東方銀呼録-白亜の幻想譚   作:星巫女

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投稿しはじめてそろそろ一月経った、巫女さんです。
それと忘れていましたが原作キャラがオリジナル技を繰り出す描写があります。
初めての戦闘描写…がんばります。


第四話 「焔と雪」

意を決して蒼月は扉を開いた。

勢いよく開いたからか、扉と壁を繋いでいた金具が外側へはじけ飛ぶ。

強制的に撤廃された術式が硝子が割れるような甲高い音を響かせながら

空中にその残滓を舞わせる。

紫色の破片が辺りへ飛び散る様に光った。

 

警戒を維持しましたまま部屋を覗き込む。

 

「……………………」

 

広い。

前よりもさらに。

以前来たときはここまで広くなかったはずだ。

 

しかし現状眼前に広がるこれはどう見ても

奥行までに少なく見積もっても軽く40m近くはある。

そしてこの広間の形は円形。

つまり最低でも半径20mの部屋。

 

予想していたような凄惨な光景はない。

女の子らしい桃色に染まったドレッサーに、

天蓋の着いた赤色のベッド。

いずれも紅魔館に存在するに相応しい高貴を漂わせている。

それらにはわずかな傷もついていない。

 

そう、一切の傷がない。

 

それがかえって蒼月の警戒心を強めさせた。

 

空気が重い。

吸い込むほどに胸が苦しくなってくるような感覚に陥る。

そのまま右から左へ舐めるように視線を動かしていく。

いずれにも、傷は、ない。

 

「………………いた」

 

そして左奥に蹲っている影を視認する。

 

剣を一際強く握りしめながら彼女へ近づいていく。

何故かは分からないが柄の形状が詳細に感じ取れた。

 

下に敷かれている絨毯のせいか足音は鳴らない。

 

歩みが止まることはない。

 

そして十分に近づき蒼月は薄く呼吸をしている彼女に声を掛けようと

 

 

「ねえ」

 

 

空気が、凍る。

 

「お兄様…なんだよね?」

 

声色は変わらない。最後に聞いた声と変わらない。

でもナニカが違う。

 

声自体は聞いたものを安心させる無邪気な声。

しかしそれと共にフラン自体から発せられる魔力の波が矛盾している。

 

 

…できるだけ変化を悟られにくい声色でフランに言葉を返す。

 

「……あぁ、俺だ。ガゼルだ」

 

口から出てきた言葉が自分でも驚くほどに乾いていた。

 

フランと出会って最初に交わす言葉がこれだとは思わなかった。

 

「もし…もしさ」

 

「…うん」

 

 

 

 

「妹が死にたいって言いだしたらどうする?」

 

 

 

 

 

 

その言葉を紡ぐとフランは徐に立ち上がり、壁の方へ歩く。

そのまま壁に掛かっている絵をじっと眺め始めた。

 

フランが初めて描いた、絵だった。

 

そのままフランは黙ってしまった、

まるで蒼月からの返答を待っているようだった。

 

「……っ…………」

 

即座には言えなかった。

言えるはずがない。

自らを兄と呼び慕ってくれた彼女から

そんな言葉が出てきたことに対する戸惑いと疑問から

蒼月に返答は叶わなかった。

 

 

「………答えないんだ?」

 

 

フランが切れてしまいそうなか細い声を出した。

もう少し気を緩めたら泣き出してしまいそうな声だ。

どうにか言葉を返そうと内心で試みたが―

 

そんな、適当な、曖昧な答えを返したところでフランを逆に傷つけるだけだ。

 

「………フランなん「ならさ。」!」

 

 

突然割り込んできた声に思わず固まった。

 

 

 

「なら………自分で見つけるしかないじゃない…」

 

 

 

凄まじい悪寒を背筋に感じ、後方へ思い切り跳び退る。

別に威嚇されたわけではない。

 

 

しかしそれでなく―端的に言えば俗にいう‘勘‘ってやつだった。

 

 

この判断が正しいものだったのかは分からない。

事実としてフランクラスの実力者なら今まで幾度となくぶつかった事はあった。

 

 

だが―

 

 

結果として跳び退るという判断をした蒼月は間違っていなかった。

 

否、正確には

 

生存という意味では間違っておらず、信頼という意味では間違ったというべきか。

 

 

「なんで…なんで…なんで…?」

 

上の空、といった様子でフランが体を震わせながら立ち上がった。

 

そして幽鬼を思わせる動作でこちらにぐるぅりと振り向いた。

 

その顔は―

 

 

 

「っっ!!」

 

 

 

 

泣いていた。正確に言えば左目からは涙が溢れていた。

その赤い宝石を思わせる瞳からとめどなく涙を溢れさせていた。

 

だが。

 

口元は笑っていた。

それは頂点の捕食者だけが見せる愉悦の笑み。

普段の彼女を知っている者から見たら正しく「狂気」を感じる笑みだった。

 

 

そして、右眼は―

 

 

「フラン…その目はっ…!」

 

 

正常であるならば紅い輝きに満ちていたソコは本来の輝きを失い、

常闇を思わせる黒色に変貌しており、

 

 

瞳の中心部は逆に元より鮮やかな深紅に染まっていた。

 

その眼は既に蒼月―ガゼルを見てはおらず、

彼の「目」だけを見つめていた。

 

 

「……ッ…ァ……ウェ……ェ………」

 

 

 

意味のある言葉を発せられることはなかったが、その眼を見た時に

フランは蒼月を呼んでいた。

 

 

 

 

 

「…………当たり前だ」

 

 

 

 

その言葉が届いたかは分からないが、

涙を流していた眼は放出を止め―

 

 

一切の輝きもなくなった。

 

 

そのまま一つの身震いもなく―

 

 

 

 

 

「やっと黙ったか、元のワタシ」

 

 

 

不意に声がした。

 

 

 

 

 

 

「…お前は…」

 

 

「日が昇り切ってからもぐだぐだと抵抗なんかして…遊ぶ時間が減っちゃうじゃない」

「月は私には味方してくれないのよ?」

 

 

「お前は…誰だ?」

 

 

 

 

「私?私はフランだよ?」

 

 

 

何を云っているとでも言わんばかりにフランがこちらを見つめてくる。

 

 

