ボーイズ&ルフトヴァッフェ~空の道化師~   作:Ocean501

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ドーモ、オーシャン501です

今回はアンツィオ戦の回を見直してティンと来た拠点回
ぶっちゃけパイロット4人が駄弁っているだけで
動きなんてほとんどありません(;´∀`)





では、本編をどうぞ


Mission18 晩餐会

 アンツィオに建設されたコロッセオ、その中央の競技場部分には折り畳み式のパイプ机が並び、白いテーブルクロスの上では様々な料理が芳ばしい匂いを放っていた。競技場の壁付近にはソフトドリンクやノンアルコール飲料のスタンドが軒を連ね、ドリンクバーと化している。そして、食事の乗ったテーブルの隙間を埋めるかのように3種類の制服に身を包んだ生徒たちがひしめき合っていた。

 アンツィオで大規模な防空戦闘が行われた場合、戦闘に参加したパイロットを晩さん会に招待する風習があった。戦車道で試合終了後に対戦相手と食事をするという慣習が、空軍道へ輸入されたのが始まりと言われている。

 異なる学園艦に所属する生徒と話すことは良い刺激となり、その戦闘で撃墜されたパイロットは自分を撃墜したパイロットと話すことで自分の弱点を知ることが出来た。もっとも、そう言った理由はあくまで建前であり、その本質は騒ぐ理由が欲しいだけだったりする。また、競技場の中には空軍道の履修者の他にアンツィオの女子生徒も大勢混じっている。その理由はさまざまで、出会いが欲しいと数人のグループで他校のパイロットグループに突撃する彼氏が欲しい狩人から、出店を出すことで少しでも利益を上げようとする商売人、もちろん、単に騒ぎたいだけの人間も多分に混じっていた。

 中心部では場酔いした連中が冗談を飛ばし合い、撃墜者と被撃墜者がノンアルコールワインを回し飲みし、虎視眈々と会話の機会を狙う女子陣の坩堝と化しているが、そこから外れた壁際の方は比較的落ち着いた雰囲気のテーブルが多く、会話の声量も幾分大人しめだった。

 

「フムン、アンツィオのワインも悪くないな」

「そうか?」

「ヘクサーは苦手かい?」

「いや、そう言うわけじゃないが」

 

「これならぶどうジュースの方が好みだ」と残ったワインを一気に飲み干すヘクサーに、リヒターは苦笑するしかなかった。如何やら、相棒にアンツィオが新しく売り出そうとしている商品はお気に召さなかったらしい。既にグラスを返却籠に戻し、ジョッキにノンアルコールビールをなみなみと注いでいる。

 

「ぶどうジュースとはひどい言い草だな、ジョーカー」

 

 ジョッキに口を付けようとした時、背後から聞き覚えのある声がかけられる。肩越しに振り返ると、近くのテーブルに腰かけワイングラスを傾ける青年。傍らには丸いサングラスが置かれ、椅子の背もたれに掛かっているジャンパーは、この青年がアンツィオの空軍道履修者であることを示していた。彼が誰なのか、理解するのに多くの時間は必要としなかった。テーブルに歩み寄り、空いている席に腰を下ろす。

 

「何分子供舌でね」

「とんだマセガキも居たもんだ。いや、昼間の戦闘を考えればやんちゃ坊主か」

 

「いい街だったから、ちょっと観光がしたくなっただけだ」と肩をすくめる。そんな時、料理の盛られた大皿を両手に持った青年が騒がしい中心部から彼らの据わるテーブルへと姿を現した。その青年は相棒の向かいに座る見慣れないパイロットに気づき片方の眉を上げる。

 

「ポルコ、知り合いか?」

「まあな。お前もあってるはずだぜ?フェラーリン」

「フェラーリン?ああ、あの時の2番機!」

「んなっ!?その声はピエロの2番機!?」

 

 フェラーリンと呼ばれた整った容姿の青年とリヒターが互いに指を突きつけ合う。自己紹介は空の上で済ませているらしい。もっとも、言葉のような穏やかなものではなく弾丸の応酬と空戦機動による物騒な物だろうが。

「まあ、座れ」とポルコに促され、立ちっぱなしだった双方の2番機も5人掛けのテーブルに座ることになった。話してみればフェラーリンはある意味エキセントリックな連中の多いパイロットの中でも常識的な部類で、堅実な人柄だった。その点、どちらかと言えば普段は穏やかなクラウン隊の二人とも相性が良く、大きな摩擦は起こらない。話の内容は空戦よりも俗に言う恋バナの方がウェイトが大きい所を見ると、4人ともアンツィオの雰囲気に浸りきっているらしかった。

