真・恋姫†無双 -糜芳伝-   作:蛍石

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連続投稿二日目。

行間のせいか、戦場の図面が縦に長いですね。
ちょっと見づらいかも……。


第三十五話 Blue -北海籠城戦③-

 翌朝に開かれた軍議は、蜂の巣を突いたような騒ぎとなりました。

 援軍を呼ぶための使者を出す事は孔国相様から全員に説明されていた物の、その日の内に仕掛け、更に戦果を上げるのは予想外だったようです。

 とは言っても、ほとんどは良くやったという喝采であり、やっかみなどを口にするのは数人程度です。

 

 また、敵が総攻撃を行う前に出鼻を挫いた事で、今日も攻撃は無いようです。おそらく、東門を包囲する部隊へ兵を提供するための再編成に時間がかかっているのだと思います。

 おそらくその編成が完了するまでには、まだ二、三日かかりそうな雰囲気です。

 四方の兵力数に偏りがあり、均等な数に割り振りが終わっていないのが見てとれます。

 

 ただ、負ければ問題が出るのは当然ですが、勝ちすぎても問題が出るようで……。

 

「所詮は雑兵! これを機に援軍を待たずに賊共を打ち倒すべし!」

「然り! 黄巾の徒などと言っても、たかが雑兵! 何を怖れる事があるか!」

 

 この様に血気盛ん、というよりも黄巾賊達を甘く見て多くの官吏が浮き足立っている状態です。功績を欲して、出陣を望む声で部屋が騒がしくなっているのです。

 だから、それに反対するために子義さんが説得に回っているわけですが。

 

「あくまで、昨夜の戦いで優勢に立てたのは奇策に頼ったからです。 何の手だてもなく打って出れば、数に勝る敵に飲み込まれ、屍を野に晒す事になるでしょう」

 

 子義さんが今言ったように、考え無しに城外で戦ったとしても最終的には数で磨り潰されます。

 その差を埋めるために援軍を呼んだのですから、今は防衛に徹して、援軍が到着次第出陣した方が勝ち目が見えてくるはずです。

 

 しかし、そう言った子義さんに不満の声が上がりました。

 何やら焦っている?ようで、多くの北海の官吏は積極的に打って出る事を主張しています。

 無言を貫いているのは、国相様の近くに侍る少ない人数だけです。

 ……そういえば、この人達は私達が提案した援軍要請に消極的ではある物の最初に賛成した人達だと今さら思い至ります。

 

 話を戻します。

 この血気に逸ったままの状態では、彼らは暴発して勝手に出撃しまうかもしれません。

 それはただでさえ少ない戦力がさらに減る事になるので、可能な限り避けたい事態です。

 

 しかし逆に言えば、きちんと勝算がある状態を作り出せば問題は無いと言えます。予定よりも早くなってしまいますが、火牛計で混乱している間に仕掛けた作戦を実行した方が良いでしょうか。

 子義さんに目配せをすると同じ事を考えていたのか、目を合わせて頷いてくれました。

 私は咳払いを一つした後、ゆっくりと話し始めました。

 緊張でどもったり、不安そうな表情はしないように細心の注意を払います。

 

「国相様。 一つご提案したい事がございます」

「ふむ、何かな叔子」

 

 しかつめらしい顔をして会議の推移を見守っていた孔国相様が相好を崩して私の方へ顔を向けました。

 そうして、好意を向けて頂けるのはありがたいのですが、今は北海国相と莒県の県尉として話しがしたいので、先程までの真面目な顔の方が嬉しいのですが。

 

 官吏の皆様も、私と国相様に血縁関係がある事を知っている(というより、最初にあった時に国相様の口から皆の前で嬉々として語られた)ため、贔屓されているのではないかと陰口を叩かれていたりするそうです。

 実際にされているのだろうと私も思っていますので、反論する余地がありません。そうでなくては県尉という中央官吏であるとはいえ、一段飛ばしに直接国相様へ意見する私の話を積極的に聞く姿勢を見せないでしょう。

 まあ、話を聞いてくれる分にはありがたいので、これ幸いとばかりに人前で国相様へ提案をする際には私が話すようにしています。

 最後まで国相様が話を聞いていただく事ができ、話している途中で他の人に話の腰を折られる事が無いからです。

 北海に来てからは、官吏達と話をするのが腕が立ち威圧しながら話せる子義さん、国相様と交渉を行うのが私と役割分担をしています。

 