「やっと…やっとオハナシができる」

 

 

 

その言葉と共に部屋が急に輝きに満ちる。

 

 

 

「…その技…」

 

 

 

見るとフランの右手の中に小さな、しかし凶暴な光を持つ炎が在った。

 

その炎はまるで生きているかのような、拍動するように微かに明滅する。

 

 

 

それは左手の平でなぞりはじめると同時に伸長していく。

 

 

それは蒼月の模造剣の長さをゆうに超え、槍までには届かなくとも

彼の剣と同等級の炎の大剣を作り上げた。

 

 

部屋が熱気で満たされ始める。

 

 

 

ドレッサーに置いてあった写真立てが床に落ちて盛大に音を立てた。

 

 

「『禁忌 レーヴァテイン』」

 

 

「……それがその剣の名か。随分と物騒な名前だな。」

 

そういい終わるや否や蒼月は順手で持っていた剣を逆手に握り直す。

 

 

「……何する気?」

 

 

どうやら自身に不意打ちを行うつもりがないことは見抜いているらしいフランが訪ねてくる。

 

 

その問いには答えずそのまま剣を肩ぐらいの高さまで持ち上げ、思い切り

床を叩き割るが如く叩きつけるように突き立てる。

 

 

「………展開」

 

 

口の中で転がすだけのように留めたつもりだった声は静寂に包まれていた部屋によく響いた。

 

しゃらんっと音がした。

 

どうやらフランが翼を動かしたらしい。

 

 

そのまま突き立てられた穴から真っ白な冷気が漏れ出す。

 

「……へえ…」

 

はじめてこの現象を見たらしかったフランが声を漏らした。

 

 

漏れ出す冷気は止まることを知らず、なお部屋の床を包もうとする。

 

しかし炎剣から漏れ出す熱気がそれを阻む。

 

 

極低温の冷気と超高温の熱気の争いが静かに行われていた。

争っている場所だけが陽炎のように揺らめいて見えた。

 

突き刺してからほんの数秒経った後に掴んだままの柄を一思いに引き上げる。

 

 

引き上げると同時に今までより一際大きく冷気がまきあげられた。

 

 

部屋中の空気が波打つようにうねり、動く。

冷気は天井を覆うように舞い上がる。

 

 

蒼月の手の中にあったのは一振りの剣。

しかし先程までそこにあった模造剣とは長さが倍近く違う。

 

 

名称づけるのならそれは氷晶の剣、氷剣ともいうべきものだった。

 

 

見方を変えてみれば氷晶の中に模造剣が閉じ込められているようにも見てとれる。

 

しかし華美な装飾などと呼べるものは一切存在しない。

 

まるで獲物を見つけた獣の息吹が如く冷気を床に吐き出し続けている。

 

 

 

そして蒼月は氷剣を握りしめ、無造作にフランの前に身を曝す。

 

 

 

「「…………。」」

 

 

 

そして

 

 

少年と少女は対峙する。

 

かたや炎剣を構え黒紅の瞳を開く金髪の少女。

 

かたや氷剣を構え人の眼で見つめ返す銀髪の少年。

 

 

両者に、最早、油断はない。

 

 

 

 

「はああぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「ぉぉぉぉおおおおおおっ!」

 

 

 

獣のように咆哮し飛翔しながら両者は互いの得物を叩き付けあった。

 

 

ぶつかった際にコロナのように漏れ出る炎とその炎を喰らわんと冷気が宙を舞う。

 

 

―衝突は一度や二度では終わらない。

 

 

 

 

両者を中心として、部屋の時がようやく動き出し始めた。

 

 

 

 

~紅い少女説明中~

 

 

「…………始まったわね」

 

机の上に置いてあり、今二人の戦いを中継する水晶玉を見ながらレミリアが呟く。

 

水晶玉の中で少年と少女は交互に剣を打ち出し、弾く。

 

まるで演舞のように美しい動きであったことは認めざるを得なかった、

 

「……………ねぇレミィ」

 

「……彼の正体をさっさと教えてくれないかしら?あと暑苦しい」

 

そういって嫌そうに顔をしかめているフリをしているのは

彼女の親友であるパチュリー・ノーレッジだ。

 

そして今彼女らがいるのは、紅魔館の内部に存在する巨大図書館。

 

紅魔館が創設された時から常に存在しており、今はパチュリーによって統括されている場所だ。

…まぁパチュリー自身に此処を統括しているという自覚はないが。

 

今現在この図書館にいるのは咲夜、パチュリー、治療中の美鈴、そしてレミリアの計四人だ。

 

説明するには十分な人数だ。

 

どうしても目は水晶玉の方に移りかけてしまうが、ここは我慢するしかない。

 

「………三人は悪魔がいるって信じる?」

 

 

「「「……はい?」」」

 

唐突にレミリアはぽつりと三人に問いかけた。

 

「いや、信じるも何も……お嬢様が悪魔じゃないですか。」

 

「ええ…そうね。吸血鬼という種族はれっきとした悪魔の一種ね。」

 

「……それで?どうしたのよ?」

 

さっさと話せとパチュリーが促してくる。

彼女はこの手の遠回りな話し方はあまり好きではないのだ。

 

「まさか蒼月さんが悪魔と?」

 

美鈴が思案しながら独り言のようにレミリアに対してこぼす。

 

 

「いやんなわけ……まぁある意味性格悪魔だけど…」

 

お茶を濁しつつレミリアはまた彼女たちを見据えた。

 

「とりあえず彼の正体を話すためにはまず…」

 

「今から500年近く前のある出来事を貴方たちに伝えなければならない」

 

「………へぇ」

 

種族だけを知りたい様子だったパチュリーからすればイラつくのではなかろうかと若干心配したが

そんな心配は無用だった。

 

空気が読める友人に感謝しつつレミリアは過去の記憶を遡る。

 

 

 

 

「これはまだこの館に私たち以外の悪魔がまだ住んでいたころの話―」

 

 

 

 

 

 

そして歴史は紐解かれた。

 

 

 

 

 

 

 

=====地下室======

 

 

 

「………………ふっ…!」

 

鋭い呼気と共に蒼月の右後方から凄まじい速度で点と化した氷剣が突き抜かんと飛来する。

 

