ボーイズ&ルフトヴァッフェ~空の道化師~   作:Ocean501

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第2話投下ー

暫く拠点回が続きますorz


Mission02 女王バチと道化師

「ところで、司令。何故あなたが此処に?」

「おやぁ、私がいるのがそんなに不思議かね?」

 

 司令と共に管制塔へ向けて歩いている最中、椎原は隣を歩く雲の上の存在に言葉を投げかける。空軍道において、教師は基地司令や航空団司令と言った役職に付き、パイロットや整備兵、航空管制官として所属する生徒たちの指揮を執り、軍に似せた階級が与えられる。空軍道において中将と言う階級は一つの航空基地全体の指揮を取り、間違っても1パイロットの到着に自ら赴くような階級ではない。

 

「いやなに、深い意味はないさ。何を隠そう君をウチに引き抜いたのは私でね。サボりがて、もとい顔だけでも見ておこうかと思ったのさ。大変だったんだよ?プラウダ(共産趣味者)の連中も君を欲しがってたからね」

「貴方が原因か…」

「何か?」

「いえ何も。しかし、期待通りの働きが出来るかどうかはわかりませんよ。それに」

「椎原君、その点について私は全く心配していない」

 

 こちらの話を遮った基地司令の声は先ほどと変わらず柔らかい物だったが、何故か口をつぐんでしまう奇妙な凄みが存在した。

 

「君はここで、君らしく飛べばいい。そのために、私は君をここに呼んだのだから」

 

 この守屋と言う基地司令は、数十年前黒森峰のトップエースだったという噂を耳にしたことがあるが、なるほど、その噂はあながち間違いではなかったらしい。

 

「…ありがとうございます」

「そんな事より、君。いや、君の部隊には少々問題があるんだよ」

「と、いいますと?」

「君が所属するヴュルガー・シャンツェには、主戦力として黒森峰特務戦闘航空団が配備されている。使用機種は主にBf109とFw190で学園の防空、および侵攻作戦に投入されるんだが…まあ、要するに侵攻担当の第1基地、防空担当の第2基地のお手伝いと言うわけだ」

 

 空軍道での高校同士の戦いは、洋上での制空戦の他に学園艦に対する航空攻撃も存在した。多くの学園艦ではこの役割を基地ごとに分担し、航空機の配備もそれに従っている。例えば、知波単学園では、侵攻作戦を行う基地には足の長い海軍機が多く配備され、防空戦闘を行う基地には上昇性能が高く軽快な陸軍機が多く配備されていた。黒森峰学園にある3つの基地の内、第1航空基地(アドラー・シャンツェ)は主に他学園艦への侵攻作戦に投入され、第2航空基地(シュヴァルベ・シャンツェ)は防空に投入されていた。

 

「とはいえ、侵攻も防空もバッカスカ落とされるからねぇ、航空機の補充はこの2つの基地へ優先されるのさ。つまり、あくまで戦略予備の遊撃戦力な第3航空基地は」

「機体が定数割れしていると?」

「その通り。本来ならば12機で1個飛行中隊を作りたいところなんだが。何分、私が急に君を引き抜いてきたから…」

 

 申し訳なさそうに守屋は白髪を撫でつけた。

 

「君の僚機は今のところ未定だ」

「了解しました」

「ほぉ?案外落ち着いてるね」

「大所帯に放り込まれて見世物パンダ気分はもうたくさんですので」

「大変結構!肝が据わっているパイロットは頼もしい!」

 

 やれやれと肩をすくめる椎原の背中を、笑ってバシンと叩いた守屋は、内心ため息をついた。これは、随分前の学校で苦労したな、と頭の片隅で分析癖が頭をもたげる。

 

「まあ、何時までも単機と言うわけにはいかない。どこかから適当に引き抜いてくるさ。っと」

 

 守屋が視線を投げかけた先を見ると、ひとりの男性が管制塔のエントランスから出てこちらへと走り寄ってくるのが見えた。目鼻立ちがくっきりとしており、長めに伸ばした金髪が空港内を吹く風に揺らめく。少なくとも日本人ではない様だったが、開いた口から飛び出たのは流ちょうな日本語だった。

 

