東方銀呼録-白亜の幻想譚   作:星巫女

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本当は妖夢ちゃんの日に投稿したかった巫女です。

そしてちょっと短いです。
でも次回いつもより多めに書くつもりだからユルシテ…ユルシテ…

あとタグ追加しました('ω')ノ

ぼくのかんがえたさいきょうのてき←NEW‼



第五話 「雪は未だ溶けず」

 

「やったぁ!ねぇねぇお兄様見ててくれた!?」

 

「…ずっと後ろから見てるよ」

 

義妹が満面の笑みでこちらに振り向いていた。

くるっと回った拍子にフリルと手入れされた金髪がふわりと揺れる。

 

これが現代社会で金髪幼女からこんな邪気のない笑顔を見せられれば

表情を崩さない男等そうそういないだろう。

 

 

……右手の中に物騒極まりない燃え盛る短剣を持ってさえいなければ。

 

 

あつい。

いくら魔術で作られた炎故に熱さはなくとも見ている方が暑い。

 

長さ自体は上記の通り果物ナイフ程度の長さしかないのだが

その短さのせいか異常に火力が高い。

 

むしろ燃え盛りすぎて握っている少女の白い手が焼け焦げていないことが若干不自然に

見えるほどだ。

 

「しかし姉もそうだけど早いねぇ……練習始めてまだ五十年程度だろ。

 人間の魔法使いがそれだけの火力を生もうとすれば軽く三百は飛ぶぞ」

 

初めてフランに出会った夜からガゼルはレミリアには槍術と図書館にはないと思われる

魔術、フランには戦闘技術云々よりもまず魔術を先に教えた。

 

レミリアの紅槍については彼女自身が自室で作ってはダーツの矢として投げて遊んでいたらしい。

 

ガゼルのもとに行った際には

剣として伸ばすか槍として伸ばすかの選択だけだったようだ。

 

 

しかしフランはそもそも明かりを作る程度なら最初からやれたようだが

戦闘に応用できる魔術は分からなかった。

 

故に身内を守るのであれば近接格闘よりも身近にある武器を利用して戦えるように

なった方がよいと考えたのだ。

 

今のフランは弓等の遠距離の武器を除けば今使われている武器なら大方対応できるように

なりつつある。

 

別にどの武器を使っても大丈夫なように、というよりかは

「どの武器を使われても弱点がつけるように」というのがガゼルの目的だった。

 

敵の武器の弱点を知るには話を聞くよりもその武器を使い込むのが手っ取り早い。

 

「うーん…お姉様が爺に聞いた限りだと私たち姉妹の身体自体が

 魔力伝導率が他の悪魔よりも高いんだって話だけど」

 

魔力伝導率というのはそのまま、魔力を通しやすいかというだけの言葉だ。

特に難しい意味は存在しない。

 

そもそも悪魔自体が名前に魔の字が入っている通り

魔力にとって距離はそう遠くない種族なのだ。

 

故に悪魔は魔術を得意とするものが多いのだがその悪魔の中にも

魔術の扱える程度に優劣が存在する。

 

それが伝導率だ。

 

これが高ければ体の中を魔力を巡りやすく、発動速度や違う魔術に切り替える速さに

差が出る。

 

 

言ってしまえばよほど闘いに身を置くような境遇じゃなければ

あまり重要視しなくてもよい。

 

一般の悪魔であれば幾つもの魔術を素早く切り替え使うなんて場面は殆どないからだ。

 

 

そしてこの伝導率は魔力だけではなく魔術を如何に早く体に覚えこませるかにも影響する。

 

 

これの存在故に伝導率が高い人間は俗にいう『魔法使い』になれる事が多い。

人間の一生は他の種族に比べると短い為その期間の中でどれだけ多くを覚えられるかも

割と重要視される。

 

その点で言えば人間にとっては結構重要かもしれない。

 

 

そしてこの吸血鬼姉妹は要するに他の館の中の悪魔よりも魔術を覚えるのが速い。

 

 

「その魔術他のひt…悪魔に見せちゃ駄目だよ?色々と面倒な事になるから」

 

「はぇー…分かった」

 

………そしてずっと気になっているのは

 

 

「そういえばレミィはどうした?もう三日も経つが…」

 

「…分かんない。数日前にお父様と話し合っていたのは見たけど…」

 

そう、レミリアの姿が見えないのだ。

三日間も。

 

フラン曰く館の中でも姿を見ていないらしかった。

どうやら父親からレミリアの安否を聞いているらしいが―

 

「…要するに親父のすぐ近くにあいつはいるってことだろ?それじゃあフランは何も感じなかったのか?

