美少女てんこー   作:倉木学人

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EX.5 狐による豚の批評

 ゴン達とプリンツ達一行(但しアケボノを除く)は、飛行船を利用してパドギア共和国を目指している。

 目的地はククルーマウンテンにある、伝説の暗殺者一家ゾルディック家。

 そこは国の有名な観光地であり、たどり着くことに関しては全然難しい事ではない。

 

 キルアは試験前に家出をしていた故それを実家に謝りに行くつもりであり、ゴン達はそれに付き添う形である。

 プリンツたちは幻影旅団討伐に向けて、暗殺の依頼に行くつもりであった。

 

 ハカセ曰く、幻影旅団とゾルディック家は個人的な繋がりがあり、彼らが暗殺の依頼を頼むことも十分考えられるとのこと。

 それを防ぐために、討伐には彼らをこちらが先に依頼しておこうという訳だ。

 敵に回るであろう難敵を予めこちらの味方にしておく、まさに理想的な作戦であろう。

 

 因みに、依頼金はプリンツがポケットマネーから出すそうだ。

 一旦用意したのは、1000億ジェニー。

 金額が足りているかは気になるところだが、キルアに聞くと恐らくこれで足りるとのこと。

 詳しい雇用形態などは、現地で交渉することになるだろう。

 

 とはいえ、1000億ジェニーは大金である。

 この場の者達が持つハンター証も、正しく売れば100億くらいは手に入るとはいえ。

 それでも、莫大な価値を持つ物の10倍である。

 流石にプリンツも今の自分が使える殆どを投入しているそうだが。

 あまりの金額の多さに、クラピカたちが困惑を示した所。

 

『お金自体に価値がある訳ではありませんので。それに、ちょっと頭を使えば集まりますから』

 

 ということで、半ば強引に納得させたのである。

 それにゴンは眼を輝かせ、レオリオは唖然とした表情を見せたのが印象深いだろうか。

 それと、何でハンターやってんだという突っ込みも入った。

 

 

「悪名高い幻影旅団と言えど、全滅させる手段は確かにある」

 

 クラピカ・プリンツ・ルナールの三人は飛行船のVIPルームで話をしていた。

 この部屋はハンター証を利用して貸し切ったものであり、秘密の話をするにはもってこいだ。

 

「彼らは強い。しかし、戦略級に“強い“と言えるのは団長のクロロ、ウヴォーギン、そしてヒソカの三人だけだ。そして彼らですらも生物の範疇を出ない。毒などで簡単に死ぬ」

 

 その中で、ハンター・ルナールへと名と姿を変えたハカセが、幻影旅団について解説を行っている。

 幻影旅団は凶悪な犯罪者集団であり、誰も手が出せないでいる。

 とはいえ、別に倒す方法が無いわけではないはずである。

 

「一番手っ取り早いのは、小型の核を使うことだな。携帯性に優れる“貧者の薔薇”を用意して、奴らが集まっている所に神風特攻。これなら準備も容易だし、確実に殺すことができる」

 

 貧者の薔薇は、小型でありながら高性能の爆弾だ。

 その効果は人間が生み出しておきながら悪魔的ですらある。

 国際条約で使用が禁止された現在でも、非正規の劣化コピー品が紛争地帯で使われることもある代物である。

 危険性から入手は困難であるが、希少な物を手に入れてこそハンターであろう。

 

「それは確実だろうが。私の望むやり方ではない」

「ふむ? それはどうしてだ。どうしても殺したいのだろう? 命を惜しんでいるようには見えないが」

 

 とても、“復讐はより良き人生のために”と言っていた者の発言とは思えない。

 思わずクラピカは顔をしかめる。

 

「私は旅団刺し違えてでも殺すつもりではある。しかし、だからといって自殺願望がある訳ではない」

「同感ですね。自らの死に備えるのは当然ですが、戦に負ける前提で挑むのは論外です」

「それもそうか」

 

 プリンツ・クラピカ共に危険は承知している。

 とはいえ、これは二人にとって活路を開くための活動なのだ。

 自暴自棄でも、後を誰かに託したい事柄でもない。

 