「折角皆様の士気が旺盛なのですから、もう一当て致しましょう」

 

 その私の言葉に、騒いでいた官吏達が意外そうな目を向けてきます。

 おそらく、子義さんと同じように出撃を止めにかかると思ったのでしょう。

 言って止まるならそう口にしますが、止まらないなら自分で制御できる状況に持ち込めるように頭を使う方がよほど建設的です。

 私が国相様に提案するのもそのための手段です。

 

「ただし、その為には昨日と同程度の策略が必要となります。 その仕掛けは昨晩の内にしておきましたので、動くならば二、三日待ってからの方が確実になるでしょう。 ……時間を置きすぎても失敗するかもしれませんので、士気が高まっているうちに仕掛けましょう」

「ふむ? 具体的にはどうするのだ?」

 

 その国相様からの促しの声に、私はゆっくりと説明を始めました。

 まず、火牛計と突入した子義さん達の活躍により、東門の包囲部隊は大混乱に陥って大きな被害が出ました。

 この事から既存の兵力だけで東門を包囲する事が難しくなり、夜が明けてから東以外に布陣している他の門の包囲軍から兵を補充するために、兵力の再編が行われたようでした。

 これは先ほど述べたとおりです。

 

 これがどういう事かと言うと、陣地に見知らぬ人間が居ても気づかれにくい環境が出来上がった事を示しています。他の包囲軍から編入されました、って平然としていれば案外誰も気にしない物です。

 

「なるほど。 そのまま一部の兵を敵に紛れこませたわけか」

「はい。 昨夜の戦いで東の包囲軍は士気を落としましたが、折角だから東だけではなく、包囲軍全体の士気をできるだけ落としてしまおうと考まして。 そうすれば、組織的に連携して攻城が行われなくなり、援軍到着まで落城しないようにするのが易しくなります」

 

 子義さんが昨夜率いた兵は、襲撃後に三手に分かれました。

 

 一.ほどほどに被害を与えた後、子義さんと共に城内に撤退

 二.正規の使者である証明として私と子義さんの連名での書状を預けた上、徐州へ向けて離脱

 三.あらかじめ粗服を着た上で、賊達の中に紛れ込む

 

 一、二に関しては説明は不要でしょう。

 三は、援軍が到着するまでの間を耐えしのぐための布石として打ちました。

 

「その者達を使って混乱した敵陣を叩く、か。 なるほど、それならば確かに……」

 

 国相様を始め、多くの官吏が納得の表情を浮かべています。

 一部不満そうな方もいるようですが、表だって異議を唱えるつもりは無いようです。

 ……あれ?何で不満そうにしているんだろ?

 脳裏に浮かんだ疑問は一旦置いておく事にします。

 現状では答えは易々と出ないかもしれないので、今は夜襲について話を詰めるべきです。

 

 まあ、その夜襲も本当にやりたい事への布石に過ぎないのですが。

 

 戦闘推移図①:火牛計翌日

 西                       東

               ●

              ■□■

            ● □■□ ○

              ■□■

               ●

 ■:北海城城壁

 □:北海城城壁(門有り)

 ●:黄巾包囲陣

 ○:黄巾包囲陣(兵力再編中)

 

 ・・・

 

 

 結局、私達が再度夜襲を仕掛けるまでに、敵は散発的な攻撃しかしてきませんでした。

 再編成が完了するまでの間、積極的な攻勢に出るのを控えたのでしょう。

 そして、総攻撃が始まる前に私達は行動を開始しました。

 

「報告書でも読んだけど、何と言うか、まあ……。 どちらかと言えば計略というか謀略の類いだね、これ」

 

 私の説明を聞いたお兄ちゃんはそう苦笑いを浮かべました。

 確かにお兄ちゃんの言うとおり、これは謀略に近い物になるのでしょう。

 

 あの話し合いの二日後、日が落ちた後に私達は合図を出しました。

 あらかじめ門を照らす篝火を消しておく(最初から点けない)事で合図を出すと決めていたので、見張り以外が寝静まった頃合いを見計らって、紛れ込んだ兵達が陣地に火を放ちました。

 すべての陣ではなく、南北(・・)の陣地だけを、ですが。

 火を放った南北の陣は、城壁の上から確認しても大混乱に陥っていたようです。到るところで同士討ちが発生しているようでした。

 

