Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第10話「狩猟(バ)カップル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 燦燦と降り注ぐ陽光の下、復活を遂げた船が、己が姿を誇らしげに晒していた。

 

 既に攻撃を受けた舷側の穴も完全に塞がれ、突貫工事による装甲の取り付け作業も終えている。

 

 黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)は完全に元通りになり、出航の時を今や遅しと待ちわびているかのようだった。

 

「よし、良いぞアステリオス、やっとくれ!!」

「うん、わかった・・・・・・おォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 船上のドレイクに促され、砂浜に立ったアステリオスは、黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)の舷側に手を掛け、雄叫びと共に押し出しにかかる。

 

 流石に、浜辺に擱座したガレオン船を押し進める事は、怪力を誇るアステリオスにも難儀な作業なのか、船はなかなか動こうとしない。

 

 皆が固唾を飲んで見守る中、

 

 次の瞬間、鈍い音と共に、船が滑り始めたではないか。

 

 一度動けば、後は速い物である。

 

 あっという間に船は浜辺を滑り、海上へと押し出される。

 

 久方ぶりに感じる、波に揺られる感覚。

 

 期せずして、大歓声が起こる。

 

 先の戦いから数日。

 

 黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)は、見事に海上へ復活を果たした。

 

 称賛は、最大の功労者たる巨雄に向けられる。

 

「やるじゃねえかッ アステリオス!!」

「格好良いぜ!!」

「ちくょうッ 惚れちまいそうだ!!」

「う? う?」

 

 笑いながら、アステリオスの巨体を叩く次々に海賊達。

 

 一方で、アステリオスは戸惑ったように周りを見回している。

 

 口々に自分を称賛する海賊たちに対し、どのように接すれば良いのか分からない様子だ。

 

 考えてみれば生前のアステリオスの周りにいた人間と言えば、彼を忌み嫌い腫物のように扱う臣下や侍従達か、あるいは彼を恐れ逃げ惑う生贄の子供たち、そして冷酷にも彼を迷宮に捨てた父親であるミノス王くらいだった。

 

 このように彼に寄り添い、彼を称賛し、褒めたたえてくれる人間など、アステリオスの周りには1人もいなかったのだ。

 

 誰も彼を信じず、誰も彼を理解していなかった。

 

 だからこそ今、多くの海賊たちが自分を囲んで笑い合っているのが信じられないのだった。

 

 一方で、

 

 そんな喧騒を他所に、大はしゃぎしている方々もいたりする。

 

「わあッ すごいすごい!! ねねダーリン!! あれやろうよあれ!! 船の前に立って、両手広げて後ろから抱きしめるあれ!!」

「ぬいぐるみに無茶言うなー」

 

 今回から仲間に加わったアルテミス、オリオンのコンビは、自分たちの世界にまっしぐらに没入している。

 

 その様子を、海賊たちは唖然とした様子で眺めている。

 

「あの、姉御、ありゃ何ですかい?」

「聞くな」

 

 ボンベからの質問に、頭痛を押さえながら答えるドレイク。

 

 あのノーテンキな美女と野獣(ぬいぐるみ)コンビにテンポを合わせれば、こちらが疲れるのは目に見えていた。

 

 ハンティングの後、偶然出会い、同行する事になったアルテミスとオリオン。

 

 オリオンはギリシャ神話に語られる狩人で、あの「オリオン座」の原型にもなった人物である。

 

 そしてアルテミスは、そのオリオンの恋人であり、狩猟、処女性を司る女神。すなわちエウリュアレと同じ神霊であり、今回の特異点で聖杯によって召喚されたアーチャーのサーヴァントである。

 

 とは言え、これが聊か、ややこしい状況になっている。

 

 この2人の説明によれば、「オリオン」と言う1つの霊基を、2人で共有している状態にあるらしい。

 

 しかし、実際に現界してみれば、アルテミスが「オリオン」の主軸となり、オリオン本人は、その付属扱いになっていたのだとか。

 

 とは言え、あくまで霊基はオリオンの方なので、彼がいない事には2人は存在しえない事になる。

 

 何とも、複雑かつ面倒くさい関係の2人だった。

 

《いや、これは興味深いね。この間戦った、アン・ボニーとメアリー・リードも2人で1つの霊基を共有している状態だったけど、あの2人は互いに前線に立つ事によってお互いをカバーし相乗効果を作り出していた。それに対しアルテミス・・・・・・おっと、オリオンか。こっちは、アルテミスの足りない霊基を、オリオンが補強する事で補っているようなもんだ。2人の立場が実質入れ替わっているのは、その方が戦力的に向上するからと、聖杯が判断したせいかもしれないね》

