいっそ潔い。

 一方的に迫られる方はたまったものではないだろうが。

 

 ルルーシュは神楽耶を視界に認めてうやうやしく頭を下げた。黒の騎士団はキョウト六家が創設している中央政府の下部組織として組み込まれている。黒の騎士団の総帥たるゼロは中央政府創設メンバーである神楽耶より立場は下にあった。

「ゼロ様!こんなところにおられたのですね。探してしまいました」

「申し訳ございません神楽耶様。本来であれば私がお会いしに行くところを」

「いいのです、ゼロ様と話したい人はそれこそ山のようにいるでしょう。こうしてご休憩なさっているところをお邪魔するなど失礼かと思ったのですが、少しだけお話でもと思いまして」

 神楽耶は子供らしい爛漫な笑みを浮かべてずずいとゼロに近寄った。

 カレンはゼロの背後に立ち、可愛らしい神楽耶に押し負けそうなゼロに小さく笑みを浮かべた。

 ナナリーに限らず自分より幼い少女にルルーシュは弱い。守らなくてはならない対象と無意識の内に認定しているのかもしれない。

「先ほどの式典とっても素敵でしたわ。こんな式典に連れて来て下さったこと感謝に堪えません」

「神楽耶様は日本の代表として来られたのです。むしろ私の方が神楽耶様に連れて来て頂いたようなものですよ」

「何を言うのです。日本を誰がブリタニアから取り戻したのかなど自明の理。そう、」

 神楽耶は大きな碧の瞳を輝かせてゼロに大きく微笑んだ。

「私の未来の夫、ゼロ様が日本を取り戻して下さったのです!」

 深々とルルーシュは溜息を吐いた。

 

 神楽耶の立場からすればゼロを夫としたい思惑があるのは理解できる。日本を取り戻した英雄ゼロを皇の夫とすればキョウト六家の立場はより強固なものになるだろう。何よりゼロをキョウト六家に縛り付けることで今後のブリタニアへの牽制にもなる。

 確かにゼロにも神楽耶と結婚することで正体不明のテロリストという印象を払拭し、正当な日本の軍事力という肩書を得られるというメリットはあった。

 だがあまりに無理があり過ぎる。まず初夜を迎えるところからして問題しかない。仮面の中身と下着の中身で二重の問題がある。

「以前から申し上げておりますが私は神楽耶様と釣り合うような男ではありません。私は所詮は只の仮面の男に過ぎず、仮面の男として為すべき事を為すだけの者です」

「何を仰います。あなた様は日本の、いえ世界の英雄ではありませんか。未だにテロリストとあなた様を非難する声もありましょうが日本の姫たる私が妻となれば小煩い連中など捻り潰してご覧に入れましょう。釣り合いが取れないなどとんでもございません!」

「申し出はありがたく存じます。しかし私は妻を持つ気は無いのです。私のような仮面を被った無頼漢の妻になる女性が哀れでならない。何しろ結婚しようとも私はこの仮面を脱ぐ気はございませんから」

 仮面を指先で弾くように叩くと神楽耶は幼子のように頬を膨らませた。

「私は仮面など気にしませんわ。たとえ私がゼロ様のお顔を知ることができなくとも、それで夫婦になれないわけではないでしょう」

「私が気にするのですよ。それに仮面越しにしか妻の顔を見ることができないというのも聊か寂しいのです」

「もう。そんなことを言って」

 頬を膨らませたまま神楽耶はゼロの腕に抱き着いた。ゼロは神楽耶のするが儘にさせておいた。

 ナナリーと同じくらいの年頃の少女だと思うとつい甘くなる。神楽耶のちゃっかりとした性格も、年齢からみれば明晰な思考も嫌いでないことがその甘さに拍車をかけた。

 そのまま壁にもたれかかっているとスザクがぴょこんと神楽耶の背中から顔をだした。同じような色をした二対の翠玉が照明を反射してぴかぴかと光っている。

「神楽耶、何してるの?」

 神楽耶が見上げると懐かしくも忌まわしい従兄の顔が近くにあり大きく舌打ちした。

「気軽に話しかけないで下さいませんか?私を誰だとお思いですこと?」

「悪戯好きなわがまま姫」

「張っ倒しますわよ」

 スザクを憮然とした表情で見上げる神楽耶にゼロは苦笑を禁じ得なかった。

 