 同士討ちにまで発展しているのは、紛れ込ませた兵達を使って、あらかじめ『東門の包囲軍が抜け駆けしようとした』『独り占めしようと他の陣地も考えているに違いない』『東はもちろん、西の連中も怪しいぞ』『俺達が邪魔だから攻撃しようとしている』などの噂を流布させる仕込みをしたのが影響したのでしょう。

 その噂、一番最初は真実であるため、他の噂についても一定の説得力を持ってしまいます。

 ついでに、放火と同時に『東、西の連中が火を放った』とも叫んで貰いました。

 ……ついで、の方が悪辣という意見は聞き流します。

 

 戦闘推移図②:夜襲成功時

 

 西                      東

               ▲

               A

              ■□■

            ● □■□ ●

              ■□■

               B

               ▲

 ■:北海城城壁

 □:北海城城壁(門有り)

 ●:黄巾包囲陣

 ▲:黄巾包囲陣(放火により同士討ち発生。 大混乱中)

 A:太史慈(騎兵)

 B:羊祜(騎兵)

 

 軍事行動中は、どうしても行動が制限されてしまうので娯楽に飢える者が多くいます。

 そんな中で噂話は数少ない娯楽となりますので、つまらない流言でも広まりやすくなります。

 その辺りを軍規で規制する事も軍を率いる上で重要です。

 特に上官への批判と友軍への疑い等は、真っ先に消して回る必要がある噂になります。

 それを止めるのに失敗すると、現在南北で行われている同士討ちや謀反などの騒動に繋がりかねません。

 今回は、あらかじめ東西の包囲軍への疑念を植え付けておく事で、異変が起きた際にすぐに連想するように仕向けるために利用しました。

 

「そうやって混乱しているなら、打ち取るのは容易くなる。 そこで出撃するのは理に叶ってるね」

 

 お兄ちゃんの言った通り、私達は敵が混乱しているのを確認した後に南北の門から打って出て、敵陣に突撃しました。

 あらかじめ敵陣に潜ませた人達とは合言葉を決めており、間違っても私達が同士討ちをしないように細心の注意を払っていたのも良かったのか、襲撃が終わった後も死亡者は無く、軽傷が数人という被害で済みました。

 もっともこれは、比較的短時間で襲撃を終えた事も影響しています。

 それに対して賊達はどう動いたかというと、南北の陣を救援するために東西の陣地が動きを見せました。

 それを確認するとすぐに銅鑼を打ち鳴らしてもらうようにお願いしていたので、私達はすぐに城へ退きました。

 流石にこの人数で四軍すべてを相手取るのは無謀ですし、このままでは私達が包囲されてしまいます。ある程度の戦果を上げた以上、一緒に出撃した北海の官吏の方々も満足したでしょう。目的は果たしたのでぐずぐずせずに速やかに城内へ戻り、門を閉めました。

 

 戦闘推移図③:東西陣地移動開始時

 西                    東

               ▲

             ◎■□■◎

            ● □■□ ●

             ◎■□■◎

               ▲

 ■:北海城城壁

 □:北海城城壁(門有り)

 ●:黄巾包囲陣(南北へ移動を開始しているため、兵は少ない)

 ▲:黄巾包囲陣(放火により同士討ち発生。 大混乱中)

 ◎:東西陣地からの救援(移動中)

 

「敵の混乱につけこんだ夜襲を終えて、被害が出ない内に城内へ撤退。 うん、絵に描いたように見事な夜襲だね」

「援軍が到着するまでは、できるだけ被害を出さないようにしたかったからね。 これで味方の士気はさらに上がったし、敵は士気と兵力が落ちた。 最小の労力で、最大の効果を上げられたと言っても良いよね?」

「問題無いと思うよ。 実際に良い動きだったと思うし。 けど、その後起こった事が、天明が本当にやりたかった事なんだよね」

「……ええと、お見通し?」

「一応、兄と師を兼ねてるし。 ただ火付けして、同士討ちをさせただけじゃ謀略なんて言わないよ」

 

 今お兄ちゃんが口にしたように、この夜襲も私が本当にやりたかった事の布石に過ぎません。

 私がやりたかった事。それは、敵指揮官同士をいがみ合わせる事です。

 

「離間計。 多分、数ある計略の中でも暗殺の次くらいに嫌がられる計略じゃないかな。 天明が企図していたのは、それだよね?」

 

 ああ、本当にお見通しだったんだ。

 看破されて悔しいような、理解してもらえて嬉しいような、そんな奇妙な感慨が胸中を巡ります。

 

 私が真に狙っていたのは、敵の指揮官同士がいがみ合う展開にする事でした。

 

