Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第5話「レジスタンス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 舞い降りた少女は、まるで天使のような可憐さを持っていた。

 

 流れるような銀の髪。

 

 やや薄紅の入った白い頬。

 

 愛くるしい瞳。

 

 およそ、人間離れしているようにさえ見える少女。

 

 ピンク色の衣装に、白いミニスカートが可愛らしさを引き立てている。

 

 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 

 響の姉にして、クロエと同一の存在。

 

 そして、

 

 先のロンドンで散った衛宮士郎の妹に当たる少女。

 

 その天使の如き少女が、カルデア特殊班の前に舞い降りた。

 

 そして、

 

「わあッ ミユッ 久しぶりッ!!」

「えっと・・・・・・・・・・・・」

 

 飛び出してきた少女にいきなり手を取られ、美遊は戸惑ったような声を上げる。

 

 無理も無い。

 

 イリヤにとってはどうか知らないが、美遊にとっては完全に初対面の女の子に、いきなりフレンドリーに接したりしたら、戸惑うのも無理ない話で合った。

 

「元気だったッ!? あ、ミユも、今はサーヴァントなんだッ わたしはね、キャスターなんだよ。ミユは何?」

「え、えっと、セイバー?」

「そっか。うんうん、似合ってるね、ミユ!!」

「あ、ありがとう・・・・・・・・・・・・」

 

 捲し立てるイリヤに、美遊は完全に押され気味になる。

 

 いきなり距離感ゼロで接しられ、どう反応して良いのか困っているのだ。

 

 流石に見かねて、弓兵少女が割って入った。

 

「ちょっとストップ、ストーップッ イリヤ、落ち着きなさいって」

「ほえ? あ、クロ、いたんだ?」

「あんたね・・・・・・・・・・・・」

 

 ノーテンキなイリヤのコメントに若干イラっとしつつも、取りあえず現状把握の為に、説明せねばならなかった。

 

「ごめんなさい」

 

 と、

 

 クロエが口を開く前に、美遊の方がイリヤに向けて言った。

 

「私は、あなたの事は知らないの。その・・・・・・別の、存在だから」

「別の、存在?」

「並行世界って事よ。イリヤだって、今はサーヴァントみたいだし、判るでしょ?」

 

 クロエが呆れ気味に説明する。

 

 イリヤがいた世界では、イリヤと美遊は親友同士だった。

 

 だが、美遊が居た世界では、残念ながら2人が出会う事は無かったのだ。

 

「だから、ごめんなさい」

 

 申し訳なさそうに告げる美遊。

 

 対して、

 

 イリヤの方も、少しばつが悪そうに美遊を見る。

 

「いや、うん。何か、私の方こそごめん。ちょっと空気読めなくて」

 

 そう言って苦笑するイリヤ。

 

 言いながら、美遊に向き直る。

 

「改めて、よろしくね」

「うん」

 

 差し出された手を、握る美遊。

 

 何となく、この子となら上手くやっていける。

 

 そんな風に、美遊は思うのだった。

 

 と、

 

「ほらほら、それからもう1人、忘れちゃいけないのがいるでしょ」

 

 そう言って指し示すクロエ。

 

 その先には、茫洋とした顔で佇む少年暗殺者の姿があった。

 

 響に向き直る向けるイリヤ。

 

 弟に視線を向け、

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銃と言う物は精密機械だ。

 

 たとえ外見上、どこも壊れていないように見えても、内部の毛ほどの傷が性能を狂わせることもある。

 

 それどころか、湿気や陽気によっても左右されやすい。

 

 まして、長距離狙撃もこなすライフルともなれば、ほんのわずかな整備ミスで、本来の性能を損なってしまう。

 

 故に、入念な整備は必要不可欠なのだ。

 

 愛用のライフルを解体し、その部品一つ一つを丁寧に磨いていく。

 

 キメラは一切の無駄のない手つきで作業をこなす。

 

