目を開けると、白を基調とした病室と思わしき部屋に寝かされていた。消毒液のアルコールの匂いが鼻を刺激し、身体中から痛みを訴えてくる怪我がこれが夢でないことを語っている。
周囲を見渡すと美遊と桜が規則正しい寝息をたてて寝ていた。その事実に安堵しながら改めて気が付く。
窓からは都市の夜景と共に海が望めるのだ。それは俺が居た季節が反転し、まるで氷河期みたいに陸地が増えたあの世界の冬木では絶対に有り得ない光景だった。
壁に掛かったデジタル時計に記されていた日付は前世と同じ四季と暦は一致している事、そして西暦があの世界と違っているのを見て俺はここが異世界だと確信する。
まぁ、俺が前世持ちじゃなかったらぶっちゃけ信じてないんだがな。
「それにしても……なんで病院にいるんだ?」
ふと、疑問に思った事が口からこぼれ落ちる。この部屋が一般的な病院だと言うのは分かる。
だけど一体どこの誰が傷だらけだった俺とドレスアップされた美遊と桜を保護してくれたのだろうか?
見た目からして厄介事の塊みたいな俺たちを助けるメリットなんて無いはずなんだが……。
ちなみにあの似非神父が俺を助けた理由はあいつにメリットが有ったからだ。
ならば、俺たちを助けるメリットは何かと考えると答えは簡単だった。
俺たちの魔術的な特性は魔術師ならば喉から手が出る程珍しいものだ。
俺は英霊エミヤから受け継いだ起源と魔術属性『剣』、起源と属性『剣』の影響で愚直なまでに『剣』に特化し宝具さえも貯蔵する固有結界、そして半ば近い未来に至ったかもしれない己自身である英霊エミヤに置換されたこの身体。
美遊は神稚児信仰を元にした『聖杯』の力。
桜も限定的ながら聖杯としての能力と魔術属性『虚数』。
これはあの似非神父こと言峰綺礼から聞いたことだ。
仮にそれらが看破されているとしたら、そしてここが魔術師の息の掛かった施設だった場合、俺が二人を守らねばならない。
「この身体で何処までやれるか分からないけど……いざとなったらやるしかないか……」
そう決意してしばらくの間、警戒をしているとこの部屋に向かって複数の足音が近付いてくる。
俺はいつでも投影が出来るように魔術回路を起動して身構える。
「っ!?」
「初見で即座に反応するか……。余程の修羅場を潜り抜けたようだな」
が、その瞬間近付いて来た気配が消え息なり人影……ゴスロリのファッションがよく似合う美遊よりも幾ばくか年上に見える少女が病室の窓の前に現れる。
その現象には覚えがあった。
エインズワースの空間を置換魔術する擬似的な転移、クラスカード『
どちらをとっても目の前に居る少女は簡単には勝てそうにない存在だった。
それに通路に居る連中が乱入してきたらそれこそツミだ。
カードが手元にない現状、無理を押してでも生身で戦う事はリスクが高過ぎる。
だから、俺は目の前の少女に話し掛ける。此方に害意が有るか無いか見定めるためにも。
「まぁ……似たような奴等と敵対してたんでね。
で、あんたは俺達をどうするつもりだ?解答によっては容赦はしない」
「まぁ待て。そう殺気立つな、少年。私は
まずは私たちは君達をどうこうするつもりはないと言うことを先に言っておこう。
対価を払うなら生活も援助も出来る。
私がここに来たのはどうしてお前たちがあの場所に転送されたかのかその経緯が知りたい一点だけだ」
俺は切嗣から教わった相手のちょっとした表情の変化、身体の仕草を観察し嘘を付いていないか見分ける技術を用いて南宮那月と言う少女が嘘を付いていないと判断する。
もっとも相手側も意図的にそう言った行動を制御出来るやつらも居るからそう言う手練れには通用しないのだけれどもな。
「そうか……。なら良いんだ……俺は衛宮士郎。
特殊な魔術師とでも思ってくれればいい。えっと……どう説明したらいいか解らないけど俺が解る範囲で良いなら話すよ……」
そこから俺は日が暮れそうになる寸前まで俺と二人が置かれていた状況やこの場所に来た経緯、聖杯戦争の事を語った。
推測だが、俺達が異世界からやって来た存在の可能性が高いことも話しておく。
そして、話していて驚いたのは彼女が既に成人していた事だ。
「聖杯戦争……にわかには信じれん。
万能の願望器を起動するため英雄の力を宿し、殺し合う儀式……か……。
極めつけはその聖杯とやらが実行した次元跳躍……。この世界に存在しない魔術理論からなる魔術礼装、物的証拠が揃いすぎている。確かに全てを話すのは不味いな。確実に狙われる」
彼女は腕を組み、額に手を当てる仕草をする。そして、暫くすると自己完結したかの様にウンウンと首を縦に頷いた。その後、急に話を切り替えてくる。
「で?衛宮。お前はこれからどうする? 現金は勿論の事で、出生証明書もなければ戸籍もない。 そんなお前たちがどうやって生きていくんだ?」
「それは……」
思わず彼女の問いかけに答えようとしたが言葉が詰まる。考えても見なかった。
俺が衛宮士郎になった時とは違う。俺はあの世界に元々存在したこの身体に憑依する形で転生した。
だが、今は違うんだ。俺達は元々この世界に存在していなかった。それがそう言う意味かハッキリと理解できた。
「その様子だと……どうやらなにも考えていなかった様だな」
