東方銀呼録-白亜の幻想譚   作:星巫女

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前回は本当に短くなってしまって申し訳ないです…
今回で現実時間軸一気に進めますよー!

というわけで過去編はちょっとだけお休みです。

そして各キャラのスペカは原作より強化がされている場合があります。
…弱体化させてないからいいよね?

でわでわ



第六話  「絶対零度」

もう何度空気が震えたのかも覚えていない。

 

既に部屋の中はかつての姿を一片たりとも残しておらず蹂躙されるがままとなっていた。

単純な斬撃痕がそこらかしこにあるだけではなくまるで隕石が落ちたかのように見える陥没した場所もあった。

 

だがその惨劇を作り上げてなお両者は舞いを止める様子はない。

むしろ時間がたつ程にその勢いを増している。

 

炎が振るわれれば空気が歪む灼熱の空間へ。

氷が振るわれれば視界が霞む零度の空間へ。

 

両者の些細な動きで戦場は進化するかのように常に変遷を遂げる。

それでいて地下空間がまだ崩壊せずに留まっていられるのは

内側から血の混じった氷に支えられているからだろうか。

 

その超常空間の中ただ体の中で魔力を回し続けているだけの人間であるガゼルは

戦い続けたが故の自身の身体の異常に気がついていた。

 

致命的な直撃こそまだ食らってはいないものの皮膚のすぐ近くを太陽と錯覚するかのような爆炎が掠めていく度に

少しずつ感覚が鈍っていく。

 

ずっと燃える炎を見つめ続けたせいで足元の陰を見ると目が痛くなってくる。

 

 

体内で魔力を循環させているからこそまだ立っていられているが辛いものは辛い。

実際常に回し続けていないと咄嗟の回避などが元の脚力では難しい。

というより魔力を使わないと壁面を利用しての猛ダッシュ等できるはずがない。

 

しかし魔力を使いすぎても体は壊れてしまう。

たった一弾の鉄の弾で命を容易に落とせてしまうのが人間だ。

 

今も頭上から振り下ろされた炎剣を手元の氷剣で受け止めるために両足で床を

踏み抜かんと力を込めたものの既に両足とも小指の感覚は存在していない。

 

それどころか足首の指側半分から先がいつの間にか消失してしまったかのようにも思える。

靴を脱いで中を確認すれば目を背けたくなるような惨状が起こっているだろう。

真っ黒い炭のような足だったモノと対面できるはずだ。

 

だがそんな足程度の痛みがなんだ。

今はとにかく目の前の暴れ続けるフランをなんとしても沈静化せねばならない。

そうこうしているうちに両者の距離は凄まじい速度で縮まり鍔迫り合いのように

剣をぶつけ力を込める。

 

「そういえばねぇ…お兄様」

 

その最中フランが最初と変わらぬ笑みを浮かべたまま口を開いた。

 

「私が死にたいって言い出したの、嘘だったんだ。本当は誰よりも生きたいって思ってるよ」

 

「…どういうことだ」

 

口答えしながら蹴りを入れられるか隙を探すが見つからない。

…やはりこの競り合いに勝たねばならないらしい。

 

「私はねぇ...誰よりも外を見てみたいんだ。でもあの子は許してくれない。

 だって私はあの子の心の半分だから」

 

 

………何となく見当は付いていた。

今戦っているフランがフラン本人…というか本来の持ち主ではないであろう事は

戦う前の様子から想像できていた。

フランの中の普段は表面に出てこないナニカが何故か彼女の体を動かしていた事は。

 

問題はその正体だったのである。

眼球の変色、戦闘能力の異常上昇。

二重人格かと最初は疑っていたがどう見てももう一つの人格に入れ替わっただけではここまで

劇的な変化は起きないだろう。

 

剣を打ち合わせた際に魔術で探りを入れてみても

何かに憑かれていた訳でもない。

そんな様子が見受けられたのならまず第一にレミリアは

ガゼルに妹の救助を依頼する際に「狂気に呑まれている」なんて言葉は伝えないだろう。

故にガゼルの手元にあるのは狂気というワード。

しかし記憶の中にいるフランを遡ってみてもそんな狂気的な場面は思い出せそうにない。

 

「クランベリー…トラップ」

 

詠唱に気が付いて部屋を見回した蒼月の視界に飛び込んできたのは

円の中にペンタグラムの描かれた典型的な真っ白な魔方陣。

 