しかし、空を飛ぶための翼を有するフランには届かない。

 

ギリギリのところを見切り、足に掠るのではという距離で上後方へと加速して突きを回避する。

 

 

だが氷剣はそこで止まらない。

端から突きが当たるなどと蒼月は甘く考えていない。

 

突きの勢いを殺さぬように体を右側へ急回転させ、左下から右肩へかけて切り上げを見舞う。

 

 

どうやら予想していた動きと違っていたらしく若干目を開くフランだったが動きに支障はない。

 

 

咄嗟に炎剣を手首の向きを変え下に向け、氷剣を真正面から受け止めようと―

 

「…ちっ」

 

と、蒼月も弾かれるままではない。

 

 

すぐさま床を滑らせていた右足に魔力を集中、即座に冷気を右足のみに纏わせる。

 

 

そのまま氷を纏った右足を炎剣の刃ではなく腹の方に蹴り入れ地上を旋回しながら距離を取る。

 

 

床が凍っている為特に音を出すこともなくカウンターで真一文字に振るわれた炎剣の射程外へ退くことに成功する。

 

 

 

強い。

 

攻撃に対する読み、対応に揺らぎがない。

 

この手のタイプは―経験ではなく天性の勘で行動するタイプだろう。

 

元々フランは書物から学ぶよりも実践形式で学ぶ方が呑み込みが早かったが。

 

 

 

それにしても異常だ。

 

 

 

彼女の性格からして実力者に喧嘩を売って実力を高めたとも思えないし、

そもそも紅魔館から出てきていないのならフランと拮抗しうる実力者は

恐らく姉たるレミリアのみだったろう。

 

それにしてはこの戦闘能力の高さは解せないものがある。

 

 

 

さらに―

 

 

「スター、ボウ、ブレイク」

 

 

詠唱が終わると同時に色とりどりの光弾が宙に浮かび上がる

それはさながら星空のように煌びやかで―

 

 

流星のように残酷にこちらに向かって降り注ぐ。

 

 

 

剣での防御は得策ではない。

当然ながら一弾を防いでも後続の弾を防ぎ続けれても側面ががら空きになってしまう。

 

 

故に取る行動は壁面も利用した逃走。

 

 

個人的心情で言えば全ての光弾に同じ手で迎撃したいところではあるが、

そうもいかない事情がある。

 

見られているが故に。

 

 

 

背中の防御を少しでも高めるために氷剣を右肩に担ぐようにしたのちに光弾を限界まで引き付けたのちに

冷凍化のしていない左足に魔力を溜め、床を踏む。

 

 

そのまま魔力は自らの体を弾丸のように打ち出す推進力となり、一気にフランの視界から離脱する。

 

 

動いたことにより部屋の中で空気が激しく動き、整理されていた部屋の家具が飛ぶ。

 

 

しかしこのままでは曲がり切れない。

 

 

故に右足の冷凍化を強制的に解除、眼前に迫っていた壁に着け、減速。

 

 

この時点で光弾の半数近くは曲がり切れずに床に激突し、霧散したがまだ残っている弾がある。

 

 

 

そして一時壁に張り付くようにして停止。

 

獲物を再び発見した残りの光弾たちはまた、狙いを定める。

 

 

獣の群れのように陣形を組むようにして複雑な配置で光弾はこちらに迫る。

 

 

 

ここまで広がられたら走っての回避はほぼほぼ不可能だ。

 

 

となれば―

 

 

 

今度は片足ずつではなく両足に魔力を循環、徐々に両足から見覚えのある光の粒子が漏れ出し始める。

 

 

 

そして今度は接近を待たず、魔力が溜まるや一気に縮めていた両足を伸ばす。

 

 

壁はまだ凍り付いていないため、盛大に破裂音を響かせながら、そこに痕跡を残す。

 

 

 

後方に流れゆく部屋の景色が色褪せ、加速する。

 

まるでワープするかのようだが、これはただの「力強い跳躍」。

 

 

当たるものには当たってしまう。

 

 

 

故に選んだルートに存在する光弾は二個。

 

 

いずれも周りに浮遊してる弾のせいで攻撃する以外の手立てはない。

 

 

 

飛翔しながら腕に無理を言わせ、担いでいた右腕を引き絞る様に後ろに伸ばす。

 

 

そのまま照準を合わせ、両断、一つ目を破壊。

 

続けざまにそのまま体を縦方向に回転させたままにする。

 

 

 

今視界は逆さまだ。

 

 

そして回転の速度を維持したまま剣を左側に水平方向に構える。

 

 

照準、後に―

 

 

光る球体が水平に斬られ、二つに分かたれる。

 

 

もう外敵はいない。

 

 

 

そのまま―

 

 

 

 

どうやらフランは蒼月の姿を視認できていなかったらしかった。

この点も「本物の」フランとは違う。

 

そしてようやく音速を超えた速度で自身に接近する蒼月に気付いたらしい。

 

 

「しまっ―」

 

 

振り切ったままだった右腕を今度は左側へスイング。

 

 

 

狙いは右腕。

 

 

「(落とせる―!)」

 

 

 

そのまま邪魔されることもなく右腕を振り切る―はずだった。

 

 

しかし氷剣を受け止めていたのは炎剣でも、右腕自体でもなく、左腕。

 

 

 

外見は幼女の脆そうな腕が刃自体をがっちりと掴んで受け止めていた。

 

 

 

「な……に……!?」

 

 

 

「アハハハハハハッハハッ!」

 

徐々にフランの右手が冷気で蝕まれるように凍り付いていくが気にしている様子はない。

 

…もはや感覚すらもないのだろうか?

