──えぇ〜、バレンタイン? めんどくせぇ〜……一応あるけどさ、チョコ……食べる?

去年は嫁に、そう言われました。


※pixivにも投稿しています。




1 / 1

望月のキャラが分からなかったから、調べながら頑張りました。
海風短編に詰まってしまって、息抜きに書いたやつなので短いです。



もっち〜・バレンタイン!

 

 

「ん」

 

 昼を少し過ぎた頃、秘書艦と自分しかいない執務室。

 いつものように机に向かい、カリカリと書類を片付けていると、どうにもやる気の足りない声と共に、少し膨れた紙袋を横から突きつけられた。ダウナー気質の彼女が贈り物をするなんて今までになかったこと。困惑気味に紙袋と贈り主との間で視線が揺れる。

 

「え、何、なんよこれ望月さん?」

「バレンタインだからさぁ、チョコ用意したんだよぉ〜、チョコ」

 

 事も無げに彼女、望月は意を明かした。

 そこまで言われてようやく合点がいった。そうか、もうそんな時期なのか。紙袋を受け取り、手元にあったカレンダーを見れば確かに今日は2月14日、俗に言う“バレンタイン・デー”その日であった。

 来週に迫った元帥閣下との演習、その後の食事会にばかりに気を揉んでて全く意識していなかった。

 

「あぁ〜……じゃあ朝方、執務室前に山積みにされてた謎の包みの山は……ひょっとして?」

「十中八九、チョコでしょうねぇ。いよっ、色男! 憎いねぇ〜、このこのぉ〜」

「からかうなよ。てか、痛いから力入れんなよ」

 

 望月が肘で小突いてくるのだが、これがまた痛い。

 

「嫁さんの前でこんなにチョコをもらうたぁ、司令官も中々、図太いモンをお持ちのようだねぇ」

「直接はもらってないじゃないか」

「食堂でチョコケーキ食ったの知ってんだからなぁ」

「あれは……うん、ノーカンにはなりませんか?」

「なりませ〜ん」

 

 肘の小突きが止まり、頬に望月の人差し指が刺さる。

 やはり、これには望月も少しご立腹なのだろう。嫁艦である自分を差し置いて、気にしていなかったとはいえ他の艦娘たちから散々チョコを受け取っていたのだから、それも当然といえよう。

 さて、ここから自分はどうやってご機嫌を取ったら良いのだろうか。そう思ってチラリと望月に目をやると、何故かニヤニヤとほくそ笑んでいた。

 

「な〜んてねぇ。別に気にしないよぉ、いっぱいもらってても。あたしがあげてもいいって言ったんだし」

 

 そう言って望月はポスンと司令官の膝の上に腰を下ろした。その顔は、イタズラが成功した子供のように笑っていた。

 

「あたしは手作りなんてキャラじゃないからさぁ。でもせっかくのイベントだし、じゃあその辺は他の娘に任しちゃおっかなぁ〜って」

「……あっ、これやっぱ手作りじゃないんだ」

 

 ラッピングも何もされていない無骨な紙袋を持ち上げる。望月らしいセンスだとは思ったが、中身の期待くらいは裏切ってほしかった。

 

「んぁ? そんなん当然でしょ、安心と安全のチ○ルチョコだぜぇ〜」

「チ○ルチョコ」

 

 なんだそれは義理チョコの代名詞じゃないか。

 少し憮然としつつも、折り畳まれた口を開いて中を確認する。そこにはパッケージが違うチ○ルチョコが選り取り見取り、大量に乱雑に詰め込まれていた。

 

「……多くね?」

「そりゃ、あたしも食べるからねぇ」

「お前のぶん込みかよ。これもうバレンタイン関係ねぇじゃん」

「いいのいいのぉ。特別な日にこそ普段と同じことがしたいじゃん?」

「そうかぁ?」

「そ〜そ〜。ほら、紙袋貸しなぁ」

 

 言われた通りに紙袋を渡す。

 望月は受け取った紙袋を膝に置くとチ○ルチョコを取り出し、いそいそと包みを解いた。

 

「はい、あ〜ん」

「あ〜ん」

 

 露わになった中身のチョコが口元に差し出される。

 躊躇うことなく、それに食いつく。

 

「ん」

 

 すると今度は、まだ開封されていないものを渡された。

 少し期待したように膝から見上げてくる望月を見て、何となくだがやりたいことの察しがついた気がする。受け取ったチ○ルチョコを、少しもたついたものの包みから取り出し、望月の口元に持っていく。

 

「ほら、あ〜ん」

「ん──あむっ」

 

 それに望月は満足気に食いついた。

 どうやら、推測は正解だったらしい。

 

「お前、これがしたかったからチ○ルチョコ選んだのか?」

「高級なやつだと数ないしねぇ。我ながら良いチョイスをしたもんだよ」

 

 喜色に富んだ望月が、こちらに体重を預けてもたれかかってきた。フワリと広がる柔らかい匂いに心がくすぐられていく。

 普段なら、こんな面倒なことはしたがらないのだが、やはりあんなことを言いつつ、本当は普段とは違うことがしたかったのかもしれない。やれやれ、と望月の頭を撫でる。

 素直になりきれない──そんなところがまた、一段と愛おしく思う。

 

「俺、次はアーモンドがいい。コーヒーヌガーはそんな好きじゃないんだ」

「ええ〜、美味しいのに〜……あ、苺だこれ。はい、司令官、あ〜ん」

「お前は苺が駄目なのか……あ〜ん」

「あ〜……あっ」

 

 あ〜んと言うから差し出されたチョコを食べようとしたのに、あっと声を上げた望月に直前になって引っ込められてしまった。

 

「危ねぇ危ねぇ〜、忘れるトコだった」

「何を?」

「ほらほら、もっかい口開けて〜。あ〜んだよあ〜ん」

 

 そう言って、早く早くと急かしてきた。自分から引っ込めたくせに、とは思ったが口には出さず、代わりに言われた通りに口を開いた。

 

「よぉ〜し、じゃあ司令官──」

 

 そして今度こそ、手に持っていたチョコはちゃんと口の中に入れられた。

 

 

 

「──ハッピ〜・バレンタイ〜ン!」

 

 

 

 

 





村雨さんが改二きましたね。
もう「ちょっと良いチョコ、食べてみる?」「チョコだけに」というネタが使えなくなるんでしょうか?
私のとこは改二じゃないのでわかりません。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。