真・恋姫†無双 -糜芳伝-   作:蛍石

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十六話投稿です。

まだ原作前なんです。
あと五話以内にはなんとか原作開始したい……。

時間軸は少し針を進めて、初陣から三年後くらいとなります。
キングクリムゾン!


青年期① -原作開始前-
第十六話 Waiting For Friend ー開戦前夜①ー


「ああもう、寒い寒い寒い!」

 

 隣で私の親友が寒いと連呼しているが、退屈だから相手をして欲しいのだろう。相手をするのも疲れるので、できれば無視しておきたいところだ。

 しかし、相手をしないで無視し続けているのも問題がある。

 具体的には叫び続けている娘を見て、段々と視線が険しくなり始めている主君であったり。

 あるいは『お前何とかしろ』と言いたげに、隣からこちらを見てくる直属の上官の存在であったり。

 このまま無視し続けていると、直に主君から親友へ雷が落ちるのだろう。そして、十中八九私も巻き込まれて怒られる事になる。色々と理不尽ではあるが、今回兵を率いている中では私が最も立場が低いと理解しているため、表立って文句を言う事も許されない。

 あんまりな状況に思わず溜め息が漏れそうになるが、なんとか堪えて親友へ話しかけた。

 

「雪蓮、五月蝿いぞ。 将がいちいち不平を口にするな。 兵の士気に関わる」

 

 そう言った私の方を振り向き、やっと相手をしてもらえるとばかりに勢い込んで言葉を作ってきた。

 

「けど冥琳、私このままじゃ風邪を引いちゃうわよ? なんでこんなに寒いのよ、ここは!」

「あのなぁ・・・。 そもそも呉郡から出てくる時に私が散々言っただろう? 『この時期の西涼はここよりずっと寒いのだから、防寒具が必要になる』って。 それを荷物になるから要らないって言って結局持って行かない事にしたのは誰だ?」

 

 しかも、雪蓮が持って行かないと決めた事で、私も巻き添えで防寒具を持って行く事ができなくなった。目の前の親友曰く、「一心同体とも言える親友である以上当然」との事だ。巻き込んだ張本人がどの口で言うのか、そんな気持ちも含んで軽く目の前の親友を睨む。私だって呉の気候に適した普段着で寒いのを我慢しているのだ。

 ちなみに、主君である誠蓮様と直属の上官である祭殿も同様に防寒具を使用していない。寒いからこそ、暖まるという名目で昼間から酒を飲む事ができるからだそうだ。正直それはどうかと思う。

 雪蓮も誠蓮様に飲ませろと迫ってはいるのだが、いざという時に兵を指揮する事ができる物がいないのは問題があるため、誠蓮様が許可をしない。私も目を光らせているため、隠れて飲んでもいないはずだ。

 こうやって騒いでいるのは、その事への不満もあるのだろう。

 

「けど、こんなに寒いとは思わないじゃない! 私、西涼は初めてなんだから冥琳も教えてよ!」

「無茶を言うな」

 

 私だって西涼に来るのは初めてなのだ。具体的にどれくらい寒いのかなんて知るわけがない。精々書物で、北に位置するために寒い、と記載されているのを読んだ事があるくらいだ。

 

「それじゃ、やっぱりあの時点じゃこの状況を想定する事なんて出来なかったわけね。 なら現地でなんとかして体を温める方法を考えるしか無いわよね。 とりあえず、お酒飲も♪」

「雪蓮。 いい加減にしなさい」

 

 私達の会話が収拾がつかなくなってきているのを察したのだろう。誠蓮様が私達の会話に加わった。

 正直な話、非常に助かる。誠蓮様は、雪蓮を鶴の一声で黙らせる事ができる唯一の人物なのだから。

 

「そもそも、私達がこうして陣幕を出て外で待っているのか、理解しているの?」

「当たり前でしょ。 到着が私達より遅れている友軍を迎え入れるため」

「そう。 だから私も祭も今日は一杯も飲んでいない。 なのに娘のあなたが飲めるはずが無いでしょう」

 

 その言葉に雪蓮をそっぽを向いて舌を出す。その様子を見て誠蓮様は小さく溜め息をつく。

 

「いえ、あの誠蓮様? 友軍の到着が遅れているのではなく、私達が早く到着しすぎただけなのでは」

「私達が待たされている時点で非は向こうにあるのよ」

 

 私がおそるおそる誠蓮様の言葉を訂正すると、誠蓮様はきっぱりとそう口にされた。

 思わず頭を抱えてしまいそうになるのを理性を総動員して押さえ込む。

 

「わ! 冥琳聞いた聞いた? この鬼婆のあまりに理不尽な台詞。 江東の虎とか呼ばれて最近調子に乗っていると思わない?」

 

 その雪蓮の言葉を聞き、無言で構えを取る誠蓮様。それに応じるように雪蓮も即応できるように腰を低く落として構えを取る。互いに武器を用いていないのは、なけなしの理性が働いた賜物だろうか?

