「ドレッドノート、巡航形態を維持。大気圏離脱シークエンスに入りますわ」
「機体に異常なし。あとはオートで離脱かぁ……今更だけど、すごいスペックだよね」
ドレッドノートの複座型の操縦席でセシリアとアイズは必要な操作を終わらせ、ひと時ではあるが決戦前の最後の時間を得ていた。
束が作り上げたドレッドノートは単機での大気圏離脱と突入を可能とするパッケージだ。軌道エレベーターと同等の働きができるスペックを持つ、その名の通りの超弩級のスペックを持つ。多少ダメージを受けたが、問題なく二人を乗せたドレッドノートは空を超え、宙へと昇る。
ゆっくりと、地球の球形輪郭がはっきりと視認できるようになる。空の青色から、宙の暗闇へと飛び越えていく。この環境下で襲撃されることはほとんど考えられないが、二人は周囲の索敵を怠らない。セシリアはドレッドノートのレーダーで、そしてアイズはその人造魔眼による視認で油断なく警戒を行っている。量産されている無人機どころか、特化タイプの有人機でもこの高度まで上がることは至難であるが、マリアベルがいる以上、この状況下での奇襲も不可能ではないだろう。本気でなくても、ちょっかいをかけるくらいはしてくるかもしれない。あの正体不明の能力を持つマリアベルなら奇襲することもできるだろう。
ドレッドノートは確かに強力だが、あのマリアベルを相手にアドバンテージを取れるなどとは思っていない。むしろ最後の決戦の場へと二人を運ぶそれは、帰還できる保証のない戦場へと向かう棺桶かもしれない。
しかし、二人は手と眼をせわしなく動かし警戒しつつも、口だけは穏やかにコミュニケーションを取り続けている。それは戦場の中での会話とは思えないほど、和やかな会話だった。
「こうして二人きりになるのってなんだか懐かしい気がするね」
「そうですか? 決戦前にさんざん一緒にいたでしょうに」
「んー、でも、なんだろう。この戦いの前には決死の覚悟を決めていたのに、こうして穏やかに会話できる時間がなんか夢みたいで。なんだっけ、えーと、胡椒の夢?」
「もしかして、それは胡蝶の夢のことでは?」
「そうそれ! IS学園の一般学で習ったよね。日本の表現って独特でけっこう楽しいよね!」
「それこそ懐かしいですわ……もうずいぶん昔のことのようです」
この激動の日々、マリアベルをはじめとした亡国機業との因縁。それは二人が幼少のときから紡がれてきたことだが、その運命はIS学園へと入学したときから大きく動き出した。
はじめはもっと先のことを見越してのコネ作りや、アイズの見識を広げるための入学だったが、当初の予定はとっくに破綻してしまった。見方を変えれば既に達成したとも言えるかもしれないが、思い描いていた平穏はなく、戦いの日々のはじまりとなり、そしてそれはこの時まで続くことになった。
いや、そもそもの始まりは、もっと、ずっと前だ。それは、おそらくはセシリアやアイズが生まれる以前から撒かれていた火種によるものだろう。
その火種はマリアベルとイリーナを中心に燃え広がり、セシリアを、アイズを、束を巻き込み、世界すらをその混沌の坩堝の中へと落としてしまった。
だが、その決着もついにすぐそこまで迫っていた。二人は流転の、そして数奇な運命が手繰り寄せたこの瞬間に招かれたのだ。
セシリアも、覚悟を持ってこの時に臨んでいた。シールやマリアベルも、きっと同じだろう。
だが、この少女だけは少し違っていた。
「セシィは、決着をつけたらどうするの?」
「どう、とは?」
突然のその問いに、セシリアは意図を計りかねた。決戦のあとになど、なにかあっただろうか、とすら思ってしまう。
「織斑先生を倒して世界一でも目指す? それともカレイドマテリアル社の幹部とか? それとも世界一周旅行でも行く?」
「えっ……?」
それはセシリアにとって考えたことのない発想だった。そもそも、セシリアは母との決着の先のことなど、なんのビジョンも持っていなかった。セシリアにとって、マリアベルとの決着は身命を賭して挑む難行であり、そして使命であり責務でもあった。今のセシリアにとって、それはなにがなんでも為さなければならないことなのだ。