 

「それで、飛行隊の戦友共の前で強烈な一発貰って暫く伸びてたんだよ。そいつ」

 

 クックっ、と思い出し笑いをこらえる様にフェラーリンが小さく笑った。その話が意外だったのか、リヒターの口からは「へぇ」と笑いよりも感嘆の方が先に出た。

 

「アンツィオの事だから浮気上等、二股上等かと思ってたんだけど、どうにもそうじゃないらしい」

「ん、まあ、他所の連中から見りゃ二股かけてるように見えるだろうが。実のところはちょいと違う。アンツィオ男子生徒の中には確かにお前が言う様に浮気上等、3股上等、一週間が7日だから彼女も7人とか宣う奴らも居るが、数は多くない。単に女友達と彼女のボーダーラインが薄いだけなんだよ」

「どういうことだ?」

「アンツィオ男子の鉄則の一つはレディ・ファースト。女友達でも大切に扱う。食事にも遊びにもしょっちゅう誘うし、その時の料金は男子持ちと言うのが暗黙の了解だ。アンツィオじゃスコアが通貨替わりに仕える店が多いからな、パイロットは遊ぶために敵を撃墜してスコアを稼ぐ。他所から見たら、アンツィオ生一人につき大勢彼女が居るように見えはするが、内実本命は一人ってやつの方が多い。黒森峰はどうなんだ?」

「黒森峰の場合、男子は苦労する。何せ、ほとんどの女子が戦車道に関わっているからな。外見は可愛くてもヘタな男子よりも男子らしい連中がごろごろいる。それに、西住流戦車道の本流だけあって軟派な男子は歓迎されない。浮気したらそっちはビンタで済むだろうが、こっちは大口径徹甲弾が飛んで来るか、重戦車に踏みつぶされる」

「そいつは過激だな」

「ただし、その分好きになったら一直線ってのが多い。パッと見大人しそうでも、ぐいぐい来る。それこそ、無停止進撃ドクトリンみたいに」

 

「それはプラウダじゃないのか?」とフェラーリンが笑い「ドイツの機動突破戦術も元をたどればブルシロフ攻勢さ」とリヒターが受け流す。

 

「ズーク隊の、何だったか。ほら、Do335でケツ擦ってペラ飛ばしてたアイツの」

「マイスターか?」

「ああ、それそれ。マイスターの彼女はその典型例だな。戦車道じゃなくて図書委員だが、積極さで言えば他と遜色ない」

 

「本人が聞いたら、彼女じゃねぇよとか言い出すだろうなぁ」とヘクサーは苦笑い。横から見れば只のカップルだが、丸藤はどうにも踏ん切りがつかないようだ。自分も人の事は言えないが、十分ヘタレと言えるだろう。

 

「それで、クラウン隊はどうなんだ?」

「何が?」

「とぼけるな。話の流れからしたら一つしかねぇだろう?」

 

 首を傾げたリヒターにフェラーリンが少し身を乗り出す。最初はとぼけてみたリヒターだが、別に隠すようなことでもないので「残念ながら独り身だ。目標も今のところ居ない」と返す。必然的に、ロッソ2の標的は隊長の向かいの席で何杯目かのビールを傾けているヘクサーへと向かった。

 

「じゃあ、ヘクサーは?」

「…リヒターと同じだ」

「本当に?」

 

 それまでだまって話を聞いているだけだったポルコがニヤリと人の悪い笑みを浮かべながら正面を見る。口は笑みを作っているが、両方の瞳には真剣な光が宿っていた。思わず視線をそらしてしまい、誤魔化すようにジョッキを傾け、一呼吸開ける。

 

「本当だ。特に狙ってる女子はいない」

「……そうか、ならいい。念のため言っておくが、もしそう言う人を見つけたら、直ぐに声を掛けろ。空戦と同じだ、様子見を決め込んでたら別の奴にスコアをかっさらわれる」

「経験あるのか?」

「ハッ、バカ言え。隣のバカの教」

「おいポルコ。喧嘩売ってるんだな?そうなんだな?最高値で買ってやるから可及的速やかにハンガー裏まで付き合え」

 

 額に青筋を立てたフェラーリンがにこやかな笑みを湛えつつ親指を後方へと向ける。戦闘機が無い今、模擬戦という名の空中戦は出来ないため正真正銘のリアルファイト。

 

「冗談だ、飲み過ぎじゃないのか?フェラーリン」

「ノンアルに飲み過ぎもクソもあるかよ」

 

