ニュースでは黒の騎士団についての報道が連日続いている。
何しろ2、3日置きに新しい事件を起こすものだから話題に事欠かない。テレビ、ラジオ、ネット、あらゆるメディアに現れる黒の騎士団の存在は世界中に知れ渡っていた。
ここまで短期間で黒の騎士団の名前が広がったのは、ナンバーズのみならず、ブリタニア人にも黒の騎士団の活動を擁護する者が数多く現れたからだろう。
ブリタニア人にも被害の多かったリフレインの摘発、それに一般人を多数殺傷していた他のテロリスト集団の壊滅と、黒の騎士団の義賊的な一面はネットで広く知られている。
弱者が強者を打倒する物語は誰にとっても爽快なものだ。どの国にでもある英雄譚でも、弱者の立ち位置にある正義の味方が強者を打倒して世界は平和になり、大団円を迎える。
黒の騎士団はエリア11で、正義の味方という立ち位置を築き始めていた。
陽はとうに落ちていた。時刻は夜中に近い。
黒の騎士団の活動に加えて学生としての生活、それにアッシュフォードKMF開発局の仕事と、ルルーシュは眩暈がするほどに忙しない日々を過ごしていた。
疲れた足を引きずりながらアッシュフォードのクラブハウスへと帰る。
玄関をくぐると明るいリビングの方から子供特有の少し高い声がして、思わず頬が緩んだ。
「ただいま」
「お帰りなさいお兄様」
リビングの扉を開けると、寝間着を着た最愛の妹が、あまり好きではない従兄と並んで折り鶴をしていた。
普段であれば自分が座る椅子に腰かけているロロを見て、まさかドッペルゲンガーかと一瞬ぎょっとする。しかし丁寧に色紙を折る手は男らしく骨張っており胸を撫で下ろした。
テーブルの上にはいくつもの折り鶴が並べられている。1mmの誤差も無く精密に折られている鶴もあれば、柔らかくふんわりとした曲線のある鶴、あちこちがよれて白い裏面が露になっている鶴が所狭しと並んでいる。
ナナリーはおぼつかない手つきで、しかし丁寧に折り鶴を折っていた。その左側に座っているロロはナナリーへにこやかに微笑みかけながら機械的な動作で精緻な鶴を折っている。
そしてナナリーの右隣では長い新緑色の髪をした女が面倒くさそうに色紙を弄っていた。
素早い手つきで神経質なまでにきっちりと紙を折るロロとは対照的に、女は不器用そうな手つきで色紙の端と端を合わせている。
あの女は誰だ。いや、見覚えはある。あるが、一体何故ここに。
ナナリーは顔を綻ばせてルルーシュの足音のする方へと顔を向けた。
「お兄様、お仕事お疲れ様でした」
「お帰り」
「遅かったなルルーシュ。私は待ちくたびれたぞ」
「ただいまナナリー………ロロ、この家に女を連れ込むな」
女の顔は知っているが、一応のつもりで声をかける。
予想していた問いなのかロロは小さく笑い声を立てた。
「何を言うんだ。彼女は君の知り合いだろう?」
「もうお兄様ったら、C.C.さんはお友達なのでしょう?あんまりお待たせしてしまうのは良くないと思います」
「それもこんな美女を待たせるとは、男として情けないとは思わんのか?普通は女が男を待たせるものだ」
ルルーシュは頭を振った。どうしよう。味方がいない。
ただでさえ口で勝てないロロに加えて、女の方も一癖二癖ありそうな口振をしている。
天を仰ぐと空の彼方でジェレミアが「ルルーシュ様!頑張って下さい!」とバナーを振る姿が見えた。
彼が死んだのはたった数週間前だというのに、ルルーシュはジェレミアが死ぬほど恋しかった。ツッコミ役という意味で。
現実と向き直ると、顔だけは非常に優れた2人がナナリーを間に挟んでこちらを見ている。
顔の美しさと性格の美しさは比例しないのだとルルーシュは心底思い知った。
「誰が知り合いだと、」
「たった数週間前だというのにもう忘れたのか?あんなに熱烈な出会いをしたというのに」
「ね、熱烈…?」
「ああそうだとも。今や私とルルーシュは昵懇の間柄と言っても過言では無い。言うなれば、将来を約束した間柄だ」
「将来を約束、というと……まさか、けっこ」
「C.C.、君はルルーシュと話してくると良い」
きょとんとしているナナリーの耳を塞ぎながら、ロロは視線でルルーシュの部屋を差した。