「なら、別の人間を利用するのはどうだ? 一般人に爆弾を埋め込んで操作するとか。その方向だと。旅団の中でも殺しやすい奴を殺してから、死体を操作するのが良さそうだな」

 

 その言葉で、二人の視線が責めるものへと変わった。

 

「本気で言っているのか?」

 

 自爆テロについてはまだ分かる。

 現代戦の中でも対処が難しく、大国を未だに悩ます戦術だからだ。

 だが人間爆弾は、あまりにあんまりすぎる。

 外道を討つために外道に堕ちてどうすると言うのか。

 

「待て。二人とも、そんな目で見るのは分かるのだが。相手は最悪これぐらいのことをしてくるのだぞ(多分、今は“神の左手悪魔の右手(ギャラリーフェイク)人間の証明(オーダースタンプ)番いの破壊者(サンアンドムーン)”のコンボはできないと思うが)」

 

 言うまでもなく、幻影旅団は犯罪者集団である。

 基本的な性質が盗賊であり、存在そのものが悪である。

 そして必要とあれば外道な手段をもためらわない。

 

「ハカセ。流石に引きますよ。貴女は悪人とは言え、そこまで卑劣な人ではないと思っていましたのに」

「決して褒められることでもないが、私は卑怯者だよ。とはいえ、勝ちに徹すれば卑劣になるだけだ。最終手段ぐらいに考えてくれ」

 

 勝利とは輝かしいものであるのは間違いないのだが。

 しかし、貪欲に勝利を求める姿は卑しく汚らしい。

 それは誇り高い二人にとって、とても許容できるものではない。

 

「一応、そもそもだが。これは私の発案ではない。故郷の有名な忍者が考えた術をそのまま使っただけだよ」

「に、忍者とは恐ろしい集団なのだな」

 

 二人の頭に、ハンター試験で会ったハゲ頭の忍者の姿が思い浮かんだ。

 いざとなれば、彼もそんな手段を取ることがあるのだろう。

 

「最終手段とはいえ。核は不味いでしょうね」

「プリンツ達がそうしたいなら、それでも良いのは良いのだが」

 

 二人に責められているが、ルナールは少し不満そうである。

 勿論、自身の発言のアレさを自覚している上の態度だが。

 

「核の何が駄目なのだ?」

「まず人に使うのが倫理的に駄目ですね」

 

 コンピューターゲームではないのだから、核兵器はむやみやたらに使ってはいけないのだ。

 CPUや人間以外に使うのであればともかく、仮にハンターだとしても使用責任を問われるのは間違いない。

 

「私は手段を選んでいる場合でないのだが」

 

 ルナールは基本、自他共に認める悪人である。

 とはいえヒソカのように喜んで悪に走る人間でも、蜘蛛のように悪に生きる人間ではない。

 ルールを守って戦うのはルールを守っても勝てるからであり、ルールを守らないのは守っていると勝てないからだ。

 

「私たちは手段を選ばないといけないのですよ。そうですよね?」

「ああ。私はこの手で蜘蛛を始末するつもりだ」

「そうか」

 

 クラピカは過去との決着のため、プリンツは己の名誉の為に幻影旅団と戦う。

 それはルナールにも理解できることであり、眩しくもあるのだが。

 

(全く。具現化系にとっては、“原作“を知っているのも考え物だな)

 

 ルナールにとって、“殺せない人間“とは”殺すだけの価値がない人間“だと考える。

 彼女にとって幻影旅団は“殺すだけの価値がない人間”であったのだ。

 そして、一般的にもそのはずである。

 この辺りは、彼らはどうするのだろうか。

 

(その姿勢は好ましくあるのだが、正々堂々正面からの殺り方か。無い訳ではないだろうが、さて?)