「話を整理しようか。 南北の陣地の賊達は、火付けをしたのが東西の包囲している軍だと思ってるわけだよね? だから最初の火付けの後、同士討ちが始まったわけだし。 そんな中、東西から兵が乱入してきたらどうなるか。 実際には救援するためであっても、あらかじめ疑うように仕向けているんだから、自分達を攻撃するために来たに違いない、そう思う人間が居てもおかしくないよね」

「うん。 実際、あの夜襲は私達の攻撃よりも、同士討ちで失った兵数の方が多かったんじゃないかな。 随分と長い時間戦っていたみたいだよ」

 

 そうやって、兵力を削りあってもらうのも目的の一つです。では、同士討ちが終わり、指揮官同士が顔を合わせた時、冷静に話し合いが進められるでしょうか?

 

「結果的に各軍に決定的な不和の種を植え付ける事になるよね。 攻撃ほどされた方が不快に感じる事って無いし、多分聞く耳持たずに罵り合いとかになるんじゃないかな」

「南北にとっては東西の連中に嵌められた、東西にとっては救援に行ったのに攻撃された。 そういう意識の溝がある状態での話し合いだしね。 考えただけでまとまりそうもない。 いや、本当にえぐい(はかりごと)だね。 効果的だけどやられると相当きついよ、これ」

 

 私達が意図したのは、まさに四方の包囲軍を不和に陥れる事でした。

 果たして仲違いした者同士が、きちんと連携を取って一斉攻撃をする事ができるでしょうか。

 おそらく、というよりもほぼ間違いなく不可能だと思います。

 四方から同時に攻撃をされた場合、戦力を四分割しなくてはなりませんが、一方向だけから攻撃をしてくるなら、対処は非常に易しくなります。

 ここで、不和とするのを東西、南北の二組に分けたのも、対面となっていて連携を取りづらくするためです。

 

 戦闘推移図④:時

 西                   東

              ◎▲◎

              ■□■

            ● □■□ ●

              ■□■

              ◎▲◎

 ■:北海城城壁

 □:北海城城壁(門有り)

 ●:黄巾包囲陣(南北へ移動を開始しているため、兵は少ない)

 ▲:黄巾包囲陣(東西からの援兵と同士討ち発生。 大混乱中)

 ◎:東西陣地からの救援(南北の兵達と同士討ち発生。 大混乱中)

 

「籠城戦で怖いのは、内に関しては兵糧切れと内応。 兵糧は十分有ったし、内応しそうな逃走を主張していた人間は居なくなってたから、内部に関しては何の憂いも無かった」

 

 お兄ちゃんは内容を確認するように、ぶつぶつと呟いています。

 

「外からの事象として警戒すべきは対処能力を飽和させる攻撃。 攻城兵器が無い事を確認しているなら、攻め手は数に任せた強攻か、包囲による(かつ)え殺し。 兵糧はあるのだから、包囲だけしてくる敵には援軍を待つだけで良い。 警戒すべきは強攻のみ。 連携を取った強攻ではなく散発的な攻撃だけに限定させるために、布石を打ちまくって先手を取り続けて、連携が取れないようにする」

 

 お兄ちゃんはそこまで言ってから、しばらく天井を仰ぎ、大きく息を吐いて私へ視線を向けました。

 

「お見事。 孔国相様が『古今東西、稀に見る出色の戦振り』と言ったのに全面的に同意せざるを得ない。 出藍の誉れと言って良いだろうね」

 

 誉めてもらえて嬉しいとか、それ以前の問題として……。

 

「……何、その激賞ぶり?」

「あー、最近流れている噂だね。 出所は多分北海。 天明が活躍して嬉しかったから、孔国相が興奮したままに口にしたのと、北海の官吏による情報操作なんじゃない? 『北海国相孔文挙が縁者、羊叔子。 古今東西、稀に見る出色の戦振り。 今子房と称そうか、今子牙と称そうか』と。 注目すべき点は『莒県の県尉』ではなくて『孔国相の血縁』として流している点かな」

 

 思わず机に突っ伏して頭を抱えてもしょうがないような過大評価な噂でした。

 お兄ちゃんが色々と高い評価を得る度に頭を抱えていたのを見ていましたが、まさか自分も同じ体験をする事になるとは思いませんでした。

 なるほど、これは頭を抱えたくなってもしょうがありません。

 手放しの激賞がこれほどまでに心に刺さってくる物だとは思ってもいませんでした。

 

