METAL GEAR WORLD ーMonster Eaterー   作:ひいまるモツ

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やっとモンハン要素が出てきます。

メタルギアの小説を意識して、時折小話などを挟んだりするスタイルをとっているのですが、そちらに引っ張られて話が進まないと言う…。

MGSの小説を書いてる方々の構成力がお化けじみていると、改めて実感しました。


1章 生命の方舟 2

 

「君が、ここに運び込まれてきた『海底から来た人』かね?」

 

 少し茶化すような言葉と共に現れた人間は、色黒の肌に鋭い目つきを備えた白髪の老年男性だった。金属鎧(プレートアーマー)革鎧(レザーアーマー)のハイブリッドのような防具を身にまとう彼は、体格からも戦いの場に身を置く戦士であることがわかる。顔にも古傷のような痣があり、相当に修羅場をくぐり抜けて来たのだろう。

 

 彼はとある部屋へと入るなり、その部屋の寝台に腰掛ける人物へと視線を向けて、

 

「災難だったな。まだ目覚めてすぐだと聞いているが、良ければ少し話をさせてくれないか」

 

 視線を向けられたのは、厳粛な雰囲気を帯びた眼帯の男。

 彼は心中に抱く警戒の念を微塵にも出さず、「ああ」と短く頷いた。

 

 

 

 

 

 

1-2 新たなる大陸

 

 

 

 

「そうか。舟が転覆して、気づいたらここにいたと…」

 

「ああ。浜辺に打ち上げられていた感覚なら残っている」

 

「うむ。君が見つかったのは、ここからそう遠くない海辺だと聞いている」

 

 スネークは自分が目覚めたばかりのベッドの脇に腰掛けて、老練と評するに相応しい男と会話していた。

 目覚めて最初に出会った探検者風の若い女性は、スネークと意思疎通の確認を取った直後、思い出したように、

 

「大変!ちょっと待っててくださいね、人を呼んできますから!」

 

 と、慌ただしく部屋を駆け出していったのだ。その言葉に裏がないことを経験から来る勘で直感したスネークは、大人しく部屋で待つことにした。出入り口のドアは施錠されているようには見えず、脱出は可能である。だが敵意のない者がいる場所で、むやみに相手を刺激するような行動は憚られたのだ。

 

 次に彼女が戻って来た時、彼女は複数の人間を連れていた。その中の一人が、今目の前でスネークと話をする老人だ。年齢や立ち振る舞いから見て、彼はこの集団の中で高い立場にいるのだろうか。

 先ほど差し出されたコップになみなみと注がれた水を口にしながら、スネークは彼らの正体について冷静な観察と考察を始めていた。

 

 まず敵でないことは確かだ。彼らからは何の敵意も感じられず、この部屋にはスネークがこれまでの人生で常に感じていた、ひりつくような闘争の前兆もない。

 老人が背中を向けた際にちらりと見えた、腰に下げているやけに大振りのナイフは気になったが、どうやら彼だけでなく他にも何人か同じように腰にナイフを帯びていた。これらはきっとグルカ人のククリナイフのように、民族に根付いた文化的なものなのだろうと解釈する。

 手にするコップにも細工はないようだ。薬物をごまかしやすい香りの強い飲料でも無ければ、変な異臭や刺激なども感じない。無味無臭の薬物か、もしくはスネークの感覚では捉えられないほど少量が入れられている可能性もあったが、その場合効果は得られない事が多い。スネークは若い頃に頻繁にやっていた拾い食いのせいで、ある程度の毒素に対する耐性がついているからなおさらだ。

 未知の薬物なども十分考えられるが、そもそも悠長にスネークが起きるのを待ってから、こんな回りくどい手で使用するとも思えない。

 純粋に、彼らは親切心で動いているのだろう。目を覚ましたばかりの遭難者に水を差し出すのは何らおかしいことではなかったし、事実スネークは海水を飲んでしまったせいか、ひどく喉が渇いていた。

 

「それで、ここは一体どこなんだ」

 

「ここか?ここは“新大陸調査団”の拠点だ」

 

「新大陸調査団?……コロンブスの信望者(ファンクラブ)か」

 

 だとするならば、意外にここはMSFのマザーベースから離れていないかもしれない。

 クリストファー・コロンブスは誰もが知る、新大陸の発見者である探検家だ。彼の偉業については様々な声があり、その評価は時代と共に揺れ動く不安定なものであったが、彼が歴史に名を残すことになった場所がアメリカ海域であるということは確かだ。

