Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第9話「交錯する剣閃」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨大な地響きが、大地を揺るがす。

 

 「それ」が一歩歩くごとに、瓦礫と化した街その物が崩れていく印象があった。

 

 騎兵(ライダー)マルタの宝具「愛知らぬ哀しき竜よ(タ ラ ス ク)」。

 

 それは生前、マルタ自身が鎮めたと言う悪竜タラスク。

 

 神獣リヴァイアサンの子として生を受けながら幼い頃に捨てられ、以来、ローヌ川の畔に住み着き暴れては、近隣住民に恐れられたと言う。

 

 そこで、悪竜討伐の為にやって来た人物こそが、聖マルタであった。

 

 戦いの末、タラスクを鎮める事に成功したマルタ。

 

 タラスクもまた、マルタの説得を聞き入れ、大人しく従う道を選んだ。

 

 だが結局、タラスクはその後、恨みを持つ人々に殺されたと言う。

 

 しかし、その事を哀れんだマルタは生涯、タラスクを守護霊として連れ歩いたと言われている。

 

 そのタラスクを、マルタは宝具として召喚したのだ。

 

 迫りくる、小山の如き巨体。

 

 その足元を、

 

 響は凛果を抱えて走る。

 

「ちょーッ!! 来る来る来る!!」

「ウニャァァァァァァァァァァァァ!?」

 

 タラスクの足を、高速で駆けながら回避する響。

 

 だが、

 

 悪竜が踏み込むたびに大地が揺れ、足元が掬われそうになる。

 

 地面その物が、跳ねるかのような振動。

 

 殆ど、地震の根源が足を生やして歩いているような物である。足元にいる響達からすれば堪ったものではなかった。

 

 もう泣きそうである。

 

「あれガメラ!? ガメラ!?」

「いやー、どっちかって言うとアンギラスとかなんじゃないかなッ!?」

 

 言ってる傍から巨大な脚が大地を踏み、アサシンの少年の体が容赦なく宙に浮きあがる。

 

 投げ出される、響と凛果。

 

 暢気に怪獣談義やってる場合じゃなかった。

 

「うわわわッ!?」

「ちょ、ちょっとーッ!?」

 

 何とか空中で体勢を立て直すと、着地に成功する。

 

 素早さでは響が断然勝っているが、相手は何しろあの巨体である。

 

 響が10歩掛かる距離を、タラスクは1歩で詰めてくる。純粋な駆けっこでは距離を取れない。

 

「何とかなんないの響ッ このままじゃやられるわよ!!」

「ん、無理ッ 相性悪すぎ!!」

 

 あんな巨体相手に、刀一本ではどうにもならないのは明白である。

 

 唯一、勝機があるとすれば。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 響の視線が、タラスクの頭の上に立つマルタを見やる。

 

 タラスクは竜ではあるが、同時にマルタが振るう宝具でもある。つまり、マルタさえ倒す事が出来れば、同時にタラスクも撃退できることになる。

 

 彼女を直接討つ事が出来れば、勝機もあるのだが。

 

 しかし、凛果を抱えている状況では、それもできない。せめてマスターの身の安全だけでも確保しない事には。

 

「響、降ろしてッ 私も走るから!!」

「ダメッ 追いつかれる!!」

 

 自分が響の足枷になっている事は、凛果も理解している。

 

 この暗殺者の少年にフリーハンドを与える為には、自分が離れるべきなのだ。

 

 だが、それも出来ない。

 

 サーヴァントである響の足ですら、辛うじて回避できている程度なのだ。凛果がタラスクの進撃から、逃れられるとは思えなかった。

 

 その時だった。

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

 咆哮と共に、その巨大な口を開くタラスク。

 

 口内には、マグマの如き炎の塊が見える。

 

「ちょッ まさか、あれ吐く?」

「嘘でしょーッ!?」

 

 絶句する、響と凛果。

 

 あんな物を吐かれたら、それこそ骨も残らないだろう。

 

 タラスクの上で、マルタが勝ち誇ったように笑みを浮かべる。

 

「これで、チェックメイトよ!!」

 

 言い放つと同時に、腕を振るうマルタ。

 