 

 

そして冷気が二の腕にまで達しようかという瞬間フランは気に入らなくなった玩具を放る様に、手の中にあった氷の棒を投げた。

 

 

剣を掴んだままだった蒼月も当然振り飛ばされる形となり、緩やかな弧を描きながら吹き飛ぶ。

 

 

 

「うぐぅおっ…!」

 

 

 

何とか冷気を魔力任せに床に噴射することで勢いを殺し着地することはできたものの、魔力で強化していない人間の肉体はいともたやすく不調を訴える。

 

 

 

休んでいる暇はない。

 

 

そらまた眼前にフランの狂気の笑みが—

 

 

「せぇぇええああああっ!」

「キャハハハハハハハッ!」

 

 

炎剣と氷剣はなおも語る。

 

金属同士が奏でるような音はないがそれを上回る衝突音が場を囲む。

 

 

魔力量が尽きることはないだろうがそれ以上に突発的な強化ではやはり体が冷気に長時間耐えきれそうではない。

このままチャンバラごっこを続けていてもずっと氷剣を持ち続けている右手の方が壊死してしまう。

 

そもそもの話この戦闘自体、蒼月からしてみればかなり厳しい条件が多い。

 

 

まずフランのこの攻撃の真意さえ未だ掴み切れていないのだ。

会話から察するにレミリアも同じようなことを言われたのだろう。

 

しかしその言葉に至る理由も聞いていないし何も分からない状態でフランを斬り殺してしまう訳にもいかない。

 

 

現在分かっているのはフランの中にもう一人フランが存在すること。

原因は分からないが元のフランは蒼月に助けを求めていること。

そしてその助けの内容が自身の殺害だということ。

 

 

…現状考え付いたのはこれらだけだった。

ここからフランの実情を考えるのはほぼ不可能だ。

 

 

これ以上の推測をするにはもう少しフランの様子を見なければならない。

 

―それまでに人間の体に慣れないレベルの極低温での環境下にどれだけの時間が残っているか―

 

 

新たに浮かんだ問題点に視点を切り替えつつ

蒼月は氷剣を構え直した。

 

日没まで、残り、2時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~約490年前~~~

 

「さすがですレミリアお嬢様。全て満点です」

 

「……はぁ…」

 

 

ここは紅魔館内部に古くから在る大図書館。

 

そして横にいるのは―

 

教育係とかいってずっと付いてきて口煩く勉学を進めてくる付きの爺だ。

年は私もしらない。

眼鏡を乗せるように掛け、悪魔の証である赤い眼をしている。

いつものように口元に適度に生えた髭を押さえながらノートに赤インクで正不を記してこちらに寄越した。

 

言われた言葉通りそこには花丸が下の方に書いてあった。

自信作らしかった。

 

しかし花丸をもらってもレミリアの顔色は優れない。

 

 

またこの茶番だ。

 

 

占星術、魔術、帝王学…

 

同じことの繰り返しだ。

 

 

必要だからと参考本を何十冊と読まされ、そこに書いてあった事を覚えているかと聞いてくる。

 

馬鹿馬鹿しい。

 

一度読めばおおよそ必要な部分は覚えられる。

わざわざ試験をするまでもない、事実だ。

 

 

それなのにこいつはずっと付いてくる。

…一度寝室にメモ用紙と共に本が置いてあった時は本気で戦慄したものだ。

 

 

過去の暗い記憶を思い出して若干身震いしかけたその時図書館の扉が動いた。

一瞬客かと思ったもののいつも通りの顔で気分を落とした。

 

そこにいたのはレミリアの父親である

 

勉強をしていると時々覗きに来る。

説教をするわけでもなく何かをチェックするわけでもないが…

 

本人曰く娘の顔が見たいから、らしい。

 

その後爺と父は何かを語り合っていた。

父も勉学や読書を好む性質だ。

似たもの同士通ずるものがあるのだろう。

 

もちろんレミリアにはそんな話微塵も興味が無い為

巻き込まれないように即刻目を逸らして黙り込むのだ。

こうしていれば疑問を吹っ掛けられることもないということをレミリアは既に学習していた。

 

 

………ヘイグ・スカーレット。

かつてのスカーレット家をたった一代でここまで盛り返した私の父親。

(かつてと言っても別に貧乏だったわけではなかったが)

吸血鬼の例に漏れず顔立ちは芸術品のように整っており体はたるまず引き締まった筋肉が

完璧な美を生み出している。

さらには歴代最高とも謳われる頭脳に何人も寄せ付けない武力的な強さ。

 

そして「あらゆるものを溶かす」という強力すぎる能力。

 

ゆえに館の中での裏の呼び名は‘賢王‘。

 

プライドが高く気高いとされる吸血鬼が何の躊躇いもなく頭を下げる。

そんな父だった。

 

 

それゆえにレミリアは父親を好きになり切れなかった。

 

劣等感を抱いていた、という可能性は否定しきれない。

しかし時々父の眼が本当に自身を見てくれているのかという疑問を抱いてしまうのだ。

 

まるでレミリアをモノとしてしか見ていないような眼光。

特別怒っているわけではないのに体がすくんでしまうのだ。

 

怒鳴られたことは一度としてないしそういった恐怖経験をしているわけでもないのに。

 

気分が落ち込んだレミリアはそのまま席を立って出口である扉へ向かっていた。

 

 

「…どこへ行くんだ?」

 

後ろから父親の鋭い視線が突き刺さる。

 

「……ちょっと息抜きに散歩」

 

 

父親の返答も待たず扉をあけ、図書館の外へと抜け出た。

 

あんな高圧的な視線を向けてくるぐらいならうるさく小言でも唱えられた方がマシだ。

 

聞き流せば済むだけだから。

 

外へ出たレミリアは近くに使用人がいないことを確認して

壁際を歩く。

 

そのまま廊下に頭上に無数に存在する窓のうちのカギのかかっていない一つの窓を選択し、

縁に足をかけ、よっこらせと窓に登る。

爺がいればはしたないと注意されるだろうが今はいないので問題ナシ。

 

登り着くと同時に開錠されている窓を全開、全身に風を感じながら夜に浮かぶ満月を見上げる。

かつては血の匂いが充満していたであろう湖には今は悪魔の嘲笑が絶えない館が建てられている。

 

「……あぁもう…そこらでも飛び回ってこようかしら…」

 

 

その言葉と同時にレミリアは窓から空中に躍り出た。

 

 

屋敷の周りにある池を住処として飛んでいる蛍が光を放っている。

 

 

 

 

魔の者とて美しいものには目を奪われるものなのだ。

 

 

 

 

~~かりちゅま移動中~~

 

 

 

ちゃぽんと湖をナニカが跳ねた。

 

そこに向かってある程度形の整った手ごろな石を見つけ、投げ入れる。

 

 

………結論から言ってしまえば結局何もなかった。

 

