美少女てんこー   作:倉木学人

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こんな能力があればいいのになあ、ぐらいの気持ちで描いてます。


【本編】狐狗狸さんの降臨
NO.1 狐娘、ハンターを目指す


『まもなく、キング・クルス駅に着きます。ハンター試験にお越しの方は、当駅で御乗り換えです』

 

 電車の放送が車内に流れる。

 その車両で放送を聞いていたのは、筋骨隆々の大男と杖をつく老紳士。

 そして、狐耳と尻尾を生やした少女だ。

 

「へへ。お嬢ちゃん。お嬢ちゃんもハンター試験を受けに来たのかい?」

 

 大男は少女に軽薄な笑みを浮かべる。

 そして、視線が少女を舐めまわす。

 

「そうだが」

 

 視線に気分を害することもなく、少女は答える。

 声は良く通るが抑揚が無く、やる気が感じられない。

 

「ヒヒ。やめときな。ハンター試験は、お嬢ちゃんみたいなのが来るところじゃねえ」

 

 男は、改めて目の前の少女の恰好を見る。

 少女はさらりとした黒髪で、白く質素な着流しを着ている。

 着流しは少し短く、綺麗な太ももがまぶしく見える。

 男からしては、どう見てもふざけているようにしか見えない。

 

「そうかもしれんな」

 

 少女はそれを否定しない。

 顔色は変化しなかったが、代わりに頭の狐耳がひょこっと動いた。

 

「だが、お嬢ちゃんも運が良いぜ。このタラオウ様と一緒の電車に乗り合わせたんだからな」

「そうか」

「どうだ? 俺と一緒に来ねえか? 俺と一緒なら、ハンター試験なんて楽勝だぜ?」

 

 少女は奇妙な恰好をしているが、普通に上玉である。

 大男は目の前の女を自分のモノとしたいという感情を隠そうとしない。

 

「その自信はどこから来ているのだ?」

「おう。聞いて驚け。俺はミスミの街一番の怪力男なんだぜ?」

 

 少女は大男をまじまじと観察する。

 おそらく、その恵まれた体格で自分の欲しい物を手に入れてきたのだろう。

 しばらくそのまま見つめていたが、やがて興味を失いそっぽを向いた。

 

「そうか。それは頼もしいな」

 

 そっけない反応に、大男は大きく舌打ちをした。

 

 やがて景色は流れ、古風ながらも現代の街並みが現れる。

 大きなビルこそないが、主要と思われる建物がいくつも並ぶさまは大都会。

 

 電車はゆっくりと速度を落としていき、やがて停止した。

 

『キング・クルス駅―。キング・クルス駅です』

 

 大男は車両の停止と共に立ち上がった。

 しかし、少女と老紳士は座ったままだ。

 

「おい、お嬢ちゃん。聞いていなかったのか? ハンター試験に向かうにはここで乗り換えだぜ」

「どうやら。私たちはここでお別れらしい。私のことは気にしないでくれ」

 

 大男は少しの間、少女を見つめていた。

 しかし、ここに居続ける意味はない。

 外へと向けて歩き出した。

 

「チッ。せっかく人が親切で言ってやってるってのによ」

 

 電車の扉は閉まり、次の目的地へと向かいだす。

 

 そうして、電車はいくつかの駅に停車する。

 時に老紳士は立ち上がり、電車を乗り換えることもあった。

 そうすると、少女はそれに従うようについていく。

 

 そうして、いくつもの景色が流れた時であった。

 

「お主は―」

 

 突如、老紳士が口を開いた。

 落ち着いていて、抑揚がある。

 

「何故、ハンターを目指す?」

 

 少女は、目の前の老人が只者ではないということを見抜いていた。

 一見、か弱い老人に見えるが、その動きは武術を極めたもののそれ。

 重心の動きから、少女はそれを察知したのだ。

 老紳士はハンター試験の前段階における選別を担う、案内人の一人であった。

 

「学費のためだ」

「ほう? 続けよ」

 

 老紳士は話を促し、少し間を置いてから女はそれに応える。

 

「ハンターライセンスがあれば、公共機関の95%が無料で利用できる。それに、ハンター証が最高の身分証明証となる。私はヨルビアンの大学で学びたい」

「何もハンターを目指す必要はなかろう。金なら奨学金だってある。その先は茨の道じゃぞ?」

 

 老紳士が見たところ、少女はジャポンの出身だろうか?

