ハルトナツ   作:マスクドライダー

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ちょっと遅くなりましたが感謝の一言。
50000UA突破しました。本当にどうもありがとうございます。
よろしければ、今後とも御贔屓によろしくお願いします。

それはそれとして、またしても忙しいので金曜更新となります。
内容も非常に薄いですが、まぁこの章のプロローグとでも思ってください。


第30話 やって来るは銀と金

「今日は新しいお友達を紹介します! それも二人!」

 

 自分でも真面目な方ではあると思うが、やはり今日の予定を話されるだけのSHRというのは退屈なものだ。

 今日も今日とて怒られない程度に適当に聞き流しておこうかと思えば、山田先生が随分と子供じみた表現で二人の転校生が居ることを示唆した。

 鈴ちゃん然り、この時期に転校してくるとなれば実力は折り紙付きだろう。別に戦闘狂になったつもりもないが、そういうことなら多少の興味を惹かれる。

 周りの女子たちも俺と似たような考えなのか、教室をそれなりの喧騒が包み始める。それを散らすかのようにフユ姉さんの喝が轟いた。

 

「お前たち、静かにしろ! ……入ってこい」

「…………え!?」

 

 フユ姉さんの声を合図に入ってきたのは、間違いなく前情報どおりに二人の生徒だった。ただそれだけなら驚くことはなかったろう。

 転校生二人のうち片方――――長い金髪を束ねた生徒が、男子の制服を着ていたからだ。……あ~これは、俺は彼をどう認識していいのだろう。

 ……まぁ、いったん保留にしておく。それでもう片方の女子。随分と小柄だなと言うのが第一印象だった。鈴ちゃんよりも小さい子はなかなか見かけないから。

 彼女はまるで男子と対になるかのような銀髪をしていて、左目に眼帯をしているのに注目してしまう。そして、何か只者ではないようなオーラを放っているような気がした。

 

「手短に挨拶しろ」

「はい。皆さん初めまして、シャルル・デュノアと言います。僕と同じような境遇の男子が居ると聞いてフランスからやってきました。これからよろしくお願いします」

 

 貴公子然とした様子で挨拶をした金髪の子――――もとい、う~ん……とりあえずデュノアくんで。どことなく、フランス出身というのがとても似合う振る舞いのような気がする。

 挨拶をしてもなんのリアクションもくれない。そんなシーンとした空気が教室へ流れる。デュノアくんは何かまずかったと眉をひそめているが、安心してくれていい。

 俺が静かに耳をふさいでいると、次の瞬間にまるでソニックブームでも発生したかと勘違いするような勢いで、女子たちの黄色い歓声が上がった。

 

「キタ、イケメンキタ! これで勝つる!」

「日向くん、悪いけど喜ばせて! 地球に生まれてよかったー!」

「ああ、うん、俺のことはお構いなく」

 

 まったく思うところがないと言えば嘘になるが、俺とデュノアくんの顔面偏差値は雲泥の差だ。月とスッポンと言ってもいい。

 というよりはなんだろうね、彼なら何を言っても嫌味だったりキザに聞こえないような気がする。そのくらいに貴公子という表現がよく似合っていた。

 が、褒められた張本人であるデュノアくんは引いてる様子だ。こういう女子のパワーに圧倒される気持ちは痛いほどわかる。

 けどそれだけ騒げばフユ姉さんの逆鱗に触れる行為であり、心底からご立腹であることが聞いただけでわかるような声色で黙れとひとこと。

 それなりに彼女らも訓練されてきたのか、すぐさまデュノアくんなんかどうでもいいと言わんばかりに黙った。その様にデュノアくんは困惑しているご様子。

 

「……お前も何か言え」

「ハッ、教官のご命令とあらば!」

「ここでは織斑先生だ」

 

 ため息交じりにフユ姉さんが銀髪の子に挨拶を促すと、彼女は不思議なことに教官という呼称で返した。

 しかも敬礼のおまけつきだし、彼女は軍人か何か? それで教官となると、もしかしてフユ姉さんがドイツに居た頃の教え子かも知れない。

 フユ姉さんはナツの誘拐事件が発生した際、ドイツ軍の情報提供を受けた。その見返りとして、一年間軍のIS操縦者を育成していた時期がある。

 そうか、俺たちと同い年なのに、彼女は軍人なのか。それなら纏っているオーラや迫力も頷けるような気がするな。

 銀髪の子はフユ姉さんの呼称について注意を受けつつ、相変わらず軍人然とした様子で己の名を高らかに宣言した。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「あ、あの~……それだけですか?」

