Fate/cross wind   作:ファルクラム

110 / 120
タイトルの空白は誤字ではありません。

そこには死期が近づいた人には見えないと言う特殊な字で書かれております。

はい、嘘ですすいません(爆


第7話「          」

 

 

 

 

 

 

 

 

 手にした本のページを、ゆっくりとめくる。

 

 そのページ、1つ1つに書かれた内容を噛み締め、己の中へと刻み込んでいく。

 

 これは、少年自身が己に課した義務。

 

 そして、

 

 贖い続けなけれならない罪に他ならなかった。

 

 やがて、

 

「・・・・・・・・・・・・成程ね」

 

 読み終わった本のページを閉じると、少年は本棚の端に納める。

 

 これで、この本棚にある記録が、また一つ増えた事になる。

 

「でも、これで君は、また・・・・・・・・・・・・」

 

 少年は、ここにはいない、もう1人の少年に想いを馳せる。

 

 衛宮響(えみや ひびき)

 

 少年とは、切っても切れない縁で結ばれた少年。

 

 そして、決して返す事の出来ないほどの恩義ある少年。

 

「それでも、君は迷わない。全ては、美遊を守る為、だから」

 

 見上げる先。

 

 堆く収められた本が、螺旋のように並んでいる。

 

 この1つ1つが、既に失われた物であり、そしてやがては失われていく物。

 

「言うまでも無く、代償の無い奇跡は存在しない」

 

 だからこそ、少年は誓った。

 

「僕だけは、君の事を忘れない。大切な妹の為に戦ってくれている君の事を。それが、僕が君にしてあげる事が出来る、たった一つの事だから」

 

 その呟きは、哀しみを込めた音となって、やがて消えて行くのだった。

 

 

 

 

 

 背後で、崩れ落ちる音がした。

 

 全身を切り裂かれ、アヴェンジャーが床に膝を突く。

 

 その音を聞きながら、

 

「ん・・・・・・・・・・・・」

 

 響は二振りの刀を、腰の鞘へと納めた。

 

 次の瞬間、

 

「ッ!?」

 

 悲鳴を噛み殺しながら、響も床に膝を突いた。

 

 その小さな体には、ところどころ焦げた跡が見られる。

 

 先の激突。

 

 響の勝利が紙一重だった事は、少年の負ったダメージを見れば一目瞭然だった。

 

 響の鬼剣は確かにアヴェンジャーを切り裂いたが、アヴェンジャーの攻撃もまた響を霞めていた。

 

 最後の切り札を切って尚、紙一重。

 

 響の勝利は全くの偶然。コンマ以下のタイミングで、アヴェンジャーよりも先に響の攻撃が極まった為、辛くも掴んだ勝利だった。

 

 あと半瞬、タイミングがずれていたら、一敗地にまみれていたのは響だった。

 

 改めて、アヴェンジャーの恐ろしさが感じられる。

 

 前のめりに倒れそうになる響。

 

 その体を、

 

 横から伸びた細い腕が支える。

 

「響」

「ん、美遊?」

 

 驚く響に、美遊が笑いかける。

 

「お疲れ様」

「・・・・・・・・・・・・ん」

 

 ダメージに軋む体。

 

 だが、

 

 少女の笑顔を見るだけで、その疲れが癒されるかのようだった。

 

 その時、

 

 ザッ

 

 背後から聞こえた足音に、美遊に支えられながら振り返る響。

 

 対して、

 

 アヴェンジャーは既にボロボロになった足に力を入れて立ち上がると、響の方へと向き直った。

 

「まさか、俺の宝具を持ってしても止められないとはな。いったい、いかなる業を積めば、それだけの力を操れると言うのか?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 響の放った鬼剣は、アヴェンジャーが繰り出した疑似時間停止すら凌駕した。その事実が、アヴェンジャーにとっては驚愕にも値する事態だったのだ。

 

 尋ねるアヴェンジャーに対して、響は無言。

 