 こうして顔を並べるとスザクと神楽耶の間には色濃い血縁があることを誰でも察せられるだろう。翠色の瞳だけでなく童顔で優し気な顔の造りや、気品のある凛とした目元など共通点がそこかしこに見られる。

 しかし性格は全く似なかったらしい。ヒロイックなゼロの活躍を高く評価した神楽耶と犠牲者を重視してゼロを非難したスザクは性格の面では真逆に位置する。そして容姿が似通っているか否かよりも性格が合うか合わないかの方が個人間の関係において大きな意味を持つことは明らかだった。

 

「この私の前によくものこのこと顔を出せたものですわね枢木スザク。どの面下げて来たものやら。その顔の皮を剥いで厚さを測ってやりたくなりますわ」

「君に会いに来た訳じゃないよ。ゼロに会いに来たんだ」

「……あらそうなのですか」

「神楽耶様」

 ゼロがそう呼びかけると神楽耶は心底気に食わないといった表情で鼻を鳴らした。

 神楽耶は聡明だ。この場に自分が邪魔であることを察したのだろう。ただ自分がゼロと会話する権利をよりにもよってスザクに譲らなければならないことが気に食わないようだった。

「分かっておりますわ。殿方同士のお話合いに交じるほど無粋ではありません。私は天子様のところへ行ってまいりますね」

「はい。後ほどまた」

「私のことはお気になさらず。妻たるもの、弁えております故」

 神楽耶はにっこりとゼロに微笑みかけながらスザクを鼻で笑うという高度な技術を見せた後、天子の所へと向かった。

 

 凛とした後姿を見送りながらルルーシュはスザクとカレンにのみ聞こえるよう声を潜める。

「また随分と嫌われたな」

「当然よね。従兄がブリタニアの騎士になっただなんてキョウト六家としては立場が悪いにも程があるでしょ」

「いや神楽耶は昔っから僕にあんな感じだよ……木に登ってるところに石が入った水風船をばんばん投げてきたりハチの巣をつついてけしかけてきたり、そりゃあもう散々な目に遭わされてきたから」

 苦笑するスザクはしかしすぐに顔を引き締めた。

 騎士然とした表情に、この男が誰の護衛としてやってきたのかを思い出しルルーシュは既に気分を落ち込ませた。あの男が関わってくると碌なことが無い。

「ゼロ、シュナイゼル殿下より伝言を承ってまいりました」

「そうか。何だ」

「はい。是非二人で話したいことがあると」

「却下」

「却下ね。うっさんくさ過ぎる」

 無下に断ったゼロとカレンに、だよね、とスザクは溜息を吐いた。

「そりゃあそうだろうけどさ。報告しに行く僕の身にもなってよ」

「知るか。どうして俺がシュナイゼルと話し合いなどしなければならないんだ。あの男のことだ、話し合いなどすればこちらが不利になるに決まっている。話し合う暇があれば殺したいぐらいだ」