 

 通信機の向こうで、ダ・ヴィンチが説明してくれる。

 

 成程。

 

 アンとメアリーの関係が例えるなら掛け算とするなら、アルテミスとオリオンは自乗倍数に近いのかもしれなかった。

 

 知名度としてはオリオンの方が高いが、実際の魔力はアルテミスの方が高い。そこで、オリオンの霊基をアルテミスが継いだ方が、最大限の戦力を発揮できる、と聖杯が判断したのかもしれなかった。

 

「それにしても・・・・・・」

 

 そこで、控えめに声を上げたのは美遊だった。

 

「ギリシャ神話でも、オリオンとアルテミスが恋人同士だった事は、前に本で読んだことがあったけど、これほどとは・・・・・・」

「現実は、更に上を行っていた感じかしらね」

 

 美遊とクロエは、目の前で人目もはばからずにイチャつくオリオン、アルテミスを見ながらため息を吐く。

 

 確かに、

 

 オリオンとアルテミスは、共に狩人であり、一目会った時から互いに惹かれ合った。

 

 共に結婚の約束まで交わした2人だったが、そこにとんでもない邪魔が入る。

 

 アルテミスの兄である太陽神アポロンは、以前からオリオンの粗暴な性格を嫌っていた。そこに加えて、純潔を司る処女神であるアルテミスが恋人を作る事にも良い顔をしなかった。

 

 アポロンはオリオンを殺す刺客として、1匹のサソリを送り込む。

 

 驚いたオリオンは海へと逃げる事になるが、アポロンは更に執拗に彼を追い詰める。

 

 アポロンはアルテミスを唆して、事もあろうに彼女自身の手で、海面から頭だけを出していたオリオンを射抜かせたのだ。

 

 悲しんだアルテミスは、医神アスクレピオスに頼んでオリオンを蘇生させようとするが、冥界の神ハーデスの反対に会って失敗。

 

 やむなく、父である主神ゼウスに頼み込み、オリオンを天の星座へと上げてもらう。

 

 こうして、月の女神でもあるアルテミスは、星座となったオリオンに月に一度だけ会う事が出来るようになったのである。

 

 因みにさそり座のサソリは、オリオンを殺すためにアポロンが送った刺客とされている。その為、さそり座が現れる夏の間は、オリオン座は決して姿を現さないとされている。

 

「わあ、美遊ちゃん物知りだねッ ねえねえ聞いたダーリン? わたし達のラブラブぶりが伝説にまでなっているってさ!!」

「ついでにお前が俺を弾いた事も、しっかり伝わっているみたいアダダダダダダ」

 

 言い終える前に、オリオンの体を雑巾のように絞るアルテミス。

 

 まあ、愛の形は人それぞれ、なのかもしれなかった。

 

「ん、プーさんとアルテミス、仲良し」

「誰がプーさんだゴラァ!!」

 

 いきなり変な綽名を付けられたオリオンが食って掛かる。

 

 しかし、

 

「確かに、プーだよな」 ←立香

「プーだね」 ←凛果

「プーですね」 ←マシュ

「うん、プーだね」 ←美遊

「プーね」 ←クロエ

「フォウッ フォウッ」 ←フォウ

「うん、ダーリンはプーだよ」 ←アルテミス

「プー以外何だってのよ」 ←エウリュアレ

「プー、がんばれ」 ←アステリオス

「お前ら~!!」 ←オリオン

 

 満場一致でプー認定されたオリオンが激高しかけた。

 

 その時だった。

 

「・・・・・・・・・・・・ん」

 

 響が不意に視線を海に向けて呟く。

 

 そんな暗殺者の様子に気付き、凛果が振り向いた。

 

「響、どうしたの?」

「ん、来た」

 

 短く呟く響。

 

 その視線の先では、

 

 髑髏の旗を掲げた1隻の船が、海に浮かんでいるのが見えた。

 

 

 

 

 

 黒髭こと、エドワード・ティーチは、海を眺めて憂鬱な日々を送っていた。

 

 海に目を向け、憂いを浮かべる男の横顔。

 

 それもまた、一つの絵となる風景には違いなかった。

 

 海の男にアンニュイは似合わない。

 

 それは判っている。

 

 海の男なら、悩むよりも先に行動すべき。

 

 それも判っている。

 

 船長である以上、部下に情けないところは見せられない。

 

 そんな事は百も承知だ。

 

 しかし、

 

 たとえ「黒髭」の異名で呼ばれ、生前は荒くれの海賊艦隊を率い多くの船乗りを恐れさせた、大海賊と言えど悩みは尽きない。

 

 その悩みを、人に見せてはいけない、などと誰が言えようか?