C.C.は鼻を鳴らし、ひらひらと手を振りながらルルーシュの部屋へと向かう。
C.C.がリビングから姿を消して、ようやくロロはナナリーの耳から手を離した。ナナリーはきょとんとした顔のままで、熱烈、と呟いた。そしてルルーシュをじ、と見上げる。
「お兄様、あとでC.C.さんのお話を聞かせてくださいね」
「……勿論だよナナリー」
早く行け、と首を振るロロに目線でナナリーを示す。長い話になりそうだ。
心得たとロロは軽く肩を竦め、ナナリーと一緒に折り紙を再開した。
自室に向かうとC.C.と呼ばれた女がベッドに腰かけていた。
翠色の長い髪がシーツに散らばり、幻想的に美しい。薄暗い廃工場では分からなかったがC.C.は珍しい琥珀色の瞳をしていた。よくもこんなに珍しい色彩の髪と瞳が合わさったものだと感嘆する。
シーツを細い指でなぞりながら、C.C.はルルーシュを見上げた。小さな子供を微笑ましく見ているようで、その実は見下しているような軽い視線だった。
「派手にやっているようじゃないかルルーシュ。それともゼロと呼んだ方がいいのか?」
「何故それを、」
「当然だろう?私はC.C.だ」
何の説明にもなっていない。しかし自信満々な女の言葉には謎の説得力があり、何故か反論する気は湧かなかった。これがいい女ということなのだろうか。ルルーシュは溜息を吐いて椅子に座った。
それぞれの性質は違えど、マリアンヌといいミレイといい、いい女というものは偏に扱いが難しい。
ルルーシュはベッドに腰掛けるC.C.の前に立ち、妖艶な笑みを見下ろした。
「お前がコード保持者……コードRか」
「ほう、よく知っているな」
「クロヴィスの研究結果を見させて貰った。随分と変わった体質をしているらしいな、お前は」
「お前ではない」
C.C.は体を起こして徐に拘束着を脱ぎ始めた。
「C.C.だ。女を“お前”などと呼ぶな。男しての器が知れるぞ」
「ちょっと待て、なんでいきなり服を脱いだ」
「ずっと拘束服だったんだ。別にいいだろう。服をよこせ」
なんだこの自由人は。
拘束服を床に落とし、さらに目の前で躊躇なく下着も脱いで一糸まとわぬ裸体になったC.C.に溜息を吐きながらルルーシュは女物の私服が入った戸棚を開けた。
C.C.と自分では、身長が頭1つ分以上違う。フリーサイズのシャツと、サイズの誤魔化しやすいワイドパンツ、ついでに新品のショーツを引っ張り出して投げ渡した。
C.C.は意外そうな顔で服を受け取り、流行最先端の服一式をしげしげと眺めた。
「女物の服など置いてあったのか」
「悪いか」
「いや、少しは女らしいところもあるのかと感心したのさ」
自分が女だと知っているのかと少し驚くが、表情には出さない。
そもそもギアスという超常の能力を他者に与える能力を持つ女だ。常識外の言動は当然と考えるべきなのかもしれない。
「ミレイ会長……知り合いからの貰い物だ。俺が買ったものでは無い」
「そうか。確かに坊やが着るには大人びているかな」
胸元が開いたオープンショルダーのシャツに、腰の括れを強調するようになパンツは確かに高校生が着るには少々大人びている。
しかしこの服を選んだのはミレイだ。むしろこれでも抑えた方だろう。
長い間着っぱなしだったらしい拘束服は、着心地が良く無かったようだ。C.C.はいそいそと服を着こんだ。
様子を観察するも服に何か仕込む様子は無く、拳銃も持ってはいない。胸元に傷はあるが何か隠し持っている様子は無い。
C.C.はシャツから顔を出し、裸体を眺めているルルーシュににやりと口角を吊り上げた。
「なんだ?じろじろと見て。発情したか?童貞坊やが」
「……まさか。そもそも勃つモノが無い」
「つまりモノがあれば勃ったかもしれないと」
「あれば、な」
C.C.はふふん、と豊かな胸を張った。
確かに結構なサイズだ。ブラジャーが無いと辛いだろう。だが当然、この部屋にはC.C.のサイズに合うブラジャーは無い。
「ブラは無いぞ。文句があるなら買いに行け」
「スポーツブラぐらいあるだろ」
「お前のサイズには合わんな」
「そうか」