 

 

 一方その頃、ゴンたちはというと。

 窓付きの客室で、ゆったりと空の船旅を楽しんでいるのである。

 クラピカたちの計画は未だ多くは定まってない故、彼らは彼らの時間を過ごしているのだった。

 

「アイツ。なんか、アニキに似てるよな」

「うーん? 言われてみれば、それもそうだね」

 

 レオリオは手持ちの参考書を読んでいて、子供二人は雑談に興じていたのだが。

 そんな中、二人はハカセ(ルナール)の話題になった。

 その話題は、レオリオの興味を引いた。

 

「イルミのヤローか?」

「そっちもそうだけど。あのアニキとオレの間に、もう一人アニキがいるんだよ。そいつもパソコンなんかで遊ぶヤツでさ。オレはブタくんって呼んでるんだけど」

「へー」

 

 公式的には、ゾルディック家には当主夫妻と5人の子供がいるとされる。

 彼らとキルアとの関係は存在し、特別仲が悪いわけでもない。

 長男のイルミは無慈悲な暗殺機械を思わせる一方で、次男のミルキは世間一般的で言う所のオタクである。

 

「ふむ? それは褒め言葉なのか侮蔑なのか、にわかに判別し難いが。私はキキョウさん似ということなのかな?」

 

 綺麗だが抑揚のない声が聞こえる。

 皆が扉の方を向くと、黒髪狐耳の少女が立っていた。

 

「げ」

「ハカセさん!」

「今はルナールだが。まあ、頓着はする必要はないか」

 

 ハカセと呼ばれていた時は、マセた子供の服装をしていたが。

 今は背丈の短い死装束に、黒のサイハイソックスと登山ブーツである。

 

「クラピカ達と話をしているのではなかったのか?」

「そっちは抜けてきた」

「抜けてきたって、重要な話じゃないのか?」

 

 服のガードは堅いが、肉付きの良さは明らかである。

 レオリオが目の置場に困りながらも、ちゃんと人の眼を見ながら話をする。

 

「私は十分に役目を果たした。あの二人は“出来る人間“だし。私は肩身が狭いのだ」

「そ、そうか」

 

 能力も含めて(感性はともかく)人を見る目はあるルナール。

 そんな彼女の自己評価は低めである。

 もっと言えば自分に厳しく、他人にもやや厳しいと言った所である。

 

「でだ、念についてまだ教えることはしないが。聞きたいことがあるなら何でも聞いていいぞ」

「ウザい」

 

 そして、彼女に対する四人組の評価はというと。

 肯定的なのがゴン、中立なのがレオリオ、否定的なのがキルアとクラピカであった。

 

「うむ。これは確かに、ゾルティック家の子供の中でも有望であるな」

(そーいう所がオフクロたちとソックリなんだよなー)

 

 こちらが嫌っているのに好意的なのが理解できない。

 多分腹を刺しても、立派になって嬉しいとか言いそうな感じである。

 

「ハカセさんは色々知っているんだよね。ゾルディック家のことも詳しいの?」

「確実にキルアには負けるがな。地元住民より詳しかったり、詳しくなかったり。といった所だろうかねー」

 

 ルナールが露骨にキルアを見る。

 キルアは不機嫌に眼を逸らした。

 

「ゾルディック家の情報は、高額で取引されていると聞くが。一応、喋っていいのか?」

 

 流石に伝説ほどの価値がある訳ではないが、それでも個人情報である。

 そのぐらいの配慮は彼女もするのであった。

 

「別にいいけど。そもそも何でブタくんやオフクロのこと知ってんの?」

「私の由来故、だとだけ言っておくよ。私は変な豆知識に詳しいのだ」

「ふーん?」

 

 適当なことを言って濁した。

 嘘は言っていないし、そもそも相手は信用しないだろう。

 

「キキョウさんについてはあまり知らないが。ミルキの方は、優秀なエンジニアだと聞いているよ。アケボノ辺りとは良い話が出来ただろうね。でもまあ、普通は伝説の暗殺者一家の所に行きたくはないだろうな。普通なら」

 

 ルナールは一応、アケボノに一緒に来るか誘ってはみたが普通に断られている。

 ハンター試験の件で懲りたようで、ルナールとしては満足だ。

 

「嬢ちゃんもそうなのか?」

「私か? 私は結構楽しみだぞ。サインとか貰えないかな?」

 

 すると狐耳が張ると同時に、彼女の眼の色が目に見えて変わっていく。

 漆黒により隠されていた渦の紋様が浮かび上がる。

 そして何より、その眼は“緋色”をしていた。

 

