美少女てんこー   作:倉木学人

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-《クリフォート・アセンブラ》,遊戯王アーク・ファイブ OCG ザ・シークレット・オブ・エボリューション


EX7. ヨークシン編(ダイジェスト版) 後編

 大学内のカフェで、白髪の小さな子供が生意気にも本片手にコーヒーを飲んでいる。

 勿論、ハカセのことである。

 彼女は暫く学業に専念していて、ハンターとしては特に動いていない。

 

「ん? アケボノか。お久しぶりであったな」

「そうね」

 

 彼女が自身に近づく気配を感じ、顔を上げると。

 そこには弟子の片割れが姿を見せていた。

 

「少し見た目、老けたように見えるが。多分、気のせいではあるまいな?」

「ちょっと、ね」

 

 自分でも可愛さを保つ努力をしておけと、ハカセは愚痴をこぼした。

 師の相変わらずの姿にアケボノは溜息をついた。

 とはいえ、こういう人間であるのは分かり切っているので仕方あるまい。

 

「大分、遅くなったけど。あの時は悪かったわ」

 

 その言葉を前に、ハカセはハテナを浮かべたが。

 少しして理解したように頷いた。

 

「ハンター試験のアレか? 構わないさ。必要であったのだろう?」

 

 そういや暴言を吐かれたな、と軽く思い出す。

 実際、言われた本人はどうでも良さそうである。

 

「今日の授業が終わった後、家に来てもいい?」

「構わないが。大事な話か?」

「別に。そうじゃないけど、いいでしょ?」

「であるか」

 

 一応、二人は子弟関係であり友人関係でもある。

 そうして、ハカセの自宅に向かう。

 

「ホットコーヒーで良いか? 後はアイスティーしかないが、いいかな?」

「お任せするわよ」

 

 出されたコーヒーと菓子を、アケボノは遠慮がちに啜る。

 コーヒーの味は分からないが、まずまずの味だと思う。

 有機コーヒーらしいが、ヒッピーか何かかよとも思う。

 

「あの後から、プリンツを大学で見ないけど。何かあったの? ちゃんと生きてる?」

「プリンツは五体満足で生きてるよ。今はちょっと充電中であるがな」

 

 ハカセと違って、プリンツは大分学校を休んでいるらしい。

 とはいえ、彼女はもう大学にいる意義をあまり感じていないように見える。

 そのうち大学も辞めてしまうのかもしれない。

 それでも彼女自身は何も困らないだろうが。

 

「ニュースになっているかもしれんが。幻影旅団が壊滅したのは知っているか?」

「ええ。テレビで見たわ。ハンター協会がやったって?」

「私はテレビを見ないが、世間でも話題になっているみたいだな」

 

 どうやら、A級凶悪犯罪者集団の壊滅はこの世界でビッグニュースのようだ。

 彼女自身は世界的に有名な盗賊と言われても、あまりピンとこないでいる。

 まあこの世界における、ルパン的な感じだったのだろうが。

 

「実の所、あれの立案はプリンツとクラピカがやっていてな」

「ああ。そういうこと」

 

 アケボノはそこで納得したようだ。

 友人の活躍は、嬉しくはあるが複雑に感じる。

 

「羨ましいわね。上手くいったみたいで」

「ある程度はね。実の所は完全でもない」

「違うの?」

 

 まあ、犯罪者相手に五体満足で帰ってこれたのは良いことであるが。

 そう前付けした上で、ルナールは語る。

 

「ハンター協会とクラピカにとっては、理想的な結果であったのだ。しかし、プリンツにとってはそうではなかったのだ」

 

 彼女だけが損を被ったように聞こえるのだが何があったのだろうか。

 ニュースは調べているとはいえ、アケボノもそこまで詳しくない。

 

「詳しく聞いてもいい?」

「私は相談役であって、現場に関わらなかった故。そこまで実情に詳しくはないぞ」

「アンタを信用はしてるわよ。プリンツには直接聞きにくいし」

 

 ある程度把握はした上で、ハカセも助言をしていたのだろう。

 少なくとも適当なことは言わないのだとも思っている。

 

「どこから話すかな。まず二人は旅団を討伐するにあたって、ゾルディック家に依頼した。そしてさらなる仲間を増やすべく、ハンター協会にも依頼をしたのだ」

 