 一心に整備を進める少女。

 

 その背後に、足音も無く大英雄が立った。

 

「器用なものだな」

 

 感心したような声掛けに対し、少女は一瞬、整備の手を止める。

 

 しかし、すぐに作業へと戻る。

 

「・・・・・・・・・・・・慣れていますから」

 

 後ろに立つカルナに対し、振り返る事無く返す。

 

 生前より、銃に接する機会が多かった少女。

 

 たとえ自身の専用武器でなくとも、整備に抜かりは無かった。

 

 整備に集中しつつも、キメラは背後のカルナに意識を向ける。

 

 この大英雄が、誰かに自分から話しかける事は少ない。故に少女は、内心で軽く驚いていた。

 

 いったい、何をしに来たのだろう?

 

 銃を整備する手を止めずに待っていると、カルナの方から口を開いた。

 

「やるなら、もう少しうまくやるんだな。それとも存外、謀は苦手なタイプか?」

「・・・・・・・・・・・・何の話でしょうか?」

 

 冷静を装いながら、白を切る。

 

 とは言え、そう来ることは大英雄には予測済みの事だった。

 

「エジソンはどうか知らんが、ブラヴァツキー辺りはとっくに気付いているぞ。もっとも、それでお前を止めない辺り、奴なりに現状に対して思うところもあるのだろうが」

 

 言うだけ言うと、踵を返して去って行くカルナ。

 

 そこで初めてキメラは背後を振り返り、大英雄の背中を見送る。

 

 同時に、

 

 酸素が喉を通るのを感じた。

 

 総身から流れる汗が、一瞬で冷えた空気を取り込む。

 

 張り詰めた空気に、少女はずっと呼吸を止めざるを得なかったのだ。

 

 役者が違いすぎる。

 

 生前、潜った死線なら、決してカルナに劣っていないとキメラ自身、自負している。

 

 しかし、およそ実力において、少女はカルナの足元にも及ばない事を自覚せざるを得なかった。

 

 しかし、

 

 自分の行動に気付いて尚、泳がせている辺り、カルナ自身に何らかの思惑があるのか、あるいは何か別の理由があるのか。

 

 キメラには、大英雄の行動にうすら寒い物を感じずにはいられなかった。

 

 だが、

 

 それでも、キメラ自身、戦いから身を引く訳にはいかなかった。

 

 ここで自分たちが諦めれば、全てが無に帰してしまう。

 

 だから諦めない。

 

 生前、仲間達と共に、最後まで戦い抜いたように。

 

「許せない物は、許せないから」

 

 誰にともなく呟くと、キメラは再び銃の整備へと戻って行った。

 

 一方、

 

 キメラの部屋を出たカルナは、ふと足を止めて空を仰ぐ。

 

 青い空に、1羽の鳥が円を描いて舞っているのが見える。

 

 更にその先。

 

 鳥が飛ぶ空よりも遥か先では、巨大な円環が不気味な沈黙を保って浮かんでいるのが見えた。

 

「・・・・・・・・・・・・終わりの刻が来たぞ、エジソン」

 

 この場にいない大統王へ、そっと語り掛ける。

 

「あとはどう幕を引くか。せめて、犠牲が最小限になるには、如何に行動すれば最善か・・・・・・」

 

 呟く声は、ただ、青い空に溶けるように消えて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連れてこられたのは、峡谷に作られた小さな村だった。

 

 ここで彼らは、アメリカ軍、ケルト軍双方に対するレジスタンスを組織していた。

 

 ケルト軍の暴虐に抵抗を示しつつも、エジソンの唱える新たなアメリカのやり方に賛同できない者は、意外な程多く存在していたのだ。

 

 とは言え、圧倒的兵力を誇るケルト軍や、無尽蔵に機械歩兵を繰り出す事が出来るアメリカ軍に比べ、レジスタンスはあまりにも小勢でしかない。

 