そもそも、その先すらある保証などない。それほどの覚悟でこの戦いに挑んでいる。それはアイズも同じはずであった。しかし、アイズは世間話でもするようにそう問いかけてきた。
「………さて、どうなるんでしょうね」
「どうなる、じゃなくて、どうしたいの?」
「どう、したい……」
「セシィは、お母さんと決着をつけて、どうしたいの? 殴りたい? 和解したい? それとも、道連れにしてでも……なんて思ってる?」
「……私は」
「ボクは、いじわるな質問してる?」
「……はい、少し」
「そうだよね」
ケラケラと笑うアイズに、セシリアは苦笑する。そこでようやく、セシリアはこの戦いのあとのことなど、なにも考えていなかったと自覚した。それはおそらく、自殺志願者とそう変わらない思考であっただろう。
「ボクはね、宇宙に行きたい」
しかし、そんなセシリアを前にアイズはただ言葉を紡ぐ。
「今までも何度か行ったけど、やっぱり宇宙ってすごい。星の天蓋、星の大海。ボクなんかちっぽけな存在としか思えなくなっちゃう。きっと、ボクの心は宇宙を漂うだけで溶けてしまうと思う。きっと、ボクはそのうち重力の要らない生き方をするのかもしれない。もしかしたら、それこそ月で暮らしたりして?」
アイズは特有の不思議な表現をしながら心中を語る。その顔はとても愉しそうに笑みを浮かべていた。蒲公英を連想させるような朗らかな笑みは、気を張り続けていたセシリアの緊張感すら簡単に解してしまう。
「ボクは、宇宙で生きてみたい」
「宇宙で?」
「人は、宇宙でも生きていける、宇宙へと踏み出していいんだって、ボクが示したい」
アイズははっきりと自身の夢を口にする。これまで、単純に、純粋に宇宙へ行きたいという憧れだったそれは、より具体的となって示されていた。
宇宙でも人は生きていける。無限に広がる宇宙を駆ける、その先駆者になりたい。人と宇宙をつなぐ象徴になりたいと言っているのだ。言った本人は気づいてはいないだろうが、そうなれば間違いなく人類史に名を刻むに相応しい偉業だろう。
「そうですか……アイズには、ぴったりかもしれませんね。アイズはかわいいですから、宇宙開拓時代のマスコットになれるかもしれませんわ」
カレイドマテリアル社が推進している宇宙開拓事業。そのイメージキャラクターとしてアイズが採用されれば、さぞや人気が出るであろう。事実、既に社内広報に起用されているアイズは人気も高い。IS操縦者としても実力のあるアイズにはぴったりの役職かもしれない。
なにより、その高い感受性は天性のものだ。宙に思いを馳せ、そしてそれを具現化できる存在など、他にはいないだろう。宇宙に適応した人類の先駆者として、ゆくゆくは束と共に、本格的に宇宙開拓の先鋒となって星々を繋いで往くだろう。
それは偉業にして、……一人の少女がもつステキな夢だった。
そんな少女が、問いかけるのだ。
「セシィは、なにになりたいの?」
「……考えたこともありませんわ。いえ、昔は、あったような気がしますが……今は、どうなのでしょうね。よく、わからなくなっていますわ」
昔は、それこそ母のようになりたいと思っていたものだが、今となってはそれはただの悪夢でしかない。母であるレジーナ・オルコットは目指す目標ではなく、倒すべき仇敵なのだ。受け入れられない、受け入れてはならない怨敵だ。
この呪いのような血筋の因縁を清算しなくては、おそらくセシリアは自身の未来に思いを馳せることができないだろう。
マリアベルを倒さなくてはならない。
それが、―――たとえ母の影だとしても。
それが。たとえ―――母だとしても。
「なにを目指すにしろ少なくともあの人を倒さなければならないことだけは確かですわ。そうなれば時間もできるでしょうし、ゆっくり探してみるのもいいかもしれませんわ」
「そこがゴールだって、そう思っているのに?」
「……」
「セシィ。宿題だよ。この戦いが終わるまでに、なにをしたいのかちょっとだけ考えてみて」
