真・恋姫†無双 -糜芳伝-   作:蛍石

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第三十六話投稿です。

さて、校正が追いつかなくなって来ましたよ←


第三十六話 Going Back West -北海追撃戦①-

 籠城を始めてしばらく。離間計の影響か、散発的な攻撃しか行われず、守備をする事にも慣れ始めた頃。北海の皆が待ち望んでやまなかった物が、城壁東側の指揮所に立つ私の目に入りました。

 

「援軍が来たぞーっ!!」

 

 私と同じ物を目にした兵が大きな声で叫びました。

 それは『徐』の字が書かれた軍旗です。北海南東に陣地が作られて、旗が立てられているのが確認できます。

『徐』の旗は、おそらく東武県長の徐文嚮さんの旗でしょう。

 徐州から援軍が到着した証拠です。

 

 先程の兵の声を聞き付けたのでしょう。歓喜に沸く兵や民衆の姿を至るところで目にする事ができます。

 私はそれを横目に、西側の城壁にいる子義さんの元へ駆け出しました。

 既に城中で騒ぎになっている事から、子義さんも状況は把握していると思われますが、ここから先は時間との勝負となります。

 できるだけ早く行動に移らなくては、そう気持ちが急いてしまいます。

 

「子義さん!」

「ああ、来られましたか。 援軍が到着したようですね」

 

 走ること数分。西門の上に設けた指揮所に詰めていた子義さんの姿を確認し、声をかけるとそう言葉が返ってきました。

 

「はい。 どうやら予定通りに南東に陣を構えてくれたようです。 私達も動く準備を始めた方が良いかと思います」

「ええ。 では急ぎ国相様の元へ向かいましょう。 出撃する許可を得なくてはなりませんからね」

 

 そう言うやすぐに指揮所を出て国相様の元へ歩きだしました。

 息を整えていた事で遅れる形となった私は、慌ててその背中を追いかけました。

 

 

 

「……包囲を解いて逃走した賊をわざわざ追撃すると言うのか?」

「はい。 徐州から援軍が現れた事で、自分達が危地に居る事は理解しているでしょう。 ならば、すぐに包囲を解いて逃走に移るはずです。 可能であれば、それを追撃して兵力を削っておいた方が今後の憂いを無くせるかと」

「それはそうかもしれぬが……危険では無いか? このまま退却するに任せても良い気はするのだが」

 

 軍議の場で追撃を進言する私へ、気遣わしげにそう口にするのは孔国相様です。

 

「危険はあるかと思います。 しかし、ここで賊を逃げるままにしてしまうと、青州に居残る事が考えられます」

 

 言葉の裏に『それって困りますよね?』という意味を込めて、私はそう返事しました。

 正確にそれを察したのか、国相様は渋面を作りました。

 あえて危険に身を晒す必要性と、今後の災いの種を残す危険性を秤にかけているといったところでしょうか。

 もっとも、これには最終的に頷く事になるだろうと確信しています。

 

「付け加えれば、私達はいずれ徐州へ戻ります。 その後に青州の軍だけでそれを討伐できるようになるまで、しばらく時間がかかるはずです。 それまで、民に我慢を強いるおつもりですか?」

 

 それを聞き、国相様の顔はさらにしかめました。私の言葉に一定の理があると認めたからでしょう。

 

 もし、私達徐州勢が帰還してしまえば、残った黄巾達の退治は青州官吏の役目となります。

 しかし先の青州軍の敗北から、青州全体で慢性的な兵員不足が起こる可能性が高いため、おいそれと出兵する事が難しくなるだろうと予想されます。

 徐州勢が賊退治をしないと、今後の政務運営に影を差す事になりかねません。

 ですので北海側としても、私達が居る間に解決してしまいたい事案と言えます。

 私達としても、徐州と隣り合う青州に騒乱の種となりうる物を残していくのは少々考え物です。下手をすれば、また誰かが徐州から出征する必要が出てきかねません。

 

「……ううむ、やむを得ぬか。 しかし、勝算はあるのか? 守っていれば済む籠城とは違い、相手を打ち倒す必要があると思うのだが」

「はい。 あらかじめ援軍を要請する書状に記載しておいたのですが、一手仕掛けています。 何もせずに逃走に任せるだけでは嫌がらせ程度にしかなりませんが、追撃をかけるとなれば大きな意味を持ちます」

 

 そう前置きして、私は手短にこれから行う作戦内容を国相様へと説明しました。

 

