艦これ冬イベント開催直前記念短編です。
瑞鶴決戦モードの姿に感銘を受けて書きました。
「――あなたの髪、綺麗ね」
そう言っていつも微笑んでくれた“
「頼りにしているわ、瑞鶴さん」
「――五航戦。行くわよ」
“憧れ”であり“目標”であり――“
「第二航空戦隊、旗艦、蒼龍! 抜錨します!」
「――先に行くね、五航戦。後は任せたよ!」
幾多の戦いを共にした仲間たちも、一航戦と共に水底へと消えた。
「瑞鶴さん、初めての
「飛鷹です。商船改造空母ですけど……私たちだって結構やれるんですよ?」
そう言っていた可愛い後輩も、仲間もあの戦いで皆いなくなった。
*
栄光と誇りある機動部隊はもう見る影も無く、滅びの道を歩むのみ。
開戦以来の優秀な
単純な戦力も、装備や戦法ですらも、そのどれもが既に敵が上回っている。
気合や大和魂とやらだけで勝てる時代は当の昔に終わっていた。……いや、そんなものは元々無かったのかもしれない。
敗因はこちらの慢心だけではない。あの
*
しかし。けれど。それでも。
*
トレードマークであったあの髪型は止め、長髪はそのままにしている。いつも髪を整えてくれた姉はこの場にはいないからだ。
続いて“決戦仕様”と提督から渡された装束に身を包む。
緑色で染め上げられた陣羽織。それはまるで数百年前の戦国の時代、その時代に活躍した戦武者の様だ。
「似合わないわね」と、この場にあの先輩がいれば彼女をそう評しただろう。そんな事を想像して彼女は苦笑する。
最後に、染みひとつ無い真っ白な鉢巻を額に固く締める。
きゅっと布地が擦れる小さな音が耳に響き、身と心が引き締まる。
*
「お待ちしていました。瑞鶴さん」
瑞鶴が部屋の扉を開けると、そこには同輩の空母である瑞鳳が待っていた。
その後ろには同じく空母である千歳・千代田の姉妹が並んでいる。
「提督がお待ちです。私たちの準備も出来ています」
「行こう、瑞鶴!」
鎮守府の廊下に集った
幾多の辛い戦いを乗り越え。
艦隊の勝利に歓喜し、敗北に涙し。
そして彼女たちは“一大決戦”の場へと至る。
その
――それでも。
「――ええ、行きましょう。
*
「――で、五航戦は何故勝手に盛り上がってるのかしら?」
「……げ、一航戦。これは……その」
今回の作戦の為に誂えられた決戦装束に身を包んだ瑞鶴、そして瑞鳳と千歳千代田の姉妹のやり取り。
それを加賀は冷ややかな目で、廊下の角の影から
「……いいじゃない。今回の作戦は“捷号作戦”――“レイテ沖海戦”なんだし」
「そうね。あなた達にとっては因縁の地ね。あの
「ぐ……」
加賀に痛い所をずばりと突かれて、瑞鶴は言葉に詰まった。
そうなのだ。あの戦いに
先の戦いで艦載機の多くを失った彼女らに、航空母艦として出来ることなど殆ど無く。
数少ない航空戦力と共に彼女たちは奮戦するも……まず千歳が力尽き、瑞鶴と瑞鳳がその後を追い、そして千代田も水底へと消えた。
それがあの戦いの顛末である。
*
「あの戦いはもうあの時点で『どうしようも無かった』わ。あなた達は出来るだけの事を尽くして奮戦した」
「……そうね。でも、あの戦いでは結局何も得られなかった……」
加賀は冷ややかな目で後輩である瑞鶴を見ていた。先程の勇ましさは何処へやら、決意に燃えていた瞳にも陰りが見える。
「でも! だからこそ! 今度の戦いでは
すっかり意気消沈する瑞鶴を励ますように、瑞鳳が声高らかに宣言する。その目は“決意”に燃えていた。
「そうです。私達はあの敗北を繰り返さない」