「それができなければ、どうするのです?」
「そのときは、一緒にやりたいことを探そっか」
手伝うよ、というアイズに、セシリアは頬を緩ませる。それは、とても楽しい日々になりそうだ。
「IS学園に入学したときは、そういう目標があったはずでしたのに……いつの間にか、こんなところにまで来てしまいましたね」
「終わってから、また始めればいいよ、セシィ」
「はい、ではそのためにも」
「うん……まずは」
アイズの視界に映るのは、青い空の、その先。成層圏を超え、空と宙の境界に浮く衛星軌道ステーション。その大きさはIS学園の保有する敷地面積を超える。ちょっとしたコミュニティを形成することができる空間を持つ要塞であり、宇宙へと繋がる港でもある。
人工衛星にカテゴライズされるが、その規模は従来のそれとは規格が違う。軌道エレベーターに接続された、いわば天空の城。
そんな衛星軌道ステーションを見据え、アイズは眼を細めながらその異変に気付く。
「被弾痕がある」
「相変わらず、よく見えますね」
「あれ直すのにいくらかかるんだろう。イリーナさんが頭抱えそう」
「まぁ、束さんが暴れたみたいですし、……あの人はそんなこと考えないでしょうしね。それに……」
マリアベルも、当然そんなことは考えない。むしろ嬉々として破壊を楽しむだろう。
「ん……? セシィ、ゲートが開いてる」
外部の格納エリア付近、艦の離発着を可能とする港となるエリアへの進入口が開いている。艦の接続も可能であるため、大型のドレッドノート級パッケージでも接舷できる広さを持つ巨大なゲートが二人の来訪を歓迎するかのように、ご丁寧にガイドビーコン付で展開されていた。
「誘っているつもりでしょうね」
「罠かな?」
「本当にただ誘っているだけ、でしょうね。今更罠にかけるような真似はしないでしょうが……いえ、この状況自体が罠みたいなものですけど」
「演出家だね」
「呆れたことに、そのようですわ」
通常は厳重に閉められているゲートがあるはずだが、マリアベルの計らい、いや、アイズの言うようにただの演出だろう。さながら、魔王の城へと入る門といったところか。宇宙に浮かぶそれは、まさにラストダンジョンと呼べる威容にも見える。
「何度も来ているのに、なんだか怖いくらいだね」
「ええ……いわば、魔女の掌の上……いえ、腹の中、ですか」
いまさらつまらない罠を仕掛けているとは思えないが、それでもセシリアたちにとっては勝手知ったるベースであり、占拠されたアウェーでもある。このマリアベル曰く、“最高の舞台”とやらは悪辣な万魔殿には違いないだろう。月の支配権を取っての清々しいほどの脅迫を添えるくらいだ。逃げられないし、逃がすつもりもない。マリアベルがセシリアに執着している限り、そしてシールがアイズに執着している限り、結局はこの舞台に立つことになったのだろう。
「………」
「アイズ? なにか?」
「ん、ちょっとね。うん、いるね、シールが……」
ヴォ―ダン・オージェの疼きを感じ取ったアイズが、宿敵の存在を確信する。マリアベルと共に姿を消したシールもやはり衛星軌道ステーションにいたようだ。マリアベルのISの能力は未だにわからない。先回りされていたことを考えれば、おおよそその能力の大枠は予想できるが……対抗策は少ないのが現状だ。
マリアベルとシール。確実にいるであろうこの二人。たった二人ではあるが、どちらも格上といえる強さを持つ強敵だ。客観的に分析しても、そして過去の戦績を見てもアイズとセシリアの二人でも勝率は多く見積もっても三割ほどだ。鈴やラウラ、シャルロットたちがいても五分に届くか怪しいくらいだ。それほどにあの二人の底が見えない。
アイズはシールの規格外の強さをよく知っている。ヴォ―ダン・オージェの適合者として、完全な上位互換だ。ともに第三形態へと至ったISを駆り、そしてその発現された単一仕様能力の相性も不利ときている。これまでも泥臭く粘り、かろうじて敗北をしなかっただけだ。一瞬の隙、一手の読み違いが命取り。文字通りに神経を擦り減らす戦いを強いられるだろう。分の悪い賭け、とも言う。