 身なりは変だが、動きにはそれなりの育ちの良さが感じられる。

 

 ヨルビアンの国々は、移民に対してあまり快く思っていはいない。

 とはいえ学びたいものは拒まないし、後ろ盾さえあればそれだけの道を示してくれるだろう。

 そんな中、わざわざハンターという職業を目指す理由を問うていた。

 

「関係ない。どんな道を選んだって、それ相当の苦難があるだけだ」

 

 二人の間に、しばらくの沈黙が流れる。

 

「まあ、よかろう。一応合格じゃ」

 

 少女の狐耳が、へにゃりと垂れた。

 

「クイーン・マリーホテルに予約されている、“ゴードン大学同窓会”を訪ねるが良い。所属を聞かれたならば“理工学部工学科”と答えよ」

 

 少女はこくりと頷く。

 この言葉は、試験参加者とそうでない者を区別するための合言葉。

 

「その選択を後悔するなよ。若者よ」

 

 その言葉を耳にした少女はぴくりと跳ね。

 やがてバツが悪そうに答えたのであった。

 

「ああ。分かっている。分かっているさ」

 

 

 ハンター。

 それはこの世に存在する希少な物を追求する者たちの総称である。

 その中でもプロのハンターは別格で、成るためには参加するだけで万分の一の難度を誇る試験を合格しなければならない。

 試験内容は過酷を極め、毎年大量の死者が出ることでも有名である。

 その分効果は絶大であり、民間の資格ながらあらゆる分野で国際的に通用する資格でもある。

 ハンターはこの世で最も気高い仕事であり、最も儲かる仕事とされる。

 そのため、成ろうとする人は毎年後を絶たず。

 今もまたハンター試験が行われようとしていた。

 

「私が一次試験の試験官。シーハンターのアンダインだ」

 

 今回のハンター試験の受験生は350人程。

 受験生たちはホテルの大広間から、ホテルのすぐそばにある海岸へと移動していた。

 

「今から試験内容を伝える。良く聞いておけ。一次試験は、“ダイビング“だ」

 

 燃えるような赤髪に黒のタンクトップに身を包んだ、ガタイの良い女性がそう告げる。

 顔には細かい傷が刻まれ、眼つきは猫のように鋭い。

 

 指を指した先には荒波が広がっている。

 もう片方の手には無色透明なガラス玉が握られている。

 

「あの海の底に、沈没船がある。そこに、このガラス玉を100個設置しておいた。ガラス玉を私に手渡した者を、全員合格とする。制限時間は日没まで。以上、何か質問は?」

 

 集団の中から手を挙げる者がいて、最前列へと出てくる。

 やや小柄で恰好の良い男だ。

 

「そこにある道具は何だ?」

「ああ。そこにある道具は私からの支給品だ。使いたいなら自由に使っていいぞ」

 

 また、手を挙げるものがいる。

 ニット帽を被った男だ。

 

「一度に持ってくるガラス玉は何個でも構わないな?」

「構わない。ただし、何個持ってこようとも、合格者はそいつ一人のみだ」

 

 最前列に居た、狐耳の少女が手を挙げる。

 

「そのガラス玉は、ただのガラス玉、ですか?」

「ああ。見ての通り、ただのガラス玉だ。くれぐれも壊すなよ? 壊れたものは合格とカウントしない」

 

 今度は、ゴツくて品の無い男だ。

 

「それ以外にルールは?」

「ない。手段は問わない。方法は、好きにすると良い」

 

 そして、ようやく手を挙げるものはいなくなる。

 

「他に質問はあるか? ないなら試験を開始する。始めろ!」

 

 始まりの合図で、受験生の半分が海へと向かった。

 支給された道具を手に取る者もいれば、そのままの恰好のままで海に飛び込む者もいる。

 

 狐耳の少女は、試験開始後も動かなかった方に分類される。

 何もすることなく、試験官のそばで海の方を向いている。

 

「よ。そこの君。見たところルーキーだろ?」

 

 そんな少女に、背後から声を掛ける者がいた。

 振り返ると、四角い鼻の小柄で肉付きの良い男の姿が見える。

 男は気さくで、人の良い笑みのように見える。

 

「名前は?」

「俺はトンパ。10歳の頃から34回も受けている、ハンター試験のベテランさ。君は見ない顔だったからすぐにわかったよ」

 

 トンパ、という言葉に首をかしげたが。

 目の前の男を見つめ、やがて少女は納得したように耳が頷いた。

 

「ああ。成程」

 

 あの“新人潰し”の、という言葉が喉元まで出かけたのは内緒である。

 

「君は腕が立つようだけど。急がないのかい?」

「あー。言っている意味が分からないのだが」

「ははは。ハンター試験でそんな恰好をするのは、余程の大馬鹿者か、本物の実力者だけさ」

 

