ボーイズ&ルフトヴァッフェ~空の道化師~ 作:Ocean501
今回は恋愛フラグを建立する回です
戦闘まではもうちょっとお待ちくださいorz
「で、今の今までどこで何してたんだ?」
目の前にはカレーにスプーンを突き刺して口に運ぶ動作を続け、詰問する少女。黙っていれば鋭い眼光は昔と全くと言っていいほど変わらない。出来る事なら、内面も穏やかなままであってほしいと祈るが、今までの言動を鑑みるに怒る時はしっかり怒る芯の通った人物に成長しているらしかった。何とも素晴らしい、と現実逃避はこの辺りにしておこう。
「これと言って珍しいことはしていないさ。叔父の所で育てられて中学に上がって空軍道を始めて、前の高校から転校して今に至る。こんなところだ」
空軍道と聞いた時に彼女の眉がピクリと上がる。
「まだ、飛んでいるのか」
「俺から空を取ったらひねくれ者しか残らないぞ」
彼女から視線を外しトレイに直接盛られたえんどう豆のベーコンよせを一口、隣にはデザートは桃のシロップ漬け。自分から空を取ることはこのトレイから仕切りを取り外すことに等しい。豆とピーチの和え物なんぞ、猫もまたいで通るだろう。
「あー、その。もしかして君達知り合いだったりする?」
蚊帳の外で片身狭そうに目玉焼きをつついていたハルが、固まった空気を懲りほぐそうと助け舟を出した。そうだ、と椎原よりも先にまほの方が頷く。
「小6まで一緒だった。まあ、いわゆる幼馴染と言う奴だ。自己紹介が遅れた、西住まほだ。2年C組、戦車道で隊長をやっている」
「そうだったのか。いや、構わないよ。ハルと呼んでくれ、2年A組だ。空軍道で整備班長、彼の機体の担当だ」
黒森峰に所属している生徒の中で彼女を知らない人間はいない。突然の有名人との会合に内心混乱しているハルだったが、何とか表面上を取り繕うことに成功した。
「小6ってことは、引っ越しか何かい?」
何気なく出した話題だったが、まほの顔が一段と険しくなったことに自分の迂闊さを呪う。考えてみれば、先ほど椎原は”叔父の所で育てられた”と言っていた。小6から叔父の所で育てられるなんて、前向きな理由である可能性は低いとみるべきだったのに。
表情を強張らせたまほとは異なり、当の本人である椎原は一つ肩を竦めただけだった。
「航空事故でね、両親と弟が死んで俺だけ生き残ったのさ」
「う、それは」
「気にするな、良くある悲劇だろう?」
顎をしゃくった先には備え付けのテレビがニュースを流していた。何でも、一家4人が乗った自家用機の残骸が発見されたらしい良くある航空事故のニュースだった。
海を縦横無尽に走る学園艦が存在する世界では、海運と共に空運も発達していた。また、空軍道の一般化に伴い自家用機を持つ家庭も大幅に増えていき、それまで空軍道向けに機体を作っていたメーカーは自家用機の販売にもさらに手を広げていった。自家用機を持つ人間が増えることは顧客が増えることを意味するため、各メーカーは空軍道を実施する学校に格安で航空機を販売し、学園の航空戦力は学園自体の能力を超えて肥大化していく傾向にあった。勿論、自家用機による事故も飛躍的に数を伸ばしていたがフライトコンピューターの進歩によりある程度で事故数も頭打ちとなる。
とは言え、未だに航空事故は頻繁に発生していたのだった。
「なあ、博。一つ聞かせてくれ」
「なんだ?」
「如何して、何も言わず熊本を出て行ったんだ?」
顔を上げると彼女の目と視線が交錯する。思えば、最後にこうして面と向かったのはあの時以来だろうか。あの後、自分たちは事故に遭い、そのまま叔父の所へ引き取られていったのだから。何故か?理由はハッキリしている。けれど、その理由はどうにも女々しくて口にする気にならなかった。
「時間がなくてね。手紙を出そうかとも思ったけど、なんて書けばいいかわからなかった」
「そう、か…」
全く、椎原博、この臆病者め。自分のクズみたいなプライドのために真実を隠し、返せない答えで煙に巻く。ほら見ろ、彼女の顔を。こんな顔をさせるために姿を消したのか?いや、違うな、こんな顔を見たくないから自分から距離をとったのだ。臆病者どころか卑怯者じゃないか。自分じゃなければモーターカノンを打ちこみたい傲慢さだ。
目を伏せた彼女を見て、自分の中の黒々としたものが頭をもたげ、半分ほどに減った冷水を飲む。叶うならば、この黒々としたものも一緒に流れてくれることを願って。
「いや、それならいい。悪かった」
「何で君が謝るんだ」とあえて明るく声を出す。相変わらずクソ真面目な所は昔から変わっていない。
「そういえば、みほちゃんは元気か?」
「な……名…な…だ」
