ボーイズ&ルフトヴァッフェ~空の道化師~   作:Ocean501

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ドーモ、オーシャン501です

今回は若干過去を明かしてついでに闇も見せる回です
椎原家のちょっとした設定が明かされます


Mission23 決意再考

 

「君たちが事故に会って、君が何も言わずに熊本を出て行った時の二人の悲しみ様は酷いものだったよ」

 

 常夫に連れてこられたのは郊外に位置する墓地だった。もともと博もここに来る予定だったので都合がよく、2人は物言わぬ墓石の間を歩きながら目的地を目指す。

 

「みほはワンワン泣くし、まほは涙を流す代わりに戦車道に打ち込んだ。そうでもしないと自分を保てないというようにね、ほかの事で頭をいっぱいにしたかったんだろう」

 

 様々なことを背負い込みがちな彼女らしいと感じてしまう、姉としての意識も、西住流の長女としての義務感もあったのだろう。歯を食いしばって理不尽極まりない現実に耐えた。

 

「でもね、一度だけ。たった一度だけだけど、僕の前で泣いたことがある」

 

 二人の足が自然と止まる。目の前には航空事故による死者を悼む石碑。その端のほうに、目当ての名前が3人分存在した。遺体なぞ存在しない、航空事故ではよくあることだ。ここにあるのは巨大な石碑に刻まれた記号に過ぎない。それでも、死者を悼む生者にとっては十分以上に機能しているのか、石碑の前には真新しい花束やお菓子の箱、酒やタバコなどのお供え物が並んでいる。

 最後にここに来たのは、高校に入学する前だったか。叔父の家から電車とバスを乗り継いで花を供えた、冷たい雨が降った3月の事だと記憶している。鉛色の空から落ちて石畳や墓石にあたる雨粒の音が物悲しく響いていた日だった。忘れるはずもない。

 短い黙祷を済ませる。太陽は中天を過ぎたころで、爽やかな5月の風が周囲の木々を揺らしさわさわと音を立てて吹き抜けていく。

 

「会いたいと、ただ一言だけ。まほはしほに似て強いところもあるが、もろい部分も彼女以上にある」

「俺は弟の、満の代わりには成れません」

 

 博の視線の先には、”椎原満”と刻まれている。その物言わぬ石碑の疵が、この場で自分の弟がこの世に存在したことを示す唯一のものだった。今でも、両親の顔と双子の弟の顔ははっきり思い出せる。快活で、何をするにも突拍子がなくて、天才と謳われた人間はもういない。残ったのは空を飛ぶことしか能のない人間だ。その人間は顔が映るほど磨かれた石碑の向こう側で、じっとこちらを見つめている。

 

 

 

 

 

 

「椎原満?藪から棒にどうしたんだ?」

 

 生徒たちが陸に戻ってしまい、めっきり人気の少なくなった校舎を望むことができるヴュルガー・シャンツェの管制塔横展望台で、まったく予期しない方向の話を振られた加太はまじまじと隣でココアの入ったカップを傾ける男を見てしまう。

 

「ヘクサーの事を調べていてな。苗字が同じだったからまさかとは思ったが、あの椎原満の兄だったのか」

「ああ、そうだ。間違いない。馬鹿弟子の弟だよ、そいつは」

 

「懐かしい名前を聞いたな」とタバコをふかす。電子機器の巣であるハンガー内では気を使って電子タバコだが、完全な屋外なら話は別だった。顔の前に揺らめいた煙はすぐに海風にさらわれていく。

 

「あいつが昔に言っていたよ。理不尽という言葉は椎原満のためにあるってな。小学生の頃にはすでに大学レベルの知識を身に着けていたのに、まだまだ働きたくねーとばかりに絶対に飛び級はしなかった。椎原満を手に入れるために大学や研究機関、それに企業の連中が水面下で蠢動し、奴を獲得した組織はほかの組織を突き放すとまで言われていた」