 そんな二人の様子を見て、私は今度こそ頭を抱える。誠蓮様、頭痛の種を増やさないでください。いつもは冷静なのに、何故雪蓮の行動に対してはすぐに感情を動かされてしまうのか。

 心中で嘆いていると、隣にいる祭殿はやれやれと言いたげに肩を竦めてみせている。別段止めるつもりは無いようだ。

 

「祭殿。 なんとかお二人を止める事はできませんか」

「無理じゃな。 誠蓮も寒くてイライラしているところに、策殿からの挑発じゃ。 止める事はできんよ」

「では雪蓮の方を……」

「それこそお主の役目じゃろう」

 

 あまりの正論に返す言葉も無いが、にべも無く断るのは酷くないか。思わず恨みがましい目で祭殿を見てしまう。

 それに応えるように祭殿は一つ大きく溜め息を吐き、私に向けて言葉を作った。

 

「気にせず放っておけ。 策殿としてはああやって母親に遊んでもらいたいんじゃろうて。可愛いものではないか」

 

 雪蓮の耳に入ったら斬りかかられそうな事を平気で言っている。雪蓮を子供扱いできるのは流石は年の功というべきなのだろうか。

 そんな本人の耳に入ったら雷が落ちそうな事を想像しながら、私は祭殿の言うとおりに二人を放っておく事にした。

 しかし、兵達にはこの二人の行動は寒さを紛らわせるために体を動かすためにしていると説明しておく。そうしないと、将が遊んでいると思われかねない。

 そしてその後は祭殿と今回の出兵について確認をする事にした。

 

「祭殿は今回の出兵について、どうお考えですか?」

「それは今回相手にする連中が、主張どおりに漢王朝を憂いて行動をしているかどうか、という事か?」

 

 私はその言葉に無言で頷く。

 祭殿はそんな私に呆れたように言葉をかけてきた。

 

「頭が固いのう、お前は」

「は?」

「どちらであってもやる事に変わりはあるまい。 儂らに向けて刃を向け、矢を放つならば蹴散らすのみ。 そうであろう? 仮に奴等の行動が漢への至誠から発したのだとしても、反旗を翻した時点で賊軍よ。 それとも何か? 冥琳、お前は奴等が正しければ素直に殺されてやるつもりか?」

「そういうわけではありませんが……」

「ならば、儂らは儂らの都合で剣を振るえば良いだろう。 誠蓮が決めた事なのだから、臣下はそれを全力で支えるだけよ」

 

 その祭殿の言い分には呆れてしまう。が、一理あるのも事実だ。祭殿のその言葉を肯定するため一つ頷く。

 

「さりとてそれは将の在り方であって、軍師の在り方ではない。 軍師であるお前は別の在り方を見つけねばなるまいて」

 

 少し意地悪そうにそう言葉を続けられて、思わず眉根が寄る。そんな事は言われずとも分かっております。

 

「ただなぁ。 最近の雒陽が色々ときな臭いのは事実よ。 宦官共はますます付け上がって権力を欲しいままにしておるし、それに対抗しようとしている大将軍からして帝も民も顧みておらん。 ならばいっそ、力でそれらを排除して自らが帝を支えようと考える者がおってもおかしくはあるまいて」

 

 今回の乱が義心より発した、と祭殿が考えているのが今の言葉で分かった。

 軽く溜め息を吐き、首だけで背後を振り返る。そこには私達孫家の陣幕しか見えないが、更に奥に今回の総大将が起居している陣幕がある。

 司空の地位にある以上、私達から文句を言う事はできないが、私達が寒い中友軍を待っているのに陣幕で酒色にふけっていると思うと腸が煮えくり返る思いだ。

 

