ボーイズ&ルフトヴァッフェ~空の道化師~ 作:Ocean501
何とか敵を落として帰ってきたクラウン隊ですが
彼らの長い1日はまだ続きます(予定)
ドン、と軽い衝撃と共に3tの機体が主脚と尾輪を使って三点着陸する。スロットルを戻し、ある程度機速が落ちたところで徐々にブレーキをかけていく。慌ててはいけない、思い切りブレーキを踏み込めば最後、機体は前につんのめり頭を滑走路にこすりつけて三転倒立する羽目になる。そんな事になれば飛行団中の笑い物だ。
『グランドよりクラウン1、誘導路A1をタキシングしてブンカ―Dに移動してください』
「了解、誘導路A1をタキシングしてブンカ―Dへ移動」
スロットルを軽く開いてタキシング、大戦中の戦闘機は駐機姿勢では機首が上がるため前が見えにくい、キャノピーを開けて時折立ち上がり針路を確認しながら誘導路を進んでいく。誘導路の正面に設けられたエプロンでは、まだ損傷の程度が軽い機体がずらりと並び、特務戦の整備員が群がって応急修理を行っている。
『ヘクサー、見ろよ。Ta152だ』
後ろへ視線を向けると、自分に続くBf109からリヒターの者らしき腕が胴体横から滑走路へ向けて延びている。その指の先には低空を飛行する4機の戦闘機の姿があった。
一瞬空冷機にも見える円筒形の機首がキャノピーから長く突き出し、それよりも目を引くのは両翼に突き出した鴎を思わせる細く長い主翼。搭載したJumo213EBの甲高い鳴き声が4機分共鳴するかのように響いている。一糸乱れぬ編隊で空港の端をフライパスし、上昇に移って蒼空へと駆け上がっていく。
「確か…ロト隊、だったか」
『そうだ、”シュヴァルベ・シャンツェの赤燕”、ストルツの部隊だ。使用機種はTa152H-1、黒森峰最強のエース部隊だ』
なるほど、確かに先ほどのTa152Hは機首の一部が赤く、基本色は黒に近いグレー、尾翼の一部が白く塗装されていたので燕に見えない事もない。第7防空戦闘団で数少ない完全充足の飛行隊である第1飛行戦隊第1飛行隊。まさしく第2基地の切り札と呼べる部隊だろう、今回の戦いでも大いに活躍していただろうことは簡単に予想できた。
と、ここで思いもよらない人物から無線が入る。
『こちらロト1、クラウン1聞こえるか?』
ドキリ、と心臓が跳ねる音がした。まさか件のトップエースから通信が飛んでくるなど予想の範囲外も良い所だ。内心の焦りを読み取られない様に、一旦席に座って通信に答える。
「こちらクラウン1」
『突然連絡してすまない。其方がタキシングしていたのが見えたものでね』
おいおい、何キロあると思ってるんだ?こっちの部隊章が見えたのか?
「ああいえ、お気になさらず。何かありましたか?」
『大したことじゃない。なんでも、今回の戦いで5機も落としたそうじゃないか』
「相手は旧式機でしたから。運が良かっただけです」
『君の機体も十分旧式に入ると思うがね』
本当の事なので返答に困る。Bf109E-1はお世辞にも新型機とは呼べないだろう。
『事実として、クラウン隊が上げた戦果は大きい、初陣にしては上出来だ。この戦果に慢心せず、さらに研鑽を積むことを望むよ』
「有難うございます、しかし、なぜわざわざ」
『背中を任せられる有能なエースは多いほどいい。今度、空の上で会う事を楽しみにしているよ』
先ほどまでハッキリしていた機影は、気づけば空の彼方の点に変わっていた。
格納庫に入ったクラウン隊を待っていたのは対空迎撃作戦で暇を持て余していた
「お前がヘクサーか。俺はハンス、ジルウェット1」
「よろしく」とコクピットから立ち上がりこちらへ缶を放った声の主を確認して驚く。主翼前縁とエンジンの羽佐間からこちらを見上げる者は、出撃前に自分にひと声かけたJu87のパイロットだった。襟章の形から自分と同じ2年生であることがうかがえる。笑うと白い歯がチラリと見える好漢はいつの間にか移動するパレットへと乗り移りコクピットへ缶を投げ上げたらしい。
「缶ビールを投げないでくれ、危ないだろう?」
「戦闘機パイロットがこれ位取れなくてどうするんだ。勝利の美酒だ、冷たいうちに飲め。それとも牛乳の方が好みか?」
全く悪びれもせず、彼は手に持った缶ビール…ではなく牛乳瓶を一気に煽る。傍若無人な物言いだが、ある意味彼らしいという感想が頭をもたげた。促されるままにプルタブを起こす、軽くガスが抜ける音と少量の泡が吹き出し、麦の香りが鼻腔をくすぐる。そういえば最後に水分を取ったのは食堂だったことを思い出す。急に強烈な渇きを覚え、ビールを喉へと流し込んだ。一息で半分ほど飲み、ようやく人心地着く。黒森峰のノンアルコールビールは以前にのんだことがあったが、こんなにもうまく感じただろうか?
