単純に話纏めるのが下手なだけです遅れて本当にごめんなさい。
以下、どうぞ
第十二話 「正体」
「んでどうするよここから。結局あいついないんじゃ行動もままならなくないか」
先に口を開いたのは夕弥の方だった。
確かに未だ姿が見えないのは些か不安だ。
まさかあいつに限ってこの世界で負傷して動けなくなったとは考えにくい。
前にも一度帰ってくるのが遅かった時は
「スーパーで美味しそうなネギを選んでいたら遅れた」
と宣ったヤツだ。ちなみにその日の夕飯はめちゃうま冷奴だった。
それに紫の言葉からしてもこの世界に来ているのは間違いないはずだし、実際問題紅魔館に居た時にこの世界を覆っていると考えられる魔力で形成された膜?のようなものが二回ほど揺れたのも知っている。
揺れのひとつが夕弥だったとしてももう一つの揺れがある。
恐らく、いや間違いなくもう一つの揺れの正体はあいつだ。
「なぁ案外分かったりしないの?オンゲーでの誰々さんがログインしましたーみたいな感じで」
「多分できなくはないがやればこの世界の実力者には間違いなくバレる。仮に敵襲と誤認されたらえらいことになるぞ」
まだ我々はこの世界に来たばかり。
当然探せばレミリアのように関わりを持った者たちがいるかもしれないが、それでも全員が全員知り合いである保証はない。
現状問題を起こした際に頼れる人物でいうと紅魔館しかいない。
その館ですらまだ顔を合わせていない人間がいるから不安要素はあるんだが。
紫に関してはどうにも胡散臭さが拭えず素直に頼ろうという気が起きない。
あれからはどこかこちらの隙を伺うような視線を感じるのだ。
「けどこのままでも埓が明かないしなぁ…警察みたいな大組織が存在するのであれば、そこに聞くのが手っ取り早いんだけど」
それは誠に同感だ。
どうにかしてあやつの情報を入手しなければならない。
だがこちらで大規模に動くことが難しい以上、誰かに聞くしか
「いつまで立ち話してんのよあんたら」
「「はい?」」
よく澄んだ声だった。
それは美声や、張りがある声という意味ではない。
心の内に潜む柵というのだろうか。
そういったものを一切聞き取った者に感じさせない、透明感のある声だ。
だがそれでいてどこまでも響きそうな芯の強さも同時に感じる。
濡れているように艶々と手入れされている黒色に、その具合とは反比例するように数ヵ所ぴょこんと毛の跳ねている髪。
外界から隔絶されたはずの世界なのに、どこか現代っぽい女性味を感じた。
そしてあの時―森から出てすぐ視認したときと同じ、瞳と何故かやたらと脇の開いている赤色の服。
空を飛んでいない為はためいてはいないが、その姿は印象に残るには十分すぎた。
「いい加減お茶が冷めそうだからさっさと訪ねてきなさいよ」
「…あの時木ぶっ飛ばした巫女さん?」
「その呼び方凄い否定したいけど実際正解」
あぁ思い出した木と一緒にすごい勢いで翼の生えた女の子をぶっ飛ばした剛腕巫女さんか。
確証が取れた今なら脳内でそう呼ぶことに躊躇う必要はない。
やはりこの神社に居た巫女は人間に非ずだった。
あれ、なんでだろう。
心なしか目の前の巫女の視線が冷えてきた気がする。
「………あんた今初対面の相手にもの凄く失礼な事を考えなかった?」
実は妖怪なんじゃねぇのかどんだけ勘鋭いんだこの巫女。
だがこの雪村蒼月、伊達にこんなところでヘマをするほど安い人生は送っていない。
下手に取り乱してボロを出すなど三流のする事よな。
「いや、『やっぱ』人間なんだなぁって」
「ちょ待て蒼月、お前その言い方は」
…ここで蒼月の幻想郷でのその後の運命は決まったと言えよう。
夕弥が咄嗟に訂正に入ろうとしたが既に遅かった。
少女の中に燻っていた疑念の炎は一瞬で燃え上がった。
「………………やっぱ?」
………………あっ。
「ねぇ今やっぱって言ったよね?言ったよね?」
「………………。」
当然こういった際に取るべき行動はだんまりである。
下手に何かを喋ろうものなら何が起こるか分かったものじゃない。
そのまま相手が痺れを切らすまで待ち続けるのだ。
「黙ったままでやり過ごそうとか考えてるなら可聴音域拡大の術込みで痴漢って叫ぶわよ」
……えっ待ってそれは反則。
というかこの世界に痴漢存在するのか。
「…………も」
「も?」
「…もくひけんをこうししてもよろしいですか」
「どっちも一緒だわ」
「ですよねー」
尚、この時の様子を見ていた夕弥氏は後に酒の場でこう語っている。
「あの時からあいつ言い訳だけはマジで三流だったわw」と。