「ま、あれが現在の雒陽の高官の姿よの。 (かみ)を学ぶ(しも)と言うじゃろうが。 三公に立つのがあれならば、雒陽に居る有象無象の官吏の大半が似たような者と思っておけば間違いなかろうて」

 

 おそらく祭殿の言うとおり、雒陽の政治が乱れているため今回の反乱が起きた可能性が高いのだろう。

 だからといって、戦に手心を加える気が無い事も事実なのだが。

 

「で、今回反乱を起こした奴、韓遂と言ったか? どの程度できる奴なんじゃ?」

「少なからず、正規軍を叩いているとの事ですね。 正規軍を率いている将は……確か董擢(とうてき)と聞きました」

「そんな名前も聞いた事無い将が率いる兵を叩いたと言ってものう。 評価のしようがないわ」

 

 ばっさりと下された評価に思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

「反乱軍の将ですが、総大将は韓遂。 羌族と手を結び反乱を起こしたようですね。 さらに韓遂は涼州牧である馬騰と義姉妹ですので、事実上西涼の漢王朝への反乱とみなすべきでしょうか」

 

 実際には馬騰は韓遂に付くとは宣言していないが、韓遂を討伐するための兵を出していない。雒陽からの命令は届いているのだが、理由をつけて先延ばしにしているらしい。どう考えても既に両者の間には盟約が結ばれているとしか思えない。

 そう推測を告げると、祭殿は嫌そうな顔をした。

 

「となると、この段階で叩いてしまわぬと長期化は必至か。 嫌じゃぞ、この寒い土地に長々と縛られるのは」

「長期化すると補給の問題、さらに食料を買い集めるとなると物価が不安定となり民の心がますます漢王朝から離れていく事になるでしょう。 それが嫌ならば-」

「それが嫌ならば、せめて影響を小さくするために近隣の村落から強制徴収を行う、であろう。 できるか、胸糞悪い」

 

 祭殿は私の言葉を途中で引き取り、吐き捨てるように言葉を作る。

 とは言っても、あまり長引かせると総大将殿から強制徴収命令が出るし、我らにそれを拒否する事はできない。

 

「韓遂がどうであれ、厳しい戦いになる事は変わらぬか。 ……ええい、やめじゃ! こんな話をしていると辛気くさくてかなわん! ますます気が滅入ってくるわ!」

「その意見には賛同ですね。 私の方でもなんとか短期決戦で終わらせる事ができないか、策を練ってみます」

「おう。 それは任せたぞ、冥琳」

 

 そう言って祭殿は前方を見据えた。

 

「どうやら遅れていた友軍も到着したようじゃな」

「いえ、ですから遅れていた訳では……。 それにしても、ここから見えるのですか? 私には何も見えないのですが」

「なんじゃ、疑うのか? 弓使いの目を舐めるでないわ。 この程度は朝飯前よ。 先頭をお前や策殿と同じ年頃の男女が務めているのまでしっかり見えているわ」

「いえ、疑うわけではないのですが。 では、友軍が到着した以上、そろそろ二人を止めなくてはなりませんね。 祭殿、ご協力をお願い致します」

「面倒じゃのう……」

「祭殿、物資の管理を誰がしているかご存じですか? そこには酒なども含まれているのですが」

「さあ! すぐに二人を止めようではないか! 軍を率いる者とその娘が争ったまま友軍を迎えては、孫家の名折れよ!」

 

 面倒くさそうな態度から一転、いっそ清々しいくらいに手のひらを返して、祭殿は二人へと歩みを進める。

 やれやれ、と私は口にしながら、私もその横に並び歩き出す。

 その私へ祭殿が私へ問いを放つ。

 

「そういえば、今回来る友軍はどこの軍じゃったか?」

「ご存じなかったのですか? 我らと同じように賊討伐を繰り返す事で、王朝よりお誉めの言葉を一緒に賜ったではありませんか」

「おお、なるほど。 では今回我らと共に戦うのは」

「ええ。 おそらくご想像のとおりです」

 

 それから、私は友軍を率いる人物の名前を祭殿に告げた。

 

「徐州牧、陶恭祖様の軍ですよ」




最後までお読み頂きまして、ありがとうございます。

新章のプロローグなので少し短めに。

今回の話を推敲していて、初出のオリキャラが真名以外で呼ばれていない事に今気づいたw
お分かりかと思いますが、誠蓮=孫堅です。
孫家の命名規則を踏襲しています。

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