 同時に大口を開いたタラスクが炎を吐き出そうとした。

 

 その時だった。

 

「そうだッ」

「何ッ 何か浮かんだ?」

 

 叫んだ響に、藁にも縋る想いで凛果が尋ねる。

 

 今は、何でも良いから、あの怪獣モドキを止める手段が欲しかった。

 

 そんな中、響の中では思考が走る。

 

 あのタラスクと言う巨竜は、もともとマルタが鎮めたと言う。

 

 マルタはあの通りの美人である。

 

 つまり、タラスクは美人に弱い(はず)。

 

「ん、凛果が色仕掛けで誑かす・・・・・・無理か」

「ふざけんなァ!! あと『無理』って何だ『無理』ってェェェェェェ!!」

「ん、何か、ごめん」

「謝るなァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 ギャーギャーと言い合う主従。

 

 割と余裕なようにも見える。

 

 が、

 

 現実問題として、背後から迫るタラスクは止まらない。

 

 巨大な足音と共に迫ってくる。

 

「んッ!!」

 

 このままじゃ埒が明かない。

 

 イチかバチか、攻めに転じるか?

 

 響がそう思った。

 

 次の瞬間、

 

「ヤァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 気合と共に、飛び込んでくる白き花の如き剣士。

 

 白いドレスのスカートを靡かせて、美遊はタラスクの鼻っ面に斬りかかった。

 

 体表に激突する剣閃。

 

 だが、

 

 当然、効果は無い。

 

 美遊の剣は悪竜の固い表皮に弾かれ、少女の体は空中でバランスを崩す。

 

 だが、美遊は諦めない。

 

 落下しながら空中で体勢を立て直すと、すかさず、廃墟と化した民家の屋根に着地、再び跳躍してタラスクに斬りかかった。

 

 少女の剣が、タラスクの鼻先を霞める。

 

 美遊の攻撃により、機を逸したタラスクは、そのまま小さな少女に翻弄される。

 

 その間に、凛果を抱えた響は、どうにか安全圏まで逃れる事に成功していた。

 

「ん、ここまで来れば」

 

 凛果を下ろしながら、響は一息つく。

 

 タラスクから一定距離離れる事は出来た。ここまで来れば、もう安心なハズである。

 

 と、

 

 そこへ、屋根を伝う形で駆けてきたエリザベートが、2人の元へと駆け寄って来た。

 

「響、小ジカ、無事よねッ!?」

「ん、エリザ、こっち」

「何とかね。けど、怖かった~」

 

 地面にぺたんと座りながら、安堵のため息を吐く凛果。

 

 あんな怪獣もどきに追いかけられれば、そりゃ怖いだろう。

 

 だが安心もしていられない。

 

 まだ美遊が戦っている最中だし、何よりマルタを倒さない事には事態は解決しないのだから。

 

 刀を取る響。

 

 上げた眦は、尚も暴れまわっているタラスクを睨み据える。

 

「ん、エリザ、凛果お願い」

「良いけど、あんたはどうするのよ?」

 

 訝るエリザ。

 

 対して響は、腰に差した刀の柄に手をやる。

 

 その姿を見て、凛果も眦を上げる。

 

 自らのサーヴァントが戦場に戻ろうとしている。

 

 ならば、信じて送り出すのも、マスターとしての務めだった。

 

「響、お願いね」

「ん」

 

 凛果の言葉に頷く響。

 

 同時に、戦場に戻るべく地を蹴った。

 

 

 

 

 

 空中を蹴って加速する美遊。

 

 黒髪のショートポニーが風に舞い靡く中、少女は白き流星のように斬りかかる。

 

「ハッ!!」

 

 真っ向から振り抜かれる剣閃。

 

 しかし、

 

 少女の手には、硬質な感触と共に痛みが走る。

 

 同時に美遊の体は、投げ出されるように弾き戻される。

 

「っ!?」

 

 顔を顰める美遊。

 

 やはり、タラスク相手にいくら攻撃を仕掛けても効果は無い。

 

 これまで戦ってきたワイバーンとは、そもそもからして次元の異なる相手だった。

 

 と、

 

 美遊に向けて、魔力弾が放たれる。

 

