「チェ〜ェン……。」
白昼の頃、人が住む村から少し離れた草原に、お腹を空かせた一匹のポチエナが力なく歩いていた。
「スチチィ。」
そこに姿を現したのはレジスチル。
長いその手には様々なきのみがあった。
レジスチルはその中からオレンのみを差し出した。
「スチィチチル?」
「チェン!?チェン!!」
ポチエナは差し出されたオレンのみを嬉しそうに咥え、大きな尻尾を振りながら、草むらの方に走リ去っていった。
「チチィ。」
レジスチルはポチエナを見届け、顔の赤い模様を点滅させていた。
ポチエナの姿が見えなくなるとレジスチルはすぐに方向転換をして、村の方までゆっくり歩いていった。
その姿はなんだか嬉しそうでもあった。
村に帰るとチルットが頭の上にちょこんと乗ってきた。
レジスチルは気にする様子も見せず、村の中央にある大きな石造りの舞台に向かった。
「おぉ!レジスチル様のお帰りだ!!」
村人の一人がレジスチルに気付くと他の村人やそのポケモン達も、皆一斉に駆け寄ってきた。
「本日も沢山のお恵み、感謝します。」
「レジスチル様のお陰で、我々は飢餓に苦しまずに済みます!」
「あ!レジスチル様の上チルットが乗ってる!!」
「本当だ!可愛らしいね。」
と、こんな感じにレジスチルは村の人から愛されていた。
レジスチルも赤い模様を点滅させ、まんざらでもない様子である。
沢山の村人に囲まれながら石造りの舞台に到着したレジスチルは、村人に見守られながら石造りの舞台に上がり、手に持ったきのみを広げるように舞台に置いた。
レジスチルは静かに舞台から降り、しばらくじっとしたかと思えば、ゆっくりお辞儀をするような仕草を見せ、また赤い模様を点滅させた。
その日の夜。
村全体はお祭りムードになっている。
イルミーゼが指揮するバルビートの光とチリーンの七種類の音色が村を包み、幻想的だ。
村人は舞を踊りながらレジスチルと村の長老、長老のポケモンのトロピウスの三人が乗る舞台を一周し、レジスチルが白昼に採ってきたきのみを一つずつ貰いに行く。
自然に感謝し、村の繁栄を願う儀式なのだとか。
「どうかね、レジスチル殿。」
「………スチィ。」
静かに眠るトロピウスを撫でながら、長老はレジスチルを優しい視線で見詰め、問いかけた。
突然の問いにレジスチルは長老を不思議そうに見詰め返していた。
「皆でこうして、祈りを捧げ、物事に感謝し、楽しく舞を踊る。
意味のないようなことかもしれぬが、ほれ、見てみろ。
村人達の顔。」
そう言うと長老は踊る村人達に視線を移し、表情を少し和らげた。
レジスチルも真似して、村人達を見る。
「皆、笑顔じゃろ。」
「スチィ…。」
「数多の行動に意味があるとかないとか、そんな事を考えたら時間の無駄じゃ。
誰も傷付かず、皆幸せに笑っていたら……………それで、いいのじゃよ……。」
「スチ?」
言葉の意味が分からなかったのか、レジスチルはまた不思議そうに長老を見詰めていた。
「お主にも、いずれ分かる時がくるかも知れぬな。」
「スチィ……?」
次の日の日の出から1時間後。
「トロピウス、おはようさん。」
「レロウ!!」
村の長老が起きてきた。
いつもは日の出とともに起きるのだが、昨晩の祭りの夜更かしで就寝時間がずれてたのだろう。
「トロピウスは今日も早起きじゃのう。
日課の大空の散歩も済ましたか?」
「ピウゥゥル!」
トロピウスは元気に応えた。
それを見た長老は微笑んだが、辺りを見渡し、少し悲しげな表情で聞いた。
「………レジスチルはもう行ったのかい?」
「レウス。」
トロピウスは首を縦に振った。
よく見ると、いつも首に生っている果物がない。
そのことに長老もとっくに気づいていた。
「そうか、もう当分帰って来ぬのかもな。」
それから数週間後の昼頃
「長老!大変です!!」
一人の村人が血相を変えて、長老の下に飛び込んで来た。
「なんじゃ!?騒がしい!」
長老も何事かと、飲み掛けのきのみジュースが入った、トロピウスの木の実で作った器を持ちながら飛び出した。
「アブソルです!アブソルが現れました!!」
長老は村人の言葉を聞くと表情が強張り、器を落としてしまった。
「何!?アブソルじゃと?あの野郎、また災いを運びに来たのか…!」
この頃のアブソルは災いを運ぶ厄介者として誤解され、嫌われていた。
そしてこれを、誰も疑問を抱かなかった。
「お主よ、村の民共へ伝えてくれ!夕暮れ時、あの憎き厄災、アブソルを討伐しに行く。
勇気のある者、村の未来を思う者!