 スネークの組織であるMSFが本拠地を置くのはコスタリカの沖であり、コロンブスが1498年に3度目の航海でたどり着いたベネズエラと同じくカリブ海に面している。

 もしこの新大陸調査団なる組織がコロンブスのファンクラブで、ベネズエラなど彼の偉業の地となった場所に本拠地を置いているのであれば、スネークはカリブ海の中だけで流されて意外にも近場に打ち上げられた事になる。

 まあ、近場とは言ってもそれは地球規模の話であり、実際にコスタリカとベネズエラはパナマ、コロンビアを挟んで約2000kmの距離があるのだが。だが、スネークが当初予想したどこか遠方の辺境の地よりは、よほど現実感のある話である。

 

 しかし、彼の希望はあっさりと打ち砕かれることとなる。

 

「コロンブス、というのは人名か?…すまない、聞き覚えがないんだが」

 

 スネークと相対する初老の男は、周囲の人間にも確認を取るように視線を左右させた。だが、彼と目があった誰もが首を左右に振って、コロンブスを知らないということを示していた。

 

「なに?俺はカリブ海で打ち上げられたんじゃないのか」

 

「カリブ海…?」

 

 いよいよ持って嫌な予感がして、スネークは一筋の汗を垂らした。状況がどんどんとおかしな方向へ捻じ曲がっている。水を飲んだばかりの口が渇いていく感覚に舌を取られながらも、スネークは意を決して口を開き、

 

「まさかとは思うが…。ここはアメリカ大陸じゃないのか?」

 

 問いに対して、老人はきょとんとした表情を浮かべる。鋭い剣のようなこれまでの雰囲気すら引っ込めて、彼は妙なものを見るような目でスネークを見つめると、

 

「先にも言ったが、ここは“新大陸”で私たちはそれを調べる調査団だ。アメリカ、という大陸の名称は初耳だが…。一部では新大陸(ここ)をそう称するのか?」

 

 伝えられた言葉は、あまりにも衝撃的な。…まるで、二足歩行の核搭載戦車に蹴飛ばされたかのような、重すぎるインパクトを持っていた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 何度も何度も質問と回答を繰り返して、得られた真実がある。結論から言ってしまえば、これはタチの悪いジョークだ。“アメリカの足元であるキューバにソ連製の核が配備される”、なんてレベルの、荒唐無稽で低俗な冗談だった。

 

 ――俺はまだ、夢の続きを見ているのだろうか。

 

 たしか、あれは10年前。やけにおしゃべりなヤブ医者のピロートークのせいで、独房の中で化け物の夢を見た事があった。きっと今回もそれと同じような、似たような状況なのだろう。

 

 そう思えたらどれだけ良かった事か。

 

 スネークは優秀な兵士だ。あらゆる感覚が高い集中力で研ぎ澄まされ、明晰な頭脳は常に最善の回答を叩き出す。だから、今の自分がいるこの場所が明晰夢の中でないことなど、十二分に理解していた。

 

 認めるしかなかった。アメリカの足元に、核は配備されたのだ。それがリアルだ。だからスネークも今、まごう事なき現実を生きているのだ。

 

「ううむ。その、“アメリカ”と“ソビエト”だったか。そういった国の名前は、やはり聞いた事がないな」

 

 初老の男がそう答えて、駄目押しする。突きつけられた現実は、雄弁に物語っていた。

 

 ここは、見知った世界(ワールド)ではないと。

 

「力になれなくてすまない」

 

「いや、助けてもらえただけでも十分だ。感謝している」

 

「残念だが、今はこの大陸から出る方法はない。が、ある程度の目処は立っている。その時には、我々の船に乗ると良い。君の住む”モンスターの極端に少ない大陸“の話は実に興味深かった。ギルドなら協力してくれるだろう」

 

「それは有難い」

 

「しかし、我々の知らぬ大陸に、そこに住む人類か……。にわかには信じがたいが、君の所持品から文明の差異はよくわかる。これはまた、新たな調査団が結成されるのも近いやも知れんな」

 

「俺もこんな大陸、知りもしなかった。帰ったら国中大騒ぎだろう」

 

 笑い声を含んだ会話をしながら、スネークは己の言葉の空虚さを妙に客観的な視点で感じていた。

 未知の大陸?生態系の頂点であるモンスター?…ありえない。世界は一つの球であり、人類はその全てを見通そうと躍起になっている。

 故に、あるはずがない。こんな場所は、地球にあるはずがないのだ。人間は宇宙にさえ飛び立って、外から地球を見たこともある。だが、こんな大陸が果たして見えただろうか。見えるはずがない。世界に存在する大陸は六つ。そのどれもが人類踏破済みであり、そしてモンスターが常識であるところなど一つとしてない。

