このSSの中では、カード効果はアニメが基準です。OCGと違う場面が多々あります。あらかじめご了承ください。ルールもアニメルールです。
また、なるべく違和感なくしたつもりではありますが、二人の使用カードの中に使ったことないカードがあったりしますので、それもご了承ください。
それでも良いという方は、楽しんでいただければ幸いです。
「遊城十代と覇王十代! 二つの心が融合したとき、完全な十代となる!」
丸メガネをかけた少年、丸藤翔の言葉が十代に届く。異世界で死んでしまった仲間たちの生存を知らせるとともに。
「力強い覇王の一面をコントロールしてこそ、正義は実現できるんだ!」
ラーイエロー主席、三沢大地の言葉を思い出す。自分の心の闇が生み出した恐怖の覇王を制御してこそ本当の強さを手に入れることができると。
その言葉を受けている少年の名は、遊城十代。
彼はかつて、所属しているデュエリスト養成学校『デュエルアカデミア』と、クラスメイト達と一緒に異世界に飛ばされた。
デュエルモンスターズの精霊たちの住む砂漠の世界。そして、精霊に襲われるだけではなく、アカデミアの生徒たちが次々と豹変していく。
十代とその仲間たちはいくつもの危険を乗り越え、ついに事件の元凶である精霊ユベルとのデュエルを行い、元の世界に戻ることができた。
しかし、全ての仲間が元の世界に戻ることができたわけではなかった。
異世界に取り残されてしまったのは精霊と心を通わせることのできる十代の親友、ヨハン・アンデルセン。
ヨハンを助け出すために、十代と彼の仲間たち、万丈目準、天上院明日香、天上院吹雪、ティラノ剣山、丸藤翔、オースチン・オブライエン、ジム・クロコダイル・クックの八人で異世界に再び足を踏み入れた。
その時一緒に、なりゆきをみていたプロデュエリストのヘルカイザー亮とエド・フェニックス、ヨハンと同じく異世界に残ったアモン・ガラムを慕うエコーと言う女性、それを止めようとして巻き込まれたアカデミア実技担当最高責任者クロノス・デ・メディチも別の異世界に飛ばされていたが。
デュエルで敗北すれば死ぬという異世界のルールの中でも、十代は精霊たちを、そして異世界の住人達を救うために戦った。
道中三沢がメンバーから離れて行動するということこそあったが、彼らは十代を中心として異世界を進んでいった。
途中までは、彼らは順調に進んでいったと言える。しかし、虐げる側の精霊である暗黒界の軍勢により、彼らのうちの五人、万丈目準、天上院明日香、天上院吹雪、ティラノ剣山、丸藤翔にそれぞれ怒、悲、苦、憎、疑の心を植え付けられてしまう。
邪悪なエネルギーを生け贄として完成される究極の力【超融合】のカードのために。
そして、翔を除いた四人は暗黒界の狂王ブロンに捕えられ、人質とされる。そのまま十代はブロンとのデュエルを強いられ、四人の仲間は生け贄とされてしまった。
唯一難を逃れた翔も、疑の心のために十代の元から離れて行ってしまう。
怒りと憎しみにとらわれたまま十代はブロンを倒すが、ヨハンは死んだということすら聞かされた十代は心を閉ざしてしまう。
そして生まれた人格こそが――――覇王だ。
覇王は力こそすべてと言い、孤独を是とし、世界を力により支配しようとした。
力に満ちているが、十代本来の明るさも温かさも持たない力のみの存在。それが十代のもう一つの人格である覇王だ。
覇王は異世界を力により恐怖で支配した。その力はどんなデュエリストを相手にしても全勝無敗を記録するほどである。
やがて、十代の心を取り戻すために勝負を挑んだジムすらも、数多の精霊の犠牲により完成した【超融合】のカードにより倒してしまう。
最後には合流した亮とエドの協力もあり、覇王に立ち向かうことを決意したオブライエンが、文字通り命を懸けて覇王を打倒し、十代は戻ってきた。
そして、十代はヨハンの生存を知り、ユベルこそがすべての元凶であることを知る。
覇王として自分が行ったことの罪悪感から、自身の力の源である融合すらも使うことができない状態になりながらも、ヨハンを助ける事のみを考えてユベルの元に向かった。
ヘルカイザー亮に叱咤され、その生き様を見せられた十代はトラウマに打ち勝ち、融合を取り戻す。
その後、ヨハンの体に取り付いていたユベルとデュエルを行い、【超融合】の力によって引きはがすことにこそ成功したのだが、ユベルに【超融合】を奪われてしまう。
その後、ヨハンからデッキを託された十代はユベルとの決着をつけるために最後のデュエルを始めた。
ユベルとは最高レベルの精霊だ。破滅の光を受けたその力は、十二次元に分かれた世界にすら影響を与えるほどなのだ。
十代も自分の信じる
このままではユベルに勝つことはできない。そう諦めかけたとき、十代を追ってきた翔が仲間たちの生存を伝えたのだ。
そして、ユベルに勝つためには覇王の力が必要だとも…………。
十代にとって、覇王とは何よりも忌むべきものだ。
自分自身であり、多くの精霊たちを傷つけ、苦しめ、殺してきた。さらには自分を助けるために戦ってくれた仲間すらも手にかけてしまった最悪の人格。
できれば永遠に目をそむけていたい、そんな存在。自分自身の心の闇の象徴こそが十代にとっての覇王なのだ。
それでも十代は決意する。仲間達を救うために、覇王の力を蘇らせることを。
「……一度、俺の心の闇の覇王は死んだ。しかしユベル、おまえを倒すために、俺の中の覇王を蘇らせる」
十代は自分の心に向き合う。目をそむけていた覇王の存在に。自分の心の中に眠る覇王を目覚めさせるために。
◆
「……ここは!」
十代は闇の中にいた。暗い闇の中に、いくつも鏡のようなものが浮かんでいる。
「そうだ……。ここは俺の心の中。覇王となっていた時に、俺がいた場所……」
十代はあたりを見回し、そこが自分が闇に囚われていた場所だと気が付いた。
「その通りだ。遊城十代」
「ッ!?」
自分の闇について思い返していた十代に、突然声がかけられた。覇気に満ち、力強くも感情を感じさせない冷たい声だ。
十代は声の方向に振り向く。そこにいたのは刺々しい漆黒の鎧を身にまとった男。全身から震えが走るほどの威圧感を放ち、この世のすべてを敵視しているとしか思えないほどに冷たい目をしている。
「お前の方から俺に会いに来るとはな。この覇王におびえるお前が、いったい俺に何の用だ?」
覇王の言葉は強い拒絶を秘めている。自分以外の全てを打ち倒し、屈服される以外に他者と関わるつもりはないと言わんばかりに。
「クッ……。確かに俺はお前を怖れた。恐怖した! お前が……俺がやったことを認めたくなかった! ……だが! もう俺はお前を怖れない。仲間を救うために、お前を倒し、その力を手に入れてやる!」
「ほう……。力を手に入れるだと。俺に怯えていたお前が」
覇王は確認するように十代に語りかけ、そのまま話し続ける。
「そのお前が本当に倒せると思っているのか。お前自身の心の闇の力を持つ……この覇王を!!」
突如、覇王の威圧感が十代を襲った。今までは敵として見られてすらいなかったとわからせる、強い殺気と共に。
しかし、十代はそんな殺気に負けることなく、強い意志を秘めた目で宣言した。
「ああ! 俺は、覇王の力をコントロールしてみせる!」
「フン……。ならばデュエルだ。俺を従えたいのなら……力で屈服させてみろ!!」
覇王の威圧感が何倍にも膨れ上がる。左腕につけられた、縦長に切れた目のような円盤を中心に刃のようなパーツが回転する。
そして、覇王のデュエルディスクが展開した。デュエリストにとっての戦闘態勢となったのだ。
さらに、闇が凝縮するかのように覇王の手に集まる。そこに現れたのはカード。覇王のデッキだ。
十代はそのカードの中に、異彩を放つものがあることに気が付いた。
「バカな……!? そのカードは……【超融合】!?」
そう、そのカードこそ覇王の象徴であり、ユベルに奪われたはずのカード、【超融合】であった。
「何を驚く。俺が【超融合】を持つことなど当たり前の事だ。ここは俺とお前の心の中。そこで手にするのは自らが思い描く、最強のデッキだ」
覇王はそこでいったん言葉を切り、【超融合】のカードを十代に見せつける。
「そして……この覇王に勝つと言うことは、【超融合】の力に打ち勝つということだ。
……それとも怖気づいたか? この覇王と、【超融合】の前に!」
膨れ上がっていた覇王の威圧感に、【超融合】のカードの力が加わる。もはやそれだけで、並のデュエリストならばひざを折るほどの絶望的な力を感じさせた。
しかし、覇王に対するのは遊城十代。元は覇王と同じ人間であり、世界を救ったこともある歴戦のデュエリストなのだ。その威圧感に負けることなく、堂々と宣言する。
「言ったはずだぜ、俺はもうお前を恐れないと! ……デュエルだ! 覇王!」
それに対して、十代もデュエルディスクを構える。デュエルアカデミア指定のデュエルディスクであり、そこに眠るのは、十代が信じて作り上げたヒーローたちの眠るデッキだ。
(頼むぜ、俺のヒーロー達。俺に覇王を打ち破る力を貸してくれ!)