儂と共に、厄災に立ち向かおうではないか!」
「は…はい!」
村人は急いで走り出し、大声で長老の言葉を何度も復唱した。
持ち場に戻った長老も、今までの穏やかさがまるで感じられない程、苛立ち、憤慨している。
「アブソルめ、あ奴のせいで………あ奴が、災いを運んでこねば……。
今度こそは、お主の首を取り、村の幸せを護ってやる……!」
同じ頃、村の近くの小さな林ではレジスチルが帰ってきていた。
村のみんなへのお土産のにするためか、長い腕を使って高い所に生る木の実を、せっせと採っている。
そしてたまに、木の実を眺めては赤い模様を点滅させていた。
一通り採ったので場所を移動しようとすると、沢山のポチエナやグラエナ、カイロスにヘラクロスが逃げるように村の方から押し寄せてきた。
レジスチルは不思議そうに眺めていたが、流れが止むと、何もなかったかのように村の方まで歩いて行った。
その上空では長老のトロピウスが飛んでいた。
あと数十分で夕暮れ時になる頃。
長老、そして十数人の村の男達が舞台の周りに集まっていた。
弓矢を持つものが5人程、棍棒を持つものが8人程いる。
その中で、明らかに力が強そうな巨漢が3人程だ。
「よきか!アブソルこそ、村の平和を脅かす、邪悪で残酷な悪しき獣。
我々はこの村の未来のため、奴を駆逐せねばらなぬ!
いくぞ!勇気ある我が村の男子よ!!」
「オォォォォッ!!」
男達は弓や棍棒を持った拳を掲げ、士気を鼓舞した。
夕日が沈みかけ、空と雲が禍々しく真っ赤に染まっている。
夕暮れ時である。
長老と男達は山岳地帯に近い開けた平野まで着いていた。
男達は棍棒を素振りしたり、矢を木に放ったりしながらアブソルを迎え撃つ準備をしていた。
すると突然、突風が吹き、その中から白き獣が現れた。
「来たぞ!アブソルじゃ!!」
「アブソォ!」
そう、この獣こそ、アブソルである。
「即急に駆除するのじゃ!矢を放て!!」
男達は長老の鶴の一声で構えて、一斉に矢を発射した。
アブソルは目付きを鋭くし、大きく跳ねてから、大きなツノに紫色の念波を込めた。
「アァァァ………ソォッ!!」
そして大きく首を一振り、念波を刃の形にして飛ばした。
《サイコカッター》である。
《サイコカッター》は矢を全て切断し、粉々にしてしまった。
「念波か………では棍棒隊、行くのじゃ!!」
「オォォォッ!!」
男達は棍棒を振り回し、アブソルに襲い掛かった。
アブソルは軽やかに交わし、木の枝に飛び乗った。
「コラッ!降りてこんかぁ!!」
「アァ〜ァ……ソ。」
アブソルは長老の言葉を尻目に枝に伏せ、欠伸をした。
「くっ………余裕を見せつけやがって………。
何をモタモタしている!早く矢を放て!!」
「はっはい!」
男達は全く統一感なく、個々のタイミングで矢を放った。
「アソォ………。」
アブソルは大きく跳び、別の木へ移った。
そしてまた、伏せをした。
アブソルには敵意があまり感じられない。
それどころか、わざと長引かせて足止めをしているようでもあった。
「アヤツ………何がしたい…。」
長老もアブソルの行動を不可解に思っている。
その時、アブソルは瞳孔をカッと開き、バッと立ち上がったと思えば、長老達と逆の方向に《サイコカッター》を発射した。
「アイツ、どこ狙ってやがる!」
村の男の一人がそう嘲笑っていたが長老は険しい顔で正面を見詰めていた。
「………ッ!あれは!!」
よく見れば、沈み掛けの夕日を背に、大小複数の影が迫ってきている。
「厄災じゃ。運んできおった。
弓矢隊は村に戻り避難指示をせい!
恐らくあ奴らはゴマゾウとドンファンじゃ!
こちらに転がってきておる!
このままじゃと、村に激突するじゃろ!