正確に言えば耳が人の髪のように垂れている可愛らしいうさぎ等の発見はあったものの

レミリアをわくわくさせるような摩訶不思議な体験はなかったのである。

 

「いやそんな何か発見があるとは思っていなかったけども…」

 

内に秘められている魔力のおかげで悪魔と比べたら下等生物である虫は寄ってはこないが、

狼のような生き物は寄ってくるのだ。

 

これもレミリアがまだ幼体であるが故なのだがそれでも上記の理由か危害を加えようとする様子は見られない。

皆ちらりちらりと視線を投げかけては視線を下に下げて歩き去っていく。

 

すごすごと歩いていく狼ちょっと可愛いなぁとレミリアが思った時

 

一匹の子供と思われる狼が視界の縁に入った。

 

いずれも大変愛くるしくまだ生えたばかりと思われる白にも見える灰色の毛をもふもふと揺らしていたが問題はそうではなく。

 

とてとてとてとレミリアの横に歩いて来てから―

 

「うぁんっ!」

 

とこちらを見つめながら一声上げてから近くの茂みにじっと視線を固定しているのだ。

 

ふりふりと尻尾を揺らしながら。

 

よくよく見るとその他の狼もちらちらと茂みに目を向けては逸らすという動作を繰り返している。

 

 

「………何かしら?」

 

 

さすがにここまでお膳立てされればレミリアでも何かがおかしいのは察することができた。

問題はソレが危険なモノなのかだが…

 

「(見てみないことにはなんとも言えないわね……)」

 

「見ずに帰る」という選択を無意識下で消去していたレミリアはそのまま

地面に手をつき立ち上がった。

 

まぁ館から離れていないからそこまで危険なものはないと思われたが―

 

 

立ち上がった反動から若干おぼつかない足取りで茂みへ向かう。

 

そのまま豪快に素手で茂みをかき分けていく。

 

服に多少小枝やら葉っぱがつくがレミリアは気にせず分け続けた。

 

 

そして視界が一気に開けた瞬間―

 

 

「………は?」

 

 

そこにあったのは先程の狼に負けず劣らずにもふもふとした純白の塊だった。

 

しかし毛が伸びてもふもふというよりかは見た目上での質感がもふもふしているだけなのだが―

 

 

よくよく観察してみると塊は微かに上下に揺れ動いている。

どうやら生き物ではあるらしい。

 

そのままぐるりと塊の周りを回ってみても特におかしな点は見当たらなかった。

 

最初は大きな真っ白い狼が寝ているのかと思ったがそうではない。

 

本当にただの転がった卵のようにしか見えない柔らかそうな塊なのだ。

 

 

……まるで正体がつかめない。

どうやら危害を加えられる恐れはなさそうだが…

 

 

「うー…………あれ?」

 

 

そこでレミリアは一匹の先程とは違う子狼がある一か所を鼻でつついているのを見つけた。

 

疑問に思ったレミリアは子狼を抱っこして横に優しくどかした後その場所を覗き込んでみる。

 

 

 

………………。

 

特にシミも汚れもない純白がそこにはあった。

 

 

 

「(やっぱり何もないk「……ー…」…え?)」

 

 

……なんだ今の声。

 

 

驚愕しながらもう一度レミリアは今度は覗き込むのではなく耳を近づけてみる。

 

 

「…くー…くー」

 

「!!?」

 

驚いたあまりに後ろに盛大に尻もちをついたレミリアは本気で目を丸くした。

 

 

しゃべった。

もふもふがしゃべった。

 

 

今のレミリアの脳内は大体こんな感じだった。

 

――次の瞬間しゃべるナニカが大きく動いた。

 

 

まるでプレゼントを包むリボンが解けるかのように白い膜が外側に向かって開き始めたのだ。

 

―いや正確に言えば膜というにはそいつは厚すぎたのだが―

 

 

そのまま膜は二枚に分離してふわりとほどけ落ちた。

想像できるようなほこりが落ちたり、という事はなかった。

 

威圧感は決してなく粉雪が舞い落ちるように、柔らかくふんわりと落ちた。

 

 

そしてその中にあったのは……

 

 

「………人?」

 

 

綺麗な銀髪に背中から先程の膜―――翼を生やした少年がそこで熟睡していた。

 

 

「(……え?これどうすればいいの?)」

 

 

―――一切に曇りのない蒼が若干混じった銀色の髪。

 

―背中から伸びている、自分の体を包み込んでなお余りある純白の大翼。

 

その時レミリアの脳裏に浮かんだ言葉は…

 

 

「……天使…?」

 

 

伝承を基とするならば頭上に光輪が無いこと等が上げられるが…

 

問題はそちらではない。

 

 

「こいつ…どこから来たのかしら…」

 

恰好を見てみるがどうにも悪魔らしくないのだ。

目立った装飾の着いていない、こちらは真っ白ではなく若干アイボリーっぽい色をしたトレンチコートのようなモノを羽織っており、

脚には何も履いていない。

 

ならここまで来れるのならばとまさぐったりせず外観だけで判断すれば武器を持っているようには見えない。

 

だが持っていなくともここまで来れてしまうレベルの実力者だというのは戦闘をほとんど経験したことのない

レミリアでもなんとなく理解できた。

 

明らかに寝ている体から立ち上る魔力が異質なのだ。

悪魔のようにねっとりと絡みつくような感じではなく神々のように近づくだけで圧迫感を感じるものでもない。

 

こいつの魔力の質はさらさらと流れ落ちるきめ細かい砂のようにと表現できる感覚なのだ。

 

生まれてから悪魔に囲まれて過ごしてきたレミリアには慣れていない感覚であった。

 

 

そもそもここら一帯の統括地には爺が施した承認された者以外には視認することすら絶対に適わない

魔術結界とでも呼ぶべきものが存在する。

 

まぁよくある話だがこれを超えて気付かれない生物はいないという訳で。

 

 

「………生物なのかな…」

 

ふとした疑問をレミリアが考えこもうとしたその時

 

 

「いや、僕死んでないよ?」

 

 

返答が来た。

 

 

「じゃあ…生物ではあるのよね…」

 

……。

 

……………。

 

…………………んん?

