我輩は○○である   作:far

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ご愛読、読了、ありがとうございましたっ!
しかしちょっとだけ続くんじゃ。外伝になりますが、別作品のページにて。上の私の名前をクリック。


我輩はヴィランである。

 我輩はヴィランである。名前は、もうない。それはあげてしまった。

 今はこうして、縛り付けられ、身動きもとれず。四六時中ずっと監視されて座っておる。

 この時に備えて、ヒマを潰せる個性を取っておいたのだが。

 どうも、薬物を投与されているらしい。個性全般が、使いにくくなっている。

 意識はハッキリとしておるし、まったく使えないというわけではないのだが、少しばかり不便さを感じる。

 

 まあ、時間だけはタップリとある。修行がてら、この瞑想の個性を発動させ続けるとしよう。

 

 今、この場所はタルタロスと呼ばれているらしい。日本のお役所にしては、いい趣味だ。

 裁判も無しに放り込まれたのだが、これはどうなのであろうか。確か裁判を受ける権利は、未だに憲法で保証されていたと記憶しているのであるが。

 もしや「ただし、ヴィランは除く」とでも書かれた法律でも、作ったのであろうか。

 

 北欧のどこかの国では、冷暖房完備に、ネットができる環境の個室が囚人に与えられており。快適すぎるだろうと、抗議活動が起こるほどだったらしい。

 ここは、そんな設備なぞは、望むほうがおかしい場所であるしなあ。

 ここに入れられる時に、看守さんが教えてくれたのであるが。ここは殺すのも生ぬるい罪人用の、特殊刑務所であるのだそうな。

 脱出しづらいように、地下深くに建造されている。そのため、空調が整っていて、温度はそれなりに快適だ。

 囚人の待遇が良くなってしまうが、これは仕方が無いのだ。

 なにせ地下には空気の流れがない。ゆえに空調がなければ、空気が徐々によどんで呼吸できなくなる。

 

 まあ、仮にネットがあったとしてもだ。今の我輩には、それを使うことはできないのであるがな。

 

 物が見えぬ。まったく見えぬ。音は聞こえるが、以前と比べると雲泥だ。匂いや味も、多分わからぬ。

 そのあたりを個性で補おうとすれば、できる。と、思うのであるけれども。

 くだんの、個性が発動させづらくなっておるせいで、それもままならない。

 

 もっとも、個性をおおっぴらに発動させようとすれば、即座に何らかの手段で無力化されてしまうであろうけれども。

 

 

 もう、お分かりであろうと思う。

 

 我輩はオール・フォー・ワン(ヴィラン)である。

 

 名前は、もうない。他の諸々も、持ってはいない。すべて、渡してしまった。

 この体の持っていた個性は、肉体的なものほど多く残っていた。まあ、使うことはできないので、どうでも良ろしい。

 逆に精神的なものは、多くを持ってこれた。これもほとんどは使えぬので、意味はない。あるのはヒマつぶしになる、瞑想くらいである。

 

 

 

 雄英への三度目の襲撃となる、林間学校への殴りこみと、生徒らの誘拐。

 我輩は参加しなかったのだが、あれが思った以上に成功してしまった。緑谷少年と常闇くん、モモちゃんまでも誘拐できてしまったのだ。

 

 もっとも、モモちゃんにはニセマイトな我輩が「そんな重要な個性持ってて、ヒーローなんて危険な仕事してていいのか?」と説教して帰したが。

 

 仕方がなかったのだ。

 あの発育の暴力を誘拐して、一晩でも。いや、90分でも時間が経ってしまうと、マズいのだ。

 こう、言い訳がきかないというか。ヴィラン連合の名誉的なアレが、失われてしまうのだ。

 一刻も早く帰さねば。

 この使命感は、荼毘くんや黒い人もわかってくれた。ボスは少し、あの大きな双子山に未練がありそうだった。

 しかしボスはそういったことを表に出すのが、恥ずかしいと思う年頃。言いくるめるのは簡単であった。

 

