美少女てんこー   作:倉木学人

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テンポ悪いのは嫌だから、不要だと思った部分はカットしてますけど。
それだとブツ切りっぽくなってしまう。
難しいな。


EX.4 原作組とプリンツの思惑

 ハカセはアパートの一室で、パソコンを前にレポートを書いている。

 パソコンは最新鋭のデスクトップPC(なんとWin98搭載!)で、時代を先取りし過ぎたデュアルモニターを取り入れている。

 片方の画面は書きかけのレポートを映し、もう片方は一時停止されたゲーム画面を映している。

 

 ハカセは大学生として、ありえない程裕福な部類である。

 ハンター証で学費は免除され、今の所お金にも時間にも困っていない。

 授業はそれなりに厳しいが、真面目に取り組んでいる御蔭で十分についていけている。

 

 偶にはウェイ共の祭りに参加したりもするし、そうでなくとも心の知れた友人たちとの時間もある。

 とはいえ、その友人たちは現在ハンター試験へと向かってしまっているのだが。

 

 彼女たちとの関係は、まあ悪い物ではなかったのに。

 まったく、惜しい人間を亡くしたものだと思ってしまう。

 まだ亡くなってはいないが、ハカセは悲観的である。

 生存は絶望に近い。

 

 かわいい熊柄のマグカップに入った、ブラックコーヒーで一服する。

 するとインターホンが鳴り、来客を知らせる。

 モニターを見ると、見慣れた銀髪女の姿が写っていた。

 

「ただいまです」

「お帰り」

 

 ドアを開けると、友人であるプリンツがそこに居た。

 そしてその後ろからひょっこりと、同じく友人であるアケボノが姿を現した。

 

「うん? 意外だな。二人とも生きて帰ってくるとは思わなかったな」

「そうね。お蔭様で、本気で死ぬかと思ったわ」

 

 アケボノは殺気交じりにハカセを睨みつけた。

 それに対して、ハカセは首をかしげる。

 

「何を怒っているのだ? 今回のハンター試験は危険だと言ったはずなのだが。実際その通りだったのだろう?」

「ちゃんと伝えなさいよ! あの変態ピエロ、すっごく怖かったのだから!」

 

 アケボノは危険性を知っていた。

 そして知ってはいたが、理解しているわけではない。

 話を良く聞かなかったアケボノも悪いが、その原因の一端がハカセにもあるのは確かだろう。

 

「そうだな。私も本気で止めなかったのは認めるよ」

「はあ!? なんでよ!」

「まあ、結局の所。二人が殺されたのならば、それまでの人間だったということだと。そう思ってだな」

「ふざけんじゃないわよ!」

 

 一体人の命を何だと思っているのだろうか。

 幾らなんでも扱いの悪さに文句の一つも言いたくなる。

 

「ちょっと、プリンツ。アンタも被害者でしょ! アンタの方からも何か言いなさいよ!」

「そうですね」

 

 プリンツは大人しく頷いた。

 ハカセから見れば、当人は本気で同意しているつもりはなさそうだったが。

 

「ハカセ。ナツキちゃんは、ひどい目にあったことを共感して欲しいだけなのです」

「それは知っている。で、二人は合格したのか?」

「ええ、合格しました」

「それは凄いな。私も教えた甲斐があったものだ」

「都合の良い事ばっかり言って!」

 

 アケボノはいい加減、我慢の限界だった。

 自分たちに非があるのは明らかであるし、理解している。

 それでも目の前の悪人を非難せずにはいられなかった。

 

「アンタは正しくなんかない! 正しい事ばかり言って、アンタ自身はちっとも正しくないじゃない!」

「それはそうだろう。アケボノには、私がマウントの取りたがりにでも見えるのか? 私は正しい事を言いたいだけで、正しさには興味が無いのでな」

「な!」

 

 ハカセは何を当然、と言わんばかりに返す。

 アケボノは思わず口を開け閉めした。

 

「アンタ、絶対頭おかしいわよ。頭のネジが数本抜けているんじゃないの?」

「む。その暴言は流石に怒るぞ。前世と今世の父親と同じことを言いおって」

 