「む。思ったよりコレ、制御が難しいぞ。後でサングラスでも買っておかないと危ないな」

「あー。俺のでよければ貸そうか?」

「ありがとう。流石に気遣いが上手いな」

 

 これぞルナールの新しい切り札、“緋の眼のコピー”である。

 “大物忌正餐(ちゅうしょくばんざい)”によりクラピカを解析した結果、“美少女転換《プリンセス・テンコー》”で緋の眼を再現できるようになったのだ。

 ただし、使っても特質系にはならず、強化系へとなるだけだが。

 

「アニキたちからは流石に無理だろ」

 

 と、そんな中。

 サインについてキルアがポツリと呟いた。

 

「まあ、そうだろうね。彼らは私との相性は悪そうだからな」

「ん? そうかー?」

 

 人を選び、また人を選ぶ人間であるルナールである。

 人に好かれなくても仕方ないとは納得しているが。

 キルアの発言につっかかりを覚えた。

 

「うん? そうか? って。イルミの方ではないだろうな。ミルキと私が、気が合うと思うのか?」

「違うの? パソコンとかアニメとか好きなんだろ?」

「いや私は別に、パソコンもアニメも、そこまで好きって訳ではないのだが。むしろ、そういうのはアケボノが好きだからな。二人ほど私は興味がある訳ではないだろうな」

 

 本人も言っているように、“美少女転換《プリンセス・テンコー》”等は当人の“そっちの趣味”が由来である。

 それ故に、それなりに造形は深い。

 とはいえ本人からしては、それに対する愛が深い訳ではないとの認識だ。

 

「でも、パソコンはどうなんだ?」

「私に染みついた習慣、私がエンジニアだった名残だ。好きでやっていることではない」

 

 良くも悪くも多かれ少なかれ、念はその人を表す。

 パソコンと性転換、宗教と人間観察。

 具現化系と特質系の才。

 それが彼女の全てだと言ってもいい。

 しかし、それをどう解釈するかについては軽率に判断しても良いものだろうか。

 

「私と彼について、何か勘違いしていないか? 私が変態であることは認めるが、所謂オタクではないのだぞ。私はギークかコンピューターマニアと分類すべきではないのか?」

「わかんねーよ。オタクと変態とどう違うんだ?」

 

 その言葉を前に、ルナールの顔と狐耳が少々ゆがむ。

 相変わらず出来の良い人形のようだが、そこには何故か滑稽さが感じられる。

 

「私は構わないが。それ、ミルキが聞いたら多分怒るな。オタクだから犯罪者って言っているようなものだろう」

 

 まあ実際、美少女フィギュアを集める人間はキモイのかもしれない。

 その辺り、オタクは自覚もしている節もあるのだが。

 とはいえ、それを正面から言えばキレられても仕方はあるまい。

 相手は暗殺者だけに、最悪殺しに来る。

 

「ハカセさんは犯罪者じゃないと思うよ」

「ありがとう、ゴンさん」

 

 ゴンの言葉で、ルナールの眼がわずかに緋に染まる。

 だが、すぐに漆黒へと戻った。

 

「ただ、そうでなくとも私は悪人なんだよ」

 

 周囲は彼女の行いを悪として、本人もそれを認める所である。

 尊敬する者の慰めがあっても、そこだけは変われないのだ。

 

「犯罪者が空想の世界にのめり込むのは容易い。何故なら、彼らの望む世界がそこにあるからだ」

 

 例えば、猟奇殺人鬼が創作ものの殺人を見れば、それなりに喜ぶことだろう。

 イメージは膨らむし、実行にも移しやすくなる。

 とはいえ、そういった創作物は一般的に“一般向け“のものなのだ。

 別に殺人鬼向けとして作っている訳ではない。

 

「だが逆は成り立たない。空想の世界を愛するから、必ず犯罪者になる訳ではない。―いや、うん。この話はやめようか」

 

 ルナールはそこで話を打ち切った。

 恐らく、この場の者に歓迎されるとは思えなかった故に。

 ゴンはハテナを頭に浮かべている。

 