それがある陣は目にもとまらぬ速さで、またある陣は時計の針のように進退を繰り返し、

破壊された部屋の周りを周回している。

魔方陣は同じ向きに回っている訳ではなく、例えれば戦術の奇門遁甲の陣のように向きが交互になっている。

 

「(…一気に包囲して殲滅…畜生忠実に教えた事守って殺しに来てんな)」

 

そして部屋の中心付近で浮遊していたフランが目を細めると同時に部屋全体が赤と青のフラッシュに包まれた。

回っていた魔方陣から一斉に赤と青の光弾が機関銃もかくやという速度で連射されたのだ。

 

先刻向けられた魔法と違って今度の技には死角が存在していない。

ばら撒かれているからと言って威力が下がっているかと言ったらそんな訳は微塵もなく

むしろ光弾同士が共鳴し合って輝きを増している。

 

そして選択を迫られている間に蒼月に向けられて発射されていない、いわばただの弾幕が

壁面にぶつかり、はじけ、そしてその面を溶かした。

 

「(…熱量で再生不可のレベルまで蒸発させるつもりか!)」

 

そもそもガゼルが体中に魔力を全速力で循環をさせているのは周囲の冷気、熱から体を保護すると同時に

元々の再生速度を上昇させる目的もあったのだ、

足の凍傷のようにあまりに重度の傷は再生できないが、掠った際の火傷程度であれば人間の再生速度を加速させただけでも治療は可能。

故に蒼月はそれを悟られないようにフランに対して動いていたのだが、さすがに長時間も様子が変わらない所を

見られて看破されたらしい。

 

そのまま膨大な熱量を持つ大量の光で再生不可能なレベルまで、いわば消滅させようとフランは考えているのだ。

先程のスターボウブレイクはフランの意思で向きが変わるほどに彼女自身の魔力が込められていたがこちらは

単純な力押し。

 

であるならば今の蒼月でも逃走せずとも対処は可能、というより逃走が不可能なように今も射角が修正されていっている。

幾千もの光熱の塊に個々に冷気をぶつけ続けていてもキリがない。

しかしかといって濃度を薄めて範囲を広くした魔術をぶつけて壊れるほどにやわでもないだろう。

 

「みんな…みんなこわれてなにもいわなくなっちゃえばいいんだよ!」

「それなのに…なんであの子はこんな世界を味方するの?」

 

何かが、聞こえた。

 

術式展開前に一度鋭く呼気を漏らし、深呼吸をするように息を大きく吸い込む。

それと同時に氷剣を目の前の何もない空間で、素振りをするように振り抜く。

振り抜かれた際に発生した冷気の霧はやがてカーテンのように地面に下りた。

 

ふわりと床へ下りた霜はその瞬間まるで獣が牙を剥くかのように一瞬で部屋を絶対零度の世界へと変貌させた。

最早吐き出す息が白くなるレベルではない。

魔力を目元まで集めていなければ完全に眼の表面が凍り付いて何も見えなくなっていただろう。

 

「………何故、何故お前は…世界を憎んでいるんだ」

「憎んでなんかいないよ。むしろ…逆なんだもの」

 

「…逆?」

 

「なんであの子の方じゃない私がこんな事を言っているのかはお兄様もどこかで分かっていたんじゃない?」

 

……心当たりはないわけじゃない。というより考えられる理由がソレしか考え付かなかった。

恐らく俺がフラン達の前からいなくなった後の期間に何かあったのかもしれないが大本は

ほぼほぼ間違いなく「あの時」だろう。

 

蒼月の記憶の中でも三指に入るであろう嫌な記憶だ。

あれから百年はとうに経っているがそれでも今なお鮮明にあの光景が脳裏に浮かび上がる。

 

そしてその光景が頭に浮かぶ前よりも一瞬早く現実に引き戻された。

きっかけは小さな破砕音。ガラスの食器にひびが入った時のような僅かな音。

それが部屋のどこかから鳴ったかと思えばそれに続くように先程より激しい破砕音が

部屋中から鳴り響いた。

使い古された電球が音を立てて割れるようにフランの作り出した術式の光弾が

元の温度より急激に冷やされたせいで構築された術式自体が耐えきれなくなったのだ。

 

先程まで光り輝き高速回転していた魔方陣達が徐々に勢いを失くしていく。

それらは最後には力なく墜落すると同時に打ち上げ花火のようにフランの頬辺りまでその存在した

証である光の残滓を舞わせた。

 