「それだけだ」

 

 ボーデヴィッヒさんね。ドイツ語は無意味にカッコイイようなイメージがあるが、やっぱりどことなくその節を感じる姓だ。

 しかし、どうやら少し変わった子ではあるみたい。いくら軍人とはいえもう少し話すことはあると思うし、実際そう感じているのか山田先生が終わりかと確認を取った。

 ボーデヴィッヒさんはそれを完全シャットアウト。話すことはもうないらしい。突っぱねられた山田先生は、涙目になりながら距離を置く。

 教師としてどうなのだろうかと思いつつ、やはり似た人なので気持ちもわかる。うんうん、確かに今のは怖いと内心頷いていると、何かを発見したらしいボーデヴィッヒさんの顔つきが一気に感情的になった。

 

「貴様っ!」

 

 激昂した様子のボーデヴィッヒさんが歩み寄っているのは、間違いなく俺の隣に座るナツ目掛けてだった。

 でもナツの態度を見るに初対面ではありそうだし、いったいなんの因縁をつけるともりなんだろう。……というか、ナツのこの感じ――――

 ……ナツにもボーデヴィッヒさんにもいろいろ事情というものがあるんだろう。だが結果が見えているのにそうさせてやるわけにはいかない。

 俺は急いで立ち上がり、既に振り上げられているボーデヴィッヒさんの腕を掴んで止めた。

 

「……貴様、なんのつもりだ」

「ええっと、なんていうか、目の前で女の子が叩かれるのを、黙って見てるわけにはいかないし」

 

 多分、軍人だったらその気になれば俺を投げ飛ばすのは容易いんだろう。例えボーデヴィッヒさんの体格が恵まれたものでなくとも。

 けど今のは技術もない感情に任せた平手打ちだ。単純な筋力だけあれば止められると踏んだが、どうやら間違いではなかったらしい。

 よほど周りが見えてなかったのか、ボーデヴィッヒさんはものすごい表情で俺を睨みつける。……箒ちゃんとか鈴ちゃん並みに怖いかも知れない。

 け、けど、ナツが無益に叩かれるのなんか見過ごすわけにいかない! って、堂々と言ってやれる性格だったらどれほどよかったか。

 

「あ~……。SHRはこれで終了する。各自、遅刻のないよう行動せよ。以上」

「……フンッ!」

「ああっと、ごめんごめん」

 

 てっきり俺にもボーデヴィッヒさんにも制裁があるかと思ったが、フユ姉さんは非常に気まずそうな様子でSHRを切り上げた。

 フユ姉さんが気まずそうとは珍しいこともあるもんだ。そうやって教室を出ていくフユ姉さんの姿を見ていると、ボーデヴィッヒさんは俺の手を強引に振り払った。

 今のは流石に謝らなくてよかった気がする。でもちょっと強めに握り過ぎてたような気もするし、う~む……。

 まぁひとつだけわかることがあるとすれば、ボーデヴィッヒさんを敵に回したということかな。とにかく大事にならなければいいが。

 

「ハル、ありがと」

「いや、気にしないで。それよりナツ――――」

「ええっと、取込み中かな? でも挨拶はさせてほしくて」

「ああそうか、デュノアくん……。うむむ……う~む……。……ナツ、また後で。デュノアくん、とにかく急いで教室を出よう」

 

 笑顔を浮かべたナツが助かったと感謝を述べるが、それをすんなり受け入れるわけにもいかなかった。

 本当はすぐさま追及したいことがあったけれど、デュノアくんのこと含めてこれ以上は教室に留まるわけにはいかない。

 一時限目から実習でなければなぁ……。はぁ、スケジュールに関して嘆いても仕方がない。すぐさまデュノアくんの背を押して教室から飛び出た。

 

「あの、急いでる様子だったけど」

「うん、更衣室で着替えない子も多いからね。流石に俺らが留まるわけにはいかないから」

「なるほど……。そっか、そうだよね」

 

 俺があまりにもそそくさと教室を出たのが気になったのか、デュノアくんはとても不思議そうにこちらを眺める。

 確かに挨拶を後回しにしてでもというのは気になるだろう。まぁ、本当に女子が教室で着替えるからっていう単純な理由なんだけど。

 そう説明すると、なんだかデュノアくんは興味深いように何度か頷く。そういうものなのか、とでも思っているんだろうか。

 

「挨拶は歩きながらしようか。男子更衣室、わりかし遠いんだよね」

「うん、勿論。改めて、僕は――――」

「……いやごめんデュノアくん。前言撤回、とりあえず俺の後ろに隠れてて」

 