「司令、出迎えに行くならひと声かけてください」

「嫌ぁ失礼、まだ戦隊の書類仕事をしているのかと思ってね。椎原君、彼が君の所属する戦隊の戦隊長だ。名前は」

「ジョン・ハンソン少佐だ。よろしく」

「椎原博です。よろしくお願いしますハンソン少佐」

 

「少佐で構わん、そっちの方が気楽でいい。なんならジャックでもいいぞ」そう苦笑してラフな敬礼を返す。その後すぐに、彼の隣に立つ守屋に避難がましい視線を投げかけた。

 

「司令、いきなり執務室から姿を消さんでください。決済の書類を抱えた生徒が探し回ってます」

「おおっと!持病の腰が!ちょっと整体へ」

「執務室に整体師も到着しているそうですよ。それと准将閣下からの伝言です。”執務室ごとR4M(オルカン)で吹き飛ばされたくなければさっさとやれ”という事です」

 

 少佐からの死刑宣告に近い言葉にハァーっ、と大きなため息をついて肩を落とす。逃走は完全に失敗したらしい。

 

「あの女王バチならやりかねんなぁ…ああそうだ、椎原君。少佐と一緒に女王バ、もとい准将に挨拶に行ってきなさい」

「女王バチ、と言うと特務戦闘航空団の指揮官は女性なので?」

「見眼麗しい女性と期待するのは無駄だぞ。食えないしわくちゃ婆さんさ」

「司令、貴方も人の事言えないでしょうに」

「フン、少佐。一流の男は”老い”すら楽しみ、己の魅力と出来るモノなのだ!」

 

 芝居がかった台詞も、この男が言うと無駄に絵になった。少佐があきれ顔で残念な真実を告げるまでは。

 

「先週の胡散臭い教師ランキングでは2位にトリプルスコアつけて1位でしたが…」

「あーあーきこえなーい。じゃあ諸君!また会おう!アデュー!」

 

 

 嵐のように走り去っていった姿によって、椎原の彼に対する印象は固まった。

 

 ――2枚目半、いや2.75枚目ぐらいか

 

「あー、まあ、あれでも昔はエースパイロットだったらしいし、やる時はやる人だ。行こうぜ、ヘクサー」

「ヘクサー?」

「お前のTACネームだ。ドイツ語でHexer(魔術師)、中々いいだろう?」

 

 空軍道において、パイロットはそれぞれTACネームを付けて呼び合うのが習わしだった。空軍道が西側陣営で始まったこともあり、このようなあだ名をつける慣習が広まっていた。なお、このTACネームは自分でつけるよりも配属された部隊の戦隊長によって命名されるのが一般的であり、原則としてその学校に所属している間は変わらないものだった。

 

「ペテン師にならない様に努力しますよ。少佐」

「ああ、そうしてくれ。それじゃあ、行こうか。女王バチの玉座へ」

 

 

 

 

 道すがら、少佐から黒森峰学園空軍道に所属する部隊について説明を受けた。

 黒森峰航空部隊は主に7つの航空団からなっている。第1、第2は主に戦闘機によって構成される戦術戦闘航空団でBf109やFw190などが配備されており主に制空任務を担当する。第3はHe111やJu88など中型の双発爆撃機によって構成される爆撃航空団。第4はJu87やHs129などの急降下爆撃機や襲撃機によって編成された急降下爆撃航空団。第5はBf110やMe410等の双発重戦闘機によって編成された駆逐航空団。第6、第7は防空戦闘航空団ではあるがFw190A5やMe163など防空任務に適した機体が多く配備されていた。第1航空基地には第1、第2戦術戦闘航空団と第3爆撃航空団および第4急降下爆撃航空団が所属し、第2基地には第5駆逐航空団、第6、第7防空戦闘航空団が所属している。のこった特務戦闘航空団は様々な航空機が混在しており、第3航空基地に配備されている。

 

「とまあ、ざっと定数が完全にそろえば1080機が我ら黒森峰学園航空部隊全軍と言うわけだ」

「実際は?」

「資金難で完全充足の部隊なんて爆撃機部隊の連中と1、2戦術ぐらいだな。第2航空基地の部隊の充足率は良く見積もって8割と言ったところで本部編隊なんて贅沢なものはない、特務戦にいたっては、充足率は6割以下だ」