「何か言ったか?」
「何でもない」と一気に不機嫌そうな表情になったまほは不快感を飲み込む為か冷水を一気に煽る。
「みほは元気だ。と言うか、副隊長をやってもらっている」
「副隊長?まだ1年の筈だろう?」
「問題ない。みほは、私には無い物を持っている。今の黒森峰には必要だ」
「……そうか。ま、君がそう言うならそうなんだろう」
「何か含みのある言い方だな?」
怪訝な目から逃れる様に桃のシロップ漬けを一口。どうにも身体に悪そうな甘みが口内を蹂躙する。と、先ほどまでゆったりした音楽が流れていたスピーカーから、警戒感をあおるような警報が聞こえ、続いて無機質な合成音声が響き渡った。
『空襲警報発令、空襲警報発令。速やかに屋内に避難し、防護シャッターを下ろしてください。第2航空基地に所属の履修者は可及的速やかに持ち場へ。繰り返します』
先ほどまで外の光を取り込んでいた窓に、スライド式の対爆シャッターが下りていく。学園艦で最上甲板に居を構える為には、空軍道で撃墜された重爆撃機が直撃しても耐えられる構造物であることが条件の一つだった。このシャッターも必要な装備の一つで、墜落した航空機が直撃してもびくともしない。また、学園に備え付けられているシャッターは一般的に広く普及している内側に有機ELディスプレイが内蔵されているタイプで、シャッターが閉まっても外の光景を見ることが出来た。一瞬で消えた食堂のおしゃべりは、シャッターが全て閉じ切る頃には再開されている。
「空襲警報か、こりゃカウンターを喰らった形だね」
「カウンター?」と首をかしげるまほに椎原が先ほどの味方の編隊の話をすると合点がいったように頷いた。どうやら、彼女もあの大編隊を見ていたらしい。
「博たちは行かなくていいのか?」
「俺たちは特務戦だからなぁ……行かなくていいよな?」
行ったあとで不安になりハルに確認、「行かなくていいよ」とのんびりとコーンスープを啜りつつウィンクする整備士。まほは「そうか」と一言零しただけだったが、その声色には安堵が多分に含まれていた。
「と言っても、規模によっては直ぐに招集がかかるかもしれないけど」
『第3基地司令より達する。ヴュルガー・シャンツェの紳士諸君はハンガーへ出動だ!スコアが欲しければ急いだ急いだぁ!』
頭上から響いた聞き覚えのある初老の男の声に、椎原がハルを見る。まほも、何処か非難がましい視線を彼へと向けていた。二人の眼光に晒されたハルは「僕の所為じゃないよ」と肩をすくめてささやかな反撃。
「という事だ、じゃあな。西住」
「待て」
さっさと立ち上がり食器を片付けに行こうとした時、彼女に服の袖を捕まれた。
「行くのか?」
「非常招集だからな」
自分が立っているせいで伏せられた彼女の顔はうかがえない。袖を掴む力もそんなに強い物じゃない、さっさと腕を振りほどいて基地に急ぐのが真面な反応なのだろう。けれど、安易に彼女の手を振り払う気分にならなかった。
「明日、同じ時間。ここで」
「別に消えるわけじゃない」
「約束しろ」告げられたその言葉には、無視できない重みがあった。気づいた時には「解った」という言葉が口をついて出ていた。
同時に捕まれていた袖が解放される。上げられた彼女の顔には先ほどまでの影は無く、静かな微笑が浮かんでいた。
「ありがとう。怪我、するなよ」
「ああ」と肯定なのか、ただの息なのかわからない返答を返して少し足早にテーブルを後にする。後ろにハルが続く足音も聞こえた。
「惚れた弱み、ってやつか」
「どうしたんだい?」
「何でもない、急ごう。准将にオルカンで吹き飛ばされたくは無いからな」
「それは大変だ」
足早に去っていく2つの後姿を見送る。と言っても、彼女が焦点を合わせているのはその片方だった。男子三日会わざれば刮目して見よとは言うが、見違えるにもほどがある。けれども、自分の記憶の中にある少年と、先ほどの青年は、外面はともかく内面はあまり変わっていない事に小さな喜びを感じていた。
それ以外に、自分の口下手さ加減にも嫌気がさしてくる。話したいことは山ほどあるのに、いざ面と向かうとまともな言葉が出てこない。先ほどの会話でも、言いたいことの1割も言えていない。けれど、手を伸ばせば届く場所に彼が居るからか、心は晴れやかだった。
「惚れた弱み、という奴かな?」
恋愛フラグを立てた(過去形)
簡単にくっつけるのは面白くないので二人には
しばらくもんもんとしてもらいます
さあ、次からようやく空軍道のターンだ!(なお戦闘するかは…)
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