 パシャリと言う作動音と共に、視界が一瞬漂白されたのはその時だった。4人のパイロットは不意打ちのフラッシュの出所へと顔を向けて、カメラを構える人物を視野に入れる。その瞬間、2人のパイロットはそろってため息を吐き出したのだった。

 

「おいおい、そんなにデカいため息吐かなくてもいいじゃないの」

「いきなりフラッシュたかれて振り返って、緊張感のないひげ面のオヤジの顔が見えたら反射的に出ないか?てっつぁん」

「憎まれ口を叩けるところを見ると、まだまだ余裕そうじゃないか」

 

 へらへらと笑いながら、空いている席に着いて自己紹介。アンツィオ主催の晩餐会には原則として誰でも入れるが、一記者が乗り込んで来るのは稀だったのかロッソ隊のメンツは顔を見合わせる。

 

「それで、面白そうな話してたみたいだけど。続けてもらえる?おじさん置物になっておくから」

「拒否する。その前に、なんでアンタが此処にいるんだ?」

「残念ながら、お前さんの取材じゃない。今回は、ほれ、向こうのグリューン隊を追っかけて来たんだ」

 

 無精ひげが生えた顎をしゃくった先には、アンツィオ新聞部の取材を受けているパイロットのグループがあった。リーダーと思われる男は真摯に記者の質問に答えているが、その眼は何処か目の前の記者の一団を値踏みするかのような雰囲気を感じさせた。

 

「黒森峰空軍道第1戦術戦闘航空団第3飛行戦隊第8飛行隊グリューン。アイツはグリューン1、TACネームはラウディ。中学時代は名の通った不良だったが、今では黒森峰空軍道の厄介者を集めた飛行隊、統制された愚連隊のリーダーだ。敵を落とす事よりも生き残ることに重点を置き、通算撃墜機数は3年目開始現時点で105機。グリューン隊は第1戦術戦闘航空団でも新参者で奴が初代隊長だが、毎年部隊全体での撃墜機数は200を優に超える。1年で20機落とせば十分優秀なパイロットってなる空軍道じゃあ破格さ。つっても、目の前に半月と少しで27機ほど叩き落してる異常者には負けるがな」

 

 フェラーリンが「27機!?」と素っ頓狂な声を上げる。ポルコも顔には出さないが少し目が細くなり、驚いているようにも見える。

 

「ああ、そういえばそんなに落としていたっけか?」

「覚えてなかったのかい?」

「一々自分の撃墜数とか見てない。スコアもあんまり使わないから詳しく見ていないし」

「おじさんとしちゃあ、なんでお前等にスポットが当たらないのか不思議でしょうがない。せっかく特務戦付になったのに、副司令官閣下からは”此方が要請するまで記事にするな、ただし記録は取っておけ”と来たもんだ。ジャーナリストと伝記作家を間違えてないかね?」

 

「知らねーよ」とツッコミを入れてビールをあおる。もしかしたら航空団ぐるみで隠ぺい工作でもやっているのかもしれないが、それならそれでいい。記者連中に囲まれるなど、想像しただけで虫唾が走る。

 テーブルに大人――だらけ切ったという枕詞が付くが――が混じったところで、会話の内容に大きな変化は見られない。時折、ヘクサーとジャーナリストの間で毒舌の応酬が交わされる程度。大皿の食事を食べきり、時間も余ってしまったためフェラーリンが取り出したトランプでブラックジャックが始まっていた。加太(てっつぁん)がディーラーとなり、予備のトランプを掛け金代わりにする。数回勝負をした後、ふとヘクサーが端に退けられた1枚のジョーカーに気づく。

 

「ん?なんでジョーカーが1枚だけあるんだ?」

「アンツィオのローカルルールの一つさ、1枚だけジョーカーを入れておく。まあ、一種のワイルドカードだ」

「ブラックジャックでワイルドカードは反則だろう?引いたら勝ちじゃないか」

「ところが、そううまくはいかない。ジョーカーをワイルドカードとして扱えるのは2枚目に来た時だけだ。大体が貧乏くじさ」

「それ以外の時は?」

「引いた時点で負け。現在持っているポイントの5分の1を失う。2枚目にワイルドが入った場合はワイルド・ブラックジャック、ディーラーがナチュラル・ブラックジャックだろうが問答無用で勝利しそいつ以外のプレイヤーも強制的に負け。他プレイヤーの掛け金と、自分の掛け金の3倍が帰ってくる」

 