棍棒隊はなんとか勢いを収めるのじゃ!」
「ですが、アブソルは……?」
「今はそんなときか!村の保安が先じゃ!!」
「は、はい!」
弓矢を持った男達は村に戻り、棍棒を持つ男達はゴマゾウとドンファンの群れを迎え撃つ為、その場で構えた。
「見る限り、ゴマゾウ10匹にドンファン5頭という所じゃろう。
我々の棍棒隊は8人程度、止められるかのう……!」
その時だ。
「レロウ!!」
林の方からトロピウスが飛んで来た。
その真下にはポチエナやグラエナ、カイロスにヘラクロスがいる。
早朝の大空の散歩でアブソルを見掛けたトロピウスは厄災に備え、日中に林のポケモン達を集めていたのである。
「トロピウス………!お主!」
「レロウ……。」
長老とトロピウスは互いを見詰め合い、頷き合い、鋭い目付きでゴマゾウとドンファンの群れを見据えた。
「いくのじゃ!」
「レルゥゥゥス!!」
トロピウスは翼を勢い良く広げ、大きく息を吸い、龍の形をした波動を吐き出した。
《りゅうのはどう》である。
《りゅうのはどう》は前方で転がるゴマゾウの目の前で着弾させ、爆発させた。
ゴマゾウは爆音に驚き、転がるのを止めた。
それを何回も繰り返し、ゴマゾウ10匹全ての勢いを止めることに成功した。
ゴマゾウはおどおどしており、何が起きていたか分からない様子であったが、後ろからドンファンが転がって来るのに気付くと、急いで横に逃げた。
「今じゃ!ゆくのじゃ!!」
「む………むりですよ……。」
あまりがたいの良くない標準体型の男達はへっぴり腰で弱音をはいている。
無理もない、ドンファンの転がりは家をも吹き飛ばすパワーがあり、並の人間では到底耐え切れないのだ。
「仕方ない………大男達よ。頼んだぞ。」
「おう!!」
「岩をも砕く俺のパワー見せてやるよ!!」
「筋肉は飾りじゃねえからな!!」
巨漢達は自分とほぼ同じ大きさの棍棒を振り回し、ドンファンに突進しに行った。
「カイィィス!」
「ヘラクロ!!」
「グラァァ!!」
「チェンチェン!」
カイロス、ヘラクロス、ポチエナにグラエナもドンファンに向かい突進する。
カイロスとヘラクロスは自慢のツノでドンファンを塞き止め、グラエナは技、《かいりき》を使ってドンファンに突撃、ポチエナはグラエナ手助けするように後ろから押す。
巨漢達は三人一斉に一体のドンファンを抑え付ける。
トロピウスも《リーフストーム》を放つ。
逆光に照らされる激しい競り合いは長く続かなかった。
皆、持てる力全てを使いドンファンを止めることに成功したのだ。
ゴマゾウ同様ドンファンもおどおどしていた。
そして一体が何かを思い出したかのように林の方へ走って逃げて行くと、残りのドンファンも林の方へ逃げて行った。
「ふぅ……やっと収まったわい。
有り難う、トロピウスに林の者達よ。」
「レロウ!」
「カイス!」
「ラクロ!」
「グラウ!」
「チェン!」
グラエナ達は元気良く吠えると何故か逃げるように林の方へ去って行った。
「勇気ある男共も、有り難う。」
「はい!お役に立てて光栄です。」
長老と村人とトロピウスは村人達が避難している横穴に報告に向かった。
(あれは厄災じゃったのか………何か……何かがおかしい気が…。)
しかし、長老はなにか腑に落ちないような顔をしていた。
もう日が暮れて夜になっている。
翌朝。
長老達は横穴に着いた。
辺りの地形や、村を見下ろせる高台にある。
村人に報告をしてから、村に帰る準備をした。
その時一人の子供が長老に言ってきた。
「ちょうろう……チルットがいないの……。」
「ん?なあに、もう村は安全じゃ。多分そこにいるじゃろう。」
「う………うん。」
「では、帰るかのう。」
長老は帰るため、一歩踏み出そうとした。
そのときだ。
山の方から轟音が鳴り響いた。
「なんじゃ!」
「じ………地割れです!!」
視力の良い村人が叫んだ。
先程ドンファン達が転がって来た方から山に亀裂が生じてきている。
山の端から端まで亀裂が行き届いたと思えば、今度は崩壊を始めた。
土砂崩れだ。
(これが………真の厄災じゃったか……!)