 

何かおかしくなかったか今。

 

 

「……寝てしまっていたのか」

 

 

頭の若干跳ねた髪を強引に掻きむしりながら少年はぼやく。

表情には何の起伏もなかった。

 

そしてしばらく周りを見渡したのちにレミリアを数舜見つめたのちに合点がいったと言わんばかりに呟く。

 

「……あぁ、私有地だったのか…すまん。謝る」

 

そのままの流れで何の支障もなく頭を下げるものだから驚いてしまった。

 

「いや別に頭下げないでよ…それよりも」

 

「どうやってここに入ってきたわけ?普通の生物ならこの泉、視認できないはずなんだけど」

 

話を聞いてから一瞬首を曲げた少年から帰ってきたのは疑問符だった。

 

「いや、何も変わったことはしてないぞ?暇だったからこの辺り一帯上空を空中散歩していたら綺麗な泉があったからそこに警戒用の狗を置いてうとうとしていただけだ」

 

「…警戒用の犬?」

 

「ほら、いなかった?ほかのここらにいる狼よりも毛量が多い子狼」

 

レミリアにはすぐに思い当たった。

そういえばこの少年の姿を見てからあの狼は見ていないが。

 

「そういえばいたわねそんな狼。なんか私をここに呼んだようだったけど…」

 

「……あいつ自分が見張りって事分かってたのか…?」

 

確かに見張りをやらせておいたら敵をわざわざ連れてきた等シャレにならない。

 

「んで、何だっけか」

 

「……あなたの名前、それとどうやってここに来たのかを問いましょうか」

 

即答

 

「どうやって来たかは見たままだぞ?普通に空を飛んでここに落下しただけだ」

 

「…………」

 

嘘をついているようには見えない。

 

そもそも結界を破るための術はそうそう覚えられるものでもないし周りが感知できるレベルの魔力を消費するため

隠れて使用するのはほぼほぼ不可能に近いのだ。

 

さらにここにいるのは魔力の塊とも言うべき悪魔である。

術を使用したのなら間違いなく異常に気付く。

 

しかし一切結界に感知が見られないとは一体…

…能力でもあるまい。

 

余計に怪しさが増したがどうやら悪意はないらかった。

これも人を騙す悪魔だからこそ分かるモノだ。

 

 

「…じゃあ名前は?」

 

若干面倒くさそうなため息を半呼吸程吐き出したのちに応答した。

 

 

「…ガゼル。他の名称は存在しない」

 

 

ガゼル…聞いたこともない名だ。

…聞きたくはないが爺なら聞いたことはあるかもしれない。

後で屋敷に帰ったら聞いてみるとしよう。

 

「反対にお前の名前は…あぁ、聞かない方がよかったか。悪魔だしな」

 

 

「……レミリア」

 

「…は?」

 

紫銀色の髪をふわりと揺らしながらレミリアは名乗った。

 

「レミリアよ。別にこの名前なら知られようと構わないわ。そもそも私生粋の悪魔じゃないし」

 

最初は驚いていたようだったが徐々にガゼルも納得したようだった。

 

「…真名は別にあるという事か」

 

「そ。んで…あなたこれからどうするの?」

 

この場所をほかの者たちが見に来ることはそうそうないと思うがそもそもこの少年これからどうやって

生活するつもりなのだ。

 

うちでは求人はしていない。

 

「別に屋根の下を探しているわけではない。ここではない別の場所でしばらく野宿でもするさ」

 

「…大丈夫なの?そんな生活で」

 

若干雰囲気を柔らかくしたガゼルは翼をいじりながら答えた。

 

 

「大丈夫だ。元々俺は食料も水分も必要ない。魔力さえあれば生きていける」

 

 

……いや本当に何者なんだよこいつ。

…食いらずで魔力で生活できるって…

 

「…そんな呆れたような目をするな。そもそも飽きられる要素はどこにもないだろう」

 

胡坐をかいたままガゼルが続けた。

 

―補足すると悪魔でも魔力だけで生きていくことは可能である。

色々と説明は在るが結論を言ってしまえば

全てのエネルギー供給を魔力だけで補おうとするとほぼ一人では賄えない量の魔力が要される。

故に現在までに魔力のみで生存してきたと思われる生物は見受けられなかったのだ。

 

 

嘘を言っているようには見えない。

いたって当たり前の事を告げただけだといわんばかりにガゼルはため息を漏らした。

 

…確かにガゼルの魔力量は凄まじいのだろう。

事実ガゼルが座っている芝の一部に霜がキラキラと張り付き光っている。

元の彼の量を予測してみればかなり抑えているのだろうがそれでも隠しきれていない。

 

湖が魔力の影響で波打っているということもなく周囲の魔狼の様子もおかしくない。

ただ、本能的に襲わないという選択はしているらしかった。

 

 

「しかし実際に感じるけど恐ろしい保有量なのね…」

 

「それを言ったら君もじゃないか」

 

「……世辞はやめてよ」

 

「へえ……あの賢王の娘が随分と謙遜するじゃないか」

 

「…父を知っているの?」

 

それに対してまた何をといった顔でガゼルが見つめ返してきた。

 

「当たり前だろ?ここら一帯の大陸でヘイグ・スカーレットの名を聞いたことのない者はいないと聞いたが」

 

「…その言い方だと元からここに住んでいるわけではないのね」

 

「まぁここら辺に来たの7日ほど前だし」

 

「そこは一週間って言いなさいよ」

 

「随分ともてはやされているようじゃないか。一度顔を見てみたいものだが」

 

「見てもいいことないわよ?」

 

「ふぅん…その言い方だと…もしかして君は…」

 

あ、まずい、と思った。

あくまでこのガゼルは寝ていたところを起こした(いや私有地だけども)だけの間なのだ。

自身がここらの娘だとわかれば本性を剥き出しにして―

 

完全にやらかした―

 

段々と鼓動が速くn「親父の跡にと期待されて結構言えない悩み多いんじゃないの?」

 

「………え?」

 

「そのままじゃ親父の交渉材料に利用されるだけだぞ?もっと自分を前面に出していかなきゃ。」

 

「……私を攫おうとはしないの?」

 

「え?何?攫ってほしいの?」

 

露骨にガゼルが少し口角を上げて問い返してきた。

 

「いやいやいややめてよ…」

 

「…そこまでドン引きされるとわりかし傷つくものがあるんだけども…」

 