 

 たとえ海賊であろうと、

 

 黒髭であろうと、

 

 サーヴァントであろうと、

 

 突き詰めれば人の子に違いは無い。

 

 だからこそ、ティーチは尽きぬ悩みに憂いを浮かべている。

 

 その悩みこそが、自分を高めると信じて。

 

「ああ・・・・・・エウリュアレ氏、欲しい。美遊たんも欲しい。クロエたんも、凛果たんもマシュマロたんもみんなみんな欲しい。BBAはいらないけど」

「ねえ、そろそろ、あいつ殺して良いんじゃない?」

「ダメよ。もう少しだけ待ちましょう。もう少しだから」

 

 いったい、何の憂いを浮かべているのか。

 

 カトラスの柄に手を伸ばそうとするメアリーを、アンが必死に抑えている。

 

 かく言うアンも、マスケット銃を指が白くなるくらいに握りしめている。

 

 もう、何と言うか、

 

 放っておいても黒髭海賊団は、内部崩壊で消滅するのではないか、と思える程だった。

 

「あー ちょいと船長。雰囲気に浸ってらっしゃるところ申し訳ないんですけどね」

 

 海賊たちの船上コントを苦笑しながら眺めていたヘクトールが、彼方を指差しながら話しかけてきた。

 

「船長の愛しの君がお出ましみたいですよ」

「うっそ マジで!? エウリュアレ氏どこどこッ!?」

 

 弾かれたように船から乗り出し、望遠鏡を目に当てるティーチ。

 

 そのレンズの中で、1隻のガレオン船が向かってくるのが見えた。

 

 その舳先に立つのは、

 

 弓を構えた小さな女神。

 

「うひょーッ エウリュアレ氏、かっこ可愛いィィィ!!」

 

 だらしなく鼻の下を伸ばすティーチ。

 

 次の瞬間、

 

 女神の放った矢が、唸りを上げて飛来した。

 

「のわァァァァァァァァァァァァ!?」

 

 例によって、上体を大きく後方にのけぞらせる例のかわし方をするティーチ。

 

 彼を狙って放たれた矢は果たして、

 

 ティーチの真後ろに立っていた別の海賊の胸板に、真っすぐと突き刺さった。

 

「あ」

「あ」

 

 次の瞬間、

 

「エウリュアレ様の為に、死ねェェェェェェ!!」

 

 突如、腰からカトラスを抜き放ち、ティーチに斬りかかる海賊。

 

 自分に向けられた刃を見て、

 

 ティーチは面倒くさそうに頭を掻く。

 

「あーあー まったくもう・・・・・・・・・・・・」

 

 振り下ろされる刃。

 

 だが、次の瞬間、

 

 ズブリ

 

「あ・・・・・・あれ? 船長?」

 

 我に返った海賊は、自分の胸元に目をやる。

 

 そこには、

 

 ティーチの左手に装備された鉤爪が、深々と突き刺さっていた。

 

 喀血して倒れる海賊。

 

 その様子を、ティーチは冷ややかな瞳で見つめる。

 

「やれやれ、ひどい事するね。拙者の一張羅が血まみれになっちゃったじゃないDethか」

 

 部下1人を粛清した事を何とも思っていないかのような、淡々とした口調。

 

 その横顔からは、ぞっとするような雰囲気がにじみ出ている。

 

 普段のおちゃらけた態度や、女性に対する執着からついつい忘れられがちだが、《黒髭》エドワード・ティーチは本来、残虐非道、冷酷無比な大海賊である。

 

 例え部下だろうが仲間だろうが、自分に刃を向けた人間を殺す事に、躊躇いなど覚える筈も無かった。

 

「よーし、テメェ等ッ 絶対にエウリュアレ氏の矢に当たるんじゃねえぞッ 当たった奴は容赦なくこのマヌケみたいになるから覚えとけ」

 

 床に転がった死体を蹴り付けながら叫ぶティーチ。

 

 その様子に海賊たちは、改めて自分たちの船長の正体を知り震えあがるのだった。

 

 

 

 

 

 一方、黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)では、

 

「あら、外れてしまったわ」

 

 自分の放った矢の結末を見て、エウリュアレはあっけらかんとした様子で呟いた。

 

 女神である彼女は、魅了の魔術を操る事が出来る。

 

 自分の矢が当たった人間を、意のままに操る事が出来るのだ。

 