十代はデッキに思いを託し、覇王は【超融合】をデッキに入れ、互いに構える。
そして、十代はデッキの中の仲間達を信じ、覇王は己の力のみを信じるように力を込めてデッキの上からカードを五枚引いた。
『デュエル!!』
お互いの掛け声とともに、同じ人間の中にある二つの人格の決闘が始まる……!!
「先行は俺だ! ドロー!!」
デュエルディスクが示した先行プレイヤーは……遊城十代。カードを1枚引き、6枚になった手札を見つめる。
(覇王は強い。下手な攻撃は命取りだ。先行は攻撃ができないし、ここは様子をみるぜ)
このターンは守りを固めて様子を見ることにした十代は、手札からカードを1枚デュエルディスクに置く。
「俺はカードガンナーを守備表示で召喚する」
現れたモンスターはおもちゃのような機械の兵士、【カードガンナー】。単体での攻撃力、守備力ともに最低レベルではあるが、その効果は優秀だ。
デッキの上から最大3枚のカードを墓地に送ることで、エンドフェイズまで1枚につき攻撃力を500ポイント上昇させることができる。
先行は最初のターン攻撃することができない上に、今のカードガンナーは守備表示なので攻撃力上昇は意味がないが、墓地にあることで効果を発揮するタイプのカードが数多く入っている十代のデッキではカードを墓地に送ることそのものに意味がある。
「俺はカードガンナーの効果発動。デッキの上から3枚墓地に送る。さらに、カードを1枚伏せてターンエンドだ」
カードガンナーの効果で墓地へ送ったカードを見て、十代は口元を緩める。
そのすぐ後に手札のカードを1枚セットし、ターンを終えた。
遊城十代 LP4000 手札4枚
カードガンナー(守)
セットカード1枚
覇王十代 LP4000 手札5枚
モンスターなし
セットなし
「弱小モンスターを守備表示で出すだけ、か。それではデュエルに勝つことなどできはしない……ドロー」
覇王は十代のフィールドにいるカードガンナーを冷たい目で見据えて言い捨てる。
そのままもう興味はないと言わんばかりに6枚になった手札から、1枚のカードを選び出した。
「遊城十代。お前に力と言うものを見せてやる。悪魔族専用融合魔法【ダーク・フュージョン】発動!」
(来たか! ダーク・フュージョン!! だが大丈夫だ。カードガンナーは守備表示。俺にダメージはない)
十代の力の源が【融合】ならば、覇王の力の源こそ【ダーク・フュージョン】だ。正義の力を持つ
その力の恐ろしさを誰よりも知るからこそ、十代は身構える。守備表示のモンスターがいる以上、単体ではダメージを受けないはずだと強がりながら。
「手札のフェザーマンとバーストレディをダークフュージョン。いでよ【
「まずい……インフェルノ・ウィング!」
覇王となっていた時の十代自身が使っていたカード、
攻撃力2100を誇る、バーストレディを主軸にした禍々しい姿を持った女性型の
「そう、インフェルノ・ウィングには貫通効果がある。守備表示などでは逃げられん。
バトル! インフェルノ・ウィングで攻撃! インフェルノ・ブラスト!」
「カードガンナー!! グアァァァッ!!」
インフェルノ・ウィングの炎がカードガンナーを焼きつくし、その余波は十代すら焼き払い、ライフを大きく削った。
「まだだ。インフェルノ・ウィングがバトルで相手モンスターを破壊したとき、攻撃力か守備力のどちらか高い方の数値分ダメージを与える。カードガンナーはどちらも400。よって、400ポイントのダメージを与える。ヘルバック・ファイア!」
「グアァァァァァァァァァ!!!」
一度の攻撃で、十代のライフは1900まで削られた。しかもそれだけではない。覇王の攻撃は、十代の精神すら焼き尽くすと言わんばかりの痛みを十代に与えている。
一撃で戦意を喪失しかねないほどの攻撃。しかし、それでも十代は立ち上がった。仲間達を助け出すというその決意は、痛みなどで折れるほど軟ではない。
「グッ……。カードガンナーの効果発動。破壊されたとき、デッキからカードを1枚ドローする」
十代は痛みをこらえてカードをドローし、手札を増やす。
「そうだ、それでいい。楽に死ぬことなど許さん。これでターンエンドだ」
痛みをこらえて立ち上がった十代を見ても、覇王の表情に変化はない。
敵の苦しみなどどうでもいい。彼はただ強者との戦いを、より大きな力を求めるだけだ。
覇王はこれ以上のアクションを起こすことなく、ターンを終えた。
遊城十代 LP1900 手札5枚
モンスターなし
セットカード1枚
覇王十代 LP4000 手札3枚
セットなし
「俺のターン、ドロー!」
十代は痛みを振り払うように、勢いよくカードを引いた。
ドローしたカードは、【
(ネオス! 来てくれたか!)