 偶にいるんだよ。

 マラソン大会みたいに、変な恰好をして参加する奴がさ。

 そして、そういう奴に限ってタフなんだ。

 

 そう苦笑しながらトンパは続ける。

 

「どっちにしろ、君は腕に自信があると見た。それで、ここだけの話なんだが。実は、ハンター試験は一次試験だけでも合格できるんだ」

「ふむ?」

 

 耳がピクリと立つ。

 少女の興味を引いたらしい。

 

「ハンター試験の合否は試験官に委ねられていることは知っているかい?」

「ああ」

「そうか。だから、好感度稼ぎは出来るだけしておいた方が良い。試験官はシーハンターを名乗っているし。同業者の真似だけでも、アピールして損はないよ」

 

 そういった意味では、真っ先に海へ飛び込んだ連中は有望なのだろう。

 優秀な仲間が増えるのは、ハンターとして喜ばしい事でもあろう。

 

「それに、あまり心行きが良くないと、試験官の印象が悪くなる。いくら腕が立つものでも、試験官の印象次第では合格しないこともある。ルーキーなら猶更。やる気を持って行動するべきさ」

「そうか。ありがとう」

 

 そう激励するが、少女は微動だにしない。

 

「えーと。行かないのかい?」

 

 トンパがやや顔をひきつらせて問う。

 

「この服。気に入っているのでな。汚したくない」

 

 少女は自らの着流しの下の方を持ち、たくし上げるようにした。

 

「そ。そうか」

 

 そういうと、トンパはそそくさとその場を去って行った。

 

 少女が見るに、トンパは海へと向かう気配が無い。

 自分がアドバイスするのに自分がそうしない辺り、つまりはそういうことなのだ。

 

「へっ。ちょろいもんだぜ!」

 

 と、とげとげ頭の好青年が、したり顔で海から出てくる。

 恐らくは、荒波の中からガラス玉を見つけ出したうちの一番乗りなのだろう。

 

 するとその青年の周りに、人が集まりだした。

 背丈のバラバラな小集団の中から、恰好の良い男がしゃしゃり出た。

 

「お。おい。どういうつもりだ」

「おい、兄ちゃん。持っているガラス玉を全部、寄越しな」

 

 青年はぽかんとするが、やがて状況を理解したのか激高する。

 

「ふざける―ぶべっ!」

 

 青年の顔に拳が入り、男たちが袋叩きにする。

 抵抗できなくなるまで殴ると、やがて男たちは青年の服装を探り始めた。

 

「へ。素直に渡せばいいものをよ」

「お。こいつ、いっぱいもってやがる」

「もっと探せ。他にも隠し持っているかもしれん」

 

 それを見かねた一人の筋肉質な男が、試験官の前に飛び出る。

 彼は海に出ず、様子見をしていた集団の一人だ。

 

「し、試験官! こんなのありかよ!」

「何も問題ない」

 

 試験官である女性の目は冷め切っている。

 

「言ったはずだぞ。“手段は問わない”。他人から奪おうと、何も問題はない。それに、その程度の連中をどうにかできない奴に、ハンターは続けられん」

「くそっ。こんなの認められるか! それでもアンタ、シーハンターかよ! 漁師の一人として、お前たちの行為は見過ごせない!」

 

 リンチを見て、悔しそうにする男。

 彼はリンチを止めようとしたかったが、自分もああなるのを恐れていた。

 

「思うだけならどうとでも思え。それとも、お前があいつらの相手をするのか?」

「うっ!」

「本当にハンターになりたいのならば、そこの所をもう一度考え直すと良い。本当にハンターとして必要な物は何か、という事を。な」

 

 茫然と立ち尽くす漁師を名乗った男。

 彼らは失格だな、という雰囲気が辺りを満たす。

 

 どうやら、リンチしていた集団も事を済ましたようだ。

 あらかじめ取り決めでもしていたのだろう。

 それぞれが、平等にガラス玉を持っていた。

 

「良し、全員もったな!」

「ねえ。ボクにもちょうだい♥」

 

 そんな中、一人の奇抜な恰好をした男がその集団に近づいた。

 男は体格が良く、シンプルな道化師の恰好とメイクをしている。

 

「あー? やるわけねえだろバーカ!」

「おうおう。兄ちゃん。俺たちから奪おうなんて―」

 

 そう言うか言わないかの辺りで、トランプの札が男たちに突き刺さった。

 札は男たちの腕や胴体、中には顔に深々と突き刺さっている。

 

「ギャアア!」

「もう。ヒドいじゃないか♠ ボクが丁寧に頼み込んでいるのに」

 