 その能力で矢が当たった海賊を操ったのだが、結果的に攻撃は失敗。海賊もティーチに返り討ちにされてしまった。

 

「まあ、仕方ないわよね。あんな奴に私の矢を当てたくないし。何て言うか、矢が汚れる的?」

「ん、エウエウ真面目にやれ」

「フォウ・・・・・・」

「まあ、気持ちは判るけど」

 

 傍らで響と美遊、そして少年の頭の上に乗っかっているフォウが嘆息する中、エウリュアレは彼方から迫る女王アンの復讐号(クイーンアンズ・リベンジ)を見据えて告げる。

 

「大丈夫よ」

 

 自信たっぷりに告げる、女神の少女。

 

「あの子がしっかりとやってくれるわ」

 

 

 

 

 

 近付いてくる黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)に、盛んに砲撃を加えるアン女王の復讐号(クイーンアンズ・リベンジ)

 

 先の戦いでは、黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)の砲撃は、アン女王の復讐号(クイーンアンズ・リベンジ)に効果が無く、ほぼ一方的な砲撃戦が展開された。

 

 だが、

 

 今回は違う。

 

「ダメです、船長!! こっちの攻撃も弾かれます!!」

「ウヌヌ・・・・・・・・・・・・」

 

 船員からの悲鳴じみた報告に、ティーチは顎に手をやって考え込む。

 

「やるなBBA。この短期間で対策を立ててきたでござるか。流石は、生きて世界一周した初めての人間でござる」

 

 互いの砲撃は用を成さず、ただ相手の装甲に弾かれるだけ。

 

 となれば、残る決着手段はただ一つ。

 

 移乗白兵戦以外に無い。

 

「野郎どもッ 斬り込み用意だッ!!」

 

 ティーチの号令に従い、海賊たちが動き出そうとした。

 

 まさにその時、

 

 

 

 

 

 トンッ

 

 

 

 

 

 静かな音と共に、

 

 女神が、アン女王の復讐号(クイーンアンズ・リベンジ)の甲板に舞い降りた。

 

 豊かな長い髪に、見事なプロポーション、その相貌には全ての人々を魅了する笑顔が浮かべられている。

 

「は~い こんにちはー!!」

「こーんにーちはー!!」

 

 真っ先に身を乗り出して両手を振ったのは、

 

 言うまでもなく、我らが偉大なる大海賊、《黒髭》ことエドワード・ティーチ氏だった。

 

 次の瞬間、

 

 アン女王の復讐号(クイーンアンズ・リベンジ)の甲板に降り立ったアルテミスは、手にした弓を引き絞り、速射する勢いで矢を放ち始めた。

 

 空中を飛ぶ無数の矢。

 

 その全てが、居並ぶ海賊たちを射抜き、刺し貫いていく。

 

 流石は狩猟を司る女神。その弓の腕は百発百中である。

 

 アルテミスは、その権能により、水の上を歩く事が出来る。その能力を活かして密かに黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)よりも先に乗り込んで来たのだ。

 

 たちまち、アン女王の復讐号(クイーンアンズ・リベンジ)の甲板で、悲鳴が折り重なる。

 

「このッ 好き勝手にやってくれる!!」

 

 仲間が倒れていく様を見たメアリーが、カトラスを抜き放ちアルテミスを睨みつける。

 

 これには、流石のアルテミスも緊張に強張らせる。

 

 基本的に、アーチャーである彼女は、遠隔攻撃には強いが接近戦には弱い傾向がある。

 

 接近戦主体のメアリーに、クロスレンジまで接近されたらひとたまりもない。

 

 だが、

 

 アルテミスの奇襲は、あくまで作戦の第1段階に過ぎない。

 

「頼んだわよ、ダーリン」

 

 今も船倉で奮闘しているであろう思い人を想い、アルテミスは再び弓を引き絞った。

 

 

 

 

 

 アルテミスの奇襲によって、瞬く間に甲板にいた半数以上の海賊が打ち倒され、大混乱に陥る黒髭海賊団。

 

 流石にサーヴァント達は無傷を保っているが、それでも船を操る人員が減るのは、決して気分の良い状況ではないだろう。

 

「うひょォォォォォォ 可愛い子ちゃんだから許してあげちゃうけど、流石にこれ以上は、拙者も困っちゃうかなー」

 

 飛んできた矢を銃弾で弾きながら、相変わらずふざけた態度を崩さないティーチ。

 

 しかし、その脳裏ではこの状況について、凄まじい勢いで計算が行われていた。

 

 単独で行う奇襲の目的は、十中八九「攪乱」である。

 