 二人のオーラが膨れ上がる。

 床に落ちている塵や木の葉が辺りを舞う。

 まさに一触即発、キャットファイト間違いなし。

 

 そんな状況の中、プリンツは二人に向けて空手チョップをかました。

 念も纏っていない一撃であり、痛くはない。

 しかし、その効力は十分である。

 

「はいはい、そこまでです。お客さんの目の前ですから、喧嘩は止めましょうね」

 

 二人から少し離れた所に、プリンツたちがハンター試験で出会った四人の若者がいた。

 野性味を感じる黒髪の少年、生意気さを感じる銀髪の少年、スーツにサングラスを付けた黒髪の青年、民族風の金髪の青年。

 アケボノは未だにハカセを睨みつけているが、ハカセの視線は四人に注がれている。

 

「今日は。帰るわ」

 

 アケボノはそう言って、早足で通路を駆け抜けていってしまった。

 

「ふむ。意外だよな。私たちはヒソカに出会いながら、三人とも合格してしまうとは。偶然としては出来過ぎのような気もするが」

 

 ハカセはアケボノの後ろ姿を見ながら考えにふける。

 自分がヒソカに見逃されたのは偶々だと思っていたが。

 偶然も三回続けば必然、という言葉が思い浮かぶ。

 

「しかし、いいのか? アケボノを一人にして」

「今は一人にさせておくべきでしょうね」

「それは本気で思っているのか? まあ、プリンツがそれでいいのなら気にしないが」

 

 ハカセは自分がひどいことを言った自覚はあるし、プリンツがアケボノの傍に居てやったほうがいいとは思っているが。

 彼女にとっては、こっちの方が楽しいからなのだろうか。

 何となくだが、そう感じた。

 

「それを言うなら、ハカセはナツキちゃんに厳しすぎませんか?」

「アケボノには一回脅されているからなあ。一応気を回してはいるが、良い感情を抱けと言うのには無理がある」

「女の子にもそうですが、オタクやナードへは優しく接するものですよ」

「まあ、そうだろうな。天才同士で争うより、格下相手から搾取する方が楽だものな」

「理解はできる発言ですが。私としてはその意見に同意致しかねます」

 

 二人で視線を合わせて話し合う。

 その間四人はおいてけぼりである。

 見かねた金髪の青年が、わざと咳払いをした。

 

「ああ、ごめん。待たせたね。こんにちは、私がプリンツたちの師であるハカセさ」

 

 丁寧ではあるが、無表情でハカセは礼をする。

 顔のパーツは非常に整っているのだが、一切笑っていないので人形と話している印象を与える。

 因みに怒っているとかは一切なく、彼女はこれがデフォルトなのである。

 

「お、おう。よろしく。俺はレオリオだ」

「私はクラピカだ」

「オレはゴン! よろしくね!」

「うむ、よろしく」

 

 キルアは警戒していのか、返事を返さない。

 それでもハカセは気にせず、会話を続ける。

 

「こんな成りだが、今は大学生をやっているよ。専門は宗教学。非公式だが念についても教えている」

「大学生、か。失礼だが、師を名乗るには若すぎるようにも思えるのだが」

「うむ。大学とは教育機関であるべきだろう? 学生の身分で実践を行うことも、教育の一環だろうさ」

 

 私に関しては、見た目は詐欺していると思ってくれ。

 そうハカセは付け加える。

 人に教えることができる程度には歳を重ねているつもりなのだ。

 

「とはいえ、私の教えは殆ど我流だがね。まあ、立ち話も何だ。中に入ってくれ」

 

 そのアパートの一室は、そんなに広くは無い。

 とはいえ、一人暮らしには十分すぎるだろう。

 部屋は清潔に保たれているが、特徴となる私物が少ない。

 精々、シックな量産品の家具を使っていることぐらいが特徴である。

 若者というより、落ち着いた大人の部屋と言うべきか。

 

「皆、コーヒーで良いか? この家にミルクはないが。良い蜂蜜ならあるよ」

 