「そうよ! 加賀さん、私達は今度はきっと……じゃなくて絶対に勝ちます!! 今度はいっぱい仲間もいるし!!」
そう言って千代田は懐から艦載機を取り出す。
この日のために訓練に訓練を重ねた、操縦士妖精たちが操る艦載機部隊。
彼らさえいれば、航空母艦としての役目を果たすことが出来るのだ。
(そうよ。私にだって“虎徹”がいるわ)
瑞鶴も艦載機の矢を取り出し、ぎゅっと握り直す。その矢の正体は“零戦虎徹”。瑞鶴が誇る最強の戦闘機部隊だ。先の戦いでは喪われてしまったが……今は彼女の手の内に戻ってきてくれている。
「今の私たちには戦える武器がある! 今回は絶対に負けないわ!」
瑞鶴の瞳に再び決意の炎が灯る。その目で加賀を強く睨み返すと、彼女は目を瞑りふう、と深く溜め息を吐いた。
「……そうね、その通りね。その戦力があれば勝てるかもしれない」
「だったら」
「でも、
「え……?」
加賀はそう言って、
*
「全く、
「うちらの事を忘れんといてや!」
「まあまあ……」
――仲間である蒼龍、龍驤、飛龍。
「そうですよ、あなた方の姉妹の事も忘れないで欲しいです」
「忘れられたら、寂しいんですよ?」
「あの、えっと。頑張りましょう!」
――瑞鳳の姉妹であり、千歳千代田とも縁の深い祥鳳、龍鳳。そして護衛空母大鷹。
「せんぱいっ!! 今回は私たちも頑張りますからっ!!」
「……そう、頑張る」
「あなた達を見送ることしか出来なかったあの時とは違う所、見せてあげます」
――彼女達の最期の出立を見送った後輩である葛城、雲龍、天城。
「そうです。今回はすぐにいなくなったりしません」
「消火設備もしっかり整えたしね」
「頑張ろうぜ、瑞鶴さん!」
――先の戦いで共に戦った大鳳、飛鷹、隼鷹。
「あの時は敵同士でしたけど……今回は共に戦いましょう」
「ふふ、楽しみね」
「ああ、そうだな。共に行こう」
「思えば奇妙な縁だな……だが、悪い気はしない」
――海の向こうの国の
「私は前線で戦う事は出来ませんが……皆さんが満足に戦えるように、後方でしっかりと支援させていただきますね」
「今回は第一航空戦隊の先達として、あなた達を支えます。思う存分戦いましょう」
――全ての空母の母である鳳翔。そして一航戦赤城。
鎮守府に所属する航空母艦である彼女達
「え、これは……その」
「今回のあなた達は、
戸惑う瑞鶴に加賀は言った。
「ここにいる航空母艦の皆……そしてあなた達を護衛する駆逐艦や巡洋艦、戦艦に補助艦。皆であなた達と共に戦うのよ」
*
「――そうよ。
居並ぶ空母たちを掻き分け、最後に現れたのは瑞鶴の姉である航空母艦「翔鶴」だった。
「立派になったわね、瑞鶴。似合ってるわ」
「え、そ、そんなことないわよお」
不意打ちで姉に戦装束を褒められて、瑞鶴は思わず顔を赤くする。そんな様子を見て空母達は微笑ましく見守っている。
同じくにっこりと微笑んでいた翔鶴だったが、間もなくその顔は真剣味を帯びた。
「今回は、過去類を見ない壮絶な戦いになるわ」
「……うん」
「私達も全力で戦うけど……恐らく“最後の一押し”は、あなた達
「うん」
「立ちはだかる敵は、私達が排除する。だから、あなたは遠慮無く戦いなさい。全てを尽くしなさい。そして、勝利を――」
そこまで語り、翔鶴は一呼吸置く。
妹である瑞鶴はその次に発せられる言葉を悟り、姉と共に告げる。
「「――暁の水平線に、勝利を刻みましょう」」
――2月16日。決戦開始。
冬イベント頑張りましょう。