Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第14話「黒の衝撃」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響が異常に気付いたのは、何体めかのワイバーンを斬り倒した直後だった。

 

 手にした刀を血振るいし、次の目標へと向かおうとした時、

 

 突如、彼方で轟音が巻き起こり、思わず足を止める。

 

「・・・・・・何、あれ?」

 

 振り仰ぐ、視界の彼方。

 

 その先には、巨大な竜がオルレアン城を突き破る形で姿を現していた。

 

 離れていても分かるその異様なまでの巨体。

 

 凶悪すぎる顔。

 

 まさに伝説にある通りの邪悪さで、ファブニールはその場に存在していた。

 

「まずい・・・・・・・・・・・・」

 

 近付いて来た骸骨兵士を斬り捨てながら、響は呟く。

 

 ここまで順調に進撃してきたカルデア特殊班だが、ジャンヌ・オルタ軍が切り札であるファブニールを出した事で、一気に形成は逆転しつつある。

 

 何とかしないと、一気に押し返される事にもなりかねない。

 

「みんなッ」

 

 ともかく、いったん凛果達と合流した方が良いだろう。

 

 そう考えて、駆けだそうとする響。

 

 だが、その時、

 

「雑兵では、食い足らぬか、小僧?」

「ッ!?」

 

 突然の声に、振り返る響。

 

 その視線の先には、

 

 槍を携えて、ゆっくりと歩いてくる男の姿がある。

 

 幽鬼の如き形相をした黒衣の男は、鋭い双眸で響を睨み据える。

 

「剣を取れ。光栄に思うがいい、余が、直々に相手をしてやろう」

 

 言いながら、槍を構えるヴラド。

 

 その姿を見ながら、響は苛立たし気に瞳を細める。

 

 ジャンヌ・オルタ軍は切り札であるファブニール投入と時を同じくして、狂化サーヴァント達をも出撃させてきたのだ。

 

 邪竜に続き、サーヴァント達の出現で、趨勢は完全にジャンヌ・オルタ軍に傾きつつある。

 

 ゆっくりと、歩み寄ってくるヴラド三世。

 

 対して、

 

 響は刀の切っ先をヴラドに向けて構える。

 

 正直、ここで足止めを喰らっている暇は無い。一刻も早く、凛果たちと合流しなければならない。

 

 だが、

 

 それを簡単に許してくれるほど、ヴラド三世が甘い相手出ない事も分かっていた。

 

「どけ」

 

 低く、呟くように告げる響。

 

 だが、

 

 その視線には、相手を射抜くような殺気が込められているのが判る。

 

 次の瞬間、

 

 両者、同時に仕掛けた。

 

 

 

 

 

 ファブニールの圧倒的な威容が、平原にいる全てを圧倒している。

 

 その見上げてもなお足りない巨体。

 

 破滅的な狂相が、立香達を睨み下ろす。

 

「ッ 来るぞ!!」

 

 叫ぶ立香。

 

 その視界の先で、口元に巨大な炎を蓄えるファブニールの姿がある。

 

 こちらに攻撃を仕掛けるつもりなのだ。

 

「皆さんッ 私の後ろに!!」

 

 事態を察したマシュが、前へと出て大盾を掲げる。

 

 次の瞬間、

 

 ファブニールの巨大な(あぎと)より、炎があふれ出る。

 

 対して、

 

 マシュは真っ向から迎え撃つように、盾を構えた。

 

「真名、偽装登録、宝具展開!!」

 

 マシュの魔術回路が活性化すると同時に、最大限に魔力込められた盾が輝きを放つ。

 

 同時に、ファブニールも炎を吐き出す。

 

 燃え盛る大気。

 

 巨大な炎は空間そのものを燃やし尽くし、進路上にいたワイバーンや骸骨兵士をも巻き込んでいく。

 

 味方すら巻き込む様は、正に狂戦士の在り方に通じている。

 

 対して、盾を持つマシュの手にも力がこもる。

 

 マシュの宝具は、未だ完璧ではない。

 

 真名解放は不可能。その能力を十全に発揮する事は出来ない。

 

 だがそれでも、

 

 今、みんなを守れるのは自分しかいない。

 

 その想いが、マシュを突き動かす。

 