「せめて降伏勧告ぐらいはしませんか?」

「時と場合と相手による。より正確に言うと、シュナイゼル以外の人類に限る」

「ル、じゃないゼロって本当にシュナイゼル殿下のことが嫌いなんだね……」

「嫌いな訳ではない」

 ぷいとゼロは顔を背けた。

「あいつの掌で踊る気はさらさら無いというだけだ。シュナイゼルは会話一つで相手を操る能力がある。お前も身に覚え位あるだろう?」

「……うん。しかしゼロ、シュナイゼル殿下にこれも伝えろって言われたんだけど」

 スザクは言い難そうに言い淀みゼロのマスクに口を寄せて囁いた。隣にいたカレンも耳を寄せる。

「シュナイゼル殿下、ルルーシュとナナリーが生きていることを知っていて、アッシュフォード学園にいるっていうことも知ってるって」

 ルルーシュは一瞬絶句した後に大きく舌打ちし、黙って首を振った。

 一連のゼロの動作を見てスザクは罪悪感に押しつぶされそうな体をなんとか揮い立たせた。

 もともとルルーシュとナナリーの居場所を知られたのは自分のせいだ。だからこんな状況になってしまったのは、自分のせいだ。

 ルルーシュが平静に戻るまでそう時間はかからなかった。

「――――そうか」

「うん」

「そしてそれをお前が今俺に言うということは、つまり」

「……シュナイゼル殿下が、もしゼロが来てくれなそうだったらルルーシュとナナリーが生きていることを知っていると言えって。そうすれば絶対に来ざるを得ないからって」

「ちっ、分かった」

 つまりもう知られているということだろう。

 ルルーシュとナナリーがアッシュフォード学園に保護されているということだけでなく、ルルーシュがゼロであるということも、だ。

 

 どこから漏れたのかは分からない。いや、あの兄ならば状況から推測しているのみである可能性もある。

 シュナイゼルがこれまで無敗のままブリタニアの宰相として采配を振るっていられるのはその天才的な閃きと理路整然とした思考回路による。

 突然エリア11に現れた正体不明のゼロ。絶対に外そうとしない仮面。スザクを殺す機会は幾度もあったというのに、殺さなかったという事実。繋げればルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの姿が見えてきてもおかしくはない。

 自分だけでなくナナリーの安全さえ関与しているとなるとルルーシュは既にシュナイゼルの掌の上に立っているようなものだった。 

 たとえ日本が合衆国日本となったと言っても、否、合衆国日本として独立したからこそナナリーが皇族であると発覚すれば日本人から激しい憎悪の対象になるだろう。合衆国日本に残ったブリタニア人と日本人の諍いで何人もの怪我人が出ている。それがただのブリタニア人どころか皇族となれば、良くてブリタニアに引き渡されることとなるか、最悪の場合では。

 想像だけで吐きそうになる。絶望で死にそうだ。

 

「……ゼロ」

「分かった。分かったよ」

 ゼロは顔をもたげ、唇を噛みしめるスザクの肩を叩いた。

「行ってやろう。シュナイゼルのところへ」

 

 

 

■  ■  ■

 

 

 

 シュナイゼルは朱禁城の一室を間借りしていた。

 恐らくは来客用の賓室だろう。清朝時代の白磁器が飾られ、壁には優美な山水画が掛かっていた。部屋は赤く装飾が施された柱に支えられて紫檀製の家具が並べられている。丸い窓からは遠くに御花園が眺められた。ただでさえ広い部屋に調度品というエッセンスが加わり300年前の中国の黄金時代を再現しているような壮大さであった。

 ここまでの部屋はいくら朱禁城が広大であるとはいえそう多くは無いだろう。中華連邦と親しい国の外交官ではなくシュナイゼルがこの部屋を使っている事実が現在のブリタニアの膨大な国力と、疲弊した中華連邦の差を嘲笑うように象徴していた。

 

 シュナイゼルは絨毯の上に厚い座布団を敷いてその上に座っている。背後には秘書官である女性と見紛う美貌の持ち主、カノン・マルディーニを立たせていた。

 金髪碧眼の典型的なブリタニア人らしい外見だというのに中華の雰囲気の只中にあってもあまり違和感がないのはシュナイゼルの容姿が人種を越えて優れているためだった。最後に会ったのはもう6年も前だが、元々彫刻のようだった端麗な容姿には以前には無い凄みが加わっている。