「熊本の天才少年としか知らなかったが、そんなにか。まるで次世代のキーマンじゃないか」

「まるでじゃねぇさ。本当にその通りだったんだよ。馬鹿弟子は何時も何時も弟と比較されてうんざりしていたようだ、救いとしては本人が”此奴には絶対に敵わん”と確信していたところかね。んまぁ、後はお前さんも知ってる通り彼らが小6の時に乗っている自家用機が墜落して、実証試験中だったスぺリオス・オケアノスの空軍道救難飛行艇にヘクサーだけが救助されたというわけだ」

 

 スペリオル・オケアノス。空軍道においてスピットファイアなどをはじめとする英国系航空機、フライトコンピュータの製造を行っている最大手メーカーの一つだった。なお、黒森峰が主に買い付けを行っているドイツ系航空機の大手メーカーであるBBMとは犬猿の仲だったりする。

 

「それにしても、なんでそんな事聞くんだ?」

「ヘクサーがなにやらマホと仲が良いようだからな、揶揄おうと思ってカマ駆けてみたんだよ。そうしたら「俺は満じゃないからな」って言ったんだ。まあ、言ったすぐ後に訂正していたから何かあるとは思っていたが」

「すると、なんだ。西住まほと椎原満はできてたって訳か?」

 

「こいつは面白い」と他人事のように笑う加太に、少佐は納得がいかなさそうに首を横に振った。

 

「俺はどうにもそうは思えん。ヘクサーがハード・ランディングしたとき偶々マホもここにいたんだが、あの心配様は尋常なものじゃなかったぞ」

「んー、そうなると………はっ!似たもの夫婦ってセンもありうるか」

「どういうことだ?」

「ほっとけ」

 

「は?」と理解できないという風にボケた声を出すジャックにかまわず、近くにあった灰皿で吸い切ったタバコの火を消して始末し歩き出す。

 

「あの馬鹿弟子、どうも恋愛方向になると途端にヘタレるらしい。サバイバーズギルト、勘違い、すれ違い、理由は腐るほどあるだろうさ。だが、肝心なモノが見えちゃいねぇな」

「おい、どういう意味だよ。それは」

「言っただろ、”放っておけ”。教師魂見せて恋愛相談もいいかもしれんが、当人に任すのが一番だ。面倒な色恋沙汰は関係者になるより傍観者になったほうが楽だし面白いぜ」

 

 

 

 

 

 

 

「怖くて逃げた、と言うのが適当でしょうね」

「何がだい?」

 

 どれほど、石碑の中に映る自分を見つめていたのだろうか。思いを寄せている人物が必死に喪失のショックに耐えている中、真っ先に逃げ出した椎原博という卑怯者の道化の姿を。

 

「”どうして、満じゃないんだ”そう言われるのが恐ろしかった。その問いに対する答えは俺も持っていないし、俺自身もその答えが解るものなら知りたかった。誰がどう見ても、あの4人の中で生き延びるべき人間は誰なのか口をそろえるでしょう、もちろん、俺もその一人です」

「博君、まほは」

「そんなことは言わない。と、どうして言えるんですか?」

 

 言葉に詰まる。あの時、自分の腕の中で声を殺して泣いている娘が誰に会いたがっているのか、自分には判断がつかなかった。彼方此方を飛び回り碌に面倒を見てやらなかった父親への報いだと思って今日まで過ごしてきた自分には、目の前の少年の言葉を否定する証拠を持っていない。

 

「黒森峰で再開した時から、西住は良くしてくれています。子供のような理由で逃げた俺を、まだ気にかけてくれている。けれど、内心ではどう考えているのやら」

「……しほは、君を許していないし、家にも入れないだろう」

「貴方も、でしょう?」

 

 小さく笑って振り返ると、苦々しい顔をした常夫の姿が目に入った。普段工具を握る手は関節が白くなるほど強く握りこまれていたが、フッと力が抜かれ脱力したようにぶら下がる。

 

「ああ、そうさ、いやそうだった。理由を聞くまでは一発殴っておきたいのが本音だった。けれど、君の言っていることもわかる気がするんだよ。僕が君の立場だったら、ここに残ったと断言はできない」

