ボーイズ&ルフトヴァッフェ~空の道化師~ 作:Ocean501
今回はひたすら殴り合う空戦回
お好きな戦闘用BGMを脳内再生しつつお楽しみください
推奨OP「MAN WITH A MISSION higer」
『グッキル!グッキル!』
『こちらカッツェ8!囲まれた!救援を!』
『カッツェ1よりカッツェ8!3分持たせろ!』
《黒森峰を叩き潰せ!》
《スプラッシュワン!》
『サンダース野郎が!連休中ぐらい休め!』
《ボンバーが来るまでに黒森峰を叩き落せ!》
ヘルメットに響く無線から両陣営を分ける秩序は掻き消え、キャノピーの外では数百の戦闘機が時折曳光弾を打ち放ちながら白い雲を引いて乱舞している。空戦が秩序だったものだったのは最初の数分で、すぐに混迷極まる大乱戦に発展していた。というよりも、秩序だった戦闘をしようとしたサンダースを黒森峰が敵味方入り乱れる大乱戦に引きずり込んだというほうが正しい。数の差を埋めやすい乱戦だったが、それは味方の損害も短時間で莫大なものになる博打でもあった。
『どわぁっ!?』
『エコーズ5がやられた!?でかいぞ!なんだありゃ!?』
3時方向1000ft下方を旋回していたFw190が曳光弾の雨に包まれたかと思うと瞬時に解体され文字通りバラバラになって落ちていったかと思うと、ヘクサーのキャノピーへ影が差す。背筋を全力疾走した悪寒に従い左へ急旋回。一瞬前まで自分が存在していた空域を10条の火箭が貫き、”白い巨鳥”が舞い降りる。
《ピエロのエンブレム!?お前か!》
《シムルグ2がペテン師の尻を取ったぞ!》
敵の力強い騒音が機体のすぐ後ろで聞こえる。でたらめな破壊の奔流を右旋回でかわしながら自分の後ろについた機首を判別し、乾いた笑いが漏れる。サンダースの機体を購入する人間にはよほどの趣味人がいるらしい。
全幅15mに及ぶ主翼を振り回し、6tにも及ぶ機体を2重反転プロペラと2885馬力の双子エンジンで無理やり飛ばす巨鳥、P-75イーグル。搭載武装の10丁のブローニングは数だけならB-29に匹敵するでたらめさ。それなりに頑丈なFw190でも10丁のM2ブローニングの掃射を受けてしまえば即座に解体されるのも無理はない。左へ切り替えしそのままロールをつづけて、ダイブ。
しかし、機体がビックリドッキリメカであっても乗っているパイロットまでそうとは限らない。
上下反転したヘクサーがダイブをしたことにこれ幸いと、強引なマイナスG旋回をかけて追跡する。大出力エンジンと大重量の機体は急降下性能でBf109に引けを取らず、2機の距離はコンマ1秒ごとに小さくなっていく。今度の射撃は必殺を狙うために、P-75はアリソンV-3420を吠え立たせ獲物へと襲い掛かろうとするが、その鉤爪が届く前に、Bf109はフラップを開いて急旋回しP-75の腹側へと潜り込むように掻き消えた。
《どこ行った!?》
《シムルグ2!上だ!》
「おやすみ!」
ピッチアップし急激な縦旋回を行ったBf109は一歩遅れて180度ロールし、縦旋回に映ったP-75の頭上を補足する。そのままダイブで逃げればいいものを、目前の獲物に執着して旋回してしまった間抜けが飛び続けられるほどこの空は甘くない。MG151/20が数度ひらめいたかと思うと、イーグルの巨大な主翼に小爆発が発生し、2つの大穴が穿たれる。一瞬、ふらついたP-75は次の瞬間翼に働く様々な力に耐えられずベキりとへし折れ、きりもみしながら青い海へと落ちていった。
『くそっ、なんだこいつ!?』
『あんなもの飛ばして喜ぶか、変態どもが!』
《お前らだけには言われたくねぇよ!》
2000ftほど上空、2機のFw190A8から伸びた火箭をひらりと躱した機体が再上昇を行う自分に気づいたのかダイブ、一瞬P-38かとも思ったが、すぐに別の機体だと認識する。なるほど、確かにこの機体ならあんなもの呼ばわりされてもおかしくない。