肩を若干落としたガゼルだがそれよりも先程言われたことに対しての疑問が今更レミリアの頭に浮かんだ。

 

「…自分を前面に出すって…?」

 

「そのまんま。何かしら意見を出さないと本当に親父にいいように使われるだけになっちゃうよ?」

 

別に考えていなかったわけではない。

いいように使われたかったなんて思ったことは一度としてない。

しかし相手があの超人(超悪魔?)相手なのだ。

一介の生まれたばかりの悪魔にできる事等決まり切っている。

だが拮抗できるまでに成熟を待っていては遅すぎるのだ。

そのころにはいいように認識を改められてしまっている。

 

「考えていなかったわけじゃないけど…どうやって…」

 

言い方を変えれば今のレミリアにできることは結局のところ親父がやれてしまう。

そうレミリアは言いたかったのだが―

 

「簡単な話だ。親父に言う事を聞いてもらえるぐらいに強くなってしまえばいい」

 

「…うぇ?」

 

…私の話を聞いていたのだろうかこの銀色は。

だからそれができないからこそ今悩んでいるのであって―

 

「大方考えていることはわかる。そんなこと無理だと最初から決めつけてしまっているのだろう?」

 

…頷くしかない

 

「それじゃあ無理だ。レミリア、まだ会ったばかりだが君に足りないものが今だけで分かった」

 

真剣な眼差しでガゼルが回答をくれた。

 

 

 

「よくある話だ。『他者に身を委ねる』というものだ」

 

 

 

…出会って三十分の男にそんな事を言われるとは思ってなかった。

だが思い当たるのは確かだ。

 

「確かに君一人の鍛錬ではあの親父に勝つのは不可能だろう。書物で知れる戦闘技術等たかが知れている」

「故に…」

 

 

「俺が教えてやろう」

 

 

 

………本当の本当に何を云っているのだこの男は。

真面目な顔で出会って三十分の少女にかけるべき言葉では絶対ない。

 

「…そんな怪しすぎる提案を受け入れろと?」

 

「そりゃあそもそも君の意志の問題だ。俺はあくまで手法を提示しただけに過ぎない」

 

…確かにこの男の言うとおりだ。

私が考えうること等結局言われた通りたかが知れている。

過去に爺に身を守る方法を乞うてもまだ早いと教えてくれなかった。

 

だがそのままでは間違いなく本物の箱入り娘になってしまう。

それだけはレミリア自身避けたかった。

 

 

結局レミリアの心は最初から決まっていたのであろう。

 

 

「……いいわ。あのまま館の中で大人しく利用されるぐらいならあなたに教えてもらうわ」

 

レミリアは外に出る方を選んだ。

 

「…まぁ元々君を攫うつもりも毛頭ないし攫ったところでメリットなんてないしね」

 

黄金如き一片もいらんと付け加えてからガゼルは胡坐の体勢から立ち上がってレミリアを見下ろした。

 

見上げてみて分かったがガゼルの身長は思ったほど高くなかった。

 

生まれたばかりの私はまだ110㎝前後だがそれの半分上ぐらいだろうと推測できた。

 

大人、には見えなかった。

 

でも見た目通りの子供にも見えなかった。

 

 

「…それで教える日時はどうすればいいんだ?館には入れてもらえんだろうし」

 

「あなたは別に定住している場所はないんでしょ?」

 

「現在放浪真っただ中だが?」

 

放浪というには汚れているようには見えなかったが…

 

「それならここで待ってくれないかしら?目を盗めたらここに来ることにする」

 

「…それはそれで俺自身に若干罪悪感が…」

 

「元から見ず知らずの家の所有地で寝てる男に言われたくないわ」

 

本意ではない演技であろうため息をつきながらガゼルは確認を寄越した。

 

 

「…要するにここにずっといればいいんだろう?分かった。狼と戯れてでもして待っているよ」

 

……若干狼たちがびくんとしたのは気のせいだろう。

…ちょっと可愛そうだが。

 

「なら…決まりね?」

 

「悪魔との契約みたいだな、これ」

 

「悪魔の契約は厳重よ?」

 

 

こうしてレミリアとガゼルの…いわば師弟関係が始まったのだった。

 

 

 

 

それからおよそ五年間、レミリアはガゼルからの手ほどきを受けた。

今の時代から考えてみればたった五年間と捉えられるが、当時の彼女にとっては人間の幼少期の感覚に等しく大変長く感じられた。

 

ガゼルは最初にレミリアに告げた。

 

『俺は戦闘面に関してはお前に教えられるが、俺は哲学等の体系化された学問と呼ばれるものは一切分からん。

 あくまで俺は闘いしか教えられん。そこは…まぁ、分かってくれ』

 

元よりそのつもりだったレミリアからすれば特に問題はなかった。

…家では勉強してないと怪しまれるし。

試験勉強をしたのかと聞かれて学校でやったと答えるアレだ。

 

 

それからは早かった。

爺の話を聞いた後、見られていないタイミングで館を抜け出し、狼の泉へ向かった。

 

そこにはガゼルが(大抵は寝ていたが)おり、レミリアが帰る時間になるまで技術を説いた。

 

教えられるにあたって武器種をガゼルに尋ねられた際にレミリアが希望したのは槍であった。

剣と槍かで迷ったが最終的には槍にした。

乙女が使うのに美しいと思ったのは槍の方だと思ったからだという単純な理由からだったが。

 

ガゼルは槍の指南をする際に、指南書を用いたりはしなかった。

基本的には実践方式であり、助言を多くする型だった。

 

時にはガゼル自身が泉の水を凍らせて作り出した槍や剣、盾などを用いて相手をしてくれた。

女子供だからと手加減してくれたかと言ったら全くそうではなく

 

むしろ『吸血鬼なら手加減しなくてもいいじゃん』ということで寸止めなどはなかった。

…それでも武器の刃の部分で攻撃されたことは一度としてなかったが。

 

そして教えられていく間にやはり彼が他の悪魔とは一線を画す存在であることを直に感じ取ることができた。

 

教えられた技術の中でレミリアが最も気に入ったのは槍での近接戦闘ではなく投槍による遠距離からの狙撃とも呼ぶ技術であった。

 