「そ、それならば確かに賊の多くを(ほふ)る事ができようが……。 貴殿らが出た後に、賊が戻ってきたらどうするのだ!?」

「その可能性はほぼありません。 しかし念のため、籠城に参加していた兵の一部を残そうと思います。 本当に賊が戻ってきたのならば、すぐに私達へ伝令を飛ばしてください。 追撃を打ち切り、急ぎ戻ります」

 

 私達が意図している策の内容を聞いた官吏の一人が悲鳴のような声を上げますが、意に返さずに即座に応じます。

 返答を終えた後、一度口を閉じましたが、すぐにまた言葉を紡ぎます。

 

「それに、殲滅する事ができないにしても、賊達が青州を出ていったのか確認する必要が、出ていかない場合には追い出さなくてはいけません。 ネズミを追いかける猫を想像していただければ分かりやすいかと」

 

 お兄ちゃんが西涼での戦が終わった際、韓遂軍の後を追ったのと同じ事です。

 ……流石にお兄ちゃんが口にした送り狼という表現は変えますが。

 幼いといっても私も女の子。品の無い言葉は可能な限り避けたいです。

 

「それから、あらかじめ明言しておきますが……今回に関しては、どんなに反対されても出撃します。 ここには相談ではなく、出撃するという決定事項を報告しに来ました」

 

 その私の言葉に、一部の官吏から非難の声が上がりますが無視します。

 先ほど言ったように、ここからは時間は万金に値します。

 援軍要請をする時に周りを気にしすぎて、与えられた時間を無駄にしたという愚を再び犯すつもりはありません。

 じっと国相様を意思を込めた瞳で見つめて、翻意するつもりが無い事を伝えます。

 それが伝わったのでしょう。苦渋の表情を浮かべた国相様は数分考え込んで、しぶしぶといった感じに首を縦に振るのでした。

 

 

 

 軍議の間に黄巾達は撤退を開始しました。追撃を警戒しての事でしょう。四方で包囲を敷いていた軍を合流させ、一路西へ向かうようです。賊達は合流こそ果たした物の整然とした撤退ではなく、我先にと駆け出すように逃げ始めたとその様子を見ていた兵達から報告がありました。

 私の意を汲み、軍議で不在だった私達の代わりに出撃準備を整えてくれた副官さんに感謝しつつ、馬上の人となり北海を出撃した私達は、東武からの援軍と合流を果たし、包囲を解いて撤退を始めた黄巾達を追跡を開始しました。

 

 現在の私たちの隊列前方は、騎兵を指揮している子義さんと文嚮さんです。一撃離脱を繰り返す事で黄巾を追い立て、途中で離脱しようとする小集団ができる度に牽制して、逃げる方向を一定に整えています。

 それにに対して私はというと、後方から後詰めとして馬上から歩兵の指揮を執っています。

 私が後詰めの指揮に徹しているのは、武芸の腕前がイマイチというのも有りますが、乗る馬の質が並みなので、大半が西涼産の馬を使っている徐州騎兵達の指揮が覚束(おぼつか)ないという原因があります。

 騎乗技術は子義さんにも認めてもらえるくらいにはあるのですが、私が愛馬と共に前線に出ればその速度に合わせてしまい、騎兵全体が十分な力を発揮できなくなってしまいます。

 私を残して騎兵達だけに先行してもらう事も考えましたが、伏兵が居た場合や遭遇戦が有った場合、危険になります。ですので、子義さんに即座に却下されました。

 馬の乗り換えも提案しようとしたのですが、他にもっと巧みに騎兵指揮ができる二人がいるので、私が前線指揮をする必要性が無く、口には出さずに素直に後方から着いていく事にしました。

 今回は子義さんと文嚮さんという戦巧者が居たので問題になりませんでしたが、今後私以外が騎兵指揮ができない場合など、前線で指揮をする場合があるかもしれないので、良い馬を手に入れておいた方が良いかもしれません。

 機会があればお兄ちゃんに相談しておく事を心に留めておきます。

 

 さて、私のいる場所は最前線ではないので、油断はできませんがそこまで切羽詰まってはいません。さりとて、後詰めの役割も重要ではあります。

 黄巾が引き返して私達の方へ向かって来ようとするならば防御の指揮を執り、場合によっては殿(しんがり)を務める必要があるからです。

 現在、子義さん達の一撃離脱にいいように翻弄されて、整然と退却できていない様子を見ると、その可能性は限りなく低そうではありますが。

 

「良かったのですかね……」

「何がですか?」

「いや、見送りに来た官吏の方々の顔を見るに、結構無理を通して出撃しているのではないかと」

「仕方がないと割り切るしかありません。 あのまま時間を費やすわけにはいきませんでしたので」

 