 アケボノもゾルディック家については分かる。

 自分も一緒に見に来ないかとハカセに誘われたからだ。

 勿論、すぐに断ったが。

 

「でもハンター協会は、よく依頼を受けてくれたわね。新人の言う事なのに」

「正面と裏側から頼んだそうだよ。まず普通に依頼して、それからゾルディック家からも言伝してもらったらしい」

 

 ハンターに向けた正式な依頼としての形を取れば、相手も話は聞いてくれるであろう。

 後は、社会的地位を持つゾルディック家からの干渉があれば十分だった。

 

「結果、パリストンさんは快く引き受けてくれたそうだ」

 

 その人物の名は、アケボノも知っているが。

 しかし、馴染みがある人物ではない。

 主にネットで調べた程度であり、公の情報だけはそれなりに集まる程度の人物である。

 

「パリストンって副会長じゃない。文官だと聞いているけど、旅団を討伐するなら会長(ネテロ)の方じゃないの?」

「必要だったのは協専のハンター達らしいからね」

 

 パリストン・ヒルはハンター協会において“副会長派”と呼ばれる派閥の長である。

 彼は自分に従うハンターを“協専”として抱え、またハンター協会の人員の大多数を握っている。

 彼は協会の発展に貢献している一方で現ネテロ会長と敵対しており、黒い噂が絶えない。

 

「多分強さが必要ではない、ってのは何となく分かるけど。協専のハンターって強いの?」

「ハンターの中では弱い部類だな。それでも一般人よりは強いし、一部には強いのも居るが。勿論、個人の武は重要ではない」

 

 基本的に、協専のハンターは同業者から良い眼で見られてはいない。

 弱い者こそよく群れると言うべきか。

 彼らは星(功績の目安)持ちのハンターと比較して低く見られている。

 とはいえ、その力を馬鹿には決して出来ない。

 

「今回に必要だったのは、信頼性のある集団だからな。旅団を包囲殲滅するには、どうしても使い捨ての歩兵が必要だ。ここら辺は、その他の有象無象では無理だろうし」

 

 彼らの長パリストンは三ツ星ハンター。

 いささか以上に性格に問題ある人物であるが、その実力は本物である。

 そして、彼はネテロが最も苦手とする人物。

 ネテロが武人の最高峰であるのに対し、彼は野心と策略を併せ持つ怪物である。

 

「有象無象って。まさか有志のハンターのこと? 酷い言い草ね」

「実際は見ていないが、好き勝手に群がる癖して不利になれば逃げる連中であろう。彼らが使い物になったのかは知らんよ」

 

 使い捨てだからこそ、信頼できる相手は選ばなければならない。

 有志は言わばボランティアのようなものだ。

 間違いなく仕事意識は低いだろう。

 無料程怖いものはないとも言える。

 

「それでも容易く突破されそうだけど。よく殲滅できたわね」

「実際は殲滅していない」

「壊滅はしたのよね。というと、残党が居るのかしら」

「最初から、殲滅が目的でないからな」

 

 世間において、幻影旅団は壊滅したことになっている。

 実際の所、残党はわざと残しているのだが。

 これは相手と直接交渉したわけではないが、両方の合意を得た結果であった。

 

「何か。意外だわ」

「それは同感だ」

 

 クラピカ達が作戦を立てるにあたって、幾つかのパターンを想像していた。

 今回は驚くほど、かなり良いパターンを引いたと言えた。

 クラピカは間違いなく得をしたと言えよう。

 

「クラピカは、まあ納得できた範囲だと言え。私はクロロが脅しに屈するとは思っていなかった。何か、もっと大胆で。静かに狂っているような男だと想像していたのだが。彼は随分と“賢い“選択をしたものだな」

 

 複雑な性格をしているクラピカであるが、ハカセとしては非常に読みやすいものである。

 クラピカは、幻影旅団が“裁きを受ける”ことを望んでいたのだ。

 だからこそ相手と交渉することを自然と受け入れていた。

 