 そんな部屋の中、壁に飾ってある道化師の絵が異彩を放っている。

 自然とその場の面子はその絵に注目する。

 

「へえ。意外といい趣味してんじゃん」

「おお。その絵の良さが分かるのか」

「恐らくアウトサイダー・アートに属するものと見たが。何か特別な価値があるものなのか?」

 

 アクリルの絵は、パーティで風船を配る道化師を描いたものだ。

 その絵は特筆すべき技法はないが、見ているだけで不安にさせるものがある。

 絵画自身が、念か何かのエネルギーを発しているのだろうか?

 プリンツが見るに、念がこもっている訳ではないようだが。

 

「その絵は、ヨークシンで“マーダーサーカス”と呼ばれた連続殺人鬼の描いた絵でね。私の初(ハント)で手に入れたものさ。手に入れる際に、彼の絵をこの世から抹消しようとする団体と激しくやりあったものだよ」

「私とナツキちゃんは、この絵を隠してって常日頃から言っているのですけどねー」

 

 その場の面々に微妙な空気が流れる。

 ピエロで殺人鬼と言うと、ハンター試験で出会った危険人物を嫌でも思い浮かべざるを得ないからだ。

 

「でだ、私に何の用かな。どういう事情があったのか、教えてもらえないかな?」

「はい。では、私の方から―」

 

 プリンツはハンター試験で起きたことを話し始めた。

 トリックタワーで試験を共にしたこと。

 不可抗力で念についてヒントを与えてしまい、試験後に皆から追求を受けたこと。

 そして、“うっかり“ハカセの能力について言及してしまったことを話した。

 

「プリンツ? 私はプリンツだけは違うと信じていたのに。皆、私のことを何だと思っているのだ」

「そのことは御自身の胸に手を当てて貰えば良いかと」

「いや、わからん…」

 

 ハカセは頭を抱えた。

 念について情報を漏らしたのはまあ良い。

 彼らならどうせ、遅かれ早かれ知ることになるのだから。

 だが、自分の事を”教えた”のは全く意図が分からない。

 

「とはいえ、彼らを連れてきたのは不満でしたか?」

「こうなったのは正直予想外だったが。納得はできる」

 

 プリンツのやらんとしていることは分からんでもない。

 間違いなく、その四人組は良くも悪くも有望だろうからだ。

 あとは、ハカセの持つ知識の有効活用というのもあるのだろう。

 それを悪用すれば、色々なことができる(かもしれない)。

 ハカセにはそのつもりがないのだが、しようと思うのは自然だろう。

 

「だがな、行動を起こす前に私に相談ぐらいしてくれないか」

「今度から気を付けます」

 

 とはいえ、博士はゴン達とその関連人物に関わることを今まで避けてきたのだ。

 ヒソカのことを知っていれば第286回ハンター試験も受けなかった(試験回数については、そこまで記憶できなかった)。

 その気があれば、ハンター試験を共に受けようとしたであろう。

 

「全く。知らぬ所で私の能力について話されるのは、あまりにも気分が悪いのだというに。何をもって話そうと思ったのか」

「有望ですからね。この子たち」

「それは見れば分かる。だが、問題はそこではないだろう」

 

 “美少女転換(プリンセス・テンコー)”は他人にも使うことがある。

 使う事はできるが、本人はまず使いたがらないので誓約やらを重くしている。

 本人にとっては能力を他人に使うことがリスクであり、デメリットであるからだ。

 

「基本的に、私は弟子等をとるつもりが無い。私の能力は有益だろうが、その分危険だ。基本的に、能力を自分以外に使う気は一切ない。例え、それが私の同類だろうとな」

「でも、念は教えるのですよね」

「今回ばかりはね。私の方から念の指導者を紹介しよう」

 

 ハカセが居なくとも、彼らは優れた指導者に出会った事だろう。

 自分が教える必要性を感じない。

 おもいっきり他人に任せることにした。

 