「美味いだろう?」ハンスがニヤリと口角を上げる。「ああ、最高だな」勝利の美酒か、悪くない。
パレットが不意に持ち上がると、出撃前に固定されていた2段目に固定される。支柱の通路にはこちらも缶ビール片手のハルの姿があった。
「なんだ、キミも飲んでたのか」
「飛行隊が完全勝利を収めて帰ってきたんだ。僕にも飲む権利はあるはずだ」
飲み干した空き缶を足元のゴミ箱に落とし、コンソールを操作する。壁際から作業アームに油送管や工具を装着したドローンが数台、滑るように愛機へと向かって整備を始める。コンソールを操作し終えたハルも機体へと歩み寄り、ヘクサーは翼を伝ってコクピットから降りる。
「なんにせよ、お疲れ様。第3飛行戦隊始まって以来の最速記録だ。初陣で5機撃墜は赤燕以来の快挙だよ」
それで納得がいった。だから、あの時ストルツは通信を自分へ繋いだのだろう。自分以来実現させた者のいない領域に他人が踏み込んだことに、興味をいだいたのかもしれない。
「隊長が腕利きだとウィングマンは楽が出来る。今後もその調子で頼むぜ、ヘクサー」
いつの間にかパレットに上がってきていたらしいリヒターにポンと肩を叩かれる。彼は声色から想像していた通りの柔和な顔つきの青年で、身長は自分よりも僅かに高かった。片手に収まっていた、既に空になった空き缶をパレットわきのゴミ箱へと無造作に投げ入れる。
「何だかんだで、キミも4機落としてるじゃないか。得点では同数だ」
空軍道では撃墜した敵機の数とは別に、撃墜難易度に応じてポイントが加算された。単発機は1点、双発機は2点という風に、基本的にエンジンの数でポイントが多くなっていく。今回ヘクサーはタイフーン3機にウェリントン2機で7点、リヒターはタイフーン1機にウェリントン3機で7点と同点だった。なお、この得点は個人スコアのみにつけられるため協同撃墜は無効となる。得た得点は基地内の売店で会計の代わりにすることも出来、敵機の撃墜はちょっとした小遣い稼ぎにもなるのだった。また、累計獲得得点は記録され、個人スコアの一つとして評価される。
「ハッハッハ!細かい所はいいじゃないか!クラウン隊は十分エース部隊になる素質があると判明しただけでも大勝利なのだ!」
バン!と突然背中を叩かれ、二人そろって前につんのめる。この力加減を知らない喝の淹れ方と、うさん臭さと芝居がかった感がぬぐえない口調の人物には心当たりがあった。
「司令、今度は何処から湧いて出たんですか」
「失礼だなチミィ、人を忍者みたいにいうもんじゃないよ」
「どっちかと言えばゴキブリでは」
「酷くないッ?!」
ハンスの容赦ないツッコミ――半分罵倒の様な気もするが――を受けてショックを受ける守屋司令。戦闘終了直後に基地司令がこんなところで油を売っていていいのだろうか?