『クラウン1!ツインマスタングがそっちへ行ったぞ!』
F-82Eツインマスタング、長距離進行する戦略爆撃機の護衛機として開発された俗にいう
《もらった!》
《落ちろカトンボォ!》
目の前の機体には2人乗っているのか、と関係のないことを頭の片隅へ叩き込みながら操縦桿を思い切り引く。バッタのように左上空へ飛びあがってバレルロールした愛機のキャノピーの上を、14丁の銃口から吐き出された無数の12.7㎜徹甲曳光焼夷弾が走り抜けていく。弾道特性の良いブローニング14丁の弾幕の密度は凄まじく、少しでも回避が遅れ集弾範囲に振れていればタダでは済まなかっただろう。しかし、弾道特性がよいということはそれだけ弾が集まり
バレルロールの頂点でヘクサーは操縦桿を引いて機首を敵機へと向ける。途端に流れ出す衝突警報。相対速度が音速を超える2機の距離が瞬きする間に近づく中、一瞬だけ2機の進路が交錯し衝突コースに乗ったことを知らせる。普通ならここで怖気づいて機体を回避させるコースに乗せるか、警報を無視して衝突直前に強制ベイルアウトかの2択だったが、彼には3つ目の選択肢が見えていた。
僅かに操縦桿を修正し警報が黙る、目前にはF-82の内翼。トリガーを引き絞ると機首のマウザーが咆哮し、鋼鉄の刃を撃ち放つ。
機首から飛び出した20㎜砲弾は20mと進まないうちにF-82の機銃部分に3発が直撃し、ガンガンガンと無数の破片と爆炎の花を咲かせた。その間にヘクサーの機体は垂直尾翼をツインマスタングの水平尾翼とかすらせながら後方へ離脱。機体に嫌な振動が走るが警報装置は作動しておらず致命傷ではないだろう。
《くそっ、動け!なぜ動かん!?》
《馬鹿!急な操作を》
続きを言う前に、ツインマスタングの内翼が両翼のエルロンが働いたことによる応力に耐えきれずに破断する。ディスペンパックのように二つ折りになったツインマスタングから2人のパイロットが別々の方向に打ち出され、ロケットモーターの白煙がVの字を空に描いた。機体のほうは回転を続けるプロペラにお互いの主翼を切り裂かれ、バラバラに破断しながら空に散っていった。
『ツインマスタングの撃墜を確認!』
今や、黒森峰学園艦の上空全てが戦場と化している。両陣営の戦闘機が乱れ飛び、動きの鈍くなったものから脱落して流星となる。地上から打ち上げられる対空砲火は弱弱しく、頼りになるのは自分の腕と周辺を偶々飛んでいる戦友のみ。その戦友すらもサンダースの物量に押されてじわじわとその数を減らしつつある。
『メルキオール7がやられた!』
『カスパール2!上空注意!コルセアがダイブ中!』
『コルセアがなんだ!俺がやってやる!』
『無謀なヘッドオンはよせ!ダイブだ!』
瑠璃色の逆ガル翼の機体が高度差3000ftから180度ロールしてダイブ。機首を上げて迎え撃とうとしたFw190A8がマイナスG旋回で強引にダイブを駆けるが、一瞬跳ね上がってしまった分3テンポほど遅れる。これでは格好の獲物だ。スロットルをマックスに叩き込んで緩降下、自機とコルセアの予想交錯点は約800m前方。少々遠いが、ここでFw190を1機失うのは後々響いてくる。ちらりと急降下するF4Uの速度と角度を確認して偏差を修正、発砲。赤熱した数発の20㎜弾と7.92㎜弾が弧を描くように空を駆け抜けていき、コルセアの左翼を叩き割った。瑠璃色の四角い主翼が回転しながらはじけ飛び、こと切れたようにコルセアが落下していく。
《なんだ?!レイズ12の主翼が吹っ飛んだぞ!?》
《欠陥か!?》
『グッキル!クラウン1!』
『ありがとう!助かったぜ!』
《はぁっ?!あの距離で直撃させたってのか!?》
《管制機に連絡しろ!やばい奴が紛れ込んでいる!》