「結局教えねーのかよ。つっかえねー。アンタ、それでも教育者か?」

「良き教育者がヤル気のある人間である必要はないのさ。こういうのは指導力のある人間に教わるのが一番だよ」

 

 元々、ハカセも自身の指導力に自信がある訳ではない。

 アケボノにも指摘されたように、基本の人間力が足りていないのだ。

 彼らは非凡故に指導は楽だろうが、それでも進んで関わりたいとは思わなかった。

 

「彼らに念を使わないのですか」

「ないな。逆に聞くが、どうしてそう思うのだ?」

 

 念によるショックで念を教える方法は、その方法がどうであれリスクもそれなりに大きい。

 そして子供二人の方をぐるりと向いた。

 

「まず、二人は論外だ。彼らに手を出したら、親御さん達に顔向けできん」

「親は関係ねーだろ」

「いや、そうでもない。君らはゾルディックとフリークスの子だろう?」

「な!」

 

 二人の親は良くも悪くも有名だ。

 とはいえ、その子供であると一目で見抜かれたのは驚きだろう。

 何せ、自分たちは初対面なのだから。

 

「ジンのことを知ってるの?」

「ああ。私も彼の世話になった一人さ」

「すごいや! ねえ、どんな人だった?」

「魅力的な人だよ。私もなんとか彼にもう一度会って、お礼をしたい所であるな」

 

 珍しいことにハカセの顔が緩む。

 ジンのことを誰かと話して分かり合えるのが楽しいのだった。

 

「他の二人はどうなのですか?」

「もう二人か」

 

 脱線しかけた話をプリンツが戻す。

 話を遮られたことで若干ハカセは不機嫌そうだ。

 

「レオリオの方は、そうだな。見た感じ、専門こそ違うが同業者(がくせい)だろう? 念より他にやるべきことがあるように思えるのだが」

「―おう。医者を目指している」

「まずはソッチを頑張りなよ。念はそれからでも遅くは無いさ」

 

 ハカセは学に拘る故、学ぶことを軽視していない。

 医者を目指すのも一流の念能力者を目指すのも、生半可な修行では完成しないのだ。

 そして、どっちが大切かと聞かれれば彼女は学問を迷わず取るだろう。

 この世には念能力より大切なことなど沢山あるのだから。

 

「クラピカは。まあ、単に使う理由が無いな」

 

 断る理由が無いからする、というのではない。

 彼女としては、賛同できる理由がないからしないのだ。

 どこまでも彼女は自身の利用に消極的だった。

 

「私からすれば。彼(かどうかは判別できませんが)は“こっち“に引き入れるべきだと思うのですよねー」

「今だに意図がつかめないのだが。それはどうしてだ? いい加減教えてくれ」

「私、“蜘蛛”を狩ろうと思っているのですよ」

 

 その言葉で、ハカセを中心に部屋の温度が下がった。

 

「正気か? いや、おそらく本気で言っているのだろうが」

 

 無表情のまま、ハカセは頭を右手でかいた。

 その顔にはわずかな納得と諦めが感じられる。

 

「実の所、勝算はどのくらいだと思いで?」

「不可能ではない。一人か二人程度を殺す程度であれば、今のプリンツでも可能ですらある」

 

 “蜘蛛”と称し称される、A級犯罪者集団である幻影旅団。

 全員が熟練の念能力者であり、その影響力は大手マフィアにも劣らないだろう。

 とはいえ団員の役割というのもあり、全員が“強い”という訳でもない。

 

「しかし。それでも分の悪い賭けだな。個人レベルで相手をするには大きすぎる相手だよ。私は賭けようと思わんな」

 

 これまで国やハンターが下手に手を出さなかったのは理由があるのだ。

 集団レベルでも不味い相手であるので、個人もそう相手にはできない。

 ハンターが討伐に成功したならば、プロとして大変な名誉となるのは間違いないが。

 

「構いませんよ。賭けを(ベット)するのは私とクラピカですから」

「ふん。二人を情報で援助しておいて、“私は無関係です“なんて言える訳ないだろうに」

 

