METAL GEAR WORLD ーMonster Eaterー 作:ひいまるモツ
今回、この二次創作で最初にして最後のオリキャラが出てきます
苦手な方がいましたら、ごめんなさい
私が編纂者として新大陸を目指した理由は、“知りたい”というその一言に尽きる。私はただ、知りたかったのだ。真実を求めるその欲求のみが、私の人生の原動力だった。
なぜ、どうして。なんで、あんなに。
溢れ出てくる気持ちは疑問に包まれており、しかし決して未知を探求する前向きなものではなかった。
私が見ているのは過去だ。私の記憶のずっと奥、ただの村娘であった私から全てを奪った、不思議な不思議なとある事件。……その内容については、あまり多くは語りたくない。だって、そうだろう。誰しも、破壊され尽くした故郷の中で自分の家族や親しい人たちが無残に死んでいく光景など、口にしたくないし思い出したくもない。ただ一つ言えることがあるとすれば、その事件は多くの
だから、知りたかった。家族も、友人も、故郷も。この命以外の全てを奪っていった“それ”が、一体何だったのか。
事件後に私は、たった数名の生き残りと共に村から一番近い街へと逃げ出した。そうして、寝る間も惜しんで勉学に励んだ。持てる時間は全て使い、生物学や植生学、古代文明学や地理学など、少しでも真相に近づけるならと多くを学んだ。
だけれども、何年も何年も、ただ無情に時のみが過ぎて行く。そうしているうちに、私は知識を評価されて招き入れられたギルドの中で、将来有望な若手として貴重な情報を多数閲覧できる立場にまで上り詰めてしまっていた。
なのにその立場で更に数年経とうとも、事件の影すら掴めない。ギルドが人々を危険から遠ざけるための情報規制でもなく、本当に情報が無いようだった。
そんな私にやってきたのが、新大陸で未知を調査する提案だ。藁にもすがる思いで、私はそれを即座に快諾した。桁外れに危険が多いと言われたが、このままだと身体が中から腐っていくような気がして。だったら外からくる危険の方が、幾分かマシに思えたのだ。
新大陸古龍調査団。その5期団の紋章を背負い、私は編纂者として船に乗り込んだ。やっと、進むことができるかも知れないと。もう何年も忘れていた、僅かばかりの期待感を胸に抱いて。
だがその期待だって私から奪われるものでしかなかったのだと気づくのに、そう時間はかからなかった。
1-5 門
肩に担いだ荷箱の中身がぐらりと揺れて、私は大きくバランスを崩してしまった。だがそれでも倒れることなく、たたらを踏んで堪えてみせる。きっとそれは、ちっぽけで情けない私の意地だ。
私がしているのは、荷運びというあまりにも簡単な雑用だった。新大陸古龍調査団、その拠点である“アステラ”には多くの物資が集積され、日々大量に消費されている。だからこういった雑用は必要不可欠で、暇なハンターや編纂者、もしくは籠りがちな技術者だって、空き時間でこういった雑用を進んで行なっている。いつ誰がやるとか、そんな当番制で決められたものではない。
だから、きっと私くらいなものだろう。毎日毎日、
その理由は私が新大陸にやって来た頃まで遡る。
意気揚々、とは行かないまでも、それなりのやる気と暗い執念を滾らせて5期団の船に乗り込んだ私を待っていたのは、ゾラ・マグダラオスという名の巨大な古龍による洗礼だった。
浮き上がる船、ひっくり返される乗員、誰かの絶叫。もはや山としか形容できないゾラ・マグダラオスの巨躯に乗り上げた5期団の船は、いとも容易く揉みくちゃにされてしまう。
だが奇跡的に死者はおらず、ある程度の負傷者は出たものの私含め全員が新大陸へと到達できていた。
中には船から落とされても咄嗟の機転で翼竜を使い、“空からやってきた”者たちもいる程だ。5期団の面々は運が良い。誰もがそう形容しただろう。
私と、パートナーになるはずだったハンターを除いて。
この一件は死者こそ出さなかったが、負傷者は出たのだ。傷に大小の差異はあったが、その中でもことさら酷い大怪我を負った者がいる。私ではない。私とコンビを組む予定の、ハンターだった。
新大陸古龍調査団では現在、ハンターと編纂者が二人一組になるバディ制が採用されている。ハンターは狩り場で単独行動するのではなく、現地まで付き従うサポーターが用意されているのだ。従来の狩りと比べると破格の対応にも思えるが、新大陸はそれを必要とする程に苦難の地であった。
だから私も事前の説明会で相棒となるハンターを紹介されて、しかしその彼は大きな怪我を負ってしまった。なんでも、ひっくり返った船の甲板で振り落とされたアイルーを助け出す際、落下物から身を呈して猫を守ったのだそうだ。ハンター生命に関わるほどの怪我ではないそうだが、少なくともすぐに復帰するのは無理だと医者が言っていた。そんな状態で過酷な新大陸で活動できるはずもなく、ハンターは船旅に耐えられるくらいには回復した後、1期団が何かの準備のために出航させた船に乗って国へと帰還した。向こうの安全な地で療養するらしい。