まあ無くてもいいかとC.C.はベッドに体を放り投げた。腰の括れと強い曲線を描いて張り出している胸が主張するように上下に揺れる。男なら思わず触りたくなるだろう。C.C.は美女と呼ばれるに相応しい、柔らかく魅力的な肉体をしている。自分と違って。
ルルーシュはベッドに腰掛けてC.C.を眺めた。
色彩は珍しいが、容貌は人間にしか見えない。平均より容姿は美しく、自由奔放な挙動もどこぞの奔放な貴族の令嬢と考えれば違和感も無い。
しかしその実はそもそも人間なのかが怪しい生き物だ。
この女が、コードR。
クロヴィスの研究資料には不老不死と明記してあった。
クロヴィスの残したコードRについての実験資料を端から端まで読みつくしたルルーシュだが、当のコードRを前にしても不老不死という言葉には現実感が湧かない。
しかし微に入り細を穿つ研究資料は、やや神秘主義への偏りがあるものの、疑問の余地さえ挟まない程に理路整然としていた。
部下のバトレーの功績も大きいだろう。しかし研究を主導していたクロヴィスの方向性は徹頭徹尾現実に即した地道なものであり、それが研究結果へ功を奏したことは明白だった。
ルルーシュはクロヴィスのことをロマン主義に傾倒する根っからの芸術家肌だと思っていたが、意外にも研究者としての才能もあったらしい。
もし生まれが皇族などでは無かったら、その多才を遺憾なく発揮して栄達していたかもしれないとさえ思った。政治屋としての側面が強いブリタニア皇族に生まれたのがあの男の運の尽きだった。
「それで、私の変わった体質を知っているお前は、お前の持つ変わった体質をどう思ったのかな?」
ルルーシュの瞳をC.C.は指さした。
口角を歪めてルルーシュは笑みを作った。ギアスを発動させる。
薄暗い部屋にあって、赤く発光する瞳は燃えているように見えた。
「役に立っているさ。ギアス、と言ったな、これは」
「それを使って随分と派手に行動しているようじゃないか、黒の騎士団とやらは。クロヴィスの暗殺から始まり日本各地のブリタニア軍施設を襲撃、KMFを強奪、ブリタニアから輸出されたリフレインの取締りに人身売買の抑制……やっていることはまるで正義の味方だな」
「皆好きだろう?正義の味方は」
鼻で笑う。
正義など言葉でしかない。ルルーシュの目的はナナリーの安全と、そして復讐だ。
目的を達成するためには正義という建前が必要だった。だからルルーシュはゼロを、弱者を救うべく現れた正義の味方というアイコンに作り上げた。ただそれだけでしかなかった。
C.C.はその建前を理解できる程度には賢しいようだった。呆れと感嘆はあれど、非難めいたものはその口調に混じっていない。
「随分と悪い笑顔をするものだ。正義の味方は」
「生憎と今はただのルルーシュだ。それで、お前はなんでここに来た」
「酷い言い草だな。契約の時に言っただろう?力の代わりに、私の望みを叶えてくれると」
「———ああ」
腕を組んで宙を見上げる。
あの、とても現実とは思えない空間の中でルルーシュは幾重にも重なる人間の声と契約を結んだ。
「言ったな。勿論、契約は果たすさ」
そう言った瞬間にC.C.は微かに頬を強張らせ、同時に眉尻を下げた。喜んでいるとも躊躇っているともつかない表情だった。
契約を反故にされるとでも思ったのだろうか。しかしそれもしょうがないかもしれない。
手に入れてようやく分かる。ギアスとはすさまじい力だ。
ギアスの前では意思や信念、場合によっては命より重いものが薄紙のように弾け飛ぶ。たった一人で復讐を成し遂げなければならないルルーシュにとっては天啓のような力だった。
だが、だからと言って単純に喜べる程にルルーシュは能天気ではない。人の道から逸脱した力は同様に強烈な副作用も持っているに違いない。
一度結んだ契約を放棄するような鉄面皮ではないが、今後破棄したくなる気持ちが出てこないと今の段階では断言できなかった。
しかしジェレミアが死に、呆然としたままブリタニア兵に囲まれていたルルーシュが復讐への道を切り開くことができたのはギアスのおかげだ。その事実がある以上、ルルーシュは女を蔑ろにする気は無かった。
「それで、お前の望みとは何だ」
「焦るな坊や。また教えるさ。それより疲れた。私はもう寝る」
