でも書きあがったのは日付が変わる一時間前だからいいよね?
…ダメ?
あ、本編どーぞ
※
「(あぁ…ついに…!ついに我ら一族の悲願が…!)」
勝った。
もはや勝利は揺るがない。
レミリアとフランを一つの存在とし、最狂の破壊能力と未来を見通せる力を持つ究極の悪魔を生み出しそれを自身の能力で取り込む。
そして悪魔の夜を大成するのがヘイグの野望であった。
前に垂れた白髪の間から見る光景はまさに過去からずっと夢見てきた理想。
その心地故に彼の体は小刻みに震えているようにも見えた。
頭の中はすでに燃えているかのように白熱のスパークを散らし、瞳は不規則に収縮を繰り返す。
レミリアが自身の目を盗んで会っていたというガゼルとかいう輩。
あいつも一切の前触れなくレミリアをかどわかされた以上動くことはないだろう。
随分とレミリアの事を買いかぶっていたらしいが所詮は子供
ちと夢を見すぎた若輩だろう。
それに今更この館に来たところで入り口を見つけられるはずがない。
探し回った後地下の祭祀場に来る頃には既に儀式は終わっている。
堪えなければ高笑いが口の隙間から漏れ出ていただろう。
既に喜びに体は打ち震えて表現ではなく本当に震えていた。
――だがその時ヘイグは気づていなかったのだ。
―その挙動一つ一つがすでにこの部屋を捉えた者の理性を逆撫でしている事を。
恐ろしいほどに館の中は静まり返っていた。
今より数刻前惨劇が起こり、世界の平衡が変わりかねない式が終わりを迎えるとは
にわかに見た者からすればとても信じられないであろう静寂であった。
それ故にその静寂の中を疾りぬける一陣の風がいることに油断した彼は気づけなかった。
レミリアの理性が溶けかけ、靄がかってきた時にそれは存在を周囲に察知させた。
ほんの少し。
音すら鳴らないであろうごくごくわずかな館の軋み。
「それ」は一瞬でヘイグの思考を理想から現実へと引き戻した。
「……………何?」
今この館の中にいるのは自分達だけ。
そして儀式が地下で執り行われている中、館を軋ませるものはいるはずがなかった。
風で動いた?いやそんなやわな構造ではない。
では鼠が?腐臭に驚いて逃げ出すのが関の山だ。
それ以前に主である私が気付かないはずがない。
ヘイグが今以上に思考速度を加速させようとした瞬間に彼の耳ははっきりと捉えてしまった。
まるで鎌を振るうかのような鋭い風切り音を。
巨剣が振るわれたかのような太い唸りを。
『…何かがこちらに向かってきている―間違いなく我々の実情を知ったナニかが』
迫りくるものからは魔力も何も感じ取れないが最早それは思考の材料にはなり得ない。
地上の異臭を一切気にせずこの地下に向かって直線的に向かってきてる時点で間違いなく一般人ではない。
脳内でそこまでの結論を瞬時に導き出したその時。
微かだった風切り音は布のような物をはためかせる音へとはっきり変わった。
幾重にも反響して聞こえてくるはためき音は翼で羽ばたいている音にも聞こえる。
そして唯一の入り口である木製の大扉に目を向けた瞬間。
音までもが置いていかれる速度で大扉が凄まじい力で弾け飛ぶ。
まるで内側から爆破されたかのような衝撃であった。
そして強引に開放された入り口から「真っ白な何か」が祭祀場内部に飛翔してきた。
全身から漏れ出る燐光を一本の尾のような形にし槍のように突っ込んできた「真っ白い何か」は場内の空気を混ぜるような勢いで構えを変え、
身に纏う純白のコートを同規模の翼のように揺らめかしつつ
振り上げた右腕から漏れ―いや溢れ出る燐光が雷光の形を取るや否や
その紫電を纏い握りこまれた右拳をあらん限りの激情を込めて館の主の顔面に向かって叩きつけた。
「―――――え?」
叩きつけられた拳からは音は出なかった。
そのような呆けた声を出す間もなくヘイグは叩きつけられた力の通り背後に吹き飛んだ。
体が吹き飛ぶと同時に今まで無音だった世界に置いて行かれていた音が追いついてくる。
「――――――――ごっっふぁ」