そうして私は、パートナーのいない編纂者となった。その結果が、今の雑用係という立場である。
5期団だけでなく、新大陸古龍調査団はその道を極めた選りすぐりたちの集団である。つまり逆に言えば、編纂者として極まった私がそれ以外の部署で活躍することも不可能なのだ。ハンターのような戦闘力はないし、技術者としても無能だ。研究者としての知識にはある程度の自信こそあれど、
だから結局、私は
……自分でも情けないと思っている。パートナーのハンターが動けなくなった時点で、編纂者としての役目は無いも同然だ。私はあの狩人と一緒に船で帰国して、今まで通りギルドの資料と格闘することを選んだ方が合理的だろう。その方が真実の追求だって進むはずだ。少なくとも、雑用で日中を潰すよりは有意義である。
だと言うのに、私は未だに新大陸にかじりついている。これまで見つからなかった手がかりがこの大陸にあるかもしれないという、漠然かつ希望的観測に基づいた可能性を理由に。
怪我をしたハンターを恨むことはない。真に悔しいのは彼本人なのだから。だと言うのに、「不甲斐ないパートナーですまなかった」と出航の間際に口にした彼を、責めることなんてできなかった。
しかし、子供のアイルーにでもできる仕事で毎日が終わる現状を受け入れることはできない。手にした荷物は重く、しかし私の気分はもっと重く。
気を抜けば、底抜けにどこまでも沈んでいきそうで。心が落下していくような感覚に、私は荷物を背負ったまま立ち止まってしまった。
そんな私の意識を覚ましたのは、どこからか聞こえてくる喧騒だ。
別にアステラが騒がしいのは珍しいことではない。日々忙しなく稼働するこの拠点は、さながら一つの街のように目まぐるしく人と物の流れがある。そのせいでたとえ夜であっても、アステラは騒がしさを失わない。
だがその時聞こえた喧騒は、どこか異質なものに思えた。例えば、自分と同じ5期団であり、その代表として活躍する“空から来たコンビ”が何かしらの発見を持ってきた時のような、精鋭揃いの調査団の面々が浮き足立つ雰囲気。
その音の方向へと目を向けると、何やら人集りが出来ている。古代樹の森へと繋がる門の辺りで、ざわざわと、どこか緊迫した様子。
また何か起きたのだろうか。5期団代表が持ってくる情報はどれもこれもが緊急性と重要性の高いものばかりで、アステラを右に左にと振り回してばかりだったが、今回もやはりそうなのだろうか。
しかし、あの“空から来たコンビ”はディアブロスの討伐に出かけたばかりだと聞く。場所こそそう遠くない“大蟻塚の荒地”ではあるが、何分相手はあの角竜だ。古代竜人に認めてもらうとかなんとか、生態系の頂点を狩れとの指示らしいが、そんなすぐに終わるものでもない。むしろ、果たしてあのふたりでも無事に帰ってくることができるのか。そう心配になるほどの相手だ。
では、もしかしてその心配の方が当たってしまったのだろうか。5期団代表が、無地で済まなかった。ならばあの緊迫した様子の集団にも納得がいく。
背筋が冷えていくような感覚がした。氷のような恐怖に身体が固まってしまう前に、あの喧騒の中へと飛び込んで自分も手助けに入るべきか。そう考えた時、背後に人の気配を感じた。
「アリシア君、少しいいか?」
アリシア――私の名前を呼んだのは、浅黒い肌に白髪が映える、老年の男性だった。
彼は、この新大陸古龍調査団を動かす総司令だ。常に余裕を崩さない聡明な人物で、冷静沈着かつ大胆不敵という新大陸調査のエキスパート。
そんな人物が、私に対して距離感を計りかねるような口調で話しかけていた。
「頼みごとをしたいのだが……聞いてもらえるか」
どこか気遣いの見え隠れする、優しい音色。簡単に言えば、総司令は私を心配しているのだ。
私が個人的な決意を持って調査団に所属したことを役職上把握している総司令は、そんな私が不運により職務を果たせないでいる現状を憂いている。能力だけでなく人格にも優れた彼は、調査団の拠点に縛り付けられた私を何とかしてやりたいという思いと、限られた人材を的確に無駄なく動かした結果、私に待機命令を下さなければならないという総司令としての責任の間で、大いに頭を悩ませているようだった。
そこでもまた、自己嫌悪だ。私如きの身勝手なわがままのせいで、かくも有能な人材の頭を占拠してしまうなど。
私程度に頭を悩ませるなら、その労力を他の事に使ってくれた方が調査団全体のためになる。それが分かっていながらも、私は一歩引き下がることを頑なに拒み続けているのだ。
ああ全く、自分が嫌になる。
「承知しました。…私程度でお役に立てるなら」