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「………派手にやっちまったなぁ」
「やっちまったなおい」
自分達の立ち話のせいで冷めて若干渋味の増した緑茶を啜りながら、蒼月は誰にも向けずごちた。
こんなテンションではあるが、体に傷跡はない。
だが表面に見えない傷というのも存在する。
ちゃぶ台の上で粘液が広がるようにべとーっと上体を倒す蒼月がなによりの証拠であった。
「ばたんきゅー…」
「白髪頭が言っても微塵も可愛くないぞ」
「老人扱いすんな、あとこれ白髪じゃなくて銀髪だから」
「白髪も銀髪も同じようなもんだろ」
「全国の銀髪好きから刺されろ」
主に全国のロ〇コンからぶっ刺されそうだ。
「へぇ、随分楽しそうじゃん野郎二人」
がららっと障子を開けながら部屋に入ってきたのは意外にも巫女ではなく、細身の少年だった。
身長は蒼月とさほど変わらず、色白と言える蒼月よりもさらに色白、もはや病的な白さ。
肌に反して髪の色は真っ黒。
雪の上にほんの少し人肌の色を足したような色。ゆるゆるの黒のTシャツに色褪せたパンツ。
体つきも二人と比べるとまるで女子のよう、というのが正しいほどに華奢であった。
風で吹かれればすぐに吹き散らされてしまいそうだ。だが、体つきよりも驚くべきは。
その顔立ちは、蒼月とそっくりであった。
ただ違いは二点。
瞳の色が澄み切る空の様な蒼色ではなく、闇夜を思わせる黒。どことなく気だるげでやる気のなさそうな目をしている。
端的に言ってしまえば真っ黒コーデ。
「「…いたんだ」」
「まるでさも幽霊を見たかのような目でこっちを見るのやめてくれない?」
…ここまであっさりと見つかると思っていなかった。
一緒にこいつを探しに来たはずだったのに。
「兄さんが急にいなくなったから作り置きしてた味噌汁わざわざタッパーに詰めて持ってきたんだからね」
そう言うと後ろから中でたぷんと液体が波打つ容器を突っ伏してる蒼月の隣に置いた。
わざわざ異世界に来るというのに、恐怖するでも驚愕するでもなく最初に味噌汁の心配をする。
全くもって、訳が分からない。
「はいはい、お疲れ海翔」
「出来の悪い兄を持つ弟は大変だよ全く」
—――雪村蒼月が弟、雪村海翔。
彼もまた人ならざる者であり、異界より幻想へと誘われた者である。
黒き瞳は肉体の底を覗き、その手は運命を掴み、風化させる。
内より出でる陰を刃と成す。
「んで、挨拶は済んだの?味噌汁弟さん」
そして話が終わるのを待っていたように巫女が部屋へと入ってくる。
どうやら我が弟は不法侵入を犯したわけではなかったらしい。
「うん済んだ。ごめんねわざわざ上げてもらって」
「あの時紫から予め言われてなかったら露天風呂に浮かんでる水死体だと思って捨てちゃってたわよ」
大分アウトじゃないのか、それ。
訂正、我が弟はグレーゾン走破済みだった。
「落ち着いたんならそろそろ事情を聞かせてもらおうかしら御三方。そこの味噌汁啜りながら」
…今のうちに緑茶飲み干しとこ。
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三人の軽い自己紹介と赤服の巫女、博麗霊夢の自己紹介が終わると、蒼月はここまでの経緯をまとめて軽く伝えた。
味噌汁を喉の足しにしながら。
「…………なるほどまず蒼月がここに呼ばれて後から夕弥と海翔の二人が呼ばれたってわけね」
「元いた世界に何か思い残しはなかったの?」
当然そう言われるだろうと思った。
通常、外来人は元いた世界への不安を露わにする。
彼らには残してきた血縁者、友人がいるのだから。
「別に。三人とも元からこういう生活だったから特に心残りはないよ」
「友人はいなかったの?」
「いなかったわけじゃない。けど既に記憶から消えてるだろうね」
だが僕らにはもう友人と呼べる者はいない。
「というと?」
「僕らがその世界から消える時、そこにいた記憶が世界からそのまま消える」
「なにせ僕らは世界からすれば異分子そのものだったのだからね。普通の妖怪なら理に押しつぶされて生きられないところを無理矢理存在を捻じ込んでいたわけなんだから」
「元から名簿にいない招かれざる客だったんだから、名簿に残しておく必要もないってわけ」
その点この世界、幻想郷はたくさんの妖達の気配を感じる。
恐らく人ならざる者たちの為の世界なのだろう。
ふぅむといった様子で霊夢が口に手を当てた。