絞りだしたかのような声に重なって館を揺らす轟音と吹き飛んだ壁が奏でる細やかな音が一撃の威力を物語った。
噛み締めた口の喉の奥から内容物と血の混じり合った匂いが昇ってくる。
何が起きたのか全く理解できていなかった。
音が自身の感覚に触れた後に強烈な痛みが腹部から脳内に通達される。
そして痛みはたちまち危機感へと変換された。
「な―にが―おこっ―」
完全に勝ったと思っていた場面からの突然の衝撃は思案能力に大きな遅延を生み出した。
主を殴り飛ばしたままの姿勢で着地したガゼルは伸ばしていた腕を引き戻すとその銀髪の下の
眼光をヘイグの方へ差し向けた。
「……………………………。」
沈黙は未だ心中で渦巻く感情の表れ。
その曇りなき瞳には一切の良心的感情は存在していない。
全身から周囲を圧すような闘気を漲らせながらどこか包み込むような淡い蒼白い光の粒子を周囲に漂わせ続ける姿には神々しさすら感じられた。
いつの間にか祭祀場の中心付近にいたガゼルが目を閉じ何かを呟くと天井に映っていた紅紫色の魔方陣が雪が舞い散る様に砕け散った。
それを機にレミリアとフランの目の中に光が戻る。
意識が明白になったレミリアがフランを胸に抱き、意識を確認する。
金髪の下には先程まで上気していた表情はなく、無垢な少女の目を閉じた顔だけがあった。
どうやら後遺症もないらしかった。
「………ガゼル?」
恐る恐るといった様子だった。
今まで共に過ごしてきた師がこのような激昂の顔色を見せるのは―今までなかったからだ。
既に彼に理性はなく自分達ですら手にかけるのかもしれない。
そんな危惧が浮かんだ。
だがそんな心配は無用だった。
自分たちをヘイグの視線から切るようにして立ち塞がり、振り向いた彼の目に浮かんでいたのは―
怒りを奥に閉じ込めつつも優しさを何とか上辺に載せようとしている奇妙な目だった。
例えていうのであれば―薄氷の中に殺意を押し込めた…というような。
「…痛みはないか?何か異常は?」
視線を油断なき動きで元の向きに戻した後口元だけでガゼルは後ろに問いを投げた。
こんな状況だからかもしれないがレミリアは胸の中に先程とは違う温かな感情が生まれつつあるのを感じた。
「何も…ない」
「そうか」
「…よかった」
…本当にその言葉を待っていたのであろう。
先程よりも安心の旨の響きが大きくなったように思えた。
「…俺の後ろから出てこないでくれ。巻き込むかもしれない」
それは彼なりの真剣な忠告だったのであろう。
従わない理由もないのでフランを抱えたまま部屋の後方に退く。
「…どこの誰かは知らんが私を抜いて話を進めんでもらいたいが」
壁の奥より立ち上がった人影が声を漏らす。
先程までに比べれば幾分か再生したようだがそれでも悪事を連ね叫んでいたいた時のような張りは見当たらない。
既に着ていた外套はぼろぼろに擦り切れ、中の服も華やかさを捨てた装衣としての役割しか果たしていない。
頭部も再生を試みたのだろうがあまりのダメージ故か眼球が若干大きさの比率が変わってしまっている。
頭蓋骨そのものが変形した事で元の大きさでは収まらなくなってしまったのであろう。
口元の血を拭ったヘイグは徐に右手を虚空に翳し、何もない空間から刀身が真紅の曲剣を顕現させた。
「我々からすればあの程度…外見に支障は出ても動きに大した影響はないのだよ」
「そのみすぼらしい格好で遠吠えをほざかれても説得力は微塵も感じ取れんぞ」
「……ッ…」
最初こそ無表情の仮面が張り付いていたヘイグの口元が三日月のように大きく歪んだ。
如何に初手に一撃をもらったとて館の最高峰に上り詰めた手腕と武力は本物だ。
まるで地面を滑るかのように飛翔しその曲剣を首元に宛がわんとヘイグが攻撃を仕掛けるが―
「(――――!?)」
ガゼルは一切の反応を見せない。
予備動作を見た時からも身を力ませるなどの行動を一切起こさずただただヘイグをめ続けていた。
特に構えを取ることもなく昇り続ける光と共にガゼルは立ち尽くしていた。
そして湾曲した緋色の軌跡が首元に喰らいつかんとしたその時―