「ともかく。ミルキが好きなのは二次元の美少女なの。現実のじゃないの。そして、私も二次元の美少女はそこそこ好きな程度だし、現実のもそこそこ好きな程度なの」

「何が違うんだよ」

「むう。そう言われると、難しい所だな」

 

 そこら辺は彼らに理解できるかは難しい所である。

 彼女が感じるに、文化や思想の違いも感じる所はあるのだ。

 

「ミルキと私とでは決定的に違うものが二つあると見ている。一つは社会的な成功、もう一つはオタク趣味の重みだな」

 

 そもそも、彼女は他人と分かり合える能力が低いのだが。

 とはいえ求められれば対応はするのである。

 

「彼の暗殺者としての技量は知らないが、技術者としては間違いなく優秀だろう? 多分彼も周囲も、そのことに誇りを持ってるはずだよ。違うかな?」

「それは、そうだけどよー」

 

 今更であるが、ミルキ・ゾルディックは天才である。

 ただし、それは暗殺者としてのものではないのだが。

 道具を作り出すことでサポートを行い、暗殺家業に貢献をしているのだ。

 

「嬢ちゃんは違うのか?」

「私も、かつて二流の工学屋ではあったけどね。だが成りたくてなった訳ではない。周りの期待に応えただけだし、心底後悔もしたものだ」

 

 ルナールも念能力に組み込むぐらいには、電子機器に思い入れはある。

 かつての自分はその手の仕事に就いていたこともある。

 とはいえ、それが幸運ではあっても幸せではなかったとも思っている。

 

「そして、彼はかなりのコレクターだと聞いている。君らも私の部屋を見たことだろう?」

「アンタも十分オタクじゃねーの?」

「世間的には、そうなのだろうけどな」

 

 一般的に、“オタク”という言葉が通じるのである。

 ナードやギークという言葉もあるのはあるのだが。

 ここら辺は、どうしても“日本らしさ”を感じる。

 

「“そこそこ以上のオタク“から見たら、私は”ヌルい“のだよ。私はオタク趣味に金と時間をかけている訳でもないのでな。そして変態となると、見下すしかないだろう」

 

 この時代におけるオタクへの風当たりは強い。

 そしてこの時代はまだ、オタクの純度が高かった時代でもある。

 そんな彼らだからこそ、プライドというものもあるだろう。

 基本的に彼らは異物を歓迎しないのである。

 

「えー。共通する趣味がなくたって仲良くすることはできるよ?」

「同じ趣味を持った人間でしか仲良くできないのは変だよなー?」

「そこに関しては同感だな」

 

 子供二人は産まれも育ちも違うし出会って間もないが、それでも十分に友達である。

 そしてルナールとしても、同じ種類の人間が仲良くなるとは限らないのも承知である。

 

「とはいえ、誰とでも御互い仲良くする必要は無いだろうさ。ヒソカと仲良くしろと言われても困るだろう?」

 

 殆どの者が友達百人を実践する訳ではあるまい。

 仲良くできる人間とだけ仲良くして、後は適当にするのが賢かろう。

 

「別にいいけどさー。アニキのこと、けなしてんの?」

「うん? 敬意は払っているのだが」

 

 何となく、キルアはルナールにつっかかるものを感じた。

 自分も一つ上の兄に対する扱いは悪いが、家族以外にそれをされるのはムカツクのである。

 

「似たようなことはアケボノにも良く言われるが。ひょっとしてそうなもしれんな。この辺りは今一つ自信がない」

 

 ルナールは耳をへたらせる。

 彼女は非常識であるが世間知らずでなく、それを悪いとは思っているらしい。

 

「あー。彼はある程度満足もしているのかもしれんが、現状に不満はあると言うのもあり得るのか? “現状を変える必要性が無い”し、“異なる人間と分かり合う必要が無い”。とでも思っていたが。これは大きいかもしれん。ここは確かに、私の偏見かもしれない」

 

 医者などの専門家になる程、人のことを軽々しく判断しないものだ。

 尤も、彼女としてはそれが決して“悪”だとも思っていないのだが。

 学説として、差別をしたがるのは単に頭が悪いからであるというのが通説である。

 

「そうだな、これも話しておくか。少し話は変わるが、“女装”の類というものについてはどう思う?」

「興味ねーよ」

「そうだろうな」

 