 残った緑谷少年には、トガちゃんが。常闇くんには、ボスが。それぞれ付いて熱心に勧誘していた。

 常闇くんについては、元々さらってくる予定に無く、ミスターのアドリブであったのだが。一目見たボスが、何か妙に通じるものがあったらしく、直々に勧誘を始めてしまったのだ。

 

 通じたものは、きっと間違いなく病気なアレであるが。きっと彼も、邪気眼を持っているのだろう。

 

 トガちゃんの方は、会話になっていなかった。緑谷少年が「どうして君みたいな子がヴィラン連合に」と聞けば、それを「君みたいな(カワイイ)子が」と自動的に解釈して喜んだり。

 「僕はヴィランになんてならない!」と拒絶されても「敵同士でって方が、盛り上がるからですね!」と前向きに解釈した。

 彼女は、ムテキであった。

 

 その横で、闇は全てを暖かく包むのか、光の中で輝くのか、悪でこそ本来のものなのか。そんな闇談義も繰り広げられていたが。

 

 ともあれ、トガちゃんたちの一方通行の会話と、もはや勧誘に関係ない、ボスたちのよくわからぬが、ただ何となくカッコ良さげな会話が続く中。

 疲れたんで、今日はもう解散していいかな? そう目で会話して結論した、我輩を含む他の面々が帰ろうとした時だ。

 

 

 SMASH!!

「わたしが 来た」

 

 

 わざわざドアからではなく、壁を壊して、平和の象徴がやって来た。

 後で知ったのだが、場所がバレたのは、モモちゃんが発信機を仕掛けていったかららしい。

 黒い人のワープを使って移動すれば、場所は特定できまいと油断していた。

 

 やって来たのは、当然ながらオールマイトだけではない。雄英教師陣を始め、ソルジャーではなくヒーローを名乗れる上位者ばかりが何人もいた。

 ヒーローだけでもなかった。ヘドロのような闇が、その場に現れ。その中から這い出るように、ぬうっと奇妙なマスクをかぶった男が出てきたのだ。

 特にそういった個性は使っておらぬはずなのに、とてつもなく重く感じる空気をまとっていた。

 あれはいつもの先生ではなかった。まさしく闇の帝王、オールフォーワンが、やってきた。

 

 詳細は省くが、ヒーローたちの大半は、オールフォーワンに蹴散らされた。

 正直、何をどうやったのか我輩には見えなかったが。今思えば、たぶんただ殴ったのであろうと思う。

 その間、オールマイトは脳無と、それを指揮するボスが押さえ込んでいた。

 そしてヒーローたちが片付いたならば。あとは、頂上決戦だ。

 オールフォーワンは、黒い人に、ヴィラン連合の面々を離脱させた。ボスにもここから逃げさせた。ここは任せろ、そう言って。

 

 さあ、一対一だ。うれしそうに、魔王(オールフォーワン)勇者(オールマイト)にそう言った。

 

 彼らは、殴りあった。殴って、殴られて、殴って、殴られて。オールマイトはともかく、オールフォーワンは、他の個性など知るかとばかりに、増強、強化の個性のみを使っておった。

 原作では、筋骨発条化や、空気を押す個性などを使っていたはずだ。確か、攻撃の反射も使っておったはず。

 それがなぜか、何も使わない。ただただ、手に入れば我輩から必ず取り上げた、増強系だけを使っている。

 

「なぜだ! 衰えたのか!?」

 

 短く、強く。オールマイトが殴りながら問いかける。

 

「確かに、この体になって個性のストックは、かなり減ったよ!」

 

 オールフォーワンも、殴りながら言い返す。

 

「だがね。これはそうじゃない! ああ、違うとも。これは単なる、僕の――――――趣味だ!!

 

 意外な答えに、一瞬止まってしまったオールマイトを、先生が打ち抜く。

 ダメだ、あの人。この期に及んで、まだロマンに生きてやがる。

 そうではなかったろう。原作では、もっと憎しみやら何やらを燃やしていて、もっと違ったであろう。

 ―――我輩のせいか? 我輩が、あなたを変えてしまったからであるか?