 

 きっと目の前に調査団の面々がいなければ、スネークは頭を抱えて唸っていただろう。それほどまでに、この状況はナンセンスだった。

 

「さて、そろそろ私は行かねばならんが……。遅いな、料理長はどうしている?」

 

 初老の男は周囲の部下らしき者たちに、料理長なる人物の所在について確認を取っていた。話の流れからして、どうやら自分と関係があるらしいと見たスネークの疑問符を読み取ったか、彼は少し笑って口を開く。

 

「君は二日も寝ていたのだ。腹も減っているだろうから、ウチの料理長に頼んでおいたんだが……。何分ここは豪快な大食らいばかりでな。消化に優しいものひとつ作るのにひどく時間がかかっているらしい」

 

「そこまでしてもらえるとは、本当に感謝してもしたりない。何から何まで世話になる」

 

「大したことではないさ。それに、君を助けたのはそこにいる編纂者だ。っと、どうやら来たらしい」

 

 男が言うや否や、戸の外から声が聞こえた。……いや、それは声ではなく、鳴き声だった。

 

「すまねえ、料理で両手が塞がっている。だれか開けてくれるか」

 

 だと言うのに、その鳴き声が意味を持って聞き取れた。

 それは周囲の人間も同じだったらしい。部屋にいた一人が鳴き声に返事をしてドアを開けると、その向こうにいたのは……、

 

「……猫?」

 

 ローティーン(10代前半)の人間程度の身長を持ち、やけに身体は筋肉質で、スネークと同じく右目が潰れている。半ばから折れた剣を背負い、頭にバンダナを巻いたそれは二足歩行で立っているものの、それらの要素があっても一目で猫だと思える身体的特徴に溢れていた。

 

「よかったじゃないか。初見の者に(アイルー)だと認識してもらえて」

 

「おい、総司令。オレはそんな頻繁に間違われてる訳じゃねえぞ」

 

 猫と思わしき謎生物は、初老の男を総司令と呼び親しげに会話をしていた。その光景に一瞬我を失ったが、スネークは目の前の光景に既視を感じて(デジャヴ)

 

「トレニャー!」

 

「うん?どうした、急に」

 

「トレニャーを…。猫を見なかったか!?俺と一緒に流された筈だ!」

 

「それは……」

 

 老人はスネークを助けたと言う編纂者の女性に目配せする。すると彼女は顔を左右に振って、不安そうな表情を見せた。

 

「俺が座礁した場所は、ここからそう遠くないと言ったな!場所を教えてくれないか!?」

 

 スネークはベッドから立ち上がると、その隣に置かれた自らの装備品を確認し始める。バックパックはいくつかの箇所が千切れているものの、大抵が残ってくれていた。その中には重火器を捨ててしまったために役立たずとなった予備の弾頭などもあったが、破片手榴弾や閃光手榴弾などの現状でも大いに助けになってくれる装備品もあった。

 自衛用のハンドガンはホルスターごと無くなっており、そちらの弾薬も残ってはいるが無用の長物だろう。

 そして何より痛いのはサバイバルナイフの喪失だ。ありとあらゆる場面で万能足り得るナイフを失ったことは、この場面においても痛手だ。幸いにもスタンロッドは残っていたが、長時間海水に浸かっていたせいか、電源が入る気配がない。鈍器として使うことも出来なくもないが、本来そう扱うものではないために効果的であるとは言い難いし、すぐさま壊してしまうだろう。

 つまり、今使うことのできる武器装備は数個のグレネード類のみ。それ以外はほぼほぼ裸同然(ネイキッド)で、あとは己が肉体のみが頼りだろう。

 

 厳しい状況に舌打ちするスネークの姿は、どう見てもこの部屋から出て行こうとするものであった。その様子に焦るのは周囲の人間で、総司令と呼ばれた男は、

 

「待て、君はまだ病み上がりだ。あまり無茶をするな」

 

「トレニャーは…。あいつは、俺の頼みを聞いて舟を出してくれた。転覆は海を読み切れなかった俺の責任だ。俺は、行かなければならない」

 

 スネークは使える装備品のみを選び出して並べていく。総司令と話しながらもその手は止まらず、()()でも動かないほど意思は固いと見えた。

 総司令も何かを感じ取ったのだろう。彼は大きく溜息を吐くと、

 

「なら案内がいるだろう。5期団代表、君は行けるか?」

 