 私の隣を馬で並走しながら、良いのかなぁと首を捻る副官さんへ私はそう答えます。

 

「それは勿論そうなんでしょうがね」

「何か気になる事でも?」

「いや、羊県尉? 貴女は北海国相の血族でしょう? 少しは外聞を気にしましょうや」

「気にしすぎた結果、援軍要請が遅れて危機に陥り、援軍の出し方に頭を捻る必要が出たわけですし。 それに前回も今回も判断を間違えると、青州、ひいては徐州の不利益に直結しかねません。 そうなった場合、お兄ちゃんに締め上げられます」

 

 その事を想像して少し身震いします。

 

「不利益? そこまでの物になりますかい?」

「仮に、前に居る黄巾達が小集団となって青州中に散らばったとして、鎮圧を終えるまでにどれほどの時間がかかると思いますか?」

 

 不思議そうに口にする副官さんへ、問いを返します。

 その言葉を聞き、彼は合点がいったのでしょう。口元を引きつらせました。

 

「それは、また。 青州の現状も踏まえると、根絶やしにするには年単位での話になるでしょうな」

「はい。 徐州としても、そこまで治安の悪化する州と隣り合うのは非常によろしくありません。 南下する事を警戒し続けなくてはならないため、軍備を常に整えておく必要が出てきてしまいます」

「その辺りはあまり危惧する理由が分からないのですが……。 いっそ徐州に乱入してきてくれた方が、県尉達武官は兵を率いて活躍できる機会が増えるので喜ばしい限りなのでは?」

 

 その言葉に、私は胸中で小さく溜め息を吐きました。

 

 

 ・・・

 

 

「武官でその辺りを細かく考える人はあまりいないよね。 だからこそ、そういう考えができる人材の稀少さを知る人間にとっては、喉から手が出るほど欲しがられるんだけど」

算盤(そろばん)を弾きながら兵を率いるのを嫌う武官は多いよね。 けど私の適正は文官だから、その辺りは気にしないと」

 

 お兄ちゃん曰く、軍は使わないにこした事は無いけど無くては困る物です。私もその考えに同意します。

 軍隊は基本的に、何も生産を行わなずに消費だけを行う組織です。多すぎる軍備は、維持するための資源の浪費と働き盛りの男手の喪失による税収の低下、二重の意味で財政を圧迫していきます。

 財政の逼迫(ひっぱく)により領地の政務機能を維持できなくなった場合、増税や臨時徴収などでしのぐ事になりますが、民心が荒んでいる今の時点でそれを行うのは自殺行為です。反乱が起きる可能性が非常に高いのですから。

 

 しかし、軍が無くては反乱の鎮圧などの対応がまったく出来なくなります。それどころか、今回北海で経験したように、行政府が襲われる危険性も出てきます。領地の防衛ができるだけの最低限の軍備は常に整えておく必要性があります。

 

 今回の場合、青州に黄巾の残党を残すとまた南下して徐州に侵入してくる可能性があるので、琅邪国北方の青州と接する県には兵を張り付けておく必要ができます。

 副官さんの言ったとおり、戦功を立てる機会には恵まれますし、武官にとっては望むところなのでしょうが、その分公庫の中身が消耗していく事を忘れてはいけません。

 

 基本的に武官はその辺りを気にする人種では無いのですが、文官はそういった部分を細かく見ていく事を生業(なりわい)としています。

 私は自身が文官寄りの適性を持っており、武官をやっているのが何かの間違いだと固く信じているので、できるだけ文官的な思考を心がけています。

 

「……客観的に見て、天明は兵をほぼ損なわず、兵数で大きく劣るにも関わらず、賊を計略で撃退した武官だよね。 人の事は全然言えないけど、多分しばらくは文官に転向できないで武官をやる事になるんじゃない?」

「……やっぱりそう思う?」

 

 お兄ちゃんのその言葉に大きく溜め息を溢してしまいます。

 

「しばらくは諦めるしかないんじゃない? 文官になりたいって訴えても、多分茂才を提出する趙国相様が認めないと思う」

「だよねえ。 ……まさか、今回の件で朝廷に栄転とか無いよね?」

 

 ふと気がついて怖々とそう聞くと、お兄ちゃんはきっぱりと否定してくれました。

 

「多分無い。 仮に誰かが中央へ推挙したとしても年齢で敬遠される可能性が高いし、県尉の就任からまだ時間が経っていないから、出世が早すぎると判断されると思う。 よほど大量の袖の下を使わなければ、却下される可能性が高いんじゃない」

 

 それを聞いて少し安心しました。

 ……誰も私のために袖の下なんて使わないよね?