『十代。我々は君が覇王に囚われている時、何もできなかった。しかし! 今こそ君の力になろう!』
ドローしたネオスのカードに宿る精霊が、十代に語りかけた。その力強い言葉に背中を押され、十代は次の行動に移る。
「墓地に眠る、ネクロダークマンの効果発動! このカードが墓地にあるとき、一度だけ
十代はネオスのカードを力強くデュエルディスクに置いた。
掛け声とともに、ネオスが十代のフィールドに召喚される。ヒーローを体現したような、逞しい白い姿を見るだけで、十代の心に勇気がわいてくる。
「ネクロダークマン……。カードガンナーの効果で墓地に送られていたか」
覇王はつぶやくようにそう口にした。その通りであり、墓地にあるとき一度だけ上級
「さらに装備魔法【アサルト・アーマー】をネオスに装備! このカードの効果によって、ネオスの攻撃力は300ポイントアップする!」
アサルト・アーマーを纏ったネオスはその攻撃力を2800にまで高めた。インフェルノ・ウィングの攻撃力は2100。ネオスが圧倒的に上回っている。
「バトル! ネオスでインフェルノ・ウィングを攻撃! ラス・オブ・ネオス!!」
ネオスの手刀がインフェルノ・ウィングを切り裂き、その攻撃力の差700ポイントを覇王のライフから奪い取ったが、覇王は何事もなかったように佇んでいる。
「さらに、アサルト・アーマーを解除! これにより、ネオスはもう一度攻撃することができる!」
まとった鎧を解除することで、ネオスは再び攻撃のための力を得た。
今、覇王のフィールドにはモンスターも伏せカードもない。確実にネオスの攻撃は覇王へ通る絶好の攻撃チャンスである。
この攻撃が通れば覇王のライフは800ポイントにまで減少する。しかし、そんなピンチにおいても覇王の表情に揺らぎはない。
この程度の攻撃など、怖れる必要はないと言外に言っているようだ。
「いけ! ネオス! ダイレクトアタックだ!!」
それでも十代は攻撃する。たとえ覇王に違和感を覚えたとしても、このチャンスを逃すわけにはいかないのだ。
ネオスは覇王の元に飛んでいき、そのまま手刀で打ち据えた。
「グ! ヌゥゥゥゥ!!」
その威力に覇王は多少よろめく。何のリアクションも起こすことなく攻撃を受けた覇王に、十代はなにか嫌なものを感じた。
「どうした覇王! お前はこの程度か!」
「…………ここまでのダメージを負わせたことは褒めてやる。……だが!」
次の瞬間、その冷たい眼光はさらに鋭くなり、覇王の体から闇が噴き出した。闇に包まれた心の中ですらも暗く感じる漆黒の闇。
それは、覇王十代が本気になった証である。
「いくぞ。本当の戦いはここからだ。…………手札より【冥府の使者ゴーズ】の効果発動」
「ゴーズ!? 俺はそんなカード、デッキに入れてない!」
「当然だ。もとより互いのデッキの中身は完全に知られている。それをわかっていながらデッキの中身を変えぬほど甘くはない」
冥府の死者ゴーズ。自分フィールド上にカードがないときダメージを受けた場合、手札から特殊召喚することができるレベル7の上級悪魔だ。
2700という高い攻撃力に加えてその奇襲性、さらには追加効果まである強力カードである。
このカードはデュエルキング、武藤遊戯が使用していたこともあり、非常に知名度の高いカードだ。
十代も知識としては知っていた。しかし、覇王となっていた時を含めても自分のデッキに入れたことはなかった。
二心同体であり、お互いにデッキの中身を知り尽くしたもの同士の戦い。その条件でデッキに手を加えないということは、歴戦の覇王にとってありえないことであったのだ。
「効果により、ゴーズを特殊召喚する。さらにゴーズの効果発動。直接攻撃によるダメージで召喚されたとき、受けたダメージと同じ攻撃力、守備力を持ったカイエントークンを特殊召喚する」
がら空きの状態から、一気にネオスを上回るゴーズと、ネオスと互角の攻撃力をもつ冥府の使者カイエントークンが覇王のフィールドに召喚された。
現状では十代のライフは覇王を上回っている。しかし、このままでは次のターンで二体のモンスターの攻撃により、十代のライフは0となってしまう。
十代はネオスを、そして自分の場にあるリバースカードを一瞥した。
(今のままでもこのままなら次のターンで負けることはない。しかし、もし覇王がさらにモンスターを出してきたら俺は負ける……!!)
十代の手札は4枚。しかし、内3枚はモンスターカードだ。
すでにこのターン、十代はネオスを通常召喚している。壁モンスターを召喚することはできない。
ならばと十代は、最後の1枚を手札から取り出した。
「俺はカードを1枚セットして、ターンエンドだ」
十代はセットしたカードに己の命運を託し、ターンを終了した。
遊城十代 LP1900 手札3枚
セットカード2枚
覇王十代 LP800 手札2枚
冥府の死者ゴーズ(攻) カイエントークン(攻撃力2500)
セットなし
「……ドロー」
覇王のターンになると同時に、覇王の闇がさらに強くなる。覇王の神髄は攻撃、その強大な力で十代を叩き潰すという覇王の意志に、闇が反応しているようだ。
「手札より、【
覇王のフィールドに、背中から飛び出る角に、鎧のような体を持つ悪魔らしい姿を持った
攻撃力1600のレベル4下級悪魔族モンスターだ。下級モンスターとしても、いささか物足りない攻撃力ではある。
しかし、このモンスターの真価は攻撃力ではない。
「ヘル・ゲイナーのモンスター効果発動。このカードを二ターン先の未来に飛ばすことで、フィールドにいる悪魔族モンスターに二回攻撃の力を与える。ゴーズを選択」
覇王は冥府の使者ゴーズを右腕で指し、ヘル・ゲイナーの効果対象に選択する。ヘル・ゲイナーが光に包まれて消滅した。2ターン先へと飛んだのだ。
これで攻撃力2700のゴーズが1ターンに二回の攻撃を行えるようになった。事実上、覇王のフィールドに2700の攻撃力を持ったモンスターが増えたのも同じだ。
「クッ!!」
「バトル。ゴーズでネオスを攻撃。ゆけ! ゴーズ!」
ゴーズは手に持った大剣で、ネオスに切りかかる。
ネオスの攻撃力をゴーズは200ポイント上回っている。このままではネオスに打つ手はない。
デュエルモンスターズを知るものなら、誰もがわかることだ。故に十代は、最初のターンに伏せていたリバースカードを発動した。
「トラップ発動! 【ヒーローバリア】!! この効果でゴーズの攻撃を無効にする!!!」
このトラップによって張られた障壁がネオスを守り、ゴーズの剣を弾いた。
「無意味な真似を……。ゴーズはこのターン、二回の攻撃ができる。再びネオスを攻撃!」
一度は弾かれた剣を再び構え直し、ゴーズはネオスに再度切りかかる。
ヒーローバリアは一度きりのカード。二度目の攻撃を防ぐことができない。
今度こそゴーズの剣がネオスをとらえ、切り裂いた。
「ネオス!!」
お互いの攻撃力の差が十代のライフを襲い、削り取る。ダメージとしては少ないものの、本気を出した覇王の一撃だ。そのプレッシャーは十代に大きなダメージを与えた。
それでも十代は、力強く覇王を睨み付ける。闇を放ち、冷酷さのみが表れる覇王の姿を。
十代がいかに覇王のプレッシャーを跳ね除けているとは言え、すでに十代のフィールドはがら空き。残るカイエントークンの攻撃で十代は力尽きてしまう。
しかし、十代のフィールドにはまだ1枚のカードが残されている。
「この瞬間トラップ発動! 【ヒーロー・シグナル】!! 俺の場のモンスターが破壊されたとき、デッキか手札から
トラップカードによって呼び出されたのは、水属性の
「バブルマンが特殊召喚されたとき、フィールド上に他のカードがない場合、デッキからカードを2枚ドローする。ドロー!!」
「フン……。カイエンでバブルマンを攻撃」