 故に、現状彼らは、ケルト、アメリカ両陣営に対しゲリラ戦を中心に作戦を展開、状況が変化するのをひたすら待ち続けていたと言う事である。

 

 幸い、仲間内のサーヴァント戦力は充実しており、量はともかく質的な面ではケルトにもアメリカにも見劣りはしない。

 

 散発的な戦闘なら、充分、両陣営を圧倒出来た。

 

「そんで、ようやく待ちに待った『変化』が現れた訳だ」

「それが、君達って訳」

 

 ロビンの言葉を引き継ぐように言った少年が、軽い調子で笑みを見せる。

 

 一見すると、その辺の街中でも普通に歩いていそうなこの少年。いかにも女性向けしそうなマスクをしている。

 

 しかしその正体は、恐らく西部で最も有名なガンマン。

 

 ビリー・ザ・キッド。

 

 本名はウィリアム・ヘンリー・マッカーティ・ジュニア。

 

 アウトローよろしくまっとうな生き方はしておらず、強盗や殺人など、様々な悪事に手を染める一方、西部一とも言われた早撃ちの技術と、甘いマスクから現代においても高い人気を誇り、唯一、現存する肖像写真にはオークションで2億円もの値段がつけられた。

 

 一方のロビンフッドも、こちらもある意味「元祖アウトロー」とも言うべき存在。

 

 イギリスはシャーウッドの森に住んでいたとされる義賊で、獅子心王リチャード1世が十字軍遠征に加わり、不在となった状況に付け込んで政権を奪取したジョン失地王の圧政に抵抗し、ゲリラ戦を行ったとされる人物。

 

 ビリーとロビン。

 

 共に権力に末路わず、己の信じる道を貫いた反英雄と言う点で共通している。

 

 因みに、どちらも悲劇的な最期を迎えた点も一緒だったりするのは皮肉だった。

 

 そして、クラスは共に弓兵(アーチャー)となっている。

 

「さ、着いて来なよ。リーダーも待ちくたびれているだろうしさ」

「リーダーって?」

「フォウ?」

 

 どうやら、レジスタンスを束ねる存在がいるらしい。

 

 思っている以上に、レジスタンスは組織として確立されているらしかった。

 

「さ、案内するよ。こっちこっち」

 

 先頭を歩くビリー。

 

 立香達も顔を見合わせると、少年ガンマンに続いて、村の中へと入っていくのだった。

 

 だが、

 

 この時、立香も、

 

 そして、特殊班の他のメンバーも、気付いてはいなかった。

 

 想像を絶する恐怖が、

 

 再び自分たちの身に襲い掛かろうとしている事を。

 

 

 

 

 

 ビリーに案内されてやって来たのは、一際大きな、一軒の家だった。

 

 元は村長が住んでいた家なのだが、村長はアメリカ軍とケルト軍の戦闘に巻き込まれて死亡したため、以後はレジスタンスの本部として使用させてもらっているのだとか。

 

「リーダー、帰ったよ」

 

 ビリーの陽気な声に顔を上げたのは、褐色の肌を持つ落ち着いた雰囲気の青年だった。

 

 深い知性を宿した双眸は優し気に光り、頭に付けた鳥の羽が、どこかしゃれた雰囲気を見せている。

 

「やあ、よく来てくれた」

 

 青年は、笑顔で一同を迎え入れる。

 

 人を安心させる、温和な物腰。

 

「あの、あなたは?」

「そうだな。名乗らなければ信用もされまい」

 

 マシュに問われ、褐色の青年は居住まいを正す。

 

「私の名前はジェロニモ。真名は他にあるのだが、そちらはあまり知られていないからね。故に、今この場ではジェロニモと名乗らせてもらおう」

「ジェロニモッ アパッチ族の戦士、そして精霊使い(シャーマン)の、ですね」

 

 静かに告げるマシュを、ジェロニモは穏やかな目で頷きを返す。

 