 バイザーの奥の瞳は、何もしゃべる事無くアヴェンジャーを見つめ続ける。

 

 何もしゃべる気は無い。とでも、言っているかのようだ。

 

 少年と睨み合うアヴェンジャー。

 

 その視線がふと、傍らに立つ美遊を見る。

 

「・・・・・・え?」

 

 復讐者の視線に戸惑う美遊。

 

 そこで、

 

「成程な」

 

 何かを悟ったように、嘆息するアヴェンジャー。

 

 人はそれぞれ、己の信じるものの為に戦っている。

 

 目の前の少年も、何か譲れない物を、その小さな背に背負っているのだ。

 

 ともあれ敗れた以上、敗者の義務を果たさなくてはならなかった。

 

「受け取れ、マスター」

「え?」

 

 アヴェンジャーはそう言うと、立ち尽くしている立香に向かって光を投げ渡す。

 

 広げた立香の手にすっぽりと収まったその光は、やがて寄り集まって一つの器を形成する。

 

 素人同然の立香でもわかる、膨大な量の魔力。

 

「これは、聖杯ッ!?」

 

 顔を上げて尋ねる立香。

 

 確かに、聖杯はアヴェンジャー自身が持っていると言っていた。

 

 だが、ここで渡してくるとは、思ってもみなかったのだ。

 

 対してアヴェンジャーは、ニヤリと笑みを見せる。

 

「元より、俺には不要の代物だ。お前なら、良い活用法を見つけられるだろうさ」

 

 アヴェンジャーは倒れ、聖杯も手に入った。

 

 間もなく、この監獄塔は崩壊を始める事だろう。

 

「アヴェンジャー・・・・・・」

「聊か、俺の描いたシナリオとは異なるが、それも致し方あるまい。あとはお前に任せるとしよう」

 

 どこか納得するように言って肩を竦める。

 

 そして、

 

 どこか、遠い目をする。

 

「・・・・・・・・・・・・所詮は、敗北者の愚かな夢でしかなかったがな」

「アヴェンジャー?」

 

 その背中に、どこか言いようのない寂寥感を感じ、声を掛けようとする立香。

 

 だが、

 

 少年の動きは、背後から聞こえて来た控えめな足音によって遮られた。

 

 振り返る一同。

 

 そこで、

 

「「あ」」

 

 チビッ子2人が声を上げる中、儚げな雰囲気の美しい女性が、よろけるように部屋に入ってくるのが見えた。

 

「メルセデスさん、無事だったんですかッ!?」

「ん、良かった」

 

 駆け寄る、美遊と響。

 

 地下で自分たちが逃げるのに手を貸してくれた女性。

 

 あの後、フェルナンに襲われたであろう彼女がどうなったか気になっていたのだが、その無事な姿に2人は歓喜する。

 

 対して、どうやらここまで苦労してたどり着いたらしいメルセデスも、2人の姿を見てホッと息をつく。

 

「良かった、お二人とも、ご無事でしたか」

「はい、メルセデスさんのおかげです」

「ん」

 

 駆け寄ってきた2人に笑顔を向けるメルセデス。

 

 次いで、視線を、2人の後ろに立つ立香に向けた。

 

「あなたが、お二人のお友達の方ですね。お話は伺っています。ご無事で何よりでした」

「いや、どっちかって言えば、俺が2人に助けられちゃったし」

 

 そう言って苦笑する立香。

 

 そんな彼の袖を、響がクイクイッと引っ張る。

 

「ん、そんな事、無い」

「響?」

「立香が、いたから、勝てた」

 

 実際、その通りだった。

 

 今の響の姿。

 

 この姿になる為には、響の単独では不可能だった。

 

 使うには、それこそ聖杯級の奇跡が必要となる。

 

 普通なら不可能な事だっただろう。

 

 だが、ここには美遊が居た。

 

 生まれながらにして聖杯である美遊。彼女がいれば、聖杯と同等の力を使う音ができる。

 