「クッ!?」

 

 着弾前に跳躍して回避する美遊。

 

 だが、

 

 魔力弾は執拗に放たれ、美遊は後退を余儀なくされる。

 

「私を忘れないでよね!!」

 

 タラスクの頭の上で魔力弾を放ちながら叫ぶマルタ。

 

 その間に、タラスク自体も美遊へと襲い掛かる。

 

 振るわれる強大な前肢。

 

 マルタの攻撃に一瞬、気を取られた美遊はタラスクへの対応が遅れる。

 

「グッ!?」

 

 タラスクの前蹴りを、とっさに掲げた剣で受け止める美遊。

 

 剣は悪竜の爪を辛うじて防ぎ止める。

 

 だが、衝撃までは殺しきれなかった。

 

「ああッ!?」

 

 大きく吹き飛ばされ、宙に舞う美遊。

 

 最早、バランスを取り戻すだけの余裕はない。

 

 そんな美遊に対し、錫杖を真っすぐに掲げるマルタ。

 

「・・・・・・ごめんなさいね」

 

 短い呟きと共に、魔力弾が放たれる。

 

 閃光は真っ直ぐに美遊へと向かう。

 

 直撃は免れない。

 

 そう思った。

 

 次の瞬間、

 

 横合いから飛び出して来た影が、かっさらうようにして美遊を抱きかかえると、マルタの射線上から飛びのいたのだ。

 

「響ッ!?」

「ん、間に合ったッ!!」

 

 凛果をエリザベートに預けた後、戦場に引き返してきた響。

 

 間一髪。空中に投げ出された空中で美遊の体をキャッチする事に成功したのだ。

 

 だが、

 

「響、まだ来る!?」

「ッ!?」

 

 美遊の警告に、振り返る響。

 

 果たしてそこには、

 

 再び大口を開け、「砲撃」体勢を整えたタラスクの姿がある。

 

「やれッ!!」

 

 マルタの号令と共に、吐き出される炎。

 

 その一撃が、空中の響と美遊に襲い、追い打ちを掛かる。

 

「クッ!?」

 

 舌打ちする響。

 

 とっさに魔力を走らせ、空中に足場を作ると、蹴り込んで跳躍する。

 

 刹那、

 

 炎は2人のすぐ脇を駆け抜けていく。

 

 直撃は免れる、響と美遊。

 

 だが、衝撃までは殺せない。

 

 2人はそのまま、地面に向けて急速に落下していく。

 

「ん!!」

 

 とっさに、美遊を抱え込む響。

 

 同時に、少しでも衝撃を和らげるべく、空中でバランスを取る。

 

 次の瞬間、

 

 2人は民家の天井を突き破る形で落着した。

 

 衝撃で床に叩きつけられる2人。

 

「痛たたたたたた」

 

 ややあって、体を起こす美遊。

 

 どうやら、民家の屋根が良い感じにクッションになったらしく、ダメージは殆ど無い。

 

 と、

 

「そう言えば、響ッ!!」

 

 自分を救ってくれた少年の事を思い出し、周囲を見渡す美遊。

 

 だが、響の姿は見えない。

 

 まさか、ここに落ちる前にはぐれてしまったのか?

 

 そう思った。

 

 その時、

 

「む・・・・・・むぐぐぐ」

 

 突然、聞こえてきた、くぐもったような声。

 

 その声は、

 

 美遊のスカートの中、

 

 座り込んでいる、お尻の下から聞こえてきている。

 

 実はこの時、

 

 美遊は仰向けに倒れた響の顔面の上に座り込むように落下していたのだ。

 

「キャッ!?」

 

 思わず、その場から飛びのく美遊。

 

 どうやら響は最後まで、美遊を庇おうとしたらしい。その結果、彼女の下敷きになってしまったのだ。

 

「お、ごめんなさい響ッ その、大丈夫?」

「ん、な、何とか・・・・・・」

 

 頭を振りながら、辛うじて答える響。どうやら、思ったほどにはダメージは無いらしい。

 

 ところで、

 

「響・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・ん?」

 

 互いに妙な間の沈黙をもって言葉を交わす2人。

 

 美遊はやや上目使いに響を見て、響は僅かに視線をそらしている。

 

 気まずい空気。

 

 ややあって、

 

「その・・・・・・・・・・・・」

 

 美遊の方から口を開いた。

 

「見た?」

 

 何を、とは言わない。

 

 何しろ、あの体勢である。主語抜きでも十分言葉は通じる。

 

 対して、

 

「・・・・・・・・・・・・見てない」

 

 目を逸らしたまま答える響。

 

 だが、顔がほんのり赤くなっているのは気のせいだろうか?