「精霊使いを名乗るのは、おこがましいにも程があるがね」

 

 ジェロニモ。

 

 北米に実在した原住民であるアパッチ族の精霊術師(シャーマン)にして戦士。

 

 アパッチ語で「ゴヤスレイ(欠伸をする人)」の本名が示す通り、元々は温厚で穏やかな性格をしていたが、母、妻、子供たちをメキシコ軍に惨殺された事で復讐の鬼と化す。

 

 その戦いぶりはすさまじく、少数の部隊を率いてアメリカ軍やメキシコ軍を翻弄。末期には、彼が率いる僅か35人の部隊を殲滅するのに、アメリカ軍は5000人の兵力を投入したとも言われる。

 

 もし彼の手元に、まとまった数の兵力が存在したなら、アメリカの歴史、ひいては白人優越主義の歴史は大きく変わっていたかもしれなかった。

 

「ロビンやビリーから聞いているかもしれないが、我々の置かれた状況は決して楽観できない。西ではエジソン率いるアメリカ軍が、東ではケルト軍が幅を利かせている状態だ」

 

 ジェロニモたちは、その両者に対して抵抗する意思を示している。

 

 ケルト軍はそもそも、一般人に対する配慮などしていない。目に付いた街は蹂躙し、略奪と暴行の限りを繰り返した後、一切何も残さず虐殺し尽くす非道ぶりを見せている。

 

 一方のアメリカ軍はと言えば、こちらはエジソン主導の下、一見すると秩序だった行動を見せており、当然ながら虐殺の類は一切行っていない。

 

 しかし、エジソンは生き残った一般人を、強制労働で酷使する政策を打ち立てている。何より彼の政策は、人理焼却を見過ごす事が大前提となっている。

 

 ケルトに与するなど論外だが、エジソンに賛同する事も出来ない。

 

 そう判断したジェロニモたちは、こうして抵抗活動を続けていたわけである。

 

「他にも、何人かサーヴァントがいたのだが、彼等は我々に対する協力も拒み、何処かへ去ってしまった。よって、現状、レジスタンスは辛うじて抵抗を続けている状態だった」

 

 とは言え、如何にサーヴァントを多数揃えたとは言え、アメリカ軍もケルト軍も莫大な物量を誇っている。一方のレジスタンスは、戦力と言えるのは、ほぼサーヴァントのみ。自然、抵抗も下火にならざるを得なかった訳である。

 

 しかし、聖杯に選ばれ、この時代に召喚された英霊である以上、人理焼却阻止を諦める訳にはいかなかった。

 

「ひとつ、質問してもよろしいですか?」

「何ですかな天使殿? ああ、いや、茶化すのは良くないな。申し訳ない、続けてくれ、ミズ・ナイチンゲール」

 

 尋ねるナイチンゲールに、少しだけおどけた様子を見せるが、すぐに真顔に戻り、ジェロニモは咲きを促した。

 

「私の記憶が正しければジェロニモ、あなたはかつて、この国と戦った人間のはず。この時代が修正されれば、あなたはまた、敗北した戦士として扱われるでしょう。それでも良いのですか?」

 

 聖杯戦争における英霊召還とはある意味、サーヴァント達にとって禁断の果実に等しい。

 

 万能の願望機である聖杯さえ手に入れば、あらゆる願いが叶うのだ。

 

 死した己の身体に息吹を送り込む事も、そして、自らが歩んだ歴史を修正する事すら不可能ではないかもしれない。

 

 ましてかジェロニモは、アメリカ軍に敗れて捕虜になった後、半ば見世物のように扱われた屈辱の晩年を持つ。

 

 エジソンに与し、歴史の修正を諦めれば、その屈辱の過去を消し去る事も不可能ではない。

 

 だが、

 

「構わないのだよ、私は」

 

 ジェロニモは変わらず、穏やかな口調で言った。

 