「ちなみに、徐州からも積極的にその噂を流してる。 『莒県が県尉』に直してるけど」

「や、やめようよぉ」

 

 顔が紅潮して、熱を持っているのが分かります。

 

「まあまあ。 ……ただ、県尉に就くに当たって再興した羊家の当主として、今回の活躍は願ってもない事だと受け取っておいた方が良い。 若輩と侮る者はほぼ居なくなる」

「それは嬉しいけど……本当に何とかならないの?」

 

 私は中央官吏になるにあたり、お父さんを当主とする糜家から出ている扱いにしました。

 お兄ちゃんが言ったとおり、再興した羊家の当主というのが今の私の立場となります。

 しかし、後ろに糜家がついているので、どうしても七光りと思われてしまいます。

 それを払拭するには良い機会だ、そうお兄ちゃんは言っているわけです。

 

「落ち着いていないようだけど、話を戻そう。 結局包囲軍同士の連携を封じて、散発的な攻撃に終始させた後は、謙が到着するまでは恙無(つつがな)く?」

「……ふう。 まあ、そうだね。 何度か士気を上げるために一騎打ちを申し込まれたけど、全部断ったし。 子義さんは受けたがっていたけど」

 

 まだ顔が熱いですが、話しているうちに落ち着くだろうとお兄ちゃんへ報告を続ける事にします。

 

「子義は武人だからね。 自分の武勇を示す機会に恵まれたらできるだけ応じようとするから。 もっとも、賊である以上同じ条件で戦おうとするとは限らないからなぁ」

「弓矢を打ち込まれたり、衆で圧する事も考えられるしね」

 

 一騎打ちが成立するのは、相手も同じくらいに高潔な志を持つ武人同士の場合です。汚い手で勝つ事を厭わない相手でなければ、思わぬ不覚を取る事もあります。賊相手にそれを望むのは間違いでしょう。

 

「で、そのまま時間切れか。 さっさと包囲を解いて徐州へ向かわなかったのはやられっぱなしじゃまずいからかね?」

「多分そうじゃないかな。 被害だけ出して、何も得る物が無ければ下から見限られかねないし。 あとは……」

 

 そこまで言って、少し迷いましたが言葉を続ける事にしました。どうせお兄ちゃんも気づいている事でしょうし。

 

「離間も影響したんだろうね。 自分達だけで動くと、背後から襲われるかもしれないって」

「実際にそうなってた可能性もあるしなぁ。 全員で一緒に行動するのも難しくなっていただろうし。 もう少し待てば、勝手に潰し合いまで始めたんじゃない?」

「それも確実にそうなるって約束されたわけじゃないから。 確実性を取るなら、援軍を呼んだ方が無難でしょ?」

「まあ、そうだね」

 

 そんな風にとりとめのない会話をお兄ちゃんとしながらも、私はさらにその後の事を思い返すのでした。

 ……結局、顔の紅潮が取れるまでは今しばらく時間がかかった事も付記しておく事にします。




最後までお読み頂きありがとうございます。

前回分のあとがきで一つ漏れてたので先に。

・上流階級子女の音楽
無印恋姫のサントラジャケットから。
愛紗と朱里のイメージが強かったので、こいつらも弾けるんだったら、ある程度はみんな習っているんじゃ?と捏造してみました。
今改めて確認したら、メンマも後ろに居たという。すまぬ……すまぬ。

以下今回の分です。

・サブタイトル
出藍の誉れ、藍より青しの色からです。
和服美人の幼馴染が尋ねてくる事から始まるラブコメとは何ら関係ありません。

・流言
「流言蜚語」ダメ。ゼッタイ。
軍隊みたいなトップダウンの組織で、末端が不信感を持つのは結構やばいです。

・合言葉
夜襲の時の基本。これが無いと味方も同士討ちを始めます。

・離間計
有名なのは賈文和の行った馬超と韓遂への物。
諸葛亮も結構好きだった気がする。

・出藍の誉れ
大雑把に言うと弟子が師匠を超えること。荀子の「青は藍より出でて藍より青し」が元の言葉。

・今子房
子房は張良の字。「現代に蘇った張良のようだ」くらいの意味。

・今子牙
子牙は呂尚の字。太公望や姜子牙と言った方がずっと有名。これも「現代に蘇った呂尚の様だ」くらいの意味。

・一騎打ち
太史慈に何かあると、戦線が崩壊しかねないので天明が涙目で止めました。

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