「貴方なら残りますよ。残るような人だから、しほさんは常夫さんを選んだんですから。それに対して、結局俺は逃げた、それは西住という家が最も嫌うことでしょう。本音を言えば意外ですよ、もう二度と西住に会うな、転校しろと言われると思ってましたからね」

 

 博の口の端に微笑を浮かべる。その笑みは冗談を言っているようにも、過ちを犯した自らを嘲っているようにも見えた。

 

 

 

 墓地を抜けて車へと乗りこむ、西住邸までは20分程度だ。大事に乗っているのか、子供の頃には既に西住家で動いていた古い車にもかかわらず、エンジンはスムーズに回り始める。

 

「君はこれからどうするんだ?いや、どうしたい?」

「満は俺と同じで空が好きでした。学も運動神経もアイツ以下ですが、パイロットとしては幸いなことに足元程度には至れます」

「いや、そうじゃない。まほの事についてさ。好きなんだろう?」

「……本人より先に親に知られるとは、いろいろと台無しですね」

 

 一つ大きなため息を吐く、我ながら未練がましいことこの上ない。ウジウジ悩むのが他人だとイラつくだけで済むが、これが自分だと惨たらしく殺したくなる。そんな様子の親友の息子に、思わず笑みがこぼれてしまう。一途なくせに少々奥手な部分は彼にそっくりだった。

 

「僕としては、君とまほがくっついてくれれば万々歳なんだが」

「つい10分前に貴方が何言ってたか覚えてます?」

「もちろん、君を許したわけではないさ。何方に想いを寄せているのかハッキリしないが、君が姿を消してまほが悲しんだことは事態は事実だ。親として君にいい感情を持たないのは当然の権利さ。けれど、それとこれとは別だ。君、さっき怖かったから逃げたって言ってたけど、理由は他にもあるんだろう?例えば、自分の姿を見てまほが満君の事を思い出して悲しまない様に、とか。できる限り椎原兄弟を早く忘れるようにとか」

 

 図星だった。基本的に緩い雰囲気の人だが、こういう時の洞察力は高空からダイブしてくるサンダーボルトより鋭い。先ほどまでの呆れたような視線を外にそらし「そんな事考えられるほど余裕はありませんでしたよ」と恍けておくが、「じゃあ、そういうことにしておこう」返される。予想でもなんでもなく、彼にとっては確信なのだろう。

 

「久しぶりに話してみてわかったよ、君は昔と何一つ変わってない。もし、まだあの娘のことを想ってくれているならもっと強くなって、英雄になってほしい」

「彼女が好きなら、しほさんを始めとする西住家を実力でねじ伏せて見せろ、と?」

 

「その通り」と機嫌よくうなづく。

 

「実のところ、この頃見合い話が多くて辟易していてね。戦車を卸している大企業の息子や、空軍道の流派の子息とかね。ぜひ一度会ってみてくれ、常夫さんからも言ってやってくれってうるさいのなんの。家柄は確かに満点だろうが、人柄も知らないボンボンに大事な娘をやれるかってんだ」

「いや、常夫さんみたく入り婿でしょう」

「気分の問題では大して変わらない。見合いを進めてくる親戚連中は君の事を西住から逃げた敗北主義者と言っているが、僕にしてみれば奴らは大事な娘を道具としか見てない権力の亡者どもだ、そんな奴らの息のかかった男と見合いをさせる?B-29のコンバットボックスにHe51で突っ込む方がまだマシだ。君が幾多の戦闘機を叩き落して撃墜王になってくれるなら、胸張って見合い写真を突っ返せる」

 

「彼女の意思はどうなるんですか」と聞いてみるが、ハンドルを握る父親はフンと博の懸念を鼻で笑う。

 