セシリアも、かつてマリアベルに蹂躙された記憶を忘れてはいない。あのときは自身を見失っていたとはいえ、それでも封殺されたことに変わりない。それにどれだけ希望的に見積もっても、あの束と同等クラスの化け物だ。IS操縦者としても、間違いなく世界の頂に近い人物だ。
「ま、勝てる見込みが少ないのはわかっていたことだもんね」
「ですが、勝たなければいけません。ならば、やることは変わりませんわ」
待ち構えている敵がどれほど強大だとしても、二人はとうに覚悟を決めている。今更怖気ずくことなどあり得ない。アイズもセシリアも、ここで決着をつけるということについてはマリアベルたちと同意見だった。
この時こそが、決着の時。そして、勝たなくてはならない戦い。
それがわかっていれば、あとはするべきことは決まっている。それだけのことだった。
「――――突入します。行きますよ、アイズ。これまでの因縁に私達で終止符をうちましょう」
「……うん!」
ドレッドノートの巨体を躊躇いなくゲートの内部へと突入させる。オレンジ色の灯に照らされた薄暗いトンネルのような道を進み、さらに奥深くへと侵入する。既に主電源が落とされているらしく、そこはアイズやセシリアの知る衛星軌道ステーションとは似て非なる異界のような場所へと変貌している。束が本当にマリアベルに敗北しているのなら、おそらく既にこのステーションのシステムはマリアベルの手中にあるはずだ。
本来備わっているはずの防衛機構は役に立たない。ところどころ内部のゲートが閉じられている箇所もあることから、明らかに誘導されている。あえてその誘いにのるようにセシリアは止まることなくさらなる深部へと進んでいく。
「この先は、展望エリアだね」
アイズが呟く前に、セシリアにもそれは確信していた。このまま進めば、おそらく辿り着く先はステーションの中でも格納エリアに次いで広い空間がある展望デッキエリアだろう。そこは地球を一望できる、職員の中でも人気のエリアで、アイズもお気に入りの場所のひとつだった。
IS学園のアリーナより狭いが、それでもISで活動するには十分な空間がある。どうやらそこを最後の舞台に選んだらしい。
やがてドレッドノートでも進入不可能なエリアへとたどり着くと、二人は戦闘態勢のままドレッドノートから降下する。大気圏の離脱でオーバーヒート気味のドレッドノートを放棄し、それぞれ剣と銃を手にして、マリアベルとシールがいるであろう展望デッキへと進んでいく。
罠がある様子はないが、前衛にアイズ、後衛にセシリアと完全警戒を維持したままゆっくりと飛翔する。このままいけば数分で接触となるだろう。
「………」
無言のまま、一度だけアイズが振り返る。セシリアもなにも語らず、ただ首肯するだけだった。もはやここに至り、言葉による意思疎通の必要はない。ただこの先に、シールがいる。マリアベルがいる。二人にとっての、決して避けられない宿命が待っている。
そこが終着点。そこが最後の戦いの舞台。そこが、結末。
複雑に絡み合った各々の思惑も、これまでの因縁も、ようやくあと少しで清算される。その結果がどうなるかは、もはや魔女にも暴君にもわからないだろう。
それでも、引き寄せられたかのように、たった四人によってこの戦いの最後が紡がれる。
すぐそこまで迫っている“その時”の結末は、―――――。
***
「むむっ! キタキタぁ! セシリアが来たわ! ほらシール、あなたのお友達もきたわよ!」
ドレッドノートの突入を確認したマリアベルが嬉しそうに笑い声を上げた。お膳立てはした、罠も仕掛けず、ここまで一本道で来れるように誘っている。あの二人ならまっすぐにここまでやってくるだろう。ここに来るまでに、もう五分とかかるまい。あと少しでもらえるプレゼントを前にした子供のようにはしゃぐマリアベル。隣に仏頂面で佇んでいたシールは、そんな見たくもない主人の姿を見えすぎる眼で見てしまったことを後悔するようにため息をついた。
