教官からの指名で円状制御飛行の見本を見せる事になった。
相手は二人目の男性操縦者、つまりは素人である。
流石に教官の言う事とはいえ、素人に軍人の相手をさせるのは酷だ。
考え直してもらおうと、意見したらフランスの代表候補と同レベルのセンスらしいという返答をされた。
仕方ない、加減は不得意だがダメそうなら加減をしようと思う。
「改めて・・・開始!」
その声を合図にして、私達は飛び上がった。
「開始する。不味そうなら言え。加減してやる。」
「大丈夫だよ。技術に差があっても、初歩さえ出来ていればこの時点では大した差は出ないはずだから。」
そうは言うものの、世界的に言っても稀な男性操縦者なぞ傷つければこちらとしても始末書ものなのだし、教官の汚点なら仕方ないと思えるが、素人を一方的に傷つけると流石に申し訳ないと思うのだ。
「そう言うということは、出来ていると思って良いのだな?」
「信じられてないだろうから改めて言うけど、心配はないよ。」
半ば初対面に近い者の話など信じられないが、恨みっこなしということで開始する事にする。
開始直後から分かっていた事だったが、流石はイタリアの機体だ、非常に速い。
普通にすれば追いつかれてしまいそうだが、訓練なので合わせてくれているようだ。
流石に素人に合わせられるのは癪だ、
速度の緩急や高速旋回を織り交ぜて立体的にして墜とそうかと思ったが、何とか踏みとどまった。
と、そこにプライベートチャンネルで通信が有った。
(別にしたいなら、高速旋回や速度の緩急をつけても構わないよ)
・・・コイツは私を軽んじているのか?
先日倒した、鳳鈴音の様に凄まじい才覚を発揮して実力を一足飛びで上げられる者も居るが、
それでも圧倒的に搭乗時間で勝っている者には勝てないのだ。
その鳳鈴音よりも搭乗時間が少ない状態で私と撃ち合えるとも思えないのだが、コイツは思い上がっているのだろうか?
そうだとしたら、そういう状態は早めに挫くに限る、コイツの言う通り軍人の訓練を味合わせてやろうと思う。
そう、コイツの為を思ってするのであって、別にイラついて鉛玉を食らわせてやりたくなったからではない。
「では・・・行くぞ。どこまで食いついてこれるかな?」
私のその声を合図としてこの戦闘は更に苛烈となった。
暫く戦ってみたが、なかなか相手が捉えられない。
アイツの機体は火力は低いものの、此方の射撃をことごとく避け、カウンターにハープーンで攻撃してくる。
いくつか受けて分かったのだが、このハープーンは絶対防御が強く働く生身以外の部位に被弾した場合、そのまま突き刺さる様だ。
突き刺さると抜いて武器にできるのはいいが、
放置すれば機体の稼働は阻害され刺さる場所によっては機体から漏電が発生する様で戦いにくい事この上ない。
当たりどころが悪けば機体エネルギーバイパスが破損しそうだ。
そしてそれに追撃する様に環境が悪い。
レールカノンを使いたいが、バリアがない為封じざるを得ないのだ。
そうしなくてはならない理由としては、私の悪癖にある。
今朝、先日のことを冷静に思い返してみて気づいたことだが。
戦闘後にはアリーナのバリアが無くなっていた。
あの時は代表候補二人を相手取っていて気づいていなかったが、
教官が止めていなかったら、私は一般生を傷つけていたのだろう。
つまり、私には熱くなると周りが見えなくなる悪癖があるということだ。
その様な事に気づいてしまった以上殺人のリスクに目を瞑ってまで私は勝ちに拘りたいとは思えない。
私が兵器として作られたとしても思ってはならないのだ。
クロア大佐には甘いと言われるかもしれないがやり遂げてこそ、ボーデヴィッヒだ。
これが私の私であるための最後の砦だと思っている。
そんな兵器もどきの私にも目標が有る。
だから私はIS世界の厳しさを教えて、半端者を諦めさせて捨て石を減らす事だ。
これこそが私が私の矜持を賭してなさなければならないことだと思っている。
それが出来れば、教官は少しは楽になるだろうか?
私が教官の為に出来る、恩返しになれば良いのだが。
そう私は心の中で言って、この訓練にまた集中し直そうとした。
が、次の瞬間、横から邪魔が入った。
「それまで。・・・熱くなりすぎだ、馬鹿共」
そう教官から聞かされて、周囲を見回すといつのまにか地上付近にまで降りてきていた。
このような状況になっても自力で気付く事が出来ないとは軍人失格だ
もう少し視界を広げることの方を優先するべきだと強く思った。
このことについては後で考えてみるとして、今は一般生の教育に集中しなければ。
教官の犬などと皮肉られる私でも教官の雷など食らいたくはないのだ。