「あー、少佐。もしかして」

「ご察しの通り、特務戦闘航空団とは聞こえの良い物の、内実は正規航空団から出た余剰品、規格外品、不良品、廃棄品に旧式機を寄せ集めてニコイチ整備した機体が大半だ、因みにお前が所属する第3戦隊は特務戦でぶっちぎりの低充足率部隊だ」

「それ、戦隊なので?」

「お前が一個飛行戦隊分の仕事をすればいいのさ」

「無茶言わないでください」

 

 冗談交じりの会話を交わしつつ屋内滑走路の脇に取り付けられたエレベーターを使って天井まで上がる。鉄骨で覆われたエレベーターシャフトからは、学園艦を貫く滑走路の姿が一望できる。

 

「第3基地は学校の近くに作ったものだから敷地が足りなくてな、もう一本の滑走路を地下に作ることになっちまったんだ。まあレシプロ機ぐらいなら楽に発着できる」

「格納庫は何処に?ここから見えるハンガーはやけに少ないですが」

「第1、第2滑走路の地下にそれぞれ格納庫がある。滑走路横のハンガーはスクランブルの待機や弾薬の補給、さっきのJu52みたいな定期便の受け入れ用だ」

 

 少佐が顎で指示した先では、先ほど自分が乗ってきた輸送機が燃料補給車から離れ、誘導路へとタキシングしていく。

 エレベーターを降りた先、人二人が並んで歩くだけで窮屈さを感じさせる空中回廊を通り管制室と書かれたドアをくぐる。地上から見えた天井にぶら下がる形の管制室は思ったよりも閑散としており、数人の管制官が無線交信を続けていた。

 

「ここが管制塔、第2滑走路の担当だ」

「何故管制塔へ?」

「ここから行く方が近いのさ」

 

 こっちだ、管制室の中央にある螺旋階段へと歩を進める。一段上がった其処は別世界だった。

 

「ヴュルガー・コントロールよりスカイアイ。グール隊に帰投命令を」

『こちらスカイアイ、了解』

「タワーより、ミンクス1から4、高度制限を解除。グッドラック」

「アプサラス隊、全機格納庫への収容完了」

「タワーよりミルキー1、着陸までは少し待ってくれ。お客さんを先に離陸させる」

『こちらミルキー1、燃料にあまり余裕はない。第1は使えないのか?』

「ネガティブ。着陸に失敗してランディングギア()折ったバカの後片付け中だ。」

『はぁーっ、了解!ミルキー1、旋回待機』

 

 長方形の部屋は薄暗い上に天井が高いのか上が見通せず、長辺を形成する両側の壁にはずらりとコンソールが並び管制官役の生徒たちがせわしなく目と手を動かしている。短辺に位置する巨大なスクリーンには周辺空域のレーダー画面が映し出されている。画面上では4つの光点が滑走路から離陸し学園艦周辺の哨戒コースへと向かっていく。

 

「ここが第3航空基地、ヴュルガーシャンツェの心臓部である司令室、ヴュルガー・コントロールだ、航空基地周辺の管制も兼ねている。そして…」

「少佐、遅かったわね」

 

 かけられた声の方を向くと、長方形の部屋のちょうど中央部。光源が埋め込まれた八角形の会議用らしき机の傍の椅子に腰かけた女性がこちらを見ていた。守屋が言うには”しわくちゃ婆さん”らしいが、切れ長の瞳は狡猾かつプライドの高い狐を連想させ、想像していたよりもずっと若々しい印象を受けた。スッと立ち上がり2人の目の前まで歩いてくる。

 

「椎原博です」

「特務戦副司令の栗林よ。階級は准将、執務室で話しましょうか」

 

 

 

 副司令執務室――1面はガラス張りの壁になっており、先ほどの司令室が見渡せる――に入ると、准将は2人に飲み物を進めた――もっとも、セルフサービスだったが――椎原はコーヒー、少佐はココアを淹れ、来客用のソファに座る。

 

「ようこそ特務戦へ。任務内容は聞いていて?」

「はい、第1、第2基地の戦力を補完する事が主任務と聞いています」

「結構。それでは、特務戦の編成の話をしましょうか」

 