 道化師の男がやれやれと両手を広げた。

 騒ぎを見た周囲の人間が、そこから避けるように広がっていく。

 トランプを深々と突き刺す辺り、この男はどうみても“まとも“ではない。

 

「66番。試験官への攻撃は認められない。次はないぞ」

「ハイハイ♦」

「フン」

 

 試験官はしかめっ面で数枚の札を持っている。

 ついでの感覚で、道化師の男から投げられたらしい。

 

「で♣ 君は“使える”んだ?」

 

 道化師が死体の手からガラス玉を取ると、ある方向へと振り向いた。

 

「ヒソカ=モロウ? だったか?」

 

 そこには狐耳の少女が、構えながらしかめっ面をして立っていた。

 背後の地面には、トランプが突き刺さっている。

 

「おや♦ ボクのことを知っているのかい?」

「有名人だからな」

 

 ヒソカは改めて、少女の方へ向き合う。

 

「キミ、名前は?」

「ルナール」

 

 見たまんまだね♣

 ヒソカはそうコメントした。

 

「ところで♥ ボクの事、どうやって知ったの?」

「確か、天空闘技場の闘士だったな」

 

 天空闘技場は、世界中から様々な腕自慢の集まる格闘技場のことである。

 ルナールは、ヒソカがそこで戦っていたことを記憶している。

 

「え♠ ボク、そこ知らないんだけど」

「あれ? 違ったか? まあ、ネットの情報だからな」

 

 暫くヒソカはルナールを見つめていたが、やがて視線を逸らした。

 ルナールはヒソカを用心深く見ながら、手早く自身もガラス玉を確保した。

 

「よし。66番と109番、合格だ」

 

 二人がガラス玉を試験官に手渡すと、それはあっさりと受託された。

 試験官は不機嫌そうにしていたが、合否の基準は変えるつもりがないらしい。

 

 ルナールは試験官から少し距離を取ると地面に座る。

 そして、地上にある残りのガラス玉を奪い合う参加者たちを、ただ茫然と見つめる。

 

「ハンター試験♣ 思ったより退屈そうだね」

 

 暫くたったであろうか、再びヒソカが近づいてきて傍に座る。

 

「そうか? “使える”奴なら数人いるみたいだが」

 

 ルナールもヒソカも、“念”と呼ばれる超能力の使い手である。

 ヒソカがトランプで男達を殺害したのも、これによるものである。

 

「よくボクの好みが分かったね♥ キミの情報って、本当はネットじゃないのだろう?」

 

 ヒソカが微笑みながら問うと、ルナールは露骨に顔を逸らした。

 

「あー。それは認めるけど」

 

 あー、うー、と唸りながらなんとか言葉を絞り出す。

 素直に認めてしまったことも含めて、これは明らかにルナールの失点だった。

 

「これは、言えない。言っても信じないだろう。それは、そうと。ここはハンター試験だろう。腕っぷしに限れば、何らかの達人の集まりだと思うのだが。それでも、ヒソカの期待に添えないのか?」

 

 ルナールが知るに、ヒソカは戦闘狂であり殺人鬼。

 才能ある者と戦い、殺すことに快感を覚える変態である。

 そういった事情から、彼は自らの獲物を探しているのであろうが。

 

 その獲物は自分以外の念能力者ではないとは思っている。

 彼らは多少“使える”のであろうが、幾分粗削りに見えた。

 試験官はどうだか分からないが、自分よりは使い手に見える。

 

「うん♦ キミぐらいだね」

 

 非能力者の中から、才能ある者を探しているのかと思ったが。

 思いがけない言葉を聞いて、ルナールは思わずヒソカを見つめてしまった。

 

「え。わ、私か?」

「そうだよ♥」

 

 ヒソカはねっとりと視線を送るが、ルナールはそれを拒否することなく慌てふためいている。

 

「そ、そそ。そういってもらえるのは、うれしい? のだが。なんで私のような、女を?」

「だってこの中で、キミが一番美味しそうだもん♠ キミとなら、少しは楽しくヤれそうだ♣」

 

 ルナールは何故か、まんざらでもないようにも見える。

 殺人鬼に眼をつけられているのにも関わらず。

 

「わ、私で“ヤれる”だなんて。私は、そんなに強くないし。能力だって大したことないし」

「キミ♦ 具現化系だろ?」

 

 ヒソカの指摘に、思わずルナールは俯いた。

 ここでの具現化系の意味は、“性格が神経質”の意味である。

 

「あー。まあ、そうだが」

 

 そうした中、ルナールはうじうじとした態度で、何か決心したように話を切り出した。

 

「私の能力。美少女転換(プリンセス・テンコウ)、というのだが」

 

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