 一方でクロロだけに関しては、どうしても確信が持てなかった。

 人間としての一種の頂点である彼は、理知的でありながら狂気を孕んでいた。

 彼がこちらの破滅を望みさえすれば、交渉を撥ねつけて最後まで戦ったであろう。

 彼の思考が幻影旅団という組織にも現れており、諸刃の刃となっていた。

 そういう可能性を、もしかしたらと彼女は望んでいたのだ。

 

「残党は把握しているのよね」

「多分している。だが、(クロロ)と旅団の情報担当が全滅している以上。大した価値は残っていないらしい」

 

 とはいえ頭のクロロは死に、組織の足を大きく捥いだのだ。

 それに一応、穏健派と思われるメンバーが次の頭となるよう残してもいる。

 懸念される、過激派が暴走という可能性はあまり高くない。

 そんなことをすれば、本当に蜘蛛は潰えてしまう故。

 

「ふーん。こんなことしたのだから、たいそう恨まれそうね」

「可能性はある。とはいえ如何せん歩ばかりでは将棋は難しかろう。当分は旅団の復興に時間を当てるというのが定石ではないのかな」

 

 確実に大傷は残したのだ。

 盗賊としての姿を取り戻せるのか、落ちた犬は叩かれるのか。

 今後は残った彼ら次第だろう。

 

「旅団が負けた理由って、私は聞いてないけど?」

「それは私が語ることではないよ。そういうのはマスコミのコメンテーターが頼まなくてもやってくれることではないのか?」

「そうした人はいるけども。でも、アンタが語らないで誰が語るってのよ」

 

 当然、アケボノもニュース等は見ている。

 とはいえハンターなので、ある程度情報の精査はするのだ。

 信頼できる人間からの情報を聞きたいところである。

 

「屈したが、彼らは間違っている訳でもない。別に負けたわけでもない。それに、不確定な未来を語るからこそ言葉に価値があると思わんのか」

 

 人は歴史から学ぶという。

 とはいえハカセは、偉そうに説教がしたいわけではないのである。

 落ちた犬を叩く趣味もない。

 

 ただ、その姿勢が学問の徒としてはどうかとも思う。

 

「じゃあ旅団みたいなのが、今までのさぼってきた理由とかならどうなの?」

「まあ、それは多少なりとも建設的であるか」

 

 とはいえ、語りを求められれば応えるのだが。

 

「まず、幻影旅団は非常に強い。団長は世界でも指折りの化け物であったし。その他の者も念能力者として高水準だ。一般戦闘員は、そうだな。殺人鬼レイザーよりちょっと下ぐらいとは見ていたな」

 

 やはり、念能力者の犯罪者というのは非常に厄介なのだ。

 一流のクライムハンターとはいえ、念能力者の討伐は、個人までが限度であることも多い。

 念能力者の犯罪者が集団を組んで活動するというのは非常に稀であるが、その分厄介極まるのだ。

 

「そして、これが一番重要だと思うのだが。何だかんだで幻影旅団の存在は都合が良かったのじゃないかな」

 

 そこで、アケボノが大きく首を傾げた。

 

「都合が良い? 幻影旅団が? 何がよ」

「社会的にだよ」

「犯罪者集団でしょ」

「であるがな。流石にかなり想像が入っているとはいえ、あながち間違いでもないであろう」

 

 強いというのはその分危険である。

 だからこそ、そんな集団が放置されてきた理由が分からなかった。

 

「幻影旅団は、他の集団を牽制する役目があったのではかろうか。例えば、彼らの同業者であったりとかね」

 

 悪をもって悪を制すというべきかね。

 必殺仕事人とはまた違うのであろうが、とハカセは付け加える。

 

「彼らは慈善事業もしていたらしいからね。私がそのことを調べても裏は取れなかったが。となると、裏の中で他の悪を自浄していたのだろうな」

 

 もし彼らの故郷が危機に瀕すれば、彼らの一部が故郷を救ったのかもしれない。

 幻影旅団もそういう所があったのだ。

 

「その辺りを見極めてなかったとは考えにくい。まあ、アレだ。いじめを無くそうとか言いながら、教育システムを変えないのに似ているな」

「微妙にズレている例を挙げないでよ。言いたいことは分かったけども」

 