一撃を加えてさらに上昇していく自分を脅威だと判断したのか、6機ほどの双発重戦闘機が下方から戦闘上昇。群青色の機体に角ばった主翼、両翼に備え付けた
『スカイアイよりクラウン1!タイガーキャットだ!方位2-8-0へ誘導しろ!そこならヴィオレット隊の援護を受けられる!』
「ネガティブ、フリッツじゃ逃げられない、増援をコッチヘよこしてくれ」
ペダルを踏み込んで緩やかに旋回上昇するが、F7Fタイガーキャットの上昇能力はBf109F-4を上回る。上昇勝負をしながら方位280へ逃げようとすれば、近いうちに丁寧に解体されてしまうだろう。ならば、ここで仕掛ける他ない。
『時間がかかるが大丈夫か?』
「やってやるさ、増援は頼んだぞ!」
翼を立てて急旋回、真後ろから追従してきた6機のタイガーキャットがこれ幸いと全火器を発射する。1機につき12.7㎜4丁と20㎜4門、合わせて48の銃口から放たれた破壊の奔流をかき分けながら旋回し、F7Fの編隊の後ろへと回り込む。不利を悟った6機が即座にブレイク、慌てた様子はなく統率が取れていることが一目でわかる。2機一組に分かれ、一組は旋回を続け、もう二組は別々の方向へさらに上昇して離脱体制。機速が落ちた状態では上昇を続ける二組を追跡できない。旋回した2機はさらに1機ずつに分かれて、別方向へ旋回。その片方は誘うように目の前へ大柄な機体をさらす。
十中八九誘っているのだろうが、今回はあえてそれに乗る事にする。目の前に飛び出したタイガーキャットを追跡し左旋回、身軽な単発機は鈍重な双発機の後ろを簡単に補足する。旋回によって速度の落ちた敵機へと接近すると見せかけて上空に跳ね上がるように縦旋回、一瞬前まで存在した空間を無数の銃砲弾が駆け抜けていく。
囮を狙おうとした自分を落とす算段だったのだろうが、サッチウィーブがサンダースの常套戦術であることぐらい知っている。そして、急旋回を行った愛機は空に白いエッジを刻みながら自機のすぐ後ろにまで接近していたタイガーキャットを背後を取り、射線にとらえる。本来ならば攻撃役の援護に回るはずの囮は、単発機の旋回性能に追随出来ず援護位置に付けていない。
《早い!》
発砲、群青色の右翼構造物がはじけ飛び大柄な機体がぐらりと揺れるのを見やりつつ、攻撃を仕掛けて大破させた機体の下へと潜り込む。コクピットに影が差したかと思うと、攻撃が命中していないはずのタイガーキャットの左翼が火炎に包まれ右に傾いていた敵機が今度は左へと傾いて空を滑り落ち始める。
「なりふり構っていられないってことか」
上空の味方に攻撃されたF7Fの左翼から吹き出す黒煙に突っ込み、反対側から出ると同時に左へ急旋回。正面上空から突っ込んできたF7Fのヘッドオンを躱し、旋回して逆撃に移ろうとするがまた別の機体の急降下攻撃を受けて断念せざるを得なくなる。上空を見上げれば5機のタイガーキャットが獲物の死を狙うハゲタカのように自分よりも3000ftほど高い空域を円を描いて旋回している。すり鉢の底に自分、淵に敵機という位置関係。そして、5機のタイガーキャットはそのすり鉢の底の自分へ向けてダイブし一撃を加え、対面の淵へと駆け上がる。上昇能力では完全に負けており、急降下性能でも向こうの方が上、勝っているのは横方向の旋回性能と身軽さ位だろう。
5機は休ませる気はないのか次々に攻撃を仕掛けては離脱していく。右後方からの攻撃を右旋回で躱そうとすれば、一拍遅れて右前方からダイブした敵に旋回中の腹を狙われる。左後方からダイブしてきた機体を左旋回で躱そうとすれば、左前方から。後方の敵機を見落とさないように旋回する自分の裏を確実についてくる。
《なんで避けられるんだ?腹に目でもついてるのか?》
《焦るなツインズ4、攻撃の手を緩めなければ確実に落とせる》
《ここが年貢の納め時だな、ペテン師》
――――どうかな?