 特務戦闘航空団は第1から第3の3つの飛行戦隊を持ちそれぞれの傘下に3つずつ飛行隊が存在する、しかしその内実は張りぼてと言って差し支えないものだった。第1飛行戦隊の3個飛行隊こそ12機の定数を満たし総数36機だが、第2飛行戦隊は8機ずつの合計24機、第3飛行戦隊に至っては6機と4機の2個飛行隊、総勢10機。

 

「貴方には第3飛行戦隊の第9飛行隊、その1番機を務めてもらう」

「なぜ部隊を分けるのですか?」

「第7飛行隊はBf110の駆逐飛行隊、第8飛行隊はJu87の急降下爆撃飛行隊よ。Bf109でヤーボの真似事でもしてみる?」

「なるほど」

 

 そして、と准将は机の橋に置いてあったファイルに手を伸ばす。

 

「これが貴方に与えられる機体。見たことは、あるな?」

 

 ファイルを開くと、見知った航空機の三面図と諸元表だった。液冷機特有の突き出されたノーズ、三枚羽のプロペラ、戦闘機としては小柄な機体。欧州機によくみられるスマートな液冷エンジン機で、一目でその機体に名前が頭に浮かぶ。

 

「Bf109E-1ですか…」

「不満か?」

「ええ、まあ」

 

 Bf109E-1。ルフトヴァッフェを支え続けたサラブレッドの1機で、ダイムラーベンツ製の水冷発動機DB601Aを搭載したE型の初期型だった。想定されていたモーターカノンの搭載に手間取り、取り敢えずの策として機首と両翼に2丁ずつ、合計4丁の7.92㎜機関銃(MG17)を搭載した型だった。最初期の空軍を支えたが、バトルオブブリテンが始まる頃には20㎜機関砲(MG FF/M)を搭載したE-4型に改装されていった。戦闘機相手ならば何とでもなるが、大型機を相手とするとなると

 

「火力不足、ですね。F型(フリッツ)とは言いませんが、せめてE-3以降の20㎜搭載型が欲しいです」

「無理だな。聞いているだろう?ここは規格外品の吹き溜まりだ、しかし」

 

 にやり、と女性が浮かべるには少々邪悪な笑みを浮かべる。なるほど、守屋司令が何故しわくちゃ婆さんと言ったのが納得できた、今の准将の顔は悪だくみをする老魔女にしか見えない。

 

「学園側も戦果を挙げたパイロットに何時までも旧式機を使わせるわけには行かない。一応は戦車道と肩を並べる花形だからな」

「新型機が欲しければ、英雄(エース)に成れと?」

「そういう事。それと、我が航空団のモットーも守ってもらわねばならない」

 

 准将の指先がファイルの表紙に印刷されたエンブレムを叩いた。

 

「何があっても必ず帰還する事。味方を見殺しにしようが、囮にしようが、任務に失敗しようが必ず帰還せよ。片翼が吹き飛んでも帰ってくるのであれば構わない」

 

 ブーメランを加えた百舌鳥。それが特務戦術航空団のエンブレムであり、基地のエンブレムとしても使用されている。ブーメランのように、必ず手元に戻ってくることを祈願して取り入れられたのかもしれない。

 

「何度も言うが、特務戦に供給される機材の大半は正規航空隊のおさがりだ。部品や消耗品はともかく機体そのものの供給は全くと言っていいほど安定しない。それに、パイロットもそう多くないから戦死判定や重症判定を受けて1か月や2週間も飛行禁止になってもらっては困る」

「了解」

「そして、これが貴方の部隊」

 

 バインダーから取り出した書類を椎原の前へと滑らせた。書類の中央にはナイフをジャグリングする道化師のイラストが描かれている。

 

「手違いで王冠じゃなくて、道化師になってしまったけど。どうする?今ならまだ替えが効くわ」

 

 無言でイラストが描かれた書類を手に取り眺めてみる。モノクロで描かれたためか、より恐ろしげな印象を与える道化師は見るモノを嗤っているようにも見えた。

 

「いえ、気に入りました。王冠よりも好みかも知れません」

「結構、活躍を期待しているわ。クラウン1」

 




という事で主人公の初期機体はBf109E-1となりました
7.92㎜4丁のAP-Tで大戦初期の戦闘機なら十二分に戦えます
え?爆撃機?………あふれんばかりのゲルマン魂をもってすればカモですよ(震え声

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