召喚されたバブルマンはカイエンの攻撃によって、何の抵抗もできぬまま破壊された。これで正真正銘、十代のフィールドにカードはなくなったが、覇王にももう攻撃可能なモンスターはいない。
「カードを2枚伏せてターンエンドだ」
覇王は手札のカードを全て伏せ、ターンを終えた。
遊城十代 LP1700 手札5枚
モンスターなし
セットカードなし
覇王十代 LP800 手札なし
冥府の死者ゴーズ(攻) カイエントークン(攻撃力2500)
セットカード2枚
「俺のターン、ドロー!」
十代はネオスを破壊され、フィールドにカードはない。覇王の場には上級モンスターが二体と言う絶望的な状況。
しかし、十代にはこのドローで6枚になった手札がある。手札とは、デュエリストにとって可能性そのもの。6枚あれば十分逆転できるはずだ。
そして、十代の表情に絶望はない。あるのは勝利を信じて戦う戦士の表情のみだ。
「手札よりマジックカード【
十代はドローしたカードのうちの1枚、【
「手札のフェザーマンと、バーストレディを融合! 来い! マイフェイバリットカード【
掛け声とともに召喚されたのは、【
デュエルアカデミアに入学した時からの、十代の一番のお気に入りだ。インフェルノ・ウィングと違い、フェザーマンを主体とした男性型ヒーローである。
しかし、いくら十代のお気に入りとはいっても、その攻撃力はインフェルノ・ウィングと同じ2100。ゴーズにもカイエンにも及ばない。
だからこそ、十代はヒーローにさらなる力を与える。
「【
フィールドのフレイム・ウィングマンと、手札のスパークマンを融合! 融合召喚【
フレイム・ウィングマンにスパークマンの光の力が加わった。
光り輝く鎧を身にまとった戦士【
「クッ! 光のヒーローか……」
おおよそ力と言う意味では
シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は2500。まだゴーズには届かない。
しかし、シャイニング・フレア・ウィングマンは、さらにその力を高める効果を持っている。
「シャイニング・フレア・ウィングマンは、俺の墓地の
「ヌゥゥッッ!?」
シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力が4600ポイントまで増大した。さらに強くなった光が心の世界を照らし、覇王の闇をも圧倒する。
シャイニングの力が覇王を押している今、十代は畳み掛けるように手札からカードを抜きだす。
「俺は手札より魔法カード【ミラクル・フュージョン】発動! 墓地に眠るモンスターを融合し、
墓地かフィールドから融合素材モンスターを除外することで融合を行う【ミラクル・フュージョン】の効果により、嵐の力を持った【
墓地の
十代の二体のモンスターは、ともに覇王のモンスターを超えている。纏っていた闇を失った覇王に止めを刺すには、十分な戦力だ。
「俺はカードを一枚伏せる!」
しかし、テンペスターの攻撃力は覇王のモンスターとほとんど変わらない。もし覇王のリバースカードがモンスターの攻撃力を高めるタイプのカードであった時のことを想定し、十代は手札の最後の1枚をフィールドにセットした。
テンペスターは自分フィールドのカードを墓地に送ることで、戦闘破壊を無効にできるのだ。そのためにコストとして十代は、このターンでは意味のない魔法カードをセットした。
そして、十代は攻撃に出る。
「バトルフェイズ! シャイニング・フレア・ウィングマンで冥府の使者ゴーズを攻撃! シャイニングシュート!!」
全身の光を高めてシャイニング・フレア・ウィングマンがゴーズにとびかかる。
攻撃力の差はもちろん、シャイニング・フレア・ウィングマンは戦闘で破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える効果がある。この攻撃が通れば、覇王に与えるダメージの合計は3700。覇王のライフを大幅に超えるダメージだ。
このままいけば、覇王を倒せる。しかし、その覇王にとっては鬱陶しい光が迫ってくるというのに、その表情には相変わらず恐怖の感情はない。
むしろ、さらに覇気を高め、光のヒーローを鋭い眼光で見据えてデュエルディスクに手を伸ばした。
「この程度の光で……心の闇は照らせぬ!! 永続トラップ発動! 【闇の呪縛】!!」
覇王の闇が、シャイニング・フレア・ウィングマンの光を跳ね除け、強大となる。闇に落ちた絶対強者たる覇王の闇は、ヒーローの光すらも飲み込んでしまった。
その闇の中から鎖が表れ、シャイニング・フレア・ウィングマンを拘束する。
覇王のリバースカードが表になったのだ。そのカードの名は【闇の呪縛】。対象モンスターの攻撃と表示形式の変更を封じ、攻撃力を700ポイント下げる効果を持つ永続トラップだ。
シャイニング・フレア・ウィングマンは闇の鎖にとらえられ、動きを封じられてしまい、その輝きすらも失われた。
もはや覇王の闇はとどまるところを知らずに心の中を埋め尽くす。
「クッ……だが! まだテンペスターの攻撃が残っているぜ! テンペスターでゴーズを攻撃! カオステンペスト!!」
テンペスターの攻撃がゴーズに迫る。二体いるうち、より高い攻撃力を持ったゴーズを十代は先に倒すことにしたのだ。
しかし、覇王はその攻撃が届く前に、第二のリバースカードを発動した。
「トラップ発動! 【闇霊術―「欲」】! このカードは闇属性モンスターを生け贄にすることにより、デッキからカードを2枚ドローできる! ただしお前は、手札から魔法カードを見せる事でこの効果を無効にできる。見せる事ができればの話だがな……」
「クッ! 俺の手札は0だ……」
「よって効果は成立だ。ゴーズを生け贄にすることによりカードを2枚ドロー」
手札0の十代はカード効果を無効にすることができないまま、覇王の手札が2枚増えた。
自分のフィールドに伏せられた魔法カードを悔しそうに一瞬見た後、十代は気持ちを切り替えて次の行動に出る。
「ゴーズがいなくなったのなら、テンペスターでカイエントークンを攻撃だ! カオステンペスト!!」
テンペスターは、攻撃対象を見失ったために攻撃態勢のままであったが、改めて十代がカイエントークンを狙う命令を出したことで、手に付けた銃からエネルギーを発射した。
エネルギー波はカイエントークンを飲み込み、消滅させ、その余波は覇王に襲いかかった。
これで覇王のライフはわずか500ポイント。それでも覇王に揺らぎはない。己の命が残りわずかになろうとも、覇王は己の勝利を疑ってはいないのだ……。
(フィールドもライフも俺の方が有利。でも覇王にはまだ
十代には闇の呪縛によって捕えられているとはいっても、いまだに攻撃力3000を誇るシャイニング・フレア・ウィングマンと、攻撃力2800を持つテンペスターがいる。
それに対して覇王モンスターはこのターンですべて消え、残されたカードは闇の呪縛のみであった。
だがその代償として、覇王は手札を補充している。このターンで十代が証明して見せたように、デュエリストに手札がある限り、決して油断することはできない。
「俺はリバースカードオープン! 【一時休戦】! このカードの効果により、お前のターン終了時まで互いにダメージを受けない! さらに、お互いにカードを1枚ドローする」
十代はテンペスターのコストとして伏せていた魔法カード【一時休戦】を発動した。
このカードはメインフェイズ2で発動することにより、一方的にダメージを0にすることができる。
これで次のターン、覇王がどんなモンスターを召喚しても、十代がダメージを負うことはない。
「いいだろう……ドロー」
「ドロー!」
このカードの欠点は、十代だけではなく覇王にまでドローを許してしまうことだ。
