ボーイズ&ルフトヴァッフェ~空の道化師~   作:Ocean501

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ドーモ、オーシャン501です

日本全国の杉に機銃掃射したくなる季節になりました

今回は拠点回ですので
ダラーっとお読みください





Mission15 剣とペン

「いやはや、それにしても随分見事にぶっ壊してくれたものだ」

「あー、ごめん」

「ん?あ、いや言い方が悪かったかな。よくぞ持ち帰ってきてくれたという事だよ」

 

 顔をしかめてハルにわびたリヒターを、中央通路とは逆側の壁に埋め込み式で設けられたコンソールを叩きながら、整備士は軽く笑って認識の誤りを正した。数日前までパレットに乗っかっていた傷一つないBf109E-1の姿はそこに無く、主翼に穴が開き、エンジンの下には漏れるオイルを受け止めるバケツが置かれ、あちこちの外板が剥がれてズタボロになったBf109の成れの果てが佇んでいた。

 

「主翼と胴体に大穴が空き、半分以上のシリンダが死んでいるのに、操縦系統は傷一つない。運が良かったと言えるね」

 

「そうかな?」と微妙な顔で首を傾げる彼に、「そうだぞ、リヒター」と隣から声がかかる。空の一斗缶に座り、ハンガーの自販機で買った缶コーヒーを片手に持ったヘクサーが「ちゃんと3本足で立ってパレットに乗って帰ってきたじゃないか」と肩を竦めた。

 

「俺なんか着陸でギアがボッキリいってそのままヘッドスライディングだぞ?原型とどめてるだけ良しとしろよ」

「個人的には、なんで君がケガ一つしていないのかが非常に気になるところだけど」

「コクピット保護装置は世界一ィィィってな?ハル」

「確かに空軍道のコクピット保護装置は高性能だけど、あれだけ派手に着陸して、物理的に無傷で軽傷判定ってのは異常だよ」

 

 戦闘終了後、統合コンピュータから彼に下された判定は”軽傷”。戦死判定や重症判定が下れば1月から2週間は飛行禁止となるが、軽傷のごく軽い段階に分類されたため飛行禁止期間は3日。今日がその3日目だった。二人から妙な視線を向けられたヘクサーは居心地が悪くなり小さく身じろぎする。確かに、あの時の衝撃は相当なものだったがメディカルチェックの結果はいたって健康で献血を進められたぐらいだ。

 

「頼むから異能生存体みたいな眼で見ないでくれ」

「次の機体は赤く塗らないのかい?」

「貴様、塗りたいのか?」

 

「赤い彗星にでもなる気かい?」と元ネタを知らないらしいリヒターのツッコミに、ヘクサーとハルが小さくため息をつく。

 

「何か妙な事でも言った?二人とも」

「まあ、そうだねぇ」

「取り敢えず、苦いコーヒーでも飲め」

「生憎だけど、僕はココア派だ」

「いいねぇ、ヴァンホーテンのココアをミルクと砂糖マシマシで飲みたいとこ…あれ?」

 

 妙にかみ合わない会話を楽しんでいると、ハルの目つきが替わりタイピングの速度が数倍に跳ね上がった。それと同時に、直ぐ近くの壁面に取り付けられたエレベーターの作動音が響く。ややあって、調子が悪いのか異音を発しながらドアがスライドし少佐がハンガーに足を踏み入れた。

 

「少佐、いったいどうしたんですか?」

「よう、ヘクサー。リヒターも居るな?実はパイロット2人に用がある。ちょっと司令執務室まで来てくれ。……取り込み中か?ハル」

「ああ、いえ。お気になさらず」

 

「そうか」とさして気になった風でもないように返し、乗ってきたエレベーターへと踵を返した。突然の命令にパイロット二人が顔を見合わせる。

 

「ヘクサー、何か心当たりは?」

「飛行甲板と艦体の間とか、空中線の間とか、高圧電線の下とか潜って遊んでたのがバレたかな?」

「その場合は准将閣下じゃないの?」

「じゃああれだ、コクピットで散々愚痴ってたのを聞かれたんだろう。CVRは回収されてるだろうし」

 

 冗談めかして言ってみるが、本当に検討が付かない。副司令に呼ばれてヴュルガー・コントロールへ出向くことは何度かあったが、司令執務室に呼ばれるのは初めてだった。そもそも司令である守屋中将は基本的に執務室におらず、基地内をあっちへふらふら、こっちへふらふらと移動していた。とは言え、本当に必要な時にはなぜかすぐ近くで雑談している事が多く、基地の運営に大きな支障は発生していない。時たま、青筋を立てた准将の指令で非番のパイロットによる捜索および捕縛が行われ、執務室に缶詰めになることがあったが。

