誰かを失ったという心ではなく、平和とは何か。自分の中でも、考えてみてください。
平和って、なんでしょうか?
艦娘たち、いや私たちは、そう問いかける日々があります。
ひょっとして、身近な存在と共にいることが平和なのでしょうか……?
私たちにとっては、気付いていない事かも知れません。
◇
再び空が蘇る。
いや、蘇った。
深海棲艦としての戦いが遂に終わった彼女たちは、消息不明となった。そう、鎮守府が消滅した。
その鎮守府は、まるで何もなかったかのように綺麗で何も残ってはいない。
廃墟と化した建物だけが佇む記憶に刻まれるだけの存在。
その鎮守府所属だったと推定される艦娘が出した本がある。それは、最前線で戦い続け、平和とは何かを追い求め続けた一人の艦娘による本。
平和を知らない艦娘が、平和を追い求め続けた話。
著者の艦娘を追って、また別の鎮守府にいて、今は平和に暮らす初月は様々な場所を訪れた。
その艦娘の事を知る存在を探るため。
◇
どれだけ知りたくても、知る事が出来ない存在って、なんでしょうか?
今、私の事を追っていると誰かから聞きました。私の本が何かを引き起こしているものだと思います。
これでも平和になっている、というのが正しいのでしょうか。
何なのか、よく解りません。ですけど、私の胸の中で誰か解ってしまうような気がします。
共に空を切り開こうとした仲間に、会えるような気がして。
この手紙は、私を追っているという方に渡して下さい。
真意を知りたければ、それを書いて。
◇
初月はとある方から手紙を受け取り、そこに書かれたメッセージを読んだ。
「いったいこれが、手紙というのか?」
初月は様々な部分で書かれていた文字を調べた。直筆のサインが入ったその艦娘の本の直筆メッセージ部分と手紙の文字を読み比べる。微妙ながら一致しないその文字に苛立ちつつも返信として真意を書く。
(この文字は微妙ながら一致しない。だからといって、まったく別の人物じゃないのは確かだ……)
聞きたい事を書きとめたその真意ともいえる紙を折りたたみ手紙として、また別の日に艦娘からの手紙を渡してくれた人に「艦娘への返信だ」といってその人に渡した後、ラジカセの中にあるCDを取り出して透明なケースに入れる。
この曲は、もう誰が歌ったのか初月にはわからない。それも、確かめなくてはならない。
そして、自分の目で確かめなくてはならない。
◇
初めて来た手紙。私の事を追っているその紙は、決意のように様々な文章が並んでいた。
何故自分の事を知っているのだろうか。どうしても気になって仕方なかった。
場所は判らなくても、私が動かなくてはならないのは事実。だが、もう体は無理だった。今はない右足の感覚。2度と戦線に加わらないことを決意し、鎮守府解散後密かに名前を伏せて本を出した自分の本に、興味を持ってくれたことに感謝して待ち続ける。
「もう誰だかわかってるよ……初月」
手紙を見て思った。初めて背中を預けて戦った艦娘の事を思い出して、その名前を浮かべた。
そしてその名前が当たっているとは、彼女は知らなかった。
◇
初月はとある駅で降りる。その艦娘が待ち受けている場所へと向かう。
それは初月が住んでいる処よりも少し田舎ながら、どこか寂しさの抜けない場所。
(戦争が終わっても、貧困な人がいるんだな)
政治事情が変わり再び貧困が増えたこの時代で初月がやれることが何か、考えたことが多い。
だけれど、自分には結局何もできなかったことを悔やんだ。ごめんねと言いつつ、彼女がいると推測される中心街のはずれの住宅街の一角にたどりつく。
どこか寂しさのあるその住宅街にある家は、まだ新しさがあるものの段差がなくスロープだけだった。
思い出す。
「車いすの艦娘……まさか」
いや、違うよなと思いつつインターホンを押そうとした時。
「私の事を追っていたって……どうしてなの?」
家の主がドアから出てきて問いかけてきた。その時の顔は、記憶にあった彼女と一致した。
「……吹雪!」
そのまま固まる彼女――――――吹雪は驚きながらも自分の持つ本と同じものを出した。
それは自分に何か問いかけるようなメッセージが伝わり、自然と同じ本を鞄から出していた。
吹雪の顔が確信に変わる。
「初月、あなただと思ってた」
そっと近づいて初月を抱擁する吹雪。それは友との再会なのか、宿命を晴らすことなのか、それは判らない。
◇
その後、初月は吹雪に招かれ家で久々にお茶を飲んでいた。
「初月ちゃん、ここまで同じように追い求める人がいるのは、初めてだよ」
車いすを固定させて向かい合いながら話す吹雪に、すっと初月は問いを飛ばした。
「平和が何か、答えが出たのか?」
「全然だよ、でも、こうしていることが平和なのは確実にわかった」
その問いに笑いながら答えながらも、吹雪は確実に感じたことを初月に伝えた。
そう言えば、照月姉さんが久々に吹雪と会いたいといってたなと思いつつ互いに談笑する。
まるで平和のように流れていった時間が、本当に平和を意味しているかもしれない。
「そういえば、初月がCDを聞いてほしいって、いってたよね」
吹雪の一言で思い出す。もう1つの目的を鮮明に思い出した。
「ああ、結構古い曲だが……」
そう言って吹雪が持っているラジカセにCDをセットし、流し始める。
その曲はピアノとドラムだけで構成されて、そして歌はそれに調和するように流れる。
吹雪は自然と涙を流しながら空を見上げる。
「Blue Skies……」
曲名を思い出すように空を見上げ、そして涙を零して、ようやっと自分も思い出す。
この曲は、歌った人を追い求め続け、ついには誰だかわからないまま記憶に封印された平和を願う歌だと。
静かに初月も空を見上げた。
青空はいつでも自分たちの心の中にあると。