 待遇に関して不満があるつもりはないが、やはりトイレや男子更衣室の数は微々たるものだ。どうしても教室からは遠くなってしまう。

 油断してたら遅刻とか普通にしてしまうので、慣れていないであろうデュノアくんには悪いけど、早足での案内になってしまう。

 今度みんなを紹介しながら学園を歩き回るのもいいかもな、とか思っていたその時である。俺は廊下の先が少し騒がしいことに気が付いた。

 その騒がしさですべてを察した俺は、とりあえずデュノアくんを背後に隠すことに。本当、挨拶しようとしてくれているのに申し訳ない。

 しばらくそのまま待っていると、だいたい予想したとおり女子の一団が迫りくる。なるほど、顔がいいとこうなるわけか。こういうときばかりは、普通の顔でよかったと思い知らされるかも。

 そんなことはさておいてだ。明らかにデュノアくん目的の彼女らに対し、俺は精一杯声を張り上げた。

 

「すみませーん! あの、あまり絡まれると遅刻しちゃうんで。俺はともかく、デュノアくんまで織斑先生の制裁を受けるのは忍びないと思うんです。ほらデュノアくん、言ってあげなさい」

「こ、ここで僕? う~ん、え~っと、道を開けてくれると嬉しいなー……なんて」

「丁重にお通しせよ!」

 

 俺の叫び声に反応して足は止めてくれたものの、女子一同はデュノアくんを出せという旨の言葉を放っているみたいだ。

 人数が人数だけにあまり正確に聞き取れないんだよね。ゆえにあまりかまってやる必要性もないってわけだ。

 俺は俺の考えを一応伝えるとすぐさま退散。聞く耳をもってくれた以上は、デュノアくん本人が言ったほうが効果があると見てのことだ。

 俺の予想はまたも的中し、女子らはザっと廊下の両端に避けてみせる。まぁお近づきになりたい人に悪い印象を与えてしまうだろうし、妥当なところだろう。

 とにかく、上手くいったんだから次へ行くとしよう。もしかするとこれは第一波で、少し進んだから第二波、第三波が襲ってくる可能性もあるのだから。

 

「デュノアくん行こう。走れそう?」

「加減してもらえば大丈夫だと思うよ」

 

 もはやデュノアくんからしてもツッコミを入れる気もないのか、俺の問いかけにすぐ答えてくれた。

 デュノアくんの回答によしと頷くと、彼が付いて来れる速度を意識して、男子更衣室を目指して走り出す。

 女子の団体様はさっきのが最初で最後であり、これなら着替える時間を含めても遅刻するというようなことは起きなさそうだ。

 ……ん? 着替え? ……ああ、そうか、その問題もあるんだった。山積というやつだなぁ。そこはどうにか、やんわりと確認するとしよう。

 流石に男子更衣室まで突撃してくる女子はいないだろうということで、俺たちはようやくちゃんとした挨拶を交わすことができた。

 

「日向 晴人です。適当に呼んでくれたらそれで構わないから。よろしく、デュノアくん。……っと、左手で失礼」

「シャルル・デュノアだよ。シャルルって呼んでほしいな。こちらこそよろしく、晴人」

 

 とりあえず今は名前の再確認くらいでいいだろう。趣味とか個人的な話はもっと時間のある昼休みとかで。

 右手はまだ痛みがあるため、本当に失礼ながら左手の握手を差し出す。しかしシャルルは気にした様子は見せずに、とても爽やかな笑顔で左手の握手に応じてくれた。

 事情を聞いてこないあたり、シャルルの人の好さがうかがえる。……そのぶん今後は俺のメンタルが辛くなるということなんだけど、仕方がないと諦めるしかないか。

 ……さて、ここからどう着替え問題につなげよう。……不本意ではあるけれど、女子に対する愚痴みたいな感じからなら自然かな。

 

「ところでだけど、こうしてみるとやっぱり俺たちは大変だよね。せめて女子たちも更衣室で着替えてくれるといいんだけど」

「比率が比率だしね。もしくは男子扱いされてない、とか?」

「う、それは逆につらいかもな。俺なんかほら、下にすぐISスーツ着てるんだよ。こうすると脱ぐだけでいいし」

「それ、僕も同じことしてるよ。フフ、奇遇ってやつだね」

 