 あいつの魔力とか」

 

弱弱し気に首を振りながらフランは返答した。

 

「何にも感じなかった。でもお父様は心配するな…って…」

 

……。

 

「…なんか原因不明の重病が見つかったとか?」

 

「それだったら常日頃からお姉様の近くにいる私も呼ばれると思うんだけど」

 

「そう言われればそうだな」

 

分からない。

流行性じゃなくて生まれつきとか…

 

 

 

ふと、ガゼルはあることを思いついた。

 

 

「そういえば…フラン達の母親は誰なんだ?」

 

最初にレミリアに会った時から聞いていなかったことだ。

父親に関しては有名なのでガゼルも知っていたが彼女らの母親については話されたことがなかったのだ。

 

 

ガゼルが聞いたことがあるもので有名な女吸血鬼は聞いたことがない。

そもそも吸血鬼と出会ったのもこの大陸に来てから片手で数えられるぐらいしかないのだ。

それも全員野郎である。

 

なにしろ最初に出会った異性の吸血鬼はこの姉妹だ。

まだ回数は少ないがそれでも十分に少ないと言えるだろう。

 

 

「お母様は…どこにいったかわかんないの」

 

少し悲し気に目を伏せながらフランは呟いた。

 

…今彼女は母親の何を思い出しているのであろうか。

 

「……どこに行ったのかわからない?」

 

 

「私たちのお母様……リリェル・スカーレット母様。

 私を産んでから直にいなくなってしまったの。書置きなんかも残さずに。」

 

…彼女曰く正確には産んで自室に戻った次の日に失踪したらしい。

 

「……家を出て行った訳じゃないんだろ?」

 

三日前から妹すら行方を知らないレミリアと、次女を産んでから行方不明となった母親。

…何か接点があるかもしれなかった。

 

 

「…それすらも分からないの。お父様もお姉様もいなくなる最後の夜はお母様を見ていて、

 次の日お父様が寝室を見に行った時にはいなくなってたそうなの」

 

「…親父と部屋は別々だったのか」

 

「うん…私を妊娠して産むまではひどくうなされていたみたい。それでお母様自ら

 部屋を分けてもらったんだってお姉様が…」

 

…つまり母親は自室で突然消えたという事になる。

転移系魔術でもなければ起こりえない話だ。

だが、話を聞く限りではその線は限りなく薄い。

 

「お母さんは特別に魔術に秀でていたりしたのか?それとも容姿か?」

 

あの賢王が自らの妻としてとった女なのだ。

唯の吸血鬼であるはずがない。

 

何かしらの理由があったはずだ。

 

 

「容姿は…ごめん、あんまりよく覚えてない。でも長くてさらさらな赤い髪を後ろに流していたのは覚えてる。

 顔はきっと悪くない…ううん、美女に入る顔だったんだと思う。

 あのお父様が選んだ人だから」

 

「…その他は?」

 

「聞いたこともない。お母様は病弱っていうわけでもなかったって話だけど…あぁそうだ。

 お母様は吸血鬼なのに血を吸うのが嫌いな人だった…みたい」

 

…吸血鬼と名前にも血を吸う事が示されているのに吸うのを嫌っているとはおかしな話だ。

だが重要な手がかりだ。

 

決して参考にできる資料が手元にあるわけでもないが、少しずつ記憶の頁を捲っていけば何か

見つかるかもしれない。

 

その意気はガゼルの目元をいつもよりも険しくした。

 

 

 

「…それじゃあ、そろそろ館に戻るね。今日も稽古、ありがとう。

 お姉様に関しては…お父様にまた聞いてみるね」

 

「そうか…病気とかだったら見舞ってあげなよ。たった一人のねーちゃんなんだから」

 

「その言葉…今度会えたらお姉様にも言ってやってよ」

 

若干頬を膨らませたフランが訴えてきた。

人間の年齢で見れば老婆とも捉えられる年も吸血鬼からすればまだまだ幼体だ。

 

「はっはは……覚えてたら伝えておこうかな」

 

そんな曖昧な返事をわざとフランに返しながらガゼルは館に向かって進んでいくフランを見送った。

 

館からの結界の影響で日光はこの地には射さない為昼か夜かが分からなくなるが、

恐らく昼間なのであろう、フランは若干欠伸をしながら歩いて行った。

 

只々弟子が帰路についただけ。

それなのにガゼルは一抹の不安を覚えた。

 

…何かが引っかかる感覚。

見落としている…というわけではなく

目を凝らしてもよく見えない常闇の中、地面に罠が仕掛けられていると感じるような、

いわば…危機感。

 

別にガゼルは日常の中には常に危険が潜んでいると錯覚しているような童ではない。

故に己の内の異変を彼自身が敏感に感じ取っていた。

 

 

 

「…空が…赤いな」

 

 

 

こうして一人を除いた一日が終わった。

その日、ガゼルが眠りにつくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてついにもうひとりもいなくなった

 

 

 

 




少しでもほのぼのだと思った?
残念、書いてあった通りシリアスです。

次話は現実時間での対決の続きからです。


でわでわ。

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