決戦装束に身を包んだとある空母と仲間たちのお話

艦これ冬イベント開催直前記念短編です。
瑞鶴決戦モードの姿に感銘を受けて書きました。


1 / 1
決戦に挑む全ての提督に捧げます。



決戦の朝に

「――あなたの髪、綺麗ね」

 

 そう言っていつも微笑んでくれた“(あね)”はもういない。

 

「頼りにしているわ、瑞鶴さん」

「――五航戦。行くわよ」

 

 “憧れ”であり“目標”であり――“好敵手(ライバル)”であった先達の二隻(ふたり)も彼女の前からいなくなって随分経つ。

 

「第二航空戦隊、旗艦、蒼龍! 抜錨します!」

「――先に行くね、五航戦。後は任せたよ!」

 

 幾多の戦いを共にした仲間たちも、一航戦と共に水底へと消えた。

 

「瑞鶴さん、初めての海戦(いくさ)ですが……よろしくお願いします」

「飛鷹です。商船改造空母ですけど……私たちだって結構やれるんですよ?」

 

 そう言っていた可愛い後輩も、仲間もあの戦いで皆いなくなった。

 

 

 

 

 

 

 栄光と誇りある機動部隊はもう見る影も無く、滅びの道を歩むのみ。

 

 開戦以来の優秀な部下(かんさいき)の多くも、先だっての戦いで失った。

 

 単純な戦力も、装備や戦法ですらも、そのどれもが既に敵が上回っている。

 気合や大和魂とやらだけで勝てる時代は当の昔に終わっていた。……いや、そんなものは元々無かったのかもしれない。

 

 敗因はこちらの慢心だけではない。あの化け物(ちょうたいこく)と戦う以上、いずれ至る運命だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 しかし。けれど。それでも。

 

 

 

 

 

 

 トレードマークであったあの髪型は止め、長髪はそのままにしている。いつも髪を整えてくれた姉はこの場にはいないからだ。

 

 続いて“決戦仕様”と提督から渡された装束に身を包む。

 緑色で染め上げられた陣羽織。それはまるで数百年前の戦国の時代、その時代に活躍した戦武者の様だ。

 「似合わないわね」と、この場にあの先輩がいれば彼女をそう評しただろう。そんな事を想像して彼女は苦笑する。

 

 最後に、染みひとつ無い真っ白な鉢巻を額に固く締める。

 きゅっと布地が擦れる小さな音が耳に響き、身と心が引き締まる。

 

 

 

 

 

 

「お待ちしていました。瑞鶴さん」

 

 瑞鶴が部屋の扉を開けると、そこには同輩の空母である瑞鳳が待っていた。

 その後ろには同じく空母である千歳・千代田の姉妹が並んでいる。

 三隻(さんにん)共に緑を基調とした迷彩色の服装だ。

 

「提督がお待ちです。私たちの準備も出来ています」

「行こう、瑞鶴!」

 

 鎮守府の廊下に集った四隻(よにん)の誰もが、その目に“決意”の光を宿していた。

 

 幾多の辛い戦いを乗り越え。

 艦隊の勝利に歓喜し、敗北に涙し。

 

 そして彼女たちは“一大決戦”の場へと至る。

 その海戦(いくさ)の先が、深い暗い水底へ続いていようとも。

 

 

 

 ――それでも。

 

 

 

「――ええ、行きましょう。決戦の地(レイテ)へ!!」

 

 

 

 

 

 

「――で、五航戦は何故勝手に盛り上がってるのかしら?」

「……げ、一航戦。これは……その」

 

 今回の作戦の為に誂えられた決戦装束に身を包んだ瑞鶴、そして瑞鳳と千歳千代田の姉妹のやり取り。

 それを加賀は冷ややかな目で、廊下の角の影から()()()()()見ていたのだ。

 

「……いいじゃない。今回の作戦は“捷号作戦”――“レイテ沖海戦”なんだし」

「そうね。あなた達にとっては因縁の地ね。あの()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ぐ……」

 

 加賀に痛い所をずばりと突かれて、瑞鶴は言葉に詰まった。

 

 そうなのだ。あの戦いに四隻(よにん)が求められたのは、()として敵部隊を引き付ける事。

 先の戦いで艦載機の多くを失った彼女らに、航空母艦として出来ることなど殆ど無く。

 

 数少ない航空戦力と共に彼女たちは奮戦するも……まず千歳が力尽き、瑞鶴と瑞鳳がその後を追い、そして千代田も水底へと消えた。

 

 それがあの戦いの顛末である。

 

 

 

 

 

 

「あの戦いはもうあの時点で『どうしようも無かった』わ。あなた達は出来るだけの事を尽くして奮戦した」

「……そうね。でも、あの戦いでは結局何も得られなかった……」

 

 加賀は冷ややかな目で後輩である瑞鶴を見ていた。先程の勇ましさは何処へやら、決意に燃えていた瞳にも陰りが見える。

 