「……」
俺は無言でうなずき肯定する。
呆れ顔で『こいつバカだな』って感じの感情を込めた視線が俺に突き刺さり非常に辛いのだが……。
「……まぁ、そこの部分は何とかしよう。 お前は利用価値が高そうだしな」
「……すみません。俺でよければ力になります」
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夏宮那月女史と契約を交わしたあの日から一ヶ月が過ぎた日、俺は美遊と桜よりも早くに病院を退院することとなった。
どうやら、二人の身体は俺以上に疲労やダメージが貯まっていたらしくしばらくは絶対安静と言う診察が下された。
俺? 英霊エミヤに置換された身体だが不思議なことに魔術を使っても負荷こそ有れど病状が現状から進行しない。
恐らくだが……この世界が元居た世界と完全に切り離された異世界だからかもしれない。
更にはカードで
俺の症状は英霊の座に記録されていた守護者エミヤに置換されていく事によって起こっていた。
だから、置換するべき対象も居ないとなると何も起きないのかもしれないな。
ま、結局は想像の範疇でしかないから正確な事なんてなにも解らないのだ。
よって、無事傷も癒えた今病院に入院する必要が無くなってしまったのでこうして退院することに。
そして、そんな俺を見送りに美遊と桜が車椅子に乗りながらも病院の正面玄関まで付き添って来る……のだが、俺は二人から色々と念を押されていた。
「士郎さん、あんまり無理しないでくださいね……。士郎さんは直ぐに厄介事に首を突っ込みますから……」
「お兄ちゃん、絶対にお見舞いに来てね……もう、離れ離れなんて嫌だから」
あの聖杯戦争の反動か美遊はブラコンが加速し、桜はやたらと俺が無茶をしないか凄く心配してくるようになった。
しょうがないと言えばしょうがないが少しやりずらいのもたしかだ。もしかしたら二人の心の傷は思った以上に深いのかもしれない。
まぁ、こればっかりは時間が解決してくれることを願うしかない。
「分かってるよ。
もうあの時みたいな無茶はしないからな。まぁ……あれだ。美遊も桜も早く治して一緒に暮らそう。二人は俺の心配よりも身体を治すことに専念してくれれば俺は嬉しいな」
「まったく……士郎さんにそう言われたら何も言い返せないじゃないですか……」
「うん、分かった……」
二人の頭を撫でながら本心を語る。その後、二人は看護師さんに病室に連れていかれる。
「さてと……行きますか……」
その後、俺は夏宮女史に手渡された地図を片手に集合場所で夏宮女史の勤務先である彩海学園へ向かう。
本来なら案内してくれるとの事だったが夏休みの補習の準備で忙しいらしく案内は無理だったらしい。
「しかし……この場所が人工的に造られた島だなんてにわかには信じれない……」
俺達が転送されたこの場所は
「しかも管理維持に魔術が利用されているとなるといよいよ異世界染みてるよなぁ」
更には元の世界では魔術……もとい神秘の技術は秘匿するものであったのに対してこの世界は洋上に浮かぶギガフロートを固定するために科学と併用して魔術をも利用されている。
あと、魔族と呼ばれる人外や魔物と呼ばれている幻想種も普通に存在している。
ぶっちゃけた話、元居た世界の平均的な魔術師なら泡を吹いて卒倒していた筈だ。
そして、あまり関係ないのだが……夏宮女史曰くこの世界でも俺の魔術は異端だって言うのだから笑い物ではあるな。
「まぁ、この世界で俺が全力で戦う事は余程の事が無い限りは無いんだからうだうだ考えてもしょうがないか……しかし……暑いな、ここは」
東京の南方海上330キロメートルと言う立地は伊達ではなくどちらかと言うと熱帯に近い気候と言うこともあり……紡神島は暑い。
そんな中、外を歩いていると気候が狂い季節が反転した世界の出身としてはかなりキツい。
そして、たまたま見付けたショッピングモールで一旦休憩することにした。
「ふぅ……やっぱり空調って素晴らしいな」
そんな事をぼやきな、ベンチに腰かけ一息つく。病院で貰ったタオルで汗を拭おうとする。
その直後、ショッピングモール内にけたたましい警報が鳴り響き、それを聞いた客が一目散に逃げ始める。
警報と共に流れるアナウンスの内容から夏宮女史から聞いたこの島の常識の1つを思い出す。
魔族はこの島で生活するためには特別市民登録証が必要で人に害がある規模の魔力を使用すると現状のように待避警報が発令されるらしい。
「……っ。クソッタレ……!!」
辺りを見回すと銀の槍を持った少女に魔力の塊で構成された魔獣が突っ込む状況だったのだ。
とっさに身体が動き出し、ごく自然の動作で身体強化を施す。
それと同時に
「……え?」
少女が俺を驚きの表情で見ている。
元々オリジナルの干将・莫耶は対怪異専用の宝具で怪異に対して凄まじい性能を誇るので、その
あぁ、やっちまったな。と心のなかでぼやいてしまう。
厄介事に首を突っ込まないと桜と約束していたのにも関わらず、こうして首を突っ込んだ現状に思わず苦笑の笑みを浮かべてしまったのは悪くない筈だ。
「大丈夫か?」
そして、俺は改めて呆然としている槍を持った少女に声を掛けるのだった。