「見ての通り、まほは誰かさんに似て頑固で一途だ。あの娘も見ず知らずの人間と君たちなら、天地がひっくり返っても君たちを選ぶだろう。君も男なら、いつまでも弟の亡霊に取りつかれてるんじゃない。まほが君じゃなく満君の事を今でも想っていたとしても、そいつは恋でも愛でもない呪いの一種だ。もしそうなら、どのみちあの娘は地獄を見る」

 

 ちょうど、赤信号で車が停止する。前を向いていた常夫が初めて助手席に座る博の顔を正面から見た。その眼には優しげな光はなく、決意を促すような強い意志が宿っていた。

 

「これは、西住家の人間じゃなくて一人の父親としての頼みだ。どうか、(まほ)を救ってくれ」

 

 エンジンのアイドリングの音が車内に満ちる。ややあって、若いパイロットが口を開いた。

 

「俺が、彼女を救えるかはわかりません。ほかに適任がいるかもしれないし、俺を選んでくれたとしても結局、彼女は俺じゃなく満の亡霊を見続けることになるかもしれません。それ以前に、俺が貴方や貴方の言う亡者の方々を満足させられるほどのパイロットになれるかも怪しいところです」

 

 これは本心だった。多少、ほかの人間よりも戦闘機の扱いに長けているだけの自分が、想い人の恨み言を恐れて逃げた自分が、果たして彼女の力になれるのか全くもってわからない。

 

「けれど」

 

 全てはまだ未来の可能性に過ぎない。自分は可能性におびえて過去に過ちを犯した。もう一度それを繰り返すような無様な真似だけは絶対にしたくない。何もかも放り出したところで、距離を取ったところで何一つ変わらないのはこの数年で学んだ。

 

「それでも、彼女がより幸せになる可能性が存在するのであれば。俺はその可能性に賭けます」

 

 その結果、彼女が全く違う方法で救われ、全てが徒労に終わったとしても構わない。いかなる理由であれ観客(彼女)さえ幸福をつかめるなら、道化師(自分)にとっては本望だ。

 

「その言葉、忘れないでくれよ」

「死んでも忘れませんよ」

 

「死なれるのは困るな」と真剣な表情から一転して何時もの柔和な顔に戻る。この話はすでに決着がついたという事だろう。

 

「さて、宿はどこに取ってるんだい?そこまで送るよ」

「先ほどの門で下して頂ければ結構です、バスに乗れば夕方の船に間に合います」

「解った」

 

 信号が青くなり、アクセルが踏み込まれる。

 

 

 

 

 

 ほどなくして、2人を乗せた乗用車は1時間前に出発した西住邸の門の前に到着した。門の前にはまほと菊代の他に出発した時には居なかった人物の姿がある。黒いスーツに身を包んだ美女、相変わらず2児の母とはとても思えない。車から降りて、その人物の前に立つ。身長はそこまで高くないはずなのに妙な威圧感があり、足がすくみそうになるが踏みとどまる。その後ろに、憔悴した様子のまほの姿が見えた。

 

「お久しぶ」

「挨拶は結構、結論から言います」

 

 ぴしりと言葉を遮られ、まほの顔と体が強張る。

 

「今後、西住家への立ち入りを禁じます。期限は変更がない限り無期限、何か反論は?」

 

「いいえ」と首を横に振る。特に驚いた様子がなく、微笑すら浮かべて見せる博の姿を見たしほは自分の良人に視線を向けて納得する。どうやら、うまく伝えてくれたようだ。

 

「では、さようなら」

 

 踵を返した背中が俯く彼女の隣を通り菊代とともに門の中へと消える。

 

「じゃ、僕も車を戻しに行くよ。博君、今日は会えてよかった」

「俺もです。また、いずれどこかで」

「さようならだ、博君。いや、ヘクサー。誰が何と言おうと僕は君の選択を応援する。幸運を(グッドラック)

 

 手慣れた様子でラフな敬礼を互いに交わす、もしかしたら常夫は特務戦のような部隊の整備をやっていたのかもしれない。自分の父親が黒森峰のどこの舞台に所属していたのか聞いたことはなかったが、この分だと自分と同じようにある種の愚連隊に所属していたと考えるのが妥当のような気がした。