 

「おい、何してるんだ?いくぞ」

 

 少佐がエレベーターから半身をのぞかせて催促している。いったい何の話なんだろうか、と思いながら缶コーヒーに残った黒い液体の残りを飲み干し、ごみ箱へ投げ入れた。

 

 

 

 

「やぁ、ようこそ。ジャックはココアとしてクラウン隊の諸君、飲み物は?」

 

「自分もココアを」「コーヒーで」とそれぞれ希望を伝える。間もなくそれぞれの飲み物が無人ドローンによって運ばれ、応接セットの机に並んだ。

 司令執務室は副司令執務室の更に上に設けられており、下からは見えなかったヴュルガー・コントロールの天井部を見ることが出来た。そこから見下ろす管制室は思ったよりも遠くない、壁面が黒く塗装されているため下から見上げると実際よりも高く錯覚してしまうのだろう。

 コーヒーに砂糖を2つ落としかき混ぜる。

 

「おや、無糖派では無いのかネ?」

「場合によります。ちょうどさっき、無糖のコーヒーを飲んでいたもので」

 

「コーヒーの過剰摂取はお勧めしないなァ」と茶化すように忠告を口に出し、守屋はミルクティーを一口すすった。

 

「さて、諸君を此処に呼んだのは他でもない。機体についてだ」

 

 先ほどまでの緩い雰囲気が一気に吹き飛び、怜悧な司令官としての空気がにじむ。不敵な笑みを浮かべて足を組んだ守屋は、何処かの謀将の様な雰囲気を醸し出す。

 

「現状、エーミールの、それもE-1型の予備機は存在しない。幾らなんでも古すぎてね、配備しようとすれば旧式機を新品で購入するなんて残念な事態になりかねない。空軍道上層部、と言っても財布を握っている連中は別の学校から、君らの新しい機体を中古で購入することを検討していた」

「いた、ですか」

 

 過去形である事に気が付いたヘクサーに、守屋が頷く。

 

「ところが、黒森峰の統合コンピュータと特務戦の戦術コンピュータの意見は違った。どちらもエーミールよりももっと性能の良い機体を君たちに与えるべきだと口をそろえたのだヨ。統合コンピュータの方は君達にF型を与える事を提案し、戦術コンピュータに至っては少なくともG型を配備するよう要請を出した。喜びたまえよ、君たちは少なくとも財布のひもを握っている連中よりも電子知性体に気に入られているようだ」

「上層部は何と?」

「最初はE-4型を何とかして配備するつもりだった。中古のエーミールに改修を施してでも20㎜搭載型が君らの手に渡るように動いていたらしい。本部の連中は驚いていたよ、この案をどうやってコンピュータや予算委員会に飲ませようかと考えていた時に、思わぬところから援護射撃が飛んで来たんだから」

「光栄です」

 

 本心からの言葉がリヒターの口からこぼれる。少し照れくさいのか、指で頬を掻いていたが。

 

「流石に、本部、統合コンピュータ、特務戦、特務戦コンピュータの4者でかかられた予算委員会も折れてね。君達にもたらされるのはピカピカの新型機だ」

 

 ドローンが執務机から運んで来た2部のファイルを受け取り、ヘクサーとリヒターへ渡す。百舌鳥のエンブレムが描かれた表紙を開くと、自分たちに何があてがわれるのか一瞬で理解することが出来た。

 

「これは…」

「フリードリッヒ。しかも、機関砲をMG151/20に換装したF-4型ですか」

 

 リヒターが息をのみ、ヘクサーが唸る。

 Bf109F-4。大戦中期ごろに出現し、RAFのスピットファイアMk.Ⅴとドーバー海峡で死闘を繰り広げた戦闘機だった。エンジンをDB601Aからより高出力なDB601Eに換装し、両翼のMG17の代わりに機首に軸内機関砲(モーターカノン)としてマウザー社製MG151/20、20㎜機関砲を搭載した。MG151は初速が早い上に弾数も200発と比較的多く、薄穀榴弾による強烈な火力を連続して叩きつけられる傑作機関砲だった。また、両翼の機銃を下ろした事や機体の空力的な洗練が行われた結果、機動性、速度共に向上し全体的な高性能化が図られていた。

 エーミールとの性能差は天と地ほどもあると言って良かった。

 

 