「仮想宝具、疑似展開!! 人理の礎(ロード・カルデアス)!!」

 

 展開される魔力の盾。

 

 透明な壁が、空間を隔てるように出現する。

 

 そこへ、ファブニールの放った炎が襲い掛かった。

 

 激突する両者。

 

「クッ!?」

 

 強烈な熱量を前に、思わず顔をしかめるマシュ。

 

 展開された魔力の盾が歪むのが判る。

 

 それでも、マシュは必死にファブニールの炎を防ぎ続ける。

 

 その様子を、ジャンヌ・オルタは離れた場所から眺めていた。

 

「思ったよりやりますね。ですが・・・・・・・・・・・・」

 

 手を振り上げる。

 

 その背後から、2つの影が飛び出すのが見えた。

 

「クッ マシュさん!!」

 

 マシュに向かって飛び掛かろうとする存在に、いち早く気付いたのは美遊だった。

 

 手にした剣を横なぎに振るい、飛び掛かってきた相手を切り払う。

 

 後退する両者。

 

 だが、

 

「あなた達は・・・・・・・・・・・・」

 

 白百合の剣士は絶句して相手を見やる。

 

 1人は黒いマントを羽織った痩身の男。顔には不気味なマスクを着け、虚ろな目が焦点を合わせずこちらを見詰めている。そして手には、ナイフのように鋭い爪が異様な長さで存在している。

 

 そして、

 

 もう1人は更に異様だった。

 

 全身を漆黒の甲冑で包んだ男だ。手には巨大な鉄の棒を持っている。

 

 どちらも、不気味な出で立ちである事は間違いなかった。

 

「うちの新人はやる気があるのが取り得でして。勢い余って殺してしまったりしたらごめんなさい」

 

 2騎のサーヴァントと対峙する美遊を見下ろしながら、笑みを浮かべて告げるジャンヌ・オルタ。

 

 だが、彼女に斬り込もうにも美遊の行く手を、サーヴァント達が阻んでくる。

 

「ああ、クリスティーヌ、クリスティーヌ、美しき君よッ さあ、共に命尽きるまで踊りあかそうじゃないか!!」

 

 完全に狂った調子で、謳うように語り掛けてくる仮面の男。

 

 繰り出された爪の一撃を、後退する事で辛うじて回避する美遊。

 

 だが、

 

 逃げた先で、もう一方のサーヴァントが待ち構える。

 

 全身を漆黒の甲冑に身を包んだ騎士は、手にした鉄棒を槍のように振り回し、美遊へと襲い掛かってくる。

 

 横なぎに襲い来る鉄棒。

 

「ッ!?」

 

 対して、とっさに剣を繰り出して迎え撃つ美遊。

 

 激突する両者。

 

 次の瞬間、

 

 美遊の体は大きく吹き飛ばされて後退した。

 

「クッ!?」

 

 膝を突きながらも、どうにか着地する美遊。

 

 その視界の先では、自身に向かってくる黒騎士の姿がある。

 

「何て威力ッ!?」

 

 地に手を突きながら、体勢を立て直そうとする美遊。

 

 対して、

 

 黒騎士は、仮面のバイザー越しに美遊を睨みつけてくる。

 

「■■■Ar■■■■■■thur■■■!!」

 

 おどろおどろしい声が、仮面の下から聞こえてくる。

 

 その存在と相まって、発散される不気味な印象。

 

 対峙する美遊は、思わず怖気を振るって相手を見やるのだった。

 

 

 

 

 

 一方、

 

 美遊が2騎のサーヴァントを同時に相手にしている頃、

 

 エリザベートもまた、因縁の相手と対峙していた。

 

 放たれる魔力弾。

 

 自身に向かって飛んで来る闇色の弾丸を、アイドル少女はとっさに上空へ跳び上がって回避。

 

 同時に、自身に襲い掛かった相手を見やる。

 

「来たわね」

 

 鋭い視線を向ける先。

 

 そこには、豪奢なドレスを着込んだ仮面の女性が、見上げるようにして立っている。

 

 エリザベート・バートリとカーミラ。

 

 互いに同一である存在が、殺気に満ちた視線を空中でぶつけ合う。

 