 今回、多少は世の中が良くはなったのかもしれない。

 しかし結局のところ、幻影旅団がいなくなっても悪は無くならないのだ。

 別の悪が活発になるだけで、第二第三のクラピカが現れるのは想像に難くない。

 

「でも旅団は強い。本当に強かった。それが問題だ」

 

 わざとらしく深刻そうにハカセは頷く。

 

「ねえ。プリンツの失敗って言いにくいの?」

「だろうよ」

 

 若干、不機嫌にもなる。

 ハカセは中立を掲げているとはいえ、プリンツを好いているのだから。

 

「そもそも、これって言っていいのかね?」

「気にはしないとは言うだろうけど。本人に聞いても教えてくれないでしょ」

「うーん。良い思いはせんだろうな」

 

アケボノも友人を叩きたい訳ではない。

とはいえ、知っておきたいとは思っている。

そこら辺はハカセも分かっており、難しいところである。

 

「そもそも、私たちも多少は読み違えていたのだ。であるが。まあ、計画が上手く行き過ぎたってことなのかな」

 

 クラピカ達の計画は上手くいったのだ。

 クラピカもハンター協会も得をした。

 そこに、プリンツは含まれていない。

 

「そういや会長も動いていたらしいわね」

「あと何か、脱会長派というやつらが勝手に死んでたらしいぞ」

 

 そこで少し、アケボノは眉をひそめた。

 

「ああ、そういうことなの? プリンツも馬鹿ね」

「相も変わらずである。プリンツは私のことと言い、変な地雷を踏み抜く事に定評があるな」

 

 プリンツの誤算は、会長であるネテロが動いてしまったことだろう。

 これはゾルディック家がクロロを警戒して、ネテロにも一部委託したことが原因である。

 そしてネテロが動けば、対立しているパリストン本人も本格的に動くのだ。

 

 結果的に、プリンツの目的は達成できなかった。

 討伐に加わったのである程度評価はされたが、本人は不満そうである。

 とはいえ、誰もこれを想定できていなかったので仕方がないが。

 

「何か、アンタ。楽しそうね」

「そうか? ひょっとするとそうなのかもな」

 

 ハカセは自身の頬をムニムニとつねった。

 自分からは分からないが、笑っていたのだろうか。

 

「思ってたのとは違ったが。ヨークシンも、遠くから見ている分には興味深かったな」

「失敗が楽しいの?」

「楽しくはないが。これでも学者志望だからね。私をホビーアニメのやられ役と一緒にされては困るな」

 

 あるはずもない眼鏡をくいっと上げる動作をする。

 それを見て、アケボノは再び溜め息をつく。

 

「ハンターも魔境ね。ハンターになったのはいいけど。私には何をすればいいのかサッパリよ」

 

 アケボノもまだ年齢的にそこいらの大学生である。

 ヨルビアン社会的には大人の部類であるのだが。

 ジャポン人らしく精神はまだ若いのだ。

 

「そこは迷えばよかろう。まあ、同期の者達はあまり参考にならんだろうなあ。良さげなのは、ポックルぐらいか?」

「誰よそれ? でもあの子たちを見た感じ、そうなのでしょうね。私は関わらないで正解だわ」

「ふむ?」

 

 プリンツと違い、アケボノは露骨にゴン達を避けているようだ。

 だが、それはそれで“賢明”であろう。

 

「魅力的な人間と関わるべきではないのよね。同じ魅力的な人間でない限り、搾取されるだけなのでしょ?」

「ハハ。あの子等も、普通にやべーやつらであることは否定できんな」

 

 287期ハンター試験は、まさしく魔境の年であった。

 “休みがちの死神“ヒソカとゾルディック家の子二人の脅威は言うまでもない。

 そして彼らに遭遇するということが、それだけ本人も危険な物を持っているという見方もあるだろう。

 

「とはいえ、会って話ぐらいはしてみるものさ。私にとって、一番の収穫がクラピカというのは予想だにしていなかったが」

 

 ハカセは眼を瞑って大きく息を吸う。

 そして眼を開けると、暗く光る眼がそこにあった。

 

「赤く暗い眼。ちょっと違うけど、噂に聞くクルタ族の?」

「ああ。ある程度、わざと加工して劣化させている」

 