「糞ルール乙」と不満をこぼしつつ、時間的に最後の勝負となりそうなので全額をベットする。他もヘクサーと同じ考えなのか、全額賭け。「これで負けたら破産だな」と加太が零し、手慣れた手つきでカードを配っていく。順番的に最後になったヘクサーのカードはクラブの6、1枚目にしては中々微妙だろう、次のカードが絵札や10なら悩みどころだ。自分以外のメンツは、リヒターはハートのJ、ポルコはダイヤの8、フェラーリンはクラブの8。ポイントではヘクサーが最下位だったが、1位との差はあまり大きくなく、射程圏内。ディーラーの手札はハートのK、勝負運はよそ見をしているらしい。

 プレイヤーに2枚目のカードが配られ始める。リヒター、ポルコ、フェラーリンの点数は19、20、18と高い、最後の1枚が配られようといた時、周囲に取り付けられたスピーカーが耳障りなハウリングの音を立てる。

 

『あー、宴もたけなわではあるが、あまり騒ぎすぎると近隣住民から苦情が来るのでここでお開きとしたい。私はアンツィオ空軍道第1航空団第1航空群第1飛行隊バストーニの1番機、フランコだ。まずは、敵でありながら我々の招待に答えてくれた、黒森峰、サンダースの精鋭諸君に感謝したい』

 

 空軍道では名目上の主将として短縮部隊番号が最も小さい部隊の隊長機が務めることになっていた。短縮部隊番号はコンソールや基地の表示板などで使用される3桁の数字と英語でつづられた識別名で、例えばグリューン隊の場合第1戦術戦闘航空団第3飛行戦隊第8飛行隊である為、138th-TFSと表示される。黒森峰の場合は111st-TFSのインディゴ1が名目上の主将となっていた。なお、クラウン隊の場合は特務戦闘航空団第3飛行戦隊第9飛行隊である為、E39th-EFSと表示された。

 

『我々は精鋭諸君らとこうして卓を囲むことが出来た事を誇りに思う。もし、アンツィオに観光に来ることがあれば我々は再び諸君らを歓迎することを約束しよう』

 

 ヘクサーが首を巡らせあたりを見ると、声の主は自分達とは反対側の観客席にある演説台の上に立っているのを見つけた。アンツィオ生らしい陽気さの中に、空軍道履修者としての覇気が見え隠れしているのは、流石は主将と言ったところだろう。

 

『諸君らの機体が母校に帰った瞬間から、我々は再び敵同士となる。我々が仰ぐ旗はそれぞれ異なるだろうが、今はこう表現することを許してほしい。また空の上で会おう!そして幸運を!戦友諸君!』

 

 アンツィオ主将の演説の後、喝采と拍手がコロッセオに充満する。ある種の熱狂に支配された周囲を見回し、加太は少し肩を竦めた。

 

「黒森峰じゃ、考えられない光景だな。ま、偶には騒いでガス抜きも必要…か」

 

 そうつぶやいてヘクサーに渡すカードを捲る。他の4人は周りに気を取られてディーラー役の小さな笑みに気が付かなかった。

 なるほどね。見方によって最悪と最強がころころ変わる。流石はアンツィオ、ネーミングセンスは悪くない。

 カードの束の上で表になっているのはジョーカーのカード。表面に描かれたモノクロの道化師が、ほんの少し笑みを深くしたように思えた、

 

 

 

 

 

 

 

 




因みに後ろのTFSやEFSは

戦術戦闘飛行隊 Tactical Fighter Squadron
特務戦闘飛行隊 Extra Fighter Squadron

の略です。特務なのにSpecialやMissionじゃないのは
特務戦の場合寄せ集めの余剰部隊と言う意味合いが強いためという
お寒い事情が有ったりなかったり。

黒森峰での他の飛行隊の表記は以下の通りです

爆撃飛行隊 Tactical Bomber Squadron
襲撃飛行隊 Raid Attacker Squadron
夜間戦闘飛行隊 Night Fighter Squadron
防空戦闘飛行隊 Intercept Fighter Squadron

部隊名を一々思い出さなくても、3つの英単語の内の
真ん中がFかBかAかでおおざっぱな機種を判別することが出来ます

Q:本音は?
A:戦闘妖精雪風の
第一六六六戦術戦闘飛行隊グールが
666th TFSって略されてたのがカッコよかったんやorz


次は戦車道との合同戦ですかね(真面な戦車戦があるとは言ってない)

ではまた ノシ

Intercept案を出していただいたV4AS様、ありがとうございましたm(__)m

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