 

「・・・・・・ふーん」

 

 そんな響に、疑惑の眼差しを向ける美遊。

 

 そして、

 

「それで、何色だった?」

「白・・・・・・あ」

 

 あっさり語るに落ちる響。

 

 何と言うか、嘘を吐く事が超絶へたくそだった。

 

「・・・・・・やっぱり見たんだ」

「ごめんなさい」

 

 スカートを押さえた美遊が、ジト目で響を睨む。こちらの顔も、ほんのり赤く染まっていた。

 

 その時だった。

 

 鳴り響く地鳴り。

 

 その音が、徐々に近づいてくるのが判る。

 

「これはッ」

「ん」

 

 頷き合うと、廃墟を飛び出す美遊と響。

 

 果たしてそこには、

 

 進撃してきたタラスクと、その頭の上に陣取るマルタの姿があった。

 

「そろそろかくれんぼは終わりよ。わたしも暇じゃないしね」

 

 殆ど勝利が確定したかのように告げるマルタ。

 

 対して、響と美遊も、それぞれ剣を構えて対峙する。

 

 しかし、圧倒的な力を誇るタラスクを前に、殆ど手も足も出ない状況である。

 

 現状、あの悪竜を倒す事は難しい。

 

 しかし、諦める訳にはいかない。

 

 自分たちの大切なマスターを守るためにも。

 

 そんな子供たちの態度に、嘆息するマルタ。

 

 どうやら、説得に応じるような相手ではないと悟ったようだ。

 

「・・・・・・・・・・・・仕方ないわね」

 

 呟きながら、腕を掲げる。

 

 同時に、タラスクが攻撃態勢に入った。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

「やらせませんわ!!」

 

 

 

 

 

 涼やかに響く声。

 

 同時に、

 

 タラスク上のマルタ目がけて、きらきらと輝く物が投げつけられた。

 

「クッ これはッ!?」

 

 とっさに打ち払うマルタ。

 

 それは薔薇の花だった。

 

 だが、ただの薔薇の花ではない。

 

 魔力によって構成されたガラスの薔薇。

 

 咲き誇る薔薇が、次々とマルタへと襲い掛かる。

 

「クッ 鬱陶しい!!」

 

 攻撃を振り払おうとするマルタ。

 

 だが、

 

 そのせいで一瞬、タラスクの制御が疎かになる。

 

 進撃が鈍る悪竜。

 

 その一瞬の隙を突くように、飛び出して来た影がある。

 

「そこまでだ、哀しき竜よ。その歩み、ここで止めてもらおう!!」

 

 振り下ろされる剣。

 

 その一撃が、タラスクの額を大きく斬り裂く。

 

 苦悶の咆哮を上げるタラスク。

 

 その様子を、響と美遊は茫然と眺めている。

 

「いったい、何が・・・・・・・・・・・・」

 

 突然の状況に、理解が追い付かない。

 

 と、その時、

 

 背後から腕を引かれ、響は振り返った。

 

「ん?」

「さあ、今の内よ。私の仲間が頑張っている内に」

 

 美しい少女だった。

 

 銀色の長い髪を丁寧にセットし、赤いドレスのような衣装と、大ぶりな帽子を被っている。

 

 場所が場所だけに、フランス人形の如き印象があった。

 

 その時、

 

 天上に届くかと思われる美しい音色が、戦場へと流れだした。

 

 耳を打つ音色は、聞く者の心を優しく癒していくようだ。

 

 否、

 

 それだけではない。

 

 その楽曲の音色を聞いたタラスクが、明らかに怯みを見せている。

 