自然と私の声は自嘲の念を含んでいて、静かだが刺々しくなっていた。こんな精神的自傷行為で心を落ち着けようなどと、知らぬ間に私も随分と浅はかな女になったようだ。
なんだか、久々に声を出したような気がする。そういえば、ここ数日誰とも話していなかった。
「このアステラの、案内を頼みたい」
総司令は私の自虐的な発言を聞かなかったとでも言うように、自分の用件だけを短く伝えた。
「アステラの案内、ですか?」
「うむ。先日、ここに漂流者がやって来たのは知っているか?」
「ええ。曖昧な噂話程度ですが」
「その人物なのだが、文化も技術もまるで違う、かなり遠方の異国の地から流れて来たようでな。帰る目処も方法も分からんとの事だ。そこで」
「私たちの生活を少し知ってもらおうと?」
私が口にした言葉に総司令は頷いた。なんでも、しばらくはアステラから船が出港する予定はないのだという。たったひとりの漂着者のためにそれを曲げるわけにもいかず、強制的に漂流者は
だからその漂流者がしばらく滞在するこのアステラを、案内してやってほしいとの事だった。
なるほど、私にうってつけだ。なんせ、私はこの広くも狭い拠点の中を毎日ぐるぐると徘徊しているのだ。まさに適任、お似合いだろう。
そんな皮肉めいた思いが膨れ上がって、すぐに自分を恥じた。総司令はそんな意味を込めてなどいない。被害妄想もいいところだ。彼ほどの人間を悪役に仕立てて
私は短く目を閉じて邪念を振り払うと、総司令の言葉に頷いた。
「かしこまりました。それで、その方はどちらに?」
「連れのアイルーが行方知れずだそうでな。目覚めて間もないというのに、捜索に向かってしまった」
「……それは、大丈夫なのでしょうか」
「行ったのは近場だ。ハンターも同行させているし、それにもう戻って来ている」
総司令は横を向いて顎で示した。その先にあったのは、先ほどの喧騒。よく目を凝らして見れば、集まっている人々は多くが医療系の人員だ。
ちょうどその時、人集りがぱかりと割れて、数名の人間が忙しなく出てきた。何やら抱えて、素早く治療室のある建物へと向かっていく。
抱えられていたのはアイルーだ。ぐったりとしていて、遠目に見ても衰弱している。
「どうやら見つかったようだな」
総司令はその光景を見てほっとしたような、しかし同時にまだ安心はできないと気を引き締め直したような、複雑な表情を見せていた。
「…と、彼がそうだ。行こう」
割れた人集りに、ひとりだけやけに浮いた格好の人間が見えた。身体の曲面に沿って張り付く、黒いひとつなぎの服を纏っている。遠くてよく見えないが、総司令が“彼”と言ったように恐らく男性。総司令はその姿を視認すると、そちらへ向かって歩いて行った。
私は担いだ荷物をとりあえず地面へ下ろし、その後を追う。なんて事はない、今までやっていた雑用が別の雑用に切り替わるだけだ。そんな、半分ヤケになった気持ちを抱いて。
近づいて見れば、漂流者だという男はやけに強烈な顔立ちをしていた。第一印象は、野に放たれた獣だ。乱雑な髪と豊かな髭。右目を覆う眼帯と残った左目の眼光。深く溝を作る年季の入ったシワは眉間にも頰にも影を落としている。それらの要素によって形成された顔立ちは、野生と表現するに相応しい雄々しいものだった。だがそれでいて、どこか深い悲しみと理知も感じさせる。何故だろう。あの眼帯の奥で、彼が涙を流しているように見えるのだ。そんな複数の面を同時に感じさせるその男は、今まで出会ってきたどんな人間にも例えられない異質さを持っていた。
そして遠目に見たときにも思ったが、奇抜な格好だ。こんな服装、今まで見たことがない。単純に変な服であったのなら、彼が奇人であるというだけで済んだだろう。だが、その服には激しく身体を動かす際に有用な意匠が多く盛り込まれていて、奇妙に見えつつも洗練されている。見慣れたハンターの防具にある合理性とは別の法則で描かれた合理性が読み取れて、知りもしない文明の存在を意識せざるを得なかった。
総括して言うと、男の存在は
だが、それは私が
でも、どうしても思ってしまうのだ。事件の真相にたどり着くヒントが、ふとした拍子に私の前に現れてくれないかと。
……いけない、いけない。まただ。災難に遭ったばかりの漂流者に、自分の勝手な都合を押し付けて落胆するなど。今は彼を助けるため、自分の事は置いておくべきだ。
私はもう慣れ過ぎた諦めの心で胸をいっぱいにして、無理やり頭から自分の目的を追い出した。どうせ、叶わぬ夢なのだから。
だがそんな心境とは裏腹に、停滞していた私の運命は大きく動き出すこととなる。
この男との出会いが私にとっての
オリキャラを出した理由は、「スネークとトレニャー以外の名前付キャラが欲しかった」からです。
名前の無いキャラクターばかりを動かすのは、正直厳しかった