 アケボノも人体コレクタションに興味はないが。

 緋の眼についてハカセから噂ぐらいは聞いている。

 

「貴重な眼を複製って。やってることが何というかアレよね」

「眼の性質も、遺伝子情報でしかない。実際その通りだったわけであるし」

 

 養殖という発想が頭に浮かぶのは気のせいではない。

 多分、本人も真珠を作る感じのノリなのだろう。

 

「てか。クラピカはそれを許したのよね。そもそも複製していいものなの?」

「私もそう思ったのだがね。実の所は本人に託されたものであるのだ」

「へえ?」

 

 クラピカは自分の一族について誇りを持っていたようだ。

 見方によっては自身の物真似は誇りを傷つける行為なのかもしれない。

 とはいえ、どうやらそういう考えは持たなかったようだ。

 

「その点については。-そういえば聞いたか。クラピカは世界中に散らばっている、同胞の眼を集めるつもりであるらしいぞ?」

 

 幻影旅団が襲撃し、隠れ里から奪い取った緋の眼たち。

 それらは闇市へと流され、人体収集家の手へと渡っている。

 クラピカはある人体収集家と繋がりを持ち、今後もそれらと関わるようだ。

 

「何でよ」

「やることがないからであろうなあ。何とも出口無き事である」

 

 やりたいことは分かるのだが。

 それは過去へと向かう行為である。

 それが成功したとしても、そこから何かに繋がることはない。

 

「多少、一緒に過ごしてみて分かったことだが。クラピカは既に死んでいるのだな」

「死んでる? そんなアンタじゃあるまいし」

「形こそ違えど、嘗ての私と一緒さ」

 

 クラピカは仲間を皆殺しにされたことで、心にトラウマを負っている。

 そしてその傷は決して癒えることはないのだろう。

 

「アレには未来がない。そういった意味では私より酷いよ。あの利他的人間が唯一生き残ったというのもそうなのだが。彼はクルタ族に生まれたことが何より不幸なのだよ」

 

 受けた恨みは舎利になるまで消えない。

 ハカセも前世で怨念を背負っており、自力である程度持ち直しているが。

 それでも未だに悩み苦しみ続けているのだ。

 彼女の場合は死んでも治らなかった故、全てを諦めきっている。

 

「優秀じゃないの? クルタ族」

「個人の能力としてはね。総合的には幻影旅団とドッコイドッコイであろう」

 

 確かに、クラピカは緋の眼抜きでも優秀なのだ。

 優れた人格に能力、そして知的な聡明さ。

 そしてそれらは、彼の将来にとって何の意味もない。

 

「どうせアレでしょう。アンタそれを本人の前で言ったのでしょ?」

「よく分かったな。大分傷ついていたみたいだが」

 

 ハカセは当然、これらを当人に指摘している。

 悲しみを耐え、建設的な行動をとるようにと。

 利己的人間も、他人にそれぐらいの気づかいはするのだ。

 

「でも、止まらなかったよ。だからまあ、既に死んでいるわけだ」

 

 理解した上で止まらないのだ。

 もう何を言っても無駄であろう。

 

 そして、この点においてクラピカは何も悪くないとも感じている。

 クルタ族はもう既に終わっているだけなのだ。

 

「迫害され続けた民族って、強そうな響きなのにね」

「ユダヤ人とかは特別なのだ。少数の民族に期待し過ぎることはない。彼らが社会から逃げなかったら。というのは野暮かね?」

 

 クルタ族がどうすればいいかなど、ハカセは既に語っている。

 ただ、この世界で一つの民族が消えるだけなのだ。

 それ以上の価値はない。

 

「嫌いなの? クルタ族」

「うん? それはないぞ」

 

 彼女は滅亡寸前の民族の未来を評しただけなのだ。

 多少の悪意こそあるが、関心は薄い。

 断じて嫌っているのではないと不機嫌に即答した。

 

「私は誰かを嫌いになったことなど、この世に生まれてこの方一度もない。私はただ、全てを憎んでいるだけだ」

「ほんとお?」

 

 それなりに人生を楽しんでいるやつの台詞なのだろうか。

 アケボノの眼には、ハカセが他人を嫌っているようにしか見えないのだ。

 