村人達は言葉もでず、ただ唖然と見ていただけだった。
土砂崩れは近隣の森や林を飲み込み、もうすぐ村へ差し掛かろうとしていた。
「ああ!俺達の村が!!」
「否、形あるものはいずれか壊れる。
これがあの村の運命だったのじゃよ。」
「ですが………ぁ。」
村人は言い返そうとしたが、長老が小さくに震えているのが見えた。
他の村人達も気付いており、静かに、哀しくもうすぐ消える村を見詰めていた。
すると一人の子供が叫んだ。
「チルットが………ぶたいにチルットがいるよ!」
「なに!?」
長老や村人達は一斉に石造りの舞台に目を移した。
そこには踞り、震えるチルットの姿があった。
土砂はもう村に差し掛かり、村の一部を飲み込んでいる。
「うわぁぁぁん!チルット!!」
(もう駄目か……!)
誰もがそう思った。
そのときである。
長老達の上空を何かが飛んで行った。
そう思えば、沢山の木の実が降ってきた。
「これは…………まさか!!」
長老が気付いた時にはもう、その何かは庇うようにチルットの前に立っていた。
「お主………帰ってきておったのか………。
レジスチルよ!!」
「スチィ!」
レジスチルは土砂崩れを止めようとばかりに両手を前に突き出した。
「レジスチル様だ!」
「帰ってきていたのか!」
「レジスチル様!チルットを護ってくれ!」
土砂は村の半分を飲み込んでいた。
もうすぐレジスチル達の所まで差し掛かる。
レジスチルは両手に力を込め、激しいオーラを纏った。
《ばかぢから》だ。
レジスチルの《ばかぢから》は目の前の土砂の勢いをなんとか抑えられた。
防ぎきれていない横からの土砂から、砂や石がレジスチルにパチパチと当たる。
それでもレジスチルは怯むことなく、土砂を必死に抑えている。
そして、今までにないくらい赤い模様を不規則にそして激しく点滅させた。
「がんばれ!レジスチル様!!」
「負けるな!!」
「チルットをたすけて!!」
村人達も一丸となり、レジスチルに声援を贈る。
「スチィィ………!!」
だが、伝説のポケモンの力も自然の脅威には及ばず、どんどん土砂の力に押されかけている。
その瞬間、なにを思ったのかレジスチルは《ばかぢから》をやめ、流れに背を向けるように立った。
「…………ん?どうしたのだろうかレジスチル様。」
村人達は不思議そうにしていた。
そして、レジスチルはその長い腕でチルットを包み込み、自身の頭の上に大きく掲げたと思えば
「レ…………レジ………スチィィィィル!!!」
辺りの地形に木霊するくらい大きく鳴き声をあげた。
「うっ……!」
あまりの大声に村人達の耳をふさいだ。
「レル…!」
トロピウスは何かに呼ばれたかのように村の方に顔を向けた。
「………。トロピウス……。」
「レウ!!」
何が聴こえたか長老が聞く前に、トロピウスは大きな羽を広げ、村に向かい飛んでいった。
トロピウスの反応に気付いたレジスチルは顔の前まで腕を降ろし、赤子をあやすように優しく振り、チルットを安心させた。
恐る恐る目を開けたチルットは不思議そうにレジスチルを見詰めた。
そんなチルットに対し、レジスチルは何も言わずに、ただ赤い模様を点滅させた。
そして、腰を低く落とし、腕を下に降ろした。
「レウゥゥゥゥゥ!!」
村の上空にまで来たトロピウスは到着を知らせるため、大きく叫んだ。
「スチ……。」
鳴き声を聞いたレジスチルは小さく頷き
「スチィィィィ!!!!」
咆哮と共に、チルットを天高く投げ上げた。
上空へと投げつけられたチルット。
最高地点まで到達し、そのまま落下を始めた。
「チルッ………!」
土砂崩れの恐怖で飛ぶことを忘れたチルットは自らの落下の恐怖で目を閉じてしまった。
その瞬間だ。
チルットは葉っぱのような柔らかい感触を覚えた。
「レル…。」
そこはトロピウスの背中の上だった。
「やったぁぁ!!」
「レジスチルさま!トロピウス!ありがとう!!」
「よくやった!レジスチル様、トロピウス。」
村人達もチルットの救助成功に大いに歓喜している。
「チ……チル。」
「レウ。」
チルットはトロピウスにお礼をした。
トロピウスはチルットに顔を向け、満足げな顔をして頷いた。
「レウ………レウッ!?」
だが、トロピウスは下を見た瞬間顔が曇った。
レジスチルが力無く立ち尽くしたまま、土砂に埋もれていくのが見えたからだ。