「そうだ。本音を言えばグスタフが欲しかったところだが、まあそれはしょうがない。その分、チューンアップパーツを仕入れて来たから、先日の様な疾風が相手でも君らならば十分戦えるさ。ただ、一つ聞きたいことがある。一応、このままならF型が君達に支給されることになるが、どうだね?」

 

 守屋が気にかけているのは、F型論争の話だろう。かつて、Bf109Fが出現した時ルフトヴァッフェ内の意見は真っ二つに分かれる事となった。当時運用されていたBf109Eは両翼に20㎜機関砲を装備し、7.92㎜機銃と20㎜機関砲を2門ずつ搭載した型だった。一方、Bf109Fは様々な改修が施されたが、単純な機銃の数は7.92㎜2丁と20㎜機関砲1門でBf109Eに劣っていた。搭載機銃数が少なくなることを問題視したアドルフ・ガーランド側の意見と、ほぼすべての面でE型が搭載するMG/FFに勝っているMG151を、命中率の良い機種に搭載したことで火力不足はカバーできるとしたヴェルナー・メルダース側の意見が真っ向から対立したのだ。

 

「いえ、F型が貰えるのならE型に未練はありません」

「僕も同じく。継戦能力が高くなるのは有難い」

「結構!いや、君達ならそう言うと思ってた。MG151/15のガンポッドを買う予算をエンジン部品に回しておいて良かった。君たちの新しい機体は既に黒森峰に向かっている。工廠で最終調整を行い、明日には引き渡されるだろう」

「素早いですね」

「なぁに、特務戦のエース部隊を遊ばせられるほど我々に余裕はないのサ。新型機の対価として、我々が要求するモノは解るネ?」

 

 ほんの少し口角を上げ「戦果」と答えるヘクサー。

 一つ頷き「勝利」と言い切るリヒター。

 

「結構!では、両名の奮闘を祈る。グッドラック」

 

 

 

 ハンガーに戻ると、ハルはコンソールに向かってはおらずリヒターには馴染みがない人物と話に花を咲かせていた。年のころは40ないし50代、茶髪を後ろで纏めヨレヨレのシャツと上着。首からは年季の入ったカメラと許可証をぶら下げ、手には缶コーヒー、口には電子タバコを咥えている。無精ひげの飄々とした記者と言うのがリヒターの率直な感想だった。空軍道のハンガーには学園外部の人間でも許可証さえあれば簡単に入ることが出来る。ハンガーに記者が来て取材をしていくのは良くあることだった。

 そういや第2基地でも、ロト隊の取材に記者が来ていたっけな。

 ふと、そんな事を思い出し何気なしにヘクサーの方に視線を向ける。そこには何時もの冷淡とすら思えるほどの仏頂面ではなく、苦虫をダース単位でかみつぶしたような顔の隊長の姿があった。見たことの無い彼の顔にギョッとするもの束の間、記者風の男がこちらを見つけたのか「よぉ!」と気軽に片手を上げる。

 それと同時に、隣から大きなため息が漏れてきたのだった。

 

「~~~~ッ。なんでここにいるんだよ。てっつぁん」

「そんなに邪険にしなくてもいいじゃないか。おじさんへこんじゃうよ?」

「スライムが凹んだところでノーダメージだろうが」

 

 イラつきを隠そうともせず大股で近づき、記者風の男の首にぶら下がった許可証を引っ掴みまじまじと確認する。しかし、偽物では無い様だ。

 

「何処で黒森峰の許可証なんて拾ってきやがった不良ジャーナリスト。ついに強請りに手を出したか?」

「おおっと冗談きついねぇ、きちんと正規のルートで手に入れた物さ。記者商売は信用が命。清く正しく楽して仕入れるのが出来るジャーナリストさ。ま、そんな事より椎原、いやヘクサーの相方に自己紹介をしても?」

 

「勝手にしろ」と言わんばかりに鼻を鳴らし顎をしゃくる。記者風の男はリヒターに手を差し出し、握手を求めた。

 

「どうも、バカ弟子が世話になってるぜ。おじさんは加太輝美、気軽にてっつぁんって呼んでくれや。堅苦しいのは苦手でね、ゆるーく行こうじゃないの」

「クラウン2、リヒターだ。よろしく、てっつぁん」

 

 リヒターも手を伸ばし握手する。記者の手にしてはどうにもごつい、空軍道の教官の手という方が適当だった。そして、気が付くと加太と握手した方の手に2つ折りにされた紙片が収まっていた。自分の認識では、握手をする前には加太の手には何も収まっていなかったはず。握手した瞬間、手の中に現れたかのような感触だった。