「勝利も敗北も、所詮は流れゆく歴史の中の、ほんの小さな点に過ぎない。だが、この時代を潰すと言う事は、私の流した血が、私の同胞が流した血が無為になると言う事だ。何かを無かった事にするのは簡単だ。まして、それが自分の不利益になるなら猶更な。それでも、それを堪えるのが戦士と言う物。『無かった事にする』だけでは、小狡いコヨーテだ」

 

 皮肉にも程があるがね。

 

 そう言って、苦笑するジェロニモ。

 

 対して、ナイチンゲールは納得したように頷く。

 

「そうですか。ならば、今は味方と考えてよさそうですね」

 

 少なくとも、理想論を振り翳し戦線を拡大するエジソンよりは、目の前の穏やかな戦士の方が、ナイチンゲールには信用できる様子だった。

 

 その時だった。

 

「遅いぞジェロニモッ いつまで余達を待たせる気だッ」

「アイドルを出待ちさせるなんて、会場スタッフとしては失格その物よ!!」

 

 突如、奥の間に続く扉が開き、2人の少女が姿を現した。

 

 だが、

 

「あッ?」

「え?」

「ウソ・・・・・・」

「フォウッ」

 

 その姿を見て、思わず立香達は息を呑んだ。

 

 どちらも美しい少女たちだ。

 

 1人は後頭部で纏めた金色の髪に、どこか愛嬌と威厳を兼ね備えた少女。髪を純白のヴェールで包み、ハイレグレオタード状の白い衣装に身を包んでいる。ゆったりとしたガウンが、どこか花嫁衣裳を連想させる。

 

 もう1人は、こちらも整った顔立ちながら、カラフルなシルクハットに、裾広がりなスカートが特徴の可愛らしいステージ衣装。背中には一対の蝙蝠の羽を持ち、お尻からは尻尾が伸びている。

 

「ね、ネロッ!?」

「エリザ、何でいるのッ!?」

「フォウフォウッ」

 

 素っ頓狂な声を上げる藤丸兄妹。

 

 立香の肩に乗ったフォウも、明らかに驚いた声を発している。

 

 ネロ・クラウディウスとエリザベート・バートリ。

 

 かつて共闘した2人の英雄が、今、時代を超えて目の前に立っていた。

 

「うむ、久しいな、立香、凛果。このような異郷の地で再び出会えて、余もうれしく思うぞ」

「ほらね言ったでしょ。絶対に驚くって。大成功ね」

 

 満面の笑顔を見せるネロとエリザベート。

 

 そんな少女たちの様子に、ジェロニモは頭をやれやれとばかりに嘆息する。

 

「3日ほど前に2人そろって押しかけて来てな。『いずれカルデアを名乗る者達が来るから、ここにいさせろ』とか言ってな。まあ、結果的に間違いではなかった訳だが」

「うむ。立香よ、そなたたちならば、必ずやジェロニモたちと合流するであろうと信じておったぞ」

 

 共に戦ったからこそ分かる信頼。

 

 カルデアは、

 

 藤丸立香は、ケルトにもエジソンにも与せず、第3の道であるレジスタンスと歩みを共にすると、ネロもエリザベートも、信じたからこその行動だった。

 

 そして、

 

 彼女達の信頼を裏切らなかったからこそ、立香達は今、彼女達との再会を果たしていた。

 

「それにしても、元気そうで何よりだわ」

「うむ。これはあれだな、再会を祝して宴を行わねばなるまい」

「良いわね、流石ネロ。考える事は私と一緒ね」

 

 笑顔で頷きを少女たち。

 

 その姿は、まことに微笑ましく、また強力なサーヴァントの戦線加入は、大変喜ばしくもある。

 

 だが、

 

 なぜだろう?