世界が純白に包まれた。
そうとしか言い表せられない事象が起こった。
今までは外見以外に影響を及ぼしていなかった光の粒子達が一斉に場内を駆け巡る様に銀世界へと変貌させた。
それぞれの各所に浮遊していった粒子が姿を変え、凍てつく微粒子がその場を支配する氷獄を作り上げた。
それと同時に今まで何もなかったガゼルの背部から突風と間違えるような風圧と共に穢れない一対の翼が姿を現す。
翼を広げると同時に氷獄の中に吹雪が生み出された。
そして首元に接近している得物を一切の躊躇いもなく左腕を壁として止めた。
「んなっ…!」
だが予想していたかのような血飛沫は見えない。
それどころか腕そのものが切り飛ばされていても可笑しくない絵面の中声も漏らさず耐え―――――
いや―そもそも剣そのものが皮膚まで届いていない。
よく見ると極々薄い六花のように区切られた氷晶が鎧の役割を果たしている。
剣は薄氷に亀裂を入れひび割れさせているに留まり、そのまま共に氷結されて固定されていた。
役割だけで見れば鎧ではなく鎖と称すべきだろう。
「………音を忘れる事もできない剣技がよくも相手に届くと思ったものだな」
先程までの神々しい姿とは一転、吹雪に髪を揉まれ翼に霜を飾り付けた姿はもはや冥底より出でた死神にしか見えない。
自身が取り出した武器のせいで相手との密着距離に強制され零度の魔力を受け続けるのはさすがの吸血鬼でも
見栄を張ってはいられないだろう。
「さて二撃目だ。しっかりと受け取れ」
「ひっ……」
―その時ガゼルの眼を覗き込んだ瞬間にヘイグの表情が深い絶望に彩られた
「貴様…その眼は…!」
「…気付くのが随分と遅かったじゃないか賢王?」
ヘイグのいる左腕を上方に持ち上げ、右腕を折りたたみ、自身の後方に引く。
今度は何かしらの属性が付与されている訳ではなかったが、かわりに雷光ではなく純粋に魔力が込められ輝きを増していく。
そのまま下から掬い上げるような軌道の放物線を描きながら神速の拳がヘイグの頸椎に叩き込まれた。
「―――――――――――――――」
悲鳴も、肉を叩く音すら鳴らなかった。
拳が接触した瞬間に時間が止まったのではないかという錯覚すら抱いただろう。
殴られ上に向かって飛ぼうとする力に従って腕に埋め込まれていた曲剣が自由の身になった時既に
ガゼルは次の攻撃態勢に移っていた。
体が若干左倒しになりながら宙に浮いており、先程までは伸びたままの両脚の内右脚だけが何かに吊られているかのように後ろに引いてあった。
「(先程の拳を打った時と今の脚の引き方が…似てる…)」
レミリアが傍目から見て思った。
直後空中に打ち上げられたままのヘイグの鳩尾部分に流星を思わせる速度と光芒を放ちながら右脚が閃いた。
そのまま先程までとは別の壁に蹴りに呼応する速度でヘイグの体は埋め込まれるように激突した。
壁にぶつかった際に明らかに何かが折れる音がした。
特に右腕に至っては肩との接続部分が少し触れば落ちてしまいそうなほどに千切れかかっている。
徐々にではなく一回の攻撃であれだけの損傷を負ってしまえばこの戦闘中には完治は不可能であろう。
そして今まで空気に呑まれていたのかレミリアがはっとした様子でガゼルに視線を向けた。
「ガゼル……その眼はって…どういう…」
「…………」
眼を確かによく見てみると今までとは明らかに変わっていた。
翡翠のようでもあり、碧瑠璃のようにも見え、独特の光沢を持った瞳へと変わっていた。
個人ではなく、幾人かに目の色を問えば答えが分かれるような色だ。
だがそれが一体何故あの絶望の表情へと繋がるのか。
「貴様の……今の貴様の容姿はあの日記に描かれた姿となんら変わらん……!」
肩で息をしながらヘイグが血の混じった唾液を飛ばしながら叫ぶ。
最早たった三回の攻撃で満身創痍なのは明白だった。
「初代様の日記にもお前と同じ格好の人間が載っていた…『銀星』の名で…!」
「…いつの話を今にまで持ってきているんだお前。もう
目を細め返事を返す彼の目に浮かんでいたのは先程までの怒りとは色の違う別の怒りであった。