 

「ははっ! ヒーローは守るものがたくさんあって、大変だなあ! オールマイト!」

「ああ……! 多いよ……ヒーローは……守るものが多いんだよオールフォーワン!」

「僕は一つだ! 後は託した!」 先生はそう叫んで、勝ち誇った。

「だから 負けないんだよ」 オールマイトはそう言って、拳を握った。

 

 

 その、決着は――――――――――――――

 

 

 ――――――――――右拳を、高々と上げる、オールマイト。

 

 

 よし、今だ。

 覚悟などはとうの昔に固めていたが、先ほど、さらに固まった。

 惑い無し。心残りはあれども、それが死の味である。かの博徒もそう言っていた。

 

「生きてる以上、生きたいという気持ちは完全には消せない。3%くらいは混ざる。混ざらざるを得ない。

 まるっきりスッキリってわけにはいかねぇ。どう頑張っても混ざるものは混ざる。なら……これはもう、甘んじて受けるしかない。

 そう楽に死ねないと諦めるしかない。これが死の味と、観念するしかない」

 

 ウワバミさん、ごめん。黒い人、ボスをよろしく。ステインさん、ダンス、最後まで習えずにすみません。バックドラフトさん、仮免のままでごめんなさい。ダメオヤジ、今度飲む約束ダメになったよ。切島くん、約束は果たせそうに無い。緑谷少年、強く生きろよ。連合の皆も、自分で稼げるのか不安だが、がんばれ。

 

 楽しかった。番組スタッフらと、打ち合わせという名の旅行計画を、仕出し弁当をつつきながら話し合うのも。我輩を拾ってから、明らかに力を入れ始めたウワバミさんの料理にダメ出しして、一緒に作り直すのも。ヴィラン連合の面々と、飲みながらバカな話をしているのも。少年らが育つのを見るのも。ヒーローらが自分の資格が大きく変わるのに動揺するさまも。みな、実に楽しかった。

 

 他にも色々と、色々と、思いが尽きぬ。

 それら全てを投げ捨てようとしている。これはきっと、バカな行いなのであろう。割に合わぬ。報われぬ。まったくもって、非合理的で、不可解である。

 

 だがしかし。やろうと思ってしまったのだ。

 我輩は猫である。だが男である。男一匹、やると決めてしまったのなら、後には引けぬ。それが男のロマンである。

 そして我輩は、ロマンに生きると決めてしまっている。生きるとは、命を使うことである。

 だから、やろう。やってやろう。

 あの日、先生から隠した個性 肉体交換。我輩はそれを、先生目掛けて、発動した。

 

 ここで間にカエルでも入ったら、今世紀最大のジョークであるな。そんなことを思いつつ、意識は薄れていった。

 

 

 

 

 

 

 そして来る日も来る日も、何も無く。何も無いまま過ぎてゆく。

 時折オールマイトが来た時だけが、変化のある一日だ。しかしそれも、先生のフリをするのが面倒なので、あまりうれしくはない。

 

 だがある日。本当の変化がやって来た。

 

「ああ、やっとクリアか。―――似合わないマネをするんじゃねえよ。ここまで来るのに、どれだけ面倒だったと思ってる? なんだよ、このダンジョンは。宝箱もないし、トラップは凶悪だしさ」

 

 何かが壊れる音と、懐かしい声がした。

 

「刑務所に何を求めているんですか、弔。さあ、早く帰りますよ」

 

 懐かしい声がした。

 

「まさか、僕の体を取られるとは思ってもいなかったよ。キミの体も存外、悪くはなかったがね。さあ、返してもらうよ。もうキミのフリをして生活するのは真っ平(まっぴら)だ」

 

 よく聞いていたような、聞いていないような声もした。

 

 ああ、うん。これが夢か現実かも、今はわからぬが。

 この世界に来たことも、また夢か現実か、今となってはわからぬ。

 ゆえに、今は信じたいほうを、信じることにする。

 

 さあ、風立ちぬ。いざ生きめやも。

 

 生きてさえいれば、いつであれ、どこであれ。きっと人生は楽しい。

 

 

 

 <完>

 

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