 丁寧なノックの後部屋に入ってきたゼロへシュナイゼルは壮麗な笑みを浮かべた。

「やあルルーシュ。ちょうど紅茶が入ったんだ。ミルクはいるかい?」

「………結構」

 開幕から飛ばしてくれる。ゼロは自身の名を呼ばれても眉一つ動かさずシュナイゼルの下へと近づく。

 相も変わらず相手を自分のペースに引っ張り込むのが腹立たしいほどに巧みな男だ。

 

 にこやかな笑みを浮かべるシュナイゼルを一瞥し、ゼロの衣装を身に纏ったルルーシュは机越しにシュナイゼルの対面へと座った。机には紅茶が2つ並んでいた。

 護衛役のカレンはゼロの背後に立ち、一応はシュナイゼルの護衛であるスザクはシュナイゼルの背後に立った。

 しかし護衛とは思えないほどにシュナイゼルを見るスザクの目は冷徹極まりない。つい数か月前までシュナイゼルを皇帝にすると口にしていた男がする表情ではない。

 

 ある意味でスザクは戦闘能力よりもこの性格の方が恐ろしいとルルーシュは一人背筋を寒くした。スザクは裏切られた、もしくは裏切られたと思ってからその人を見限るまでが恐ろしく早い。

 

「それにしても久しぶりだねルルーシュ。最後に会ってからもう6年前かな?」

「そうだな。相も変わらず元気そうで羨ましい限りだ」

「おや、認めるんだね」

 シュナイゼルは意外そうに眉を持ち上げた。

「何を?」

「ゼロであるということをだよ」

「ああ」

 

 監視カメラや盗聴器の類が無いことは端末に仕込んだドルイドシステムで既に調べてある。無論、特派でドルイドシステムによっても発見困難な監視カメラを作成した可能性は否定できない。

 だがそれだけでは脅迫の材料とするには一歩足りないことをルルーシュは理解していた。会話の内容を暴露されようとも一言シュナイゼルを騙すための狂言だったと言えば済む話だ。シュナイゼルという強大な敵を騙すために一芝居うつことは別段おかしなことではない。

 それにルルーシュ=ゼロという事実はブリタニアにとっても都合が良いとは言い難い。

 ゼロが皇族だという情報が流布されれば、ならばゼロがブリタニア皇帝になればすべてが丸く収まるのではないかという発想をどれだけの人間が抱くだろうか。ルルーシュでさえそれは予想できないがナンバーズと、相次ぐ戦争に倦み始めているブリタニア人がそう願う可能性は決して低くは無い。

 そうなれば黒の騎士団はエリアのみならずブリタニア内にも多くの味方を得ることになる。

 いずれにせよシュナイゼル相手にここで誤魔化す意味は無い。時間と労力の浪費であるとルルーシュは判断した。

 ルルーシュは仮面の下でうっそりと嗤った。

「貴様に今更誤魔化そうとも意味はないだろう。しかし双方にとり不都合な事実なのではないか?」

「全くだよ。ああ、中国茶は紅茶とまた違う風味があるね」

 シュナイゼルは優雅に紅茶を口に含みもう一方のカップをルルーシュに勧めたが一瞥を向けるに留めた。気にする様子をおくびにも見せずシュナイゼルは微笑む。

「私と話があるとのことだったが」

「そうだよ。忙しい中呼び出してしまってすまない」

「しかし兄上、まずは私の話を聞いて貰おうか」

「ギアス教団についてかな?私もそのことでルルーシュと話したかったんだよ」

 会話の主導権が取れないことに苛々しながらルルーシュはそれでもギアス教団という単語に押し黙るを得ない。

 もともとクロヴィスにギアスとコードについて話したのはシュナイゼルだ。コードについてシュナイゼルにある程度の知識があってもおかしくはない。

 人形のように笑みを浮かべたままシュナイゼルはカノンから厚い書類の束を受け取りゼロへと差し出した。

「さて、君はギアス教団について何を知っているのかな?」

「ブリタニア皇族と関わりのある集団、宗教団体というより研究団体、コードとギアスについて研究している一派。その程度だ」

「フム、では君も私もギアス教団の実験で生まれたことは知らないわけだね」

 は、とカレンとスザクは顔を上げた。

「え?」

「ど、どういうことですか?」

「文字通りだよ」

 何の反応も返さないルルーシュと違い明らかに動揺している2人に向けてシュナイゼルは温和な口調で諭すように教えた。

「ブリタニア皇族。その実はギアス教団の実験体でしかない。よりギアスの適正が高い人間を作成するために私たちは遺伝子操作が加えられ、生まれた後はギアス適正を人工的に上昇させるために手術が施行された」