C.C.はごろりとベッドに横になった。猫のような仕草は愛らしいかもしれないが、それよりも自分のベッドを占拠された苛立ちが勝った。
「寝るな。まだ聞きたいことはいくらでもある。それに契約というのならば契約内容を明らかにしてから結ぶのが常套だろう」
「ギアスという力が常套だと思っているのかお前は。それは王の力だ。ある程度のリスクは覚悟した上で契約を結んだだろう。まあ、あれだ。この契約にクーリングオフは利かないからな」
「……性質の悪い詐欺に遭った気分だ」
「確かに、違いない」
C.C.は軽快に笑いながらベッドの端によって、空いたスペースをぱんぱんと叩いた。
「さっさと寝るぞ。明日も忙しいんだろう?」
「まさか一緒に寝るつもりか?」
「お前は女だろう。少なくとも体は。何も問題は無い」
「今日話したばかりの他人に貸すベッドは無い」
「酷いじゃないか。それに野宿なんてすれば補導されるかもしれない。そうなったら私は何を喋るか分からんぞ?」
少なくともC.C.にはゼロという自分の姿がバレている。もしかすると皇族であることも知られているかもしれない。
憎々し気な顔を隠しもせずルルーシュは首を振った。
「……シングルベッドだ。無理がある」
「お前が男だったら床に転がしてやるところだがな。体が女であるのならそう無下にすることもできん。まあ私はスリムだからそう無茶でも無い」
「空いてる部屋は他にもある。そこを使え」
ルルーシュの言葉にC.C.は不満げに鼻を鳴らしながらベッドから飛び上がった。
ぺたぺたと扉に向かって歩く。
「全く、こんな美女と同衾する機会など滅多に無いというのに」
「悪いが美女なら間に合っている。他を当たるんだな」
ルルーシュは艶然と微笑んだ。恰好は男子の制服ながら、壮絶な美貌は隠しようも無い。
確かにルルーシュはC.C.も溜息を吐く程の美女だった。
しかし。
「中身は女と言えるのかな?ルルーシュ」
「———そうだな。まあ、半々ぐらいだろう」
自分自身でさえ自分が男なのか女なのかよく分からないルルーシュは、鋭い指摘に笑みを零すしかなかった。
性別というデリケートな話題でありながらあっけらかんと話すC.C.にルルーシュは好感を持った。
どっちつかずな性別を嘲笑うでもなく、禁忌として触れないでもなく、ありのままを口にするC.C.は無遠慮であるが不快では無い。共犯者と認めるのも吝かでは無かった。
「部屋は好きにしろ。今後のことは明日伝える」
「一番広い部屋を貰うからな」
「構わないが、汚すなよ」
ひらひらと手を振りながら、C.C.は軽やかに身を翻して部屋を出て行った。
■ ■ ■
クラブハウスには数部屋の客間があるものの、ルルーシュの友人かロロが泊まる時以外は放置されている。
広い部屋、と言ったものの、別に部屋の広さはどうでも良い。C.C.は客間の中で、最もルルーシュの部屋に近い部屋へと向かった。部屋が近い方が会いに行きやすいだろうと思ったからだ。
しかしその途中で、C.C.はナナリーの部屋から出てきたロロに遭遇した。ロロはこちらには気づいていないようで、音を出さないよう声を殺す。部屋の中からは微かにナナリーの声がした。ナナリーを寝かしつけにでも来ていたのだろう。
お休み、とナナリーに声をかけ、ロロは音をたてないようにとゆっくりと扉を閉めた。
扉が完全に閉まったことを確認し、C.C.は大股でロロとの距離を詰めた。ロロがC.C.に気づく頃にはC.C.はロロの腕を引っ掴んでいた。
そのままC.C.はロロを引きずって廊下を大股で歩く。ナナリーは耳が良い。あまり距離が近すぎると扉越しでも会話の内容まで聞こえてしまうだろう。
ナナリーの部屋から十分な距離を取った所で、C.C.はようやくロロから手を離してその端正な顔を睨みつけた。
「な、何だC.C.」
慌てるロロを気にせずじろじろと顔を眺め回す。これほどまでに近寄って観察してもルルーシュとの外見の違いを殆ど見つけられない。まるで一卵性双生児のようだ。
ギアス教団の研究材料であったルルーシュに、教団が把握していない一卵性双生児の兄弟がいる訳が無いが、そうとしか思えない程にこの男はルルーシュによく似ている。
だがC.C.がロロに詰め寄ったのはそんな理由では無かった。