 だが、問題はまだある。

 

 美遊は、己の中にある聖杯の力を、自在に扱えるわけではない。現状では、聖杯の力を行使する為には、長く複雑な儀式が必要となる。

 

 その問題をクリアしたのが、立香の令呪だった。

 

 令呪とは、あらゆる問題に対し、行程を飛ばして結果を求める事が出来る。

 

 立香の令呪が美遊の中にある聖杯を動かし、その聖杯の力が、響の中にある潜在能力を引き出した。

 

 言わばこれは、3人が協力した結果の勝利だった。

 

「良かった。本当に・・・・・・」

 

 我が事のように、涙ぐむメルセデス。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界一面に、鮮血が飛び散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、伯爵が生涯を賭けた復讐劇は幕を閉じた。

 

 復讐対象者の1人は死に、1人は狂い、残る1人も生ける屍と化した。

 

 かつて自分を陥れた3人全員が、破滅へと転がり落ちたのだ。

 

 まさに、伯爵が望んだとおりになったのである。

 

 そして、

 

 伯爵には最後にもう一つ、やらなくてはならない事があった。

 

 約束の1か月。

 

 伯爵は青年を呼び出した。

 

 青年は、もはや伯爵を糾弾するような事はしなかった。

 

 ただ、約束通り、死ぬ事だけを望む。

 

 対して、伯爵は叛意を促す。

 

 自分の持つ莫大な財産。その全てを譲っても良い。思いとどまる気は無いか、と。

 

 だが、青年は力なく首を振る。

 

 そんなお金はいらない。ただ、あの娘が共にあってくれればよかったのだ、と。

 

 嘆息する伯爵。

 

 青年を反意させる事は、不可能である事を悟ったのだ。

 

 伯爵が差し出した毒薬を煽る青年。

 

 急速に、遠のく意識。

 

 その意識が途切れる直前、

 

 愛しい娘の幻影が見れた事が、せめてもの救いだった。

 

 

 

 

 

「何、が・・・・・・・・・・・・」

 

 突然の出来事に、茫然とする立香。

 

 目の前で起こった光景が、全く信じられなかった。

 

 それ程までに、自分の身に起きた事が信じられなかった。

 

 立香の目の前に、

 

 立ちはだかる男。

 

 アヴェンジャー。

 

 その、

 

 アヴェンジャーの胸を、

 

 メルセデスの手刀が貫いていた。

 

「あら、しぶといですわね。死にぞこないのくせに」

「嗤わせるな・・・・・・ネズミ風情が」

 

 吐き捨てるような口調で告げるメルセデスに、苦し気な口調で返すアヴェンジャー。

 

 響と美遊に至っては、状況が全く見えないまま困惑している。

 

 そんな中、メルセデスはアヴェンジャーの胸から手刀を引き抜く。

 

 崩れ落ちるアヴェンジャー。

 

 だが、

 

 追撃を仕掛けようとするメルセデスに、

 

 アヴェンジャーは魔力を振り絞るようにして黒焔を生み出し投げつける。

 

「チッ!?」

 

 舌打ちしながら、とっさに飛びのくメルセデス。

 

 だが、

 

 炎が僅かにかすり、美女を燃え上がらせる。

 

 一瞬にして燃やし尽くす炎。

 

 その下から、

 

 現れる、別の姿。

 

 赤いドレス姿に、顔は上半分を覆う仮面で隠した妖艶な女性。

 

 見覚えのある姿に、立香、美遊、響は驚愕する。

 

「お前はッ あの時のッ!!」

 

 声を上げる立香。

 

 忘れもしない。

 

 それは、ロンドンで戦った、あのアサシンだった。

 

「俺の前でその名(メルセデス)を名乗るか、愚か者めッ」

 

 吐き捨てるアヴェンジャー。

 

 既に立っている事すら辛いらしく、その場に倒れようとする。

 

 だが、

 

 横から伸びた手が、崩れ落ちようとするアヴェンジャーを支える。

 