気付いた時にはもう肩の半分近くまで埋まっており、一瞬の内に見えなくなってしまった。
村人達はチルットの救助成功ばかりに気をとられて、誰一人として、レジスチルの最期を見るものはいなかった。
「…………レジスチル殿……。」
長老一人、除いては。
翌日。
長老とトロピウスは村があった場所までたどり着いた。
あたりには土砂が広がり、人がいた痕跡など全てを消していた。
幸い、レジスチルの歯止めのお陰で、村の近くの森にはあまり被害はおよばなかった。
「この土砂を受け止め、短期間じゃが、受け止めた。あやつの力……。物凄いものじゃのう。」
「レウ…。」
長老はボソッと呟き、トロピウスは応えるように静かに頷いた。
そして、長老はトロピウスに乗り、村があった場所を飛び始めた。
すみからすみまで見回ったあと、ある地点で止まった。
何かに被さったように土砂が盛り上がっている。
レジスチルが埋もれた場所だ。
長老はひたすら、見続けた。
レジスチルへの勇姿を称え、犠牲を哀れむような、そんな瞳で。
その時だ。
森の方から一匹のグラエナが姿を現した。
無言なまま土砂の上を歩き、レジスチルがいる真ん前まで来た。
「グラ〜ァウ……。」
そして、哀しそうで何故か甘えるような鳴き声をレジスチルに向けて発した。
「グラ〜ァウ……。グラ〜ァウ……。」
何回も、何回も発した。
「……………。」
「……レウゥ………。」
その行動は悲しく、虚しく、長老とトロピウスは黙ってその様子を見るしかなかった。
「グラ〜ァウ……。」
ぐ〜〜〜ぅ。
グラエナの腹の音が鳴り響いた。
するとだ。
土砂の中が、赤く光出した。
そして、中から眩い光ととてつもないエネルギーが感じられた。
「…………!いかん!!トロピウス!《まもる》じゃ!!」
「レウ!!」
長老は長年の感で危険を察知し、トロピウスに指示を出した。
トロピウスも反応良く《まもる》を出し、長老とトロピウス自身、そしてグラエナを包むバリアを生み出した。
長老の感は当たり、土砂の中から《だいばくはつ》が発動された。
その威力は絶大で、村の土砂はほとんど爆発で吹き飛ばされてしまった。
爆発がおさまると、大量の砂煙が舞っていた。
「レウ!!」
トロピウスは《まもる》を解除し、大きな羽で風を起こして砂煙を払った。
「うむ。よくやったぞ、トロピウス。」
「レウ!」
長老は目を閉じながら、トロピウスを褒めた。
そしてゆっくりと目を開けると、
「………んっ!?」
砂が晴れた視界に飛び込んだのはレジスチルが、グラエナに木の実を分け与える姿だった。
(レジスチル殿……………お主……!)
長老は森に帰るグラエナを見送るレジスチルに、ゆっくりと近付いていった。
「レジスチル殿!!」
「………スチィ……!」
長老が大きく呼び掛けると、レジスチルは驚くように体を向けた。
よく見ると、あれだけの土砂に襲われたのに傷一つ付いていない。
「レジスチル殿……………生きておられたか。」
「スチィ……。」
「…………。レジスチル殿。お主の御蔭で小さき命と、大きな林が護られた。
礼をいう、ありがとう……。」
「スチ……。」
長老のお礼にレジスチルはまた赤い模様を点滅させている。
「どうじゃ、レジスチル殿。わし達と共に住んでみねば。」
「……レジ?」
「わしらは今、あの高台の上の洞窟に住んでおる。
村よりは負けるが、住み心地も良いぞ。」
「スチィ…………スチ!」
レジスチルは少し考えた後、大きく顔を縦に振った。
「おぉ、そうか。では行こう!
トロピウス、洞窟まで直行じゃ。」
「レロウ!」
長老はトロピウスの背中に乗り、レジスチルのスピードに合わせてゆっくりと進み出した。
洞窟に戻ると沢山の村人が外で待っていた。
長老から話を聴くと、みんな一斉に喜びだし、歓迎するようにレジスチルを囲み込んだ。
レジスチルは赤い模様を点滅させ、まんざらでもない様子だ。
(……………。レジスチル殿。本当にありがとう。これから皆一緒じゃ。
………じゃが、レジスチル殿にあんな力があったとは………。何を考えているか解らぬ者でもある。
……………。嫌、難しいことはよそう。
これからもよろしくな、レジスチル殿。)
長老はそう思い、静かに笑うのだった。
村人に囲まれ、レジスチルは洞窟に入った。
後に古代塚と呼ばれる所だ。