 まるで、突如として起こった不調を訴えるかのように、悪竜は苦悶を浮かべているのが判る。

 

 その様子を見て、

 

「ん、美遊」

「え、響?」

 

 声を掛けられ、振り返る美遊。

 

 響の視線は、尚も迫るタラスクを見上げている。

 

 今も、動きを鈍らせているタラスク。

 

 しかし、マルタが必死に制御を取り戻そうとしているのが判る。

 

 しかし、先程から降り注ぐガラスの薔薇による攻撃がマルタの集中を乱し、思うに任せていない。

 

 仕掛けるなら今だった。

 

「ここで決める」

「ええ」

 

 頷き合う、響と美遊。

 

 そんな2人の様子を見て、少女はクスッと笑う。

 

「存分におやりなさい。援護は私に任せて」

 

 そう言って優しく笑う少女。

 

 その言葉を背に、響と美遊は一気に跳躍した。

 

 

 

 

 

 暴れるタラスク。

 

 その上にいるマルタは、必死に制御を取り戻そうと躍起になっている。

 

 しかし、

 

 執拗に攻撃を仕掛けてくる謎の騎士。

 

 更に、先程から鳴り響く美しい楽曲。

 

 これも、ただの楽曲ではない。恐らく音色には魔力が込められている。

 

 この曲が、マルタとタラスクの体を不可視の力で拘束し、動きを鈍くしているのだ。

 

「クッ タラスク、振りほどいて!!」

 

 指示を送るマルタ。

 

 その声に答えるように、タラスクも咆哮を上げる。

 

 だが、

 

 その前に、

 

 飛び込んで来た小さな影が2つ。

 

 響と美遊だ。

 

 長いマフラーを靡かせて、刀を振り翳す響。

 

 純白のスカートをひらめかせ、華麗に剣を振り上げる美遊。

 

 正面から迫る暗殺者の少年少女を前に、マルタはとっさに攻撃態勢に入ろうとする。

 

 だが、

 

「遅いッ」

「これでッ!!」

 

 放たれた魔力弾を、左右に分かれて回避する響と美遊。

 

 互いに息ぴったりな連携を前に、マルタの攻撃は空を切る。

 

 距離を詰める、アサシンとセイバー。

 

 同時に、

 

 二振りの刃が、同時に奔った。

 

 マルタを斬り裂く、交差された剣閃。

 

「ッ!?」

 

 息を呑む聖女。

 

 膝を突くマルタ。

 

 響と美遊は、それぞれの剣を振り翳した状態で動きを止めている。

 

 ややあって、

 

「・・・・・・・・・・・・フッ」

 

 マルタは力なく笑う。

 

 その笑顔は涼やかで、どこか憑き物が落ちたようにも見える。

 

「ようやく、終わったわね・・・・・・ったく、聖女に虐殺なんてやらせるんじゃないわよ」

 

 悪態を吐くマルタ。

 

 これでやっと、望まぬ状況から解放される。

 

 そんな思いが見て取れた。

 

 顔を上げるマルタ。

 

 その双眸が響を、そして美遊を見詰める。

 

「・・・・・・礼は言わないわよ。けど、まあ、迷惑かけたお詫びに、一つだけ助言してあげる」

「ん?」

「何ですか?」

 

 何だろう?

 

 顔を見合わせる、響と美遊。

 

 そんな2人を見ながら、マルタは続けた。

 

「あんた達が追い求める奴は、たぶんこの世界にはいないわよ」

「どういう事ですかッ?」

 

 勢い込んで尋ねる美遊。

 

 だが、マルタはそれ以上、何も語ろうとはせず、静かに目を閉じる。

 

「気を付けなさい・・・・・・あなた達が見ている闇は、あなた達が思っている以上に深く、濃いわよ」

 

 その言葉を最後に、光の粒子となって消滅するマルタ。

 

 同時に、タラスクもまた、主人に対する嘆きを発するように吠えると、その巨体を消滅させていく。

 

 マルタ、タラスク主従の敗北と消滅。

 

 これをもって、カルデア特殊班は、フランス南部の解放が完了するのだった。

 

 

 

 

 

第9話「交錯する剣閃」      終わり

 

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