左後方からの急降下攻撃を左旋回で回避すると同時に旋回をやめ、左前方から突っ込んでくるタイガーキャットとヘッドオン。
《気でも狂ったか!?》
F7Fの機首と両翼が瞬く一瞬前、ペダルを蹴飛ばしラダーを強く聞かせると同時に操縦桿を思い切り倒す。途端に左翼から気流が剥がれ落ち失速。揚力を失った主翼が沈み
《ツインズ5がやられた!》
《んにゃろ!ぐあっ!?》
『悪いね、ヘクサー。待ったかい?』
包囲網の隙間を縫って上空へ駆けあがろうとした愛機を狙ったF7Fがさらに上空から振り下ろされたMG151/20の一撃で主翼をへし折られて落ちていく。逆落としに急降下したリヒターはほかの3機につかまらないうちに反転上昇、スカイアイはヴィオレットではなく2番機を増援によこしてくれたようだ。
「どこほっつき歩いてたんだ?リヒター」
『ちょっと震電モドキと遊んでてね』
「XP-55もいたのか…」
『サンダースの連中、航空博物館でも開くつもりなんじゃないかね』
ふざけた話をしつつ、戦闘緊急出力を発揮しながら上昇する愛機を、残ったタイガーキャットが追跡する。さすがに直線勝負では分が悪いが、数はたったの1機だ。どうにでもなる。
機体をバンクさせて緩やかに右旋回、猛然と追跡するタイガーキャットも一撃離脱を行わず右へ旋回して機銃の軸線を合わせようとする。これぐらいの旋回ならばF7Fでも十分に追従できるので欲が出たのだろうが、双発重戦が単発機の領域に足を踏み入れた代償は総じて高くつく。
攻撃が加えられる直前に左へ急ロールし旋回。本格的な同高度旋回戦に持ち込まれることを嫌ったタイガーキャットは、右旋回をやめて上昇しようと機首を持ち上げるが、そこは完全に道化師の手のひらの上だった。クラウン1は旋回する際に90度ロールではなく45度のバンクをさせ縦旋回、シャンデル。ループの頂点付近でさらに操縦桿を強く引き機首を旋回の内側へと引き込むと、照準器に上昇しようとするF7Fの無防備な背中が映る。情け無用、発射。
発射速度の高いMG17が鼻先から機体後部へ向けて入念に群青色の胴体をミシン掛けしていく。弾痕が火花とともに連続的に穿たれ、キャノピーを白く染めて仮想空間上のパイロットをミンチに変えた。パイロットキル。
ほぼ同時に、リヒターの一撃離脱を受けたF7Fがエレベーターを破壊され機首を真下に向けて落ちていく。残った1機はダイブで下の乱戦へと逃れようとするが、孤立した双発戦闘機を見つけた3機ほどのBf109に追い掛け回され、黒煙を引きながら高度を下げていった。
これだけ落としているのに、敵の数が減る気配はない。空には相変わらず無数のエッジと曳光弾が飛び交い、真っ黒な黒雲がそこかしこを走り抜けている。
『もうすぐ爆撃機隊が来る、迎撃機を振り分けないと』
「残ってないだろう、そんなもの。弾は後どれ位ある?」
『20㎜はあと34発、7,92㎜は256発。君は?』
ちらりと残弾メーターに視線を落とす。極力7.92㎜で攻撃を行っていたが、先ほどの大型機との連戦で温存していた20㎜を吐き出さざるを得なかったのがつらい。
「20㎜が78発、7.92㎜が368発だ。心もとなくなってきたな」
『何をどうすれば、あれだけ落としてそれだけ弾が残るんだい?』
「1発主翼の桁かコクピットに当たれば、戦闘機は落ちる」
『当たれば、ね』
呆れたようなリヒターの声を聴きながら、2機で編隊を組みなおして周囲を索敵。4000ftほど下では相変わらず大乱戦が続き、今自分たちがいる空域は大乱戦とまではいかないが、馬上槍試合の様なヘッドオンが多発し、まれに正面衝突した機体が金属製の花火となって砕け散っている。何とか拮抗状態ではあるが、数の差がある以上先に継戦能力を喪失するのはどちらかはっきりしている。
「ま、こうなるか」
『奮戦はしているけど、数の差は埋められないね。やっぱり』
「暴れるだけ暴れるしかないだろう。クラウン・リーダーよりスカイアイ。近場に」
獲物はいるか?と続けようとしたとき、直観に従って思い切り機体を捻る。水平線が垂直に切り立ち、幾条もの飛行機雲がキャノピーの外を流れていく中、先ほどまで自分とリヒターが居た空間を無数の曳光弾が駆け抜けていく光景を視界の端にとらえる。問答無用、あと少しでも回避が遅ければ、Bf109の薄い主翼は切り刻まれていただろう。逆落としに急降下した銀色の機体は設計限界ギリギリの速度で引き起こし、奇襲を避けたクラウン隊からいったん距離を取った。
銀色の角ばった主翼にストライプの帯、液冷機特有の補足とがった機首、視認性が抜群なバブルキャノピー。第2次世界大戦最優秀戦闘機と謳われる傑作兵器、P-51D-5マスタング。そしてヘクサーの視線をくぎ付けにしたのは、キャノピーの下に描かれた戦車を引く馬のエンブレム。部隊章のほかにもパーソナルマークを描くパイロットは一定数存在しているが、このマークには見覚えがあった。
《よう、相棒。まだ生きてるか?》
耳朶を打った聞覚えのある快活な声に、困惑よりも先に苦笑が浮かんだ。
「今は敵だろ、ペダソス」
ということで、対サンダース迎撃戦はまだまだ続きます
というか、次は対エース回(因縁付き)です。
Q:なんでペダソス?
A:韋駄天馬鹿引いちゃったから、ついカッとなってやった。
そして、素晴らしいネタを提供していただいた
jill64様、ハイパー扇風機様、九八式小作業機様
本当にありがとうございましたm(__)m