「今日こそ、その憎らしい存在を消し去ってやるわ」

「それはこっちのセリフよ!!」

 

 互いに交わされるセリフの応酬。

 

 同一であるが故に、お互いの存在を許す事は出来ない。

 

 まさに鏡合わせとでも言うべき状況である。

 

「行くわよ」

 

 囁くように告げるエリザベート。

 

 次の瞬間、

 

 翼を羽ばたかせて急降下。

 

 同時に、勢いを付けて槍を繰り出す。

 

 繰り出される刃。

 

 その一撃を、錫杖で打ち払うカーミラ。

 

 だが、エリザベートもすぐに槍を引き戻すと、旋回しながらカーミラへ叩きつける。

 

「フンッ!!」

 

 対して、エリザベートの攻撃を回避しつつ、懐へと飛び込む。

 

 繰り出される爪の一撃。

 

 その攻撃を、エリザベートは辛うじて槍の柄で防ぐ。

 

「クッ!?」

 

 舌打ちしつつ後退するエリザベート。

 

 対して、カーミラは敢えて追撃を仕掛けず、口元に笑みを浮かべる。

 

「・・・・・・・・・・・・むかつくわね」

 

 低い声で呟くエリザベート。

 

 同時に槍を返すと、再びカーミラに襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 ここに来て、カルデア特殊班の動きは完全に抑え込まれた形である。

 

 各サーヴァントは、ジャンヌ・オルタ軍の狂化サーヴァント達の襲撃を前に苦戦を強いられている。

 

 とてもではないが、ファブニールを相手にしている場合ではなくなっていた。

 

 そして、

 

 巨大な地鳴りを上げながら、ファブニールの進撃が開始される。

 

 その進む方向にあるのは・・・・・・

 

「まずいッ」

 

 事態を察し、立香は舌打ちする。

 

 ファブニールが進撃する先。

 

 その方向には、先日の戦場となったフランス軍砦がある。

 

 あそこには今、ジル・ド・レェ元帥以下、フランス残党軍が駐留している。

 

 もし砦にファブニールが突入したら、今度こそフランスの命運は決してしまう。

 

「クソッ 何とかしないと!!」

「先輩、ここは私達がッ!!」

「お任せください!!」

 

 大盾を持って、飛び出していこうとするマシュと清姫。

 

 現状、特殊班の中で自由の動けるサーヴァントは彼女達だけしかいない。

 

 だが、

 

「させませんッ!!」

 

 飛び出して来たジャンヌ・オルタが呪旗を一閃。

 

 とっさに防御に入るマシュ。

 

 盾の表面にジャンヌ・オルタの攻撃が当たり、思わず顔をしかめるマシュ。

 

 対照的に、自身の絶対的な優位を確信しているジャンヌ・オルタは、口元に笑みを浮かべている。

 

「邪魔はさせません。今度こそ、あなた達は終わりです」

「クッ!?」

 

 ジャンヌ・オルタの攻撃を防ぎながら、悔し気に唇を噛み占めるマシュ。

 

 そこへ、清姫が攻撃を仕掛ける。

 

 迸る炎。

 

 だが、その一撃をジャンヌ・オルタは、手にした呪旗を振るって弾いてしまう。

 

「ぬるいですね。その程度の炎では、我が身を燃やし尽くした焔には到底及びませんよ」

 

 嘲るようなジャンヌ・オルタの言葉。

 

 対して、マシュと清姫は、間合いを取る形で対峙を続けている。

 

 その間にも、ファブニールは確実に歩みを進めていくのだった。

 

 

 

 

 

 マシュと清姫はジャンヌ・オルタに、美遊は新たに現れた2騎のサーヴァントに、エリザベートはカーミラに、そして響はヴラド三世と、それぞれ交戦状態に入っている。

 

 サーヴァント全員が完全に動きを封じられた中、視界の彼方で巨竜がゆっくりと進撃していくのが見える。

 

 その歩みは、決して早いと言う訳ではない。

 

 だが、その一歩が確実にフランスを滅亡に導こうとしている。

 

 その事に対し、立香は焦りを覚えずにはいられなかった。

 

「どうしよう兄貴、このままじゃ・・・・・・」

「クッ・・・・・・・・・・・・」

 

 凛果の言葉を聞きながら、唇を噛み占める立香。

 

 その思考は、現状で打てる手をどうにか模索していく。

 

 今この状況の中、サーヴァント達の手を借りる事は出来ない。

 

 ならばどうする?