 演技とかはできたもんじゃないと思ってたけど、意外にやってみたらけっこう平気だな。自分でもてっきりぎこちなくなるものだと。

 ……というか、男子扱いされてないのは本気であるかも知れない。というか、俺の場合は影が薄いから存在そのものに関しても――――

 い、いやいや! 最近はナツたち以外の女子とも話す機会は増えたんだ、決してそんなことはない……と思いたいところだろうか。

 とにかく、作戦は無事成功かな。特に違和感らしいものもなしに、既にISスーツを着込んでいることを伝えることができた。

 それでいて、シャルルも同じことをしているらしい。そいつは僥倖、これで変に気を遣わなくて済みそうだ。

 そういうことなので、特にお互い変な空気になるようなこともなく制服を脱いでISスーツ姿へ。そのまま流れるようにアリーナへ入った。

 

「シャルルも専用機持ちだよね」

「うん、第二世代機のカスタム機だけど一応。……晴人のは変わった待機形態に思うけど」

「ハ、ハハハ……よく言われるよ。専用機そのものも変わってるっていうか」

「そうなの? でも僕のはカスタム機だし、変わってても特徴があるのは羨ましいかも」

 

 間違いなく首から下げているペンダントが待機形態なんだろうけど、つかぬことを聞いてしまう。

 一応の確認というか、専用機持ちは実習の場合手本にされることが多い。もし本当に専用機持ちなら、前の方に居た方がいいかなと思っただけのことだ。

 今日は一組と二組が合同での実習となる。単純計算で人数が倍になるということで、まだ全員集まってはいないが人の間を縫うように前へ。

 正直なところで腕組して仁王立ちするフユ姉さんの前に迂闊に出たくはないのだが、これも専用機持ちの定めとしておくことにしよう。

 そうして人だかりの先頭の方に立った俺は、さりげなく同じく先頭付近に居たナツの隣へと陣取った。

 

「ナツ」

「あっ、ハル。デュノアくんともども襲撃されたって聞いたけど、意外と早かったね」

「うん、まぁ俺のことはいいとして、どうしても聞いとかないといけいないことがあってさ。さっきのアレ、なんで避けようとも防ごうともしなかった?」

 

 俺がナツに声をかけた時点で、シャルルは他の専用機持ちにあいさつを始めた。……随分と空気の読める子というか、逆に申し訳ないくらいまである。けど、ナツにこの質問をしないわけにはいかないんだ。

 俺だから、もしくは家族だからわかるんだ。ナツが初めから、ボーデヴィッヒさんの平手打ちを避けようともしなかったことくらい。

 ナツの正義感は強い。その正義感に俺や箒ちゃんや鈴ちゃんは救われたんだ。ゆえに、理不尽な暴力なんて良しとしないのを知っている。

 つまりそれは、ボーデヴィッヒさんの張り手を受け入れたのと同等。とするならば、ナツはボーデヴィッヒさんに恨まれてしかるべきと思っている……ようだ。

 俺にはそれが我慢ならなかった。何もボーデヴィッヒさんが憎いとかそういう話ではなく、どうして自分のことになるとそうなのかと言いたいんだ。

 だってそうだろ。今までさんざん助けてくれた。ナツにとってそれはなんてことないのかも知れない。けど、困ってるなら言ってほしいし助けにはなりたいじゃないか。

 それを恨まれて当然だ、なんて自分の中だけで片付けてもらっては困る。……だというのに、ナツは難しい顔をするばかり。ようやく口を開いてはくれたが――――

 

「多分だけどあの子は、私の誘拐で――――」

「全員揃っているな? さて、とりあえず各専用機持ち、ISを展開せよ」

「……ごめん、また後で」

 

 時間切れだ。授業が始まってしまった。……俺も答えを焦り過ぎていたのかも知れない。こんな変な気分になるのは初めてだ。

 話しかけだったとはいえ、これ以上は授業に支障をきたす。俺はナツに謝罪しながら数歩間を置き、フユ姉さんの命令どおりヘイムダルを展開した。

 展開速度は俺が最も遅いものの、昔ほど差がつくわけでもなさそうだ。よしよし、いいぞ。やっぱり少しずつでも早くなってる。

 なんて自分のわずかな進歩を実感していると、すごくシャルルに見られていることに気が付いた。何か用事かと視線を返してみると苦笑いするあたり、どうやらヘイムダルの特異さに目が向いてしまったらしい。

 まぁ、うん、大丈夫、そろそろ慣れた。という意味を込めて左手を振って返した。後は授業に集中し、フユ姉さんの言葉に耳を傾ける。

 これまで実習は幾度かあったが、今日は全生徒が訓練機を動かすことになるらしい。そのことについて、気を緩めることなかれといった内容を話される。

 それと、生徒たちの監督をするのが俺たち専用機持ちになるようだ。こちらに関しては、責任をもった行動をと釘を刺される。

 