 

「付け加えれば、朝廷で北海の戦いをどこまで評価するかが不透明。 そういう戦いまで評価して、報奨を配る対象を増やしていくと国庫が完全に空になりかねないし。 多少はもらえるかもしれないけど、黄巾の本拠である冀州で活躍した面々が多くを占めるんじゃない?」

「官位を授けても俸給による支出は増えるしね。 それにしても、青州全土が黄色に染まりそうだったのに評価されないっていうのも凄い話だよね……」

「確かに難しいところなんだよなぁ。 人によっては、冀州で本拠地の黄巾達と合流させなかった事を考慮して、冀州での戦いと同等、もしくはそれに次ぐ戦功とするかもしれない。 私だったらそう判断するしね。 ただ、この北海の戦いは青州軍の敗退に端を発しているから。 劇的な勝利を演出するためにわざと負けたんじゃないか、って言われたら証明は難しいでしょ」

 

 少し考えれば、そんな事は無いってすぐに分かるんだけどねー。

 お兄ちゃんは少し嫌そうにそう口にしました。

 

「まあ天明達は中央の評価はされなくても、徐州の評価は凄いと思うよ。 州牧様にしろ、趙国相にしろ、本人達が軍事で成り上がっているから青州での戦いの重要性にはしっかりと評価するだろうし。 今回は見合わせるだろうけど、折を見て中央へ昇格を申し出るんじゃないかな」

「……遠慮はできないんだよね?」

「天明までそれをすると、いい加減義父さんが心労で倒れかねないんだけど」

「むう」

 

 お兄ちゃんの苦笑混じりの返事に思わず口唇を尖らせてしまいます。自分はお姉ちゃんと一緒に出世の打診を断っておいて、そんな事を言うのは何かずるい。

 私にそういう事を言うならば、まず自分の行動を改めるべきだと思います。

 

「……さて、いい加減話が横滑りする事が多くなってきてるし、集中力が落ちてるのが分かるね。 追撃開始までの話を終えたら、一旦休憩を入れようか」

「うん。 いい加減疲れてきたし、一息つきたいかな」

「ついでに、何かお茶菓子も一緒に持ってこよう。 頭が疲れてるし、甘い物が欲しい」

「そうだね。 果物でも良いし、何か甘い物欲しい」

 

 その言葉に私は賛成の声をあげました。

 お兄ちゃん曰く、疲れた時には甘い物。私もその金言には諸手をあげて賛同します。

 

「それじゃ、もう一頑張り。 じゃあ、まず天明。 仕掛けを西側にしかしていないのは、賊が逃げる方向を西だと断定したからだよね。 どう判断した?」

「ええと、黄巾が逃げる方向だけど、東に向かう可能性が低いっていうのは良いよね?」

「当然。 わざわざ援軍に向かっていくほどの士気が保てていないだろうし、そこは問題ないよ。 同じ理由で南も外せるかな。 逃げている最中に、後ろから食いつかれたら多少なりとも被害が出るだろうし、援軍にすぐ追い付かれそうな方向には逃げないだろうね。 付け加えれば、東も南もまだ自分達の勢力圏に組み込めていないから、積極的にそっちに逃げたいとは思わないんじゃない」

「そうだよね。 だから、逃走するならば北か西。 西は自分達が青州に侵入してくる時に多少なりとも蹂躙して来ているから敵対する勢力はいない可能性が高いでしょ。 それに対して、北は東南と同様に勢力圏になっているとは言いがたいし、逃げ出したいと考えているなら多少なりとも土地勘のある場所へと望むよね」

「だから、青州へ侵入してきた経路をなぞるように西に向けて逃げ出すと。 うん、筋は通ってるかな」

 

 お兄ちゃんの肯定の言葉に気をよくして、私は言葉を続けます。

 

「そうだよね。 だから私達は西に逃げると決め打ちして、仕掛けを西側に施した。 外れたとしても仕掛けが無駄になって、相手の戦力を効率的に削る事が難しくなるくらいだから。 どの方向へ逃げようとも、追い出すつもりで出撃はしただろうし、結局は可能性の高い西側に逃げてくれれば楽になるってだけで、どこに向かわれても対応は変わらなかったと思うよ」

「問題があるとすれば、各包囲軍ごとに違う方向に逃げられた時かな?」

「うん。 そう動かれた場合には、半数以上の敵が青州に残る事になっただろうね」

 