「でも! だからこそ! 今度の戦いでは()()()()頑張らないといけないんです!!」

 

 すっかり意気消沈する瑞鶴を励ますように、瑞鳳が声高らかに宣言する。その目は“決意”に燃えていた。

 

「そうです。私達はあの敗北を繰り返さない」

「そうよ! 加賀さん、私達は今度はきっと……じゃなくて絶対に勝ちます!! 今度はいっぱい仲間もいるし!!」

 

 そう言って千代田は懐から艦載機を取り出す。

 この日のために訓練に訓練を重ねた、操縦士妖精たちが操る艦載機部隊。

 彼らさえいれば、航空母艦としての役目を果たすことが出来るのだ。

 

(そうよ。私にだって“虎徹”がいるわ)

 

 瑞鶴も艦載機の矢を取り出し、ぎゅっと握り直す。その矢の正体は“零戦虎徹”。瑞鶴が誇る最強の戦闘機部隊だ。先の戦いでは喪われてしまったが……今は彼女の手の内に戻ってきてくれている。

 

「今の私たちには戦える武器がある! 今回は絶対に負けないわ!」

 

 瑞鶴の瞳に再び決意の炎が灯る。その目で加賀を強く睨み返すと、彼女は目を瞑りふう、と深く溜め息を吐いた。

 

「……そうね、その通りね。その戦力があれば勝てるかもしれない」

「だったら」

「でも、()()()()()()()()()()。後ろを見なさい」

「え……?」

 

 加賀はそう言って、四隻(よにん)に後ろを向くように促した。

 

 

 

 

 

 

「全く、四隻(よにん)だけで勝手に盛り上がるのも良いけどね」

「うちらの事を忘れんといてや!」

「まあまあ……」

 

 ――仲間である蒼龍、龍驤、飛龍。

 

「そうですよ、あなた方の姉妹の事も忘れないで欲しいです」

「忘れられたら、寂しいんですよ?」

「あの、えっと。頑張りましょう!」

 

 ――瑞鳳の姉妹であり、千歳千代田とも縁の深い祥鳳、龍鳳。そして護衛空母大鷹。

 

「せんぱいっ!! 今回は私たちも頑張りますからっ!!」

「……そう、頑張る」

「あなた達を見送ることしか出来なかったあの時とは違う所、見せてあげます」

 

 ――彼女達の最期の出立を見送った後輩である葛城、雲龍、天城。

 

「そうです。今回はすぐにいなくなったりしません」

「消火設備もしっかり整えたしね」

「頑張ろうぜ、瑞鶴さん!」

 

 ――先の戦いで共に戦った大鳳、飛鷹、隼鷹。

 

「あの時は敵同士でしたけど……今回は共に戦いましょう」

「ふふ、楽しみね」

「ああ、そうだな。共に行こう」

「思えば奇妙な縁だな……だが、悪い気はしない」

 

 ――海の向こうの国の空母(どうはい)達。サラトガ、アクィラ、グラーフ・ツェッペリン、アークロイヤル。

 

「私は前線で戦う事は出来ませんが……皆さんが満足に戦えるように、後方でしっかりと支援させていただきますね」

「今回は第一航空戦隊の先達として、あなた達を支えます。思う存分戦いましょう」

 

 ――全ての空母の母である鳳翔。そして一航戦赤城。

 

 鎮守府に所属する航空母艦である彼女達全隻(ぜんいん)が、廊下に集っていた。

 

「え、これは……その」

「今回のあなた達は、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 戸惑う瑞鶴に加賀は言った。

 

「ここにいる航空母艦の皆……そしてあなた達を護衛する駆逐艦や巡洋艦、戦艦に補助艦。皆であなた達と共に戦うのよ」

 

 

 

 

 

 

「――そうよ。()()()()()()()()()()()()()

 

 居並ぶ空母たちを掻き分け、最後に現れたのは瑞鶴の姉である航空母艦「翔鶴」だった。

 

「立派になったわね、瑞鶴。似合ってるわ」

「え、そ、そんなことないわよお」

 

 不意打ちで姉に戦装束を褒められて、瑞鶴は思わず顔を赤くする。そんな様子を見て空母達は微笑ましく見守っている。

 同じくにっこりと微笑んでいた翔鶴だったが、間もなくその顔は真剣味を帯びた。

 

「今回は、過去類を見ない壮絶な戦いになるわ」

「……うん」

「私達も全力で戦うけど……恐らく“最後の一押し”は、あなた達四隻(よにん)が鍵になる」

「うん」

「立ちはだかる敵は、私達が排除する。だから、あなたは遠慮無く戦いなさい。全てを尽くしなさい。そして、勝利を――」

 

 そこまで語り、翔鶴は一呼吸置く。

 妹である瑞鶴はその次に発せられる言葉を悟り、姉と共に告げる。

 

 

 

「「――暁の水平線に、勝利を刻みましょう」」

 

 

 

 ――2月16日。決戦開始。

 




冬イベント頑張りましょう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。