「しっかりしろ」

「マスター・・・・・・お前」

 

 意外そうな顔で立香を見るアヴェンジャー。

 

 自分を裏切り、殺そうとした男を助ける少年。

 

 その姿が、アヴェンジャーには理解できなかった。

 

 だが、息つく暇も無く、状況は動く。

 

「聖杯をよこしなさいッ!!」

 

 鞭を振り翳し、迫るアサシン。

 

 だが、

 

「んッ!!」

 

 我に返った響が、駆けながら抜刀。アサシンに横合いから斬りかかる。

 

 一閃される白刃。

 

 その一撃を、鞭で防ぐアサシン。

 

 変幻自在な鞭の動き。

 

 その先端が、少年暗殺者を捉える。

 

 と思った。

 

 次の瞬間、

 

 少年の姿は、視界から消失する。

 

「クッ!?」

 

 舌打ちする仮面のアサシン。

 

 先にアヴェンジャーとの激突でダメージを負った響だが、それでも尚、高い機動力と戦闘力を維持してアサシンと対峙する。

 

 間合いの外にて、刀の切っ先を構える響。

 

 対して、アサシンは鞭を振り翳す。

 

「遅いわよッ!!」

 

 しなる鞭が、長く奔って響を狙う。

 

 大気を切り裂く、軌道無視の一閃。

 

 しかし、その先端が届く直前。

 

 響はその軌跡を見切り、

 

 僅かに後退して回避する。

 

「なッ!?」

 

 驚くアサシン。

 

 鞭はその特性上。最大限の威力を発揮するためには、振るう前に一度、手元に引き寄せる必要がある。その為、剣や槍に比べて、どうしても連続攻撃を行うには向かない。

 

 そして今、

 

 アサシンの鞭は伸び切った状態にある。

 

 これを一旦引き戻さなければ、彼女は再攻撃に移る事はできない。

 

 その隙を、

 

 響は見逃さない。

 

 床を蹴り加速する少年。

 

 3歩踏み込むごとに、切っ先は獰猛な獣の牙と化す。

 

「餓狼・・・・・・一閃!!」

 

 解き放たれる牙が、アサシンの胸に喰らい付く。

 

 刃はアサシンの胸を刺し貫き、悲鳴を上げる間もなく食いちぎる。

 

 その様子を見て、響は刀を鞘に納める。

 

 だが、

 

「倒したの?」

「ん。けど、手応え、無かった」

 

 響は刀を修めながら嘆息する。

 

 どうやら取り逃がしたらしい。

 

 逃げ足だけは早いらしい。

 

 だが、この場にあって撃退できたことは間違いなかった。

 

 と、

 

「終わったな」

 

 アヴェンジャーの口から、脱力したような声が漏れ出た。

 

 既に立っているのも辛いらしく、立香に支えられたまま座り込んでいる復讐者。

 

 先の響との戦いで致命傷を受けている、間もなく、消滅が始まる事だろう。

 

 彼が消滅すれば、この監獄塔も崩壊する事になる。

 

「なあ、アヴェンジャー」

 

 そんな中、

 

 立香は脱獄の「共犯者」に対し、語り掛ける。

 

「もしかして君は、俺を殺す気なんて、初めからなかったんじゃないか?」

 

 それは、立香の中で微かにあった疑問。

 

 思えば、アヴェンジャーの行動は矛盾に満ちていた。

 

 殺すと言いながら、その実、自分をここまで導き、更にはアサシンの手からは身を挺してまで守ってくれた。

 

 その事から、アヴェンジャーが、自分を殺す気など初めからなかったのではないか、と立香は考えたのだ。

 

 対して、

 

「少し、違うな」

 

 立香に支えられながら、アヴェンジャーは答えた。

 

「俺は試したかったんだ。自分が果たして、かつて俺を救ってくれたファリア神父のように、誰かを教え導く立場になれるかどうか、と言う事を」

 