「さっきから、その、ギアスって何なんですか?話が、」

「それはルルーシュが教えてくれるんじゃないかなぁ」

 3人からの視線が集中しルルーシュは黙って首を振った。

 

 ギアスという超常の能力を暴露するにはあまりにリスクが伴う。超常過ぎる能力は使わずとも人を疑心暗鬼にさせる力があることをルルーシュは知っていた。少なくともカレンはルルーシュへ恐怖を抱きゼロへの忠誠心を損なうことだろう。

 だがルルーシュにとってはスザクの方が問題だった。

 スザクにはユーフェミアが自分を撃ったのは後遺症の無い薬剤を使ったためだと説明してある。

 そんなルルーシュをスザクは許したが、ギアスを使った事実を告げて尚スザクは自分を許してくれるだろうか。

 ブリタニアと黒の騎士団という立場に分かれ、それでもまだスザクが自分の友達だと断言できる現状がどれだけ奇跡的なのか理解していない訳ではない。ルルーシュはまた友達を失うような危険は冒したくなかった。

 子供の駄々のような我儘だと理解しているがルルーシュはスザクとの現在の安定した関係を打ち壊す勇気を持ち得ていなかった。体制の打破に関しては全く躊躇の無いルルーシュだが、懐に入れられる人間が極端に少ないために人間関係という点において彼女はいっそ臆病でさえあった。

 後にルルーシュはこの選択を酷く後悔することになるが、今は知る由もない。

 

 スザクとカレンは何も喋ろうとしないルルーシュに詰問することはしなかった。立場は違えど2人ともルルーシュへ強い信頼があった。その信頼はあからさまにルルーシュへと話を逃がしたシュナイゼルへの信頼より深く、厚かった。2人は喋れない理由があるのだと信じることに決めた。

 

 再びシュナイゼルに視線が集まり、シュナイゼルは軽く肩を竦めた。

「まあいいか。とりあえずギアスはブリタニアが研究している超能力のようなものだと認識して欲しい。ギアスはコードという能力を所有している人物が与えることができる。しかしコード所有者にギアスを渡されたとしても、ある程度の適正が無いとギアス能力は発現しないのだよ。そして適正値は生まれ持ったものであり後天的な努力により向上するようなものではない。

 なんとかして適正値を上げるためにブリタニアは何代にもわたって人間の交配を続け、ギアスの適正が高い配合を見つけようと研究していた。その研究結果がギアスに適正した一族、ブリタニア皇族だ」

 シュナイゼルは楽しそうに笑った。自身の境遇に堪えかねてという笑いではなかった。愚かな先達を空の上から見下ろしているような、非人間的な、しかし幼児性を含有する微笑だった。

「皇族という煌びやかな名称によってその実態を覆い隠してはいたが、実際のところ我々はただのモルモットだったというわけだよ」

「っ、皇族は遺伝研究の実験結果ということなのですか?じゃあ、まさか、ユフィを攫ったのは」

 その可能性に思い至りスザクは体を打ち震わせてシュナイゼルを見やった。

 スザクはシュナイゼルが首を横に振るよう願ったが、しかしシュナイゼルはただ静かにスザクを見返すだけだった。

「確かな証拠が無い以上私には何も言えない。しかしギアス教団が実験の被検体を探していた可能性は否定できない」

「…………手術というのは何ですか?」

「長年にわたる交配研究に焦れたのだろうね。人工的に、手っ取り早く適正値を上げようと脳を弄ることにしたのさ。そして私は手術を施されたが大してギアス適性値は上がらず、手術の副作用のみが発現した。術後に他者への共感能力や感情が欠如してしまったらしい。失敗作さ。彼らに言わせれば。そしてルルーシュ、君も」