 

 立香は己の中の警戒を司る部分が、最大限の警鐘を鳴らしている事を自覚していた。

 

 何と言うか、

 

 何か致命的な事を忘れているような、

 

 ここで思い出さなければ、それこそ命にかかわるような、

 

 そんな得体の知れない、不気味な緊迫感。

 

「と言う訳で、あたし、歌うわ!!」

「うむッ 我らの声に聞き惚れるが良い!!」

 

 次の瞬間、

 

 全てを思い出した。

 

 とっさに、止めに入る。

 

「チョッ 待・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

ボエェぇェェェェェェェェェェ

ホゲェぇェェェェェェェェェェ

 

 

 

 

 

 遅かった。

 

 鳴り響く、死の超音波。

 

 空間そのものを破壊する地獄の響き。

 

 美しい物と美しい物をかけ合わせ、どす黒く染まる。

 

 かつて、

 

 ローマ帝国を一夜にして壊滅寸前まで追い込んだ、最凶にして最恐にして最狂のアイドルユニット。

 

 その名も「Theまぜるな☆キケン」が、この新大陸の地に再臨した。

 

「グッ・・・・・・お・・・・・・」

「ひ、ひさしぶりに・・・・・・き、く・・・・・・」

「ド・・・・・・フォ・・・・・・」

 

 床の上でのたうち回るカルデア特殊班。

 

 勿論、ジェロニモたちも同様、床に死屍累々のシカバネを築きつつある。

 

「なッ・・・・・こ、これは・・・・・・」

「綺麗な色と綺麗な色、が合わされば、黒くなるって事かな?」

「あー 何かこれ、トラウマですわ」

 

 そんな状況にも気付かないまま、ネロとエリザベートのアイドル2人は、実に気持ちよさそうに歌い続けるのだった。

 

 

 

 

 

「な、何か、すごい歌声が聞こえるんだけどッ!?」

 

 初めて聞く、ドラゴンですら撃ち落とせそうなほどの怪音に、イリヤが仰天した声を上げる。

 

 いったい、何が起きているのか?

 

 すわっ 敵襲かと身構える。

 

 だが、

 

「い、いや、気にしないで、本当に・・・・・・」

 

 諦念交じりに、美遊が止める。

 

 少女たちの中で唯一、ネロ、エリザベート双方に会った事がある美遊は、何が起きたのか正確に理解していた。

 

「まさか、あの2人も来ていたなんて・・・・・・」

 

 頭痛がする。

 

 まあ、ネロもエリザベートも相当な実力者である事は過去の戦いで判っている。あの2人が戦列に加わってくれるなら、頼もしいことこの上ない。

 

「2人の歌声で戦闘不能にならなければ良いんだけど」

 

 そこは、天に祈るしかなかった。

 

「それでね、ミユ」

「な、なに、イリヤスフィール?」

 

 勢い込んで話しかけてくるイリヤに、美遊は少し押され気味になる。

 

 イリヤからすれば美遊は親友かもしれないが、美遊からすれば出会ったばかりの他人に過ぎない。

 

 それを、こうも距離感ゼロで迫られれば、勝手が違って当然だった。

 

 だが、

 

 イリヤは美遊に、自分と、自分の世界で一緒だった「美遊」について、様々な事を話してくれた。

 

 イリヤはどうやら話し上手らしく、聞いているだけで美遊も、まるでその場にいるような錯覚を覚える程だった。

 

 同時に、並行世界の自分は、そんな事までしていたのか、と恥ずかしいやら呆れるやら。

 

 特に、イリヤと出会った当初は、随分ととっつきが悪かったと聞き、思わず嘆息したくなった。

 

 自分はそこまで付き合いは悪くないと思っている。

 

 思いたい。

 

 多分。

 

 それはさておき、

 

 美遊はどうしても気になっている事があり、イリヤに向き直った。

 

「あの、イリヤスフィール、ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「『イリヤ』で良いよ」

 

 苦笑しながらイリヤが訂正する。

 

「ずっとそう呼ばれていたし、それに長いでしょ、私の本名?」

「じゃ、じゃあ、イリ、ヤ?」

 

 若干、呼びにくさを感じつつも、言われた通りにする美遊。

 

 そのまま本題に入る。

 

「あなたは、響の事は覚えてないの?」

「それなんだよねー」

 

 首を傾げるイリヤ。

 

 あの再会の時、

 

 響を見たイリヤは、ただただ首を傾げるばかりで、彼の事は知らないと言った。

 

 いったいなぜか?