 生前、終わりなき辛苦の果てに復讐を果たしたアヴェンジャー。

 

 だが、その心は、常にどこか満たされる事は無かった。

 

 復讐を果たしたとはいえ、結局は自分の思い描いた通りに成す事が出来ず、勝利を味わう事も出来なかった。

 

 それが、英霊となってもアヴェンジャーの心に刺さり続けていたのだ。

 

 そんな折だった。

 

 「魔術王」を名乗る者が接触してきたのは。

 

 魔術王はアヴェンジャーに聖杯を与え、カルデアのマスター抹殺を依頼したのだ。

 

 だが、

 

「一目でわかった。俺と、魔術王()は相いれない、とな」

 

 そこで、アヴェンジャーは考えた。

 

 もし、カルデアのマスターが取るに足らぬ男なら、殺して、この監獄塔に永遠に閉じ込めてしまおう。

 

 だがもし、自分の用意した運命を突破したなら。

 

 その時は・・・・・・・・・・・・

 

 その為に、あらゆる手を尽くした。

 

 捉えた、かつての復讐対象の魂を魔獣の中に押し込め、その上で監獄塔の特性を活かして永遠の責め苦を与え続けた。

 

 同時に、魔術王からの刺客としてやってきたアサシンも返り討ちにした。

 

 フッと、アヴェンジャーは自嘲気味に笑う。

 

「だが結局・・・・・・俺は勝者にはなれなかったらしい。しょせんは、蝙蝠を決め込んだ男の哀れな末路だ」

 

 そう言って嘆息したアヴェンジャー。

 

 その時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事ありませんッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如、声を上げた少女に、一同は驚いた視線を向ける。

 

 驚くのも無理はない。

 

 その少女の普段の言動から考えれば、あり得ざる光景だったのだ。

 

「み、美遊?」

 

 一番驚いている響が唖然とした声を上げる。

 

 そんな響に、クスッと笑いかける美遊。

 

 どこか大人びた印象のある笑い。

 

 これも、美遊らしからぬ行動だ。

 

 美遊はアヴェンジャーに向き直ると、真っすぐに彼を見据えた。

 

「お前は、いったい・・・・・・」

「この子には、無理を言って、一時的に体を貸してもらいました。こうでもしないと、あなたと話をする事もできませんでしたので」

 

 戸惑うアヴェンジャーに、美遊は続ける。

 

「伯爵、あなたはもうお忘れですか? 貴方が私を救ってくれた事を。あなたがいてくれたからこそ、私は救われる事が出来たのですから。だから、あなたが誰も導かなかったなんて嘘です!!」

 

 捲し立てるように告げる美遊。

 

 だが、

 

 その表情に、

 

 アヴェンジャーは、ある人物が重なるのが判った。

 

「お前・・・・・・・・・・・・まさか、エデ、なのか?」

 

 戸惑うように問いかけるアヴェンジャー。

 

 その問いに答えず、

 

 美遊はただ、アヴェンジャーの胸へと飛び込む。

 

「もう、これ以上、ご自分を責め続けるのはやめてください。あなたがどれだけ、優しい方であるかは、私が一番よく知っています」

「エデ・・・・・・しかし、俺は」

 

 少女の言葉を受け入れられず、言葉を詰まらせるアヴェンジャー。

 

 そんな彼を、少女は真っ直ぐに見つめる。

 

「この上、どうしても、ご自分を許せないとおっしゃるなら・・・・・・」

 

 言いながら、

 

 少女の瞳は、立香の方を見た。

 

「どうか、この方たちの力になってあげてください」

「エデ・・・・・・」

「あなたなら、できる筈です・・・・・・かつて、わたしを救ってくれた、あなたなら・・・・・・」

 

 その言葉を最後に、少女の意識が薄れて行く。

 

 崩れ落ちる美遊。

 

 その体を、立香へと預ける。

 

「・・・・・・俺が、お前を救った・・・・・・か」

 

