ボーイズ&ルフトヴァッフェ~空の道化師~   作:Ocean501

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第3話デース

機体整備の女房役が登場、モデルはフラグは立つのに悲恋ばっかなあの人です




Mission03 格納庫の主

 第3飛行戦隊のハンガーは地上の第1滑走路の地下に設けられていた。3階層分をぶち抜いて作られたのかと思うほど天井は高いはずなのに、航空機が1機ずつ乗るパレットが2段になって両側に並んでいるため酷く手狭に思えてしまった。片側に9機が2段1列ずつ、その棚が両側にあり、格納庫一つで総計36機が収められる。中央部を貫く通路にはパレットが移動する為のレールが引かれており、駐機された航空機はパレットごとこのレールに沿って移動、格納庫橋のエレベーターに地上の対爆ブンカ―まで輸送されて滑走路へと出る。

 とは言え、定数の3分の1以下しか存在しない第3飛行戦隊の格納庫は此処に来るまでに覗いた格納庫よりも数段殺風景だった。他の場所では聞こえていた工具や機材が稼働する轟音、整備士やパイロットの話し声は聞こえず、空調の音と機体に取り付けられた油送管に加熱された燃料を輸送するポンプの音が静かに響くだけだった。

 

「なかなか静かな所だろう?」

 

 中央のレールを歩いていると上から聞き覚えの無い声が降ってきた。ちょうど右側のパレットの上段に、汚れ一つないツナギの上に白衣を纏った姿の青年が目に入る。体型は標準、ぼさぼさの髪、何処か疲れたような顔、シルバーフレームの眼鏡。野暮ったい印象は受けるが、身なりを整えればそれなりハンサムになりそうな雰囲気を醸し出していた。

 

「君は誰だい?此処じゃ見ない顔だけど…」

「新入りだよ。ヘクサーと呼んでくれ」

「ヘクサー…ああ!クラウン隊の転校生か!」

 

 合点がいったという風に仕切りに頷く整備士風の青年。「上がってきなよ」とその青年はパレットを支える支柱に取り付けられた少人数用の昇降機を指さした。

 パレットの上に上がると、目に1機の戦闘機が飛び込んで来る。小柄な機体に天井のLEDライトの光を淡く反射させており、機体上面から下面にかけて濃い緑が薄くなっていく塗装が施されている。プロペラスピナーの先端は角ばっており、主翼の先端も切り落とされ、水平尾翼を支える支柱が機体から延びていた。

 垂直尾翼には黒森峰を示す鉄十字、機体後部にはブーメランを咥えた百舌鳥と白で描かれた1のナンバー。そして、コクピットの下には道化師が描かれていた。

 

「初めまして、僕は第9飛行隊の整備隊長を務めてる。ハルと呼んでくれ、ヘクサー」

「よろしく、ハル。他の整備士は何処に?」

 

 周囲を見渡しても機体の周りには自分とハル以外見当たらない。怪訝な顔をするヘクサーにハルは参ったなと笑いかけた。

 

「整備隊長、というのは名ばかりでね。実質的にクラウン隊の人間の整備士は僕一人なのさ」

「大丈夫なのか?」

「そのための整備ドローンだ、でもまあ今時人の手で整備をするのは空軍道か戦車道のモノ好きな連中ぐらいだ。そうだろう?」

「で、君はそのモノ好きじゃない一人か」

 

 油汚れ一つないツナギに視線を落としながら言うと、彼は「そういう事だ」と若干嬉しそうな声を出した。

 

「確かに、実際に見て触って整備をすることに意義を見出すのが武道だろう。けど、寄ってたかって人の手で整備をするより、文明の利器を使った方が効率的で、機体も最高の性能を発揮できる。僕らは武道の履修者であると同時に、パイロットの命を預かってるんだからね。20年も生きていない若造が直すより、機械の事は機械に聞いて機械で直した方が確実だ。もっとも、最終的な確認は人の手が必要だけど」

 

 そう言って、彼はBf109の薄い主翼を撫でる。武道である空軍道の履修者として決して褒められる考え方ではないが、かといって全否定できる考え方でもなかった。「どうする?今なら整備班長の異動も可能だけど?」とこちらに視線を向けるハルの目には、何処か自分を値踏みするような色が込められていた。

 

「いや、空軍道精神にのっとった藪医者に当たって落ちたくない。少なくとも君なら、エンジントラブルで遠泳せずに済みそうだ」

「それは良かった。君とは仲良くなれそうだ」

 

 ハルの言葉を聞き流しつつ、機体に近寄る。ジュラルミンに似た指定素材の気体表面に施された塗装は真新しく、自分の顔すら映り込みそうだった。

 

「そうだ、座ってみるかい?」

「いいのか?」

「勿論いいとも。っていうか、こいつは君の機体だ」

 