「そんな事ができるって時点で人間ではないみたいね」
元から相対した時点で気付いていただろうに。
「ちなみに種族は?」
霊夢から疑問を呈されて三人が顔を見合わせた。
夕弥に関しては大丈夫だろうが蒼月ら二人の正体を明かしていいものか。
最終的に下した結論は、この者なら明かしても問題ないだろうであった。
「僕ら二人は、天使だ」
「……え?」
「嘘はついてない」
勿論その反応は分かっていた。初対面の奴から『私は天使です』等と言われれば、まず間違いなく頭の構造を疑う。
それほどまでに、この人ならざる者たちが集まる世界でも天使というのは異端らしい。
「…聞いたことないわよそんな種族。そもそも存在してるのすら知らなかった」
霊夢が今までより目を見開きながらこちらを見つめる。
どうやら驚きながらも話を聞く余裕はあるらしい。
タフな人間だ。
「天使と言ってもよく絵本なんかに描かれるような化け物じゃない。そこらへんの天狗や鬼なんかと何も変わりはしない」
天狗や鬼も人間からすれば化け物と呼べるからこの例えは不味かったか。
「じゃあ何が違うの?」
…いや少しは疑問を抱けよ。
「まず生まれた世代」
別に天使だからと全員が超常の力を振るえるわけではない。火の玉すら出すのに苦労する者の方が多いかったし、地上全域に雷を落とせるやつの方が遥かに少ない。
要はそういう派手なのは神の特権だ。
「僕らが生まれたのは人間、さらには妖怪を遥かに超える程昔の話だ。もう数えすらしなくなったけど少なくとも七桁は年食ってると思う」
七桁。すなわち百万以上。
子供たちが寺子屋の算盤で習うような数字だ。普段この桁を目にかかるのはあくまでも誇張表現の一種としてだろう。
だが、霊夢と年の差のなさそうな少年二人はそれだけの時を既に歩んできた。
「といっても他種族から見てそれだけの時ってだけで僕らからすれば今が十代真っ盛りみたいなものなんだけどね」
「そこは分かったわ。次は?」
「次が体の構造。僕らには明確な肉体というものが存在しない」
「どういう事?」
「通常、生物の体を構成するのは小難しい名前の元素だな。酸素とか、炭素とか」
別に難しくなくねと赤髪から野次が飛んだが脳天チョップで黙らせる。
いってぇとどこかから聞こえたが気にしない。
「それは怖れ、自然から発生する妖怪や吸血鬼とて例外ではない。霧になったり蝙蝠になったりと体積は変化するが必ず肉体の残片が存在する、つまり密度が違うだけで質量は特に変化しない」
まぁなんで何もない所から質量が発生するんだと言われたら僕らにも分からないが。
「けど天使は違う。一見普通の肉体に見えても、体は全て魔力でできている。つまり体の部位が欠損しても魔力さえ存在すれば簡単に再生する」
あ、内臓はちゃんとあるよと海翔が補足を加えた。
「…なるほど、だからあんたらからは魔理沙とかと同じ匂いがするのね」
体に内包されてるのは魔力のみ。当然揺らめき立つのも魔力の波だ。
「魔法使い達が使う怪しい術も似ているな。あちらは命の流れを止め、魔力を源にすることで食事と睡眠を不必要とするが天使とは違う。体の構造は人と変わらないから腕が捥げれば一大事だし腹に穴が開けば死ぬ」
体の構造が人間と変わらないという事は当然病にもかかる。
不老不死といっても病気で内臓などがやられれば死ぬ。
それを不老不死と呼ぶのかどうかは少々論議が必要かと思うが。
「……あんたら二人は理解できたわ。んでそっちの頭抑えてる奴は?」
霊夢が夕弥に話を振った。
「てー…俺は『ただの吸血鬼』だ。怪しい所なんかないしこいつらと違って魔力だけで生活はできん」
目立つ羽も生えておらず、蒼月と向かい合った時に日光を浴びても問題がなかったのに?
確かに八重歯はぎらりと光っているが明らかに知っている吸血鬼の特徴から逸脱している。
「…嘘ついてんじゃないでしょうね」
「幻想郷の管理者のお気に入りに嘘なんかつけんさ」
「…!?」
蒼月たちも含めて一瞬会話が、止まった。
何故さも当然のように幻想郷という名を、そしてお気に入りと断言できるのか。
「まぁ、簡単に説明するなら日本育ちの吸血鬼ってところだな」
…どうやらまた一癖も二癖もありそうな野郎どもが幻想入りしたらしい。
さて、ようやく三人そろって何が起こることやら。
「ちょっと何堂々とくつろいでるんですか指名手配犯が」
「霊夢さん少しお邪魔しますよー」
ほら、また彼らを呼ぶ声が神社に響く。
ようやく三人そろいました。
これで少しは進むの早くなるかも…?