 少女の寝顔を見詰め、嘆息する。

 

「違うだろ。俺を救ってくれたのは、お前だろうが」

 

 かつて、復讐を果たして擦り切れた自分。

 

 全ての目的を果たし、死を選ぼうとしていた自分を救ってくれた少女。

 

 その少女が、再び戻ってきて、自分を導いてくれた。

 

 ならば、

 

 自分は、彼女の願いを叶えてやらねばならない。

 

「世話になったな、マスター。この借りは、いずれ返す。その時まで死ぬなよ」

「アヴェンジャー・・・・・・」

 

 背を向けるアヴェンジャーに声を掛ける立香。

 

「また、会えるよな?」

「・・・・・・ああ、そうだな」

 

 振り返るアヴェンジャー。

 

 口元には、不敵な笑みを浮かべて告げる。

 

「ならばお前にも、この言葉を贈ろう」

 

 

 

 

 

 崩れ落ちた青年。

 

 その体を、娘は優しく抱き留める。

 

 娘は生きていたのだ。

 

 あの時、義母に殺されそうになった娘に、伯爵は独自に調合した薬を渡し飲ませた。それは、飲めば急速に意識を失い仮死状態となるが、暫くすると目を覚ます薬だった。

 

 あの時、彼女に薬を飲ませて仮死状態にする事で全ての目を欺いたのだ。

 

 青年に飲ませたのも、同じ薬だった。

 

 娘の世話は、奴隷少女に頼んでおいた。

 

 お陰で、今や2人はすっかり、仲の良い姉妹のようになっていた。

 

 伯爵は娘に懇願する。

 

 どうか、少女をあなたの本当の妹として引き取り、共に暮らしてもらえないか、と。

 

 だが、

 

 娘が答えるよりも先に、少女がそれを否定する。

 

 貴方無しで、これから生きていけと言うのですか? そんな事で、私が生きて行けると、本当に思っているのですか?

 

 糾弾する少女に、伯爵は困惑しながらも説得を試みる。

 

 君はまだ若い。私の事など忘れて幸せになるんだ、と。

 

 だが、少女は引き下がらなかった。

 

 貴方無しで生きて行くなんて考えられない。そんな事をするくらいなら、私は自ら命を絶つ、と。

 

 その言葉に、茫然とする伯爵。

 

 悪魔に魅入られ、自ら悪魔となった自分。

 

 多くの人々を不幸にし、幾人もの人々の命を奪った自分。

 

 その自分に対し、

 

 「人」に戻れ、と、神が言ったような気がしたのだ。

 

 口づけを交わす、伯爵と少女。

 

 その運命を受け入れる。

 

 少女と共に生きて行く。

 

 それは本当に、長い長い絶望が終わり、彼が幸せになった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 青年は目を覚ました。

 

 生きている事への驚き。

 

 そして、目の前にいる、愛する娘。

 

 その幸せを噛み締め、共に抱き合う。

 

 全てが伯爵の計画だった事を知り、彼は感謝する。

 

 その青年に、伯爵から手紙が届けられる。

 

 そこには、娘の祖父が、2人の結婚を心待ちにしている事。自身の財産の一部を、祝儀として2人に送る事。その代わりと言っては何だが、検事総長が持つ財産を、孤児院に寄付してほしい事が書かれていた。大きな不幸を知った人間だけが、より大きな幸福を得る事が出来る。2人の幸せを心から願っている。と、書かれていた。

 

 礼を言いたかったが、その時には既に、伯爵は少女を伴い、船で旅立った後だった。

 

 だが、

 

 手紙の最後には、こう書かれていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 光が、瞼に差し込む。

 

 眩しそうに、少しずつ目を開けると、そこがカルデアの医務室である事が判った。

 

「先輩ッ 目が覚めたんですねッ」

 

 飛び込んで来たのは、大切な後輩の顔。

 

 目に涙を浮かべたマシュが、立香の手を取って、そのぬくもりを確かめていた。

 