 シュナイゼルは自身の頭蓋を指さした。

「手術が施行されている」

「つまり、」

 ルルーシュは笑い出したくなった。

 

 副作用で共感性や感情が消失するなんてあまりに非現実的だ。だがそれを言うのであればコードやギアスという存在はそれ以上に非現実的であり、ルルーシュはそういった現代科学の領域から遙かに外れた存在があることを既に知っていた。

 そして手術の副作用として自分の身に起こった非現実的な症状はと考えると、1つしか思い当たらなかった。

 長年の疑問の答えを得て、しかしルルーシュに爽快感は全くなかった。

 

「手術の副作用で、私は女になったと」

「私が調べた情報ではそうだった。手術後より10年をかけて徐々に女体化したのだそうだ。ちなみに君は手術に成功している。ギアス適性値は非常に高い」

 淡々とした説明を鼻で笑う。

「なるほど。あまり嬉しくもない結果だがな」

「世の中には良い能力と悪い能力がある。良い能力は自身を助け、悪い能力は慢心を生む。君はこれを前者と考えるべきではないかな?」

「助言は結構。持ち得ていない能力について軽々に語るべきではない」

「承知したよ」

 表情も変えず紅茶を口に含むシュナイゼルを前にルルーシュは自身の性別について瞬間思い悩んだ。

 

 ギアスを手に入れるための代償が女であるということならば、ギアスによって死を免れた自分は甘んじて女としての人生を生きなければならないのだろうか。

 男であった方が自分の人生は生き易かっただろうとは思う。力はもっとあっただろうし、体力もあったに違いない。自分が男のまま育っていればきっとスザクに負けず劣らずの頑強な人間になっていたことだろう。ゲンブにあんな屈辱的な目に遭わされることも無かった。藤堂を始めとする古臭い頭を持つ連中に女と侮られることも無かった。

 しかし一方で、だが女という側面が自分にあったことが人生においてマイナスばかりだとは言い切れないようにも思った。

 カレンの自分に対する対応はもっと頑なであったかもしれないし、スザクはもっと容赦が無かっただろう。

 そこまで考えてルルーシュは首を振った。

 今更考えてもしょうがないことだ。何をどうしたって、もう自分の体は女でしかない。

 もし自分が男だったらという可能性についていつまでも思いを馳せる余裕がある筈などない。前を見据えなければならないのだから。

 ルルーシュには今自身の性別などより優先すべき事項があった。ジェレミアについてだ。

 

「ではシュナイゼル。そこまで知っているということはジェレミアのことも当然知っているのだろうな」

 そうルルーシュが口にするとシュナイゼルは肩を竦めた。

「生憎と最近は情報封鎖が激しくてね。ギアス教団に連れ去られたこと程度は知っているが現在どんな状況にあるのかは分からない。しかし凡その場所の見当はつく」

 シュナイゼルは一枚の折りたたんだ紙を取り出してルルーシュの前に出した。

 ルルーシュは指先で差し出された紙を広げてその中身を読み、即座に握りしめた。掌中で紙は虫が潰死するような音を立てた。

 内容が不快だった訳ではない。ただ自分の背後に立つカレンに紙に書かれた内容を読まれることを避けるためであった。

「その条件を飲んでくれればジェレミア卿の居場所を教えてあげよう」

「………正気か貴様」

「まさか。正気であればこんなことは頼まないだろう」

 シュナイゼルはうっそりと笑った。

 

