嘘です書いてました
織田信長の話其二ってことで
サーヴァント織田信長は破天荒を絵に描いたような性格で、加えてあの群雄割拠の戦国時代に最初に天下に最も近づいた大名らしく、破茶滅茶に見えて人を惹きつけるカリスマと統制力はしっかり持っていた。
そう、性別こそここカルデアでは女性であるが、誰が見ても『信長らしい』と思えてしまうのが彼女だった。
「んー? 儂に訊きたいことがあるじゃとぉ?」
○ッキーを咥えてベッドに寝そべるといった格好でノートパソコンの画面を見つめる信長はゲーム中のようだった。
なんでもマルチで今戦略ゲームをしているらしく、結構良いところまでいっているのだとか。
「今どんな感じなの?」
「くふふ、姫の奴め、五十六がいないとか慌てふためいておる」
「え?」
「まぁ黙って暗殺計画実行しちゃうと結構気付かなかったりするからの。仕方ない教えてやるか」
「?」
何やら笑いを堪えているような顔で足をパタパタさせながら信長がキーを打つと、その直後にゲーム内のチャットウィンドと思われる欄に『nyaaaaaaaaaaaa』という奇妙だが恐らく断末魔を表している文字が流れてきた。
多分その悲鳴の主が刑部姫なのだろう。
声は聴こえないが信長には刑部姫が離れた部屋でのたうち回っている姿が容易に想像できるらしく、彼女からのメッセージを見てその場で大爆笑していた。
「あはははは、此奴五十六がいきなり艦隊から消えてかなり混乱しておったからの。そこからの厳しい現実に多分部屋で半泣きしとるぞ」
「は、はぁ……」
「お、姫の奴、ゲームは今日はここまでとか言って抜けおった。ふむ、本当はもうちょっとおちょくってやりたかったが、マスターの相手もあるからの。丁度良いか」
ひとしきり笑い終えて目尻浮かんだ涙を指で軽く飛ばすと、ベッドの上で胡座をかいた信長はそこでやっとマスターに向かい合った。
「そういえばお主が誰かの、それもサーヴァントの元を訪ねてくるとは珍しいの。よほど儂に訊きたいことがあるとみえる」
「んー……まぁ、こう言っちゃなんだけど、サーヴァントの中で実は信長がある意味一番気になっていてさ」
「…………へっ?」
突然の告白としか思えないマスターの言葉につい先程までゲームの対戦相手をおちょくっていた信長は完全に意表を突かれ、目を点にして固まる。
『気になっていて』
恐らくサーヴァントはおろか、最も古い付き合いであろうマシュでさえ聞いたことがないかもしれないマスターの言葉。
それを無意識に頭の中で反芻している内に信長はやっと正気にかえり、頬こそ染めてなかったが強く動揺を見せた。
「いっ、いきなり何を言うんじゃ。こ、このうつけめ。そういう事はもう少し状況を見極めた上で然るべき時にじゃな……」
「え? いや、俺はただ質問を……」
「おおおおおい?! もう儂の返事を聞きたいとな!? お、お主、マスター焦りすぎじゃぞ? も、もう少し気を遣わんか!」
「???」
何故か焦る信長の様子にマスターはすっかり呆気にとられて頭の上には多くの疑問符が浮かんでいた。
どうやら彼女は何か誤解をしているらしいが、マスターには皆目検討がつかなかった。
彼は単に日本人として、恐らく日本で最も有名な歴史上の人物である彼女にかねてから興味を持っていたので、珍しく能動的に自分から交流をしようと動いたに過ぎなかったのである。
「えっと信長、何か誤解しているようだからもう少しちゃんと言うね。俺は歴史上の人物としての織田信長に日本人として興味があったからちょっと話がしたくてここに来たんだよ」
「へ?」
信長は狐につままれたような表情でそれを聞くと、バッと素早い動作で後ろを向いて何やら小言を呟き始めたかと思うと、程なくして再びマスターに向き直った。
その時にはすっかり彼女はいつもの信長の顔になっていた。
「な、なぁんじゃそういう事か。うむ、儂もそうかと思っていたのだぞ? ただマスター、お主ちょっと言葉が足・り・な・い!」
「あ、はい。それについては無駄に驚かせてしまったようで誠に申し訳なく思います」
「うむ。まぁいいじゃろう。で、儂に織田信長として答えてほしい事とはなんじゃ?」