「ああ、心配ないさ。我が麗しき准将閣下に丸投げしてきたから」
「そのうち
「当たらない対空砲なんざ綺麗な花火サ。いや、何もサボるためだけにここに来たわけではない。ちょっとした作戦を伝えようと思ってね」
ニヤリと口角を上げる守屋司令。正々堂々、旌旗翩風、武道として成立した空軍道の指揮官としてはあり得ないほどの悪い笑み。部活の指導者と言うより、悪徳武装帝國の
「こういう時は碌な事考えてないぜ、この人」
ハンスの諦めろという意味が多分に込められた耳打ちに、ヘクサーはガックリと肩を落とすしかなかった。
「副指令、作戦に参加した特務戦全機の収容を確認しました」
「損害は?」
コントロールルームの中心、八角形の会議机の一角に陣取った栗林はレモンティーのカップをわきに退けて少佐からPDAを受け取る。硬質なディスプレイには損傷を受けた機体、撃墜された機体のリストが表示されていた。
「全体として軽微、とは言えません。第1飛行戦隊に撃墜機は有りませんが、半数以上が何らかの損傷を負っています。また、特にズーク隊の損害が酷いです。全滅と言えるかと」
「ズーク隊、Bf110Cか」
「はい。12機中6機が撃墜、6機が損傷しています。無傷なのはありません」
「原因は何だと考える?」
少佐は顎をさすり数秒逡巡するが、すぐに答えは見つかる。
「突っ込んだ空域が激戦区だったというのもありますが、機体性能の問題も多いかと。搭載しているのが20㎜機関砲とは言えMG/FFです。ランヴァボンのBf110Gが搭載しているMG151/20に比べ性能は低い。単発機よりも攻撃の機会に限りがある双発重戦ですから、火力とエンジンパワーが何よりモノを言います」
「まあ、そうなるわね」
自分の予想通りの答えが返ってきたことに僅かな満足感と、大きな虚脱感を覚えつつレモンティーを一口。というのも、このやり取りは今回で4回目だった。以前の3回ではロケットの増設やエンジンチューンなどでお茶を濁してきたが、流石にもう限界だった。とは言え、今回はその打開策を行える条件がそろっている。
「今回の戦闘では防空戦闘団でも損傷機が続出しているらしい、少なくともBf110Cよりは上等な重戦が転がっているだろう」
「なんか、自分がハイエナの様で嫌になってきますね」
「別に腐肉を漁っているわけではないわ。ただ、少々正規航空団の紳士よりも見境がないだけよ」
「ハイエナよりも性質が悪そうだ」少佐は小さく笑うが、准将はピクリとも笑わなかった。
「それと、アプサラス、ミンクス、ランヴァボン、ジルウェット、クラウンの出撃用意。ランヴァボンは偵察装備への換装も指示して。夕方には出撃させなさい」
「間髪入れずに殴り込みですか…」
「不服?」
「クラウンの連中は出さなくてもいい様に思えます。彼らはよくやってくれました」
「ええ、そうね」
少佐の言い分は彼女にもわかった。来て早々に戦闘に投入されたクラウン1ことヘクサー、もと居た飛行隊が上級生が根こそぎ卒業してしまったため解散し、泥縄式に編入されたクラウン2ことリヒター。僚機としてのチームワークは一朝一夕にできるものでは無く、お互いを知る時間と休養が必要だろう。
「けれど、我々には動かせる戦力が少ない。第1飛行戦隊は黒森峰の主力機を集めた分打撃力は高いが大所帯な分だけ、戦線復帰能力は高くない。主力機が散々損傷した大規模戦闘の後には特に。我々には、主力の飛行戦隊とは別にもう1枚別のカードが必要になってくる」
「いつでもどこでも、フリーハンドで気軽に投入できる絶対的な切り札ですか。准将は彼らを特務戦の火消し役となさるおつもりで?」
「彼らの戦闘詳報は見たか?少佐」
頷く。スカイアイから送られてきたデータを見る限り、彼らの戦闘は見事なものだった。雲を利用して接近、ダイブ&ズームで無防備な爆撃機の急所を正確に打ち抜き脱落させ数を減らす。慌てて戻ってきた護衛機に不利な体勢でヘッドオンを仕掛けられても、軽く躱し撃墜。特にヘクサーに至っては敵機2機を高高度まで釣り上げて失速したところを連続撃墜。
「編入生とはいえ、異常な腕前です。リヒターは以前から目を付けていましたが、ヘクサーは完全な不意打ちでした」
彼が以前の学校でどのような戦い方をしていたのかは調べていたが、どれもこれもが隊形を維持した編隊戦闘の記録であり、自由戦闘の記録は無かった。まさか、自由戦闘でここまで力を発揮するとは考えの範囲外だったのだ。
「初陣で5機撃墜、1機を協同撃墜。たった2機の編隊であるのに一度の戦闘で10機を落とした。期待するなと言う方が無理な話じゃないかしら?」
「まあ…そう、ですな」
「勿論、使いつぶすつもりは毛頭ない。その点にかけて、あの邪悪教師は理解がある。貴方の心配は無用だ」
「だと良いんですが。では、失礼します」
敬礼して立ち去ろうとした少佐に准将から待ったがかかる。
「ああ、それと。戦車道からフェルディナントを借りてきてくれない?約一名APCRを撃ち込みたいバカが居る」
「私にそんなコネクションないですよ」
パイロットが束の間の勝利を味わう間に何かを企む特務戦首脳部
頑張れクラウン隊、戦果を挙げれば機体も新しくなるから
第7防空航空団のエースパイロットはあの赤い人
今後の登場予定は(今のところ)ないです
ジルウェットの装備機体はJu87D-3
ところでD-5ってSC1000積めるのだろうか…
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