 総司令が話しかけたのは、先ほど彼が編纂者と呼んだ若い女性だ。スネークが目覚めて最初に話した彼女は、スネークの発見者でもあるらしい。

 しかし彼女は沈んだ表情で首を左右に振る。

 

「相棒が少し前にクエストに…。無理を言って出発を遅らせているので、そろそろ追いかけないと今回ばかりは……」

 

「そうか。“ディアブロス”の狩猟だったな…。分かった、君はそちらへ向かってくれ。ちなみに彼を見つけたのは古代樹の森、エリア4で間違いないな?」

 

「はいっ。その浜辺です!」

 

「うむ。では、だれか手すきのハンターはいないか!古代樹の森のエリア4まで、案内と護衛を頼みたい!」

 

 総司令は勢いのある声で呼びかけて、すると応える者がいた。手を挙げるのは、ひとりの若い男だった。

 

「俺が行きますよ。今は余裕あるんで」

 

 前髪のみを伸ばして盛り上げて、それ以外の頭髪は全て剃り落としている独特な髪型の若者だった。彼は普段は陽気そうに見えるであろう顔を、真剣な表情に変えている。

 よく見れば彼は重武装である。頭部以外の全身にプレートアーマーを装備し、腰にはかなり大きめの剣を携えていた。右腕には円型の小楯を装備しており、はっきりと戦士だとわかる出で立ちだ。総司令の言葉からして、彼は狩人(ハンター)なのだろう。彼が身につける金属鎧には、緑の鱗が特徴的な獣の素材がふんだんに使われていた。狩りに生きる者としての立場を表す、一種のアピールなのだろうか。

 彼は横を向いて口を開くと、

 

「相棒、大丈夫だよな?」

 

 そこにいたのはショートカットの髪の毛をヘアバンドで整えた、勝気な雰囲気漂う女性だ。その服装は、どことなくスネークが最初に会話した編纂者の女性を思わせる。きっと、似たような立場の人間なのだろう。

 彼女は自らを相棒と呼んだ男の言葉に頷いて、

 

「次のクエストまではまだ時間があるわね。古代樹の森だったらすぐだし、問題ないわ」

 

 ふたりの言葉に、総司令は深く首を縦に振った。彼は腕を組みながら、僅かばかりに笑みを浮かべる。

 

「よし。頼んだぞ。…と、言うわけだ。君は彼らの案内に従ってくれ」

 

「……感謝する」

 

 知りもしない者のため、ここまで動いてくれる彼らが、スネークの目には眩しく映った。損得でしか動けない故郷の人々とここにいる彼らとの間には、大きな価値観の違いがあるのだろう。

 その事について深く考えそうになるが、スネークは思考を打ち切って行動へと変える。トレニャーが生きている可能性は低く、その僅かな可能性でさえも、こうしている間にじりじりと削り取られていくのだ。

 そんなスネークを、止める声があった。件の、言葉を持つ鳴き声だ。

 

「気持ちはわかるが、少しくらい腹に詰めて行け。本来ならお前は外出すら遠慮してもらう身なんだ。腹減りで動けなくなっちまうぜ」

 

 料理長と呼ばれる、二足歩行の猫だった。彼は自らが作ったであろう料理をスネークに差し出して、ゴロゴロとのどを鳴らしていた。

 まだ作りたてであろうそれは、湯気を登らせる米料理だ。確か、“かゆ”と言ったか。消化器官に負担をかけない料理だと、ミラーが言っていた記憶がある。

 スネークは無言の中に感謝を滲ませながら皿を受け取ると、勢いよく“かゆ”をかっ込んだ。ハイスピードで食事を済ませる技法はサバイバルで身につけていたが、こんな状況でなければじっくり味わいたいと思えるほど、その料理は豊かで繊細な、気品ある味わいをしていた。

 

 スネークは驚異的な速さで完食すると、バックパックとスニーキングスーツを手に取った。両方とも破損箇所が所々に見られたが、それでもその装備はスネークにとって、信頼に値するものだったのだ。

 

 仲間たちの手で作り上げられた装備が、“新大陸”への一歩を後押ししてくれる。未開の地へ踏み出す勇気をくれる。

 

 “That's one small step for man,(これは一人の人間にとっては小さな一歩だが) one giant leap for mankind(人類にとっては偉大な飛躍である).”

 

 5年前に偉人の仲間入りを成し遂げたとある英雄の言葉が、なぜだか頭をよぎっていた。





次話こそはモンスター戦を出したい…

またしても不定期更新ですが、よろしくお願いいたします
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