 

 どうすれば良い?

 

 考えた末に、

 

「・・・・・・・・・・・・凛果、こっちを頼む!!」

「え、ちょっと兄貴ッ!?」

 

 妹の声を背に、立香は走り出す。

 

 自分にできる事など高が知れている。

 

 しかしそれでも、戦える手段があるのに戦わないのは、臆病者のする事だった。

 

「礼装、モードチェンジ!!」

 

 叫び声と共に、立香の中にある魔術回路が起動。

 

 着ている魔術礼装の特性を変化させる。

 

 それまで着ていたカルデア制服から、ピッタリしたバトルスーツへと変化。そのまま立香は右手の人差し指を立てて、真っすぐにファブニールへと向ける。

 

 カルデア戦闘服は、先にダ・ヴィンチから説明が合った通り、礼装の中でも特に戦闘面に重点を置いている。

 

 とは言え、それでもできる事と言えば、サーヴァント達の援護射撃くらいである。

 

 だが、

 

 今は皆が身動きを取れなくなっている。

 

 ならば、立香が動くしかなかった。

 

「ガンドッ!!」

 

 指先から放たれる黒い魔力弾。

 

 その一撃が、ファブニールに命中。邪竜は一瞬、その動きを鈍らせる。

 

「やったッ」

 

 喝采を上げる立香。

 

 だが、それも一瞬の事だった。

 

 すぐにファブニールは、何事も無かったかのように進軍を再開する。

 

 まるで立香の存在など、取りに足らない蟻のように、振り向く事もせず地響きと共に歩き出す。

 

「クッ」

 

 立香は舌打ちする。

 

 やはり、この程度では足止めにもならない。

 

 ダメなのか?

 

 やはり、自分は無力なのか?

 

「・・・・・・いや、まだだッ!!」

 

 眦を上げる立香。

 

 その双眸が、進撃を続ける邪竜を睨み据える。

 

 自分はカルデア特殊班のリーダーだ。その自分が真っ先に諦めるなんてできる訳が無かった。

 

「行かせるかァ!!」

 

 再びガンドの構えを取る立香。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無茶をするな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 低い声が、立香の耳に飛び込んでくる。

 

 次の瞬間、飛び込んで来た漆黒の影が、進撃を続けるファブニールに真っ向から斬りかかった。

 

 だが、

 

 振り下ろした剣は、ファブニールの固い表皮によって阻まれ、斬り裂く事は出来ない。

 

「チッ!?」

 

 舌打ちしつつ飛びのくと、立香のすぐ脇に降り立った。

 

「お前はッ!?」

 

 驚く立香。

 

 相手は以前、ジャンヌ・オルタと戦った時に助力してくれたセイバーだった。

 

 先の砦での戦いでフランス残党軍に加勢したセイバーは、特殊班と時を同じくしてオルレアン突入の機を伺っていたのだ。

 

 そこへ、カルデア特殊班とジャンヌ・オルタ軍が交戦を開始したため、自身も参戦を決意したのである。

 

「それが、この騒ぎとはな。正直、予定が狂いっぱなしだ」

「いや、それは向こうに言ってくれよ」

 

 愚痴めいた言葉を零すセイバーに対し、立香は礼装を元の制服に戻しながら、マシュと戦っているジャンヌ・オルタを指し示す。

 

 立香達とて、まさかあんなデカブツが、オルレアン城の地下から現れるなど、予想だにしていなかったのだから。

 

 と、次の瞬間

 

「チィッ!!」

 

 舌打ちしつつ、セイバーは立香の襟首を掴んで地面に引き倒す。

 

 一瞬、抗議しようと顔を上げる立香。

 

 だが、その前にセイバーは手にした長剣を振るい、近づこうとしたワイバーンを、一刀両断に斬り捨てた。

 

 見れば、周囲にはいつの間にか、ワイバーンや骸骨兵士が群がろうとしている。

 

