殺生院キアラのここがダメ!   作:猫狐獅子

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殺生院キアラのここがダメ!

 







――カルデア、医療室付近の廊下の一角。
 一人の女がそこで、ある男を待っていた。尼服姿に身を包むその女の名は殺生院キアラ。先日このカルデアに召喚されたサーヴァントである。

 彼女が待っていたのは他でもない、マスターである藤丸立花だ。次の特異点発見までは間があるので、その間にメディカルチェックを受けているらしい。今や人類最後のマスターである彼女には、人類史の存続が文字通りその双肩にかかっている。体調管理も大事な仕事の一つなのだ。キアラも彼女の体調を慮って、さながら忠犬ハチ公のようにマスターのことを待っていた。

「……あ、キアラさん」

「ごきげんよう、マスター」

 小さく欠伸をしながらやってきたのがキアラのマスター、藤丸立花だ。橙と白が基調になっているぴっちりとしたカルデアの戦闘用礼装に身を包んでおり、少し疲れている様子だった。平常時からそのような装いに身を包んでいては、身も心も休まらないのは当然である。ただでさえ彼女にのしかかる重圧は、半端ではないというのに。

「どうかした?」

「マスターに置かれましては、近頃お疲れのご様子。ですので、僭越ながら私が、マスターを癒して差し上げたく思いまして……」

「あー……」

 傍から見ると苦笑いを浮かべているだけにしか見えなかったが、キアラは立花が彼女のことを苦手としているのを察していた。この『人類最後のマスター』は、キアラと一悶着あった世界線の人間ではないので嫌われる所以はないと思うが(重ねて言えば月の聖杯戦争で関わりのあったサーヴァントもいない)、何故か殺生院キアラは彼女に快く思われていないようなのだった。

「その気持ちは嬉しいけど、私はまだ全然疲れてないし大丈夫だよ。これからジャックやナーサリーたちと遊ぶ予定があるし」

「無理なさらないでください。あなた様には人類の命運が託されているのですよ? 休める時にはちゃんとお部屋で休まないと……」

「……休むにしても、それはキアラさんとではないかな……それに私、動いてる方が気が楽になるし」

 今までとは違って直接的に避けるような反応に、思わずキアラも眉を動かした。とはいえこれはいい機会です、とポジティブに捉え直す。己から手を出し篭絡しに行かない、と禁欲を心に決めてはいるが、肝心のマスターの好感度が低いのではどうしようもない。キアラはマスターの、理性と欲望の狭間で揺れ動いている様子を眺めていたいのである。

「以前から気になっていたのですが……もしや私に、何かご不満でもございますのかし。それでしたらはっきり言って頂かないと、私も困ってしまいます」

「……はっきり言っていいの?」

「ええ、はっきりとどうぞ」

 この時殺生院キアラは、彼女の反応次第でターゲットをマスターからカルデア職員に変えようか、との算段も立てていた。メタ的に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。マスターが苦手としているのだから当然といえば当然である。故にキアラも、そこまで立花に固執してはいなかった。彼女が彼女にとって認めるに足る貴人足りえないのなら、いつでも禁欲を解いてしまいかねなかった。

 顎に手を当て数秒、藤丸立花が口を開く。

「それでははっきり言わせてもらいます。『殺生院キアラのここがダメ!』」

 ビッと人差し指を立て、「一つ目」と呟く。

「どこかねっとりとした、獲物を探してますって感じのあなたの目。それが何か苦手なんだよね」

 なかなか鋭いお人、とキアラは内心で少し舌を巻いた。表情を薄い笑顔のまま動かさず「続けて?」と先を促す。

「二つ目。キアラさんがめっちゃエロいの、私知ってるんだよね。そういうのダメ! 私清純派だから! ピュアなのを求めてるのピュアなのを!」

「エロいだなんてそんな、酷い……私はそんな淫らな女ではありませんわ」

 口ではそう言うものの、歪む口元が全てを肯定していた。立花は気にせず「三つ目」と続けた。

「その無駄にデカイ乳!! それダメ!! 私貧乳派だから!! お肉は認めません!!」

「あら悲しい」

 男であれば一発で堕ちる女の象徴も、同性には通じないようだった。そうは言っても立花も、なかなか胸部が主張してきている気がするが……
 とはいえ、殺生院キアラにとってその体は、あくまで人を抱き込む為のきっかけでしかない。彼女はその人格で、人を蕩けさせるのだから――

「四つ目! その尼服姿あんまり可愛くない!! よくない!!」

「別の装いも用意してありますが」

「いい!! どうせエロい格好だもん!!」

 その予想は大きく当たっていた。第三再臨以降のキアラが着用するのは尼服ではなく、胸元の大きく露出した裸エプロンのような服装である。先程までの様子を見るに、立花が好まないことは明らかだった。

「五つ目! ちょっとキアラさんはその、若作りして無理してるおばさん感あってしんどい……」

「お、おば……!? ま、まだ二十歳ですっ!」

 正確には二十歳後半である。

「六つ目! 私ロリコンだからキアラさんは完全に射程圏外!!」

「……ま、まあ年齢の好みは人それぞれですので」

「七つ目! エロい感じとか綺麗な感じだけじゃなくてこう、もっと可愛い感じも出してくれ! ごめん無理な注文か!! 八つ目! 耳年増なのどうにかしてくれ、あなたは聖職者でしょ!!」

 性職者なのであった。

「九つ目! カルデアのみんなにさり気なく色目使うのやめようね! みんな陰で『うわ、なんだあの女……ぜってー自分のこと綺麗だと思ってるよ怖……』って噂してるからね!?」

「えっ」

「十個目! ジャックとナーサリーが待ってるので私は遊びに行ってきます!! じゃあね!!」

「あ―――」

 走り去っていく立花の背中を見ながらキアラは数秒固まっていた。数々のストレートな暴言、それに彼女は身を震わせ――

「ああ、ああ……! ふふ、ふふふふふ!! いい、最高ですマスター! それでこそやり甲斐があるというもの……! 今度からはもう少し、本気を出させて頂きましょう……落ちないでくださいね、立花さん?」

 キアラはいつまでも、恍惚とした表情で笑っていたのだった。













































































































「言われた通りやってみたけど、これでいいの?」

「ああ、これでいい」

 ――カルデア、マイルーム。藤丸立花の部屋で、彼女の言葉に茶を啜る青髪の少年が頷いた。
 彼の名はハンス・クリスチャン・アンデルセン。かの有名な童話作家である。つい昨日このカルデアに召喚されたばかりで、まだキアラとは顔を合わせていない。

「オレがいるとなるとヤツが勘づく可能性があるから、言っていた通り暫く匿ってもらうぞ。ああ、本と原稿と茶だけ持ってきてくれればそれでいい」

「うん、大丈夫だよ。本当にありがとね」

「この程度、礼など言われるに足らん」

 少し冷めた茶をアンデルセンは口に運ぶ。それを一気に飲み干し、空になったティーカップを机に置いた。

「……それにしてもお前も物好きだな、あの女との距離を縮めたがるとは。百害あって一利なしとはこのことだと思うが?」

「うーん……何ていうんだろう。キアラさんがあんまり関わっちゃいけない人っていうのはすごく伝わってくるんだけど、それでもその……一緒に人理を修復していく仲間、だからさ。やっぱり仲良くしたいじゃん?」

「仲間か。ふん、近頃の少年漫画のように青臭いな」

 だがそれも悪くないのかも知れん、と小さく呟いて、アンデルセンは茶のおかわりを求め始めた。はいはい、と明るく笑って茶葉を用意する立花。静かな日曜日の午後だった。







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