「ああ。本人から聞いた限りでは、緋の眼以外の物を何も残せていなかったらしい。特に文化はな。生物としては、流石にどうかと思うぞ」

 

 何をもって人種の優劣を決めるか、それは人によるだろうが。

 文化はその指標の一つとなる。

 クルタ族の現代社会に与えた影響は、マニアックな芸術品としての価値しかないようだ。

 

「緋の眼を次世代に残せると知った時のクラピカの顔は、一種のお笑いであったぞ。思わず、私の中に沈んでいる薄暗い気持ちが蘇りそうだった」

 

 ハカセの眼が、より一層妖しく光る。

 アケボノは思わず目を背けた。

 

「アケボノもどうだ? 正直、誰かに押し付けたいのだが」

「重い」

「だよなあ。クラピカには当分会わないだろうから、私も暫くは封印するか」

 

 クルタ族の痕跡は、ある程度は残る。

 とはいえ、その未来は決して明るいものではないのだ。

 

**

 

「うん。クラピカ達やプリンツは方針が決まりきっているが。確かに、アケボノはこれからどうするのだろう」

 

 世の中には、悪い人が沢山いる。

 幻影旅団もその一つであって、ハカセもその一人であることは認めている。

 

 だが、何事も責任は自分が負わねばならない。

 それがこの世に生きる人間の義務であるのだから。

 

「私は。何も間違ったことはしていないとは思っている」

「ふむ?」

「ハンター試験を受けたことも。そのことでアンタを非難したことも。私のやったことは何も間違っていないわ」

 

 アケボノは無謀にもハンター試験を受け、そこで殺されかけた。

 とはいえ、一切後悔はしていない。

 恥は晒したが、生きて帰ってこれたのだ。

 まだ、自分は挑戦できる。

 

「私自身は何も正しくないだけでね。私の正しさは自分で証明するしかないのでしょう?」

 

 ただ、アケボノも自分が間違った存在ではあったのだ。

 自分が正しくありたいのであれば、後は周りが納得できるように示すしかない。

 それを今になって理解できた。

 

「ふむ。アケボノの成長か。嬉しいような、哀しいような」

「何でよ。何か不満なの?」

「私に反発してくれるアケボノが好きだったのだがな」

「あっそ」

 

 子供扱いされているようで、釈然としない。

 未だに、この女のことはよく分からないでいる。

 

「アンタは。私のこと嫌いじゃないの?」

「良くは思っていないが、好いてはいる」

 

 そこは分かるのだが。

 ハカセは興味がなければ、とことん関わらないように動くのだ。

 関わるのであれば、それなりに価値を見出しているからであろう。

 

「アケボノは私のことが嫌いなのだと思っているが。私はそれなりに認めているぞ」

「露骨に嫌っていたのに。よく付き合ってくれてたわね」

「嫌いってことは、その人を利用しきっているということであろう?」

 

 動きがピクリと止まった。

 

「え。気づいていたの」

「私が気づかないとでも?」

 

 ハカセは無表情で呆れているが。

 とはいえアケボノには無理があるし、仕方ないだろう。

 

「アンタは、その。よく単純で複雑だから分かりにくいのよ」

「私は殆ど単純だよ。複雑の人間こそ単純に動くのに」

「嘘つけ」

 

 具現化系は神経質であるのが定番であるが。

 時によって特質系だったり強化系だったりする人物の行動を読むは難しかろう。

 

「アンタは、私たちに使われることを良しとするの? そこは分からないわね」

「ふん。誰かに使われない人生があるとでも?」

 

 アケボノもハカセを利用しているからこそ嫌っている。

 プリンツに関しては露骨すぎるぐらいだ。

 それを理解した上で、ハカセは二人を認めている。

 

「とはいえ私は基本的に誰かを求める人間ではない。大抵のことは、今の私一人で出来てしまうからな。そういった環境で、二人は私に新しい風を吹き込んでくれるのだから良いのさ」

 

 RPGよろしく、仲間を作ると出来ることは増えるのが普通なのだ。

 その場合で人を利用しないのは、そうする必要がないからだろう。

 万能の天才は人に頼らないのである。

 

 彼らが頼るとすれば、それは誰かに求められることであろうか。

 