 ハカセは思わず、ため息をついた。

 最も関わりたくない相手と、こうして関わることになるとは。

 やはり人生、何が起こるかはてんで分からない。

 

「まあ、いい。いや、良くないが。後で手伝って貰うからな」

「ありがとうございます」

 

 二人は良い感じにまとまっているが。

 クラピカはそれに不満を感じた。

 自らの味方は闇雲に増えれば良いと言うものでもない故に。

 

「感謝したい所なのだが。私としては、蜘蛛に関しては中途半端に手伝える問題でもないと思っている。君にはその覚悟があるのか?」

「勿論、良くない。私に、そんな覚悟はできないからな。だが、やるしかないだろう」

 

 相手はハカセにとって、一番嫌なタイプの敵である。

 無法者であり、実力もバックもあるとは最悪だ。

 とはいえ、後ろ向きのまま対処するつもりではあるのだ。

 

「そういう自分はどうなのだ? クルタ族の唯一の生き残りさん」

 

 その言葉を口にした瞬間、ハカセに鋭い殺気が向けられた。

 自分でも何を言っているのか理解はしていたが、殺気に顔をしかめてしまった。

 

「どこで、それを知った?」

「一応、私もハンターだからね。ああ、生物学的に“緋の眼“について少し気になっただけだ。死んだもの、芸術品としては興味がないから安心していい」

 

 クルタ族の緋の眼は、その美しさから闇市場で高額で取引されている。

 故に蜘蛛に狙われ、クラピカを除いて滅亡した経緯を持つ。

 自分が狩りの対象と見られることは、どうであれ不快にしか感じないだろう。

 

「幻影旅団がクルタ族を滅ぼしたのは知っているし、クラピカがそれに復讐しようとも知っている。私はそれを止めるつもりはない。むしろ支援しても良いぐらいさ」

「嬢ちゃんは、それでいいのかよ?」

「復讐は良くないし、私刑(リンチ)は良くない。それでも、止まらないのだろう? そういうものであると、私は理解しているつもりだよ」

 

 それに、私も駆除はすべきだと感じているから。

 手を出したくなかっただけで。

 そうハカセは付け加える。

 

「ただ。これは完全に興味本位の質問なのだが」

 

 彼女は隠された緋の眼をじっと見つめる。

 

「別の選択肢はなかったのかと疑問に思ってね。クラピカは一族の復興だとかを望まないのか?」

 

 復讐は甘美であり、身を滅ぼすだけの価値は“ある”。

 だが、世間的に推奨される事でもない。

 他に代案があるならそっちでも良いのではと、彼女は思ってしまった。

 

「あ、ああ。そうするさ。それは、全てが終わった後でだが」

「ハカセ」

「すまない。凄く無神経な質問だった」

 

 クラピカのクールな顔が明らかに動揺している。

 プリンツが責めることで、ハカセは素直に謝った。

 

「言い訳になるのだが。私には誰かに復讐しようという熱意が無いのでな。つまらぬ嫉妬だと思ってくれ。本当にすまなかった」

 

 クラピカはこれまで復讐の為に、ハンターに成るほどの努力をしてきたのだろう。

 それを軽々しい気持ちで扱うのは大変失礼である。

 復讐を止めろと言うのは簡単だが、当人はそう簡単に止めれるものではない。

 

「あー。とはいえ、私の“発“を使うとしてもだ。私がどこまでクラピカの素質を引き出せるかは分からないな。パッと見た感じだと、もう十分だとは思うのだが」

 

 何回でも言うがハカセは慎重派である。

 能力を使うにあたっても、事前の吟味は怠らない。

 

「一回、“大物忌正餐(ちゅうしょくばんざい)”を使うか?」

 

 その名前を聞いたプリンツは、分かりやすく表情を変えた。

 いつも強かにしている当人には珍しいことで、とても不愉快そうである。

 

「あの。“美少女転換(プリンセス・テンコー)”で、どうにかならないのですか?」

「それでも出来るは出来るのだが。そっちは一旦解析しだしたら、途中でキャンセルが効かないのでな。使っておいて、“才能が十分に割り振られています”だったら不味いだろう?」

