訓練を終えて、ひと段落した頃ある考えが浮かんだ。
試してみなければ分からないが、上手くいけば好敵手と言える存在が見つかるかもしれない。
その考えとは、二人目とそれと同等という三人目を呼んで、模擬戦をするというものだ。
この学園の生徒で訓練相手になり得る存在は少なそうだと感じていたが、
今回、円状制御飛行を実演した際に組んだ二人目。
コイツは思ったよりも骨がありそうだ。
あの時は教官から水を差されたが、このままでは消化不良である為、
本日の訓練はこれで切り上げて、勝負を挑んでこようと思う。
あの二人は確か隣のアリーナで模擬戦をしていたはずだ。
今から行って、模擬戦を受けてくれれば良いのだが・・・。
「月華宵雨とシャルル・デュノア。貴様らに頼みたいことがある。
・・・私と模擬戦をしてくれないだろうか?」
そう私が言った瞬間、周囲がざわめいた。
観戦していた二人目の妹は疲れるだろうからごはん作って待ってる。
と言って、去っていった。
大方、近くにいれば巻き添えを食らうと思ったのだろう。
今回はダメージレベルCまでする気は無いが、状況によっては周りを巻き込むだろうと予想されるので、好都合だ。
「それはタッグマッチで当たるかもしれない相手に手札を知られるリスクを承知で言っているのかな?」
少し荒い呼吸をしている、三人目がこう返してきた。
二人目は既に持ち直したというのに軟弱なことだ。
反射的にかまわないと返しつつ
頭の中で批判をしているなかで二つの不審点を発見した。
一つ目に、確かシャルル・デュノアはフランスの代表候補の筈、
荒い呼吸がここまで長く続くなぞ、訓練をしている代表候補としては有り得ないという点だ。
という事は体調が悪いか、何かで胸を圧迫しているということになる。
二つ目に男にしては体が角ばっていないという点だ。
むしろ・・・男装の麗人と言った方が違和感が無い。
・・・デュノア社の産業スパイか何かだろうか?
そうだとしたら大変だ、だが気付いた上で泳がせている可能性もある以上、デュノア本人に聞くのは避けるべきだろう。
バレた場合、自殺せよと命令されている可能性がある。
ということは教官に聞いてみるのが得策か。
早速連絡してこよう。
「教官にアリーナの移動許可を得て来る。少し待ってくれ」
「失礼する。織斑きょうか…先生はいらっしゃるか?」
「何用だ。お前が来るとは珍しいじゃないか」
「アリーナの移動許可をがいただきたくてやってまいりました」
(すいません ここから 手信号 会話する)
「それは構わないが・・・ちゃんと通知しておけよ」
(何か 問題でも 発生?)
「ありがとうございます。ある程度力を計ってきますね」
(三人目 男装 産業スパイ 可能性 泳がせる?)
ここまで手信号で会話すると教官が急に笑い出した。
「なるほど、それで来たのか。私が気づかないとでも?」
「・・・最新技術を見せていいかの指示を仰ぎに来ました」
「ふむ・・・場所を変える、ついて来い」
「・・・はい・・・了解・・しました」
教官に連れられて移動した先は反省部屋だった。
中に入って、盗聴器などが無いのを確認した後、教官は徐に話し始めた。
「まず、デュノアの事だが、あいつは白だ。
生徒の警戒心を検査する為に男装して入ってもらっている。
・・・ドイツ軍の情報網にかかってなかったのか?」
「確かに何か動きがあることは把握していましたが、
こちらはもっと厄介な状態になってしまいまして・・・。」
「ふむ・・・それは私に言っても構わないことか?」
「・・・心外ですね。織斑千冬の狗と影で言われる私でも、
話して良いことと悪い事の区別位は出来ます。
その上で話しているのですから、大丈夫です。」
「内容なのですが、ドイツのIS整備士の内の数人に出所不明の金が流れていた事です。
クロア大佐が捜査中に不審な人影を発見し、追跡をしましたが
撒かれたことから察するに、亡国企業の可能性が高いです。
事が発覚したら結果を述べますが他国にも同じような手が伸びている可能性が高いと思います」
「それは他国にも通知済みか?」
「クロア大佐が他のヴァルキリーには通知済みです」
「それなら良いが・・・。何かあったら遠慮なく言えよ?」
「それでは、これ以上は怪しまれそうなのでまた後で」
そう私は言って反省部屋から立ち去った。
アリーナに戻ると、目的の二人以外が誰も居なかった。
大方、怖気付いたのだろう。
目的の二人以外が居ないのなら好都合だ。
これならデュノアの本気も見ることが出来るだろう。
折角の機会だ、デュノアには素の状態で戦ってくれるように交渉してみようと思う。
「アリーナの移動許可が下りた。早速始めよう・・・と言いたいが、
私を恐れて貴様ら以外は帰ったようだからから素で接しても良いぞ」
そう私が言ってみたがデュノアは動じなかった。
そして「・・・やっぱり気づいてたか。
まぁ最初から騙せるとは思っていなかったけど」
と、言ってきた。
この言葉に返すとすればこうだろうと、私は口を開く。
「別に知られても問題は無いのだろう?
それならば折角の機会だ。私と本気で戦って欲しい」
そう私が言うと短くため息をついた後、一夏を鍛え直してくる。
と言って、デュノアは立ち去った。
「お互いハンデを付けない為に、今から始めようか。
シャルの事だし、手札を見たら卑怯だと考えただけだろうから」
そう月華宵雨が言ってから、私たちは離れた場所に陣取った。