覇王と十代は同時にカードを1枚引いた。
「……俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」
十代は一時休戦の効果でドローしたカードを場に伏せ、ターンを終了した。
遊城十代 LP1200 手札なし
セットカード1枚
覇王十代 LP500 手札3枚
モンスターなし
闇の呪縛 セットカードなし
「ドロー」
覇王は口数少なくカードを引いた。これで覇王の手札は4枚となる。
「魔法カード【マジック・プランター】発動。自分フィールドにある表側表示の永続トラップを墓地に送ることで、カードを2枚ドローする」
覇王の発動した魔法の効果により、闇の呪縛が分解し覇王の元に集まる。そして、覇王の手に宿り、2枚のカードドローを行う力となった。
「2枚ドロー」
覇王はカードをドローし、その手札を5枚とした。
しかし、これにより十代のシャイニング・フレア・ウィングマンの呪縛はとけ、再び輝きを取り戻す。
「シャイニング・フレア・ウィングマンを解放するとはどういうつもりだ! 覇王!」
これでシャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は再び3700まで上昇する。
この数値は並大抵のことでは超えることはできない。このままでは次のターン、その一撃が覇王のライフを0にすることになるだろう。
覇王がそのことを理解していないわけがない。ならば、覇王の意図はどこにあるのかと十代は問いかけたのだ。
感情を荒立たせる十代のそれに対して、覇王の言葉は、実に淡々としていた。
「確かにそのモンスターの攻撃力は高いがその程度のこと、攻略はたやすい」
覇王の答えはシンプルであった。
シャイニング・フレア・ウィングマンを解放した理由は実に単純。すでに攻略する手段はそろっていると言うことであった。
覇王がそう答えた瞬間、十代の後ろから灼熱の腕を持った魔人が表れ、シャイニング・フレア・ウィングマンとテンペスターに掴みかかった。
捕えられてしまった二体のヒーローは、その灼熱の魔人の手の中で光の粒子となって消滅してしまう。
「シャイニング・フレア・ウィングマン! テンペスター! ……いったい何をした! 覇王!」
「お前のフィールドにいるモンスター二体を生け贄とし、【溶岩魔人ラヴァ・ゴーレム】を特殊召喚した」
「俺のモンスターを生け贄にしただと……!?」
「その通りだ。このモンスターは相手のモンスターを生け贄とし、相手のフィールドに特殊召喚される」
「俺のフィールドにモンスターを召喚したのか……!!」
いかに攻撃力が高くとも、生け贄にされてしまっては意味がない。
戦闘で負けることはまずないと言えるシャイニング・フレア・ウィングマンと、戦闘破壊に対して耐性を持つテンペスターを処理する方法としてはこれ以上のものはないと言える戦略だ。
覇王は異世界で無敗伝説を築いた最強のデュエリスト。
十代を救うために戦ったオブライエンによってライフを0にされたこともあるが、それでも引き分けであった。
未だに敗北したことは皆無。無敗伝説を崩してはいないその戦略の幅広さには、十代は一歩劣っていると認めざるおえなかった。
しかし、ユベルを倒すために求めたのはその最強の力なのだ。十代は自身のヒーローを失いながらも、覇王に勝つために気持ちを立て直す。
「確かに俺のヒーローたちは消し去られた。だが、ラヴァ・ゴーレムの攻撃力は3000だ! このモンスターがいれば、次の俺のターンでお前を倒せるぜ!」
十代の言うとおり、覇王から渡されたモンスターの攻撃力は3000ポイント。十分最上級モンスターと言って問題ない力を持っている。
十代はそうやって自分を鼓舞し、覇王の覇気に立ち向かう。
「…………手札より、魔法カード【おろかな埋葬】を発動。このカードの効果により、デッキからモンスターカード1枚を、墓地へと送る。【
覇王は十代の言葉を受け流し、次の手を進めた。自分のデッキから好きなモンスターを墓地へと送る【おろかな埋葬】の効果により、覇王はレベル7の上級
(
「カードを2枚伏せ、ターンエンド」
覇王は自分のフィールドにはモンスターを召喚せずに、ターンを終えた。
遊城十代 LP1200 手札なし
溶岩魔人ラヴァ・ゴーレム
セットカード1枚
覇王十代 LP500 手札1枚
モンスターなし
セットカード2枚
「俺のターン! ドロー!」
「この瞬間、ラヴァ・ゴーレムの効果発動。コントローラー……つまり、お前はスタンバイフェイズを迎えるたびに、1000ポイントのダメージを受ける」
「なに!?」
「すでにターンが移っているため、一時休戦の効果は終了している。よって、ダメージは無効にならない」
「クッ! グァァァァァ!!」
十代のターンになると同時に、十代の背後にそびえていたラヴァ・ゴーレムは溶岩でできている自らの体を溶かし、十代に浴びせた。
十代の使った一時休戦のカードすら覇王は問題なく対処し、十代を追い詰める。
ラヴァ・ゴーレムの効果により、十代のライフはわずかに200となった。もしこのままラヴァ・ゴーレムを残しておけば、覇王が何をする必要もなく十代は敗北することになる。
(まずい……このままでは負ける!)
十代の心に弱気が走る。覇王の戦略の前に、十代は完全に追い詰められていた。
それだけではない。覇王から放たれ周囲を覆い尽くす闇が、まるで十代の心を蝕んでいるように不安を煽っていた。
(いや、弱気になるな。俺は覇王を倒し、ユベルを倒し、みんなを助けなければいけないんだ!)
それでも十代は気力を振り絞る。覇王の力をコントロールし、ユベルを倒さなければ仲間たちを救えないのだと思い返して。
十代はドローカードを確認する。決して弱いカードではない。いや、自分のデッキに弱いカードなど入っていないと十代は信じている。
しかし、今の状況ではあまり意味がないカードであることは事実。今の十代に残されている手は、覇王に渡されたモンスターによる攻撃だけだ。
覇王が自分で渡したモンスターに対して、何の対策もしていないわけがない。それがわかっていながらも、十代は攻撃するしかない。
ならばたいした意味はなくとも、ドローしたカードを発動しておくことに十代は決めた。わずかでも覇王の計算を狂わせることができるかもしれないのならば、出し惜しみはなしだと考えて。
「俺は魔法カード【H‐ヒートハート】をラヴァ・ゴーレムに対して発動! その効果により、ターン終了まで攻撃力を500ポイントアップさせ、貫通能力を与える!」
魔法カードの効果により、ラヴァ・ゴーレムの攻撃力はさらにアップした。それだけではなく、守備モンスターを攻撃してもプレイヤーにダメージを与えるようになる貫通能力を付加したのだ。
これで覇王のリバースカードが守備モンスターを呼ぶタイプのカードであった場合はそのまま倒せる。
十代自身、あまり可能性が高いとは思っていなかったが、やらないよりはましだ。
「バトルだ! ラヴァ・ゴーレムでダイレクトアタック! 覇王をぶったおせ!」
ラヴァ・ゴーレムは攻撃態勢に入った。攻撃力3500のダイレクトアタック。
それに対して覇王は、あわてることなくリバースカードを発動させる。
「トラップ発動【リビングデッドの呼び声】。この効果により、墓地のモンスターを蘇らせる。復活せよ、マリシャス・エッジ!」
覇王は、墓地のモンスター一体を表側攻撃表示で特殊召喚する永続トラップ【リビングデッドの呼び声】により、おろかな埋葬の効果で墓地へ送っていた【
その攻撃力は2600。ヒートハートの効果によりパワーアップしたラヴァ・ゴーレムなら、そのまま覇王のライフを0にできる。
(覇王の防御策は壁モンスターの召喚か!? ヒートハートの効果が役に立ったぜ!)