 

 姉が弟の事を知らないとは。

 

「クロは、知ってるんだよね、あの、響って子の事」

「うーん、まあ」

 

 話を振られたクロエの反応も、歯切れが悪い。

 

 そのクロエにしても以前、美遊に語った通り、響に関する記憶が所々欠落している。一応「弟である」と言う事は認識しているのだが、それ以上の事はきれいさっぱり忘れている状態だった。

 

「そういうミユはどうなのよ?」

「わ、私?」

「この中で、(あいつ)と一番付き合いが長いのは、ミユって事になるでしょ。何か聞いてないの?」

 

 言われて、

 

 美遊は自覚する。

 

 そう言えば、これまで長く共にあり、多くの戦場を潜り抜け、相棒とも呼べる存在になった少年。

 

 その響について、とうの美遊自身、何も知らない事を。

 

 愕然とする。

 

 いったい、彼は何者なのか。

 

 それまで、共に戦ってきた少年の存在が、急に不気味に思えてくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村は左右を峡谷に囲まれており、更には山間部の街道に位置している為、平野部からは殆ど認識する事が出来ない。

 

 ましてか村は、正式な地図にすら載っていない。出入りにさえ気を遣えば、アメリカ軍にもケルト軍にも発見される恐れは無かった。

 

 また、村には前後にそれぞれ入り口がある他、いくつか村人以外は知り得ない細い抜け道も存在している。

 

 万が一、敵の襲撃を受けたとしても脱出は容易。

 

 村は小規模だが、攻めるに硬く守るに易い、天然の要害であると言えた。

 

 とは言え、大規模な戦闘になれば、危険である事に変わりはない。

 

 その為、村人の大半は、既に村を捨て、アメリカ軍が統治する都市部へと逃れている。

 

 現在、村に残っているのは、レジスタンスの構成員の他は、協力を申し出てくれた村人だけだった。

 

 立香達は現在、ジェロニモと会談中。美遊、イリヤ、クロは久しぶり? に会ってガールズトーク中。

 

 自然、手持ち無沙汰になった響は、1人で村内をぶらぶらと歩きまわっていた。

 

 イリヤは、響の事を覚えていなかった。

 

 だが、無理も無い。

 

 なぜなら、

 

 こうなる事は、もうずっと昔、遥か以前から判っていた事。

 

 自分でそうすると決めたのだ。

 

 だから、後悔など微塵も無かった。

 

 ない、はずだった。

 

 だが、

 

《寂しい物は寂しい、ですかね?》

「・・・・・・・・・・・・ルビー?」

 

 振り返った先。

 

 そこには誰もいない。

 

 少なくとも「人」は。

 

 響の視線の先に浮かぶ、空飛ぶヒトデ。

 

 ではなく、イリヤが使っているステッキの、先端部分の星だった。

 

 彼女はただのステッキではない。人格を持ったれっきとした魔術礼装である。

 

 イリヤが「魔法少女」としての力を振るう事が出来るのは、彼女のアシストがあったればこそだった。

 

《驚きましたよ。まさか、こんな所で響さんと会えるとは。クロさんや美遊さんがいたのもびっくりですが、やっぱり一番は響さんですかね》

「ん、ルビーも元気そうで何より」

 

 言ってから、響は続ける。

 