「……あーあ、防がれちゃった」

 

「そりゃあお兄様だからな、妹に負けたら面目丸つぶれになる」

 

炎剣をもう一度だらりと腕を垂らすように「構えた」フランが部屋の上部から降下してくる。

だが、フランの動きが最初の時よりも鈍ってきているのを蒼月は見逃さなかった。

 

「それに…体は随分と厳しいようだけど?」

 

そもそも吸血鬼という種族は極寒の地や灼熱の大地に生息しているわけではない。

基本的には他の生物が存在している、即ち環境がそこまで崩れていない場所に住んでいることが多い。

故に人外である以上ある程度までなら人間よりも異常環境を耐え抜くことが可能だが所詮はそこまでなのだ。

 

先程氷剣を素手で受け止めた時に見せた狂気の笑みは最早表面だけにしか見えない。

微弱ではあるが曝された素足が震えている。

 

「………お兄様は寒くないの?」

「これぐらいじゃ寒いとは感じんわ、痛いけど」

 

実際おそらく凍傷であろう足が痛いだけで特に寒いとは感じていない。

かつてのあの頃に比べれば遥かにマシだ。

 

頭部より上で競り合っていた炎剣をバネのように力を込めていた右手で押し切る。

断続的にではなく瞬間的に力を加えられ、さらに先程の理由でフランは咄嗟に反応できなかったようだった。

 

そのままフランは何とか体制を立て直し距離を取ろうとするものの―

フランとの一定距離を蒼月が追随し続けた。

 

「えうぅっ……!」

「こっちはまだまだ動けるぞ…!」

 

床を滑るように距離を一気に詰めた蒼月の取る行動は一つ。

冷気によって最初よりも遅くなったフランへの反撃である。

 

右手の氷剣を叩き付け割る様に横に倒され防御の姿勢になっているフランの炎剣に振り下ろす。

一瞬氷が欠けてしまうのではと危惧したがそんなことはなくそのまま第二撃、第三撃へと繋げていく。

 

目に映り残る斬撃がXに交差するように左右から斬り入れ、斬り払う。

先程まで受けなかった一方的な連続攻撃にフランの手首の力が思わず抜けた。

その一瞬を見逃さず蒼月の氷剣が右下から襲来、凄まじい速度で天へと切り上げられる。

 

既に唯支えているだけであったフランの手から握られていた炎剣が離れ、宙を舞った。

そして主からの魔力の供給が無くなった炎剣にはまるで集るように冷気が集合し、炎を封じ込める。

冷気は炎を封じるに留まらず芯の刀身までにも及び

その姿を保てなくなった剣は空間へと溶け合うようになって消えた。

 

己の分身ともいえる量の魔力を込めた炎剣を破壊された。

この事実はフランの精神に少なくないダメージを与えた。

さらには自身でも分かっている部位の欠損。

 

はたから見れば、フランの勝機はほぼほぼ潰えたと思うだろう。

 

だが、蒼月の心の中にそのような余裕は一切存在しなかった。

 

何故ならまだ彼はフランの能力を見ていないから。

燃え盛る剣も、地を這う魔法弾も、全て彼自身が昔に教えた技術群の一範囲にすぎない。

故に蒼月は自分が教えた記憶のない技を見ようと行動していたものの―見えなかったのだ。

 

―追い詰められた獲物は何をしでかすか分からない―

 

フランはそのまま空中で俯いていた。

誘っているのか…それとも本当に戦意喪失しているのか…

それを判断する術は、ない。

 

「(今はフランに直接的に攻撃を加えるわけにはいかない…抵抗する得物のなくなった今が凍結する好機…だな)」

 

その結論に達するや蒼月の持った剣がみるみるうちに細くなっていき、それと同時に碧色の光が

剣の細さと反比例するように煌々と輝きを増していく。

 

「悪いが…しばらく止まってもらうぞ…!」

 

剣を水平に構え、そのまま飛翔、突進。

俗にいう刺突の姿勢のまま蒼月の体は宙を疾る。

 

剣が自身に迫ってきているというのにフランは微動だにしない。

視線を剣に向けようともしない。

 

‘これは敗北を前にした者の行動ではない,

 

一瞬思考が眼前よりぶれたがそれを訳に剣を逸らす蒼月ではない。

警戒を緩めることは戦いではやってはいけないことの一つだ。

だがそれと同時に倒せる筈の相手を逃がすのも同程度にやってはならない事だ。

 