 どうやら立香は、ファブニールを足止めするのに躍起になりすぎて、敵陣深く入り込み過ぎていたようだ。

 

「いつの間に・・・・・・」

「視野を狭めるな」

 

 驚く立香に、骸骨兵士を斬り捨てながら、諭すように告げる

 

「戦場で起こるあらゆる事象を、全て把握し、兵力を無駄なく運用しろ。指揮官が視野を狭めれば、それだけ兵士に無駄死にが出る。そして・・・・・・」

 

 轟風のように、セイバーの剣が風を切る。

 

 ただそれだけで、上空に逃れようとしたワイバーンが斬り捨てられる。

 

 墜落するワイバーン。

 

 その姿を背に、セイバーは振り返る。

 

「兵士を信じて全てを任せる。それも、指揮官としてのお前の務めだ」

「セイバー・・・・・・・・・・・・」

 

 セイバーの言葉を噛み締める立香。

 

 この状況。

 

 今この大混戦の中で、指揮官である自分に何ができるのか考える。

 

 皆の為に、自分ができる事。

 

 その視界の先では、尚も剣を振るい続けるセイバーの姿がある。

 

 意を決し、眦を上げる。

 

 自分ができる事、

 

 自分がすべき事、

 

 今、みんなを守り、みんなを助ける事ができるのは自分だけなのだから。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 目を閉じ、右手を掲げる。

 

 同時に、意識を集中する。

 

 自分の中にある魔術回路に呼びかける。

 

 素人の立香に、積極的に魔術を扱う事は出来ない。

 

 しかし、カルデアのマスターとして戦っていく上で、必要な事はロマニやマシュから学んでいる。

 

 今こそ、それを使う時だった。

 

 目を開く立香。

 

 同時に、静かに詠唱を始める。

 

「素に銀と鉄、礎に石と契約の大公、降り立つ風には壁を、四方の門は閉じ、王冠より出で、王国の三叉路は循環せよ・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 高まる魔力。

 

 僅かずつ、戦場を満たす張り詰めた空気。

 

 その様子に真っ先に気付いたのは、意外にもジャンヌ・オルタだった。

 

「これは・・・・・・・・・・・・」

 

 振り返るジャンヌ・オルタ。

 

 その視線の先で、魔力を高める立香の姿がある。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)、繰り返す都度に五度、ただ満たされる刻を破却する」

 

 目を剥くジャンヌ・オルタ。

 

 立香が何をしようとしているのか。

 

 その事に思い至り、目を見開く。

 

「おのれッ やらせるか!!」

 

 呪旗を翻し、踵を返そうとするジャンヌ・オルタ。

 

 だが、

 

 そこへ背後からマシュが襲い掛かる。

 

「先輩の邪魔はさせません!!」

 

 魔力を込めた盾を振るい、ジャンヌ・オルタを攻撃するマシュ。

 

 背後からの攻撃に対応すべく、とっさに動きを止めて呪旗を振るうジャンヌ・オルタ。

 

 旗と盾がぶつかり合い、魔力の粒子が飛び散った。

 

 

 

 

 

 一方、

 

 カルデアで異変に最初に気付いたのは、オペレーターを担当していた女性職員だった。

 

 アニー・レイソルと言う名の彼女は、元々は備品管理部に所属していた。

 

 ファーストオーダー時におけるレフ・ライノールが起こした爆破テロの際は、地下の倉庫にいた為に惨事を免れていたのだ。

 

 その後、人員不足に陥ったカルデア内において、数少ないコンピュータ関連の専門家と言う事で、オペレーターに抜擢されていた。

 

 慣れないパネル操作に悪戦苦闘していたアニーは、画面が映し出す数値が異常な値を出している事に気付き、すぐ背後に立つロマニへと振り返った。

 

「アーキマン司令代行!! 立香君からのコントラクト・オーダーを確認ッ!!」

「何だって!?」

 

 報告を受け、ロマニも驚いた声を上げる。

 

 つまり、現地での状況はそこまで追い詰められていると言う事か。

 

 ロマニは決断する。

 

 現状では不安が残るが、現地での判断は立香と凛果に任せている。その立香が必要と判断した以上、全力でサポートするのが自分たちの務めだった。

 