 主翼の一部に足を駆けて登る。コクピットの中を覗き込むと、古めかしい計器で埋め尽くされたコンソールの向かいに取り付けられた椅子の上に近代的なヘルメットが置かれていた。ヘルメットを手に取り、機内へと身体を滑り込ませる。

 

「レシプロの癖に現代のジェット戦闘機並のヘルメットなのは我慢してくれ、一応空軍道の規定でパイロットが身につける装備は最新のものに限定されているからね。そのおかげで彼方此方にしわ寄せが来て、オリジナルからは程遠い。軽量な指定構造材で機体を作らなければ遊覧飛行も命懸けだ。そいつを被ってバイザーを下ろしてくれ、酸素マスクもつけて」

 

 言われた通りヘルメットをかぶりバイザーを下ろし、酸素マスクをつける。耳元で起動音が鳴り、バイザーに【START】の文字が躍る。次の瞬間には目の前に【Caution】の赤文字が明滅し、機体が飛行できる状態にないことを知らせてくる。

 

「警告表示が出ているはずだ。まあ、油送管も取り外してないし、エンジンも作動させていないから、それが出るってことは正常だ。テストモードを起動する」

 

 機体につないだ携帯式コンソールをハルが叩くと、それまで沈黙していた計器類に灯がともる。それと同時に、目の前で明滅していた警告表示は消え去った。バイザーの全面は黒かったはずだが、内側から見る分には視界に大きな影響を与えていない。

 

「ヘルメットは最新式だけど、パイロットに与えられる情報は多くない。自分で計器を見て判断してくれ。コクピットは戦車道と同じ特殊カーボンで包まれ、キャノピーは薄型防弾ガラス。30㎜以上の機関砲弾が直撃しても死にはしない。射出座席は安心と実績のロシア製、ゼロ・ゼロ射出は勿論、機体が裏返っても無事に地上に戻れる」

 

 後ろを振り返り、操縦桿を倒して昇降舵(エレベーター)、ペダルを押して方向舵(ラダー)を確認、舵の反応は問題ない。

 

「Bf109E-1の最高速度は550㎞/hってところだが、こいつの場合580は出る」

「改造したのか?」

「ちょっとした改造なら何処もやってる。MW50は流石にやりすぎってことで止められたけど。そういえば、以前の学校では何に乗ってたんだい?」

「二式戦二型乙だ」

「珍しいモノに乗ってたんだね」

「二度と乗りたくないな」

 

 そう言ってパイロットと整備士は笑う。しかし彼の眼はバイザーによって隠されてはいたが、まったくと言っていいほど笑っていなかった。

 

 

 

 

 愛機となるBf109E-1が収められた格納庫から出て、航空機用の昇降リフトを使って地上の対爆ブンカ―から外へ出る。ヴュルガーシャンツェの地上部分は滑走路が少し手狭でハンガーの数が少ないことを除けば一般的な空軍道の基地――管制塔が突き立っている建物は田舎の役場並みに小さくショボいが――だった。滑走路横には離陸に失敗して大破したBf109の残骸がぞんざいに退けられている。小型の機体に大馬力のエンジンを積んだためカウンタートルクが強い上、主脚をエンジンマウントに搭載した為ホイールの間が狭く離着陸が非常に難しいBf109の悪い点がもろに出た結果だった。ハンガーの向こうには白い校舎が立ち並び、この基地と学校との距離がいかに近いか実感できる。基地の入り口と学校の入り口が10mと離れていないため、昼休み中は入り口近くの展望台で食事をとる生徒の数もそれなりにいるらしい。

 滑走路31L――艦首の方角によって滑走路の方位も変わる学園艦の滑走路ナンバーは1桁目が基地ナンバー、2桁目が滑走路ナンバー、最後の英語が進入方向を表していた。この場合は第3基地の1番滑走路に左舷側から進入することになる――にHe111が1機、高度を落としつつ進入していく。

 

「学校と基地が近いのは移動が楽でいいんだけど、その分人手が足りなくなれば非番でも容赦なく招集が掛かるから素直に喜べないんだよね」

「整備はどうするんだ?」

「勿論何時でも飛べるようにはしている。けど、最終確認は必要だからね。僕の許可なしには飛ばないでくれよ」

「解ってる、整備に喧嘩を売って生きて帰ったパイロットなんていないからな」

「酷いなぁ、わざとミスなんてしないよ」

 

 He111の見事なランディングを確認した後、航空基地から出て学食へと向かう。ちょうど昼時で通路は生徒でごった返していた。

 

「さっきのHe111、哨戒からの帰りか?」

「ミルキー1の事かい?いや、彼は空中給油機だ。ドイツ機は航続距離がお粗末だからね、戦闘空域直前で待機してくれることも間々ある。給油方式はプローブアンドドローグ、ペラを避けるためにコクピット後方から給油口を伸ばして、パイロットのちょうど頭上で給油口と結合する」