故に―蒼月でさえも結末は見えていなかった。

 

両者の距離は見る間に縮んでいき激突する―はずだった。

 

剣の先がフランの肌ぎりぎりで止まりそこから剣の光である極密度の冷気を放出し、鎮静化させる―

もはやその光景が幻視できたかもしれなかった。

 

だが現実を教えてくれたのは光を纏い目の前にいたはずの相棒の消失だった。

 

「…は?」

 

音もなかった。

より正確に言えば碧い光を纏っていた刃の部分だけがまるで最初からなかったかのようにごっそり消えているのだ。

握っていた柄と特に飾りのなかった鍔だけが存在を留めている。

 

「能力があるかもって危惧は正しかったけど能力自体を見誤ったね?お兄様」

 

目の前にあったのは…笑みも浮かべていない無機質な顔をしたフランだった。

 

次に返された返答は―強烈な腹部への衝撃だった。

 

「おっ…ごぁ…が…!?」

 

体がくの字に曲がる間もなく視界が急に遠ざかった。

世界が眼前から離れていく。

 

腹部の次に襲ってきたのは背部の痛烈な悲鳴。

最早体に魔力を循環させてダメージを減らせる域の一撃ではない。

元は違うとはいえ吸血鬼が本気の殺意を籠めた拳を布一枚挟んだだけの人間の腹に受けたのだ。

胃の中の内容物を吐き出さずに意識を保っただけでも魔力を込めた甲斐があったものだろう。

 

防護していなかったら衝撃を吸収しきれずに内臓がぼろぼろだった筈だ。

 

「何の能力って踏んだのかは分からないけど…私の能力の前だとどんな捕縛系魔術も意味を成さないよ?だって…」

 

「私の能力は『ありとあらゆる物を破壊する程度の能力』だもの」

 

…予想していなかったわけではなかった。

大方フランの発現、保持しているであろう能力は過去からの因果から『何かを壊す系の能力』だという事は

予想がついていた。

 

だがまさか自身が渾身を込めて作り上げた氷剣を破壊されるとは思っていなかったのだ。

それも一切の滞りのなく。

 

「あの子が私を使ったらこんな威力は出ないと思うよ?私自身がのこの力を使役すればこんなもんだけど」

 

「フランがお前を使う…という事はお前は…あの子の能力なのか?」

 

呼吸を整えながら問いかける蒼月にフランは先程まではなかった微笑みを浮かべて返答に応じた。

 

「そうだね。私はあの子の中の能力…より正確に表せばあの時の忌まわしい記憶の具現化でもある」

 

「……それが俺を殺そうとする理由か?」

 

「そうだね。あの子はもうあんな悲劇が起こってほしくないと願い、憎悪を抱いた。それがワタシ」

「でもその気持ちはほんの一部。大方のあの子の中の意思はこの記憶を忘却してしまうことだった」

 

「…記憶が消えたらお前は消える。だから…乗っ取ったわけか」

 

…合点がいった。

 

「私の中の価値観は「好きなら壊す」。誰かに壊されるぐらいならってね」

 

「…だが」

 

「でもこの価値観が他人からみて濁り切っているのは分かってる」

「だからこそこの価値観をワタシの中で正当化する為にこうしてる…」

 

「お兄様に愛する者を壊すワタシを妹として見ることができて?」

 

口を開く前にフランが左手を突き出して、開く。

 

「返答なんか分かり切ってるからいいよ。だからそんなお兄様には…直に私の能力をプレゼントしてあげる」

 

開かれていた左手が—ぐっと握りしめられた。

 

 

 

 

 

何かが、割れる、音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人の少年が部屋の前に立ち尽くしていた。

声をかけても返答はなく、鍵も掛かったまま。

だが、事故死するようなヤワな奴ではないことは昔から重々承知している。

 

そこで少年は郵便受けの中を覗き込んだ。

 

「雪村の奴…どこ行ったんだ?まだ貸した本読み終わってないのか…?

ん…なんだこの封筒…紫色?」

 

 

 




能力の独立化ってどこかの文豪系小説にありましたけれど
それを見る前からこの計画を考えていたんです本当です許してください。


次回はどちらも終盤に持っていきます。


でも、第一章のタイトルをまだ回収してないので事件は終わっても
もうちょっとだけ続きます。


もっと思うように文章を書けるようになりたいなぁ…
あと戦闘中の脳内bgmは題名の曲です
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