 その感情を伴わない美しい笑みを目の当たりにしてルルーシュは生まれて初めてシュナイゼルを哀れに思った。

 父親に捨てられて悲しいと思うこと、凌辱されて怒りを抱くこと、信頼する部下が助けに来てくれて嬉しいと思うこと。そういった感情が血肉となり今のルルーシュを形成している。そういった感情が無い人間は空っぽの人形だ。

 シュナイゼルは中身を求める空洞の人形でしかなく、そうなることを強いられていた。

 

「君にとっては簡単なことの筈だ」

「……しかし大きな手札を1つ失うことになる」

「君は私に大きな借りが3つある」

 シュナイゼルは指を3つ立てた。

「1つめは、6年前にジェレミア・ゴットバルトをブリタニアから日本に向かわせてあげたこと。2つめは、6年前に日本への進軍を早めたことで君とナナリー、そしてジェレミア卿の3人が戦火に紛れて枢木家を脱出できる可能性を高めたこと。そして3つめは」

 シュナイゼルは先に折りたたんだ2本の指の隣に、3本目の指を押し込んだ。

「現在ジェレミア卿が中国のタクラマカン砂漠にあるだろうギアス教団内部にいることを、今、私が君に教えたことだ」

 ルルーシュは弾かれたように立ち上がった。

「スザク、そこをどいて俺の後ろに下がれ」

「え?で、でも」

「枢木卿、構わない」

 シュナイゼルに言われてスザクはルルーシュの後ろに回りカレンの隣に立った。ルルーシュは大股でシュナイゼルに近寄り紫水晶の色をした瞳を睨んだ。

 嫌な色だ。ナナリーやユフィの瞳と色系統としては近しい色だろうに、どうしてこうもこの男の目の色は嫌悪感を沸き立たせるのだろうか。

 結局こうしてシュナイゼルの思い通りになることが悔しくて吐き捨てるように言い放った。

「兄上、私はあなたが嫌いですよ」

「そうか。私は君のことをなんとも思えない。しかしそれも今日までだ。君が私の思う通りの性格をしていれば、」

 シュナイゼルが言い終わる前にルルーシュは仮面の目の部分をスライドさせた。真っ赤に光る瞳でシュナイゼルの瞳を射抜く。

 

 このまま一言奴隷になれと言えばそれで多くの面倒事が済むだろう。その誘惑はルルーシュの頭の中へ甘く囁いた。

 しかし差し出されたキングを受け取ることができる程にルルーシュは大人ではなかった。子供らしく高いプライドは勝利より自身の納得を優先させてしまった。

 何より、たとえ頼んでいなくとも自身とナナリーの命を救われたという過去があること、そしてジェレミア救出の糸口を差し出されたという事実は無視するにはあまりに巨大に過ぎた。

 握りつぶした紙に書かれていた文言をそのままにルルーシュは口を開いた。

 

「感情を取り戻せ、シュナイゼル―――――君は自由だ」

 

 その瞬間はまさしく劇的だった。

 時間にすれば数秒だっただろう。その短い時間で永久凍土のような瞳は沸騰するような熱を持ち、柔らかく笑みを浮かべていた顔は逆に冷たく強張った。素直に驚きを表情に出して目を見開く表情はこれまで見たことのない幼気と表現すべき顔をしていた。姿形は全く変わらないというのに表情や雰囲気のみでシュナイゼルの印象は非人間的なものから大きく変わった。そこに座っているのは冷たい空洞の人形ではなく一人の美しい人間であった。

「ああ………」 

 シュナイゼルは首を振り口惜し気に唇を噛んだ。

「そうか。これが、私は――――私はこういう人間だったのか。知らなかった……」

「もういいだろうか」

 ルルーシュは立ち上がった。話すべきことは既に終わっているように思えた。

 そのままこの場から立ち去りそうなルルーシュへシュナイゼルは口をへにゃりと曲げて情けなさそうに眉を下げて微笑んだ。

「うん。ありがとうルルーシュ―――機会があればまた話そう」

「もうこんな機会は二度と無い。無論あなたが此度のようにゼロが私であることを脅迫材料とするならば、」

「いや、ええと。そうじゃなくて」

 頬を掻いてシュナイゼルは言葉を濁した。

 