レミリアが槍を作ればその槍は魔力の性質によって真紅に染まった。

が、ガゼルの作り出した槍は違った。

 

まるで逆巻く激流に稲妻を纏わせたかのような槍だった。

色はまるで空に浮かぶ星のような、白を交えた青色であった。

館に気付かれないように張った結界の中でガゼルは一瞬の躊躇いもなくその槍を放った。

 

飛翔した軌跡は、天の川の如く光の道筋を残し、本体からは碧色の光芒が螺旋を描きながら追随していた。

 

その姿は正しく、彗星。

 

ガゼルのその魔槍の名称は『彗星槍』と呼ぶらしかった。

彼らしいシンプルなネーミングだった。

 

その槍を投げる姿にレミリアは心奪われた。

単純にその槍の美しさと、それを投げる技術に。

 

 

 

先程も言った修行開始から五年間の間にレミリアは劇的に成長した。

思考も、戦闘能力も、魔力の循環も。

それから目つきも。

愛らしい猫のような目は見るものを恐れさせる眼光へ。

館内での勉学も怠らなかった為に頭の回転も速くなった。

 

何よりも大きかったのは能力の開花であった。

当初よりヘイグの娘ということで能力は周りから注目されていた。

 

そして発現した能力は

「運命を操る程度の能力」であった。

 

幼いレミリアではまだ能力は全くと言っていいほどに使えなかったが

今後に大きく育つ事が約束されたような能力だった。

 

しっかりと鍛えればその名の通り運命すらも捻じ伏せれるようになる。

それはレミリアの心の火をさらに強くするに十分だった。

 

 

…それでも未だにガゼルから一本取ったことはなかったが。

 

 

悠久の時を過ごす悪魔はその成長速度も本来は遅い。

そんな中たった五年間でのレミリアの成長ぶりに周囲は大きく驚いた。

ただ図書館で勉強している姿しか見ていない大人達は特に驚いていた。

しつこく聞いてくる者もいたが偶然とはぐらかしておいた。

 

それでも、悪くない気分だった。

 

 

 

 

 

そしてレミリアの成長に周りが驚いたその数日後、館をさらに大きな驚きが包んだ。

館の主であったヘイグ・スカーレットの第二子が誕生したのだった。

 

レミリアは妹が生まれるという事に喜びを感じた。

館の中は自分以外は皆大人ばかりだった為にいい加減いやになっていたのだ。

 

生まれた妹に名付けられた名は、

 

フランドール。

 

フランドール・スカーレットであった。

 

夜を思わせる紫銀色の髪の姉とは対照的な、満月を思わせる黄金の髪を持つ妹フラン。

 

翼も姉とは大きく違っており、典型的な悪魔の翼の形をしたレミリアの翼とは違い、

フランの翼は背部より伸びた枝のように細い芯より、幾つもの七色の輝きを持つ宝石を吊るした翼だった。

 

レミリアとフラン、どちらも姉妹仲は悪くなく、むしろ周囲が笑ってしまうほどに仲良しであった。

 

性格も当初は全く違っていた。

生まれた時から活発的であったレミリアと比べてフランはどちらかというと引っ込み思案だった。

あまり言葉を話さず、周囲からは感情が希薄だと捉えられかねなかったがその実姉との

二人っきりになると感情表現が豊かになる、典型的なお姉ちゃんっ子であった。

 

 

そんな性格故に、館の中では父と爺と、姉としか話すことはほぼほぼなかった。

 

 

その為悪魔たちからの陰口が必然的に多くなった。

爺からしてみても、姉が父の跡、

次期当主を担うという関係からも、あまりフランに勉強を強要しなかった。

 

まぁ、フラン自身がすすんで読書をしていた為、一般教養は身に着いたのだが。

 

 

 

フランも当然跡を継がなくてよいという事は理解していた為、上記のように特段勉学に勤しむといった事も

なかった。

 

…故にフランドールはレミリアに防衛技術を教えてくれないかと頼んだ。

 

 

いつか当主になった時にレミリアを守れるようになりたいと。

妹だからと守られるだけにはなりたくないと。

 

 

 

 

レミリア自身もさすがに成長した為今からして考えてみればガゼルに話しかけた事が大人から見れば

どれだけ危険な事に分類されるかは分かっていた。

 

もちろん妹という立場上爺にでも言えばすぐにでも戦闘技術は教えてもらえただろう。

ここら一帯の悪魔など手玉にとれる実力を老いてなお誇っていることは館中の周知の事実だ。

 

 

でもそれではだめなのだ。

 

 

 

決してガゼルがここに攻めてくると言いたいわけではないが

言ってしまったらあれだけの実力を見てしまった後だと…やはり安心などできないのだ。

 

 

 

故にレミリアはフランにガゼルの事を話した。

普通に考えれば姉が不審者に戦い方を教えてもらっているという中々におかしな情報であったが

フランはレミリアについていった。

 

 

 

『お姉様が能力を使っても悪い運命がなかったのなら大丈夫でしょ?』

 

 

 

……そうしてレミリアはフランをガゼルと会わせた。

当初はガゼルも驚いたようだったが

特に拒否はなかった。

 

 

フランも当初はおどおどと気弱であったが

次第に安定していた様だった。

 

 

『私はこれからあなたを何て呼べばいいの?』

 

『名前はガゼルだけどフランの自由でいいよ?呼び捨てでもあだ名でも構わない』

 

 

『じゃあ……お兄ちゃんでいい?』

 

『姉をお姉様って呼んでいるのに俺だけお兄ちゃんじゃ不公平だろう?

 ほら、レミィなんてもう目がうるうるしてきて…』

 

『そっ、そんなわけないでしょうが!』

 

『それじゃあ…お兄様?』

 

 

かくしてフランにとっての初めての‘兄‘が現れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁその三人での日々も突然に崩れるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




フランの翼の宝石って音鳴るのかな…

早速固有特性中二病発動。
巫女さん的にはフラン嬢と蒼月さんの戦闘時のイメージBGMは某狩りゲーの凍土の戦闘BGMを思い描いています。

夜中にしか執筆できない縛りプレイ実行中。

投稿遅れてごめんなさい…
…そして文章分けた方がいいのかなぁ…これ。
さすがに長すぎる気がする…
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