「お前以前の当主たちはこんな事はしなかっただろう。唯の個人の圧力的な支配なんかよりも他者と互いの一部分を喰らい合って生きる方が利口だと皆気付いていたからだ。
結局はこれしきの事すら気付いていなかったお前がただ一人下層でわめき続けていただけというのが真実だ」
「…そんな愚者が作る悪魔たちの夜なんぞ同胞からも歓迎される訳がない」
…どこかこのガゼルの言葉にはほかの今までの言葉にはない響きが含まれていると思った。
「王なら前だけを見ていればいいものを。同じことをあの爺さんにも言われただろう」
「……………あの馬鹿を引き合いに出すな…!」
恐らく今のヘイグの脳内には自身の意志を爺に徹底的に否定された過去が再生されているのだろう。
賢王と言われ続けてきた男の正体がまさか唯の夢追い人だったとは思いもしなかった。
「いつまでも過去に縋り付いて妄言を吐き続けて彼女たちの意思を剥奪し」
「その上母親までもを身勝手な理由で死に追いやった」
「罪状はもう十分だ。直々に死へと謁見させてやる」
その言葉を機として部屋の中の吹雪が激しさを増した。
あまりの温度に部屋の壁からは霜だけではなく氷柱のようなものまで生成されかけている。
「死だと……対面するのは貴様の方だ…!」
「…ほう?」
そう言い放つとヘイグは千切れかかっていない左腕をガゼルを目掛けて掲げた。
掲げられた左腕には今まで貯めこんでいたのか炎の手錠と同じ、紫色の光が目も眩むほどに集まっていた。
「『残酷なるセディゾルヴがっ!?」
「…え」
「悪いが今の俺はそんな遅い詠唱を許容できる程に理性が固まっていなくてな。黙れよ愚王」
「……ぶご…ご…ぐ…ぁ……」
予想していたような紫炎は射出されなかった。
対象を魂すら残さずに溶解させる禁呪を詠唱していた口は接する面から魔力を吸収し生長する氷剣によって塞がれた。
剣は口を限界以上に占領しながらそのまま一直線に頭蓋の奥にまで貫通し、氷結して不動を保っている。
「ぐ…ご…ぃ……」
「今の気分はどうだ?喉の奥の水分も剣に吸収され喋れなくてさぞかし苦しいだろう」
「だがこの程度では貴様が今までに凄惨に殺してきた分の命には遠く及ばんだろうな」
「………!」
ヘイグの眼が極限の恐怖によって瞼が破れるんじゃないかという程に見開かれた。
これから自身がどうされるのかを懸命に予測する獄囚と同様の濁った涙を流しながら。
一瞬視線がレミリアに向かった。まるで助けを請わんばかりに。
だがその涙と視線すらも一瞬で凍り付いた。
ガゼルが動けなくなっていたヘイグの中央部―構造でいえば心臓がある場所に手を当て凍らせたからだ。
「…まだ意識は残っているだろう。最期に体を捩って痛がらないように表面だけを凍結してやったんだ」
「――――――――――――――――――」
ヘイグの形をした氷像は喋らない。否、喋れない。
氷像から手を離したガゼルが部屋の中の吹き荒れていた吹雪を右手の中に圧縮し、周りの景色が元に戻ったのを確認してから言い放った。
元の様相に戻った場内の中で先程までとはうってかわって何の変哲もない銀髪の少年の容姿というのは大きな違和感を生んでいた。
「…お前は後世超えるものがいないと思えるほどに、記憶することすら拒否したい最低な屑だった。安らかに眠れなんて事は言わん。せめて最後はその不潔な断末魔と体液でこの美しかった館を汚さないように救われないまま死ね」
右手が、場違いなほど柔らかに、心臓部に押し当てられた。
ヘイグは、宣言通り身動ぎ一つ出来なかった。
「――――――――――――――――――!」
右手の中の荒れ狂う吹雪の塊とも言える透明な氷球が、ヘイグ心臓部に一切の抵抗なく滑り込んでいった。
ぴしっと、硝子細工にひびが入ったかのような音が耳に届いた瞬間。
それを遥かに上回る人一人分の大きさの硝子象が破裂したかのような、悲鳴のように甲高い破砕音が館中に響き渡った。
……………静寂
…これにて過去編の戦闘は終了です。
次話は戦後処理と現在編での決着です。
でわでわ