 

「手品だよ、てっつぁんの趣味だ。袖に仕込んでただけのショボいネタさ」

「おいおい、結構好評なんだぜ?」

「握手拒否られて成功率は精々5割だろうが」

 

 ヘクサーのツッコミを聞き流しつつ紙片を広げる。如何やら名刺のようで、名前と連絡先の他に”空軍道ジャーナリスト”の文字の羅列があった。

 

「空軍道関連の情報を仕入れて週刊誌に売り払う仕事だ。週刊 敵機撃墜(スプラッシュ・ワン)とか月刊 雷撃野郎とかな」

 

「最近だと週刊スクランブルに連載コラムのせてるぜ」ニヤリと笑ってヘクサーの説明を補足するジャーナリスト。どれもこれも空軍道に関わる物ならば一度は聞いたことのある雑誌だ。

 

「驚いたな。ヘクサーがジャーナリストと知り合いだったなんて」

「腐れ縁だ、腐れ縁。ジャーナリストとしては2年目の駆け出しで、元々は泰南付属中学で空軍道の教官パイロットだよ」

「ああ、それで弟子と」

「俺は弟子になったつもりはないんだがなぁ」

「またまたぁ、1回目の飛行でゲロゲロになってたのよく覚えてるぜぇ」

「そりゃアンタがバレルロールだの、インメルマンターンだの、左捻りこみだの、スパイラルダイブだのやらかすからだ!俺じゃなかったらトラウマもんだ!しかも、その後かなり強引に担当にしやがって!しかも工廠がギャグで作った誉搭載零式練習用戦闘機ばっかり使わせやがって。一度もバラバラにならなかったのが奇跡だ」

「いいじゃないの。そのおかげで今や特務戦のエースだろうに」

 

 ヘクサーにしては珍しく素の感情をぶつけるが、当の本人はのらりくらりと躱す。まさに言葉のドッヂボールだった。完全に蚊帳の外に置かれたリヒターに、苦笑したハルがぼそりと言葉をこぼす。

 

 

「何だかんだで、仲がいいんじゃない?この2人」

「ハルもそう思うか?」

 

 2人をそっちのけで会話なのか罵詈雑言の撃ち合いなのか分からないやり取りは、5分後ようやく小康状態になる。結果的に、ヘクサーの方が”弾切れ”で自然休戦となった形だった。

 

「それで、なんで黒森峰なんかに居るんだ?アンタの記事は大体泰南や知波単の事だろうが」

「おっと、言い忘れてた。こいつを見てくれ」

「名刺?………おいおい、マジか」

「如何した?」

「そんなに思いっきり嫌がられると面白、悲しいねぇ。昔から言うだろ?弁護士と医者とジャーナリストの友人は出来るだけ多く作っとけってさ」

 

 冷や汗を流して顔をひきつらせたヘクサーから名刺を受け取り、ハルと一緒にのぞき込む。デザイン自体はさほど変わっていないが、隅の方に黒森峰の校章とヴュルガー・シャンツェのエンブレムが書き込まれ、肩書も変わっていた。

 

「黒森峰学園空軍道特務戦闘航空団広報部選任記者。ま、要するに特務戦のお抱え記者と言う事だ。守屋の奴に誘われてね、小遣い稼ぎの一環さ。首にならない様にジャンジャンネタ提供してくれや。期待してるぜぇ」

 

 ヘラりと笑う加太に、リヒターとハルは苦笑いする事しかできない。ヘクサーの方は「………アンの邪悪教師…いつか〆る。フフ、フフフフハハハハハハハ」と呪詛の言葉を吐き散らしていた。

 

 

 

 

 

「ぶぇっくし!ンン?何処かのレディに噂でもされてるのかナ?」

 

 

 





新キャラにジャーナリストがINしました
この人にはいずれ主人公の過去でも語ってもらいましょうか

ちょろっと出て来た誉搭載型零式練習戦闘機ですが
完全に泰南の工廠が悪ふざけで作ったので実戦には使用できません
各部の補強はしてありますが、620㎞/h超えると命の危険を感じる振動が発生しますw

そして新型機はBf109F-4に決定。急降下性能は勿論
格闘戦もそこそこできる優秀な機体です(でも日本機相手は勘弁な!
場合によっては15㎜ガンポッド2門ぶら下げて
サーメットコアで対地も出来る(使いこなせば)万能機
……カラーリングどうしよ(;´∀`)
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