もしヒートハートを発動していなければ、覇王に与えられるダメージは400ポイント止まりであった。
それでは覇王のライフは残ってしまう。そして、ラヴァ・ゴーレムを残したままターンを終えてしまえば負けが確定するのだ。
十代は自分のドローに、デッキに感謝し攻撃を続行した。
「ラヴァ・ゴーレムでマリシャス・エッジを攻撃! これで終わりだ覇王!!」
ラヴァ・ゴーレムの手の中で灼熱の塊が作り出される。そのエネルギーはマリシャス・エッジと共に、覇王のライフを全て奪えるほどであった。
しかし、覇王の覇気に陰りは見えない。むしろ、今までで最高の力を見せつける絶対的な自信と共に口を開いた。
「遊城十代……。忘れたか、この覇王の最強の力を!」
「なに!? …………まさか! その伏せカードは!?」
覇王の言葉に十代は、覇王に残された最後のリバースカードに顔を向け、そのすぐ後に覇王の手札を見る。
その枚数は1枚。
「手札1枚を、墓地へと送る。見せてやろう。心の闇が作り出した最強の力の象徴! 絶対無敵! 究極の力を解き放て! 発動せよ! 超融合!!」
覇王の最後のリバースカード――――超融合。それは十代が仲間たちを失うきっかけになったカード。そして、覇王として数多くの戦士を屠ってきた究極の融合カード。ヨハンをユベルから取り戻す事すらできた最強の融合カード。
その力に抗うことは誰であってもできず、フィールド上の全てのモンスターを融合素材に使えるというその効果は、いかなる力を持つモンスターであろうとも覇王の力に変えてしまう。
どんなマジック、トラップカードでも妨害することはできず、どんなモンスターでも己に取り込んでしまう。完全なる勝利を導く絶対的な力。それが――――超融合だ。
「マリシャス・エッジとラヴァ・ゴーレムを融合素材とし、いでよ! 【
覇王から立ち上る闇が超融合のカードに集まり、全てを飲み込む渦を作り出す。その渦は、覇王のマリシャス・エッジと十代のラヴァ・ゴーレムを飲み込んだ。
そして……その中から現れたのは、禍々しいオーラを纏い、翼を持った悪魔の戦士。黒い体を持ち、両の手からは鋭い刃が伸びている。攻撃力3500を持つ最凶の
「クッ……」
「これでお前のフィールドにモンスターはいなくなった。……究極の力の前にひれ伏せ!」
超融合のプレッシャー。そして、最高の状態に達した覇王のプレッシャ―は、ついに十代の闘志をも破壊しようとする。
無意識に体が震えてくる。かろうじてまだひざは折っていない。十代はそんな状態であった。
十代に残されているのは伏せカード1枚。これ以上何もすることができないために、自動的に覇王のターンとなる。
遊城十代 LP200 手札なし
モンスターなし
セットカード1枚
覇王十代 LP500 手札なし
リビングデッドの呼び声(対象なし)
「ドロー」
覇王はドローカードを一瞥した後、さらに攻撃の手を強める。
「このタイミングで、【
冥府の使者ゴーズに力を与えて未来へと飛んでいたヘル・ゲイナーが覇王の場に戻る。そのまま効果を発動し、マリシャス・デビルに二回攻撃の効果を与えて光となって消滅し、未来へと飛んだ。
これでマリシャス・デビルは3500の攻撃力を持ちながら、二回の攻撃が可能となった。
十代のライフはわずか200。その圧倒的な力を向けられるには儚すぎる。
「バトル。……消え去れ! エッジ・ストリーム!」
マリシャス・デビルは覇王の命を受け、十代に止めを刺そうとする。十代のライフの十倍以上の攻撃力でのダイレクトアタックが成立すれば、ひとたまりもない。
そして、マリシャス・デビルは両手の刃を十代に向けて飛ばした。
それでも十代は、ふるえる自分の体を押さえつけ、デュエルディスクに手を伸ばした。
「まだだ……俺は……負けられないんだ! リバースカードオープン! 速攻魔法【クリボーを呼ぶ笛】! ハネクリボーを守備表示で特殊召喚!」
十代に残されていたのは、【クリボー】か【ハネクリボー】を手札に加える、または特殊召喚することができる速攻魔法【クリボーを呼ぶ笛】。
この効果により、十代のフィールドには羽の生えたクリボーが守備表示で特殊召喚された。
しかし、ハネクリボーの守備力は200。マリシャス・デビルの攻撃を受け止めることはできない。
力の差を示すように、マリシャス・デビルの放った刃は、ハネクリボーをそのまま引き裂く。
ハネクリボーは、最後に十代を鼓舞するように十代を見つめて消えていった。
『クリクリ~』
「……助かったぜ、相棒。ハネクリボーが破壊されたターン、俺はダメージを受けない! よって、マリシャス・デビルの二回目の攻撃は無意味だ!」
「フン……雑魚モンスターで攻撃を防いだか」
「雑魚なんて言うな! ハネクリボーは、俺の大切な仲間だ!」
十代にとって、ハネクリボーはあこがれの存在から渡され、アカデミアに入ってからずっと共に戦ってきた大切な相棒だ。
それをバカにするようなことを、たとえ自分のもう一つの人格であろうと許せはしない。いや、自分と同じ存在だからこそ十代は許せないのかもしれない。
十代のもう一つの人格である覇王だって、そのことは知っているはず。それでも覇王は十代の言葉を否定する。
「仲間か……。貴様が勝負を諦めないのも、その仲間とやらのためか」
「そうだ! 俺はお前を倒して、ユベルを倒し、みんなを助ける!」
「くだらん……。この世は力が全て。孤独こそ真実であり、余計な枷を外したものこそ真の力を……心の闇の力を得ることができるのだ!」
覇王の力は自分自身だけのもの。そこに情の付け入る余地はない。十代が必死に取り戻そうとしているものなど、覇王にとっては何の価値もない。
力によってすべてを支配する。それこそが、覇王の正義なのだから。
十代は、そんな覇王の力を求めている。しかし、十代はその力をコントロールし、仲間たちを救うためにこそ覇王を求めているのだ。
十代の心で覇王の力を操る。それこそが十代の求めている形。すべてを切り捨て己のためだけに生きる。そんな覇王の言葉を受け入れるわけにはいかない。
「違う! 俺は仲間たちを助けるためにデュエルしてるんだ。お前の言葉なんて、聞き入れない!」
「ならば見てみるがいい。貴様のありさまを。雑魚モンスターに頼り、仲間とやらに縋るお前自身の弱さを!」
そういって覇王は十代のフィールドを、そして十代自身を指し示す。
十代のモンスターは全滅。伏せカードも手札もない。その上、ライフはわずかに200ポイントしか残されていない。
「そして見るがいい。心の闇の力を」
続いて覇王は、自分のモンスターを示した。
覇王のフィールドには、攻撃力3500を持つ最強の
心の闇の象徴【超融合】によって呼び出された力がある。覇王の言葉を証明する絶対的な力がある。
「これこそが、心の闇の力。そして、仲間と言うものの無力さだ」