 後に残されたのは自分と顔を伏せたまま立ち尽くす彼女だけ。遠くから響いてくるレシプロ機のエンジン音がやけに大きく響いているように思える。

 

「………博、わたしは」

「しほさんも、存外甘いらしい」

「っ!」

 

 自分の言葉をさえぎって彼がこぼした声に険しさも怒りも戸惑いも微塵に含まれていなかったことに、思わずまほは顔をあげてまじまじと目の前の青年を見てしまう。青年は口の端にほんの少し苦笑を浮かべて、自分ではなく西住邸のほうを眺めていた。

 

「変更がない限り無期限と言った。そんなもの期限を区切らないことに等しい、あの人の胸先三寸ですべてが決まるだろう」

「……そうだ。まさか、お母さまやお父様があそこまで君に怒りを抱いているとは思わなかった。でも!これだけは信じてくれ!私は君にこんな思いをさせるために、ここに」

「そんな事がわからないほど、鈍感になったつもりはない。むしろ、君には感謝しているよ」

「なんだ?何を言っている、私は…」

 

 理解が追い付かないとかすれた声をこぼす彼女に、こんな顔を見るの初めてかもしれないなどと全く場違いな感想が浮かんでくる。

 

「君が首根っこひっつかんで連れてきてくれなければ、俺はずっと自分の行動に言い訳と虚構を張り付けて逃げ続けていただろう。おかげで、少しはケリをつける気分になれた」

 

 まほの瞳が揺れる。瞳の中にあるのは戸惑いと恐怖、ようやく再会してからあやふやなまま続いてきた関係が崩れてしまうのではないか。これを機に今度こそどこか別の場所へと行ってしまうのではないか。もう二度と、会えないのではないか。罪悪感は悲観的な未来予想図ばかりを引き出し、思考の悪循環へと陥っていく。目の前の青年はというと、もう話は終わったとばかりに自分ではなく道路のほうへと視線を向けていた。

 やめてくれ、それだけは、どうか…

 はち切れそうな感情を引き裂くように、けたたましいブレーキ音とタイヤがアスファルトの路面を滑る耳障りな音が響いたのはその時だった。

 

「よう!ヘクサー!修羅場か?」

「ったく、珍しくシリアスしてたのに、お前らのせいで台無しだよ」

 

 西住邸前の門へ滑り込んできたのは2台のキューベルワーゲン。2人のすぐ近くに停車した車両にはハンス、ハル、リヒターの3人。すぐ後ろの車両にはマイスターと光のペアが乗車している。運転席から不敵な笑みを浮かべてヤジを飛ばすハンスに、呆れながらツッコミを入れる。「案の定サンダースが黒森峰に殴り込むらしい。緊急招集だ」とリヒターが補足する。

 

「サンダースの行楽先は黒森峰という事か、ピクニック気分で来られたらたまったものじゃないな」

「バンの代わりに爆撃機と弁当の代わりに爆弾抱いた御一行様だ、せいぜい派手に歓迎してやろうじゃないか」

「モロトフのパン篭担いだプラウダが乱入してこないことを祈るよ」

 

「その時は俺も手伝ってやるさ」と楽し気にハンスが肩をすくめる。爆撃機迎撃作戦ではスツーカ隊は基本的に地上待機だが、この分だとプラウダが来なくとも37㎜砲弾を超空の要塞へ叩き込みに行きそうな勢いに苦笑してしまう。空で戦うことが本当に好きなのだろう、まあ、自分が言えたことではないが。休暇が終わることにほんの僅かばかりの寂しさを覚えながら、気持ちを切り替える。

 

「聞いての通りだ、西住。じゃあな」

「待て!」

 