「うふふ、この時を作り出すために苦労したけど、ようやくだわぁ。あー、長かった! イリーナも思った以上に優秀で、つい謀略合戦を楽しんじゃった。まー、おかげで当初の予定よりずいぶんと派手な催しになったし、よしとしましょう! ちょっと世界が傾いちゃったくらいだしね、あ、つい月も傾けちゃったんだったわね、てへぺろ」
「………はぁ」
「いやぁ、まさに気分は魔王ね! うん? 私魔女で名が通ってるらしかったわね。まぁいいわ。シール、月が落下阻止限界に来るまであとどれくらいかしら?」
「……あと4時間ほどかと」
目視による観測でおおよその時間を算出して報告するも、その声には疲れがにじんでいる。ハイテンションを維持するマリアベルに対し、シールは反比例するようにため息が止まらない。
勝手にこんな場所まで連れてこられたと思えば、地球を滅ぼす片棒を担がされていたのだ。いくら悪党を自覚しているシールとはいえ、ため息のひとつも出るというものだ。
「あら? アイズちゃんには期限は六時間って言っちゃったわぁ。やっべ、それじゃあますます鬼畜な魔王になってしまうわ! どうしましょう?」
「あなたが鬼畜外道のクズであることは何も変わりないのでは」
「んまっ! シールってば、いつからそんな口が悪くなったのかしら! お母さんは許しませんよ!」
「私ははじめからこんな感じです。そもそも、あなたは母親ではありませんが」
「やぁね、軽いジョークじゃない。ほら、一応育ての親みたいなもんだし? じゃあ母親ってことでいいんじゃないかしら?」
「あれだけ娘に執着しておいて、よく言えますね」
「あなたはお友達に執着しているみたいだけど?」
そのからかいに、シールは反論できない。ここに至って、自身がアイズに執着していることは言い訳のしようもないほどに自覚していた。
今のシールにとって、あくまで第一に遵守すべきなのはマリアベルの命令には変わりないが、それでもアイズとの決着をこの手で付けたいという欲求は隠せないほどのものだった。
マリアベルも、そんなシールが見せる我儘に、子の成長を見守る母のような穏やかな目を向けている。その目には、いつも宿していた狂気が見えない。
いつも狂気と無邪気な悪意を持っていたマリアベルほんの時折見せる、穏やかな表情。それはシールでさえ、これまで数えるほどしか見たことのない魔女の母性が顕れているときのそれだった。
「シール」
「はい」
「よく今まで私に仕えてくれたわね。スコールたちもそうだけど、あなたもよく私の我儘に付き合ってくれたわ」
「……なんです、いきなり」
それは今までにないしおらしいとすら言える態度と言葉だった。常に無邪気に、そして威圧を纏っていたそれではなかった。
「うふふ。あとはあなたの好きになさい。もう私を優先しなくてもいいわ」
「それは……」
「アイズちゃんと決着をつけたいんでしょう? 私は娘と遊んでくるから、あなたもお友達と好きなだけ遊んできなさい」
その遊び、というのが殺し合いに等しいことは明白だった。この決着がどんな結末を迎えるにせよ、全員が再び地上に生還できるかはわからないのだから。
「私はうれしいのよ、シール。あなたが、我儘を言ってくれたこと、とってもうれしく思うわ。だから、あなたも悔いのないように、あの子と決着をつけてきなさい」
シールは少しだけ戸惑ったように眉をしかめる。なにかを逡巡しているようにも見えるが、気遣いは無用だとマリアベルは断言する。
「好きにしなさい。あの子と戦って、殺すのも、仲直りするのも、あなたの好きなようにしてきなさい――――――だから」
そう、だから。
「私も、最後まで好きなようにするから」
髪をかき上げながら、蠱惑的に笑うマリアベル。
その顔は、すでにいつもの狂気を宿した魔女のそれであった。
久方ぶりの更新となりました。
引っ越したあと新天地での仕事が多忙でモチベも上がらず大分時間が空いてしまいました。次回からラストバトル開始となるので、完結まであと少しがんばりたいです。
それでは、また次回に!