 本隊に先駆けて相手の懐に潜り込み、こちらの戦線をズタズタにした後、一気に押しつぶそうと言うのだ。

 

 問題なのは、アルテミスの本命がどこにあるのか、と言う事。

 

 奇襲攻撃によって多くの船員が倒れたものの、未だに黒髭海賊団の戦線が崩れたとは言い難い。今のままなら、立て直しは十分可能だろう。

 

 あるいはこの程度の敵なら、ティーチとしても主な止む必要はない。

 

 しかし相手は、あの《太陽を落とした女》フランシス・ドレイクだ。そんな単純であるはずが無い。

 

 必ず、何かもう一手仕掛けてくる。

 

 そう思った。

 

 次の瞬間、

 

 突如、

 

 猛烈な振動と共にアン女王の復讐号(クイーンアンズ・リベンジ)を衝撃が襲い、船は大きく揺れた。

 

「何事だッ!?」

 

 思わず、普段のおちゃらけもかなぐり捨てて叫ぶティーチ。

 

 その視界に飛び込んで来たのは、船のあちこちから濛々と立ち上る黒煙だった。

 

「やられやした、船長!! 火薬庫が爆破されちまいました!!」

 

 その言葉に、ティーチは思わず内心で臍を噛む。

 

 完全に意識をアルテミスに奪われていた。

 

 まさか、既に工作員が潜り込んでいようとは、夢にも思わなかったのだ。

 

 

 

 

 

 一方、

 

 弓を撃ち終えたアルテミスの肩に、小さな影が飛び乗るのが見えた。

 

「ふいー ただいま。全く、ぬいぐるみ遣いが荒いったら」

「ダーリンお疲れー、惚れ直しちゃったよ」

 

 一仕事終えて戻って来たオリオンを、アルテミスが労うように抱きしめる。

 

 アルテミスが攻撃を開始した時点ですでに、オリオンはアン女王の復讐号(クイーンアンズ・リベンジ)の船倉に潜り込んでいたのだ。

 

 そして、アルテミスが敵の目を引き付けている隙に、弾薬庫に火を放ったのである。

 

 結果として、ティーチの予測は正しかった。

 

 アルテミスは確かに囮に過ぎず、作戦はもう一手用意されていた。

 

 しかしまさか、あんなクマのぬいぐるみが戦力として数えられていたなどとは、流石の大海賊も予測できなかったのだ。

 

「おのれッ よくもやってくれたな!!」

 

 カトラスを手に、斬りかかろうとするメアリー。

 

 だが、

 

 それに対してアルテミスは、余裕の態度を崩さない。

 

 既に、彼女の役割は終わっている。後は結果を待つのみだった。

 

「危ないわよ、あんまりよそ見してると」

「いや、まあ、もう遅いんだけどね」

 

 肩を竦めながら告げる、アルテミスとオリオン。

 

 何かに気が付いたティーチが、ハッとなって振り返る。

 

 果たして、

 

 その視線の先には、

 

 舳先を真っすぐに向けてアン女王の復讐号(クイーンアンズ・リベンジ)に向かって突っ込んでくる黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)の姿があるではないか。

 

 しかも、船首には先の戦いではなかったはずの、鋭利な杭のような物が取り付けられている。

 

 その正体に、ティーチはいち早く気付く。

 

「やばいッ!?」

 

 

 

 

 

 一方で、

 

 黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)の甲板では、フランシス・ドレイクが不敵な笑みを浮かべて立ち続けている。

 

 既にアルテミスの奇襲成功で、敵は大混乱に陥っている。

 

 今こそ、絶好のチャンスである。

 

「さあ、行くよ野郎どもッ 気合い入れな!!」

 

 速度を上げる黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)

 

 その船首には、先の改修で取り付けた新装備がある。

 

 衝角(ラム)と呼ばれるその棘は、古くからある軍艦の装備であり、相手の船に体当たりする事で船に穴をあけて進水させたり、連結して移乗白兵戦に移行するための装備である。

 

 その衝角(ラム)を、真っすぐに向けて突っ込んでいく黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)

 

 アン女王の復讐号(クイーンアンズ・リベンジ)の方でも、事態に気付いて回避行動を取ろうとしている。

 

 が、

 

 もう、遅い。

 

 次の瞬間、

 

 轟音と共に、黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)は、アン女王の復讐号(クイーンアンズ・リベンジ)の船腹に食らい付いた。

 

 

 

 

 

第10話「狩猟(バ)カップル」      終わり

 




2部3章 ゆっくりプレイ中。ガチャは回さない方針。

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