「違う……絆は……無力じゃない……」
十代は何とか言い返すが、結果と言う残酷なものが十代の前にある。
覇王十代と遊城十代は同じ人間の一面。そこに差が生まれるというのならば、それは二人の信念の違い。
覇王十代の信じる心の闇が、遊城十代の信じる仲間との絆よりも強いという結果だ。
それを感じてしまうために、十代の声には力がないのだ。
覇王は弱弱しい十代の言葉を無視し、さらに言葉を続ける。
「俺は貴様を倒し、再び覇王として君臨する」
「なに……!?」
「当然だ。お前が俺を倒したのならば、俺の力はお前のものとなる……。だが、俺が勝つのならば、再び覇王として俺が表に出ることになるのだ。再び力を持って、世界を支配するために!」
覇王十代の復活。確かにそれは十代が望んだことではある。しかし、それは覇王の力だけであり、覇王と言う人格そのものが十代を押しのけて表に出てくることではない。
もしそのようなことになれば、例え覇王がユベルに勝利したとしても世界は地獄へと変わるだろう。
覇王の絶対的な力の前に、全ての世界は蹂躙されることとなる。覇王軍による恐怖の統治が復活してしまうのだ。
「そんなことはさせない! 再び世界を脅かすなんて許さない!」
「ならば力を示せ。俺を止めたいのならば、仲間との絆の力とやらをな」
「クッ……」
現状は十代の方が圧倒的に不利だ。だが、覇王に負けることになれば、その先に何が起ころうとも最悪の結末しか残らなくなる。
それがわかっていながら、十代に手はない。今の十代に、勝利するための力は何一つ残されてはいないのだ。
「カードを1枚伏せる……遊城十代。お前にこのカードを見せておこう」
「なに……!?」
何を思ったのか、覇王は伏せようとしたカードを十代に見せた。
そのカードの名はトラップカード【イービル・ブラスト】。
相手のフィールド上にモンスターが特殊召喚されたとき、そのモンスターの攻撃力を500ポイントアップさせる装備カードとなるトラップだ。
これだけならば単に相手を有利にするだけのカードだが、このカードは相手のスタンバイフェイズが訪れるたびに500ポイントのダメージを与える力がある。
特殊召喚しなければ発動されることはないが、もし発動を許した場合、残りライフ200の十代にとって致命的なカードとなる。
これで、十代は先ほどのようにモンスターの特殊召喚によって壁モンスターを召喚することすらできなくなった。
それだけではない。攻撃力3500のマリシャス・デビルを倒すためには、十代は【ミラクル・フュージョン】のような1枚で強力な
しかし、マリシャス・デビルを倒すだけでは敗北してしまう。融合召喚は特殊召喚であり、【イービル・ブラスト】の発動条件を満たしてしまうのだ。
圧倒的な攻撃力を誇るマリシャス・デビルを倒し、さらには覇王のライフを0にする。十代は、そんなことをカード0の状態でやるしかなくなったのだ。
「カードをセットし、ターンエンド」
自身の手のうちを晒すことで、十代にさらなるプレッシャーを与えた覇王は、予告通りに【イービル・ブラスト】をセットし、ターンを終えた。
遊城十代 LP200 手札なし
モンスターなし
セットカードなし
覇王十代 LP500 手札なし
リビングデッドの呼び声(対象なし) セットカード1枚(イービル・ブラスト)
「俺の……ターン」
「さあ、カードを引け。そして、己の無力さを知るがいい」
十代は自分のデッキを……仲間を信じて戦う。しかし、覇王はそんな十代を否定した。
己の力のみ信じることこそが絶対の力なのだと。仲間との絆と言う十代の光を、覇王と言う十代の闇が否定し、凌駕しようとしている。
(俺は……覇王には勝てないのか。自分だけを信じるのが、本当の力なのか……)
十代の心に覇王の言葉が重く突き刺さる。
仲間を思う心は無力なのかと、心の闇こそが最強なのかと十代は自問してしまう。
いつもは何の疑いもなく、全力で信じてきた自分のデッキすらも、今の十代には遠く感じてしまう。
闇に落ちた心は孤独。そして、十代の心の世界は覇王の闇に覆われてしまっていた。
そして、孤独と言う恐怖は十代に、カードをドローする力すらも奪い去ってしまっている。
大切な仲間たちは、ユベルに囚われている。十代の心に突き刺さった孤独は、みんなを助けなければならないという思いを、誰も自分を助けてくれる者はいないのではないかと言う思いにすら変えてしまう。
そして、覇王は孤独を恐れない。孤独こそが真実といい、覇王として君臨するために必要なことであるとすらしている。
そんな覇王の闇を、十代はもはや、跳ね除けるだけの力は残されていない…………。
そして、覇王の闇は十代の心だけではなく、体すら蝕み始める。闇にあらがうことができない心は、闇にのまれるしかないのだ。
腕が、肩が、足が闇と同化していく。遊城十代が覇王の一部となっていく。
そして、十代はついに倒れてしまった。
『目を覚ますんだ! 十代! 覇王の闇に屈してはいけない! 心の闇に落ちてはいけない!』
『クリクリー!』
墓地に眠っているネオスとハネクリボーが十代に語りかける。しかし、彼らの声は十代に届かない。
すでに破壊され、墓地へと送られた身。今の彼らは声をかける以上の事ができないのだ。
それでは、十代の孤独は拭えない。十代の光には、届かない。
「終わったか……。所詮、心の闇に勝てる道理はない……」
覇王は十代を見てそう呟く。以前と同じく、いやそれ以上に深く心の闇に落ちていく十代を見ながら。
デュエリストにとって手札とは可能性。ならば、手札0の十代に未来はない。ここで終わるのなら、所詮そこまでのデュエリストだと覇王は見限り、外の世界について思いを馳せる。
再び覇王として君臨するための計画を考えようとしたその時、覇王の闇に満ちた心の世界の奥底から、小さな光の玉が十代に向かって飛んでくるのを見た。
「なんだ、アレは……ッ!?」
十代の前までやってきた光の玉は、突然強烈な光を放ち始めた。覇王の闇すらも照らす、強い光を。
「これは……?」
その光は闇に落ちかけた十代の心を引き戻し、闇にのまれていた体を元に戻した。
十代は、その光の玉から暖かいものを感じる。孤独と言う絶望の氷を解かす、暖かい光を。
「なんだ……それは」
それに対して覇王は、忌々しそうに光の玉を見つめる。十代にとっては何よりも温かい物だと感じられるその光は、覇王にとってこれ以上ないほどに消し去りたいものに感じられる。
覇王は自分から立ち上る闇をさらに強くするが、光の玉からでる光は覇王の闇でも消し去れない。
その謎の力に覇王が困惑したその時、あたりに声が響いた。
「十代! いつまで寝ている気だ!」
「アニキ! さっさと起きるドン!」
「十代、早く立ちなさい」
「十代君。ネボスケな男は嫌われるよ」
(万丈目! 剣山! 明日香! 吹雪さん!)