 これまで見たことのない、戸惑っていることを示すような所作にルルーシュは眉根を顰めた。まるで長年留学していた妹にどう接すればいいのか分からない兄のようではないか。これでは。

 そんな人間らしい思考がこんな血管まで凍り付いた人非人にあるものか、と思いつつも、しかし自身が先ほどかけたギアスに思い至ってルルーシュはひくりと口角を震わせた。

 まさか自分のせいか、これは。

 いや、まさかでなく自分のせいだろう。

 もしかすると自分はとんでもない失敗をしてしまったのかとルルーシュはこれまでの人生で初めて自身の行動を酷く後悔した。

 

「―――なんでしょう」

「私は……多分、君に興味がある。君の聡明さと思考回路をより理解したいと思う。それは私の利益になるだろう、いや、違うな。そういった打算的な理由だけではなくて……まだよく自分の感情が理解できないな。ともかく私には君という人間をより理解したいという欲があるんだ……ダメだろうか」

「ダメだ。立場を考えろ」

 この顔で何を言うんだこの男は。

 人間らしく自身の提案が否定されることに怯えて人間らしく戸惑っているシュナイゼルなど、シュナイゼルじゃない。いや感情を取り戻せとギアスをかけたのは自分だが。

 

 確かにシュナイゼルの覇気はそのままだった。戸惑うように首を傾げる仕草は優雅でありながら演技のようにきまっている。

 しかしルルーシュの言葉一つで傷ついたように目をしょんぼりと俯かせて、しかし黙り込んでしまったルルーシュの顔を気遣うように眺めたりする仕草は健気であり無垢な印象さえ持たせた。これがシュナイゼルの本当の性格なのだろうか。

 もし最初からシュナイゼルがこんな性格であったのならば何も問題は無かっただろう。だがこれまでのシュナイゼルを知っていると気色悪いの一言に尽きる。

 ニシキヘビが人懐っこくすり寄ってきたような感触がルルーシュの背筋を這い上り、思わず大きく体を震わせた。スザクとカノンは買ったばかりのシャツにシミを見つけたような顔をしていた。

 

 感情を取り戻したシュナイゼルへの好奇心より生理的な嫌悪感が勝った。

 ルルーシュは別れの言葉も口にせずマントを翻して大股で部屋を出て行った。その背中にスザクもついていく。カレンも逃げ出すように大股で歩き急いでルルーシュの後を追った。

 背後で扉が閉まる音が聞こえるが否や携帯端末から情報を集め、同時並行でカレンに矢継ぎ早に指示を出す。

「カレン、これから騎士団を動員して中国のタクラマカン砂漠地方の捜索を行う」

「建前は?」

「ブリタニアの基地があるとの情報が入った。人体実験を含める科学研究を行っている施設の可能性が高い。黒の騎士団は人道的観点から組織の殲滅及び被害者救出を目的として行動を開始する。捜索の決行は明日だ。俺はそれまでに具体的な捜索ルートと捜索班を作る。親衛隊及び第1から第8中隊までを動かす。詳細は追って指示するからそれまでにKMFを動かせるように準備をさせておけ」

「はい、ゼロ!」

「中華連邦にも協力をお願いする。黎星刻武官へ会いに行くぞ。スザク、お前も来るのか」

「ユーフェミア様がギアス教団とやらに捕まえられているならこの作戦中に限って僕もゼロの指揮下に入る。コーネリア皇女殿下からユーフェミア様捜索のために必要だと思われた行動は全て許可するという認可状を頂いているから問題は無い」

「シュナイゼルの許可は」

「後で貰う。それより今は一刻でも早くユフィを助けに行かないと」

「すぐにランスロットを起動させられるよう準備をしてこい。エナジーフィラーも充填しておけ」

「了解した、ゼロ」

 3人は足並みを揃え、ただ前に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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