「お前は何なんだ」
言い逃れなどさせない。C.C.は額に鳥の紋様を浮かばせた。
「私の眼を節穴だとでも思っているのか。お前はコード保持者だ。同じコード保持者であれば容易に分かる」
「ああ、そうだが。落ち着け。別に俺はお前の敵じゃない」
両手をホールドアップし、ロロは背後に下がる。追い詰めるC.C.により壁まで退却を余儀なくさせられてロロは苦笑を零した。
「俺はルルーシュにコードを押し付けようと思っているわけじゃない。この戦争に関わるつもりも無いさ」
「じゃあ何でお前はルルーシュの近くにいるんだ。大体お前のコードはおかしい。コードではあるのだろうが……異質だ」
コードの保持者同士はCの世界を通して会話ができる。しかしこの男の持つコードとは繋がれる気がしない。
V.V.や自分の持つコードが電話だとするのならば、この男が持つコードは無線通信のようだ。男は確かにコード保持者ではあるのだろうが、彼の持っているコードはC.C.の知るコードの枠組みに当てはまらない。
警戒するC.C.に、しかしロロは飄々とした態度を崩そうともしなかった。
「確かに俺の持つコードはお前の持つそれとは違う。しかしいずれにせよ俺はただの傍観者だ。お前にも、ルルーシュにも、ナナリーにも、最低限以上に関わる気は無い」
嘘を言っている様子も無く、C.C.は苛々してその整った、整い過ぎている顔を睨んだ。しかしロロは困ったように笑いながら、C.C.の頭を微かに触れる程度の力で撫でるのみだった。
馴れ馴れしい仕草に舌打ちしてロロの手を叩き落とす。しかしロロは気にする様子も無く、肩を竦めてC.C.に向き直った。
「俺はこの世界の外から来たんだ。だから俺が持っているコードはこの世界のものでは無く、他の人間に引き継げるのかも分からない。ルルーシュを奪われると心配するのはお門違いだ」
C.C.はロロが何を言っているのかさっぱり分からず眉根を顰めた。
「……自分は外なる神とでも言うつもりか?」
「違う。俺は神じゃない。ただの傍観者さ」
「ただ黙って見ているだけだと」
「そうだ」
「それで何が目的なんだ」
この男のことをC.C.は何も知らない。
数日前、ロロがクラブハウスに出入りしている様子を見かけてすぐにコード保持者だということに気づき、C.C.は急いでロロに関する情報をかき集めた。
しかし5年前突如としてルルーシュの近くに現れて、何をするでもなく傍観しているという以上の情報はどこからも出てこなかった。
戸籍は偽装されており、はっきりとした来歴も無し。コード保持者であるが誰かにギアスを渡している様子も無く、ギアスユーザーに接触している様子も無い。
謎だらけの男だ。むしろ、謎しか無い。目的が分からないことが特に性質が悪い。
しかしC.C.の警戒を柔らかい笑みで受け流し、ロロは遠くを眺めるように目を細めた。
「俺はただの観客で、この世界の物事は俺にとって見世物でしかない。……それも結末を知っている見世物だ。手出しもできず眺めるだけなど、不快極まりない。しかしどうして集合無意識が俺をここに送ったのかも分からない以上、ここでこうして見ていることしか俺にはできないんだよ。故に、俺には明確な目的は存在しない」
C.C.には男の言っている言葉のほとんどが理解できなかった。
しかし聞こえてきた集合無意識という単語にC.C.は柳眉を顰めた。それはギアス教団のトップシークレットの筈だ。
この男、得体が知れないにも程がある。
「……まさかお前、シャルルの計画を知って、」
「知っているが手出しはしない。お前がシャルルに加担するかどうかの決断にも口を出しはしない。それは俺の役割じゃない」
ロロはひらりとC.C.の横を通り過ぎた。
「おい、待て!」
「明日からルルーシュはさらに忙しくなる。お前にも仕事が回ってくるようになるからな、C.C.。体調には気を付けろよ。治るからといってあんまり怪我をするな。腹を出して寝ないようにしろ。あとピザは食べ過ぎるな。エンゲル係数を少しは気にかけてやれ」
手を振りながら足早に去っていくロロの後ろで、C.C.はきょとんと首を傾げた。
「………ピザって、何のことだ?」