それは、超融合の生け贄にされ、現在はユベルに囚われている仲間たちの声。
「早く立てよ、my friend!」
「アウ! アウー」
「お前は覇王に負けはしない。孤独の恐ろしさを知るお前は、決して覇王には屈しないはずだ」
(ジム! カレン! オブライエン!)
それは、十代を救うために覇王に挑んだ仲間たちの声。
「俺は俺自身の生き様を見せたはずだ。それを見たお前が、途中でデュエルを投げ出すことなど許さん!」
「HEROには宿命がある。そして君の宿命は、こんなところで終わるべきものじゃないはずだ」
「シニョールジュウダーイ。あなたは我が誇りあるデュエルアカデミアの生徒でアーリ、私の大切な生徒なノーネ。だかーら、絶対に勝てるノーネ!」
(カイザー! エド! クロノス先生!)
それは、十代に道を示した者たちの声。
「十代。僕は君の戦いを見届けなければならない。だから、早く立ち上がるんだ!」
(翔!)
それは己の弱さから離れてしまい、それでも共にいてくれる大切な弟分の声。
「そうだぜ十代。俺はお前に俺の魂を、家族を託したんだ。それなのに孤独なんて言われたら悲しいぜ」
(ヨハン!)
それは、唯一無二の親友であり、ついに助け出すことに成功した者の声。
(この光は……俺の記憶。俺の心の中にある、仲間たちの記憶……)
光の玉の正体は、十代の奥底で決して消えることなく存在する、仲間たちの記憶だ。
孤独を是とし、絆を否定する覇王には決して触れることのできない十代の宝。
(そうだ、俺は一人じゃない! 友から託された最強の力がある! 覇王の力にも、決して負けない力が!)
十代は力強く立ち上がった。
もう十代の顔に絶望はない。仲間たちを助け出す。それは変わらない。しかし、十代は忘れていた大切なことを思い出した。
十代の仲間は、十代がいなければ何もできないような弱者ではない。十代が仲間たちを助けるように、十代だって仲間たちに助けられているのだ。
自分の中にある、覇王と言う力を知ったが故に忘れていた当たり前の事。仲間の存在がある限り、たとえ離れていようとも、決して自分は孤独にはならないと言うことを!
「俺のターンだ! 覇王! ドロー!!」
仲間の光を取り戻した十代は、希望を手にカードをドローした。
「クッ……! どうやらその忌々しい光のおかげで立ち直ったらしいが、すでに俺の勝利は確定している! 貴様にあるのは、絶望だけだ」
覇王は光を認めない。孤独こそが、心の闇こそが力を得るために絶対に必要なものなのだから。
「いや……俺が手にしたのは、希望のカードだ! 魔法カード【ホープ・オブ・フィフス】発動! 墓地から五枚の
十代が引き当てたカードは、希望を呼び込むカード。デュエリストの可能性である、手札を一気に回復するカードだ。
「俺は墓地にある、バーストレディ、フレイム・ウィングマン、シャイニング・フレア・ウィングマン、テンペスター、そして……ネオスを選択! 五体のヒーローをデッキに戻し、カードを3枚ドローする! ドロー!!」
十代の手札はこれで3枚となった。十代はドローカードを見た後、覇王に話しかける。
「覇王。……俺は、お前が最強なんだと思った。俺じゃあ勝てない力の象徴なんだと思った」
「その通り。俺はお前の心の闇。お前の持つすべての中で最強の存在!」
「ああ、確かにお前は強い。……でもさ、俺はお前を手に入れるために、心の中にやってきた。それは、俺がお前抜きじゃ不完全な存在だったからだ」
「闇を拒む貴様など、俺にはるかに劣る存在。不完全であることなど当たり前のことだ」
十代は覇王の言葉に頷く。確かに覇王は自分よりも強いと。
それを肯定したうえで、十代は言葉をつづける。
「しかし覇王。お前だって、俺抜きじゃ不完全な存在なんだぜ? お前は俺の一部なんだからな」
「何が言いたい……」
覇王は十代の言葉の真意がつかめない。自分こそは最強の力の持ち主であるということを確信している覇王にとって、十代の言葉は理解が及ぶものではない。
「確かに個の力ではお前が最強だ。だが、仲間の力を借りれば、俺はお前よりも強くなれる! 覇王としての力と、仲間を信じる心が合わさった時、それこそが最強なんだ」
「くだらん……。仲間など幻想。俺を従わせたいのなら、力で語れ!」
「ああ! 今から仲間達との結束の力を見せてやる!」
十代はそう宣言すると、3枚ある手札の中から1枚の魔法カードを発動する。
「いくぜ……。魔法カード【融合】! 発動!」
「融合だと……!?」
そこにあるのは遊城十代の力の原点。絆を束ねる最高の魔法【融合】だ。
「俺は手札の【
「何だと……!? グヌゥゥゥゥ!!」
現れたのは、十代のデッキのエース【
レインボー・ネオスはその巨大な体から虹色の光を放つ。それは覇王の闇に打ち勝ち、心の世界を光で満たした。
究極の力をもつ最強のネオス。その攻撃力は……4500。
覇王のマリシャス・デビルをはるかに上回る力。その攻撃力差は1000。そして、覇王のライフは500。
たとえ【イービル・バースト】を発動したとしても、このターンを凌ぐことができなければ意味がない。
十代の示した仲間との絆の力は、今この瞬間覇王を上回った。
「いくぜ、覇王! レインボー・ネオスでマリシャス・デビルを攻撃! レインボー・フレア・ストリーム!!」
レインボー・ネオスから虹色の光が立ち上り、両手に集まる。そして、膨大な光のエネルギーをマリシャス・デビルに向けて放った。
マリシャス・デビルはその力に対抗することはできず、その光はついに覇王をも飲み込む。
「グアァァァァァァァァァァ!!!」
この攻撃で、覇王のライフは0を刻む。覇王十代と遊城十代のデュエルは――――――遊城十代の勝利で幕を閉じた。
「俺の勝ちだ……覇王」
「まさか……この俺が破れるとは……」
十代に敗れた瞬間から、覇王の体が光の粒子に変わっていった。そして、その粒子は十代の体に吸い込まれていく。
「この俺を倒したのだ。絆の力……か。忌々しいが認めてやろう」
「ああ。お前も強かったぜ、覇王」
「当然だ……心の闇こそが最強。これを譲るつもりはない」
「頑固なやつ……」
消える最後の一瞬まで、覇王は覇王と言うことだろう。十代は、その頑固さも自分の一面であると思い、特に否定はしない。
「遊城十代。お前は俺を倒し、覇王の力を手に入れることになる」
「ああ。絆の力と覇王の力。そのどちらをも持つ、完全な俺になる」
「ならば、この先どんな相手にも負けるな……。お前は、この覇王よりも上なのだからな……」
「わかっているぜ、覇王は最強なんだもんな!」
そして、覇王は無表情であった顔にほんの僅かな笑みを浮かべて、完全に消滅した。その力の全てを遊城十代に残して。
「……さあ! 待っていろ! ユベル!」
そこに一人立つのは、覇王十代の力を持った完全な遊城十代。
覇王のごとき威圧感をその身にまとい、その眼光は覇王を彷彿させる。
それでも、その力は仲間を救うために振うことを決意した、周りを照らす太陽のような心は失っていない。
二つの心を融合させた遊城十代は、心の世界から抜け出す。
ユベルを倒し、仲間たちを救うために――――――。