「それでは早速訓練を――――と言いたいところだが、ひとつデモンストレーションを行う。そうだな……。オルコット、凰、前に来い」

「わたくしと鈴さんの模擬戦、といったところでしょうか?」

「おっ、いいじゃん。一度はセシリアと白黒ハッキリ――――」

「逸るな小娘ども。じきわかる」

 

 鈴ちゃんとセシリアさんがフユ姉さんに呼ばれて前に出たわけだが、大多数の予想を裏切って二人の模擬戦となるわけではないようだ。

 それなら他の対戦相手が居るということになるが、はて、フユ姉さんはISを装備するような空気を全く感じられない。

 なら更に他の相手が――――と、ハイパーセンサーを用いてアリーナ内を見渡していたその時である。いきなり警告が鳴り響くではないか。

 え、ええっと、種別的には……衝突の恐れ? って、リヴァイヴを装備した山田先生がこっちに向かって突っ込んできてるじゃないか。

 正確な着地点を割り出してみると、だいたいナツの真上当たり。……ああなるほど、男の時ならそれでラッキースケベになってたわけね。

 とにかく、山田先生が地面に叩きつけられる姿を静観するのも忍びないので、助けに入ることにしよう。

 

「ナツ、ちょっとスペース開けて」

「うん、了解」

「山田先生、そのまま落ちてきてください!」

「そ、そのままって――――きゃあ!?」

 

 ナツに移動してもらって場所を開けてもらうと、俺はヘイムダルの巨大な右腕を伸ばし、同じく巨大な掌を開いた。

 後はタイミングを合わせて山田先生を掴む簡単なお仕事だ。多少の衝撃はいくだろうが、それでも地面とキスよりましと思っていただきたいところかな。

 ヘイムダルの掌は女性の腰なんて簡単にすっぽり収まるサイズなため、難なく山田先生をキャッチに成功。文字通り手中に収めたって感じかな。

 そしたら優しく山田先生を降ろしまして……と。よし、なんとか騒ぎにならずに済んだみたいだな。それなら俺も満足満足。

 

「す、すすすすすみません、日向くん! それに織斑さんも!」

「いえ、このとおりハルが助けてくれましたから」

「当然のことをしたまでですよ」

 

 あわや激突ということを気にしてなのか、地に足を着けた山田先生は真っ直ぐこちらに謝りにきた。心なしか涙目である。

 山田先生の心配に対し、俺たちはあっさりそれを許した。すると、今度は感激的な意味で目元を濡らし始めるじゃないか。

 俺たちが一周して困り始めた頃、フユ姉さんがそのへんでと声をかけたことでようやくしゃんとしたらしい。そして山田先生は鈴ちゃんとセシリアさんの前に――――って、これはつまり?

 

「……え、マジ? 今の見せられて戦えって言われても……」

「それに二対一です。織斑先生、本当にこのルールでよろしいので?」

「安心しろ、今のお前たちでは勝てん」

「ハ、ハードルを上げないでくださいよぉ……!」

 

 山田先生だが、教師であるなら実力者ではあると思う。そうは思いつつも、半分くらいは鈴ちゃんとセシリアさんに同意せざるを得ない。

 せめて一対一ならまだしも、山田先生が専用機持ちの代表候補生二人を相手にし、なおかつ勝利しているビジョンが失礼ながら浮かばなかった。

 だがフユ姉さんのあの態度、決してハッタリではないぞ……。そもそもハッタリだの小細工をするような人でもないんだけど。やっぱり本気で勝つと思っているんだな。

 対して山田先生本人はとても自信がなさそうだけど、それでも一教師として奮起しているのか、そのうちキリリと眉が吊り上がった。

 む、これなんだかフユ姉さんの言葉が確信めいたような気がするぞ。どのみち貴重な教師を交えた模擬戦だ。見逃さないようしっかり目を見張っておかないとな。

 

 

 

 

 




別に隠す意味もないので言っておきますが、晴人はシャルの正体に感づいてます。
そもそもシャルの男装ってヒロインだから成立するものですので。
晴人には一夏ちゃんが居ますから、お前女だったのか!? みたいなおいしい展開も必要ないですしね。
ただいろいろとこなすべきイベントは消化していくつもりです。
じゃないと、あの事情をクリアしないとシャルはいろいろ不憫が過ぎますから……。
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