 私達が一番恐れていたのは、お兄ちゃんが口にしたように全部の軍がバラバラの方向へ逃げ出される事でした。

 そうなった時には、私達も兵を割って追いかけなくてはいけません。可能性は低いとはいえ、黄巾がやけになって追撃する部隊へ逆襲する事も考えられるため、兵を割るのは敗北する危険性を上げる事にもなりかねず、得策とは言えません。

 さらに言えば、ここで相手を勝たせるようであれば相手が勢いづき、また北海へ戻ってきてしまうかもしれません。ですので、敗北は厳禁となります。

 

「だから、本当にそうなっていた場合、あえて軍を分けずに一方向だけを追いかけていたと思う。 北海に留守番する兵を増やして、他の方向に逃げていった敵が戻ってきた場合に備えるし、偵察でどういう行動をするか(北海に戻ってくるのか、そのまま青州を出ていくのか、留まるのか)を確認はしたと思う。 だけど、それくらいしか出来なかったんじゃないかな」

「追撃をしなくちゃ、途中で逃げるのをやめる場合も多々ありえるし、青州の外まで追い出しにかかるのは困難だろうね」

 

 そうなった場合、逃げるに任せた賊達は青州に数多く残る事となります。

 そうなった場合、徐州へも影響が出るのは先ほど語ったとおりです。

 そういった意味では、黄巾が包囲を解いた後に一団となって逃げてくれたのは都合が良い方向へ事態が動いたと言えます。

 

「仕掛けた離間のせいで疑心暗鬼になってたから、合流を選ばない可能性の方が高かっただろうに。 ……ああ、そうか。 援軍の布陣場所で北か西の二者択一に思考を縛ってるんだったね。 抜け目が無いというか、何と言うか」

「四方に散られちゃうと、本当に対処能力を超えちゃうからね。 二方向だけだったら何とかなってただろうから」

 

 四方向に逃げられると難しいけど、二方向であるなら一方を撃破した後に返す刀で追撃をかける事も可能でした。

 徐州騎兵の馬の質の良さがここで生きてきます。

 いくら馬達が疲れていても、騎馬の速度に人が敵う道理はありません。

 

 得意気にそう披露する私へ呆れるように笑みを返したお兄ちゃんに対して、私も笑顔で応じました。

 ひとしきり笑った後、お兄ちゃんは茶器を持って席を立ちました。

 さっき言ったとおり、休憩を入れる予定なのでしょう。

 私もいい加減喋り疲れてきたので、ここで一呼吸つけるのはありがたいです。

 

「次のくだりからは、藍里も一緒に聞いた方が良いよね? 朱里達の話も含めて話すのであれば、その方が良いでしょ?」

「うん。 子瑜さんの妹さん達も少し関わってくるから、居てくれた方が良いかも。 さっきの様子だと大分気にかけているみたいだし。 ……少しは雰囲気和らいでいるかな?」

「あー、うん。 たぶんだいじょぶじゃないかなー」

 

 私が思わず漏らしてしまった言葉に、微妙に目線を逸らしながら棒読みで返答したお兄ちゃんの言葉に頭を抱えてしまいました。

 あの威圧感は心臓によろしくありません。どうか子瑜さんが少しは落ち着いていてくれますように。そう心から願わずにはいられませんでした。




最後までお読み頂きありがとうございます。

・北海国相の血族
対外的な天明の素性。実際には違うのは以前語ったとおり。

・文官と武官
作者の中の勝手なイメージ。ただ、無印恋姫で愛紗と星が軍馬を欲しがる発言をして、朱里が止めていたりするので、この世界では概ね間違えていないのではないかな、と。

・天明の出世
今のところは大丈夫。今のところは。

・北海での戦い
自作自演疑惑有り←
第一功は冀州で戦っていた面々に独占されるのは予定調和なので、他の地域の戦いは何処まで評価されるのか、というお話。

・糜家の姉弟
姉「麟君と同じ領地、最低でも近くないと出世は嫌です」
兄「姉さんよりも下の官位でお願いします。 同格でも良いですが、姉さんを先に出世させてください」
天明「……」

麟が海を立てているのは後継ぎが海である事を明確にするため。煽られて家督争いとかが起きないように注意を払っています。

・疲れた時には甘い物
横に大きくなっていくフラグです。作者のお腹も大分まずい。

・藍里
ポーカーフェイス キレ○ 威圧感

ご意見・ご感想等ございましたら記載をお願い致します。

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