一瞬浮かれた気分になりかけはしたが、理由はどうあれ自分に興味を持たれていたこと自体は嬉しいらしい信長は、頬杖をつきながらも楽しそうそうにマスターの質問を待った。
そんな信長にマスターは「ありがとう」と一言礼を言うと、やや居住まいを正して真面目な表情をすると言った。
「信長って一般的には結構時代を引っ張ってきた改革者みたいなイメージが強いけど、実は生前はそうでもなくて凄く堅実に物事を見る人だったんじゃないかなって」
「……ほ? 何故にそう見る?」
「俺も最初は昔の記録映像や漫画に結構影響されてたんだけど、実際に残っている資料にも興味を持って少しだけ調べてみたら、あれ? っと思ってさ」
「……儂は比叡山を焼き討ちしたのじゃが?」
「当時の比叡山は富と武力を持っていて仏僧にも堕落した人が結構いたんじゃない? それに攻める前にちゃんと条件も出していたよね?」
「……将軍とかも追放したんじゃが?」
「あれは……どうやっても結果的にそうなってた気がする。俺的には将軍が幕府の面子を優先し過ぎた結果、最後の方で信長に対する対応を誤って自滅したという印象が強いかな。信長もあの時ってかなり憂鬱だったんじゃない?」
「儂は当時の帝に譲位を……」
「天皇を含めて朝廷と信長ってそんなに関係悪くなかったよね? 寧ろ良好な感じが俺はしたんだけど。何かいろいろやらかしたような記録もあるみたいだけど、あれは単純に朝廷の慣例にいろいろ疎かった信長に非があっただけだと俺は思ってる。譲位だって信長が申し出てくれて天皇は喜んだらしいじゃん」
ここまでの問答を経て信長はふと顔を伏せポツリと言った。
「ふふっ……あの時は幕府もそうじゃったが朝廷も銭がなかったからのう。儂はそんな2つの権威にとって願ってもない存在じゃったはずじゃが……。最後に帝の譲位をしてやれなんだは心残りじゃったかな……」
そう言うと信長は自分が座っているベッドの空いてる場所をポンポンと叩き、自分の正面で椅子に座るマスターにここに移るように促した。
「え?」
「ここ、早く、座る」
初めて見る急な子供らしい仕草にマスターは驚き一瞬戸惑ったものの、何故かその時の信長には自分から従ってあげたいという雰囲気を感じ、素直にその言葉に従った。
マスターが信長の隣に座ると、彼女はそれを待っていたとばかりに彼の膝の上に座ってきた。
「え、ちょっ……」
「いーから。はい、腕」
「え、腕?」
「そ、腕を
「…………」
「暫くそのままね……」
信長を後ろから抱き締めるマスターからは彼女の表情は伺えない。
だが少なくともマスターにはその時の信長の機嫌は決して斜めではないことは解った。
マスターに抱かれた信長は前を向いたまま言う。
「なんかさ、私って日本の歴史上の人物の中ではかなりいろんなイメージを持たれてるじゃん?」
「…………」
「まぁそれってある意味ではそれだけ多くの人に私の存在が支えられているという事なんだけど。私もそれは嬉しいんだけどこうもいろいろ期待されていると、偶に、ちょっとだけどね? こうして肩の力を抜きたくなる時もあるの」
「うん」
「……だから、今日マスターが人々の想像の上に立つ私ではなく、実際の記録に基づく生きていた頃の私を見てくれていて……凄く嬉しかった」
「信長って普通に真面目で普通に自分に出来ることをしてきたよね」
信長はマスターのこの言葉に横を向く。
だが被っていた帽子のツバが下がって目元は見えなかった。
「なにそれ、何か地味なんだけど」
「でもそれを本当に的確にこなしていると思った。状況判断は特に早いと思った」
「……そうするしかない、って思っただけよ」
「でもその結果が今に繋がってるわけじゃない?」
「……小僧のくせに、口が上手いわね」
「信長」
「ん?」
「俺はやっぱり実在した歴史上の人物の中では信長が一番好きだな」
その言葉を聞いた信長は一瞬ガクリと肩を落とすも、不意に被っていた帽子を放ると今度はちゃんと自分の顔が見えるようにマスターの顔を見ながら言った。
「おいコラ。そこはただ儂が一番好きと言えば良いんじゃ」
俺の信長像でした