「それでも、嫌な物は嫌なのですが」

 

 この流れは、それまで静観していたゴンの興味を引いたようだった。

 

「プリンツさんは、その能力が嫌いなの?」

「ええ。個人的に嫌な思い出がある能力なのですよ」

「プリンツさんも大変だね」

 

 ヒソカに殺されかけても割とケロっとしていた彼女を嫌がらせた能力とは。

 ゴンは傷を抉ることはしないが、共感を示さずにいられなかった。

 

「念能力者は、個人によって異なる“特殊能力“を持っているが。私の“大物忌正餐(ちゅうしょくばんざい)”もそうだ。主である能力の、そこから派生した能力である」

 

 “美少女転換(プリンセス・テンコー)”は複雑さと系統により、かなりのメモリを食う能力である。

 現に作った段階で、ハカセの“発“における容量(メモリ)は殆ど残っていなかった。

 そんな状況からでも作れる“発”は自然と既存のものの発展とならざるを得なかった。

 

「能力は簡単。人間の肉体を食べることで、その人物の情報を読み取ることができるというものだ」

 

 これと類似する能力は、賞金首ハンターにして賞金首ビノールトの“切り裂き美容師(シザーハンズ)”。

 あちらは鋏で切り取った髪を食べることで相手を知るが。

 “大物忌正餐(ちゅうしょくばんざい)”は、対象がハカセに対して“礼”を示さなければならないという制約がある。

 

「悪趣味―」

「その反応はやめてくれ。私も望んで能力を得た訳ではないのだから」

 

 勿論、これは特質系の能力である。

 彼女も偶然に近い形でこれを得たのだ。

 “美少女転換(プリンセス・テンコー)”が身体の解析をしつつ発動する能力でもあるため、そこから発展した形なのだろうが。

 

「待て。私は念について教わるつもりではあるが、君の能力を受け入れるとは言っていないのだよ」

「それでもいいが。復讐するか否か、どっちを選ぶにしろ私を有効活用するのがいいかもしれんよ」

「どういうことだ?」

 

 消極的な姿勢だが、ハカセは積極的にアドバイスする。

 

「正直に言うとだ。パッと見た感じであるが、私を頼らずとも“蜘蛛“に刃は届くだろうと思っている。私は人をより強くはできるが、それまでだからね。アケボノやプリンツにも再三言っていることだが。この世で必要とされるのは強さでなく、強かさであると思っている」

 

 強さも強かさもクラピカはいずれ持つことになるであろう。

 強かさの方は日常でも邪魔にならないだろうが、強さはどうだろうか。

 

「強さを得たとしても、それが社会で生きていくときに邪魔になることもあるだろう。復讐に身を投じるのもいいが、それはより良く生きる手段であって欲しいものだ。復讐のせいで人生を台無しにしては、本末転倒だろうね」

 

 復讐は必ずしも人生に必要ではない。

 故郷を滅ぼされて嘆くのも人間だが。

 滅ぼされた後に再建しようとするのも人間だろう。

 復讐はいわば、心の決着をつける行為ではなかろうか。

 

「ああ。クルタ族を止める、という選択肢もあるな。私ならそれができるよ」

「な! 何を言っているのか分かっているのか!」

「侮蔑された、と思うなら謝るが。人によってはだが、そっちの方が“生きやすい”のではないかと思っていてね。生まれが当人にとって負担である、という話もあるだろうさ」

 

 ハカセはキルアの方を見つめながら、そう話す。

 見つめられた本人は凄く微妙そうだ。

 彼は“生まれた家“を負担に感じている故に。

 

「この件に関して、私は強制しない。私は有効活用してもらっても構わない。選択する権利は君にある。好きに決めると良い」

 

 やや自棄になりながら、決断を委ねた。

 さて、彼はどういう選択をするのだろうか。

 

「ところでハカセ。私、顔に傷を負ったのですけど。できれば早く治して貰いたいのですが」

「うん? わかった。じゃあ、そっちを先にしようか」

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