「ルビーは、覚えてる訳だ」

《そりゃそうですよ。何と言ってもこちとら、『万華鏡(カレイドスコープ)』なんていう、御大層な異名で呼ばれるジジィのお手製ですからね。並行世界での出来事はだいたい把握できます》

 

 少年が何を言いたいのか。

 

 そして、

 

 少年の身に何が起きているのか。

 

 把握しているのは、恐らくルビーだけだった。

 

《そんな事より、良いですか、皆さんに言わなくても?》

「ん、別に、良い」

 

 問いかけるルビーに、響は淡々と告げる。

 

 答えはあの時、

 

 英霊になると決めた時に、既に出していたのだ。

 

 故に、響に退路は無い。

 

 ただ、燃え尽きるその瞬間まで、前に進み続けるのみだった。

 

《まあ、響さんがそれで良いなら、ルビーちゃん的には何も言う事は無いんですけど》

 

 やれやれとばかりに羽? を竦めるルビー。

 

 ルビー自身、響がこうした返答をする事は、初めから判っていた様子だった。

 

《まあ、辛い事があったら言ってくださいね。愚痴の聞き役くらいにはなってあげますから》

 

 そう告げるルビー。

 

 対して、

 

 響はジトーッとした目を、ルビーに向ける。

 

「何か、ルビーが優しい。ヒトデのくせに」

《ヒトデじゃないですゥ 星ですゥ》

 

 失礼な事を言うショタっ子に、ルビーが抗議の声を上げる。

 

 その時だった。

 

 ザッ

 

「ん?」

《どうしました?》

 

 微かに聞こえた音に、響は視線を巡らせる。

 

 見つめる先にあるのは、響達も入って来た村の入り口。

 

 響が視線を向けた先に。

 

 そこに、1人の少年が倒れているのが見えた。

 

「あれはッ!?」

《急患ですかッ すぐに婦長さんを呼んできますねー!!》

 

 村の中に飛んで行くルビーを見送り、響は倒れている少年へと駆け寄る。

 

 美しい少年だった。

 

 幼さの残る整った顔立ちに、燃えるような赤い髪が、長く揺れている。

 

 インドか中国当たりの民族衣装と甲冑を合わせたような、特徴的な格好をしている。

 

 もし「勇者」と呼べる存在がいるのなら、この少年こそがそうに違いない。そう思える程に、少年は精悍だった。

 

 だが、その勇者の少年が今、瀕死の重傷を負って地に倒れていた。

 

「ん、しっかりッ!!」

 

 慌てて抱き起す響。

 

 その振動が刺激になったのだろう。

 

「う・・・・・・シー・・・・・・タ」

 

 微かな呟きと共に、少年はうっすらと目を開くのだった。

 

 

 

 

 

第5話「レジスタンス」      終わり

 




オリジナルサーヴァント

【性別】女
【クラス】アーチャー
【属性】中立、混沌
【隠し属性】人
【身長】143センチ
【体重】52キロ
【天敵】??????

【ステータス】
筋力:D 耐久:D 敏捷:C 魔力:E 幸運:A 宝具:B

【コマンド】:BBCCA

【保有スキル】
〇??????

〇??????

〇??????

【クラス別スキル】
〇単独行動

【宝具】 
〇??????

【備考】
 エジソン率いるアメリカ軍に身を置く、「キメラ」を名乗る少女。銃器の扱いに詳しく、狙撃の腕も百発百中を誇っている。極度の無口で殆ど自身の事をしゃべろうとしない為、エジソンたちも、その正体については知らない。ただ、銃に関わる生活をしていた事だけは確かなようだ。



プリヤ11巻の発売日が、とうとう「未定」になってしまった今日この頃。

さて、どうするか。

FCWはそもそも、FCSとの連動が大前提になっている訳で、その為には少なくとも、プリヤ本編でVSエインズワース戦に決着が着いてくれない事には書きようがないのです。

このままじゃ、確実にどこかで行き詰る事になる。

困った。いや、マジで。

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