「ドイツ機は大変だな」

「太平洋で殴り合ってた日米の航続力お化け共と比べないでくれ。でもまあ、実際の所、そうでもない。給油自体は全てオートパイロットだ、タンカーと軸線合わせてやれば後はフライトコンピュータが全部やってくれる。最も、せっかちだから手動で全部やる変態も中には居るけど」

 

「君は、どっちだろうね」と意味深な笑みを投げかけてくるハルに「俺が「変態とでも言いたいのか?」と視線を鋭くするが、実際の所手動で出来そうな気がしないでもないので話題を変えることにした。

 

「しかし、E-1か。戦闘機はともかく重爆相手は骨だな。ガンポッドか何かつけれないのか?」

「そんな高級品はないよ。オルカンでもぶら下げていくかい?」

「………B-29が飛んで来たらそうしてくれ」

「この時期、サンダースの連中は知波単に殴り込みかけられてテンヤワンヤしてるよ」

「それで、報復のドゥーリットルパンチで基地一個潰され無ければいいが」

「どうだろうね、去年知波単に凄腕が入ったらしいから今年は返り討ちかもよ?」

 

 ふと椎原が窓から空を見上げると、遠くの方に無数の黒点が見えた。その数は200を下らないだろう大編隊だ。戦闘機だけじゃなく爆撃機の姿もまとまった数が見えた。

 

「何処の隊だ?」

 

「ああ、あれね」と腕時計を確認したハルが納得したという風に頷いた。

 

「第1航空基地の攻撃隊だ。ちょうどいい場所に聖グロリアーナがいるからね、うちの戦略コンピュータは開幕と同時に打撃を与えるつもりらしい」

「作戦の殆どがコンピューター任せなのは面白くないな」

 

 空軍道において戦闘とは大きく2つに分けられる。一つは戦車道などにみられる大会などと同じようなトーナメント方式で行う戦闘、もう一つは日常的に行われる通常戦闘だった。通常戦闘は各学園艦に搭載された戦略コンピューターが出撃機種、機数、攻撃場所、時間を指定して発行した作戦案を元に行われるもので、戦闘空中哨戒や対敵基地爆撃任務を始め、タイミングさえ合えば戦車道と合同の敵車両攻撃任務などが発生する。万一、このコンピューターの指示に従わず、正当な理由なくして出撃を取りやめると、参加する予定だった機体とパイロットが強制的に撃墜・戦死判定となってしまった。また戦闘空中哨戒においては、学園艦同士のコンピューターがリンクしているため、敵に合わずに遊覧飛行で戻ってくることは稀で、何かしらの敵戦力と遭遇するのが常だった。

 元々は、全てのパイロットの戦闘機会を均等にし、出撃せずに戦力を温存する流れを食い止めるシステムではあるが、口さがない者からは”八百長システム””Fu〇kin Matching Maker”と呼ばれていた。

 

「防空任務は人間が指揮するし、攻撃方法の詳細は人間だから。まあ、4機で哨戒してたら12機の編隊に襲われた部隊には同情するけど」

「FMMじゃないか、騙された」

 

 学内に幾つかある学食の内、最も基地に近い食堂に足を運ぶ。が、妙に女子が多いのが目についた。

 

「ここは戦車道の演習場にも近いからね。そっちの女子が昼食を取りに来るのさ」

「戦車道…ねぇ…」

 

 コツコツコツ

 

「なあ、ハル。ヴュルガーシャンツェで食わないか?」

「はぁ?なんで今更。それに、今日は基地の食堂は休みだ」

 

 コツコツ

 

「なら、購買でもいい」

「なんだい?何か食堂に不都合でも」

 

 コツ

 

「不都合と言うか、何と言うかだな」

「へぇ…奇遇だな。博」

 

 後ろから掛けられた声に背筋に寒気を覚える。自分の記憶にあるよりも幾分か低くなった声だが、忘れるはずもない。そもそも、この学校で自分の事を名前で呼ぶ人間など彼女以外には一人しか思いつかないし、その一人は今のような割とドスの効いた声は出さない。

 

「人違いではないかな?」

「そうだな、まずはこっちを向いてから判断しよう」

 

 ほんの少し声が弾んでいるような気がするが、感覚的には後頭部に8.8 cm KwK 36を突きつけられている気分。全く、ツキがないにもほどがある。観念して振り返ると、微笑を湛えた少女と目が合った。

 

「久しぶりだな、西住」

「名前では、呼ばないんだな」

 

 妙な雰囲気で向かい合う二人にハルは只面食らうしかなかった。片方は2年で黒森峰戦車道の隊長になった西住流の後継者とされている有名人。もう片方は、ついさっき友人になったばかりの転校生。何が何だか今一理解出来ないが、因縁の相手であろうことはなんとなくわかった。ついでに、椎原を見る彼女の視線や口調に僅かな寂しさが含まれていることも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ようやくヒロイン登場
しかし、主人公が主人公なので今後の心労はマッハな事確定
頑張れ、超がんばれ(白目)
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