 とっさに伸ばした手は、博の腕を掴む。あまりにも必死な彼女の形相に、彼は一瞬硬直してしまった。何も知らない人間が見れば、彼女の顔を怒っていると認識するだろうが、子供のころ長く付き合った過去を持つ彼には哀願しているようにも見えた。一瞬の逡巡ののち、自分の言動を思い出し「ああ」と苦笑する。確かに、そう取れるような要素は間々あった。この手を放してもらうには、その誤解を解く必要があるだろう。

 自分の腕を掴んだ彼女の手に、自由な方の手のひらを重ねる。そういえば、最後に彼女の手を握ったのはいつだったか。記憶のかなたにわずかに存在したその手と、今自分を引き留めているその手。その大きさに、大した違いは見いだせなかった。

 

「どこにも行かないさ。戦闘機にも羽を休める場所が必要だ、そうだろ?」

 

 目線で西住邸を指してやると、彼女が目を見開き自分の腕を握りしめていた握力が弱まる。

 

「自分の不始末で失った場所は、それ以上の戦果で払い戻す。もう逃げるのはやめだ」

「ひろ…ひゃっ!?」

 

 クシャ、とこぶし一つ分は小さい彼女の頭を昔のように撫でる。なれないセリフを吐いた照れ隠しがほぼ10割、どこか安心したような姿に思わず手が伸びてしまったのが少々。こうして彼女の頭をなでるなどという暴挙は昔、と言っても5歳や6歳ごろはよくやっていた様な気がするが、昔の自分はよくこんなことを臆面もなくやれたなと恐ろしいやら気恥ずかしさやらで死にたくなる。満なら、これに微笑と気のきいたセリフもつけられるのだろうが、あいにく自分はそこまでハイスペックではない。

 彼女が一瞬呆然とした隙に、彼女の手に掴まれていた腕を引き抜いて、ハンスの隣のシートへ飛び乗る。

 

「また黒森峰で会おう、まほ。グッドラック」

「っ!…ああ、君もな。博、クラウン1」

 

「出してくれ」と言い終わらないうちにハンスがクラッチを乱暴につなぎ急発進。舌を噛みそうになったとクレームをつけつつサイドミラーを見やると、大切な人の姿が加速度的に小さくなっていき、曲がり角の向こうへと消える。

 

「短い休暇だったな、もう少し遅れてきたほうがよかったかい?」

「いいや、十分さ。少なくとも、戦意も決意も充実してる」

 

「そいつはいい」と後部座席のリヒターが笑う。

 

「なるたけ安全運転で頼むよ、ハンス」

「ハッハッハ!この緊急時に言うだけ無駄というものだ!さあ、休んでいる暇はないぞ道化師諸君!出撃だ!」

 

 オープントップであるため四方八方から吹き込んでくる暴風の中、椎原博――ヘクサーは不敵な笑みを浮かべた。

 休暇は終わりだ、戦場が待っている。

 街道を爆走するキューベルワーゲンの頭上を、最寄りの飛行場へ向けて自動操縦により輸送されているJu52の二機編隊がフライパスしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





普通の小説なら主人公の葛藤とかもう少し引きのばすのでしょうが
あまり書くとくどくなる上にエスコン主人公がいつまでもうだうだ悩んでんじゃねー
という作者の偏見でずっぱりざっぱりスピード解決
主人公のやることは特に変わりません。射線に入った間抜けに容赦なく20㎜パンチを叩き込む簡単なお仕事。好きな娘の為にも頑張れ頑張れ。
空軍道のほうが利権は大きいものの戦車道も十二分に大きな勢力
その中の西住流の後継者(最有力)ですから善意100%なんて存在しません(断言
生じているのは政略結婚上等なお見合い攻勢。対応し続ける西住夫妻の胃はマッハ
家の利益と己の気持ちと致命的な勘違いに包囲攻撃されているまほさんの胃もマッハ
なんてこった(ワインぐびー)

さて、次回からはちゃんと戦争しましょうか
マイスター君のアマイゼンベアも書きたいですし
いい加減やるやる詐欺リスト処理しないといけませんし
などとのたまいながら離陸だけで半分行っちゃいそうなヨカーン

ではまた   ノシ
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