「“それに。こんなボクらでも、ただただ見ているだけの異常者たちよりはマシだよね。見たがるクセに自分からは手を出そうとしないクズどものことさ。今も見ているのだろう?”」

 

 ハカセは芝居かかった動作で、無理やり笑って見せた。

 それが自らを使ってくれる人への、精一杯のお礼だった。

 

「いいけど、その癖は止めてよ。アンタの前世の文化なんて分かんないってば」

「別に良かろうよ。自己満足だから、スルーしてくれると助かる」

 

 相手は認めているのだが、やはり気分が悪い。

 やはり二人は相いれないのだろう。

 

「そういや私、一度アンタに殺されかけてたわね。アレから少し優しくなった感じがするけど」

「あの時か。今でもそうだが、無能な怠け者など縊り殺して終わりだと思っているのでな」

 

 勿論、認識を改めたよとハカセは付け加えた。

 この社会ではどんな道でも、実力と人間性が求められている。

 それが出来れば、この社会では生きていける。

 出来なければ、底辺となるだけだ。

 

「アケボノも、弱くはないと思うぞ。今の所は結果論であるが。私と志は概ね一致するのではないのかね?」

「ハンターになったからって、あえて危険な道を行く必要もないのよね」

「であろう」

 

 普通のジャポン人は海外になど、それもヨルビアンに出ないのだ。

 移民問題のある地域に移民として行くのは、生きるだけでもそれ相当の実力が求められるのである。

 

「そういう道は幾らでもあるのだ。最も、この平和が何処まで続くのかは私には分からんがな」

 

 確実に、人類は暗黒大陸に進出することになる。

 ハカセは暗黒大陸のことを予測できていない。

 この世界に安全な場所など、どこにもないのかもしれないのだ。

 

「もう。物騒な事言わないでよ。折角、あのヒソカが死んだと聞いて、一安心できているのに」

「ちょっと待て」

 

 ハカセの無表情な顔が分かりやすく引きつっている。

 眼の光も揺らいでいる。

 不意打ちに対して、動揺を隠しきれていない。

 

「情報のソースは?」

「え。電脳ネットだけど」

 

 ハカセはすぐに立ち上がって、パソコンを立ち上げる。

 椅子にも座らずに、キーボードに打ち込んでいく。

 ハンターの情報サイトによると、ヒソカは爆発による窒息死であると書かれている。

 

「これはアレじゃな? 死んだと見せかけて実は生きてるパターンじゃの?」

「キャラが崩壊してるわよ」

 

 茫然として、そこから何もしようとしない。

 

「天空闘技場でも見かけないらしいし、確実でしょ」

「あのヒソカが窒息死なんかで死ぬわけないだろうよ。私は信じないぞ」

 

 こういうハカセを見るのは大変珍しいのではないかとアケボノは感じる。

 多分、自分たちが死んでもこうは反応しないであろう。

 自分が見たのは一度だけで、プリンツが今の姿になった直後の頃だけだ。

 

(じゃあ何で、親が殺されたみたいな表情をしているのよ?)

 

 思わず、壁の方に目を逸らした。

 視線の先には、あのピエロの絵があった。

 

 不思議なことに、そこには涙が描かれていなかった。




色々真似しながら描いたイラスト2。

【挿絵表示】




名前:ナツキ・アケボノ
身長:149cm
体重:40kg
3サイズ:B74/W52/H68
属性:中立・善
好きな映画:チョコレート工場の秘密
好きな音楽:愛を取り戻せ!!
特技:料理、ネトゲ
苦手な物:ハカセ
天敵:父親
能力:太公望伝説(すごいつりざお)不確定要素な羅針盤(きまぐれなレーダー)

解説:主人公の弟子二号。利他的だが、他人に対しては当たりが強く高圧的。主人公とはお互い不快に思いあっているが、関係は良好。
師に似て才女ではあるが、戦いだけは向いていない。神経質な具現化系においても特に敏感であり、それが彼女の念にも表れている。
万能な感知タイプであり、腐る場面がまずないことが最大の長所。特に直感による選択を評価されている。

主人公に苦言をこぼすために設計した、言わばワカメのようなもの。最初は物語の途中で退場する予定であったが、殺さなくて良かったと思う。
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