「先輩の目が覚めなかったときは、わたし、本当にどうしたら良いか分からなくて・・・・・・」

「ごめん、マシュ。心配をかけた」

 

 泣き止まない後輩を安心させるように、そっと頭を撫でる。

 

「響と、美遊は?」

「はい。お二人ともご無事です。今はドクターとダ・ヴィンチちゃんの診察を受けています。先輩の目覚めが一番最後でした」

 

 その言葉に、安堵する立香。

 

 これで、自分だけ目覚めていたりしたら、後味が悪いどころの騒ぎではなかった。

 

「待っていてください。今、凛果先輩とクロエさんにも伝えてきます」

 

 そう言って、医務室を出て行くマシュを見送る立香。

 

 その脳裏では、あの監獄塔で出会った男の事が思い浮かべられていた。

 

 その正体について、既に立香の中でも確信が出来ていた。

 

 彼は、かつて無実の罪で投獄され、この世のあらゆる絶望を呑み込んだ者。

 

 凄惨な復讐劇の果てに、希望へと立ち返った者。

 

 アヴェンジャー。

 

 モンテクリスト伯。

 

 またの名を、

 

 巌窟王エドモン・ダンテス。

 

 だが、

 

 恐らく、彼との縁は、これで終わりではない。

 

 その核心が、立香にはあった。

 

 彼は最後に、こう言った・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て、しかして希望せよ」      

 

 

 

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

罪過無間監獄シャトー・ディフ      終了

 




衛宮響(えみや ひびき) 深月(しんげつ)

【性別】男
【クラス】アルターエゴ
【属性】中立・中庸
【隠し属性】人
【身長】131センチ
【体重】32キロ
【天敵】??????

【ステータス】
筋力:B 耐久:D 敏捷:A+ 魔力:C 幸運:D 宝具:C

【コマンド】:AAQBB

【保有スキル】
〇新月
《宝具威力アップ(1ターン)、自身に回避状態付与(2回、1ターン)、スター多量獲得》

〇深淵
《自身のクイック性能大幅アップ(3ターン) NP獲得(30%)》

〇多重次元広域展開
《自身のスター集中アップ(3ターン)、自身のクリティカル威力アップ(3ターン)、攻撃力アップ(3ターン)》

【クラス別スキル】
〇対魔力
自身の弱体耐性アップ。

〇単独行動
自身のクリティカル威力をアップ。

【鬼剣】
 千梵刀牢(せんぼんとうろう)
《敵単体に超強力な攻撃・および攻撃力、防御力大ダウン(3ターン)》
??????


【宝具】
 盟約の羽織・深月
《自身の攻撃力アップ、宝具威力アップ、クリティカル威力アップ、スター発生率アップ(5ターン) アルターエゴへのクラスチェンジ》
 ??????

【備考】
 衛宮響の「最強形態」。宝具は「羽織」と銘打ってあるが、実際には洋装のロングコートに近い。本来、響単独の力で発動は不可能だったが、今回は藤丸立香の令呪と、朔月美遊の聖杯を併用する事で実現した。その姿はどこか、彼の騎士王に似ている部分もある、が。



水着沖田さんの真打は、第2再臨だと思っています。

はい、と言う訳で、今回の水着ガチャ。
本命は沖田さん。次がメルト狙い。
で、実際の戦果。

沖田さん×4
メルト×1

まず、120%満足できる結果だった。

おかしいのはここから。

青王×1
エルキ×1
婦長×1

で、

水着獅子王×0

何でさー

いや、別に獅子王はいらないから良いんだけど、これ、水着ガチャだよね? 何で水着星5が1騎も来ないで、他の星5が3騎も来るのか。せめて、沖田さんとメルト、もう1騎ずつ欲しかった。

それはそうと、プリヤ11巻、またも発売延期と言う事で、これは本気で、今後の執筆計画を見直す必要があるかな、と思っています。
あと、ひろやま先生に何かあったのでは、と少し心配しています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。