 普通、女装に興味があるかと言われて“興味がある”とは答えない。

 勿論、これはちょっとしたジャブである。

 

「では、これならどうだろう。君の兄がすると思うか?」

 

 その言葉に、ちょっとキルアは考えこむ。

 自身より下の兄弟たちの影がチラついた。

 

「いや。流石に、しないんじゃね?」

「そう思うか。うむ。多分そうだろうな。私もそう思うぞ」

 

 女装に手を出すとなると、家族会議になっても何ら可笑しくない。

 人によっては、オタク趣味に嵌まるより重大に受け止める。

 周りは何があったのかと確実に聞くことになるだろう。

 

「女装の類を、個人の文化的な趣味とするのは簡単だろうが。それに生物的な意味があるのであれば、それは何だろう」

 

 女装が趣味だから、と言ってしまえば納得するしかないだろう。

 そういう人間がいたとしても、普通はそういうものだと納得するしかないのだ。

 とはいえ、それは答えになっていない。

 

 子供二人が答えに窮する中、レオリオが考え出した。

 

「えーと。女の子と仲良くなれる、とか?」

「だろうな。オネエとか草食系男子とかを思い浮かべて貰えば良い」

 

 オネエも草食系も男から気味悪がられる存在ではあるが、女性には好感とされる。

 女にとっては、女心を理解し共感されているというのは心地良いようだ。

 

「サルの中には雄同士の競争に負けた雄が、雌を真似て尻を赤くして雌に近づくという戦略をとるものもいる。これには、頂点の雄に追い払われなくなる、という効果もあるようだが」

 

 生物学的に言えば、雄が雌と交わろうとするのは自然である。

 特定の猿だけでなく、昆虫にも見られる現象だったり。

 彼らの戦略は、極端に言ってしまえばモテたいからなのだ。

 

「嬢ちゃんもそうだと?」

 

 あまり良い問いかけではないとは分かっているが。

 彼女の事情を聞いていたレオリオは、そう問わずにはいられなかった。

 

「私はその戦略が失敗だと思っているがな」

 

 ルナールは、そっぽを向いた。

 何ともなさそうな顔をしているが。

 どこまでが本当か、あるいは本気なのかは判別しにくい。

 

「色々と話がすぎたか。今更であるが、あまり私のいう事を鵜呑みにするのは勧めないよ。私の話は冗談半分程度に受け取ってもらえれば、それで良いのだ」

 

 じゃあ、何故ぺらぺらと話しているのだろうか。

 そもそも自分たちにそこまで話をするのはどうなのだ。

 ゴンはそこまで気にしてなさそうだが。

 

「結局の所。彼が私を下に見るだろうということと、私も仲良くするつもりが無いのが痛いな。仲良くはできんよ」

「そう悲観的になる必要はないと思いますが」

 

 ルナールの肩に、綺麗な手がおかれる。

 振り向くと、プリンツとクラピカの二人がいつの間にか立っていた。

 

「げ」

「全く。いつまで手洗いをしているつもりだ?」

 

 抜け出したまま戻らないルナールを見かねて、二人はここに来たのだ。

 言うまでもないが、二人とも怒っている。

 

「さ。部屋に戻りますよ」

「私がまだ必要なのか?」

「全く、何が嫌なのですか」

 

 こちらは大事な話をしているというのに。

 何故こうも抜け出そうとするのか。

 ルナールも理解しているはずであるのに、そこが理解に苦しい所である。

 

「お前らは出来る人間だろう。私のような人間は使い捨てる程だろうよう」

「貴女は自己評価が低すぎて困りますね。人間性はともかく、私は念能力者としてのハカセの能力を評価しているというのに」

 

 その姿は卑屈である。

 能力を評価されても、彼女は嬉しそうでない。

 

「IQが高くても人間性が低いと死にたくなるんだよ」

「良いのですよ。人間によって得意なことは違うのですから。さ、大人しく活躍しましょうねー」

「たすけてー」

 

 二人に引きずられながら、ルナールは三人に手を伸ばした。

 

 勿論、その手が届く事はないのであった。

 

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