「ただちにコントラクト・シークエンスに移行準備。座標確認、疑似魔術回路起動、緊急用魔力パス解放準備急げ!!」

 

 矢継ぎ早に指示を飛ばすロマニ。

 

 それを受けて、管制室に詰めている全職員が動き出す。

 

 今この瞬間、

 

 こここそが最大の勝機だ。

 

 ならば、僅かなミスも許されない。

 

「疑似魔術回路起動確認!!」

「引き続き、立香君の魔術回路との接続シークエンスに入ります!!」

「魔力活性開始。解放率、現在30・・・45・・・60・・・臨界まであと10秒!!」

「最終座標確認、AD1431、フランス、オルレアン!!」

「マスター候補048、『藤丸立香』固定完了!!」

 

 次々と報告が上げられる。

 

 その様子を、険しい眼差しで見守るロマニ。

 

 やがて、

 

「魔力臨界を確認!! 行けます!!」

 

 最後の報告を聞き、ロマニは顔を上げる。

 

「魔力パス、開放」

「了解、魔力パス、開放します!!」

 

 下された指示と共に、必要な措置を取るアニー。

 

 同時に、カルデアが蓄積する莫大な魔力が、立香へと流れ込んでいくのが判る。

 

「・・・・・・頼んだぞ、立香君」

 

 その様子を、ロマニは祈るような面持ちで眺めていた。

 

 

 

 

 

「告げる!!」

 

 立香は鋭い声で言い放つ。

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に、聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば応えよ!!」

 

 立香の体が、右手の令呪を中心に輝きを増していくのが判る。

 

 カルデアから送られた魔力が、少年の体を通して活性化しているのだ。

 

「誓いをここに!! 我は常世総ての善と成る者!! 我は常世総ての悪を敷く者!!」

 

 さらに高まる魔力の輝き。

 

 その様に、ジャンヌ・オルタの焦りが募る。

 

「おのれッ!!」

 

 強引にマシュを振り払い、踵を返すジャンヌ・オルタ。

 

 漆黒の魔女は呪旗を振り上げて立香へと迫る。

 

 だが、

 

 襲い来るジャンヌ・オルタを前にして、立香は一歩も引かない。

 

 その澄んだ瞳は真っ直ぐにジャンヌ・オルタを見据えて迎え撃つ。

 

「汝、三大の言霊を纏う七天!! 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」

 

 臨界に達し、光り輝く立香。

 

 同時に、叫ぶ。

 

「来てくれッ セイバー!!」

 

 叫びに応じ、手を伸ばすセイバー。

 

 立香とセイバー。

 

 互いの手が、ガッチリと握られる。

 

 爆発的に高まる魔力の光。

 

 そこへ、襲い掛かるジャンヌ・オルタ。

 

「そこまでです!!」

 

 振り下ろされる呪旗。

 

 だが、

 

 ガキンッ

 

 振り返りざまにセイバーが、剣を横なぎに振り切る。

 

 その一撃により、大きく後退するジャンヌ・オルタ。

 

「クッ 馬鹿なッ・・・・・・・・・・・・」

 

 愕然として顔を上げるジャンヌ・オルタ。

 

 その視界の先で、

 

 手にした剣を下げ、悠然と立つ剣士(セイバー)の姿がある。

 

 その体からは魔力が満ち溢れ、威風堂々とした戦姿を見せる。

 

「・・・・・・・・・・・・我が名はエドワード」

 

 低い声が圧倒的な存在感と共に、己の名を告げる。

 

「イングランド王国王太子・・・・・・・・・・・・」

 

 その鋭い双眸が、自らのマスターたる少年に害する存在を、真っ向から睨み据える。

 

「黒太子エドワードなり!!」

 

 

 

 

 

第14話「黒の衝撃」      終わり

 




と言う訳で、お待たせしました。黒騎士の真名解放です。

毎章、こんな感じで1~2人くらいずつ、オリ鯖を出していこうと思っていますので、どうぞご期待ください。

ついでに、カルデアの方にもオリキャラが1人。


アニー・レイソル
24歳 女性
出身:イギリス
身長:157センチ
体重:47キロ

カルデアで備品整理を担当していた女性。レフによる爆破テロ後、オペレーターに抜擢される。
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